説明

内視鏡の対物部

【課題】最先端のレンズとレンズ枠とを接合時及び高圧蒸気滅菌処理時の熱膨張等で破損しない状態に接合固着することができ、しかも接合状態の確認のために特別な装置や手間をかけることなく接合状態と気密状態の確認等を目視により簡単かつ確実に行うことができる内視鏡の対物部を提供すること。
【解決手段】レンズ枠10の先端部分に最先端のレンズ11の外周に面する周壁を形成せずに、最先端のレンズ11の後端面をレンズ枠10の先端面にロー接により気密に固着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内視鏡の挿入部先端に配置された対物部に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の対物部は一般に、直径が数ミリメートル以下の広視野角の極小レンズ群を完全な気密性と耐薬性等を有する状態に組み込む必要があるという特殊性から、最先端のレンズがレンズ枠の先端部分に気密に接合固着され、最先端のレンズを除く全て又は一部のレンズがレンズ枠内に後方から嵌め込まれて固定された構成をとっている。
【0003】
そして近年は、さらに高圧蒸気滅菌にも耐えるだけの耐久性が求められるようになってきたことから、最先端のレンズの外周面又は裏面に予め金メッキ等を施して、その部分を金属製のレンズ枠に半田付け等で接合している(例えば、特許文献1、2)。
【特許文献1】特開2004−94043
【特許文献2】特開2000−193892
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された発明においては、図12に示されるように、最先端のレンズ101の外周面をレンズ枠100の内周面に半田付け等で接合した構成をとっているが、製造時の加熱或いはその後の高圧蒸気滅菌処理時等に発生する膨張収縮の際に、最先端のレンズ101とレンズ枠100との熱膨張率の相違により接合部Aが破損して、いわゆる水漏れ故障が発生する場合がある。
【0005】
一方、特許文献2に記載された発明においては、図13に示されるように、最先端のレンズ101の外径寸法をレンズ枠100の内径寸法に対してガタつきが出る程度に小さく形成して、最先端のレンズ101の裏面をレンズ枠の先端面に接合することで、熱膨張による接合部Aの破損が発生しないようにしている。
【0006】
しかし、最先端のレンズ101の裏面が接合部Aになっていて接合作業後に接合状態を目視できないので、接合状態を確認するためにX線装置が必要になる等、検査装置や検査作業が大がかりになってしまう不都合がある。
【0007】
そこで本発明は、最先端のレンズとレンズ枠とを接合時及び高圧蒸気滅菌処理時の熱膨張等で破損しない状態に接合固着することができ、しかも接合状態の確認のために特別な装置や手間をかけることなく接合状態と気密状態の確認等を目視により簡単かつ確実に行うことができる内視鏡の対物部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の内視鏡の対物部は、複数のレンズを含む対物光学系の最先端のレンズが金属製のレンズ枠の先端部分に気密に接合固着され、最先端のレンズを除く全て又は一部のレンズがレンズ枠内に後方から嵌め込まれて固定された構成の内視鏡の対物部において、レンズ枠の先端部分に最先端のレンズの外周に面する周壁を形成せずに、最先端のレンズの後端面をレンズ枠の先端面にロー接により気密に固着したものである。
【0009】
なお、最先端のレンズの外径がレンズ枠の外径を越えない大きさに形成されているとよく、最先端のレンズが凹レンズであって、その後端面の外縁寄りの部分がレンズ枠の先端面に環状に固着されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レンズ枠の先端部分に最先端のレンズの外周に面する周壁を形成せずに、最先端のレンズの後端面をレンズ枠の先端面にロー接により気密に固着したことにより、最先端のレンズとレンズ枠とを接合時及び高圧蒸気滅菌処理時の熱膨張等で破損しない状態に接合固着することができ、しかも接合状態の確認のために特別な装置や手間をかけることなく接合状態と気密状態の確認等を目視により簡単かつ確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
複数のレンズを含む対物光学系の最先端のレンズが金属製のレンズ枠の先端部分に気密に接合固着され、最先端のレンズを除く全て又は一部のレンズがレンズ枠内に後方から嵌め込まれて固定された構成の内視鏡の対物部において、レンズ枠の先端部分に最先端のレンズの外周に面する周壁を形成せずに、最先端のレンズの後端面をレンズ枠の先端面にロー接により気密に固着する。
【実施例】
【0012】
図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図2は内視鏡の挿入部先端の正面図であり、挿入部の最先端部分に連結された先端部本体1の先端面に、観察窓2、照明窓3及び処置具突出口4等が配置されている。
【0013】
図3はその挿入部先端の側面断面図であり、処置具突出口4の奥においては、挿入部内に全長にわたって挿通配置された処置具挿通チャンネル5の先端部分が、処置具突出口4と真っ直ぐに連通する状態に先端部本体1に接続されている。
【0014】
11と12は対物光学系を構成するレンズ群であり、最先端のレンズ11は、その後端面がレンズ枠10の前端面に固着されて(接合部A)、観察窓2に緩く嵌め込まれた状態になっており、その嵌め込み面には接着剤が塗布されている。
【0015】
最先端のレンズ11に続く後群レンズ12はこの実施例では3枚のレンズであり、円筒状のレンズ枠10内に嵌め込まれてそこに固定されている。なお、後群レンズ12が一枚のレンズであっても差し支えない。
【0016】
対物光学系11,12による被写体の投影位置には固体撮像素子13の撮像面が配置されており、固体撮像素子13とその後方に隣接して配置された電子部品等が内部に固着された撮像ユニット枠14の先端部分が、レンズ枠10の後半部分の外周部に嵌合固着されている。15は挿入部内に全長にわたって挿通配置された信号ケーブルである。
【0017】
図1は、上述のように構成された内視鏡の撮像ユニットを示しており、レンズ枠10は金属製であって、最先端部分の内径がその後側の部分の内径より小さく形成された円筒状に形成されている。
【0018】
レンズ枠10の先端部分には最先端のレンズ11の外周に面する周壁が形成されておらず、レンズ枠10の外径より小さな外径に形成された最先端のレンズ11の後端面が、レンズ枠10の先端面にロー接により気密に接合固着されている。Aがそのロー接による接合部である。後群レンズ12は、レンズ枠10に後方から嵌め込まれて固定されている。
【0019】
最先端のレンズ11は外径がレンズ枠10の外径を越えない大きさに形成されている。したがって、撮像ユニットを先端部本体1の嵌合孔内に組み込む際に後方から容易に差し込んでセットすることができる。なお、最先端のレンズ11はこの実施例では凹レンズであるが、平行平面板等であってもよくメニスカスレンズ等であっても差し支えない。
【0020】
図4は、レンズ枠10に最先端のレンズ11をロー接で接合する際に用いられる治具50,60を分解して示しており、レンズ受け治具50には最先端のレンズ11が嵌め込まれる有底のレンズ受け穴51が形成され、レンズ枠受け治具60にはレンズ枠10が嵌挿されるレンズ枠受け孔61が貫通形成されている。
【0021】
そして、レンズ受け治具50とレンズ枠受け治具60とに互いに位置を合わせて複数(例えば4個)形成された位置決め孔52,62に位置決めピン70を突き通すことにより、レンズ受け穴51とレンズ枠受け孔61との軸線が一致する状態でレンズ受け治具50とレンズ枠受け治具60とが当接するようになっている。
【0022】
治具50,60は各々、例えばカーボン等のようにロー接の際の加熱温度に耐えられ且つロー接により接合されない材料で形成されている。80は、例えば金錫(Au−Sn)等のような材料からなるロー接材であり、接合部Aの形状に合わせた薄肉の環状(ドーナツ状)に形成されている。
【0023】
このような治具50,60を用いて最先端のレンズ11をレンズ枠10にロー接する際には、先ず図5に示されるように、最先端のレンズ11を先端面側からレンズ受け治具50のレンズ受け穴51内に嵌め込んでセットする。
【0024】
なお、レンズ受け穴51の直径は最先端のレンズ11がガタつきなく嵌め込まれる程度(例えば、最先端のレンズ11の直径プラス0.01〜0.05mm程度)に形成され、深さは最先端のレンズ11の裏面側がレンズ受け治具50の表面から少し突出する程度に形成されている。
【0025】
次いで、図6に示されるように、レンズ受け治具50に上方からレンズ枠受け治具60を重ね合わせる。レンズ受け治具50とレンズ枠受け治具60は位置決めピン70によって位置関係が規制されているので、レンズ受け穴51とレンズ枠受け孔61との軸線が一致する状態にセットされる。
【0026】
そこで、図7に示されるように、ロー接材80とレンズ枠10をレンズ枠受け孔61内に順に落とし込む。レンズ枠受け孔61の直径はレンズ枠10がガタつきなく嵌め込まれる程度(例えば、レンズ枠10の直径プラス0.01〜0.05mm程度)に形成されている。
【0027】
そして、図8に示されるように、レンズ枠10と最先端のレンズ11との間にロー接材80が確実に挟みつけられた状態になるようレンズ枠10の上に荷重ピン90等を載せ、或いはその状態で全体を上下に180°引っ繰り返した状態にして、例えば450°C以上の温度の炉内に所定時間入れておく。
【0028】
すると、ロー接材80が溶解されると共に、レンズ枠10と最先端のレンズ11が共に炉内の温度程度まで加熱されることにより、その表面がロー接材80に対していわゆる濡れた状態になり、最先端のレンズ11の後端面(裏面)の外縁寄りの部分がレンズ枠10の先端面にロー接により環状に気密に接合固着される。
【0029】
このようにしてロー接されたレンズ枠10と最先端のレンズ11とは、芯ずれがほとんど発生せず、しかも、最先端のレンズ11の外周に面するような周壁がレンズ枠10に形成されていないので、ロー接時やその後の高圧蒸気滅菌処理時等の温度変化により発生する膨張収縮で接合部Aが破損しない。
【0030】
そして、図9に示されるように、ロー接による接合部Aの接合状態と気密状態の確認等を目視により簡単かつ確実に行うことができるので、接合部Aの検査に特別な装置や手間を費やすことなく接合部Aの品質を確保することができる。
【0031】
次いで、図10に示されるように、最先端のレンズ11が先端に接合されたレンズ枠10に後群レンズ12を落とし込んで接着或いはかしめ等により固定し、図11に示されるように、撮像ユニット枠14の先端部分をレンズ枠10の後半部分に被嵌して接着或いはかしめ等により固定することにより、図1に示されるような撮像ユニットが出来上がる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例の撮像ユニットの側面断面図である。
【図2】本発明の実施例の内視鏡の挿入部先端の正面図である。
【図3】本発明の実施例の内視鏡の挿入部先端の側面断面図である。
【図4】本発明の実施例のロー接治具の分解斜視図である。
【図5】本発明の実施例のロー接工程を順に示す略示断面図である。
【図6】本発明の実施例のロー接工程を順に示す略示断面図である。
【図7】本発明の実施例のロー接工程を順に示す略示断面図である。
【図8】本発明の実施例のロー接工程を順に示す略示断面図である。
【図9】本発明の実施例のロー接の状態を目視する状態を示す略示断面図である。
【図10】本発明の実施例のロー接後の撮像ユニット組み立て工程を順に示す略示断面図である。
【図11】本発明の実施例のロー接後の撮像ユニット組み立て工程を順に示す略示断面図である。
【図12】従来の内視鏡の対物光学系がレンズ枠に組み込まれた状態の第1の例の側面断面図である。
【図13】従来の内視鏡の対物光学系がレンズ枠に組み込まれた状態の第2の例の側面断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10 レンズ枠
11 最先端のレンズ
12 後群レンズ
50 レンズ受け治具
51 レンズ受け穴
60 レンズ枠受け治具
61 レンズ枠受け孔
70 位置決めピン
80 ロー接材
A 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズを含む対物光学系の最先端のレンズが金属製のレンズ枠の先端部分に気密に接合固着され、上記最先端のレンズを除く全て又は一部のレンズが上記レンズ枠内に後方から嵌め込まれて固定された構成の内視鏡の対物部において、
上記レンズ枠の先端部分に上記最先端のレンズの外周に面する周壁を形成せずに、上記最先端のレンズの後端面を上記レンズ枠の先端面にロー接により気密に固着したことを特徴とする内視鏡の対物部。
【請求項2】
上記最先端のレンズの外径が上記レンズ枠の外径を越えない大きさに形成されている請求項1記載の内視鏡の対物部。
【請求項3】
上記最先端のレンズが凹レンズであって、その後端面の外縁寄りの部分が上記レンズ枠の先端面に環状に固着されている請求項1又は2記載の内視鏡の対物部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−259054(P2006−259054A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74536(P2005−74536)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】