凝固活性測定装置、測定チップおよび測定方法
【課題】血液由来のサンプルが流れている状態のまま、凝固活性因子の指標を迅速に測定する。
【解決手段】凝固活性測定装置は、溶液が流れる流路を備えた測定チップ100の流路の表面における屈折率を測定する表面プラズモン共鳴測定装置を備える。表面プラズモン共鳴測定装置は、プリズム1と光源2と偏光板3と集光レンズ4とCCDカメラ5とデータ処理装置6から構成される。データ処理装置6は、測定チップ100の流路中に緩衝液が充填された後に、活性化剤と血漿とが混合された血漿サンプルが流路中に投入されたときの屈折率の変化から、血漿の流速を算出する流速算出手段と、血漿の流速と活性化部分トロンボプラスチン時間との既知の関係に基づいて、流速算出手段が算出した流速から活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性因子指標算出手段とを備える。
【解決手段】凝固活性測定装置は、溶液が流れる流路を備えた測定チップ100の流路の表面における屈折率を測定する表面プラズモン共鳴測定装置を備える。表面プラズモン共鳴測定装置は、プリズム1と光源2と偏光板3と集光レンズ4とCCDカメラ5とデータ処理装置6から構成される。データ処理装置6は、測定チップ100の流路中に緩衝液が充填された後に、活性化剤と血漿とが混合された血漿サンプルが流路中に投入されたときの屈折率の変化から、血漿の流速を算出する流速算出手段と、血漿の流速と活性化部分トロンボプラスチン時間との既知の関係に基づいて、流速算出手段が算出した流速から活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性因子指標算出手段とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固活性因子の指標(例えば血液凝固時間)の測定方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液凝固は、止血機構における重要な機能の一つで、凝固活性は、臨床検査の重要な項目となっている。血液凝固は、カスケード反応とも呼ばれる多様な因子の関わりによりバランスが保たれている現象である。したがって、血液凝固因子には、多種のタンパク、イオンがあり、血漿内の成分のみで進行する内因系に関与する因子(VIII,IX,XI,XII)と、血管外の組織も関与して進行する外因系に関与する因子(III,VII)と、内因系・外因系の両方に関与する因子(I,II,V,X)とがある。従来は全血を使った凝固時間(全血凝固時間)や血餅観察といった方法で、血液凝固を見ていたが、必要な血液量が多い、自動化が困難で再現性がとれない、などの問題から、昨今では、影響する血液凝固因子をスクリーニングできる指標が好まれている。
【0003】
代表的な凝固学的測定で得られる指標の一つが、プロトロンビン時間(血液凝固時間、以下PTと略す)である。PT測定値は、Caイオン、組織トロンボプラスチン以外のVIII,X、V,IIの因子により影響される。PT測定値が延長する場合、測定対象の血液を提供した人物には、先天性の血液凝固因子の欠乏や、肝細胞の障害、ビタミンK欠乏症などの疑いがあるという当たりをつけることができる。同じく代表的な凝固学的測定で得られる別の指標は、活性化部分トロンボプラスチン時間(以下APTTと略す)である。外科手術後や、先天性の血液疾患、梗塞などからの回復時に投与される血栓防止のためのヘパリン投与時など、APTT測定値による判断が必要とされている。APTTは、内因系の因子に影響され、出血傾向がある場合に測定されることが多い。APTT測定値が延長している異常が見られる場合、内因系I,II,V,X各因子の欠乏、あるいは内因系・外因系の両方に関与するVIII,IX,XI,XII因子の欠乏が考えられる。
【0004】
PTやAPTTのような血液凝固学的測定により得られる指標は、カスケード反応としては最後の部分にあたるフィブリノゲンがフィブリンに転換される現象を、時間という単位に換算して観測している。PTおよびAPTTの基本的な測定は、被測定者から採取した血液から、遠心分離により血球を除去した血漿を用いて行われる。血漿にあらかじめ活性化剤を加えて、血漿中に含まれる凝固因子を活性化させたのち、PTあるいはAPTTを測定する。
【0005】
従来、APTTは、PT測定と同様に、凝固活性化を促す成分を含む試薬である活性化剤と血漿サンプルとを試験用容器内で混合した上で、かくはん方式または光散乱方式により測定されていた。かくはん方式は、試験用容器内に血漿サンプルと活性化剤とを一緒に導入してフィンでかくはんし、かくはんの抵抗や温度上昇の時間的変化からAPTTを測定する方法である。光散乱方式は、試験用容器内で血漿サンプルと活性化剤とを混合し、容器に対し光を照射し、凝固に伴う散乱光量の時間的変化をモニタしてAPTTを測定する方法である。特許文献1、特許文献2に開示された方法では、より正確な測定値を得るために、測定値の時間変化をモニタし、測定装置ごとに独自の算出方法を用いている。
【0006】
血液凝固は、異なる反応経路と多数の因子が複雑に絡み合い、あるトリガーによってカスケード反応が進行して起こる現象である。測定対象である血漿サンプル毎に様々な因子の多寡があり、例えば、吸光スペクトルで測定している場合、反応が進むと複数のピークが観測されたり、それらのピーク値が相対的に大きくなったり小さくなったりと、多様な変化がおこる。このような観測において、なるべく正確な値が、多くの血漿サンプルから得られるようなピーク値の算出法の開発が必要となっていた。
上記のように、いずれの方式においても、血液由来のサンプルを容器に入れて測定しており、生体内のように血液が流れる状態での測定は実施していない。また、複雑な凝固反応において、測定に供する血漿サンプル全体が凝固するレベル、いわば凝固反応の終状態レベルまで反応を進行させ観測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平6−50317号公報
【特許文献2】特公平3−11423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来の測定方法では、血液由来のサンプルが流れる状態での測定を実施していないという問題点があった。また、複雑な凝固反応の終状態レベルまで反応を進行させて血液凝固パラメータ(APTT)を求めるため、測定に時間がかかるという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、内因系凝固異常をスクリーニングする測定において、血液由来のサンプルが流れている状態のまま、凝固活性因子の指標を迅速に測定することができる凝固活性測定装置、測定チップおよび測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の凝固活性測定装置は、溶液が流れる流路を備えた測定チップの前記流路の表面における屈折率を測定する屈折率測定装置と、前記測定チップの流路中に緩衝液が充填された後に、内因系凝固を活性化する活性化剤と血漿とが混合された血漿サンプルが前記流路中に投入されたときの前記屈折率の変化から、前記流路中を進行する血漿の流速を算出する流速算出手段と、前記血漿の流速と凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間との既知の関係に基づいて、前記流速算出手段が算出した流速から活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性因子指標算出手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の凝固活性測定装置の1構成例において、前記屈折率測定装置は、表面プラズモン共鳴測定装置である。
【0011】
また、本発明は、緩衝液が充填された流路の表面における屈折率に基づいて流路中を進行する血漿の流速を算出し凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性測定装置用の測定チップであって、基板表面に形成された金薄膜と、この金薄膜上に形成された流路とを備え、前記金薄膜は、その一部が凝固反応を阻害する生化学測定用ブロッキング剤により覆われていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の凝固活性測定方法は、溶液が流れる流路を備えた測定チップの前記流路の表面における屈折率を測定する屈折率測定ステップと、前記測定チップの流路中に緩衝液が充填された後に、内因系凝固を活性化する活性化剤と血漿とが混合された血漿サンプルが前記流路中に投入されたときの前記屈折率の変化から、前記流路中を進行する血漿の流速を算出する流速算出ステップと、前記血漿の流速と凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間との既知の関係に基づいて、前記流速算出ステップで算出した流速から活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性因子指標算出ステップとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、凝固反応が進行中の状態のままで、凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間を得ることができるため、従来に比べて測定時間を短縮することができる。本発明では、流速が極めて高い凝固能力を求めることができるようになる。また、本発明では、秒数に比べて分解能の高い指標を提供できることから、より精度の高い凝固活性パラメータの測定が可能になる。
【0014】
また、本発明では、測定チップの基板表面に形成された金薄膜の一部を、凝固反応を阻害する生化学測定用ブロッキング剤で覆うことにより、凝固活性を物理的かつ生化学的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の原理を説明する断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る測定チップの構造を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る測定チップの平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る凝固活性測定装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る凝固活性測定装置において測定チップの測定で得られる入射角−反射率曲線の1例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る凝固活性測定装置のデータ処理装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るAPTTの測定方法を説明するフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態においてCCDカメラが撮影した画像と血漿の進行方向との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態においてCCDカメラが撮影した画像の1ラインにおける光強度プロファイルの例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態における血漿の流速の算出方法を説明する図である。
【図11】血漿の流速と血漿サンプルの活性との関係の1例を示す図である。
【図12】測定チップに正常域血漿を投入した場合の屈折率変化の例を示す図である。
【図13】測定チップに異常域血漿を投入した場合の屈折率変化の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の原理]
本発明では、血液凝固の活性化を促す成分を含む試薬である活性化剤と血漿サンプルとをあらかじめ混合しておき、活性化剤と混合された血漿サンプルをマイクロ流路に導入して流速から血液凝固パラメータを得る。マイクロ流路内の流速を求めるために、マイクロ流路の表面の位置を細分化して、それぞれの位置の屈折率の時間変化を観測する。
【0017】
図1(A)〜図1(C)は本発明の原理を説明する断面図であり、緩衝液で満たされた測定チップの流路内を進行する血漿サンプルを示す図である。
図1(A)に示すように、測定チップの基板1000上に形成された流路1001内を緩衝液1002で満たす。
【0018】
流路1001内に血漿サンプル1003を投入すると、血漿サンプル1003は、試薬による活性を受け、凝固反応を進行させながら、流路1001内を進行していく(図1(B))。そして、本発明では、血漿サンプル1003の流動性が維持された状態のまま、流速として凝固活性を評価する。流動性が維持されていることから、血漿サンプル1003の投入後、ある一定時間後に緩衝液1004を投入すると、血漿サンプル1003が緩衝液1004により押し出され、洗い流される現象が観測できる(図1(C))。
【0019】
内因性凝固活性を測定できるAPTT測定においては、活性化剤として血管内皮下組織に相当する異物を混合する。この異物の陰性荷電表面にXII因子の陽性荷電タンパクが接触して電気的中性となり、これが活性化されるといわれている。さらに、この活性化されたXII因子(活性化した因子にはaをつけXIIaと記述)が血中のプリカリクレイン、高分子キニノゲン、およびXI因子と複合体を形成し、プリカリクレインがカリクレインに活性化される。カリクレインは高分子キニノゲン共存下において、さらにXII因子を活性化する。
【0020】
XII因子はXI因子を活性化させ、ここにCaイオンが共存したとき、IX因子の活性化がおこりIXaはリン脂質表面にてVIII因子、カルシウムイオンと複合体を形成し、その上でX因子のペプチド結合を加水分解してX因子を活性化させる。さらに、VIII因子はIX因子の補因子として作用し、トロンビンによる活性化も受けてVIIIaとなり、Xaの生成が加速される。
APTTは、血漿サンプルに、第1段階として、異物としてのエラグ酸、脂質、トロンビンを活性化させる組織因子を加えて37℃にて活性化させ、第2段階でCaイオンを加えて、凝固を加速させて測定されている。
【0021】
本発明では、活性化された血漿サンプルがマイクロ流路内を通過する際の流速を測定する。2つの段階で活性化されたサンプルは、流路を流れながら、凝固の最終段階であるフィブリンが形成されていく。一方で、線溶と呼ばれる反応も活性化され、かつ、流れが存在する状況下にあることから、ポリマー化されたフィブリン同士がさらに重合して高分子量のフィブリンを形成する反応に到達しにくい。その結果、APTT活性が高い血漿サンプルでは、流路内を通過する際に粘性は上昇せず、フィブリン形成により生ずるポリマー粒子が流路内を通過していくことが考えられる。
その結果、凝固活性の高い血漿を用いるほど、流路内を進行する速度が大きくなる。反対に、凝固活性の低い血漿では、流速は小さくなる。血漿サンプルの進行速度である流速を求めて、現在一般的に求められているAPTTと相関のある指標を得る。
【0022】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図2は本発明の実施の形態に係る測定チップの構造を示す分解斜視図、図3は測定チップの平面図、図4は本発明の実施の形態に係る凝固活性測定装置の構成を示すブロック図である。
本実施の形態の測定チップ100は、略直方体状の外形をなし積層構造を有している。すなわち、水平方向の大きさが16mm×16mmで厚さが1mmのBK7ガラスあるいはプラスチックからなる矩形板状の透明の基板101と、平面視の外形が基板101と略同一に形成され、基板101上に積層される例えば樹脂からなる両面シール状のシート102と、平面視の外形が基板101と略同一に形成され、シート102上に積層されるアクリル筺体103とを備えている。
【0023】
基板101上には、スパッタリングによって厚さ約50nmの金薄膜104が形成される。さらに、金薄膜104の表面の一部に牛乳由来、魚由来、または化学合成由来の生化学測定用のブロッキング剤105を形成して、金薄膜104の表面を覆う。本実施の形態の測定チップ100では、タンパク質から構成されるブロッキング剤105のスポットを350μm間隔で形成した。このブロッキング剤105のスポットは、基板101上にシート102が積層されたときに、後述する観測領域に位置するように形成されている。ブロッキング剤105のスポットは、凝固反応の化学的障害となるほか、物理的障害としても機能する。タンパク質を含むブロッキング剤はスポットの形成が容易であるため、好適である。
【0024】
金薄膜104の表面にブロッキング剤105のスポットを形成した後に、基板101を水で洗浄して、基板101の金薄膜104の上にシート102を積層する。シート102の後述するインレットに対応する位置には、円孔106が形成されている。また、シート102には、シート102を板厚方向(図2上下方向)に貫通し、円孔106に連通する流路107と、シート102を板厚方向に貫通し、流路107に連通する流路108と、シート102を板厚方向に貫通し、流路108に連通する吸引流路109とが形成されている。流路107が形成されている領域が、観測領域である。
なお、本実施の形態においては、金薄膜104の表面にブロッキング剤105のスポットを形成するものとして説明したが、本発明では、金薄膜104の一部が凝固反応を阻害する生化学測定用ブロッキング剤により覆われていればよく、必ずしもスポットを形成する必要はない。
【0025】
このようにシート102に形成される流路107〜109は、円孔106から測定チップ中央部の流路107へ繋がり、さらに流路108を経て測定チップ周辺部の吸引流路109へと繋がる形状となっている。流路107,108の断面寸法は、測定対象の血漿に対して毛細管現象を発現する寸法に設定されている。また、シート102および流路107〜109は、流路107〜109中に緩衝液が充填された後に流路107〜109中に留まるような材質、流路の高さ、流路の幅、流路の表面状態であることが好ましい。
【0026】
このようなシート102の上にアクリル筺体103を積層する。アクリル筺体103には、緩衝液および測定対象の血漿を投入するための円孔であるインレット110がアクリル筺体103を板厚方向に貫通するように形成されている。このインレット110は、アクリル筺体103がシート102上に積層されたときに、上端が外気に開放されると共に下端が円孔106と連通する位置に形成されている。
【0027】
また、アクリル筺体103には、多数の貫通孔111がアクリル筺体103を板厚方向に貫通するように形成されている。これら多数の貫通孔111は、アクリル筺体103がシート102上に積層されたときに、上端が外気に開放されると共に下端が流路108または吸引流路109と連通する位置に形成されており、観測領域である流路107の部分には形成されていない。貫通孔111の直径は、測定対象の血漿に対して毛細管現象を発現する値、例えば約100ミクロンに設定されている。こうして、基板101とシート102とアクリル筺体103とを組み合わせることで、毛細管現象によって血漿の導入を行うキャピラリーフロー型の流路を有する測定チップ100が完成する。
【0028】
凝固活性測定装置は、図4に示すように、プリズム1と、LEDなどの光源2と、偏光板3と、集光レンズ4と、CCDカメラ5と、データ処理装置6とを有する。本実施の形態では、屈折率測定装置として表面プラズモン共鳴測定装置を利用して凝固活性測定装置を実現しており、図4に示した構成は表面プラズモン共鳴測定装置と同様である。
【0029】
ここで、表面プラズモン共鳴測定装置の測定原理について簡単に説明する。単色光の光源2から放射された光が偏光板3を通過すると、p偏光光のみが通過する。このp偏光光は、集光レンズ4で集光されて半球状のプリズム1に入射する。プリズム1の上面には、基板101がプリズム1と接するように測定チップ100が載置され、基板101側から測定チップ100にp偏光光が入射する。このように、p偏光光をプリズム1を介して測定チップ100に入射させることによって、測定チップ100からの反射光の強度変化をCCDカメラ5で検出する。
【0030】
光源2から放射された光は、プリズム1と測定チップ100の金薄膜104との境界でエバネッセント波となる。一方、この金薄膜104の表面では、表面プラズモン波が生じる。エバネッセント波と表面プラズモン波の波数が一致する入射角のとき、エバネッセント波は表面プラズモン波の励起に使われ、反射光として計測される光量が減少する。このとき、CCDカメラ5によって反射光の強度を測定すると、図5に示すように、エバネッセンス波と表面プラズモン波の共鳴が起こる入射角で、反射率の低下が観測される。エバネッセンス波と表面プラズモン波の共鳴が起こる表面プラズモン共鳴角度は、測定チップ100の金薄膜104に接する被測定物質の屈折率に依存するため、金薄膜104上に例えば抗体などの被測定物質を固定すると、抗原との結合によって抗体の屈折率が変化し、谷の現れる角度が僅かに変化する。この変化を測定することにより、被測定物質の定量を行うことができる。以上が、表面プラズモン共鳴測定装置の測定原理である。
【0031】
図6は本実施の形態の凝固活性測定装置のデータ処理装置6の構成を示すブロック図である。データ処理装置6は、凝固活性測定装置全体を制御する制御部60と、制御部60のプログラム等を記憶する記憶部61と、凝固活性測定装置を使用する使用者が装置に対して指示を与えるための入力部62と、使用者に対して情報を表示するための表示部63とを有する。
【0032】
制御部60は、CCDカメラ5によって撮影された画像を処理して光強度プロファイルを求める画像処理部64と、光強度プロファイルのデータから屈折率の変化を求め、この屈折率の変化から血漿の流速を算出する流速算出部65と、血漿の流速からAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)を算出するAPTT算出部66(凝固活性因子指標算出手段)とを有する。
【0033】
次に、凝固活性測定装置によるAPTTの測定方法について詳細に説明する。図7はAPTTの測定方法を説明するフローチャートである。
まず、測定対象の血漿とAPTT測定用試薬(活性化剤)とをそれぞれ37℃で温めておく。ここで用いたAPTT測定用試薬は、シーメンス(SIEMENS)社製のアクチンFSLで、ウサギ脳由来セファリンと、大豆由来脂質と、エラグ酸とが含まれている。
【0034】
測定チップ100を凝固活性測定装置のプリズム1の平面上に載置し(図7ステップS1)、オーレン緩衝液4μLをインレット110から測定チップ100内に投入する(ステップS2)。緩衝液は、インレット110および円孔106を経て流路107〜109中に充填される。シート102に形成された流路107〜109のうち、観測領域の流路107が最も細くデザインされていることから、緩衝液は流路107内に留まる。
【0035】
そして、データ処理装置6の制御部60は、流速測定を開始する(ステップS3)。次に、37℃に温めた血漿とAPTT測定用試薬(活性化剤)とを20μLずつチューブに加えてピペッティングで攪拌して混合し、この混合した血漿サンプルを37度で一定時間温め、さらに血漿サンプルに0.025mol/Lのカルシウムイオン溶液を20μL加えてピペッティングで攪拌して混合し、カルシウムイオン溶液を混合した血漿サンプル4μLを、インレット110から測定チップ100内に投入する(ステップS4)。血漿サンプルは、インレット110および円孔106を経て流路107中に投入される。
【0036】
血漿サンプルの投入から90秒経過後に、さらにオーレン緩衝液4μLをインレット110から測定チップ100内に投入する(ステップS5)。血漿サンプルは、この追加投入された緩衝液により押し出されるようにして流路107中を進行する。
【0037】
制御部60は、血漿の流速Vを算出し終えた時点で、測定を終了する(ステップS6)。そして、制御部60は、流速VからAPTTを算出する(ステップS7)。制御部60は、算出したAPTTを記憶部61に記憶させ、またAPTTを表示部63に表示させる。以上で、測定が終了する。
各測定チップ100について1回のみ測定を行い、測定を終えた測定チップ100は廃棄される。
【0038】
次に、血漿の流速Vの算出方法について説明する。凝固活性測定装置のCCDカメラ5は、測定チップ100からの反射光を検出して、濃淡画像データを出力する。
データ処理装置6の画像処理部64は、CCDカメラ5から出力された濃淡画像データを取り込み、この濃淡画像データを処理して、光強度プロファイルを画像の1ライン毎に求める。
【0039】
図8はCCDカメラ5が撮影した画像と血漿の進行方向との関係を示す図、図9は画像のYnラインにおける光強度プロファイルの例を示す図である。
図8のX方向は図2〜図4のPX方向に対応し、図8のY方向は図2〜図4のPY方向に対応する。このY方向が、血漿の進行方向に相当する。図8の例では、CCDカメラ5が撮影した画像は、X方向が座標0〜479の480ピクセルからなり、Y方向も座標0〜479の480ピクセルからなるものとしている。図8におけるYnは、画像上のある1ラインのY座標を示している。
【0040】
CCDカメラ5が撮像した画像には、測定チップ100の各所の光の反射率に応じて明るい(反射率が高い)領域と暗い(反射率が低い)領域とが現れる。画像処理部64は、濃淡画像データを処理して、図9に示すような光強度プロファイルを画像の1ライン毎に求める。上記のとおり、図8のX方向は、図2〜図4のPX方向に対応しているので、測定チップ100の金薄膜104に対する光の入射角に対応している。したがって、図9において、光強度が最も弱い位置、すなわち光が最も吸収された位置は表面プラズモン共鳴角度に相当する。
【0041】
屈折率変化を観測する凝固活性測定装置においては、CCDカメラ5の1ライン毎に屈折率を反映したデータが観測される。よって、観測領域の位置にある流路107内において、活性化剤の中を血漿が進行していくと、屈折率変化が起こり、CCDカメラ5の1ライン毎にどのタイミングで血漿進行による屈折率変化が起こったか記録されることになる。
【0042】
データ処理装置6の流速算出部65は、画像処理部64が求めた、観測領域の光強度プロファイルの時系列データから、血漿が進行したことにより生じる屈折率の変化を求めて、この屈折率の変化から血漿の流速Vを算出する。表面プラズモン共鳴角度は、測定チップ100の金薄膜104に接する血漿の屈折率に依存するため、表面プラズモン共鳴角度の変化は、血漿の進行によって屈折率が変化したことを示す。したがって、観測領域の光強度プロファイルの時系列データから、表面プラズモン共鳴角度が変化した時刻(屈折率の変化が起きた時刻)を図8のY方向に沿って読み取れば、屈折率変化の時間変化を求めることができる。そして、この屈折率変化の時間変化の傾きが、血漿の流速Vを示している。
【0043】
図10を用いて、この流速Vの算出方法を説明する。図10は、流速Vの算出方法を視覚的に説明する図であり、屈折率の変化が起きた時刻とY方向の画素位置との関係の1例を示す図である。図10は、観測領域の流路107に対応するX座標(例えばX=230)におけるデータを示している。図10におけるPは、表面プラズモン共鳴角度が変化したY方向の画素位置、すなわち屈折率の変化が起きた画素位置を示している。この屈折率変化の時間変化の傾きy/t(ピクセル/sec)が、血漿の流速Vを示している。CCDカメラ5が撮像した画像におけるY方向の1画素は、流路107上の実距離に換算すると例えば10μmに相当する。したがって、血漿の流速V(μm/sec)は、傾き(ピクセル/sec)×実距離(μm/ピクセル)、すなわちy/t×10(μm/sec)で求めることができる。こうして、データ処理装置6の流速算出部65は、血漿の流速Vを算出することができる。
【0044】
なお、言うまでもなく、血漿の流速Vは時間と共に変化するので、屈折率変化の時間変化の傾きも時間と共に変化する。ここでは、血漿の進行によって最初に屈折率変化が起きた時点以降の複数点の屈折率変化から得られる血漿の流速V、すなわち初速を計算すればよい。
【0045】
次に、ステップS7のAPTTの算出方法について説明する。制御部60のAPTT算出部66は、血漿の流速VとAPTTとの既知の関係が予め登録された記憶部61を参照し、この関係に基づいて、流速VからAPTTを算出する。
まず、血漿の流速VとAPTTとの関係の求め方について説明する。血漿の流速VとAPTTとの関係を求めるには、図7のステップS2で説明したとおり、流路中に緩衝液を充填した測定チップを用い、この測定チップに凝固活性値とAPTTが既知の血漿を投入して、本実施の形態の凝固活性測定装置を用いて血漿の流速Vを算出すればよい。このとき用いるコントロール血漿の活性としては、試薬に付属のデータに記載されている因子活性の平均値を用い、またオーレン緩衝液でコントロール血漿を希釈することで、活性値を調整して測定を実施した。また、コントロール血漿としては、正常域Nの血漿と異常域Pの血漿の2種を用いた。このような測定により、図11に示すような血漿の流速Vと血漿の活性値との関係を求めることができる。流速測定の結果、血漿の活性が高いほど流速が速くなる関係が得られた。流速と活性値との関係は図11に示すように直線性が良い。
【0046】
コントロール血漿のAPTTは付属のデータから取得できる既知の値なので、図11に示した測定結果に基づいて、流速VからAPTTを得る次式を求めることができる。
APTT[sec]=−0.0413×V[μm/sec]+107.04
・・・(1)
【0047】
データ処理装置6の記憶部61には、予め得られた式(1)が登録されている。APTT算出部66は、式(1)を用いて、血漿の流速VからAPTTを算出する。
コントロール血漿の活性を調整するために、オーレン緩衝液で希釈しているが、この希釈率が流速に影響しているか評価するため、活性剤を加えない血漿サンプルにて流速を測定した。その結果、活性剤を加えない血漿サンプルでは、希釈率が高い場合(すなわち、血漿サンプルにおける活性が低い場合)ほど、流速は速くなる結果が得られた。したがって、血漿がAPTT測定用試薬による活性を受けることで、活性が高い血漿サンプルにおいて流速が速い性質が生じていると言える。また、顕微鏡下において、血漿サンプルのAPTT測定用試薬による活性と流れ方を観察した。血漿サンプルをマイクロ流路内に投入すると、数十μm程度の大きさの浮遊物が流れていくのが観測されるが、そこへAPTT測定用試薬を加えて活性化させた場合、血漿サンプルの流れが停滞する様子は見られなかった。
【0048】
一方で、血漿サンプルを投入した後に、さらに緩衝液を投入した観測も実施した。図12は測定チップに活性が約97%の正常域血漿を投入した場合の屈折率変化の例を示す図、図13は測定チップに活性が約16%の異常域血漿を投入した場合の屈折率変化の例を示す図である。図12、図13における(A)、(B)、(C)はそれぞれ図1(A)、図1(B)、図1(C)の状態であることを示している。図12、図13に示すように、屈折率測定装置で測定される屈折率は、測定チップ100にオーレン緩衝液のみが投入されている状態(A)と、血漿サンプルが投入された状態(B)と、さらに凝固測定後にオーレン緩衝液が投入された状態(C)とで大きく変化する。
【0049】
血漿サンプル投入後に緩衝液を投入すると、活性が97%と高い場合でも、16%と低い場合でも、流路表面に緩衝液では洗い流せない吸着物が残存している。したがって、APTT試薬による活性により生成したフィブリンなどが、流路の基板表面において堆積している可能性が考えられる。
【0050】
本実施の形態のデータ処理装置6は、CPU、記憶装置および外部とのインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータにおいて、本発明の凝固活性測定方法を実現させるためのプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPUは、記録媒体から読み込んだプログラムを記憶装置に書き込み、プログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、血液凝固活性因子の指標を測定する凝固活性測定装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…プリズム、2…光源、3…偏光板、4…集光レンズ、5…CCDカメラ、6…データ処理装置、60…制御部、61…記憶部、62…入力部、63…表示部、64…画像処理部、65…流速算出部、66…APTT算出部、100…測定チップ、101…基板、102…シート、103…アクリル筺体、104…金薄膜、105…ブロッキング剤、106…円孔、107,108…流路、109…吸引流路、110…インレット、111…貫通孔。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固活性因子の指標(例えば血液凝固時間)の測定方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液凝固は、止血機構における重要な機能の一つで、凝固活性は、臨床検査の重要な項目となっている。血液凝固は、カスケード反応とも呼ばれる多様な因子の関わりによりバランスが保たれている現象である。したがって、血液凝固因子には、多種のタンパク、イオンがあり、血漿内の成分のみで進行する内因系に関与する因子(VIII,IX,XI,XII)と、血管外の組織も関与して進行する外因系に関与する因子(III,VII)と、内因系・外因系の両方に関与する因子(I,II,V,X)とがある。従来は全血を使った凝固時間(全血凝固時間)や血餅観察といった方法で、血液凝固を見ていたが、必要な血液量が多い、自動化が困難で再現性がとれない、などの問題から、昨今では、影響する血液凝固因子をスクリーニングできる指標が好まれている。
【0003】
代表的な凝固学的測定で得られる指標の一つが、プロトロンビン時間(血液凝固時間、以下PTと略す)である。PT測定値は、Caイオン、組織トロンボプラスチン以外のVIII,X、V,IIの因子により影響される。PT測定値が延長する場合、測定対象の血液を提供した人物には、先天性の血液凝固因子の欠乏や、肝細胞の障害、ビタミンK欠乏症などの疑いがあるという当たりをつけることができる。同じく代表的な凝固学的測定で得られる別の指標は、活性化部分トロンボプラスチン時間(以下APTTと略す)である。外科手術後や、先天性の血液疾患、梗塞などからの回復時に投与される血栓防止のためのヘパリン投与時など、APTT測定値による判断が必要とされている。APTTは、内因系の因子に影響され、出血傾向がある場合に測定されることが多い。APTT測定値が延長している異常が見られる場合、内因系I,II,V,X各因子の欠乏、あるいは内因系・外因系の両方に関与するVIII,IX,XI,XII因子の欠乏が考えられる。
【0004】
PTやAPTTのような血液凝固学的測定により得られる指標は、カスケード反応としては最後の部分にあたるフィブリノゲンがフィブリンに転換される現象を、時間という単位に換算して観測している。PTおよびAPTTの基本的な測定は、被測定者から採取した血液から、遠心分離により血球を除去した血漿を用いて行われる。血漿にあらかじめ活性化剤を加えて、血漿中に含まれる凝固因子を活性化させたのち、PTあるいはAPTTを測定する。
【0005】
従来、APTTは、PT測定と同様に、凝固活性化を促す成分を含む試薬である活性化剤と血漿サンプルとを試験用容器内で混合した上で、かくはん方式または光散乱方式により測定されていた。かくはん方式は、試験用容器内に血漿サンプルと活性化剤とを一緒に導入してフィンでかくはんし、かくはんの抵抗や温度上昇の時間的変化からAPTTを測定する方法である。光散乱方式は、試験用容器内で血漿サンプルと活性化剤とを混合し、容器に対し光を照射し、凝固に伴う散乱光量の時間的変化をモニタしてAPTTを測定する方法である。特許文献1、特許文献2に開示された方法では、より正確な測定値を得るために、測定値の時間変化をモニタし、測定装置ごとに独自の算出方法を用いている。
【0006】
血液凝固は、異なる反応経路と多数の因子が複雑に絡み合い、あるトリガーによってカスケード反応が進行して起こる現象である。測定対象である血漿サンプル毎に様々な因子の多寡があり、例えば、吸光スペクトルで測定している場合、反応が進むと複数のピークが観測されたり、それらのピーク値が相対的に大きくなったり小さくなったりと、多様な変化がおこる。このような観測において、なるべく正確な値が、多くの血漿サンプルから得られるようなピーク値の算出法の開発が必要となっていた。
上記のように、いずれの方式においても、血液由来のサンプルを容器に入れて測定しており、生体内のように血液が流れる状態での測定は実施していない。また、複雑な凝固反応において、測定に供する血漿サンプル全体が凝固するレベル、いわば凝固反応の終状態レベルまで反応を進行させ観測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平6−50317号公報
【特許文献2】特公平3−11423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、従来の測定方法では、血液由来のサンプルが流れる状態での測定を実施していないという問題点があった。また、複雑な凝固反応の終状態レベルまで反応を進行させて血液凝固パラメータ(APTT)を求めるため、測定に時間がかかるという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、内因系凝固異常をスクリーニングする測定において、血液由来のサンプルが流れている状態のまま、凝固活性因子の指標を迅速に測定することができる凝固活性測定装置、測定チップおよび測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の凝固活性測定装置は、溶液が流れる流路を備えた測定チップの前記流路の表面における屈折率を測定する屈折率測定装置と、前記測定チップの流路中に緩衝液が充填された後に、内因系凝固を活性化する活性化剤と血漿とが混合された血漿サンプルが前記流路中に投入されたときの前記屈折率の変化から、前記流路中を進行する血漿の流速を算出する流速算出手段と、前記血漿の流速と凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間との既知の関係に基づいて、前記流速算出手段が算出した流速から活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性因子指標算出手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の凝固活性測定装置の1構成例において、前記屈折率測定装置は、表面プラズモン共鳴測定装置である。
【0011】
また、本発明は、緩衝液が充填された流路の表面における屈折率に基づいて流路中を進行する血漿の流速を算出し凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性測定装置用の測定チップであって、基板表面に形成された金薄膜と、この金薄膜上に形成された流路とを備え、前記金薄膜は、その一部が凝固反応を阻害する生化学測定用ブロッキング剤により覆われていることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の凝固活性測定方法は、溶液が流れる流路を備えた測定チップの前記流路の表面における屈折率を測定する屈折率測定ステップと、前記測定チップの流路中に緩衝液が充填された後に、内因系凝固を活性化する活性化剤と血漿とが混合された血漿サンプルが前記流路中に投入されたときの前記屈折率の変化から、前記流路中を進行する血漿の流速を算出する流速算出ステップと、前記血漿の流速と凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間との既知の関係に基づいて、前記流速算出ステップで算出した流速から活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性因子指標算出ステップとを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、凝固反応が進行中の状態のままで、凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間を得ることができるため、従来に比べて測定時間を短縮することができる。本発明では、流速が極めて高い凝固能力を求めることができるようになる。また、本発明では、秒数に比べて分解能の高い指標を提供できることから、より精度の高い凝固活性パラメータの測定が可能になる。
【0014】
また、本発明では、測定チップの基板表面に形成された金薄膜の一部を、凝固反応を阻害する生化学測定用ブロッキング剤で覆うことにより、凝固活性を物理的かつ生化学的に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の原理を説明する断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る測定チップの構造を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る測定チップの平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る凝固活性測定装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る凝固活性測定装置において測定チップの測定で得られる入射角−反射率曲線の1例を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る凝固活性測定装置のデータ処理装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態に係るAPTTの測定方法を説明するフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態においてCCDカメラが撮影した画像と血漿の進行方向との関係を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態においてCCDカメラが撮影した画像の1ラインにおける光強度プロファイルの例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態における血漿の流速の算出方法を説明する図である。
【図11】血漿の流速と血漿サンプルの活性との関係の1例を示す図である。
【図12】測定チップに正常域血漿を投入した場合の屈折率変化の例を示す図である。
【図13】測定チップに異常域血漿を投入した場合の屈折率変化の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[発明の原理]
本発明では、血液凝固の活性化を促す成分を含む試薬である活性化剤と血漿サンプルとをあらかじめ混合しておき、活性化剤と混合された血漿サンプルをマイクロ流路に導入して流速から血液凝固パラメータを得る。マイクロ流路内の流速を求めるために、マイクロ流路の表面の位置を細分化して、それぞれの位置の屈折率の時間変化を観測する。
【0017】
図1(A)〜図1(C)は本発明の原理を説明する断面図であり、緩衝液で満たされた測定チップの流路内を進行する血漿サンプルを示す図である。
図1(A)に示すように、測定チップの基板1000上に形成された流路1001内を緩衝液1002で満たす。
【0018】
流路1001内に血漿サンプル1003を投入すると、血漿サンプル1003は、試薬による活性を受け、凝固反応を進行させながら、流路1001内を進行していく(図1(B))。そして、本発明では、血漿サンプル1003の流動性が維持された状態のまま、流速として凝固活性を評価する。流動性が維持されていることから、血漿サンプル1003の投入後、ある一定時間後に緩衝液1004を投入すると、血漿サンプル1003が緩衝液1004により押し出され、洗い流される現象が観測できる(図1(C))。
【0019】
内因性凝固活性を測定できるAPTT測定においては、活性化剤として血管内皮下組織に相当する異物を混合する。この異物の陰性荷電表面にXII因子の陽性荷電タンパクが接触して電気的中性となり、これが活性化されるといわれている。さらに、この活性化されたXII因子(活性化した因子にはaをつけXIIaと記述)が血中のプリカリクレイン、高分子キニノゲン、およびXI因子と複合体を形成し、プリカリクレインがカリクレインに活性化される。カリクレインは高分子キニノゲン共存下において、さらにXII因子を活性化する。
【0020】
XII因子はXI因子を活性化させ、ここにCaイオンが共存したとき、IX因子の活性化がおこりIXaはリン脂質表面にてVIII因子、カルシウムイオンと複合体を形成し、その上でX因子のペプチド結合を加水分解してX因子を活性化させる。さらに、VIII因子はIX因子の補因子として作用し、トロンビンによる活性化も受けてVIIIaとなり、Xaの生成が加速される。
APTTは、血漿サンプルに、第1段階として、異物としてのエラグ酸、脂質、トロンビンを活性化させる組織因子を加えて37℃にて活性化させ、第2段階でCaイオンを加えて、凝固を加速させて測定されている。
【0021】
本発明では、活性化された血漿サンプルがマイクロ流路内を通過する際の流速を測定する。2つの段階で活性化されたサンプルは、流路を流れながら、凝固の最終段階であるフィブリンが形成されていく。一方で、線溶と呼ばれる反応も活性化され、かつ、流れが存在する状況下にあることから、ポリマー化されたフィブリン同士がさらに重合して高分子量のフィブリンを形成する反応に到達しにくい。その結果、APTT活性が高い血漿サンプルでは、流路内を通過する際に粘性は上昇せず、フィブリン形成により生ずるポリマー粒子が流路内を通過していくことが考えられる。
その結果、凝固活性の高い血漿を用いるほど、流路内を進行する速度が大きくなる。反対に、凝固活性の低い血漿では、流速は小さくなる。血漿サンプルの進行速度である流速を求めて、現在一般的に求められているAPTTと相関のある指標を得る。
【0022】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図2は本発明の実施の形態に係る測定チップの構造を示す分解斜視図、図3は測定チップの平面図、図4は本発明の実施の形態に係る凝固活性測定装置の構成を示すブロック図である。
本実施の形態の測定チップ100は、略直方体状の外形をなし積層構造を有している。すなわち、水平方向の大きさが16mm×16mmで厚さが1mmのBK7ガラスあるいはプラスチックからなる矩形板状の透明の基板101と、平面視の外形が基板101と略同一に形成され、基板101上に積層される例えば樹脂からなる両面シール状のシート102と、平面視の外形が基板101と略同一に形成され、シート102上に積層されるアクリル筺体103とを備えている。
【0023】
基板101上には、スパッタリングによって厚さ約50nmの金薄膜104が形成される。さらに、金薄膜104の表面の一部に牛乳由来、魚由来、または化学合成由来の生化学測定用のブロッキング剤105を形成して、金薄膜104の表面を覆う。本実施の形態の測定チップ100では、タンパク質から構成されるブロッキング剤105のスポットを350μm間隔で形成した。このブロッキング剤105のスポットは、基板101上にシート102が積層されたときに、後述する観測領域に位置するように形成されている。ブロッキング剤105のスポットは、凝固反応の化学的障害となるほか、物理的障害としても機能する。タンパク質を含むブロッキング剤はスポットの形成が容易であるため、好適である。
【0024】
金薄膜104の表面にブロッキング剤105のスポットを形成した後に、基板101を水で洗浄して、基板101の金薄膜104の上にシート102を積層する。シート102の後述するインレットに対応する位置には、円孔106が形成されている。また、シート102には、シート102を板厚方向(図2上下方向)に貫通し、円孔106に連通する流路107と、シート102を板厚方向に貫通し、流路107に連通する流路108と、シート102を板厚方向に貫通し、流路108に連通する吸引流路109とが形成されている。流路107が形成されている領域が、観測領域である。
なお、本実施の形態においては、金薄膜104の表面にブロッキング剤105のスポットを形成するものとして説明したが、本発明では、金薄膜104の一部が凝固反応を阻害する生化学測定用ブロッキング剤により覆われていればよく、必ずしもスポットを形成する必要はない。
【0025】
このようにシート102に形成される流路107〜109は、円孔106から測定チップ中央部の流路107へ繋がり、さらに流路108を経て測定チップ周辺部の吸引流路109へと繋がる形状となっている。流路107,108の断面寸法は、測定対象の血漿に対して毛細管現象を発現する寸法に設定されている。また、シート102および流路107〜109は、流路107〜109中に緩衝液が充填された後に流路107〜109中に留まるような材質、流路の高さ、流路の幅、流路の表面状態であることが好ましい。
【0026】
このようなシート102の上にアクリル筺体103を積層する。アクリル筺体103には、緩衝液および測定対象の血漿を投入するための円孔であるインレット110がアクリル筺体103を板厚方向に貫通するように形成されている。このインレット110は、アクリル筺体103がシート102上に積層されたときに、上端が外気に開放されると共に下端が円孔106と連通する位置に形成されている。
【0027】
また、アクリル筺体103には、多数の貫通孔111がアクリル筺体103を板厚方向に貫通するように形成されている。これら多数の貫通孔111は、アクリル筺体103がシート102上に積層されたときに、上端が外気に開放されると共に下端が流路108または吸引流路109と連通する位置に形成されており、観測領域である流路107の部分には形成されていない。貫通孔111の直径は、測定対象の血漿に対して毛細管現象を発現する値、例えば約100ミクロンに設定されている。こうして、基板101とシート102とアクリル筺体103とを組み合わせることで、毛細管現象によって血漿の導入を行うキャピラリーフロー型の流路を有する測定チップ100が完成する。
【0028】
凝固活性測定装置は、図4に示すように、プリズム1と、LEDなどの光源2と、偏光板3と、集光レンズ4と、CCDカメラ5と、データ処理装置6とを有する。本実施の形態では、屈折率測定装置として表面プラズモン共鳴測定装置を利用して凝固活性測定装置を実現しており、図4に示した構成は表面プラズモン共鳴測定装置と同様である。
【0029】
ここで、表面プラズモン共鳴測定装置の測定原理について簡単に説明する。単色光の光源2から放射された光が偏光板3を通過すると、p偏光光のみが通過する。このp偏光光は、集光レンズ4で集光されて半球状のプリズム1に入射する。プリズム1の上面には、基板101がプリズム1と接するように測定チップ100が載置され、基板101側から測定チップ100にp偏光光が入射する。このように、p偏光光をプリズム1を介して測定チップ100に入射させることによって、測定チップ100からの反射光の強度変化をCCDカメラ5で検出する。
【0030】
光源2から放射された光は、プリズム1と測定チップ100の金薄膜104との境界でエバネッセント波となる。一方、この金薄膜104の表面では、表面プラズモン波が生じる。エバネッセント波と表面プラズモン波の波数が一致する入射角のとき、エバネッセント波は表面プラズモン波の励起に使われ、反射光として計測される光量が減少する。このとき、CCDカメラ5によって反射光の強度を測定すると、図5に示すように、エバネッセンス波と表面プラズモン波の共鳴が起こる入射角で、反射率の低下が観測される。エバネッセンス波と表面プラズモン波の共鳴が起こる表面プラズモン共鳴角度は、測定チップ100の金薄膜104に接する被測定物質の屈折率に依存するため、金薄膜104上に例えば抗体などの被測定物質を固定すると、抗原との結合によって抗体の屈折率が変化し、谷の現れる角度が僅かに変化する。この変化を測定することにより、被測定物質の定量を行うことができる。以上が、表面プラズモン共鳴測定装置の測定原理である。
【0031】
図6は本実施の形態の凝固活性測定装置のデータ処理装置6の構成を示すブロック図である。データ処理装置6は、凝固活性測定装置全体を制御する制御部60と、制御部60のプログラム等を記憶する記憶部61と、凝固活性測定装置を使用する使用者が装置に対して指示を与えるための入力部62と、使用者に対して情報を表示するための表示部63とを有する。
【0032】
制御部60は、CCDカメラ5によって撮影された画像を処理して光強度プロファイルを求める画像処理部64と、光強度プロファイルのデータから屈折率の変化を求め、この屈折率の変化から血漿の流速を算出する流速算出部65と、血漿の流速からAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)を算出するAPTT算出部66(凝固活性因子指標算出手段)とを有する。
【0033】
次に、凝固活性測定装置によるAPTTの測定方法について詳細に説明する。図7はAPTTの測定方法を説明するフローチャートである。
まず、測定対象の血漿とAPTT測定用試薬(活性化剤)とをそれぞれ37℃で温めておく。ここで用いたAPTT測定用試薬は、シーメンス(SIEMENS)社製のアクチンFSLで、ウサギ脳由来セファリンと、大豆由来脂質と、エラグ酸とが含まれている。
【0034】
測定チップ100を凝固活性測定装置のプリズム1の平面上に載置し(図7ステップS1)、オーレン緩衝液4μLをインレット110から測定チップ100内に投入する(ステップS2)。緩衝液は、インレット110および円孔106を経て流路107〜109中に充填される。シート102に形成された流路107〜109のうち、観測領域の流路107が最も細くデザインされていることから、緩衝液は流路107内に留まる。
【0035】
そして、データ処理装置6の制御部60は、流速測定を開始する(ステップS3)。次に、37℃に温めた血漿とAPTT測定用試薬(活性化剤)とを20μLずつチューブに加えてピペッティングで攪拌して混合し、この混合した血漿サンプルを37度で一定時間温め、さらに血漿サンプルに0.025mol/Lのカルシウムイオン溶液を20μL加えてピペッティングで攪拌して混合し、カルシウムイオン溶液を混合した血漿サンプル4μLを、インレット110から測定チップ100内に投入する(ステップS4)。血漿サンプルは、インレット110および円孔106を経て流路107中に投入される。
【0036】
血漿サンプルの投入から90秒経過後に、さらにオーレン緩衝液4μLをインレット110から測定チップ100内に投入する(ステップS5)。血漿サンプルは、この追加投入された緩衝液により押し出されるようにして流路107中を進行する。
【0037】
制御部60は、血漿の流速Vを算出し終えた時点で、測定を終了する(ステップS6)。そして、制御部60は、流速VからAPTTを算出する(ステップS7)。制御部60は、算出したAPTTを記憶部61に記憶させ、またAPTTを表示部63に表示させる。以上で、測定が終了する。
各測定チップ100について1回のみ測定を行い、測定を終えた測定チップ100は廃棄される。
【0038】
次に、血漿の流速Vの算出方法について説明する。凝固活性測定装置のCCDカメラ5は、測定チップ100からの反射光を検出して、濃淡画像データを出力する。
データ処理装置6の画像処理部64は、CCDカメラ5から出力された濃淡画像データを取り込み、この濃淡画像データを処理して、光強度プロファイルを画像の1ライン毎に求める。
【0039】
図8はCCDカメラ5が撮影した画像と血漿の進行方向との関係を示す図、図9は画像のYnラインにおける光強度プロファイルの例を示す図である。
図8のX方向は図2〜図4のPX方向に対応し、図8のY方向は図2〜図4のPY方向に対応する。このY方向が、血漿の進行方向に相当する。図8の例では、CCDカメラ5が撮影した画像は、X方向が座標0〜479の480ピクセルからなり、Y方向も座標0〜479の480ピクセルからなるものとしている。図8におけるYnは、画像上のある1ラインのY座標を示している。
【0040】
CCDカメラ5が撮像した画像には、測定チップ100の各所の光の反射率に応じて明るい(反射率が高い)領域と暗い(反射率が低い)領域とが現れる。画像処理部64は、濃淡画像データを処理して、図9に示すような光強度プロファイルを画像の1ライン毎に求める。上記のとおり、図8のX方向は、図2〜図4のPX方向に対応しているので、測定チップ100の金薄膜104に対する光の入射角に対応している。したがって、図9において、光強度が最も弱い位置、すなわち光が最も吸収された位置は表面プラズモン共鳴角度に相当する。
【0041】
屈折率変化を観測する凝固活性測定装置においては、CCDカメラ5の1ライン毎に屈折率を反映したデータが観測される。よって、観測領域の位置にある流路107内において、活性化剤の中を血漿が進行していくと、屈折率変化が起こり、CCDカメラ5の1ライン毎にどのタイミングで血漿進行による屈折率変化が起こったか記録されることになる。
【0042】
データ処理装置6の流速算出部65は、画像処理部64が求めた、観測領域の光強度プロファイルの時系列データから、血漿が進行したことにより生じる屈折率の変化を求めて、この屈折率の変化から血漿の流速Vを算出する。表面プラズモン共鳴角度は、測定チップ100の金薄膜104に接する血漿の屈折率に依存するため、表面プラズモン共鳴角度の変化は、血漿の進行によって屈折率が変化したことを示す。したがって、観測領域の光強度プロファイルの時系列データから、表面プラズモン共鳴角度が変化した時刻(屈折率の変化が起きた時刻)を図8のY方向に沿って読み取れば、屈折率変化の時間変化を求めることができる。そして、この屈折率変化の時間変化の傾きが、血漿の流速Vを示している。
【0043】
図10を用いて、この流速Vの算出方法を説明する。図10は、流速Vの算出方法を視覚的に説明する図であり、屈折率の変化が起きた時刻とY方向の画素位置との関係の1例を示す図である。図10は、観測領域の流路107に対応するX座標(例えばX=230)におけるデータを示している。図10におけるPは、表面プラズモン共鳴角度が変化したY方向の画素位置、すなわち屈折率の変化が起きた画素位置を示している。この屈折率変化の時間変化の傾きy/t(ピクセル/sec)が、血漿の流速Vを示している。CCDカメラ5が撮像した画像におけるY方向の1画素は、流路107上の実距離に換算すると例えば10μmに相当する。したがって、血漿の流速V(μm/sec)は、傾き(ピクセル/sec)×実距離(μm/ピクセル)、すなわちy/t×10(μm/sec)で求めることができる。こうして、データ処理装置6の流速算出部65は、血漿の流速Vを算出することができる。
【0044】
なお、言うまでもなく、血漿の流速Vは時間と共に変化するので、屈折率変化の時間変化の傾きも時間と共に変化する。ここでは、血漿の進行によって最初に屈折率変化が起きた時点以降の複数点の屈折率変化から得られる血漿の流速V、すなわち初速を計算すればよい。
【0045】
次に、ステップS7のAPTTの算出方法について説明する。制御部60のAPTT算出部66は、血漿の流速VとAPTTとの既知の関係が予め登録された記憶部61を参照し、この関係に基づいて、流速VからAPTTを算出する。
まず、血漿の流速VとAPTTとの関係の求め方について説明する。血漿の流速VとAPTTとの関係を求めるには、図7のステップS2で説明したとおり、流路中に緩衝液を充填した測定チップを用い、この測定チップに凝固活性値とAPTTが既知の血漿を投入して、本実施の形態の凝固活性測定装置を用いて血漿の流速Vを算出すればよい。このとき用いるコントロール血漿の活性としては、試薬に付属のデータに記載されている因子活性の平均値を用い、またオーレン緩衝液でコントロール血漿を希釈することで、活性値を調整して測定を実施した。また、コントロール血漿としては、正常域Nの血漿と異常域Pの血漿の2種を用いた。このような測定により、図11に示すような血漿の流速Vと血漿の活性値との関係を求めることができる。流速測定の結果、血漿の活性が高いほど流速が速くなる関係が得られた。流速と活性値との関係は図11に示すように直線性が良い。
【0046】
コントロール血漿のAPTTは付属のデータから取得できる既知の値なので、図11に示した測定結果に基づいて、流速VからAPTTを得る次式を求めることができる。
APTT[sec]=−0.0413×V[μm/sec]+107.04
・・・(1)
【0047】
データ処理装置6の記憶部61には、予め得られた式(1)が登録されている。APTT算出部66は、式(1)を用いて、血漿の流速VからAPTTを算出する。
コントロール血漿の活性を調整するために、オーレン緩衝液で希釈しているが、この希釈率が流速に影響しているか評価するため、活性剤を加えない血漿サンプルにて流速を測定した。その結果、活性剤を加えない血漿サンプルでは、希釈率が高い場合(すなわち、血漿サンプルにおける活性が低い場合)ほど、流速は速くなる結果が得られた。したがって、血漿がAPTT測定用試薬による活性を受けることで、活性が高い血漿サンプルにおいて流速が速い性質が生じていると言える。また、顕微鏡下において、血漿サンプルのAPTT測定用試薬による活性と流れ方を観察した。血漿サンプルをマイクロ流路内に投入すると、数十μm程度の大きさの浮遊物が流れていくのが観測されるが、そこへAPTT測定用試薬を加えて活性化させた場合、血漿サンプルの流れが停滞する様子は見られなかった。
【0048】
一方で、血漿サンプルを投入した後に、さらに緩衝液を投入した観測も実施した。図12は測定チップに活性が約97%の正常域血漿を投入した場合の屈折率変化の例を示す図、図13は測定チップに活性が約16%の異常域血漿を投入した場合の屈折率変化の例を示す図である。図12、図13における(A)、(B)、(C)はそれぞれ図1(A)、図1(B)、図1(C)の状態であることを示している。図12、図13に示すように、屈折率測定装置で測定される屈折率は、測定チップ100にオーレン緩衝液のみが投入されている状態(A)と、血漿サンプルが投入された状態(B)と、さらに凝固測定後にオーレン緩衝液が投入された状態(C)とで大きく変化する。
【0049】
血漿サンプル投入後に緩衝液を投入すると、活性が97%と高い場合でも、16%と低い場合でも、流路表面に緩衝液では洗い流せない吸着物が残存している。したがって、APTT試薬による活性により生成したフィブリンなどが、流路の基板表面において堆積している可能性が考えられる。
【0050】
本実施の形態のデータ処理装置6は、CPU、記憶装置および外部とのインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータにおいて、本発明の凝固活性測定方法を実現させるためのプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPUは、記録媒体から読み込んだプログラムを記憶装置に書き込み、プログラムに従って本実施の形態で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、血液凝固活性因子の指標を測定する凝固活性測定装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1…プリズム、2…光源、3…偏光板、4…集光レンズ、5…CCDカメラ、6…データ処理装置、60…制御部、61…記憶部、62…入力部、63…表示部、64…画像処理部、65…流速算出部、66…APTT算出部、100…測定チップ、101…基板、102…シート、103…アクリル筺体、104…金薄膜、105…ブロッキング剤、106…円孔、107,108…流路、109…吸引流路、110…インレット、111…貫通孔。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液が流れる流路を備えた測定チップの前記流路の表面における屈折率を測定する屈折率測定装置と、
前記測定チップの流路中に緩衝液が充填された後に、内因系凝固を活性化する活性化剤と血漿とが混合された血漿サンプルが前記流路中に投入されたときの前記屈折率の変化から、前記流路中を進行する血漿の流速を算出する流速算出手段と、
前記血漿の流速と凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間との既知の関係に基づいて、前記流速算出手段が算出した流速から活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性因子指標算出手段とを備えることを特徴とする凝固活性測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の凝固活性測定装置において、
前記屈折率測定装置は、表面プラズモン共鳴測定装置であることを特徴とする凝固活性測定装置。
【請求項3】
緩衝液が充填された流路の表面における屈折率に基づいて流路中を進行する血漿の流速を算出し凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性測定装置用の測定チップであって、
基板表面に形成された金薄膜と、
この金薄膜上に形成された流路とを備え、
前記金薄膜は、その一部が凝固反応を阻害する生化学測定用ブロッキング剤により覆われていることを特徴とする測定チップ。
【請求項4】
溶液が流れる流路を備えた測定チップの前記流路の表面における屈折率を測定する屈折率測定ステップと、
前記測定チップの流路中に緩衝液が充填された後に、内因系凝固を活性化する活性化剤と血漿とが混合された血漿サンプルが前記流路中に投入されたときの前記屈折率の変化から、前記流路中を進行する血漿の流速を算出する流速算出ステップと、
前記血漿の流速と凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間との既知の関係に基づいて、前記流速算出ステップで算出した流速から活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性因子指標算出ステップとを備えることを特徴とする凝固活性測定方法。
【請求項5】
請求項4記載の凝固活性測定方法において、
前記屈折率測定ステップは、表面プラズモン共鳴測定装置によって前記屈折率を測定することを特徴とする凝固活性測定方法。
【請求項1】
溶液が流れる流路を備えた測定チップの前記流路の表面における屈折率を測定する屈折率測定装置と、
前記測定チップの流路中に緩衝液が充填された後に、内因系凝固を活性化する活性化剤と血漿とが混合された血漿サンプルが前記流路中に投入されたときの前記屈折率の変化から、前記流路中を進行する血漿の流速を算出する流速算出手段と、
前記血漿の流速と凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間との既知の関係に基づいて、前記流速算出手段が算出した流速から活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性因子指標算出手段とを備えることを特徴とする凝固活性測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の凝固活性測定装置において、
前記屈折率測定装置は、表面プラズモン共鳴測定装置であることを特徴とする凝固活性測定装置。
【請求項3】
緩衝液が充填された流路の表面における屈折率に基づいて流路中を進行する血漿の流速を算出し凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性測定装置用の測定チップであって、
基板表面に形成された金薄膜と、
この金薄膜上に形成された流路とを備え、
前記金薄膜は、その一部が凝固反応を阻害する生化学測定用ブロッキング剤により覆われていることを特徴とする測定チップ。
【請求項4】
溶液が流れる流路を備えた測定チップの前記流路の表面における屈折率を測定する屈折率測定ステップと、
前記測定チップの流路中に緩衝液が充填された後に、内因系凝固を活性化する活性化剤と血漿とが混合された血漿サンプルが前記流路中に投入されたときの前記屈折率の変化から、前記流路中を進行する血漿の流速を算出する流速算出ステップと、
前記血漿の流速と凝固活性因子の指標である活性化部分トロンボプラスチン時間との既知の関係に基づいて、前記流速算出ステップで算出した流速から活性化部分トロンボプラスチン時間を算出する凝固活性因子指標算出ステップとを備えることを特徴とする凝固活性測定方法。
【請求項5】
請求項4記載の凝固活性測定方法において、
前記屈折率測定ステップは、表面プラズモン共鳴測定装置によって前記屈折率を測定することを特徴とする凝固活性測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図8】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図8】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−53960(P2013−53960A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193140(P2011−193140)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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