説明

分光装置及びそれを用いた波長選択スイッチ

【課題】 温度変化が生じても分散特性の変化が十分に小さい分光装置などを提供すること。
【解決手段】順方向の光線が入射する順に、第1群の分散素子と、第2群の分散素子を有し、第1の温度Tにおける順方向の光線の第1群の分散素子からの出射角をθ、第1の温度Tとは異なる第2の温度Tにおける順方向の光線の第1群の分散素子からの出射角をθ’、出射角の差分θ'−θをΔθ、第1の温度Tにおける順方向の光線が第2群の分散素子から出射する光路に沿った光線であって、かつ第2の温度Tにおける逆方向の光線の第2群の分散素子からの出射角をθ”、第1の温度Tにおける順方向の光線の第2群の分散素子への入射角をθ、出射角および入射角の差分θ”−θをΔθ、とそれぞれするとき、ΔθとΔθが略等しいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光装置及び該分光装置を用いた波長選択スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分光技術を用いた装置が数多く提案されている。例えば、特許文献1には回折格子を用いた分光装置が開示されている。また、例えば、特許文献2には回折格子を用いた内視鏡が開示されている。さらに、例えば、特許文献3には、プリズムとデジタルマイクロミラーを用いて分光を行う顕微鏡が開示されている。
【0003】
また、例えば特許文献4には光アドドロップ多重化装置という名称で、波長選択スイッチの基本的な構成が開示されている。
【0004】
ここで、波長選択スイッチとは、ROADM(大容量ネットワークに用いられる、波長多重化された光信号を、光信号のまま分岐/挿入が行えるシステムや技術)におけるノードに配置されるデバイスである。波長選択スイッチは、波長多重されている光信号の伝送経路の切換えを波長毎に行う光スイッチである。
【0005】
波長選択スイッチによって、各ノードでは、波長多重された光信号から任意の波長の光信号を取り出すことや、波長多重された光信号に任意の波長の光を混ぜることが可能である。この波長選択スイッチにおいても回折格子が用いられている。
【0006】
また、例えば特許文献5においては、光分散装置であって、プリズムに隣接して貼り付けられた回折素子を備えている。回折格子の膨張と隣接するプリズムの屈折率変化によって効果が相殺し、出射角度が変化しないものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−187550号公報
【特許文献2】特開2007−135989号公報
【特許文献3】特開2000−199855号公報
【特許文献4】特許第3937403号明細書
【特許文献5】特表2003−509714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の従来技術では、温度が変化した際の出射角度の変化について、まったく記述されていない。
【0009】
また、例えば、特許文献5に記載の従来技術では、温度変化によって分散特性が変化することを課題として挙げ、その対策を行う構成を提案している。ここでは、温度変化によって分散特性が変化することの主たる原因が、回折格子の基板の熱膨張であるとしている。
しかしながら、分散特性が変化する主原因は、回折格子の基板の熱膨張ではないことがある。大気の屈折率が変化する場合や分散素子内を光線が通る場合は、温度変化による分散素子自身の屈折率の変化が、分散特性の変化の主たる原因となりうる。
【0010】
特に高い屈折率をもつ材料を分散素子に使用している場合はその変化が大きい。このような理由で、従来の分光器では、温度変化に対する安定した分散特性をもつことは困難であった。
【0011】
本発明はこの点に着目し、温度変化が生じた場合でも、分散特性の変化が十分に小さい分光装置及びこの分光装置を用いた波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明係る分光装置は、
順方向の光線が入射する順に、第1群の分散素子と、第2群の分散素子を有し、
第1の温度Tにおける前記順方向の光線の前記第1群の分散素子からの出射角をθ
前記第1の温度Tとは異なる第2の温度Tにおける前記順方向の光線の前記第1群の分散素子からの出射角をθ’
前記出射角の差分θ'−θをΔθ
前記第1の温度Tにおける前記順方向の光線が前記第2群の分散素子から出射する光路に沿った光線であって、かつ前記第2の温度Tにおける逆方向の光線の前記第2群の分散素子からの出射角をθ”
前記第1の温度Tにおける前記順方向の光線の前記第2群の分散素子への入射角をθ
前記出射角および入射角の差分θ”−θをΔθ
とそれぞれするとき、
ΔθとΔθが略等しいことを特徴とする。
【0013】
また、他の側面において本発明に従う波長選択スイッチは、上述の分光装置を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、温度変化が生じた場合においても、分散特性の変化が十分に小さい分光装置、及びこの分光装置を用いた波長選択スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態に係る分光装置の全体的な構成例を概略的に示す図である。
【図2】第1の実施形態及び第2の実施形態に係る分光装置の分光部の詳細構造例を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る分光装置の分光部の詳細構造例を示す図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る波長選択スイッチの全体的な構成例を概略的に示す斜視図である。
【図5】第4の実施形態に係る複数のマイクロミラーを含んで構成されるマイクロミラーアレイの構成例を示す斜視図である。
【図6】第4の実施形態に係る分散した光を導くレンズの構成を説明するための図である。
【図7】各実施形態における分光素子の構造を説明するための図である。
【図8】第4の実施形態において2つのシリンドリカルレンズを有するレンズの構成例を示す斜視図である。
【0016】
以下に、本発明のある態様に係る実施形態について、添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお、全図を通して同一の符号は、同一または相当部分を示すものとする。また、この実施の形態により、特許請求の範囲に記載された本発明が限定されるものではない。すなわち、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0017】
(第1の実施形態)
図1は、第1実施形態の分光装置の概略構成を示している。
分光装置は、光線が入力する入射スリット11と、入射スリット11より入射する複数波長の光線16を略平行光に変換するレンズ12と、後述の分光部13と、分光された光をそれぞれ集光するレンズ14と、予め分割された、それぞれの波長帯の光を受光するディテクタアレイ15とを備えている。ディテクタアレイ15は、複数のディテクタ素子を配列して構成されている。
【0018】
図2は、分光部13の構成を示している。分光部13は、プリズム26と、分散素子27とを備えている。プリズム26は、屈折率nの媒質からなり、頂角αである。また、分散素子27は、屈折率nの媒質からなり、頂角α、ピッチp、回折次数mである。
【0019】
プリズム26には、レンズ12から出射した光が入射する。プリズム26は、入射光25が入射、屈折する順に、第1面21と、第2面22とを有する。分散素子27は、プリズム26を出射した光が入射する位置に配置されている。
【0020】
プリズム27に光が入射し、屈折または回折する順に、第1面23と、回折面である第2面24と、第1面と共通である第3面23を有している。分散素子27の第3面23を出射した光は、主に第2面24により分光されていて、図1のレンズ14に向かう。
【0021】
なお、プリズム26、分散素子27の順に進行する光線を、順方向の光線として考える。逆に、分散素子27、プリズム26の順に進行する光線を、逆方向の光線として考える。「順方向」、「逆方向」のより詳細な定義は、後述する。
【0022】
図7(a)、(b)、(c)、(d)は、分散素子27の構成を示している。図7(a)は、分散素子27の断面構成の詳細を示している。図7(b)は、第2面(回折面)24の断面を拡大して示している。図7(c)は、分散素子27を構成するプリズム71の断面構成を示している。図7(d)は、分散素子27を構成するグレーティングチップ72の断面構成を示している。
【0023】
プリズム71とグレーティングチップ72とは同一の硝材で構成されている。プリズム71は図2に示すプリズム26とは、形状が同一である必要はなく、頂角αを持つ。グレーティングチップ72は、平行平面板の片側表面に溝がピッチpで刻まれたものである。図7(b)は、その溝形状を示している。
【0024】
プリズム26の媒質と、分散素子27の媒質とは、同じ材料で構成されており、材料は、光学ガラス、結晶材料、樹脂材料、及び金属材料のうちの何れか一つであることが望ましい。
【0025】
また、本実施形態では、上述したように、プリズム26の媒質と、分散素子27の媒質とは、ともに同じシリコンである。
【0026】
グレーティングチップ72の溝は、紙面に対し垂直方向に形成されている。分散素子27は、プリズム71の接合面73と、グレーティングチップ72の接合面74とを接合して構成されている。
【0027】
以上の構成により、複数の波長の光を有し紙面内に含まれる入射光は、第1面23から入射して、回折面である第2面24に到達して回折される。これにより、第2面24で回折された入射光は、複数の波長の光、すなわち分散光に分散される。分散光は、同紙面内に生ずる。
【0028】
また、第1の温度Tにおける順方向の光線について、
プリズム26の第1面21の入射角を角度θ
プリズム26の第1面21の屈折角を角度θ
プリズム26の第2面22の入射角を角度θ
プリズム26の第2面22の屈折角を角度θ
分散素子27の第1面23の入射角を角度θ
分散素子27の第1面23の屈折角を角度θ
分散素子27の第2面24の入射角を角度θ
分散素子27の第2面24の回折角を角度θ
分散素子27の第3面23の入射角を角度θ
分散素子27の第3面23の屈折角を角度θ10
とそれぞれ定義する。「順方向」の詳細な定義は、後述する。
【0029】
このとき、プリズム26の屈折率nの温度係数dn/dTと分散素子27の屈折率nの温度係数dn/dTの符号が同じであるとする。
プリズム26の第2面22と、分散素子27の第1面23とは、図2に示す角度γをなす。
【0030】
例えば、温度T=20°Cにおいて、入射光25に含まれる波長λと、上述のn、α、n、α、p、m、γとθが定められているとき、角度θ〜角度θ10は、式(1)から式(9)により一意的に決まる。
【0031】
このうち式(1)、式(3)、式(5)、式(7)、式(9)は、式(10)に記載のスネルの法則や回折の式から求められる。式(2)、式(4)、式(6)、式(8)は単なる幾何の関係である。
なお、数式は、まとめて表7に掲げる。
【0032】
例として、プリズム26と分散素子27がともにシリコンからなる場合、n、α、n、α、p、m、γ、θ、dn/dT、dn/dTが表1で与えられるとする。このとき式(1)から式(9)により角度θから角度θ10が求まる。その結果を表2に掲げる。
【0033】
次に、温度T=40℃になった場合を考える。
温度Tから温度Tの変化に伴うプリズム26の媒質の屈折率変化をΔn
温度Tから温度Tの変化に伴う分散素子27の媒質の屈折率変化をΔn
とそれぞれする。
温度Tから温度Tの間の平均のdn/dT、dn/dT用いて、Δn、Δnは式(12)で求まる。
【0034】
したがって、温度Tにおける各定数は、表1に掲げる値に比較して、屈折率n、nのみが表3に掲げるように変化する。このとき式(1)から式(3)における各角度θからθの記号を、それぞれ引用符「'」(シングルクォーテーション)を付加して解くことにより、角度θ'からθ'が求まる。その結果の値を、表4の角度θ’からθ'に掲げる。
【0035】
プリズム26から角度θ'にて屈折し出射された光は、分散素子27で回折される。さらに、その後、表4の角度θ'10の角度で分散素子27から出射する。角度θ'10は分散素子27の第3面23から出射する光線の屈折角である。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
次に、温度Tにおける、順方向の光線とは逆方向の光線を仮定する。ここで、「順方向」とは、入射スリット11からディテクタアレイ15に向かって進行する方向をいう。また、「順方向の光線とは逆方向」とは、ディテクタアレイ15から入射スリット11に向かって進行する方向をいう。
【0044】
光線の向きが、順方向に対して逆転した場合、例えば、分散素子27の第3面23に関して光線は、分散素子27の外部(空気)側から入射する。このときの入射角を角度θ”10とする。同様に、温度Tにおける、逆方向の光線を仮定した場合、上述で定義した各角度θ〜θ10の記号を、それぞれ二重引用符「”」(ダブルクォーテーション)を付加して表すものとする。
【0045】
温度Tにおける角度θ”10と、温度Tにおける角度θ10と、が等しくなるようにして、逆方向の光線を分散素子27に入射させる場合を仮定する。このとき、式(5)から式(9)における各角度θ〜θ10の記号を、それぞれ二重引用符「”」(ダブルクォーテーション)を付加し、式(9)から逆に解く。これにより、角度θ”から角度θ”が求まる。その結果の値を表5に掲げる。
【0046】
ここで、表2において引用符「'」(シングルクォーテーション)を付していない角度θは、温度T1の順方向の光線に関する角度を示している。表4において引用符「'」(シングルクォーテーション)を付している角度θ'は、温度Tの順方向の光線における角度を示している。さらに、表5において二重引用符「”」(ダブルクォーテーション)を付している角度θ"は温度T2の逆方向の光線に関する角度を示している。
【0047】
表2の温度Tにおける角度θと、表4の温度Tにおけるθ’との差分をΔθ(=θ’−θ)とする。また、表2の温度Tにおけるθと、表5の温度Tにおけるθ”の差分をΔθ(=θ”−θ)とする。計算の結果を表6に掲げる。
この値は「角度Δθと角度Δθが略等しい」を満たしている。
【0048】
このように、n、α、n、α、p、m、γ、θ、dn/dT、dn/dTの各パラメータのセットを適切に与えると、角度Δθと角度Δθを略等しくすることができる。
【0049】
そして、角度Δθと角度Δθが略等しい状態では、角度θ'と角度θ”が略等しくなる。同様に、角度θ'10と角度θ”10が略等しくなる。ここで、上述したとおり、逆方向の光線を分散素子27に入射させる際、角度θ10と角度θ”10が等しいことを仮定している。従って、角度θ10と角度θ'10が略等しいこととなる。
【0050】
以上により、ΔθとΔθを略等しくすることで、温度変化が起こったとしても、順方向の光線について分散素子27からの出射角を略一定に保つことができる。そして、分散素子27からの出射角を略一定に維持することで、温度変化が起こったとしても、分光部13の分散特性の変化を十分に小さくすることができる。
【0051】
分光部13から出射される光は、レンズ14を透過した後、ディテクタアレイ15上に集光する。上述の特性を備える分光部13を有する分光装置によれば、波長λの光は、温度Tの場合及び温度Tの場合のいずれの場合においても、温度変化に影響を受けることなく、常に同一のアレイに入射する。同様に、波長λとは異なる他の波長の光に関しても、ディテクタアレイ15における他のアレイにほぼ垂直に入射する。
このように、本実施形態の分光装置によれば、同じ波長λの光の集光位置は、ディテクタアレイ15において、温度に関わらず、ほぼ変化しないこととなる。
【0052】
次に、本実施形態について、異なる観点に基づいて説明する。本実施形態において、表2の数値と式(E)よりkを算出すると、k=0.961となる。また、Δn/Δn=1である。本実施形態は、「式(E)で決定されるkと|Δn/Δn|の値が略等しい」という条件を満足している。
【0053】
「式(E)で決定されるkと|Δn/Δn|の値が略等しい」という条件を満足すると、順方向の光線について分散素子27からの出射角θ10は、たとえ温度Tが変化した場合でも、ほぼ変化しなくなる。
【0054】
すなわち、温度Tのとき、波長λの光線は、分散素子第3面(=第1面)から角度θ10で出射する。そして、出射した光線は、レンズ14(図1参照)で集光され、ディテクタアレイ15のうちの何れかのディテクタにより検出される。
【0055】
また、温度Tに変化した場合でも、角度θ10の値はほとんど変わらない。この結果、波長λの光は、温度Tにおいても、温度Tにおいて入射した同じアレイに入射することができる。さらに、波長λとは異なる他の波長の光も、ディテクタアレイの別のアレイにほぼ垂直に集光し、入射する。
【0056】
また、プリズム26の第1面21と第2面22の交線と、プリズム26の第2面22で屈折する光線を含む入射平面(紙面)と、の交点を交点Aとする。
分散素子27の第1面23と第2面24の交線と、プリズム26の第2面22で屈折する光線を含む入射平面(紙面)との交点を交点Bとする。
【0057】
さらに、プリズム26と分散素子27との間に存在する光線の光路に沿った直線を考える。
上述の交点Aと交点Bとは、入射平面(紙面)内において、この直線で区切られる2つの領域に関して、互いに異なる領域に存在するように構成されている。
【0058】
このような構成において、本実施形態では、プリズム26の屈折率と、分散素子27の屈折率が等しい。このため、温度変化によって、プリズム26の第2面22からの光線の出射角が大きくなると、分散素子27の第1面23への入射角も大きくなる。このため、プリズム26の第2面22からの光線の出射角を小さくすると、分散素子27の第1面23への入射角も小さくすることができる。これにより、角度Δθと角度Δθとを略等しくすることが容易となる。
【0059】
また、順方向の光線は、図1のレンズ12により平行光に変換された光束に含まれる1本の光線とすることができる。
【0060】
また、プリズム26の第1面21に順方向の光線が入射する側(入射スリット11側)の光路内に図1に示すレンズ12を配置する構成とすることができる。なお、レンズ12の代わりに、パワーを持つ反射鏡を配置しても良い。
【0061】
また、分散素子27の第3面23から順方向の光線が射出する側(ディテクタアレイ15側)の光路内に図1に示すレンズ14を配置する構成とすることができる。なお、レンズ14の代わりに、パワーを持つ反射鏡を配置しても良い。
【0062】
さらに、レンズ14は、透過した後の各波長の主光線をテレセントリックにすることが望ましい。これによりレンズ14を透過した後の各波長の光は、ディテクタアレイ15のそれぞれの波長に対応したアレイにほぼ垂直に入射する構成とすることができる。
【0063】
本実施形態の構成では、分散素子27からの出射角を略一定に維持することで、温度変化が起こったとしても、分光部13の分散特性の変化を十分に小さくすることができる。これにより、温度変化が起こった場合であっても、分散特性の変化を十分に小さくできるという効果を奏する。
さらに、波長λの光は、温度変化によらず同じディテクタアレイに入射する。したがって、所定の波長の光は、温度変化のために隣のディテクタ素子で検出されることがないという更なる効果も奏する。
【0064】
加えて、本実施形態では、順方向の光線が入射する順に、プリズム26と、分散素子27とが配置される構成となっている。このため、波長λの光を含む複数波長の光が順方向に入射するとき、プリズム26による分散は小さい。このため、プリズム26から出射して、分散素子27に入射する光の光束径は、あまり拡がることがない。従って、分散素子27を小型に構成することができるという更なる効果も奏する。
【0065】
加えて、本実施形態では、分散素子27を構成する媒質として、高屈折率材料のシリコンを用いている。このため、分散素子27の第2面24において回折、分散された2波長の光に関して、第3面23から空気中に射出するときの屈折角(=出射角)の2波長間の差分が大きくなる。これにより、分散素子27自体は高分散素子となる。そして、分散素子27を有する分光部13としては高波長分解能が得られるという更なる効果を奏する。
【0066】
加えて、本実施形態では、レンズ12により光量を有効に用いることが可能となる。従って、検出感度の高い分光装置を得られるという更なる効果を奏する。
【0067】
加えて、本実施形態では、分散素子27により分散された光は、分光部13から波長により異なる角度で出射する。レンズ14は、出射した光を波長ごとに異なる位置に集光する。これにより、波長分解能の高い分光装置が得られるという更なる効果を有する。
【0068】
加えて、本実施形態では、レンズ14は、ディテクタアレイ15上に光をテレセントリックに集光する。このため、ディテクタアレイ15に対して、各波長の光の主光線が垂直に入射する。ここで、ディテクタアレイ15の組立時に、組み立て誤差が生じる場合がある。組み立て誤差が生じると、ディテクアレイ15を構成する各ディテクタの位置が設定値と異なり、例えば光軸方向の位置ずれを招く。
ディテクタアレイ15に対して、各波長の光の主光線が垂直に入射する構成とすることで、ディテクタアレイ15の光軸方向の位置ずれが生じている場合でも、その位置ずれの影響を低減できる。このため、検出波長ずれの小さい分光装置を得られるという更なる効果を奏する。
【0069】
(第1実施形態の変形例)
次に、上述した第1実施形態の変形例について説明する。本変形例では、分散素子として、いわゆる、イマージョングレーティングを用いる。イマージョングレーティングは、プリズムグレーティング、グリズム、カーペンタープリズムとも呼ばれるものである。
【0070】
また、プリズム26と分散素子27との間の光路内に、折り返しミラーを配置しても良い。その場合、図2で示す角度γは、折り返しミラーを光路内に挿入することにより、適切な角度へ変更することが望ましい。
【0071】
また、グレーティングチップ72(図7(d)参照)は、断面形状が台形、つまり接合面74と回折面24とが非平行であっても良い。この場合においても、分散素子27の頂角αは、第1面23と、回折面である第2面24とのなす角である。
【0072】
また、分散素子27は、一体成型で製造することでも良い。一体成型によれば、母材であるプリズム71(図7(c)参照)に対して直接溝を形成する。
【0073】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態にかかる分光装置について説明する。
本実施形態は、上述した第1の実施形態の分光装置に比較して、プリズム26と分散素子27を構成する媒質が異なっている点が相違している。第1の実施形態と同じ部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0074】
プリズム26の媒質と、分散素子27の媒質とは異なる材料で構成され、材料は、光学ガラス、結晶材料、樹脂材料、及び金属材料のうちの何れか一つであることが望ましい。
【0075】
プリズム26の媒質をF5(SCHOTT社製)、分散素子27の媒質をN−BK7(SCHOTT社製)とする。このとき、温度T=20°Cにおける各パラメータの値は表1に掲げる値である。そして、式(11)から式(19)により角度θから角度θ10が求まる。その結果の値を、表2に掲げる。表2の数値と式(E)よりkを求めるとk=1.2449となっている。
【0076】
次に、温度T=80°Cになった場合を考える。
温度Tから温度Tまでの間において、dn/dT、dn/dTは大きく変化しないと仮定する。
この温度の変化に伴うプリズム26の媒質の屈折率変化をΔn
この温度の変化に伴う分散素子27の媒質の屈折率変化をΔn
とそれぞれする。このとき、Δn、Δn は式(12)で求まる。
【0077】
したがって、温度Tにおける各定数は、表1に掲げる値に比較して、屈折率n、nが変化する。その変化した値を表3に掲げる。
その結果、本実施形態では、k=1.2449、Δn/Δn=1.2449となる。
【0078】
これにより、本実施形態では、「式(E)で決定されるkと|Δn/Δn|の値が略等しい」という条件を満足している。
かかる条件を満たす場合、式(1)から式(9)における各角度θからθ10の記号を、それぞれ引用符「'」(シングルクォーテーション)を付加して解くことにより、温度Tにおける角度θ’から角度θ’10が求まる。その結果の値を表4に掲げる。
【0079】
温度Tのとき、波長λの光線は分散素子の第3面23(=第1面)から角度θ10で出射する。出射した光は、図1のレンズ14でディテクタアレイ15上に集光される。そして、集光された光は、ディテクタアレイ15の何れかのディテクタ素子によって検出される。
【0080】
このように、本実施形態では、温度がTに変化した場合でも、角度θ10の値はほとんど変化しない。このため、温度Tにおける波長λの光は、温度Tにおいて入射したディテクタアレイ15のうちのディテクタ素子と同一のディテクタ素子に入射する。さらに、その他の波長の光に関しても、ディテクタアレイ15のうちの波長λの光が入射するディテクタ素子とは異なるディテクタ素子に対してほぼ垂直に集光し、入射する。
【0081】
本実施形態では、「式(E)で決定されるkと|Δn/Δn|の値が略等しい」という条件を満足する。このため、温度変化が生じた場合でも、分散素子27から出射される出射角θ10の値はほとんど変わらない。これにより、分散素子27からの出射角を略一定に維持することで、温度変化が起こったとしても、分光部13の分散特性の変化を十分に小さくすることができる。これにより、温度変化が起こった場合であっても、分散特性の変化を十分に小さくできるという効果を奏する。
【0082】
また、プリズム26の媒質F5(SCHOTT社製)の屈折率nの温度係数dn/dTの符号と、
分散素子27の媒質N-BK7(SCHOTT社製)の屈折率nの温度係数dn/dTの符号と、は同じである。
【0083】
さらに、上記第1の実施形態で説明した配置構成と同様に、上述の交点Aと交点Bとは、入射平面(紙面)内において、プリズム26と分散素子27との間に存在する光線の光路に沿った直線で区切られる2つの領域に関して、互いに異なる領域に存在するように構成されている。
表2より角度θと角度θがほぼ等しい角度となっている。また、角度θと角度θ10がほぼ等しい角度となっている。
【0084】
プリズム26と分散素子27との配置は、上述したように、上記第1の実施形態と同一である。この配置のとき、屈折率の温度変化に起因する光線の出射角のずれ方(変化する方向)は、プリズム26と分散素子27とで逆方向となる。
【0085】
また、式(E)から計算されるkの値と、Δn/Δnの比の値とは、ほぼ同じである。このため、屈折率の温度変化に起因する光線の出射角のずれ方(変化する方向)は、その大きさも等しくなる。このため、波長λの光は温度変化に関わらず、ディテクタアレイ15のうちの同一のディテクタ素子に入射する。したがって、一定の波長が温度変化のために隣のディテクタで検出されることがないという更なる効果を奏する。
【0086】
加えて、本実施形態では、プリズム26の媒質と、分散素子27の媒質とがともに光学ガラスであるが異なっている。光学ガラスは、その物理特性が詳細に調べられており安定的に供給される。このため、分光装置を製造するに際して、詳細な設計と、安定的な製造とが可能になるという更なる効果を奏する。
【0087】
加えて、角度θと角度θが、ほぼ等しい角度となっている。また、角度θと角度θ10がほぼ等しい角度となっている。このため、プリズム26の第1面21と第2面22に施す反射防止(Anti Reflection、AR)コートは1種類で済ますことができる。さらに、分散素子27の第1面23に施すARコートも最小限の入射角依存性を考慮したコートで済むという更なる効果を奏する。
【0088】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態にかかる分光装置について説明する。本実施形態は、第1の実施形態に比較して、図1の分光部13の構成が異なっている。上記第1の実施形態と同一の部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0089】
図3は、本実施形態の分光部13の概略構成を示している。上述の第1の実施形態では、プリズム26の頂角Aは紙面右方向を向くように配置されている。また、分散素子27の頂角Bは紙面左方向を向くように配置されている。
これに対して、本実施形態では、プリズム26の頂角Aは紙面左方向を向くように配置されている。また、分散素子27の頂角Bは、プリズム26と同様に、紙面左方向を向くように配置されている。
【0090】
かかる構成において、第1の実施形態と同じように角度θから角度θ10を定義する。
このとき、屈折率nの温度係数dn/dTと、屈折率nの温度係数dn/dTの符号は異なっている。
プリズム26の第2面22と、分散素子27の第1面23とが紙面内において角度γ’をなしている。
なお、プリズム26の媒質はN−PK51(SCHOTT社製)、分散素子27の媒質はN−BK7(SCHOTT)とする。
【0091】
このとき、温度T=20°Cにおける各パラメータの値を表1に掲げる。式(1)から式(3)、式(11)、式(5)から式(9)により、角度θから角度θ10が求まる。その結果の値を表2に掲げる。表2に掲げる数値と、式(E)より、kを求めるとk=2.9796となっている。
【0092】
次に、温度T=80°Cになった場合を考える。
温度Tから温度Tまでの間において、dn/dT、dn/dTは大きく変化しないと仮定する。
この温度の変化に伴うプリズム26の媒質の屈折率変化をΔn
この温度の変化に伴う分散素子27の媒質の屈折率変化をΔn
とそれぞれする。Δn、Δnは、式(12)で求まる。
【0093】
したがって、温度Tにおける各定数は、表1に掲げる値に比較して、屈折率n、nのみ変化する。表3は、変化した屈折率n、nを掲げる。このとき、式(1)から式(3)、式(11)、式(5)から式(9)における各角度θからθ10の記号を、それぞれ引用符「'」(シングルクォーテーション)を付加して解くことにより、角度θ’から角度θ’10が求まる。その結果の値を表4に掲げる。
【0094】
温度Tのとき、波長λの光線は、分散素子27の第3面(=第1面)から角度θ10で出射する。レンズ14は、出射した光をディテクタアレイ15上に集光する。集光された光は、ディテクタアレイ15のうちの何れかのディテククタ素子によって検出される。
【0095】
本実施形態では、温度Tに変化した場合でも、角度θ10の値はほとんど変わらない。このため、波長λの光は、温度Tにおいて入射したディテクタ素子と同一のディテクタ素子に入射する。さらに、その他の波長の光に関しても、ディテクタアレイ15のうちの波長λの光が入射するディテクタ素子とは異なるディテクタ素子に対してほぼ垂直に集光し、入射する。
【0096】
本実施形態では、
式(E)よりk=2.9796でΔn/Δn=−2.9796であるから、
「式(E)で決定されるkと|Δn/Δn|の値が略等しい」を満足する。
このため、温度変化が生じた場合でも、分散素子27から出射される光の出射角θ10の値はほとんど変わらない。これにより、分散素子27からの光の出射角を略一定に維持することで、温度変化が起こったとしても、分光部13の分散特性の変化を十分に小さくすることができる。これにより、温度変化が起こった場合であっても、分散特性の変化を十分に小さくできるという効果を奏する。
【0097】
また、プリズム26の媒質N-PK51(SCHOTT社製)の屈折率nの温度係数dn/dTの符号と、分散素子27の媒質N-BK7(SCHOTT社製)の屈折率nの温度係数dn/dTの符号と、は異なる。
さらに、上記第1、2の実施形態で説明した配置構成は異なり、上述の交点Aと交点Bとは、入射平面(紙面)内において、プリズム26と分散素子27との間に存在する光線の光路に沿った直線で区切られる2つの領域に関して、互いに同じ側の領域に存在するように構成されている。
【0098】
プリズム26と分散素子27との配置は、上述したように、上記第1の実施形態と同一である。この配置のとき、屈折率の温度変化に起因する光線の出射角のずれ方(変化する方向)は、プリズム26と分散素子27とで逆方向となる。
【0099】
また、式(E)から計算されるkの値と、Δn/Δnの比の値とは、ほぼ同じである。このため、屈折率の温度変化に起因する光線の出射角のずれ方(変化する方向)は、その大きさも等しくなる。このため、波長λの光は温度変化に関わらず、ディテクタアレイ15のうちの同一のディテクタ素子に入射する。したがって、一定の波長が温度変化のために隣のディテクタで検出されることがないという更なる効果を奏する。
【0100】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態にかかる波長選択スイッチについて説明する。
図4は、本実施形態にかかる波長選択スイッチの概略構成を示している。
【0101】
分光装置500は、複数の光ファイバからなるファイバアレイ501と、マイクロレンズアレイ502と、レンズ506と、分光部503と、レンズ504と、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)モジュールであるマイクロミラーアレイ505とを備えている。
【0102】
ファイバアレイ501内の各光ファイバと、マイクロレンズアレイ502内の各マイクロレンズとが、対になるように構成されている。そして、この対の光ファイバとマイクロレンズとがアレイ状に配置されている。ファイバアレイ501は、光入出力ポートとして機能する。
【0103】
複数の光ファイバのうちの一つの光ファイバ(以下、適宜「第1の光ファイバ」という。)から、波長多重された信号光が、分光部503に向けて出射される。光ファイバから出射した光は、マイクロレンズアレイ502で平行光束に変換され、レンズ506を通って分光部503に入射する。
【0104】
図8は、レンズ506の概略構成を示している。
レンズ506は、マイクロレンズアレイ502と分光部503との間の光路内に配置されている。レンズ506は、相互に異なるパワーを有するシリンドリカルレンズ507と508から構成される。ここで、シリンドリカルレンズ507と508は、そのパワーの方向を互いに垂直になるように配置されている。
【0105】
分光部503としては、図2に示す第1の実施形態の分光部13で用いられた分散素子27とプリズム26のペアを用いる。分光部503は、入射した波長多重光を帯状に1次元方向に分散する。なお、分光部503の構成及び機能は、第1の実施形態で説明したものと同じであるため、重複する説明は省略する。
【0106】
図4に戻って、説明を続ける。レンズ504は、分光部503によって分散された光を、光偏向部材であるマイクロミラーアレイ505上の波長ごとの所定位置に導く。マイクロミラーアレイ505上において、それぞれの波長の光の集光点の形状は、レンズ506の波長分散方向とファイバアレイ方向のパワーが異なることにより楕円形状になっている。
【0107】
MEMSモジュールであるマイクロミラーアレイ505は、分光部503で帯状に分散された光の波長に対応する複数のマイクロミラーMのアレイ(MEMSミラーアレイ)を有する。
【0108】
より具体的には、温度TにおけるITUグリッドの中心周波数が、各マイクロミラーMの中心に位置するように、マイクロミラーMのアレイの個々のミラーの幅やミラーピッチが設定されている。
【0109】
図5は、マイクロミラーアレイ505の概略構成を示している。マイクロミラーMは、それぞれローカルのx軸とy軸の周りに回転が可能である。マイクロミラーMは、主にy軸に関する回転により、入射した光を入射方向とは異なる方向へ反射する。
【0110】
図4において、マイクロミラーアレイ505の複数のマイクロミラーMにより、入射方向とは異なり、かつ同じ方向、例えば方向Dに反射された光は、再びレンズ504に入射する。レンズ504へ再び入射した光は、分光部503に統合される。分光部503により回折された後は、再び多波長成分の同一光束となる。
【0111】
これに対して、異なるマイクロミラーにより、入射方向とも方向Dとも異なる方向に反射された光は、再びレンズ504に入射する。入射した光は、レンズ504により分光部503にリレーされる。リレーされた光は、分光部503により回折される。ここで、方向Dの方向に反射された光と、方向Dとは異なる方向に反射された光とは統合されない。
【0112】
これらの光はファイバアレイ501の入力ポートとは異なる他の何れかのファイバ(以下、適宜「第2の光ファイバ」という。)に入射する。また、方向Dに反射した光と、方向Dとは異なる方向に反射した光とは、それぞれ異なるファイバに入射する。
【0113】
このように、第1の光ファイバから出射した多波長成分の光は、波長ごとにマイクロミラーアレイのそれぞれのミラーMの傾き角により選択的に第2の光ファイバに入射させることができる。
【0114】
なお、本実施形態では、1つの光入力ポートから複数の光出力ポートへの結合に関して説明したが、複数の光入力ポートから1つの光出力ポートへの結合を行うことも可能である。
【0115】
本実施形態にかかる波長選択スイッチは、上記第1の実施形態で説明した分光部13を有している。このため、表6で掲げるような「ΔθとΔθが略等しい」という条件を満足する構成である。
【0116】
さらに、本実施形態のプリズム26と分散素子27はともにシリコンから構成されている。このとき、式(E)よりk=0.961であり、Δn/Δn=1である。このことから、「式(E)で決定されるkと|Δn/Δn|の値が略等しい」も満足する構成である。
【0117】
図6は、レンズ504の断面の構成を示している。レンズ504において、両凸正レンズの硝材はSK11(SCHOTT社製)、両凹負レンズの硝材はSF5(SCHOTT社製)である。レンズ504は、このような両凸正レンズと両凹負レンズとを接合して構成されたアクロマートレンズである。このため、分光部503から出射したそれぞれの波長の光を、色収差が少なくそれぞれの波長ごとに所定位置へ集光できる。
【0118】
(作用効果)
上記構成により、本実施形態では、温度変化が生じた場合においても、分散特性の変化が十分に小さいので、常に安定した波長選択を行うことができるという効果を奏する。
また、波長λの光は、温度変化に関わらず、同じMEMSミラーに入射する。このため、一定の波長が、温度変化のために意図していない隣のミラーで反射されることがないという更なる効果を奏する。
【0119】
加えて、レンズ504としてアクロマートレンズを用いている。このため、各波長の光に対して収差を小さくしつつ集光することができる。この結果、波長分解能の高い波長選択スイッチが得られるという更なる効果を奏する 。
【0120】
加えて、マイクロレンズアレイ502と分光部503との間の光路内にシリンドリカルレンズ507、508を備えているので、MEMSミラー上で適切な縦横比のスポット形状を形成できる。
【0121】
例えば、図5において、y方向よりもx方向に大きな直径を有するスポットを形成する。これにより、MEMSミラーの回転角を大きくすることなく、適当なスイッチングができる波長選択スイッチを得られるという更なる効果を奏する。
【0122】
また、図5において、x方向よりもy方向に小さな直径を有するスポットを形成することもできる。これにより、ワイドパスバンドな波長選択スイッチ、即ちパスバンドの広い波長選択スイッチを得られるという更なる効果を奏する。
【0123】
加えて、波長選択スイッチにおいては以下の式(F)を満たすことが望ましい。
0.95<Δθ/Δθ<1.05 式(F)
【0124】
Δθ/Δθが式(F)の下限値を下回ったとき、及び上限値を上回ったとき、温度TにおけるITUグリッドの周波数を持つ光線が、マイクロミラーMのアレイの個々のミラーの中心に当たらなくなる。この結果、パスバンドが小さくなるという不都合が生じてしまう。
【0125】
なお、温度Tから温度Tに変化した際、式(E)で決定されるkと、|Δn/Δn|の値と、が略等しい場合においても、プリズム26と分散素子27とを通る光線の光路は変化する。その結果、第3面23より順方向の光線が出射する位置が異なる。
【0126】
分光装置の場合はレンズ14、または波長選択スイッチの場合はレンズ503を通して集光する位置は、光線の第3面23からの出射角に依存する。このため、上述の光線が第3面23より出射する際の位置ずれは、分光装置や波長選択スイッチの性能には影響しない。
【0127】
また、第1の実施の形態で述べた変形例のすべてが、第4の実施の形態の波長選択スイッチが備える分光部においても適用できる。
【0128】
上述した各実施形態においては、式(E)で決定されるkと、|Δn/Δn|の値と、が略等しいとして説明している。ここで、より具体的には、0.9k<|Δn/Δn|<1.1kを満たすことが望ましい。
【0129】
また、|Δn/Δn|の値は、この式の下限を下回ったときも、上限を上回ったときにも、不都合が生じる。この不都合とは、分光装置の場合には、温度T時の波長精度が悪くなることである。波長選択スイッチの場合には、温度TにおけるITUグリッドの周波数を有する光線が、マイクロミラーMのアレイの個々のミラーの中心に照射されずに、パスバンドが小さくなることである。
【0130】
なお、上述した第1〜第3の実施の形態に係る分光装置は、光通信用モジュールのWDM(Wavelenth Division Multiplexing)チャネルイコライザーや波長ブロッカに含まれる分光装置としても利用することができる。
【0131】
本発明は、上述した発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0132】
以上のように、本発明は、温度変化が起こったとしても分散特性の変化が十分に小さい分光装置とそのような分光装置を用いた波長選択スイッチを用いる分野において有用である。
【符号の説明】
【0133】
11 入射スリット
12 レンズ
13 分光部
14 レンズ(集光レンズ)
15 ディテクタアレイ
16 複数波長の光線
21 第1面(プリズム)
22 第2面(プリズム)
23 第1面、第3面(分散素子)
24 第2面(分散素子)
26 プリズム
27 分散素子
71 プリズム
72 グレーティングチップ
73 接合面
74 接合面
501 ファイバアレイ
502 マイクロレンズアレイ
503 分光部
504 レンズ
505 マイクロミラーアレイ(MEMSモジュール)
506 レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
順方向の光線が入射する順に、第1群の分散素子と、第2群の分散素子を有し、
第1の温度Tにおける前記順方向の光線の前記第1群の分散素子からの出射角をθ
前記第1の温度Tとは異なる第2の温度Tにおける前記順方向の光線の前記第1群の分散素子からの出射角をθ’
前記出射角の差分θ'−θをΔθ
前記第1の温度Tにおける前記順方向の光線が前記第2群の分散素子から出射する光路に沿った光線であって、かつ前記第2の温度Tにおける逆方向の光線の前記第2群の分散素子からの出射角をθ”
前記第1の温度Tにおける前記順方向の光線の前記第2群の分散素子への入射角をθ
前記出射角および入射角の差分θ”−θをΔθ
とそれぞれするとき、
ΔθとΔθが略等しいことを特徴とする分光装置。
【請求項2】
前記第1群の分散素子は、プリズムを有し、
前記第2群の分散素子は、分散素子を有し、
順方向の光線が入射する順に、
前記プリズムは、透過面である第1面と、透過面である第2面と、前記第1面と前記第2面との間の光路内に満たされた屈折率が1よりも大きな媒質とを有し、
前記分散素子は、透過面である第1面と、反射回折面である第2面と、第1面と共通の透過面である第3面と、前記第1面と前記第2面との間の光路内に満たされた屈折率が1よりも大きな媒質とを有し、
前記第1の温度Tにおける順方向の光線の、
前記プリズムの前記第1面への入射角をθ
前記プリズムの前記第1面での屈折角をθ
前記プリズム第2面の入射角をθ
前記プリズム第2面の屈折角をθ
前記分散素子第1面の入射角をθ
前記分散素子第1面の屈折角をθ
前記分散素子第2面の入射角をθ
前記分散素子第2面の回折角をθ
前記分散素子第3面の入射角をθ
前記分散素子第3面の屈折角をθ10
前記第1温度Tから前記第2の温度Tに変化した際に生じる前記プリズムの媒質の屈折率変化をΔn
前記第1温度Tから前記第2の温度Tに変化した際に生じる前記分散素子の媒質の屈折率変化をΔn
とそれぞれするとき、式(E)で決定されるkと、|Δn/Δn|の値と、が略等しいことを特徴とする請求項1に記載の分光装置。
【数1】

【請求項3】
前記プリズムの媒質と、前記分散素子の媒質とは、同じ材料で構成されており、
前記材料は、光学ガラス、結晶材料、樹脂材料、及び金属材料のうちの何れか一つであることを特徴とする請求項2に記載の分光装置。
【請求項4】
前記プリズムの媒質と、前記分散素子の媒質とは、ともに同じシリコンであることを特徴とする請求項3に記載の分光装置。
【請求項5】
前記プリズムの前記第1面と前記第2面の交線と、前記プリズムの前記第2面で屈折する光線を含む入射平面と、の交点を交点Aとし、
前記分散素子の前記第1面と前記第2面の交線と、前記入射平面と、の交点を交点Bとするとき、
前記交点Aと前記交点Bとは、入射平面において、前記プリズムと前記分散素子との間に存在する光線の光路に沿った直線で区切られる2つの領域に関して、互いに異なる領域に存在するように構成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の分光装置。
【請求項6】
前記プリズムの媒質と、前記分散素子の媒質とは異なる材料で構成され、
前記材料は、光学ガラス、結晶材料、樹脂材料、及び金属材料のうちの何れか一つであることを特徴とする請求項2に記載の分光装置。
【請求項7】
前記プリズムの媒質の屈折率nの温度係数dn/dTの符号と、前記分散素子の媒質の屈折率nの温度係数dn/dTの符号と、が同じであるとき、
前記プリズムの前記第1面と前記第2面の交線と、前記プリズムの前記第2面で屈折する光線を含む入射平面と、の交点を交点Aとし、
前記分散素子の前記第1面と前記第2面の交線と、前記入射平面と、の交点を交点Bとするとき、
前記交点Aと前記交点Bとは、入射平面において、前記プリズムと前記分散素子との間に存在する光線の光路に沿った直線で区切られる2つの領域に関して、互いに異なる領域に存在するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の分光装置。
【請求項8】
前記プリズムの媒質の屈折率nの温度係数dn/dTの符号と、前記分散素子の媒質の屈折率nの温度係数dn/dTの符号と、が異なるとき、
前記プリズムの前記第1面と前記第2面の交線と、前記プリズムの前記第2面で屈折する光線を含む入射平面と、の交点を交点Aとし、
前記分散素子の前記第1面と前記第2面の交線と、前記入射平面と、の交点を交点Bとするとき、
前記交点Aと前記交点Bとは、入射平面において、前記プリズムと前記分散素子との間に存在する光線の光路に沿った直線で区切られる2つの領域に関して、互いに同じ側の領域に存在するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の分光装置。
【請求項9】
前記順方向の光線は略平行光のうちの一本の光線であることを特徴とする請求項1から請求項8の何れか一項に記載の分光装置。
【請求項10】
前記プリズムの前記第1面に順方向の光線が入射する側の光路内にレンズまたパワーを持つ反射鏡が配置されていることを特徴とする請求項9に記載の分光装置。
【請求項11】
前記分散素子の前記第3面から順方向の光線が射出する側の光路内にレンズまたはパワーを持つ反射鏡が配置されていることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の分光装置。
【請求項12】
前記レンズはアクロマートレンズであることを特徴とする請求項10または請求項11に記載の分光装置。
【請求項13】
前記レンズは透過した後の各波長の主光線をテレセントリックにすること、または前記パワーを持つ反射鏡は反射した後の各波長の主光線をテレセントリックにすることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の分光装置。
【請求項14】
角度θと角度θが略等しいことを特徴とする請求項1から請求項13の何れか一項に記載の分光装置。
【請求項15】
角度θと角度θ10が略等しいことを特徴とする請求項1から請求項14の何れか一項に記載の分光装置。
【請求項16】
請求項1から請求項15の何れか一項に記載の分光装置を用いることを特徴とする波長選択スイッチ。
【請求項17】
前記レンズは少なくとも1つのシリンドリカルレンズを含むことを特徴とする請求項16に記載の波長選択スイッチ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−145373(P2012−145373A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2291(P2011−2291)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】