説明

内視鏡装置

【課題】互いに異なるスペクトルの光を出射する複数の光源からそれぞれ照明光を出射させる際、各照明光の光量比を変更しても、観察画像の色調が変わらないように補正する。以て、常に最適な光量比の照明光で観察し、正確な内視鏡診断を行えるようにする。
【解決手段】内視鏡装置100は、互いに異なるスペクトルを有する複数の照明光を内視鏡挿入部の先端から被検体に照射し、被検体を撮像することにより観察画像を得る。この内視鏡装置は、複数の照明光を生成する照明手段19と、被検体を撮像して観察画像の画像信号を出力する撮像手段51と、観察画像毎に複数の照明光の光量比を設定し、該設定された光量比で複数の照明光が被検体に照射されるように照明手段を制御する光量比制御手段59,77と、光量比が変化しても実質的に同じ色調の観察画像が得られるように画像信号の色調補正を行う色調補正手段83と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野で用いられる内視鏡装置は、白色光を生体内の被検体に照射し、肉眼による観察と略同様の被検体像を観察する通常観察の他に、通常観察における照明光よりも狭い波長帯域の狭帯域光を照射して観察する狭帯域光観察が行えるものがある。狭帯域光観察においては、生体における粘膜表層の毛細血管や微細模様等をコントラスト良く観察でき、病変の早期発見等に役立っている。
狭帯域光観察が可能な内視鏡装置は、近景撮像時に粘膜表層の毛細結果等が観察しやすいよう狭帯域光の光量を増加させ、遠景撮像時に白色光の光量を増加させて照明光量不足を解消する等、観察場面に応じて白色光と狭帯域光の出射光量を変更することが好ましい。これにより、内視鏡診断に最適な観察画像が得られる。上記の狭帯域光観察が行える内視鏡装置としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−10998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、白色光と狭帯域光の出射光量比を適宜変更して被検体を照明すると、照明光の色味が変わるために観察画像の色調が変化してしまう。観察画像の色調が変化すると、術者に違和感を抱かせるばかりか、正確な内視鏡診断に影響を及ぼす懸念がある。また、観察画像に所定の画像処理を施す場合、意図した画像が得られないことがある。
そこで本発明は、互いに異なるスペクトルの光を出射する複数の光源からそれぞれ照明光を出射させる際、各照明光の光量比を変更しても、観察画像の色調が変わらないように補正できる内視鏡装置を提供し、以て、常に最適な光量比の照明光で観察して、正確な内視鏡診断を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記構成からなる。
互いに異なるスペクトルを有する複数の照明光を内視鏡挿入部の先端から被検体に照射し、前記被検体を撮像することにより観察画像を得る内視鏡装置であって、
前記複数の照明光を生成する照明手段と、
前記被検体を撮像して前記観察画像の画像信号を出力する撮像手段と、
前記観察画像毎に前記複数の照明光の光量比を設定し、該設定された光量比で前記複数の照明光が前記被検体に照射されるように前記照明手段を制御する光量比制御手段と、
前記光量比が変化しても実質的に同じ色調の前記観察画像が得られるように前記画像信号の色調補正を行う色調補正手段と、
を備える内視鏡装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明の内視鏡装置は、互いに異なるスペクトルの光を出射する複数の光源からそれぞれ照明光を出射させる際、各照明光の光量比を変更しても、観察画像の色調が変わらないように補正できる。これにより、常に最適な光量比の照明光で観察が行え、観察対象の診断が容易となり、より正確な内視鏡診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施形態を説明するための図で、内視鏡装置のブロック構成図である。
【図2】内視鏡装置の具体的な構成例を示す外観図である。
【図3】出射光の分光特性を示すグラフである。
【図4】内視鏡装置による体腔内の観察手順のフローチャートである。
【図5】反射光強度と推定距離Lとの関係を表す距離テーブル情報を表すグラフである。
【図6】撮像距離と最適光量比との関係を表す距離・光量比テーブル情報を表すグラフである。
【図7】(A)は光量比をLD1:LD2で1:4とした場合、(B)は光量比をLD1:LD2で4:1とした場合の照明光の分光強度を示すグラフである。
【図8】(A)は観察画像、(B)は観察画像内の特徴画像領域を抽出した様子を示す説明図である。
【図9】(A)、(B)は最適光量比を求める具体的手順の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態を説明するための図で、内視鏡装置のブロック構成図、図2は内視鏡装置の具体的な構成例を示す外観図である。
内視鏡装置100は、図1に示すように、内視鏡11と、制御装置13と、モニタ15と、制御装置13に情報を入力するキーボードやマウス等の入力部17とを備える。制御装置13は、照明光を出力する光源装置19と、観察画像の信号処理を行うプロセッサ21から構成される。
【0009】
内視鏡11は、図2に示すように、本体操作部23と、この本体操作部23に連設され被検体(体腔)内に挿入される挿入部25と、本体操作部23に接続されたユニバーサルコード27とを有する。ユニバーサルコード27の先端には、光源装置19に接続するライトガイド(LG)コネクタ29Aと、プロセッサ21に接続するビデオコネクタ29Bが設けられている。
【0010】
内視鏡11の本体操作部23には、挿入部25の先端側で吸引、送気、送水を実施するためのボタン、撮像時のシャッターボタン、観察モードを切り替えるモード切り替えボタン、詳細は後述するが内視鏡診断時に病変部を確認するための確認ボタン30を含む各種操作ボタン31が併設される。また、本体操作部23には一対のアングルノブ33が設けられている。
【0011】
挿入部25は、本体操作部23側から順に軟性部35、湾曲部37、及び先端部(内視鏡先端部)39で構成される。湾曲部37は、本体操作部23のアングルノブ33を回動することによって遠隔的に湾曲操作される。これにより先端部39を所望の方向に向けることができる。
【0012】
内視鏡先端部39には、図1に示すように、撮像光学系の観察窓41と、照明光学系の照明窓43A,43Bとが配置されている。各照明窓43A,43Bは、被検体に向けてそれぞれ照明光を出射する。被検体からの反射光は、観察窓41を通じて撮像素子45で検出(撮像)される。撮像素子45から出力される画像信号は、A/D変換部47でデジタル化された後、信号ケーブル49を通じてプロセッサ21に入力されて適宜な画像処理が施され、プロセッサ21に接続されたモニタ15に表示される。
【0013】
撮像光学系は、CCD(Charge Coupled Device)型イメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型イメージセンサ等の撮像素子45と、撮像素子45に観察像を結像させるレンズ等の光学部材51とを有する。撮像素子45は、RGBの原色系カラーフィルタを備えるもの他、CMY,CMYG等の補色系カラーフィルタを備えるものであってもよい。また、撮像素子45は、撮像制御部53によりシャッタ速度や絞り等の撮像条件が設定される。
【0014】
照明光学系は、光源装置19と、光源装置19にライトガイドコネクタ29Aを介して接続される一対の光ファイバ55A,55Bと、光ファイバ55A,55Bの光出射端それぞれに配置された波長変換部材57A,57Bとを有する。光源装置19は、半導体発光素子であるレーザ光源LD1,LD2と、各レーザ光源LD1,LD2を駆動制御する光源制御部59と、レーザ光源LD1,LD2からの出射光を合波するコンバイナ61と、コンバイナ61からの出力光を光ファイバ55A,55Bに分波させるカプラ63とを有する。
【0015】
レーザ光源LD1は、中心波長445nmの青色発光の半導体レーザであり、青色レーザ光と、波長変換部材57A,57Bを励起させた蛍光とを合成して白色照明光を生成する。レーザ光源LD2は、中心波長405nmの紫色発光の半導体レーザである。これらのレーザ光源としては、例えばブロードエリア型のInGaN系レーザダイオードが使用できる。レーザ光源LD2は、出射光の中心波長が370乃至470nmの範囲であれば、粘膜表層の毛細血管や微細模様等が強調される良好な狭帯域光観察を行うことができる。
【0016】
光源制御部59は、プロセッサ21の制御部71の指令に基づいて、レーザ光源LD1,LD2をそれぞれ個別に光量制御する。これら出射光は光ファイバ55A,55Bを通じて内視鏡先端部39まで導光され、波長変換部材57A,57Bへ照射される。このように、照明窓43A,43Bからは、光源制御部59によるレーザ光源LD1,LD2の出射光制御により、任意の光量及び任意のタイミングで同時に光出射が可能となっている。
【0017】
波長変換部材57A,57Bは、レーザ光源LD1が出射する青色レーザ光の一部を吸収して緑色〜黄色に励起発光する複数種の蛍光体(例えばYAG系蛍光体、或いはBAM(BaMgAl10O37)等を含む蛍光体等)を含んで構成される。これら波長変換部材57A,57Bにより、図3に出射光の分光特性を示すように、レーザ光源LD1からの青色レーザ光と、この青色レーザ光が波長変換された緑色〜黄色の励起光とが合成されて、プロファイルS1で示される演色性の高い白色光が生成される。
【0018】
レーザ光源LD2からの出射光に対しては、蛍光体の吸収が低く、波長変換部材57A,57Bによる波長変換効率は小さい。そのため、レーザ光源LD2により発生する蛍光強度は、レーザ光源LD1の場合と比較すると僅かである。図3にプロファイルS2で示すように、レーザ光源LD2からの出射光は、殆どが白色光よりも実質的に波長が短く且つ白色光よりも波長帯域が狭い中心波長405nmの狭帯域光となる。
【0019】
上記構成により、レーザ光源LD1,LD2から出力されるレーザ光は、光ファイバ55A,55Bにより内視鏡先端部39へ導光され、内視鏡先端部39の照明窓43A,43Bの双方から、白色光と、紫色の狭帯域光とが、制御部71からの指令に基づいて任意の光量比で出射される。このように、双方のレーザ光源LD1,LD2からのレーザ光が、各照明窓43A.43Bから同じ蛍光体を通じて被検体に照射されるため、各レーザ光が同一箇所から殆ど同じ拡がりを呈して被検体に照射される。そのため、各出射光による照明範囲の差や強度分布の差がなくなり、良好な観察画像を得ることができる。
【0020】
具体的には、制御部71は、光源制御部59に制御信号を出力し、光源制御部59は、入力された制御信号により各レーザ光源LD1,LD2を点灯する駆動信号を出力する。各レーザ光源LD1,LD2は、それぞれ入力された駆動信号に基づいた光量で光出射する。これにより、照明窓43A,43Bからの出射光の強度や光量比(色味)が調整される。このため、制御部71は照明光の白色光と狭帯域光との光量比を変更する光量比制御手段として機能する。
【0021】
プロセッサ21は、制御部71と、撮像した画像信号を記憶するフレームメモリ73と、画像信号の輝度情報に基づいて被検体までの撮像距離を推定する撮像距離推定部75と、観察に適した光量比を設定する最適光量比設定部77と、最適光量比を設定するための各種情報が記憶される設定情報記憶部79とを備える。また、プロセッサ21は、画像信号の色調を補正する色調補正部83と、画像処理部85とを備える。
【0022】
上記の制御装置13の構成によれば、制御部71は、病変部等を含む観察画像の画像信号に対して、この観察画像に最適となる各レーザ光源LD1,LD2からの出射光の光量比を設定する。これにより、観察画像を常に内視鏡診断に適した画像にできる。
【0023】
以下、上記光量比の設定を具体的な観察手順と共に説明する。
図4に内視鏡装置100による体腔内の観察手順のフローチャートを示した。一例として示すこの観察手順では、まず内視鏡装置100の術者は、各レーザ光源LD1,LD2からの出射光の光量比を内視鏡検査時用の標準光量比に設定する(S1)。光量比の設定は、制御装置13に接続された入力部17からの入力や、予め設定情報記憶部79に記憶された標準光量比を参照して設定する等、手動設定、自動設定のいずれでも構わない。
【0024】
標準光量比は、レーザ光源LD2を消灯して、レーザ光源LD1(445nm)のみ点灯する比率、即ち、LD1(λ445):LD2(λ405)=100:0とされている。つまり、白色光による通常観察用の照明光となる。
【0025】
術者は、先端から白色光が出射されている内視鏡挿入部25を被検体内に挿入し、内視鏡検査を開始する(S2)。制御部71は、被検体内の観察画像をモニタ15に出力し、モニタ15に観察画像を映出させる。術者は、この映出された観察画像から病変部の有無を確認する。病変部を発見すると(S3)、術者は本体操作部23の確認ボタン30(図1,図2参照)を押下する。
【0026】
制御部71は、確認ボタン30の押下信号を受けて、観察画像の撮像条件であるAE値の情報と、光源制御部59が設定する照明光量の情報に基づいて被検体までの撮像距離を推定する(S4)。撮像距離の推定には、図5に示すように、AE値、照明光量に基づいて規定される反射光強度と推定距離Lとの関係を表す距離テーブル情報を予め用意しておき、この距離テーブル情報を参照して行う。距離テーブル情報は、撮像時のAE値(シャッタ速度、絞り、明るさ等)、照明光量の撮像条件毎に用意され、それぞれ設定情報記憶部79に記憶されている。制御部71は、観察画像の撮像条件に対応する距離テーブル情報を選択的に参照して撮像距離Lを推定する。
【0027】
次に、制御部71は、推定した撮像距離Lに最適な光量比[LD1(λ445):LD2(λ405)]を求める。最適光量比の設定は、図6に示すように、撮像距離と最適光量比との関係を表す距離・光量比テーブル情報を予め用意しておき、この距離・光量比テーブル情報を参照して行う。距離・光量比テーブル情報は、設定情報記憶部79に記憶されており、制御部71が随時参照できるようになっている。制御部71は、距離・光量比テーブル情報を参照して、撮像距離が近いほど、粘膜表層の毛細血管等を強調するようにLD2の出射光強度をLD1より相対的に大きく設定する。また、撮像距離が遠いほど、遠景の輝度を確保するため高照度の照明光となるようにLD1の出射光強度をLD2より相対的に大きく設定する。或いは、撮像距離に応じて、LD2の出射光強度がLD1より相対的に大きい近景用光量比と、LD1の出射光量がLD2より相対的に大きい遠景用光量比とを切り替える2段階の光量比制御としてもよい。
【0028】
上記のように、制御部71が、観察画像から撮像距離を推定し、この推定した撮像距離に応じた最適光量比で各レーザ光源LD1,LD2を点灯させることで、術者が被検体をより観察しやすいように光量比が自動的に変更される。
【0029】
しかし、レーザ光源LD1からの出射光は最終的に白色光として被検体に照射され、レーザ光源LD2からの出射光は紫色光として被検体に照射される。そのため、レーザ光源LD1とLD2の出射光の光量比が変更されると、照明光の色味が変化する。図7(A)は、光量比[LD1(λ445):LD2(λ405)]を1:4とした場合、図7(B)は光量比[LD1(λ445):LD2(λ405)]を4:1とした場合の照明光の分光プロファイルである。LD2の光量がLD1の光量に対して増加すると、青味を帯びた照明光となり、その結果、光量比に応じて観察画像の色調が変化することになる。
【0030】
そこで、設定した光量比によって変化する照明光の色味に応じて観察画像の色調補正を行い(S6)、観察画像が照明光の色味変化の影響を受けないようにする。制御部71は、最適光量比設定部77により設定された光量比の情報を観察画像の画像信号と共に色調補正部83に出力する。設定情報記憶部79には、光量比毎に色調補正テーブルが予め用意されており、色調補正部83は、設定された光量比に対応する色調補正テーブルを選択的に参照して、画像の色調変化(青味増加)がなくなるように補正する。
【0031】
色調補正テーブルは、例えば観察画像の各画素に対して、R,G,B値をマトリクス補正する補正マトリクスとして表すことができる。補正マトリクスをAとすると、補正後の各画素の輝度値R’,G’,B’は(1)式で表される。
【0032】
【数1】

【0033】
補正マトリクスAの係数aijは、光量比の変化による照明光の色味変化をキャンセルするように設定され、複数種の光量比に対応する複数種の補正マトリクスAが予め用意されている。これら補正マトリクスの情報は、設定情報記憶部79に記憶されている。制御部71は、選択した補正マトリクスAを用いて、観察画像の各画素のRGB輝度値を補正し、得られる補正画像をモニタ15に出力する。
【0034】
制御部71は、上記処理を病変部観察が終了するまで続け(S7)、次の病変部を発見したときにも上記S4〜S6の処理を繰り返す。以上の手順による各処理を観察終了(S8)まで行う。
【0035】
このように、最適な光量比に設定して照明光の光量比を変更しても、設定された光量比に応じて観察画像の色調補正が行われる。従って、いかなる光量比に設定されても、観察画像は常に一定の色味の照明光であるような画像情報が得られる。よって、常に正確な内視鏡診断を行うことができる。そして、撮像画像に対して施す各種の画像処理、例えば、特定波長セット(3原色)の画像強度から新たな観察画像を生成する分光内視鏡画像処理や、各種特徴部分の強調処理、疑似カラー表示化の処理等は、レーザ光源LD1,LD2の光量比を変更したことによる照明光の色味変化の影響を受けることがない。
【0036】
次に、上記の内視鏡装置による内視鏡診断の他の例を説明する。
本構成の内視鏡装置においては、図1に示すように、画像信号から特定の特徴画像領域を抽出する特徴画像領域抽出部81を更に備える。
図8(A)は観察画像の一例で、その画像内に粘膜表層の毛細血管が、微小な点模様として映出された様子を示している。毛細血管の情報である点模様91は、周囲画素の色と比較して茶色味を帯びている。そのため、図8(B)に示すように、この毛細血管領域である特徴画像領域93は、周囲画素との色変化の情報に基づいて特徴画像領域抽出部81によって画像処理することで選択的に抽出できる。
【0037】
制御部71は、この抽出された特徴画像領域93が高いS/Nの画像となるように、照明光の光量比を最適に設定する。
【0038】
特徴画像領域93に対する最適光量比を設定するには、設定情報記憶部79に予め記憶された血管強調用光量比を最適光量比設定部77が参照して設定する。血管強調用光量比とは、粘膜表層の毛細血管等を強調できるLD2からの出射光強度をLD1より相対的に大きく設定した光量比である。
【0039】
制御部71は、設定した最適な光量比となるように光源制御部59を制御して、各レーザ光源LD1,LD2から所望の照明光を出射させる。そして、撮像素子45から出力される観察画像に対して、色調補正部83は、前述同様に補正マトリクスを選定して、この選定された補正マトリクスを用いてRGB信号値を補正する。
【0040】
このように、特徴画像領域93に限定された領域に対して最適な光量比で照明光を照射することにより、観察対象がより診断し易い観察画像が得られる。しかも、光量比の変化により観察画像に生じる色調変化が補正されるため、常に同じ色調の照明光で照明した場合と同じ観察画像が得られる。これにより、内視鏡診断精度を高めることができる。
【0041】
上記例では観察画像の色変化をR信号値、G信号値、B信号値の情報に基づいて特徴画像領域96を抽出したが、色信号の情報によらず、粘膜組織表層の毛細血管や微細模様が強調して映出されるB信号値と、G信号値との比を求めることで、毛細血管や微細模様が含まれる特徴画像領域を簡単に抽出することができる。また、色変化やB,G信号比の変化の情報に限らず、例えば、毛細血管が微細な模様として画像内に現れることを利用して、観察画像から高周波成分のみを抽出して、特徴画像領域96を決定してもよい。高周波成分の領域は、例えば観察画像を2次元フーリエ変換したスペクトル画像に対して、所定周波数成分のみマスク処理で抽出し、この抽出結果を逆フーリエ変換することで得られる。
【0042】
次に、レーザ光源LD1,LD2の最適光量比を、予め記憶された距離・光量比テーブル情報や血管強調用光量比等の設定値を用いずに、観察画像の情報から求める変形例を説明する。
レーザ光源LD1,LD2の出射光光量比が変更されると、観察画像の輝度コントラストが変化する。そこで、この輝度コントラストが最大となる光量比を実測しながら探すことで、最終的に最大輝度コントラストとなる光量比を決定する。
【0043】
最適光量比を求める具体的手順の説明図を図9(A),(B)に示す。まず、任意の光量比α、任意の光量比αから所定量を減じた光量比α−δ、所定量を増加させた光量比α+δの合計3つの光量比を決め、照明光をこれら光量比に順次設定する。このとき、各光量比に設定された照明光による観察画像をそれぞれ撮影し、撮影した3枚の観察画像の輝度コントラストを求める。
【0044】
図9(A)に示すように、輝度コントラストの変化が、光量比αから減じる方向で輝度コントラストが増加する場合、光量比を所定量減少させる制御を行う。逆に、光量比αから増える方向で輝度コントラストが増加する場合、光量比を所定量増加させる制御を行う。そして、減少又は増加させた光量比を中心に、再度上記の処理を繰り返し実施する。
【0045】
すると、図9(B)に示すように、最終的に輝度コントラストが最大となる光量比αが求まるので、この光量比αを最適光量比に設定する。制御部71は、設定された最適光量比で照明した観察画像を取得し、設定された最適光量比の情報を観察画像の画像信号と共に色調補正部83に出力する。色調補正部83は前述同様に、設定された光量比に対応する色調補正テーブルを選択的に参照して、観察画像の色調変化がなくなるように補正する。
【0046】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
例えば、光源として発光波長の異なるレーザ光源を用いて説明したが、キセノンランプやハロゲンランプ等の白色光源と、特定の波長光を出射するレーザ光源又は発光ダイオード等の半導体光源とを組み合わせた光源としてもよい。
【0047】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 互いに異なるスペクトルを有する複数の照明光を内視鏡挿入部の先端から被検体に照射し、前記被検体を撮像することにより観察画像を得る内視鏡装置であって、
前記複数の照明光を生成する照明手段と、
前記被検体を撮像して前記観察画像の画像信号を出力する撮像手段と、
前記観察画像毎に前記複数の照明光の光量比を設定し、該設定された光量比で前記複数の照明光が前記被検体に照射されるように前記照明手段を制御する光量比制御手段と、
前記光量比が変化しても実質的に同じ色調の前記観察画像が得られるように前記画像信号の色調補正を行う色調補正手段と、
を備える内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、互いに異なるスペクトルの光を出射する複数の光源からそれぞれ照明光を出射させる際、各照明光の光量比を変更しても、観察画像の色調が変わらないように補正できる。これにより、被検体を常に最適な光量比の照明光で観察でき、正確な内視鏡診断を行うことができる。
【0048】
(2) (1)の内視鏡装置であって、
前記光量比制御手段は、前記内視鏡挿入部の先端から前記被検体までの撮像距離を推定する撮像距離推定部を備え、該撮像距離推定部が求めた前記撮像距離に基づき前記光量比を設定する内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、撮像距離が短い近景撮影時と、撮像距離が長い遠景撮影時で光量比を適正に変更できる。このため、例えば狭帯域光観察を行う要求のある近景観察、遠方が暗くなりがちな遠景観察を、最適な光量比の照明光により行うことができ、しかも、観察画像の色調が距離に応じて変化することがない。
【0049】
(3) (2)の内視鏡装置であって、
前記撮像距離推定部は、前記撮像手段において設定されるAE値と、前記被検体に照射される前記複数の照射光の全光量とに基づき前記撮像距離を求める内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、AE値の情報と照明光量の情報から撮像距離が、簡単かつ精度良く求めることができる。
【0050】
(4) (1)〜(3)のいずれか一つの内視鏡装置であって、
前記色調補正手段は、前記光量比制御手段によって設定される前記光量比に対応した前記画像信号の色調補正のための補正情報が予め記憶された補正情報記憶部を備え、前記補正情報記憶部の補正情報を参照して前記光量比に対応した色調補正を行う内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、色調補正手段が補正情報記憶部の補正情報を参照して画像信号を色調補正することで、設定した光量比による観察画像の色調変化を簡単になくすことができる。
【0051】
(5) (4)の内視鏡装置であって、
前記補正情報は、前記観察画像の各画素に対して、R、G,B値をマトリクス補正する色調補正テーブルである内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、観察画像の各色信号値を設計自由度の高いマトリクス補正により補正するので、種々の色調調整が容易に適用できる。
【0052】
(6) (1)〜(5)のいずれか一つの内視鏡装置であって、
前記観察画像の画像信号から当該観察画像に含まれる特徴画像領域を抽出する特徴画像領域抽出手段を備え、
前記光量比制御手段は、前記特徴画像領域が観察に適するように前記光量比を設定する内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、特徴画像領域を最適な光量比の照明光で観察でき、また、光量比の変化による観察画像の色調変化がないため、特徴画像領域を高精度で診断できる。
【0053】
(7) (6)の内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域は、前記観察画像における他の領域とは色調の異なる領域である内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、周囲画素とは異なる色の画像領域を特徴画像領域に設定できる。
【0054】
(8) (7)の内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域は、前記被検体の粘膜表層の毛細血管領域である内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、粘膜表層の毛細血管が局所的に多く現れて茶色味を生じた画像領域を特徴画像領域に設定できる。
【0055】
(9) (8)の内視鏡装置であって、
前記光量比制御手段は、予め準備された血管強調用光量比を参照して前記光量比を設定する内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、粘膜表層の毛細血管を標準的な強調度合いで観察できる。
【0056】
(10) (6)の内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域は、前記粘膜表層の微細模様の高周波成分を含む領域である内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、例えば、粘膜組織表層の毛細血管や微細模様が局所的に多く現れた領域等、高周波成分を含む画像領域を特徴画像領域に設定できる。
【0057】
(11) (6)〜(10)のいずれか一つの内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域抽出手段は、前記画像信号のR信号値、G信号値及びB信号値に基づいて前記特徴画像領域を抽出する内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、特徴画像領域を、撮像画像信号の各色信号値に基づいて抽出するため、種々の抽出アルゴリズムが利用でき、抽出処理の選択幅を広げることができる。
【0058】
(12) (6)〜(10)のいずれか一つの内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域抽出手段は、前記画像信号のB信号値とG信号値との比に基づいて前記特徴画像領域を抽出する内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、粘膜組織表層の毛細血管や微細模様が強調して映出されるB信号値と、G信号値との比を求めることで、毛細血管や微細模様の存在位置が判定できる。そのため、B信号値とG信号値との比を用いれば、特徴画像領域を簡単に抽出できる。
【0059】
(13) (6)〜(10)のいずれか一つの内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域抽出手段は、前記画像信号を2次元フーリエ変換し、得られたスペクトル画像に対してマスク処理を施して所定の高周波成分のみが抽出された高周波成分抽出画像を得て、当該高周波成分抽出画像を逆フーリエ変換することにより所定の高周波成分のみからなる前記特徴画像領域を抽出する内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、高周波成分を高精度に検出できる。
【0060】
(14) (1)〜(13)のいずれか一つの内視鏡装置であって、
前記複数の照明光が、第1の照明光と、当該第1の照明光よりも狭い波長帯域を有する第2の照明光の2つの照明光であり、
前記照明手段は、前記第1の照明光の光源である第1の光源、前記第2の照明光の光源である第2の光源、及び前記第1の光源からの出射光を波長変換して前記第1の照明光にする波長変換部材を備えた内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、波長変換部材によりブロードなスペクトルの第1の照明光が得られ、演色性を向上できる。
【0061】
(15) (14)の内視鏡装置であって、
前記波長変換部材は、前記第1の光源からの出射光を波長変換して前記第1の照明光にすると共に、前記第2の光源からの出射光を波長変換して前記第2の照明光にするように設けられており、当該波長変換部材の前記第2の光源からの出射光に対する波長変換効率は、前記第1の光源からの出射光に対する波長変換効率よりも小さい内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、光学系を簡単にしつつ、第2の光源からの出射光を、第1の光源からの出射光による第1の照明光に大きな影響を及ぼすことなく加えることができる。
【0062】
(16) (14)又は(15)の内視鏡装置であって、
前記第1の光源が青色発光光源であり、前記第1の照明光が白色光であり、前記第2の光源が370nm乃至470nmの波長範囲に中心波長を有する光を出射する光源である内視鏡装置。
この内視鏡装置によれば、被検体を第2の光源からの短波長の可視光で照明することで、粘膜組織表層の毛細血管や微細模様を強調した観察画像が得られ、診断精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0063】
11 内視鏡
13 制御装置
19 光源装置(照明手段)
21 プロセッサ
25 挿入部
39 先端部
41 観察窓
43A,43B 照明窓
45 撮像素子(撮像手段)
57A,57B 波長変換部材
59 光源制御部(照明手段)
71 制御部(光量比制御手段)
75 撮像距離推定部
77 最適光量比設定部
79 設定情報記憶部
81 特徴画像領域抽出部
83 色調補正部(色調補正手段)
85 画像処理部
93 特徴画像領域
100 内視鏡装置
LD1,LD2 レーザ光源(照明手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なるスペクトルを有する複数の照明光を内視鏡挿入部の先端から被検体に照射し、前記被検体を撮像することにより観察画像を得る内視鏡装置であって、
前記複数の照明光を生成する照明手段と、
前記被検体を撮像して前記観察画像の画像信号を出力する撮像手段と、
前記観察画像毎に前記複数の照明光の光量比を設定し、該設定された光量比で前記複数の照明光が前記被検体に照射されるように前記照明手段を制御する光量比制御手段と、
前記光量比が変化しても実質的に同じ色調の前記観察画像が得られるように前記画像信号の色調補正を行う色調補正手段と、
を備える内視鏡装置。
【請求項2】
請求項1記載の内視鏡装置であって、
前記光量比制御手段は、前記内視鏡挿入部の先端から前記被検体までの撮像距離を推定する撮像距離推定部を備え、該撮像距離推定部が求めた前記撮像距離に基づき前記光量比を設定する内視鏡装置。
【請求項3】
請求項2記載の内視鏡装置であって、
前記撮像距離推定部は、前記撮像手段において設定されるAE値と、前記被検体に照射される前記複数の照射光の全光量とに基づき前記撮像距離を求める内視鏡装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項記載の内視鏡装置であって、
前記色調補正手段は、前記光量比制御手段によって設定される前記光量比に対応した前記画像信号の色調補正のための補正情報が予め記憶された補正情報記憶部を備え、前記補正情報記憶部の補正情報を参照して前記光量比に対応した色調補正を行う内視鏡装置。
【請求項5】
請求項4記載の内視鏡装置であって、
前記補正情報は、前記観察画像の各画素に対して、R、G,B値をマトリクス補正する色調補正テーブルである内視鏡装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項記載の内視鏡装置であって、
前記観察画像の画像信号から当該観察画像に含まれる特徴画像領域を抽出する特徴画像領域抽出手段を備え、
前記光量比制御手段は、前記特徴画像領域が観察に適するように前記光量比を設定する内視鏡装置。
【請求項7】
請求項6記載の内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域は、前記観察画像における他の領域とは色調の異なる領域である内視鏡装置。
【請求項8】
請求項7記載の内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域は、前記被検体の粘膜表層の毛細血管領域である内視鏡装置。
【請求項9】
請求項8記載の内視鏡装置であって、
前記光量比制御手段は、予め準備された血管強調用光量比を参照して前記光量比を設定する内視鏡装置。
【請求項10】
請求項6記載の内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域は、前記粘膜表層の微細模様の高周波成分を含む領域である内視鏡装置。
【請求項11】
請求項6〜請求項10のいずれか一項記載の内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域抽出手段は、前記画像信号のR信号値、G信号値及びB信号値に基づいて前記特徴画像領域を抽出する内視鏡装置。
【請求項12】
請求項6〜請求項10いずれか一項記載の内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域抽出手段は、前記画像信号のB信号値とG信号値との比に基づいて前記特徴画像領域を抽出する内視鏡装置。
【請求項13】
請求項6〜請求項10いずれか一項記載の内視鏡装置であって、
前記特徴画像領域抽出手段は、前記画像信号を2次元フーリエ変換し、得られたスペクトル画像に対してマスク処理を施して所定の高周波成分のみが抽出された高周波成分抽出画像を得て、当該高周波成分抽出画像を逆フーリエ変換することにより所定の高周波成分のみからなる前記特徴画像領域を抽出する内視鏡装置。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれか一項記載の内視鏡装置であって、
前記複数の照明光が、第1の照明光と、当該第1の照明光よりも狭い波長帯域を有する第2の照明光の2つの照明光であり、
前記照明手段は、前記第1の照明光の光源である第1の光源、前記第2の照明光の光源である第2の光源、及び前記第1の光源からの出射光を波長変換して前記第1の照明光にする波長変換部材を備えた内視鏡装置。
【請求項15】
請求項14記載の内視鏡装置であって、
前記波長変換部材は、前記第1の光源からの出射光を波長変換して前記第1の照明光にすると共に、前記第2の光源からの出射光を波長変換して前記第2の照明光にするように設けられており、当該波長変換部材の前記第2の光源からの出射光に対する波長変換効率は、前記第1の光源からの出射光に対する波長変換効率よりも小さい内視鏡装置。
【請求項16】
請求項14又は15記載の内視鏡装置であって、
前記第1の光源が青色発光光源であり、前記第1の照明光が白色光であり、前記第2の光源が370nm乃至470nmの波長範囲に中心波長を有する光を出射する光源である内視鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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