説明

内視鏡用対物レンズおよび撮像装置

【課題】内視鏡用対物レンズにおいて、広い波長域で良好に使用可能なものとする。
【解決手段】内視鏡用対物レンズは、下記条件式(1)を満たすように構成されている。内視鏡用対物レンズは、絞りより像側に接合レンズを含む4群5枚構成、あるいは、絞りより物体側および像側に接合レンズを含む4群6枚構成とすることができる。
|δh−δC|/f<2 … (1)
ただし、
δh:最大半画角におけるd線に対するh線の倍率色収差量(単位はμm)
δC:最大半画角におけるd線に対するC線の倍率色収差量(単位はμm)
f:全系の焦点距離(単位はmm)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用対物レンズおよび撮像装置に関し、より詳しくは、広い波長域において使用可能な内視鏡用対物レンズ、および該内視鏡用対物レンズを備えた撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内視鏡用の対物レンズを使用する時の照明光源として水銀灯が用いられている。水銀灯は、波長404.7nm(h線)、波長435.8nm(g線)、波長546.1nm(e線)、波長577.0nm、波長579.1nmの輝線スペクトルからなる緑がかった青白色の光を放射し、さらに波長253.7nm、波長365.0nm(i線)の紫外域の光も放射する。ただし、大半の光学用材質のi線に対する透過率は低いため、通常の光学系ではこの紫外域の光は無視することができる。
【0003】
可視域での光学用材質の屈折率は、短波長側(青)で高く、長波長側(赤)で低いので、色収差の補正を行っていない結像光学系では赤色の光よりも青色の光に対する焦点距離の方が短くなる。そこで通常は、正レンズと負レンズにアッベ数の異なる種々の材質を用いて色収差の補正を行うようにしている。通常多用されているd線(波長587.6nm)に対するアッベ数νdは、d線における屈折率ndと、F線(波長486.1nm)における屈折率nFと、C線(波長656.3nm)における屈折率nCを用いて、νd=(nd−1)/(nF−nC)で表される。可視域用の光学系を設計する際は、一般にはd線基準で、F線、C線に対して色収差の補正をすることが多い。
【0004】
例えば、本願の発明者は、アッベ数の異なる正レンズと負レンズを組み合わせて可視域の色収差補正が良好に行われた光学系として、下記特許文献1〜3に記載のものを考案している。特に、特許文献2においては、正レンズと負レンズのアッベ数の差を用いた所定の条件式を満たすように構成することにより、良好に倍率色収差を補正できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−257108号公報
【特許文献2】特開2008−152210号公報
【特許文献3】特願2009−130377号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで近年では、医療分野の診断等において波長400nm付近の光を利用する機会が増えてきている。そのため、このような診断において、d線基準でF線、C線に対して色収差を補正した従来の光学系より更に短波長まで色収差を補正した光学系が求められるようになってきている。
【0007】
図25、図26を参照しながら、倍率色収差の補正について詳しく説明する。d線、F線、C線の三色に注目して、d線基準でのF線、C線の画角に伴う倍率色収差を見ると、一般には図25に示すように、C線についてはプラス側にふれ(オーバーの状態)、F線についてはマイナス側にふれる(アンダーの状態)傾向がある。なお、図25の縦軸は画角であり、横軸はd線を基準とした倍率色収差量であり、縦軸の最大値は最大半画角に対応しており、d線基準でのF線、C線の倍率色収差をそれぞれF、Cという符号を付して模式的に破線で示している。
【0008】
図25に示すような状態から補正を行い、d線に対する倍率色収差のプラス、マイナスの量を減らしていく場合、図26に示すように、F線の倍率色収差が最大半画角になる途中でプラス側に転じ、最大半画角ではC線のものと同程度の量になるまで補正することが多い。なお、図26は模式図であり、その図示方法は図25のものと同様である。ただ図26に示す程度にまで補正すると、短波長側は波長に対する色収差の変化量が激しいため、F線よりさらに短波長であるg線、h線の倍率色収差は、図26の符号gorhを付した破線で示すように、d線に対して大幅にプラスの値となってしまう。これでは、色ごとに像の大きさが異なって見え、像の鮮明度や解像性を低下させてしまう。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、広い波長域で良好に使用可能な内視鏡用対物レンズ、該内視鏡用対物レンズを備えた撮像装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の内視鏡用対物レンズは、下記条件式(1)を満たすことを特徴とするものである。
|δh−δC|/f<2 (1)
ただし、
δh:最大半画角におけるd線に対するh線の倍率色収差量(単位はμm)
δC:最大半画角におけるd線に対するC線の倍率色収差量(単位はμm)
f:全系の焦点距離(単位はmm)
【0011】
なお、「最大半画角」は、対物レンズの仕様、あるいは対物レンズが適用される系の仕様により決めることができる。例えば、対物レンズがその像面に配置される撮像素子と組み合わせて使用されるときには、この撮像素子の撮像面の寸法に基づいて最大半画角を決めるようにしてもよい。
【0012】
本発明の内視鏡用対物レンズは、物体側から順に、物体側に平面を有する平凹レンズもしくは物体側に凸面を有する負メニスカスレンズと、正レンズおよび負レンズの貼り合わせもしくは負レンズおよび正レンズの貼り合わせからなる第1の接合レンズと、絞りと、像側に凸面を有する正レンズと、正レンズおよび負レンズの貼り合わせもしくは負レンズおよび正レンズの貼り合わせからなる全体で正の屈折力を持つ第2の接合レンズとが配列された4群6枚構成としてもよい。
【0013】
本発明の内視鏡用対物レンズが上記4群6枚構成を採る場合は、下記条件式(2)を満たすことが好ましい。
【数1】

ただし、
Nθ1hg:第1の接合レンズ中の負レンズのh線とg線間の部分分散比
Pθ1hg:第1の接合レンズ中の正レンズのh線とg線間の部分分散比
1C:第1の接合レンズの接合面の曲率半径
Nθ2hg:第2の接合レンズ中の負レンズのh線とg線間の部分分散比
Pθ2hg:第2の接合レンズ中の正レンズのh線とg線間の部分分散比
2C:第2の接合レンズの接合面の曲率半径
Bf:全系のバックフォーカス
d:最も像側のレンズの中心厚
n:最も像側のレンズのd線における屈折率
【0014】
または、本発明の内視鏡用対物レンズは、物体側から順に、像側に凹面を有する負レンズと、物体側に凸面を有する正レンズと、絞りと、像側に凸面を有する正レンズと、正レンズおよび負レンズの貼り合わせもしくは負レンズおよび正レンズの貼り合わせからなる全体で正の屈折力を持つ接合レンズとが配列された4群5枚構成としてもよい。
【0015】
本発明の内視鏡用対物レンズが上記4群5枚構成を採る場合は、下記条件式(3)を満たすことが好ましい。
【数2】

ただし、
Nθhg:接合レンズ中の負レンズのh線とg線間の部分分散比
Pθhg:接合レンズ中の正レンズのh線とg線間の部分分散比
:接合レンズの接合面の曲率半径
Bf:全系のバックフォーカス
d:最も像側のレンズの中心厚
n:最も像側のレンズのd線における屈折率
【0016】
なお、h線とg線間の部分分散比とは、レンズのh線における屈折率をnhとし、g線における屈折率をngとし、F線における屈折率をnFとし、C線における屈折率をnCとしたとき、(nh−ng)/(nF−nC)で表されるものである。
【0017】
なお、上記4群5枚構成、上記4群6枚構成において述べた各レンズの符号、面形状は、当該レンズが非球面レンズの場合は近軸領域におけるものとする。また、上記条件式(2)、(3)で用いられるバックフォーカスは、空気換算長を用いるものとする。
【0018】
本発明の撮像装置は、上記記載の本発明の内視鏡用対物レンズを備えたことを特徴とするものである。
【0019】
本発明の撮像装置において、内視鏡用対物レンズの像面に配置される撮像素子をさらに備える場合には、下記条件式(4)を満たすことが好ましい。
|δh−δC|<3×P … (4)
ただし、
P:撮像素子の画素の配列のピッチ(単位はμm)
【0020】
なお、撮像素子の画素の配列のピッチが水平方向と垂直方向で異なる場合は例えば、下記のようにPを決めてもよい。
P=(PH×PV)1/2
ただし、
PH:撮像素子の水平方向画素ピッチ
PV:撮像素子の垂直方向画素ピッチ
【0021】
なお、特に断りの無い限り本明細書における「倍率色収差が小さい」、「倍率色収差が大きい」とはそれぞれ、倍率色収差量の絶対値が小さい、大きいことを意味するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の内視鏡用対物レンズによれば、条件式(1)を満たすように構成しているため、F線よりも短波長のh線の倍率色収差を抑制することができ、近年需要が増加している波長400nm付近の光にも対応可能となり、従来の一般的な可視域用の内視鏡用対物レンズよりも広い波長域で良好に使用可能となる。
【0023】
本発明の撮像装置によれば、本発明の内視鏡用対物レンズを備えているため、近年需要が増加している波長400nm付近の光にも対応可能となり、従来の一般的な可視域用の内視鏡用対物レンズを用いた場合よりも広い波長域で良好に使用可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態にかかる対物レンズの倍率色収差を説明するための図
【図2】本発明の実施例1の対物レンズの構成および光路を示す断面図
【図3】本発明の実施例2の対物レンズの構成および光路を示す断面図
【図4】本発明の実施例3の対物レンズの構成および光路を示す断面図
【図5】本発明の実施例4の対物レンズの構成および光路を示す断面図
【図6】本発明の実施例5の対物レンズの構成および光路を示す断面図
【図7】本発明の実施例1の対物レンズの各収差図であり、(A)は球面収差図、(B)は非点収差図、(C)は歪曲収差図、(D)は倍率色収差図
【図8】本発明の実施例2の対物レンズの各収差図であり、(A)は球面収差図、(B)は非点収差図、(C)は歪曲収差図、(D)は倍率色収差図
【図9】本発明の実施例3の対物レンズの各収差図であり、(A)は球面収差図、(B)は非点収差図、(C)は歪曲収差図、(D)は倍率色収差図
【図10】本発明の実施例4の対物レンズの各収差図であり、(A)は球面収差図、(B)は非点収差図、(C)は歪曲収差図、(D)は倍率色収差図
【図11】本発明の実施例5の対物レンズの各収差図であり、(A)は球面収差図、(B)は非点収差図、(C)は歪曲収差図、(D)は倍率色収差図
【図12】比較例1の対物レンズの構成および光路を示す断面図
【図13】比較例2の対物レンズの構成および光路を示す断面図
【図14】比較例3の対物レンズの構成および光路を示す断面図
【図15】比較例4の対物レンズの構成および光路を示す断面図
【図16】比較例5の対物レンズの構成および光路を示す断面図
【図17】比較例1の対物レンズの各収差図であり、(A)は球面収差図、(B)は非点収差図、(C)は歪曲収差図、(D)は倍率色収差図
【図18】比較例2の対物レンズの各収差図であり、(A)は球面収差図、(B)は非点収差図、(C)は歪曲収差図、(D)は倍率色収差図
【図19】比較例3の対物レンズの各収差図であり、(A)は球面収差図、(B)は非点収差図、(C)は歪曲収差図、(D)は倍率色収差図
【図20】比較例4の対物レンズの各収差図であり、(A)は球面収差図、(B)は非点収差図、(C)は歪曲収差図、(D)は倍率色収差図
【図21】比較例5の対物レンズの各収差図であり、(A)は球面収差図、(B)は非点収差図、(C)は歪曲収差図、(D)は倍率色収差図
【図22】本発明の実施例1〜5と比較例1〜5の倍率色収差量を示す図
【図23】本発明の実施形態にかかる内視鏡の概略構成を示す図
【図24】内視鏡の先端硬質部の要部断面図
【図25】一般的な倍率色収差の傾向を模式的に示す図
【図26】従来の色収差補正を説明するための倍率色収差図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる対物レンズの倍率色収差図であり、横軸はd線(波長587.6nm)を基準とした倍率色収差量であり、縦軸は画角であり、縦軸の最大値は最大半画角に対応する。図1では、d線を基準としたときのh線(波長404.7nm)、g線(波長435.8nm)、F線(波長486.1nm)、C線(波長656.3nm)についての倍率色収差をそれぞれh、g、F、Cという符号を付して破線で示している。なお、図1に示す倍率色収差は一例であり、本発明の対物レンズの倍率色収差は図1に示すものに限定されない。
【0026】
本実施形態の対物レンズは、h線とC線に着目したものであり、下記条件式(1)を満たすように構成されている。
|δh−δC|/f<2 (1)
ただし、
δh:最大半画角におけるd線に対するh線の倍率色収差量(単位はμm)
δC:最大半画角におけるd線に対するC線の倍率色収差量(単位はμm)
f:全系の焦点距離(単位はmm)
【0027】
従来、可視域用の対物レンズはd線基準でF線、C線に対して色収差補正したものが多く、このような従来のレンズでは、課題の項で述べたようにd線基準のg線、h線の倍率色収差が大きくなるという不具合があった。この点を考慮し、本実施形態の対物レンズは、F線(波長486.1nm)の代わりにより波長の短いh線(波長404.7nm)を用いて色収差補正を行ったものである。
【0028】
上記条件式(1)を満たすことにより、h線とC線の間の波長についても倍率色収差を抑制することが可能になる。例えば図1に示すように、δhとδCをプラス側の小さな値にしながら上記条件式(1)を満たすように収差補正した場合には、d線に対するF線の倍率色収差はマイナス側の小さな値、d線に対するg線の倍率色収差はプラスまたはマイナスの小さな値をとりやすく、結果として広い波長域において倍率色収差を小さくすることが可能になる。
【0029】
このように構成された本実施形態の対物レンズによれば、従来の一般的な可視域用対物レンズが対応していた波長域に加え、近年需要が増加している波長400nm付近の波長域も含めた広い波長域で良好な色収差補正を確保することができ、このような広い波長域で良好に使用可能となる。波長400nm付近の光は近年医療分野等で応用が進められている分光画像の取得に用いられることが多いため、有用である。
【0030】
本発明の実施形態にかかる対物レンズは例えば以下に述べる第1の態様、または第2の態様のレンズ構成を採用することができる。第1の態様の構成例を図2〜5に示し、第2の態様の構成例を図6に示す。図2〜図6に示す構成例はそれぞれ後述の実施例1〜実施例5の対物レンズに対応する。
【0031】
なお、図2〜図6においては図の左側が物体側、右側が像側であり、軸上光束2と、最大半画角に対応する軸外光束3も合わせて示している。図2〜図6で図示される開口絞りStは形状や大きさを表すものではなく、光軸Z上の位置を示すものである。対物レンズを撮像装置に適用する際には撮像装置の構成に応じてカバーガラスや各種フィルタ、プリズム等を設けることが好ましく、図2〜図6では最も像側のレンズの像側にこれらを想定した平行平板状の光学部材PPを配置し、この光学部材PPの像側の面に結像位置Pが位置するように構成した例を示している。
【0032】
第1の態様は、物体側から順に、物体側に平面を有する平凹レンズもしくは物体側に凸面を有する負メニスカスレンズと、正レンズおよび負レンズの貼り合わせもしくは負レンズおよび正レンズの貼り合わせからなる第1の接合レンズと、絞りと、像側に凸面を有する正レンズと、正レンズおよび負レンズの貼り合わせもしくは負レンズおよび正レンズの貼り合わせからなる全体で正の屈折力を持つ第2の接合レンズとが配列された4群6枚構成である。
【0033】
図2に示す構成例は、光軸Zに沿って物体側から像側へ向かって順に、負メニスカスレンズである第1レンズL21と、平凸レンズである第2レンズL22および平凹レンズである第3レンズL23の貼り合わせからなる第1の接合レンズと、開口絞りStと、平凸レンズである第4レンズL24と、両凸レンズである第5レンズL25および負メニスカスレンズである第6レンズL26の貼り合わせからなる全体で正の屈折力を持つ第2の接合レンズとが配列されてなる。
【0034】
図3に示す構成例は、光軸Zに沿って物体側から像側へ向かって順に、平凹レンズである第1レンズL21と、負メニスカスレンズである第2レンズL22および平凸レンズである第3レンズL23の貼り合わせからなる第1の接合レンズと、開口絞りStと、平凸レンズである第4レンズL24と、両凸レンズである第5レンズL25および負メニスカスレンズである第6レンズL26の貼り合わせからなる全体で正の屈折力を持つ第2の接合レンズとが配列されてなる。
【0035】
図4、図5に示す構成例は、光軸Zに沿って物体側から像側へ向かって順に、負メニスカスレンズである第1レンズL21と、負メニスカスレンズである第2レンズL22および平凸レンズである第3レンズL23の貼り合わせからなる第1の接合レンズと、開口絞りStと、平凸レンズである第4レンズL24と、両凸レンズである第5レンズL25および負メニスカスレンズである第6レンズL26の貼り合わせからなる全体で正の屈折力を持つ第2の接合レンズとが配列されてなる。
【0036】
第1の態様では正負のレンズからなる接合レンズを開口絞りStの物体側および像側の両方に配置することで、倍率色収差の補正に非常に有利な構成となっている。第1の態様における第2の接合レンズについては、正負のレンズで構成されていればよいが、図2〜図5に示す例のように、物体側から正レンズ、負レンズの順に配列した構成とした方が倍率色収差の良好な補正により有効となる。
【0037】
また、最も物体側に配置されるレンズを物体側に平面を有する平凹レンズもしくは物体側に凸面を有する負メニスカスレンズとすることで、広い画角の確保に有利となる。対物レンズが保護部材なしで使用される場合は、最も物体側に配置されるレンズは外部に露出される可能性があるため、ゴミや液体等が滞留しにくい形状にすることが好ましく、物体側の面は平面または凸面とすることが好ましく、さらにコストを重視する場合は平面とすることが好ましい。
【0038】
開口絞りStをレンズ系の中央付近に配置することでレンズ径の小型化を図ることができる。上記第1の態様のレンズ構成を採用することで、小型に構成しながら広い画角と長いバックフォーカスを確保しつつ倍率色収差を含めた諸収差が良好に補正されたレンズ系を実現することが容易になる。
【0039】
本対物レンズが第1の態様の4群6枚構成を採る場合は、さらに下記条件式(2)を満たすことが好ましい。
【0040】
【数3】

ただし、
Nθ1hg:第1の接合レンズ中の負レンズのh線とg線間の部分分散比
Pθ1hg:第1の接合レンズ中の正レンズのh線とg線間の部分分散比
1C:第1の接合レンズの接合面の曲率半径
Nθ2hg:第2の接合レンズ中の負レンズのh線とg線間の部分分散比
Pθ2hg:第2の接合レンズ中の正レンズのh線とg線間の部分分散比
2C:第2の接合レンズの接合面の曲率半径
Bf:全系のバックフォーカス
d:最も像側のレンズの中心厚
n:最も像側のレンズのd線における屈折率
【0041】
ここで、h線とg線間の部分分散比とは、レンズのh線における屈折率をnhとし、g線における屈折率をngとし、F線における屈折率をnFとし、C線における屈折率をnCとしたとき、(nh−ng)/(nF−nC)で表されるものである。前述したアッベ数の定義νd=(nd−1)/(nF−nC)と比較すると、この部分分散比はh線とg線の屈折率の差である部分分散を分子としているのが特徴である。
【0042】
波長による屈折率の変化は材質により異なり、短波長側ではより顕著に表れるため、より短波長側での色収差補正が必要とされる場合、アッベ数だけではなく、短波長側の部分分散比を考慮することが好ましい。このような観点から上記条件式(2)は、h線とg線間の部分分散比と接合面に着目して、短波長領域の倍率色収差の好適な補正度合いを規定するものである。
【0043】
ここで、条件式(2)の第1項、第2項をそれぞれFθ、Rθとおく。Fθ、Rθは下式(2A)、(2B)のように変形することができる。
【0044】
【数4】

【0045】
【数5】

【0046】
条件式(2)のFθの項は、開口絞りStより物体側の第1の接合レンズに関するものであり、条件式(2A)からわかるように、この接合レンズを構成する正レンズと負レンズの部分分散比の比からなる第1の成分と、接合面の曲率半径の絶対値を焦点距離で規格化した第2の成分とに分けて考えることができる。これら第1、第2の成分は、開口絞りStより物体側に配置された接合レンズの短波長領域の倍率色収差の補正に有利な2つの条件を示している。第1の態様のレンズ構成においては、倍率色収差の補正は、第1の成分が小さく、第2の成分が大きい方が有利となる。
【0047】
条件式(2)のRθの項は、開口絞りStより像側の後群収束系の第2の接合レンズに関するものであり、条件式(2B)からわかるように、この接合レンズを構成する負レンズと正レンズの部分分散比の比からなる第3の成分と、接合面の曲率半径の絶対値を焦点距離で規格化した第4の成分と、全系のバックフォーカスと最も像側のレンズの光軸上の空気換算長との和、すなわち接合面から結像面までの距離、を焦点距離で規格化した第5の成分とに分けて考えることができる。
【0048】
なお、開口絞りStより物体側の第1の接合レンズと像側の第2の接合レンズでは、倍率色収差の補正に関して逆の作用を有するため、第1の成分と第3の成分における正負レンズの分子分母は逆となり、また、条件式(2)の左辺ではこのFθとRθの差を求めるようにしている。
【0049】
これら第3〜第5の成分は、開口絞りStより像側に配置された接合レンズの短波長領域の倍率色収差の補正に有利な3つの条件を示している。第1の態様のレンズ構成においては、倍率色収差の補正は、第3の成分が大きく、第4の成分が小さく、第5の成分が小さいほど有利である。
【0050】
一般に、倍率色収差を補正するには、開口絞りStより離れた位置に倍率色収差補正を担う光学部材が配置されていること、特に開口絞りStより像側では、結像面に近い位置に配置されているほどその効果がより顕著である。しかし、フィルタやプリズム等を配置するために長いバックフォーカスが必要とされるレンズ系においては、結像面に近い位置に倍率色収差補正用の光学部材を配置できず、倍率色収差の補正は容易ではなかった。本実施形態の対物レンズによれば、条件式(2)を満たすように構成することで、実用上十分な長さのバックフォーカスを保ったまま、広い波長域で良好に倍率色収差を保つことが可能になる。
【0051】
次に、第2の態様について説明する。第2の態様は、物体側から順に、像側に凹面を有する負レンズと、物体側に凸面を有する正レンズと、絞りと、像側に凸面を有する正レンズと、正レンズおよび負レンズの貼り合わせもしくは負レンズおよび正レンズの貼り合わせからなる全体で正の屈折力を持つ接合レンズとが配列された4群5枚構成である。
【0052】
図5に示す構成例は、光軸Zに沿って物体側から像側へ向かって順に、平凹レンズである第1レンズL11と、物体側に凸面を有する平凸レンズである第2レンズL12と、開口絞りStと、像側に凸面を有する正メニスカスレンズである第3レンズL13と、両凸レンズである第4レンズL14および負メニスカスレンズである第5レンズL15の貼り合わせからなる全体で正の屈折力を持つ接合レンズとが配列されてなる。
【0053】
最も物体側に配置される第1レンズL11は、広角化と長いバックフォーカスの確保のために負レンズとすることが好ましく、また、第1の態様において述べたようにその物体側の面は凸面または平面とすることが好ましいことから、第1レンズL11の像側の面は凹面となる。図5に示すように第1レンズL11を像側に凹面を有する平凹レンズとすることで、広角化、長いバックフォーカス、低コスト化を図ることができる。
【0054】
この第2の態様の対物レンズも、正レンズおよび負レンズの貼り合わせもしくは負レンズおよび正レンズの貼り合わせからなる接合レンズを備えることで色収差の補正に有利となる。また、開口絞りStをレンズ系の中央付近に配置することでレンズ径の小型化を図ることができる。上記第2の態様のレンズ構成を採用することで、小型に構成しながら広い画角と長いバックフォーカスを確保しつつ倍率色収差を含めた諸収差が良好に補正されたレンズ系を実現することが容易になる。
【0055】
本対物レンズが第2の態様の4群5枚構成を採る場合は、さらに下記条件式(3)を満たすことが好ましい。
【数6】

ただし、
Nθhg:接合レンズ中の負レンズのh線とg線間の部分分散比
Pθhg:接合レンズ中の正レンズのh線とg線間の部分分散比
:接合レンズの接合面の曲率半径
Bf:全系のバックフォーカス
d:最も像側のレンズの中心厚
n:最も像側のレンズのd線における屈折率
【0056】
条件式(3)は、前述の条件式(2)と同様に、開口絞りStより像側の接合レンズを構成する正レンズと負レンズのh線とg線間の部分分散比と接合面に着目して、短波長領域の倍率色収差の好適な補正度合いを規定するものである。条件式(3)は以下の式(3A)のように変形することができる。
【数7】

【0057】
条件式(3A)からわかるように、条件式(3)の左辺は、接合レンズを構成する負レンズと正レンズの部分分散比の比からなる第6の成分と、接合面の曲率半径の絶対値を焦点距離で規格化した第7の成分と、全系のバックフォーカスと最も像側のレンズの光軸上の空気換算長との和、すなわち接合面から結像面までの距離、を焦点距離で規格化した第8の成分とに分けて考えることができる。
【0058】
これら第6〜第8の成分は、開口絞りStより像側に配置された接合レンズの短波長領域の倍率色収差の補正に有利な3つの条件を示している。第2の態様のレンズ構成においては、倍率色収差の補正は、第6の成分が大きく、第7の成分が小さく、第8の成分が小さいほど有利である。条件式(3)を満たすように構成することで、実用上十分な長さのバックフォーカスを保ったまま、広い波長域で良好に倍率色収差を保つことが可能になる。
【0059】
上述した本実施形態の対物レンズは、例えば内視鏡用の対物レンズとして適用可能である。内視鏡用の対物レンズなど、画角の大きな対物レンズや被写界深度を深くするためにFナンバーを大きくしている対物レンズでは、球面収差やコマ収差が画質を決める重要な要因となるのではなく倍率色収差が画質劣化の大きな要因となることがある。倍率色収差は、画像周辺部に行くほど顕著に表れるため、画像周辺部の画質を向上させるためには、倍率色収差を良好に補正することが非常に有効である。
【0060】
本実施形態の対物レンズが、該対物レンズの像面に配置される撮像素子とともに撮像装置に適用される際には、下記条件式(4)を満たすことが好ましい。
|δh−δC|<3×P … (4)
ただし、
δh:最大半画角におけるd線に対するh線の倍率色収差量(単位はμm)
δC:最大半画角におけるd線に対するC線の倍率色収差量(単位はμm)
P:撮像素子の画素の配列のピッチ(単位はμm)
【0061】
ここで、撮像素子が矩形の場合には、矩形の対角線の半分の長さを最大像高とし、この最大像高に対応する画角を最大半画角と定めることができる。
【0062】
条件式(4)を満たすように撮像素子の画素ピッチに留意して対物レンズを構成することで、近年高画素化が進んでいる撮像素子にも対応可能となり、像の鮮明度や解像性の向上を図ることができる。また、像の画質向上のために従来行われてきた電気的な補正の負担を軽減することも可能になる。
【0063】
対物レンズが保護部材なしで内視鏡や車載用カメラ等の撮像装置に搭載される場合、最も物体側に配置されるレンズは、体液、洗浄液、直射日光、風雨、油脂等にさらさることになる。したがって、この材質には、耐水性、耐候性、耐酸性、耐薬品性等が高いものを用いることが好ましく、例えば、日本光学硝子工業会が定める粉末耐水性、粉末耐酸性規格の減量率ランク、表面法耐候性ランクが1のものを用いることが好ましい。
【0064】
次に、本発明の対物レンズの数値実施例について説明する。実施例1〜5の対物レンズのレンズ断面図はそれぞれ図2〜図6に示したものである。実施例1〜4が4群6枚構成、実施例5が4群5枚構成である。
【0065】
実施例1〜5の対物レンズのレンズデータをそれぞれ表1〜表5に示す。各実施例のレンズデータの表において、Siの欄は最も物体側の構成要素の面を1番目として像側に向かうに従い順次増加するi番目(i=1、2、3、…)の面番号を示し、Riの欄はi番目の面の曲率半径を示し、Diの欄はi番目の面とi+1番目の面との光軸Z上の面間隔を示し、Ndjの欄は最も物体側の光学要素を1番目として像側に向かうに従い順次増加するj番目(j=1、2、3、…)の光学要素のd線に対する屈折率を示し、νdjの欄はj番目の光学要素のd線に対するアッベ数を示し、θh,gjの欄はj番目の光学要素のh線とg線間の部分分散比を示している。
【0066】
なお、レンズデータには、開口絞りStおよび光学部材PPも含めて示しており、開口絞りStに対応する面の面番号の欄には(開口絞り)という語句も記載している。また、各レンズデータの欄外下には焦点距離とF値をそれぞれf、Fno.として記載している。
【0067】
曲率半径の符号は、物体側に凸の場合を正、像側に凸の場合を負としている。レンズデータにおける曲率半径および面間隔の単位としては、「mm」を用いているが、これは一例であり、光学系は比例拡大または比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、他の適当な単位を用いることもできる。なお、本明細書に記載の表の数値は所定の桁でまるめたものである。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
図7(A)〜図7(D)にそれぞれ実施例1の対物レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差(ディストーション)、倍率色収差(倍率色収差)の各収差図を示す。球面収差、非点収差、歪曲収差の各収差図には、d線についての収差を示す。非点収差図にはサジタル方向の収差を実線で、タンジェンシャル方向の収差を点線で示している。倍率色収差図には、d線を基準としたときのh線、g線、F線、C線についての収差をそれぞれh、g、F、Cという符号を付して破線で示している。球面収差図のFno.はF値を意味し、その他の収差図のωは半画角を意味する。
【0074】
同様に、図8(A)〜図8(D)、図9(A)〜図9(D)、図10(A)〜図10(D)、図11(A)〜図11(D)に、実施例2〜5の対物レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差(ディストーション)、倍率色収差(倍率色収差)の各収差図を示す。各収差図からわかるように、上記実施例1〜実施例5は各収差が良好に補正されている。
【0075】
次に、比較例の対物レンズについて説明する。比較例1〜5の対物レンズは上述した条件式(1)を満たさないものである。比較例1〜5の対物レンズの断面図を図12〜16に示す。図12〜図16の図示方法は基本的に図2〜図6のものと同様であり、軸上光束2、最大半画角に対応する軸外光束3、光学部材PPも合わせて示している。
【0076】
比較例1〜3が4群6枚構成、比較例4、5が4群5枚構成である。比較例1の対物レンズは、物体側から順に、負メニスカス形状の第1レンズL21’と、正の第2レンズL22’および負の第3レンズL23’の貼り合わせからなる第1の接合レンズと、開口絞りStと、正の第4レンズL24’と、正の第5レンズL25’および負の第6レンズL26’の貼り合わせからなる第2の接合レンズとが配列されてなる。
【0077】
比較例2の対物レンズは、物体側から順に、平凹レンズである第1レンズL21’と、負の第2レンズL22’および正の第3レンズL23’の貼り合わせからなる第1の接合レンズと、開口絞りStと、正の第4レンズL24’と、正の第5レンズL25’および負の第6レンズL26’の貼り合わせからなる第2の接合レンズとが配列されてなる。比較例3の対物レンズは、物体側から順に、平凹レンズである第1レンズL21’と、負の第2レンズL22’および正の第3レンズL23’の貼り合わせからなる第1の接合レンズと、開口絞りStと、正の第4レンズL24’と、負の第5レンズL25’および正の第6レンズL26’の貼り合わせからなる第2の接合レンズとが配列されてなる。
【0078】
比較例4の対物レンズは、物体側から順に、負メニスカス形状の第1レンズL11’と、正の第2レンズL12’と、開口絞りStと、正の第3レンズL13’と、正の第4レンズL14’および負の第5レンズL15’の貼り合わせからなる接合レンズとが配列されてなる。比較例5の対物レンズは、物体側から順に、負メニスカス形状の第1レンズL11’と、正の第2レンズL12’と、開口絞りStと、正の第3レンズL13’と、負の第4レンズL14’および正の第5レンズL15’の貼り合わせからなる接合レンズとが配列されてなる。
【0079】
上記比較例1〜5の対物レンズのレンズデータをそれぞれ表6〜表10に示す。表6〜表10の記号の意味は、前述の実施例1〜5のレンズデータのものと同様である。
【0080】
【表6】

【0081】
【表7】

【0082】
【表8】

【0083】
【表9】

【0084】
【表10】

【0085】
図17(A)〜図17(D)、図18(A)〜図18(D)、図19(A)〜図19(D)、図20(A)〜図20(D)、図21(A)〜図21(D)にそれぞれ上記比較例1〜5の対物レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差(ディストーション)、倍率色収差(倍率色収差)の各収差図を示す。比較例1〜5の収差図の図示方法は、前述の実施例1〜5の収差図のものと同様である。
【0086】
表11に、上記実施例1〜5および上記比較例1〜5のd線基準での各波長についての倍率色収差量(単位はμm)と、焦点距離(単位はmm)を示す。また、表12に、上記実施例1〜5および上記比較例1〜5のd線基準での各波長についての倍率色収差量(単位はμm)を各対物レンズの焦点距離(単位はmm)で規格化した値と、(δh−δC)/fの値を示す。(δh−δC)/fの値の絶対値をとったものが条件式(1)の左辺に対応する。表11、表12ともに各波長の上には対応する輝線スペクトル名を記載している。
【0087】
【表11】

【0088】
【表12】

【0089】
図22に、表12の実施例1〜5および上記比較例1〜5の数値をグラフ化したものを示す。図22の横軸は波長であり、縦軸はd線基準での各波長についての倍率色収差量(単位はμm)を各対物レンズの焦点距離(単位はmm)で規格化した値である。図22から、約400nm〜650nmの広い波長域において、実施例1〜5は倍率色収差が小さく抑えられているのに対し、比較例1〜5は大きくなっていることがわかる。比較例1〜3は補正過剰、比較例4はやや補正不足、比較例5は補正不足の様相を示している。
【0090】
表13、表14にそれぞれ、上記実施例1〜5、上記比較例1〜5の各種データを示す。表13、表14のデータは、d線を基準としたものであり、長さの単位は全てmmであり、角度の単位は度である。
【0091】
【表13】

【0092】
【表14】

【0093】
表13、表14に記載の語句について説明する。「構成枚数」の欄には全系を構成するレンズ群とレンズ枚数を示している。「前群接合」の欄には開口絞りStより物体側の接合レンズを構成する2枚のレンズのパワーの符号と配列順を示し、「後群接合」の欄には開口絞りStより像側の接合レンズを構成する2枚のレンズのパワーの符号と配列順を示し、例えば「凸凹接合」は物体側から順に正レンズと負レンズが配列されて接合された接合レンズを意味し、「凹凸接合」は物体側から順に負レンズと正レンズが配列されて接合された接合レンズを意味する。
【0094】
「バックフォーカス」の欄には、最も像側のレンズの像側の面から像面までの光軸上の空気換算長を記載している。「物体距離」の欄には最も物体側のレンズ面から物体までの光軸方向の距離、「物体面曲率半径」の欄には物体面の曲率半径、「最大像高」の欄には最大の像高、「最大半画角」の欄には最大の半画角を示しており、いずれも設計仕様に基づく値を示している。
【0095】
「条件式(1)対応値」、Fθ、Rθ、「条件式(2)対応値」、「条件式(3)対応値」の欄にはそれぞれ、条件式(1)の左辺、Fθ、Rθ、条件式(2)の左辺、条件式(3)の左辺に対応する値を示している。
【0096】
上述した本発明の実施形態にかかる対物レンズは、内視鏡用対物レンズとして好適に使用可能である。次に、本発明の実施形態にかかる対物レンズが搭載される撮像装置の一例である内視鏡について、図23、図24を参照しながら説明する。図23は、内視鏡の概略的な構成図であり、図24は内視鏡の先端硬質部の要部断面図である。
【0097】
図23に示す内視鏡100は、主として、操作部102と、挿入部104と、ユニバーサルコード106を引き出すコネクタ部(不図示)を備える。操作部102の先端側には、患者の体内に挿入される挿入部104が連結され、操作部102の基端側からは、光源装置等と接続するためのコネクタ部に接続するためのユニバーサルコード106が引き出されている。
【0098】
挿入部104の大半は挿入経路に沿って任意の方向に曲がる軟性部107であり、この軟性部107の先端には、湾曲部108が連結される。湾曲部108は、先端硬質部110を所望の方向に向けるために設けられるものであり、操作部102に設けられた湾曲走査ノブ109を回動させることにより湾曲操作が可能となっている。湾曲部108の先端には、先端硬質部110が連結されている。
【0099】
図24に示すように、先端硬質部110の内部には本実施形態にかかる対物レンズ1が配設される。なお、図24の断面図は、対物レンズ1の光軸Zを含む断面におけるものであり、図24に示す対物レンズ1は、レンズ形状を示すものではなく、概念的に図示されたものである。対物レンズ1の像側には光路を90度折り曲げるための光路変換プリズム5が配置され、光路変換プリズム5の像側の面には撮像素子10が接合されている。撮像素子10の撮像面は対物レンズ1の像面に一致するように配置されており、対物レンズ1と撮像素子10は上述した条件式(4)を満たすように構成されている。図24に示す構成では、光路変換プリズム5を用いて光路を折り曲げて撮像素子10を配置することにより、先端硬質部110の下半分に直視型の観察光学系を構成し、先端硬質部110の上半分に処置具挿通チャンネル11を構成し、細径の挿入部内に多数の要素を配設するようにしている。
【0100】
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、各レンズ成分の曲率半径、面間隔、屈折率、アッベ数等の値は、上記各数値実施例で示した値に限定されず、他の値をとり得るものである。
【0101】
例えば、上述した条件式(2)、(3)ではh線とg線間の部分分散比を用いているが、対物レンズの用途に応じて、h線とg線の部分分散比の代わりに任意の2つの波長間の部分分散比を用いて所定の限界値を満足するように構成してもよい。短波長領域で補正が必要とされる場合には、d線より短い波長域における任意の2つの輝線の間の部分分散比を用いてもよく、逆に長波長領域で補正が必要とされる場合には、d線より長い波長域における任意の2つの輝線の間の部分分散比を用いてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 対物レンズ
2 軸上光束
3 軸外光束
5 光路変換プリズム
10 撮像素子
100 内視鏡
102 操作部
104 挿入部
106 ユニバーサルコード
107 軟性部
108 湾曲部
109 湾曲走査ノブ
110 先端硬質部
L11、L21 第1レンズ
L12、L22 第2レンズ
L13、L23 第3レンズ
L14、L24 第4レンズ
L15、L25 第5レンズ
L26 第6レンズ
P 結像位置
PP 光学部材
St 開口絞り
Z 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件式(1)を満たすことを特徴とする内視鏡用対物レンズ。
|δh−δC|/f<2 (1)
ただし、
δh:最大半画角におけるd線に対するh線の倍率色収差量(単位はμm)
δC:最大半画角におけるd線に対するC線の倍率色収差量(単位はμm)
f:全系の焦点距離(単位はmm)
【請求項2】
前記内視鏡用対物レンズが、物体側から順に、物体側に平面を有する平凹レンズもしくは物体側に凸面を有する負メニスカスレンズと、正レンズおよび負レンズの貼り合わせもしくは負レンズおよび正レンズの貼り合わせからなる第1の接合レンズと、絞りと、像側に凸面を有する正レンズと、正レンズおよび負レンズの貼り合わせもしくは負レンズおよび正レンズの貼り合わせからなる全体で正の屈折力を持つ第2の接合レンズとが配列された4群6枚構成であることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用対物レンズ。
【請求項3】
下記条件式(2)を満たすことを特徴とする請求項2記載の内視鏡用対物レンズ。
【数1】

ただし、
Nθ1hg:前記第1の接合レンズ中の前記負レンズのh線とg線間の部分分散比
Pθ1hg:前記第1の接合レンズ中の前記正レンズのh線とg線間の部分分散比
1C:前記第1の接合レンズの接合面の曲率半径
Nθ2hg:前記第2の接合レンズ中の前記負レンズのh線とg線間の部分分散比
Pθ2hg:前記第2の接合レンズ中の前記正レンズのh線とg線間の部分分散比
2C:前記第2の接合レンズの接合面の曲率半径
Bf:全系のバックフォーカス
d:最も像側のレンズの中心厚
n:最も像側のレンズのd線における屈折率
【請求項4】
前記内視鏡用対物レンズが、物体側から順に、像側に凹面を有する負レンズと、物体側に凸面を有する正レンズと、絞りと、像側に凸面を有する正レンズと、正レンズおよび負レンズの貼り合わせもしくは負レンズおよび正レンズの貼り合わせからなる全体で正の屈折力を持つ接合レンズとが配列された4群5枚構成であることを特徴とする請求項1記載の内視鏡用対物レンズ。
【請求項5】
下記条件式(3)を満たすことを特徴とする請求項4記載の内視鏡用対物レンズ。
【数2】

ただし、
Nθhg:前記接合レンズ中の前記負レンズのh線とg線間の部分分散比
Pθhg:前記接合レンズ中の前記正レンズのh線とg線間の部分分散比
:前記接合レンズの接合面の曲率半径
Bf:全系のバックフォーカス
d:最も像側のレンズの中心厚
n:最も像側のレンズのd線における屈折率
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の内視鏡用対物レンズを備えたことを特徴とする撮像装置。
【請求項7】
前記内視鏡用対物レンズの像面に配置される撮像素子をさらに備え、
下記条件式(4)を満たすことを特徴とする請求項6記載の撮像装置。
|δh−δC|<3×P … (4)
ただし、
P:前記撮像素子の画素の配列のピッチ(単位はμm)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2011−227380(P2011−227380A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98816(P2010−98816)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】