説明

内転型電動機の固定子

【課題】2極2相電動機に直巻巻線を巻装する場合の固定子の組立作業性の改善と、少ない部品で巻線と固定子鉄芯との絶縁距離確保が可能となる。
【解決手段】固定子鉄芯は分割鉄芯体a4が4個と、分割鉄芯体a4に挟持される分割鉄芯体b4個の合計8個に分割され、巻線作業時4個の分割鉄芯体a4のみを固定子の正規寸法で配置し環状に保持したままスロット絶縁フィルムを変形し、各相別に連続巻線したのち分割鉄芯体bを外周方向から押圧しながら一体化する製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固定子鉄芯を複数に分割した分割鉄芯体に巻線を直巻巻装した後、前記分割鉄芯体を環状に一体化した構成とした内転型電動機の固定子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の内転型電動機の固定子の製造方法においては、複数に分割した分割鉄芯体に巻線を施工したのち、分割鉄芯体を環状に配列してなる固定子の製造方法が普及されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
以下、その内転型電動機の固定子について、図11、図12を参照しながら説明する。
【0004】
図11に示すように、絶縁材料202、203で絶縁処理された分割鉄芯体201を各相別々に極数個環状に保持し、これにA相巻線204を極数個連続的に渡り線205で連結して巻装し、また図12に示すようにB相巻線206を極数個連続的に渡り線207で連結して巻装したのち、これらを環状に合体した構成の固定子の製造方法としていた。
【0005】
また、この種の内転型電動機の固定子およびその製造方法においては、複数に分割した分割鉄芯体aに対して、周方向に長い絶縁材料を装着して各相別に巻線を巻装し、環状に一体化してなるものも示されている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
以下、その内転型電動機の固定子およびその製造方法について、図13〜図15を参照しながら説明する。
【0007】
図に示すように、固定子鉄芯300を4個の分割鉄芯体a301が4個と分割鉄芯体b304が4個の計8個に分割し、分割鉄芯体a301は回転子孔305の外周にその歯部301―1が略放射状になるように配置され、A相巻線306が巻装されたA相巻線巻装体307が2個とこれと電気角で90度隔てた位置にB相巻線308が巻装されたB相巻線巻装体309の2個は継鉄部301―2で分割された分割鉄芯体b304を挟持して交互に環状に配列し固定子310を構成する。そして、分割鉄芯体a301に絶縁材料302を歯部301―1の上面、下面および両側面と歯部301―1の内周側の周方向突起303の内周面、そして継鉄部301―2の内周面分割鉄芯体b304の内周面の約半分まで直線状に延びてカバーするように装着し、極数個のA相巻線306と極数個のB相巻線308は各々別の工程で連続的に直巻巻装し、巻線巻装終了後、前記絶縁材料302を分割鉄芯体b304の内周面の円弧に沿う形状に変形させた後、前記A相巻線巻装体307とB相巻線巻装体309を交互に環状に配列後、分割鉄芯体b304を組合せ一体化する固定子310およびその製造方法としていた。
【特許文献1】特開2000―358346号公報
【特許文献2】特開2001―238378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような従来の図11、図12の固定子の構成では、渡り線205の管理が難しいことや別々に極数個連続的に巻線巻装した分割鉄芯体201を組み合わせて環状に合体する作業に多くの手間がかかるという課題があった。
【0009】
また、図13〜図15に示す構成では、4個の分割鉄芯体aを固定子の正規の寸法で環状に配列して2極のA相巻線または2極のB相巻線を巻線機(図示せず)により直巻巻装する場合、A相巻線巻装時にはB相巻線巻線用の分割鉄芯体aに装着した絶縁材料が前記巻線機の巻線巻回動作の障害となり、同様にB相巻線巻装時にはA相巻線巻装用の分割鉄芯体aに装着した絶縁材料が前記巻線機の巻線巻回作業の障害となるという課題があった。
【0010】
本発明は上記課題を解決するもので、4個の分割鉄芯体aを固定子の正規の寸法で環状に配列して2極のA相巻線または2極のB相巻線を巻線機(図示せず)により直巻巻装する場合、A相巻線巻装時にはB相巻線巻線用の分割鉄芯体aに装着した絶縁材料を変形保持することにより、前記巻線機の巻線巻回動作を可能とし、少ない手間で分割鉄芯体の組立が可能な内転型電動機の固定子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の内転型電動機の固定子においては、4個のスロットと4個の歯部とからなる固定子鉄芯を歯部と継鉄部が一体で積層された分割鉄芯体aが4個と、この分割鉄芯体aに挟持される継鉄部が積層された分割鉄芯体bが4個の合計8個に分離分割してなり、前記分割鉄芯体a4個を固定子の正規の寸法で環状に保持し、絶縁処理後集中巻で電動機固定子の外周側から2極のA相巻線の巻装作業と2極のB相巻線を直巻巻装する巻装作業において、前記絶縁処理は1スロットあたり1枚のスロット絶縁フィルムYをその端部がスロット外周部開口の中央付近にあるように装着し、巻線を巻装する分割鉄芯体aの歯部に近いスロット絶縁フィルムYの端面を外径方向に変形するとともに、巻線を巻装する分割鉄芯体aの歯部から遠いスロット絶縁フィルムYの端面を巻線作業の障害にならないように変形保持して巻線巻装し、全ての巻線巻装が完了後、分割鉄芯体bを外径方向から内径方向に向かって移動するとき、前記スロット絶縁フィルムYの端面が重なるように保持して移動、押圧しながら固定子を組立してなる内転型電動機の固定子の製造方法としたものである。
【0012】
本発明によれば、歯部4個を固定子の正規の寸法で環状に固定し、分割鉄芯体aの歯部に近いスロット絶縁フィルムYの端面を外径方向に変形するとともに、巻線を巻装する分割鉄芯体aの歯部から遠いスロット絶縁フィルムYの端面を巻線作業の障害にならないように変形保持して巻線巻装するため、少ない手間で分割鉄芯体の組立が可能となる。そして全ての巻線巻装が完了後、分割鉄芯体bを外径方向から内径方向に向かって移動するとき、前記スロット絶縁フィルムの端面が重なるように保持して移動、押圧しながら固定子を組立するとともに、前記絶縁処理は1スロット当たり1枚、合計4枚のスロット絶縁フィルムYとその他の絶縁材料X等を使用しており、このスロット絶縁フィルムYの周方向端面は少なくとも相互に1.5mm以上の重なり部分を有する切断長にするとともに重なり部分を含めてスロット中央部の外周部分およびスロット中央部の内周部分の軸方向長さを固定子鉄芯の積厚プラス3mm以上に設定し、絶縁ウェッジの挿入無しで巻線と固定子鉄芯との絶縁距離を確保した構成とするため、絶縁ウェッジ等を前記巻線と固定子鉄芯の間に装着することなく、巻線と固定子鉄芯の間の絶縁距離を所定値以上に確保することが可能な内転型電動機の固定子およびその製造方法を提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば少ない手間で固定子の組立ができる効果のある内転型電動機の固定子の製造方法を提供できる。
【0014】
また、絶縁ウェッジ等の装着なしに、固定子の巻線と固定子鉄芯との間の絶縁距離の確保が可能な構成の内転型電動機の固定子を提供できる。
【0015】
また、スロット絶縁フィルムYの脱落を防止することが可能な内転型電動機の固定子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の請求項1に記載の内転型電動機の固定子は、4個のスロットと4個の歯部とからなる固定子鉄芯を歯部と継鉄部が一体で積層された分割鉄芯体aが4個と、この分割鉄芯体aに挟持される継鉄部が積層された分割鉄芯体bが4個の合計8個に分離分割してなり、前記分割鉄芯体a4個のみを固定子の正規の寸法で環状に保持し、絶縁処理後集中巻で電動機固定子の外周側から2極のA相巻線の直巻巻装と2極のB相巻線を直巻巻装する方式の固定子において、前記絶縁処理は1スロットあたり1枚のスロット絶縁フィルムYをその周方向の端部がスロット外周部開口の中央付近にあるように装着した構成としたものである。
【0017】
また、本発明の請求項2に記載の内転型電動機の固定子は、スロット絶縁フィルムYを、スロット装着時には端部の重なりがない構成としたものである。
【0018】
また、本発明の請求項3記載の内転型電動機の固定子は、スロット絶縁フィルムYは、分割鉄芯体aに巻線直巻完了後分割鉄芯体bを組立てる際に、端部同士がスロット外周側開口の中央付近で法律に照らした所定寸法以上重なる構成としたものである。
【0019】
また、本発明の請求項4記載の内転型電動機の固定子は、スロット絶縁フィルムYは、分割鉄芯体aの上面を絶縁する絶縁材料Xと下面を絶縁する絶縁材料Xとにより挟持され、脱落などが防止されている構成としたものである。
【0020】
また、本発明の請求項5記載の内転型電動機の固定子は、スロット絶縁フィルムYはスロット外周側開口の中央付近の重なり部分を含めて、スロット外周部の所定幅分およびスロット中央部の内周部の所定幅分の軸方向長さを、前記固定子鉄芯の積厚プラス、法律に照らした所定寸法以上長く設定し、スロットの内径側および外径側共に絶縁ウェッジ等の挿入無しで巻線と固定子鉄芯との絶縁距離を確保した構成としたものである。
【0021】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
図1〜図10に示すように、4個のスロット15を有する固定子鉄芯1を歯部2と継鉄部3―1が一体の4個の分割鉄芯体a4と継鉄部3―2の4個の分割鉄芯体b5との8個に分離分割し、分割鉄芯体a4は回転子孔6の外周にその歯部2が各々を放射状で、その位置は正規の内外径寸法と間隔に保持されて固定子14完成時と同一になるように配置されており、樹脂成型され分割鉄芯体a4の上面及び下面を絶縁する絶縁材料X32―1と、分割鉄芯体a4のスロット15側面と分割鉄芯体b5の内周側面とを絶縁するスロット絶縁フィルムY32―2よりなる絶縁材料32により絶縁処理後、前記巻線を巻装する分割鉄芯体a4の歯部に近い側のスロット絶縁フィルムY32―2の端面を外径方向に変形し、また前記分割鉄芯体a4から遠い側のスロット絶縁フィルムY32―2を巻線巻回作業の障害にならないように変形保持した状態で分割鉄芯体a4に対して各々2極のA相巻線7またはB相巻線9を直巻巻装する。そして、巻線巻装完了後、分割鉄芯体b5を外径方向から内径方向に向かって移動するとき、前記スロット絶縁フィルムY32―2の端面が重なるように保持して移動、押圧しながら固定子14を組立する製造方法とする。
【0023】
上記構成において、4個の分割鉄芯体a4は固定子14の正規の寸法で環状に保持したままでA相巻線7およびB相巻線9の巻装ができ、またスロット絶縁フィルムY32―2の端部が重なるように分割鉄芯体bを組み立てるため、各々2個のA相巻線巻装体10とB相巻線巻装体11を組み合わせる必要が無く、また絶縁ウェッジをA相巻線7およびB相巻線9と固定子鉄芯の間に挿入することで絶縁距離を確保する必要もないため少ない手間で固定子14の組立ができることになる。
【0024】
また、同様の構成で固定子鉄芯1の4個のスロット15には各々一枚のスロット絶縁フィルムY32―2とその他の絶縁材料X32―1が装着されており、このスロット絶縁フィルムY32―2の周方向端面は少なくとも相互に1.5mm以上の重なり部分をスロット15中央部の外周部分に有し、同時にスロット絶縁フィルムY32―2のこの重なり部分とスロット15中央部の内周部分の軸方向長さを固定子鉄芯1の積厚プラス3mm以上すなわち固定子鉄芯1の負荷側端面から1.5mm以上と反負荷側端面から1.5mm以上長い切断長に設定した構成とする。
【0025】
上記構成において、2極のA相巻線7およびB相巻線9と固定子鉄芯1との絶縁距離はスロット15中央部の外周部分および内周部分で確実に1.5mm以上に確保されることになる。そして、その他の部分は絶縁材料X32―1により所定値以上の絶縁距離に確保されることになる。
【0026】
図に示すように、分割鉄芯体a4のスロット15の壁面に沿うように装着されたスロット絶縁フィルムY32―2は、分割鉄芯体a4の上面を絶縁する絶縁材料X32―1の一部と下面を絶縁する絶縁材料X32―1の一部とにより、保持される構成とする。
【0027】
上記構成において、スロット絶縁フィルムY32―2は固定子鉄芯1のスロット壁面から、脱落が防止されることになる。
【0028】
なお、実施例では、スロット絶縁フィルムY32―2のスロット15中央部の外周部分と内周部分の近傍の軸方向長さを固定子鉄芯1の軸方向長さプラス3mm(片側1.5mm)とし、またスロット絶縁フィルムY32―2のスロット15の外周部分の重なり寸法を1.5mm以上としたがこの数値は電動機の定格電圧などに応じて変更すべきものであり、法律に照らしてその数値は決定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例1の内転型電動機の固定子鉄芯を示す正面図
【図2】同内転型電動機の固定子鉄芯の4個の分割鉄芯体aを示す斜視図
【図3】同内典型電動機の分割鉄芯体aの詳細を示す斜視図
【図4】同内転型電動機の固定子鉄芯の4個の分割鉄芯体bを示す詳細斜視図
【図5】同内転型電動機の分割鉄芯体bの詳細を示す斜視図
【図6】同内転型電動機の固定子鉄芯の4個の分割鉄芯体aを正規の寸法に配置し、絶縁処理後の状態を示す正面図
【図7】同内転型電動機の分割鉄芯体aに装着したスロット絶縁紙Yの端部を変形させ巻線を巻装する状態を示す正面図
【図8】同内転型電動機のスロット絶縁紙Yを装着形状に成形した状態を示す斜視図
【図9】同内転型電動機のスロット絶縁紙を展開した状態を示す正面図
【図10】同内転型電動機の固定子の部分断面図
【図11】従来の内転型電動機の固定子を示す正面図
【図12】同内転型電動機の分割鉄芯体aに巻線を巻装した状態を示す部分断面図
【図13】従来の別の内転型電動機の固定子の部分断面図
【図14】同内転型電動機の分割鉄芯体aに巻線を巻装した状態を示す部分断面図
【図15】同内転型電動機の分割鉄芯体aに巻線を巻装した後、絶縁材料を成形した状態を示す正面図
【符号の説明】
【0030】
1 固定子鉄芯
2 歯部
3―1、3―2 継鉄部
4 分割鉄芯体a
5 分割鉄芯体b
6 回転子孔
7 A相巻線
9 B相巻線
10 A相巻線巻装体
11 B相巻線巻装体
14 固定子
15 スロット
32 絶縁材料
32―1 絶縁材料X
32―2 スロット絶縁フィルムY

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4個のスロットと4個の歯部とからなる固定子鉄芯を歯部と継鉄部が一体で積層された分割鉄芯体aが4個と、この分割鉄芯体aに挟持される継鉄部が積層された分割鉄芯体bが4個の合計8個に分離分割してなり、前記分割鉄芯体a4個のみを固定子の正規の寸法で環状に保持し、絶縁処理後集中巻で電動機固定子の外周側から2極のA相巻線の直巻巻装と2極のB相巻線を直巻巻装する方式の固定子において、前記絶縁処理は1スロットあたり1枚のスロット絶縁フィルムYをその周方向の端部がスロット外周部開口の中央付近にあるように装着した構成の内転型電動機の固定子。
【請求項2】
スロット絶縁フィルムYは、スロット装着時には端部の重なりがない構成の請求項1記載の内転型電動機の固定子。
【請求項3】
スロット絶縁フィルムYは、分割鉄芯体aに巻線直巻完了後分割鉄芯体bを組立てる際に、端部同士がスロット外周側開口の中央付近で法律に照らした所定寸法以上重なる構成の請求項1または2記載の内転型電動機の固定子。
【請求項4】
スロット絶縁フィルムYは、分割鉄芯体aの上面を絶縁する絶縁材料Xと下面を絶縁する絶縁材料Xとにより挟持され、脱落などが防止されている構成の請求項1〜3いずれか1項に記載の内転型電動機の固定子。
【請求項5】
スロット絶縁フィルムYはスロット外周側開口の中央付近の重なり部分を含めて、スロット外周部の所定幅分およびスロット中央部の内周部の所定幅分の軸方向長さを、前記固定子鉄芯の積厚プラス、法律に照らした所定寸法以上長く設定し、スロットの内径側および外径側共に絶縁ウェッジ等の挿入無しで巻線と固定子鉄芯との絶縁距離を確保した構成の請求項1〜4いずれか1項に記載の内転型電動機の固定子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2006−115694(P2006−115694A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347634(P2005−347634)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【分割の表示】特願2002−306918(P2002−306918)の分割
【原出願日】平成14年10月22日(2002.10.22)
【出願人】(000006242)松下エコシステムズ株式会社 (36)
【Fターム(参考)】