説明

内燃機関用燃料噴射装置

【課題】バッテリに大きな負荷電流が流れている状態で、燃料噴射作動作が行われて、インジェクタの開弁過程で無効噴射時間が長くなり、燃料噴射量が不足する事態が生じるのを防ぐことができる内燃機関用燃料噴射装置を提供する。
【解決手段】インジェクタ5とコンデンサ放電式点火回路のコンデンサCiを充電するための電圧を出力するDCコンバータ7が負荷として接続されたバッテリ1を電源として、噴射指令信号Sjに応答してインジェクタ5に駆動電圧を印加するインジェクタ駆動回路9と、バッテリから電源回路を通して電源電圧が与えられて動作するように設けられて内燃機関の燃料噴射時期にインジェクタ駆動回路9に噴射指令信号を与える制御部とを備えた内燃機関用燃料噴射装置に、噴射指令信号発生時に、設定された負荷駆動停止時間の間DCコンバータ7の動作を停止させる燃料噴射時コンバータ動作停止手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に燃料を供給する燃料噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関に燃料を供給する装置として、燃料噴射装置が用いられている。燃料噴射装置は、ソレノイドにより駆動される弁を備えたインジェクタと、インジェクタに燃料を供給する燃料ポンプと、燃料ポンプからインジェクタに与えられる燃料の圧力を一定に保つように制御するレギュレータとを備えている。このような燃料噴射装置を用いて内燃機関に燃料を供給する場合には、噴射指令信号が与えられている間バッテリからインジェクタのソレノイドに駆動電圧を印加して該ソレノイドに駆動電流を流すインジェクタ駆動回路と、バッテリから電源回路を通して電源電圧が与えられるマイクロプロセッサを主たる構成要素とした制御部とをを設けて、内燃機関の燃料噴射開始時期(燃料噴射時期)に制御部からインジェクタ駆動回路に噴射指令信号を与えるようにしている。インジェクタは、噴射指令信号が与えられたときに弁を開いて、内燃機関の吸気管内、気筒内等に燃料を噴射する。この種の燃料噴射装置は、例えば特許文献1に示されている。
【0003】
インジェクタから機関に与えられる燃料の量(燃料噴射量)は、インジェクタに与えられる燃料の圧力と、インジェクタが弁を開いている時間(燃料噴射時間)とにより決まる。インジェクタに与えられる燃料の圧力はほぼ一定に保たれているため、一般には、燃料噴射時間により燃料噴射量が管理される。インジェクタは、駆動電圧が印加された時に直ちに燃料の噴射を開始するのではなく、駆動電圧が与えられてから所定の遅れ時間が経過したときにその弁を開いて燃料の噴射を開始する。インジェクタに駆動電圧が与えられてから該インジェクタが燃料の噴射を開始するまでの時間を無効噴射時間と呼ぶ。制御部は、実際の噴射時間に無効噴射時間を加えた時間を見かけの噴射時間として、この見かけの噴射時間に信号幅が等しい噴射指令信号をインジェクタ駆動回路に与える。特許文献1にも記載されているように、インジェクタの無効噴射時間は、インジェクタに与えられる駆動電圧により変わる。一般には、インジェクタに与えられる駆動電圧の上昇に伴って無効噴射時間が短くなっていく。インジェクタの弁が開く過程(開弁過程)で駆動電圧が低下して、無効噴射時間が長くなると、実噴射時間が短くなるため、燃料噴射量が不足する。従って、所定の量の燃料を正確に噴射するためには、インジェクタを駆動する際に駆動電圧が低下する事態が生じないようにしておくことが必要である。
【0004】
通常バッテリには、インジェクタ駆動回路及び制御部以外の電装品が更に他の負荷として接続されている。内燃機関がガソリン機関であって、点火装置としてバッテリを電源とするものを用いる場合には、他の負荷の中に、内燃機関用点火装置が含まれる。
【0005】
バッテリを電源とした内燃機関用点火装置としては、バッテリの電圧を昇圧するDCコンバータと該DCコンバータをコンデンサ充電用電源として用いるコンデンサ放電式点火回路とを有するコンデンサ放電式の点火装置が知られている。コンデンサ放電式点火回路は、特許文献2に示されているように、点火コイルと、点火コイルの一次側に設けられてDCコンバータの出力により一方の極性に充電されるコンデンサと、点火信号が与えられたときに導通してコンデンサに蓄積された電荷を点火コイルの一次コイルを通して放電させる放電用スイッチとにより構成される。
【0006】
このような点火装置を用いる場合には、前記制御部に点火時期を制御する手段が更に設けられる。この場合制御部は、各種の制御条件に対して内燃機関の点火時期を演算し、演算した点火時期が検出されたときに放電用スイッチに点火信号を与える。放電用スイッチに点火信号が与えられると、放電用スイッチが導通するため、コンデンサの電荷が点火コイルを通して放電させられ、この放電により点火コイルの2次コイルに点火用の高電圧が誘起させられる。この高電圧は、機関の気筒に取り付けられた点火プラグに印加されるため、該点火プラグで火花放電が生じ、機関が点火される。
【0007】
バッテリを電源として用いる点火装置としては、バッテリから点火コイルの一次コイルに流しておいた電流を点火時期に遮断することにより点火コイルの二次コイルに点火用の高電圧を誘起させる電流遮断式の点火装置も知られているが、その詳細な説明は省略する。また、インジェクタ駆動回路及び制御部以外の電装品として、機関のスロットル弁や、排気弁を操作する電動アクチュエータ等が設けられる場合もある。
【0008】
上記のように、インジェクタ駆動回路及び制御部が負荷として接続されているバッテリに、他の電装品が更に負荷として接続されている場合には、他の負荷で電力が消費されている状態で噴射指令信号が発生して、バッテリからインジェクタのソレノイドに駆動電流が流れると、バッテリの駆動電圧が大きく低下することがある。バッテリからインジェクタに印加される駆動電圧が大きく低下すると、無効噴射時間が長くなって、実噴射時間が不足し、燃料の噴射量が不足することがある。
【0009】
そこで、特許文献1に示された制御装置では、燃料噴射装置と、他の負荷とを同時に駆動しないようにしている。特許文献1に示された制御装置においては、機関を点火する点火装置として電流遮断式の点火装置を用いて、該点火装置の点火コイルに一次電流が流れている間インジェクタ及び燃料ポンプの少なくとも一方の駆動を停止するようにしている。
【特許文献1】特開2002−21624号公報
【特許文献2】特開平9−209893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に示されたように構成すれば、インジェクタの開弁過程で、バッテリ電圧が低下して、無効噴射時間が長くなるのを防ぐことができる。しかしながら、特許文献1に示されたように、バッテリから点火装置に電流が流れているときに、インジェクタの駆動を行わないようにした場合には、バッテリから点火装置に大きな電流が流れる期間と、インジェクタが駆動される期間とが重なった場合には、本来行われるべき燃料噴射が行われなくなるため、機関に供給される燃料の量が不足するという新たな問題が生じる。バッテリから点火装置に大きな電流が流れる期間と、インジェクタが駆動される期間とが重ならないようにすれば問題がないが、機関の低速回転時から高速回転時まで、点火装置に電流が流れる期間と、インジェクタが駆動される期間とが重ならないようにすることは困難である。
【0011】
特許文献1に記載された発明において、バッテリから点火装置に電流が流れているときに、燃料ポンプの駆動を停止するようにした場合には、インジェクタの駆動を行うことはできる。しかしながら、この場合には、バッテリから点火装置に電流が流れている状態でインジェクタが駆動されるため、インジェクタの開弁過程でバッテリ電圧が低下し、燃料噴射量が不足するという問題を解決することができない。
【0012】
本発明の目的は、インジェクタ以外の負荷に大きな電流が流れている状態で、燃料噴射動作が行われて、インジェクタの開弁過程でバッテリ電圧が低下することにより、無効噴射時間が長くなり、燃料噴射量が不足する事態が生じるのを防ぐことができるようにした内燃機関用燃料噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、内燃機関に供給する燃料を噴射するインジェクタと、各種の負荷が接続されたバッテリを電源として噴射指令信号が与えられている間インジェクタに駆動電圧を印加するインジェクタ駆動回路と、バッテリから電源回路を通して電源電圧が与えられて動作するように設けられて内燃機関の燃料噴射時期にインジェクタ駆動回路に噴射指令信号を与える制御部とを備えた内燃機関用燃料噴射装置を対象とする。
【0014】
本発明においては、噴射指令信号が発生した時に、バッテリに接続されている負荷の内、インジェクタ駆動回路及び制御部以外の負荷であって、動作時に設定値以上の負荷電流が流れる他の負荷への電力の供給を、噴射指令信号の信号幅以下に設定された負荷駆動停止時間の間停止させる燃料噴射時負荷駆動停止手段を備えた。
【0015】
上記のように、噴射指令信号が発生した時に、バッテリに接続されている負荷の内、インジェクタ駆動回路及び制御部以外の負荷であって、設定値以上の負荷電流が流れる負荷への電力の供給を、設定された負荷駆動停止時間の間停止する燃料噴射時負荷駆動停止手段を設けておくと、噴射指令信号が発生してインジェクタに駆動電流が流れた際に、バッテリ電圧が大きく低下するのを防ぐことができるため、開弁過程で無効噴射時間が長くなって、燃料噴射量が不足する事態が生じるのを防ぐことができる。また本発明では、常に燃料噴射動作を優先し、他の負荷を駆動する際に燃料噴射動作を犠牲にすることは行わないため、機関の低速回転時にも高速回転時にも燃料噴射量が不足するのを防ぐことができる。
【0016】
上記「動作時に設定値以上の負荷電流が流れる他の負荷」とは、インジェクタと同時に駆動されると、インジェクタの無効噴射時間に無視できない変動を生じさせる程度にバッテリ電圧を低下させることになる他の負荷(インジェクタ駆動回路及び制御部以外の負荷)を意味する。
【0017】
インジェクタ駆動回路及び制御部以外の負荷の動作に与える影響を最小限に抑えるため、上記燃料噴射時負荷駆動停止手段は、噴射指令信号が発生したときに、噴射指令信号の信号幅よりも短い時間に設定された負荷駆動停止時間の間だけ、他の負荷への電力の供給を停止させるようにを構成するのが好ましい。
【0018】
この場合、負荷駆動停止時間が短すぎると、インジェクタの弁が開く前に他の負荷への通電が再開されてインジェクタの無効噴射時間に無視できない変動を生じさせるおそれがある。また負荷駆動停止時間が長すぎると、他の負荷の動作に好ましくない影響を与えるおそれがある。従って、負荷駆動停止時間は、インジェクタの駆動時に生じるバッテリ電圧の低下分を許容範囲(インジェクタの無効噴射時間の変動を許容範囲に収めるために必要な範囲)に収めるのに適した値に設定する。
【0019】
噴射指令信号が発生している間、他の負荷の駆動を停止しても支障を来さない場合には、上記負荷駆動停止時間を噴射指令信号の信号幅に等しくして、噴射指令信号が発生している間、インジェクタ駆動回路及び制御部以外の他の負荷への電力の供給を停止させるように燃料噴射時負荷駆動停止手段を構成してもよい。このように構成した場合には、負荷駆動停止時間を容易に決定できるため、燃料噴射時負荷駆動停止手段の構成を簡単にすることができる。
【0020】
また、インジェクタの無効噴射時間は、インジェクタに印加される電圧の大きさにより変わるので、負荷駆動停止時間は、噴射指令信号が発生する直前に検出されたバッテリ電圧に応じて設定するようにしてもよい。
【0021】
更に、バッテリを充電する発電機の出力が不足しがちな、機関の回転速度が比較的低い領域でのみ、インジェクタと他の負荷とを同時に駆動した場合のバッテリ電圧の低下が問題になる場合には、機関の回転速度を検出して、検出した回転速度が設定値以下であるときにのみ、設定された負荷駆動停止時間の間、他の負荷への電力の供給を停止するように、燃料噴射時負荷駆動停止手段を構成することができる。
【0022】
本発明の好ましい態様では、コンデンサ放電式内燃機関用点火装置のコンデンサを充電するために用いる電圧を出力するDCコンバータが負荷としてバッテリに接続され、このバッテリを電源として噴射指令信号が与えられている間インジェクタに駆動電圧を印加するインジェクタ駆動回路と、バッテリから電源回路を通して電源電圧が与えられて動作するように設けられて内燃機関の燃料噴射時期にインジェクタ駆動回路に噴射指令信号を与える制御部とが設けられている。このような燃料噴射装置に本発明を適用する場合には、噴射指令信号が発生した時に、噴射指令信号の信号幅以下に設定された負荷駆動停止時間の間DCコンバータの動作を停止させる燃料噴射時コンバータ動作停止手段を設ける。
【0023】
この場合、燃料噴射時コンバータ動作停止手段は、内燃機関の回転速度が設定値以下の時にのみ、設定された負荷駆動停止時間の間DCコンバータの動作を停止させるように構成することができる。
【0024】
またこの場合も、負荷駆動停止時間は、噴射指令信号が発生する直前に検出されたバッテリ電圧に応じて設定することができる。
【0025】
DCコンバータによりコンデンサを充電するコンデンサ放電式点火装置においては、機関が1回転する間にコンデンサを充電すればよいため、その充電の過程で燃料噴射が行われる短時間の間だけDCコンバータの動作を停止しても、点火動作には殆ど支障を来さない。従って、上記のように、噴射指令信号が発生している間DCコンバータの動作を停止させるようにすると、点火動作を犠牲にすることなく、バッテリ電圧の低下により燃料噴射量が不足する事態が生じるのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によれば、燃料噴射指令信号が発生した時に、バッテリに接続されている負荷の内、インジェクタ駆動回路及び制御部以外の負荷であって、設定値以上の負荷電流が流れる負荷への電力の供給を設定された負荷駆動停止時間の間停止する燃料噴射時負荷駆動停止手段を設けたので、インジェクタの開弁過程でバッテリ電圧が低下して無効噴射時間が長くなり、燃料噴射量が不足する事態が生じるのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明に係わる燃料噴射装置のハードウェアの構成例を示したものである。同図において、1は負極端子が接地されたバッテリ、2は点火コイル、3は機関の回転に同期して、機関の所定のクランク角位置でパルス信号を発生する信号源、4は燃料噴射時間を演算するために必要な制御条件を検出する各種のセンサ(吸気温度センサ、冷却水温センサ、吸気管内圧力センサ、スロットル弁開度センサ、大気圧センサ等)、5は機関の吸気管に取り付けられて、スロットル弁よりも下流側の吸気管内に燃料を噴射するインジェクタ、6は点火装置及び燃料噴射装置を制御する電子式制御ユニット(ECU)である。
【0028】
点火コイル2は一次コイル2a及び二次コイル2bを有していて,両コイルの一端が接地され、二次コイル2bの非接地側端子が、機関の気筒に取り付けられた点火プラグPの非接地側端子に接続されている。
【0029】
信号源3は、例えば機関に取り付けられたパルサからなっていて、機関のクランク角位置が、機関の燃料噴射時期や点火時期を検出する際の基準位置として用いる基準クランク角位置に一致したときにパルス信号を発生する。
【0030】
インジェクタ5は、先端に噴射口を有するインジェクタボディと、インジェクタボディ内に配置されて噴射口を開閉する弁と、弁を駆動するソレノイド(電磁石)とを備えていて、インジェクタボディ内には、バッテリ1により駆動される図示しない燃料ポンプから燃料が与えられている。インジェクタボディ内に与えられる燃料の圧力は圧力調整器によりほぼ一定に保たれている。インジェクタ5は、そのソレノイドに駆動電圧が印加された後、所定の遅れ時間(無効噴射時間)が経過したときに弁を開いて燃料を噴射する。インジェクタの無効噴射時間は、ソレノイドに与えられる駆動電圧の上昇に伴って短くなっていく。
【0031】
図示の制御ユニット6は、バッテリ1の両端の電圧(例えば12V)がスイッチSWを通して入力されたDCコンバータ7と、コンデンサ放電式の点火回路8と、インジェクタ駆動回路9と、CPU10A、ROM10B及びRAM10C等を有するマイクロプロセッサ10と、バッテリ1の両端の電圧(例えば12ボルト)を、マイクロプロセッサ10の電源電圧として適した一定の電圧(例えば5ボルト)に変換する電源回路11とを備えている。
【0032】
DCコンバータ7は、例えば、バッテリ1から一次電流が供給される昇圧トランスと、昇圧トランスの一次電流の通路に挿入されたチョッパ用スイッチと、昇圧トランスの一次電流を細かく断続させるように、チョッパ用スイッチをオンオフさせるチョッパ用スイッチ制御部とを備えたもので、昇圧トランスの一次電流を断続させることにより、昇圧トランスの二次コイルに200数十ボルトまで昇圧された電圧を誘起させる。DCコンバータ7のチョッパ用スイッチ制御部は、後記するコンデンサ放電式点火回路のコンデンサCiの両端の電圧を検出していて、コンデンサCiの両端の電圧が点火動作に必要な設定値に達したときにチョッパ用スイッチをオフ状態して昇圧動作を停止させるように構成されている。このようなDCコンバータの一例は、例えば特許文献2に詳細に示されている。
【0033】
コンデンサ放電式点火回路は、基本的には、点火コイルの一次側に設けられて電源により一方の極性に充電される点火用コンデンサと、点火信号が与えられたときに導通して点火用コンデンサの電荷を点火コイルの一次コイルを通して放電させる放電用スイッチとにより構成される。図示のコンデンサ放電式点火回路8は、DCコンバータ7の非接地側出力端子にアノードが接続されたダイオードD1と、点火コイルの一次コイル2aの非接地側端子とダイオードD1のカソードとの間に接続された点火用コンデンサCiと、コンデンサCiとダイオードD1との接続点と接地間にカソードを接地側に向けて接続されたサイリスタThiと、カソードを接地側に向けて点火コイルの一次コイル2aの両端に並列に接続されたダイオードD2とにより構成されている。この例では、サイリスタThiにより放電用スイッチが構成されている。
【0034】
図示の点火回路8においては、DCコンバータ7の出力により、ダイオードD1と、ダイオードD2及び一次コイル2aの並列回路とを通して点火用コンデンサCiが図示の極性に充電される。後記する制御部からサイリスタThiのゲートに点火信号Siが与えられると、サイリスタThiが導通してコンデンサCiの電荷を点火コイルの一次コイルを通して放電させ、一次コイル2aに高い電圧が誘起させる。この電圧が点火コイルの一次、二次間の昇圧比により昇圧されるため、点火コイルの二次コイル2bに点火用高電圧が誘起する。この高電圧は、機関の気筒に取り付けられた点火プラグ11に印加されるため、点火プラグで火花放電が生じ、機関が点火される。
【0035】
図示のインジェクタ駆動回路9は、エミッタが接地され、コレクタがインジェクタ5のソレノイドの一端に接続されたNPNトランジスタTR1からなっている。インジェクタ5のソレノイドの他端はスイッチSWを通してバッテリ1の正極端子に接続されている。トランジスタTR1は、後記する制御部からそのベースに噴射指令信号Sjが与えられている間オン状態を保持して、バッテリ1の両端の電圧をインジェクタ5のソレノイドに印加する。
【0036】
マイクロプロセッサ10は、ROM10Bに記憶されたプログラムを実行することにより、信号源3が出力するパルス信号の発生周期から機関の回転速度を演算し、演算した回転速度に対して機関の点火時期を演算する。また基準となるクランク角位置で信号源が基準パルス信号を発生したときに演算した点火時期を検出するための計時動作を開始し、この計時動作が完了したとき(点火時期を検出したとき)に点火回路のサイリスタThiに点火信号Siを与える。
【0037】
マイクロプロセッサ10はまた、エアフローメータにより検出した吸入空気量、スロットル弁開度と回転速度とに基づいて推定した吸入空気量、または、回転速度と吸気管内圧力とに基づいて推定した吸入空気量に対して所定の空燃比を得るために必要な噴射時間を基本噴射時間として演算するととに、機関の温度、大気圧、吸気温度等の各種の制御条件に対して基本噴射時間を補正して実噴射時間を演算し、この実噴射時間に無効噴射時間を加算することにより見かけの噴射時間を演算する。そして、信号源3が発生するパルスから得た機関のクランク角情報に基づいて燃料噴射開始時期を検出したときに、見かけの噴射時間に相当する信号幅を有する噴射指令信号Sjをインジェクタ駆動回路9に与える。
【0038】
本実施形態では、信号源3と、各種センサ4と、マイクロプロセッサ10とにより、バッテリ1から電源回路11を通して電源電圧が与えられて動作するように設けられて、内燃機関の燃料噴射時期にインジェクタ駆動回路9に噴射指令信号Sjを与える制御部が構成されている。またインジェクタ5と、インジェクタ5に燃料を与える図示しない燃料ポンプと、圧力調整器と、インジェクタ駆動回路9と、上記制御部とにより、燃料噴射装置が構成されている。
【0039】
以上説明した部分の構成は既に公知である。この種の燃料噴射装置において、バッテリ1には、燃料噴射装置以外の種々の負荷が接続されるのが普通である。特に図1に示した例のように、バッテリを電源とする点火装置が用いられる場合には、点火装置で比較的多くの電力が消費されることになる。点火装置で多くの電力が消費されている状態で、噴射指令信号が与えられると、インジェクタに駆動電流が流れた際にバッテリの電圧が低下し、インジェクタの開弁過程でその駆動電圧が低下する。インジェクタの駆動電圧が低下すると、無効噴射時間が長くなって、実噴射時間が短くなり、燃料の噴射量が不足することになる。
【0040】
図4(A)ないし(D)は、従来の燃料噴射装置において、機関の低速時に信号源3が発生するパルス信号Vpの波形と、バッテリ1からインジェクタ5のソレノイドに印加される駆動電圧Vdと、噴射指令信号Sjの波形と、コンデンサCiの両端の電圧Vcの波形とを模式的に示したものである。図4(A)に示されたパルス信号Vpは、機関の点火位置の計測を開始する位置等として用いられる基準クランク角位置で発生する負極性のパルスVp1と、基準クランク角位置よりも遅れたクランク角位置、例えば機関の上死点位置付近で発生する正極性のパルスVp2とからなっている。この例では、噴射指令信号Sjが発生したときにDCコンバータ7が昇圧動作を停止していて、バッテリ1からDCコンバータ7に電流が流れていないため(バッテリの負荷が軽いため)、噴射指令信号が発生してインジェクタ5に駆動電流が流れたときに駆動電圧Vdに生じる低下は僅かである。そのため、無効噴射時間は殆ど変化せず、燃料の噴射量が不足することはない。
【0041】
ところが、コンデンサCiの充電に要する時間はほぼ一定であるため、機関の回転速度が上昇し、クランク軸が1回転するのに要する時間が短くなって行くと、図5に示したように、噴射指令信号Sjが発生したときに未だコンデンサCiの充電が行われていて、バッテリからDCコンバータに電流が流れている状態にあるため、噴射指令信号Sjが発生してインジェクタに駆動電流が流れるとバッテリ電圧が低下してインジェクタの駆動電圧Vdが大きく低下する。このような状態が生じると、インジェクタの無効噴射時間が想定した時間よりも長くなるため、実噴射時間が短くなり、燃料噴射量が不足する。
【0042】
本発明においては、このような状態が生じるのを防止するため、マイクロプロセッサ10に所定のプログラムを実行させることにより、噴射指令信号Sjが発生した時に、バッテリ1に接続されている負荷の内、インジェクタ駆動回路9及び制御部以外の負荷であって、動作時に設定値以上の負荷電流が流れる他の負荷(この例ではDCコンバータ7)への電力の供給を噴射指令信号の信号幅以下に設定された負荷駆動停止時間の間停止させる燃料噴射時負荷駆動停止手段(図1の例では、燃料噴射時コンバータ動作停止手段)を設ける。
【0043】
インジェクタは、一旦その弁が開けば、バッテリ電圧が多少低下しても開弁状態を維持するので、インジェクタの弁が開いた後は、インジェクタ駆動回路9及び制御部以外の他の負荷の駆動を再開させても支障を来さない。従って、上記負荷駆動停止時間は、インジェクタの駆動を開始してから、インジェクタの弁が開くまでの時間に等しく設定するのが好ましい。インジェクタの弁が開くタイミングは、インジェクタのソレノイドの両端の電圧の変化からある程度検出することが可能であるが、その検出を正確に行うことは難しい。従って、上記燃料噴射時負荷駆動停止手段は、噴射指令信号が発生した時に、噴射指令信号の信号幅以下に設定された負荷駆動停止時間の間だけ、インジェクタ駆動回路及び制御部以外の他の負荷への電力の供給を停止するように構成するのが好ましい。
【0044】
この場合、負荷駆動停止時間が短すぎると、インジェクタの弁が開く前に他の負荷への通電が再開されてバッテリ電圧が低下し、インジェクタの無効噴射時間に無視できない変動を生じさせるおそれがある。また負荷駆動停止時間が長すぎると、他の負荷の動作に好ましくない影響を与えるおそれがある。従って、負荷駆動停止時間は、インジェクタの駆動時に生じるバッテリ電圧の低下分を許容範囲(インジェクタの無効噴射時間の変動を許容範囲に収めるために必要な範囲)に収めるのに適した長さで、しかも他の負荷の動作に悪影響を及ぼさない範囲の長さに設定する必要がある。この負荷駆動停止時間は、実験的に決定することができる。
【0045】
噴射指令信号が発生している間、他の負荷の駆動を停止しても支障を来さない場合には、上記負荷駆動停止時間を噴射指令信号の信号幅に等しくしてもよい。
【0046】
図1の例では、上記燃料噴射時負荷駆動停止手段が、噴射指令信号Sjが発生した時に負荷駆動停止信号VaをDCコンバータ7に与える。DCコンバータ7は負荷駆動停止信号Vaが与えられている間昇圧トランスの一次コイルに対して直列に接続されたチョッパ用スイッチをオフ状態に保持して、昇圧動作を停止させるように構成されている。
【0047】
負荷駆動停止時間を噴射指令信号の信号幅に等しく設定した場合の各部の信号波形及び電圧波形を図3に示した。図3(A)は信号源3が発生するパルス信号Vpの波形を示し、(B)はバッテリ1からインジェクタ5のソレノイドに印加される駆動電圧Vdの波形を示している。また(C)は噴射指令信号Sjの波形、(D)はコンデンサCiの両端の電圧Vcの波形を示し、(E)は負荷駆動停止信号Vaの波形を示している。
【0048】
上記燃料噴射時コンバータ動作停止手段を構成するためにマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムを示したフローチャートを図2に示した。図2の処理は、微小な時間間隔で繰り返し実行されるもので、この処理においては、先ずステップS01において噴射指令信号Sjが発生しているか否かを判定する。その結果、噴射指令信号が発生していない場合には、ステップS02でDCコンバータ7の動作を許可する(負荷駆動停止信号Vaを発生させない)。ステップS01で噴射指令信号Sjが発生していると判定されたときにはステップS03に進んで負荷駆動停止信号(コンバータ動作停止信号)Vaを発生させて、この信号をDCコンバータの制御部に与えることによりDCコンバータへの電力の供給を停止させ、DCコンバータの動作を禁止する。次いでステップS04で負荷駆動停止時間が経過するのを待ち、負荷駆動停止時間が経過したときにステップS05でDCコンバータの動作を許可して、DCコンバータへの電力の供給を再開する。
【0049】
上記のように構成しておくと、噴射指令信号Sjが発生したときに、バッテリに接続されている負荷の内、インジェクタ駆動回路及び制御部以外の負荷であって、設定値以上の負荷電流が流れる負荷(図1の例ではDCコンバータ7)への電力の供給が停止されるので、インジェクタの開弁過程で駆動電圧が低下して無効噴射時間が長くなり、燃料噴射量が不足する事態が生じるのを防ぐことができる。
【0050】
上記の例では、インジェクタ駆動回路及び制御部以外の負荷をDCコンバータ7としたが、更に他の負荷、例えばスロットルバルブを操作するアクチュエータがバッテリ1の負荷として接続されている場合にも、噴射指令信号が発生している間その負荷の駆動を停止することにより、同様の効果を得ることができる。
【0051】
上記の実施形態では、機関の回転速度に関係なく、噴射指令信号が発生したときに負荷駆動停止時間の間他の負荷への電力の供給を停止するように、燃料噴射時コンバータ動作停止手段を構成しているが、機関の回転速度が比較的低い領域でのみバッテリ電圧の低下が問題になる場合には、内燃機関の回転速度が設定値以下の時にのみDCコンバータの動作を負荷駆動停止時間の間停止させるように燃料噴射時コンバータ動作停止手段を構成することもできる。
【0052】
上記の実施形態では、負荷駆動停止時間を一定値として設定しているが、インジェクタの無効噴射時間はインジェクタに印加される電圧(バッテリ電圧)により変わるので、噴射指令信号が発生する直前に検出されたバッテリ電圧に応じて負荷駆動停止時間を設定するようにすることもできる。例えば、噴射指令信号が発生する直前に検出されたバッテリ電圧に対して負荷駆動停止時間をマップ演算などにより演算して、演算された負荷駆動停止時間の間他の負荷への電力の供給を停止するようにしてもよい。バッテリ電圧に対して負荷駆動停止時間を演算する際に用いるマップは、実験的に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係わる燃料噴射装置のハードウェアの構成例を示した回路図である。
【図2】本発明の実施形態において、燃料噴射時コンバータ動作停止手段を構成するために制御部のマイクロプロセッサに実行させる処理のアルゴリズムの一例を示したフローチャートである。
【図3】図1に示した装置の各部の信号波形及び電圧波形を模式的に示した波形図である。
【図4】機関の回転速度が低いときに従来の燃料噴射装置の各部で観測される信号波形及び電圧波形を模式的に示した波形図である。
【図5】機関の回転速度が高いときに従来の燃料噴射装置の各部で観測される信号波形及び電圧波形を模式的に示した波形図である。
【符号の説明】
【0054】
1 バッテリ
2 点火コイル
3 信号源
5 インジェクタ
6 ECU
7 DCコンバータ
8 コンデンサ放電式点火回路
9 インジェクタ駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に供給する燃料を噴射するインジェクタと、各種の負荷が接続されたバッテリを電源として噴射指令信号が与えられている間前記インジェクタに駆動電圧を印加するインジェクタ駆動回路と、前記バッテリから電源回路を通して電源電圧が与えられて動作するように設けられて前記内燃機関の燃料噴射時期に前記インジェクタ駆動回路に噴射指令信号を与える制御部とを備えた内燃機関用燃料噴射装置において、
前記噴射指令信号が発生した時に、前記バッテリに接続されている負荷の内、前記インジェクタ駆動回路及び制御部以外の負荷であって、動作時に設定値以上の負荷電流が流れる他の負荷への電力の供給を、前記噴射指令信号の信号幅以下に設定された負荷駆動停止時間の間停止させる燃料噴射時負荷駆動停止手段を備えたことを特徴とする内燃機関用燃料噴射装置。
【請求項2】
前記燃料噴射時負荷駆動停止手段は、前記内燃機関の回転速度が設定値以下の時にのみ前記他の負荷への電力の供給を前記負荷駆動停止時間の間停止させるように構成されている請求項1に記載の内燃機関用燃料噴射装置。
【請求項3】
前記負荷駆動停止時間は、前記噴射指令信号が発生する直前に検出されたバッテリ電圧に応じて設定される請求項1または2に記載の内燃機関用燃料噴射装置。
【請求項4】
内燃機関に供給する燃料を噴射するインジェクタと、コンデンサ放電式内燃機関用点火装置のコンデンサを充電するために用いる電圧を出力するDCコンバータが負荷として接続されたバッテリを電源として噴射指令信号が与えられている間前記インジェクタに駆動電圧を印加するインジェクタ駆動回路と、前記バッテリから電源回路を通して電源電圧が与えられて動作するように設けられて前記内燃機関の燃料噴射時期に前記インジェクタ駆動回路に噴射指令信号を与える制御部とを備えた内燃機関用燃料噴射装置において、
前記噴射指令信号が発生した時に、前記噴射指令信号の信号幅以下に設定された負荷駆動停止時間の間前記DCコンバータの動作を停止させる燃料噴射時コンバータ動作停止手段を備えたことを特徴とする内燃機関用燃料噴射装置。
【請求項5】
前記燃料噴射時コンバータ動作停止手段は、前記内燃機関の回転速度が設定値以下の時にのみ前記DCコンバータの動作を前記負荷駆動停止時間の間停止させるように構成されている請求項4に記載の内燃機関用燃料噴射装置。
【請求項6】
前記負荷駆動停止時間は、前記噴射指令信号が発生する直前に検出されたバッテリ電圧に応じて設定される請求項4または5に記載の内燃機関用燃料噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−170204(P2007−170204A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365231(P2005−365231)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】