説明

切削工具、及び該切削工具を用いた部材の粗面形成方法

【課題】この発明は、部材の締付け時において、ボルト、ナット、及び座金等の共回りを防止すべく、ボルト孔周囲の表面に粗面を形成するための切削工具、及び該切削工具を用いた部材の粗面形成方法に関する。
【解決手段】本発明に係る切削工具1は、回転式切削機2の回転部3にその一端側が着脱自在に取付けられる円柱状の軸部4と、該軸部4の他端側に連続して形成され、その先端側面に削り溝5が形成された削り面6を具備する削り部7と、該削り部7の削り面6の中心部に連続して形成され、部材8に形成されたボルト孔9に挿脱自在な円柱状のガイド部10と、を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、部材の締付け時において、ボルト、ナット、及び座金等の共回りを防止すべく、ボルト孔周囲の表面に粗面を形成するための切削工具、及び該切削工具を用いた部材の粗面形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、図8に示すように、2つの部材101a、部材101bを連結する際には、ボルト102のボルト頭102aと部材101bとの間、及びナット103と部材101aとの間にそれぞれ座金104を介在させ、図9に示すように、ボルト102とナット103を螺合することで、これらを連結している。しかし、前述の方法では、部材101a、及び部材101bのそれぞれの表面と座金104との摩擦力が小さく、螺合する際に、ボルト102、ナット103、及び、座金104が図9に示す矢印Aのように共回りするという問題が生じる。このような問題は、部材101a、部材101bの表面が研磨されていたり、該表面に塗装、若しくはメッキ等が施されている場合には特に顕著である。そして、共回りが発生すると、そのままでは締付けができないので、一旦ボルト102からナット103を緩めて再度ボルト102をナット103に螺合する必要がある。しかし、高力ボルトを使用する場合等には、高力ボルトの耐力の観点から当該高力ボルトを緩めてそれを再使用することができず、これを処分する必要があるため経済的に好ましくないという問題がある。さらに、このようなやり直しの作業を余分に行う必要があるため、作業効率が低下するという問題がある。そのため、以下に示すような共回り防止座金が考案されている。
【0003】
この共回り防止座金200は、図10に示すように、被取付部材201を固着するネジ部品202の締付け面203と前記被取付部材201との間に設けられる共回り防止座金200において、前記ネジ部品202の締付け面203に面接触する面に低摩擦係数の塗膜204が被着され、その反対側面には溝205が形成されたものである(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】実開平04−49217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前述の共回り防止座金200を作成する際には、フッ素樹脂系の塗膜204を被着させ、溝205を形成する等の手間がかかるため、該共回り防止座金200の価格が高くなり、結果として施工費用が高くなるという問題がある。
【0006】
この発明は上記のような種々の課題を解決することを目的としてなされたものであって、ボルト、ナット、及び座金等の共回りを防止すべく、ボルト孔周囲の表面に粗面を形成するための切削工具、及び該切削工具を用いた部材の粗面形成方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の切削工具は、回転式切削機の回転部にその一端側が着脱自在に取付けられる円柱状の軸部と、該軸部の他端側に連続して形成され、その先端側面に削り面を具備する削り部と、該削り部の削り面の中心部に連続して形成される円柱状のガイド部と、を具備することを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の切削工具は、前記ガイド部が先端方向に向かって先細るようにテーパー状に形成されていることを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の切削工具を用いた部材の粗面形成方法は、請求項1又は2記載の切削工具を用いて、部材に形成されたボルト孔周囲の表面に粗面を形成することを特徴としている。
【0010】
請求項4記載の切削工具を用いた部材の粗面形成方法は、前記ボルト孔周囲の表面に形成された粗面の径が、ボルト頭、ナット、若しくはこれらと前記部材との間に介在される円盤状の座金よりも小径であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の切削工具によれば、回転式切削機の回転部に着脱自在の軸部を具備している。そのため、汎用性の高いボール盤や、電気ドリル等にも取付けることができるので、既存の設備をそのまま利用することができ経済的である。さらに、削り部の削り面に連続して形成される円柱状のガイド部を具備している。そのため、ガイド部を、部材に形成されたボルト孔に挿入してから回転式切削機の回転部を回転させることで、削り部に形成された削り面によってボルト孔周囲の部材表面を同心円状に荒し、当該箇所に摩擦抵抗の大きい粗面を形成することができる。これにより、部材と直接接触するボルト頭、ナット、若しくは、座金等との摩擦力が向上するため、これらを螺合する際にも共回りが発生することがなく、また、螺合した後も緩み難いという利点がある。従って、高力ボルトを使用する場合にも、該高力ボルトの締め直しを行う必要がなく該高力ボルトの浪費を抑えることができ経済的であり、さらに、締め直しの作業自体を行う必要がないので作業効率を向上することができる。
【0012】
請求項2記載の切削工具によれば、ガイド部が先端方向に向かって先細るようにテーパー状に形成されている。そのため、ガイド部の先端部をボルト孔に容易に挿入することができるという利点がある。
【0013】
請求項3記載の切削工具を用いた部材の粗面形成方法は、請求項1又は2記載の切削工具を用いて、部材に形成されたボルト孔周囲の表面に粗面を形成する方法である。この方法によると、部材表面が研磨され、または、該表面に塗装やメッキが施される等の表面加工がなされていたとしても、摩擦抵抗の大きい粗面を形成することで該部材表面とボルト頭、ナット、及び座金等との間の摩擦力を向上させることができ、共回りの発生を抑制することができる。このため、部材のボルト孔周囲の表面だけ表面加工を行わない、というような複雑な表面加工方法を採用する必要がない。また、汎用の電着塗装で部材全体に塗装したとしても、容易にボルト孔周囲の表面だけを荒らし、該塗装を剥離することができるので作業が効率的である。
【0014】
請求項4記載の切削工具を用いた部材の粗面形成方法によれば、ボルト孔周囲の表面に形成された粗面の径が、ボルト頭、ナット、若しくはこれらと部材との間に介在される円盤状の座金よりも小径である。そのため、ボルトとナットを螺合した後は、ボルト孔周囲に形成された粗面が、座金、若しくは座金を使用しない場合においてもボルト頭、若しくはナットによって覆われるため、当該粗面が外見上視認できず、外観を損なうことがないという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明における切削工具の最良の実施形態について、以下に説明する。本発明に係る切削工具1は、図1、図2、及び図3に示すように、回転式切削機2の回転部3にその一端側が着脱自在に取付けられる円柱状の軸部4と、該軸部4の他端側に連続して形成され、その先端側面に削り溝5が形成された削り面6を具備する削り部7と、該削り部7の削り面6の中心部に連続して形成され、部材8に形成されたボルト孔9に挿脱自在な円柱状のガイド部10と、を具備している。そして、軸部4、削り部7、及びガイド部10は、図1、及び図2に示すように、同軸状に形成されている。
【0016】
前記軸部4は、回転式切削機2の回転部3のチャック11にその一端側が着脱自在に取付けられる円柱状の鋼製の部材である。回転式切削機2は、回転部3を具備し、手動、若しくは、電動で当該回転部3を回転させることのできるボール盤や、電気ドリル等であって、該回転部3にドリルや、研磨用のディスク、ドライバー、レンチ等を着脱自在なチャック11を具備している。そして、本実施形態においては、図3に示すように、商業用電源を使用せずとも駆動可能な、バッテリーVを具備する汎用の電気ドリルを使用している。
【0017】
そして、本実施形態に係る切削工具1おいては、図1、図2、及び図3に示すように、回転部3のチャック11に取付けられる軸部4の一端側に溝12が形成されており、該チャック11に挟持された際に、作業者の意に反して該チャック11から軸部4が離脱することのないようになっている。
【0018】
前記削り部7は、軸部4の他端側、すなわち、チャック11に取付けられる側と反対側に該軸部4と同軸状に円柱状に連続して形成され、部材8の表面Fを荒し、粗面13を形成するための鋼製の部材である。そして、円柱状に形成された削り部7の先端側面、すなわち、部材8の表面Fと接触する側の面には、図1に示すように、該先端側面の中心から放射状に削り溝5を形成した削り面6が形成されている。
【0019】
また、図2に示すように、他の実施形態に係る切削工具1においては、削り部7は、軸部4の他端側に連続して形成され、且つ、該軸部4と同軸状に四角柱状に形成されている。そして、四角柱状に形成された削り部7の先端側面、すなわち、部材8の表面Fと接触する側の面は、図2に示すように、網目状の削り溝5を形成した削り面6となっている。以上のように削り部7が形成されているので、部材8に形成されたボルト孔9の周囲の表面Fを均一に荒らし、該表面Fに摩擦抵抗の大きい粗面13を形成することができるのである。また、削り部7の形状、及び削り面6に形成される削り溝5の形状は上述のような形状に限定されるわけではなく、適宜変更することができるのは勿論である。
【0020】
前記ガイド部10は、前記削り部7に形成された削り面6の中心部に同軸状に連続して形成された円柱状の鋼製の部材である。使用時には、図3に示すように、部材8のボルト孔9にガイド部10を挿入して回転式切削機2の回転部3を駆動させた際に、このガイド部10によって同心円状に回転できる。また、該ガイド部10の径は該ボルト孔9よりも、例えば5mm程度小さく形成されていることが好ましい。これにより、図4、図5及び図6に示すように、ボルト孔9の周囲に同心円状に部材8の表面Fを荒らし、摩擦抵抗の大きい粗面13を形成することができる。さらに、ガイド部10は、図1、及び図2に示すように、その先端方向に向かって先細るようにテーパー状に形成されているので、図3に示すように、ガイド部10をボルト孔9への挿入が容易なものとなる。また、このガイド部10の長さや、テーパー角は、目的に応じて適宜変更することができる。
【0021】
以上のように構成される切削工具1を用いた部材の粗面形成方法について以下に説明する。
【0022】
まず、図1、若しくは、図2に示すように構成される切削工具1を、回転式切削機2としての電気ドリルの回転部3のチャック11に取付ける。そして、図3に示すように、例えば表面Fに電着塗装14が施されている部材8に形成されたボルト孔9に、ガイド部10を挿入する。
【0023】
そして、削り部7の削り面6を部材8の表面Fに軽く押付けるようにして、電気ドリルのスイッチ15を入れ、回転部3を駆動させる。これにより、削り部7の削り面6によって、部材8に形成されたボルト孔9の周囲の表面Fが荒らされ、該部材8に施された塗装14が剥離され摩擦抵抗の大きい粗面13が形成されるのである。このとき、粗面13の径が、座金16の径よりも小さければ、図7に示すように、ボルト17やナット18を締め終えた後に、粗面13が座金16によって覆われるため外観を損なうことがない。図1に示す実施形態に係る切削工具1は、円柱状の削り部7の削り面6の径が、使用される座金16の径よりも小さくなるように形成されているのはこのためである。
【0024】
また、図2に示すその他の実施形態に係る切削工具1は、四角柱状の削り部7の削り面6の対角線の長さが、使用される座金16の径よりも小さくなるように形成されている。さらに、図5に示すように、部材8aと部材8bとを連結する場合において座金16を使用しない場合には、図1に示す円柱状の削り部7の削り面6の径、及び図2に示す四角柱状の削り部7の削り面6の対角線の長さが、ボルト頭17a、及びナット18の径よりも小さくなるように形成することで、上述のように仕上がり後の外観を損なうことがないようにしている。
【0025】
また、図4に示すように、部材8a、部材8bの両側からボルト17とナット18により部材8同士を連結する場合には、部材8aと部材8bの両方のボルト孔9の周囲の表面Fが荒らされた粗面13が形成されることが、ボルト17、ナット18、及び座金16の共回りと共に緩みを防止するという観点から好ましい。しかし、部材8aと部材8bのどちらか一方のボルト孔9の周囲の表面Fが荒らされ、粗面13が形成されていれば、ボルト17、ナット18、及び座金16の共回りを防止する効果を得ることができる。
【0026】
そして、図6に示すように、例えば所定厚みを有し、ネジ穴19が形成された部材Xに、板状の部材8cを固定する場合には、該部材Xと接しない側の表面Fのボルト孔9の周囲にのみ、塗装14が剥離された粗面13を形成すればボルト17、ナット18、及び座金16の共回りと共に緩みを防止することができる。また、座金16を使用しない場合においてもボルト17、及びナット18の共回りと共に緩みを防止することができるのは勿論である。
【0027】
そして、これらの部材8は、例えば金属から形成され、戸建住宅に使用される制震装置、耐震装置、免震装置、柱、基礎、床、屋根等の施工の際に使用される部材を始め、その他の家具や工作機械等に使用される部材であり、その形状も板状、角柱状を始め円筒状等であってもよく、特に限定されるものではない。また、塗装方法も電着塗装に限定されるものではなく、さらに、塗装14の代わりに部材8の表面が研磨され、または、メッキ等が施されていてもよい。
【0028】
以上のようにして、切削工具1で部材8に形成されたボルト孔9の周囲の表面Fを荒らし、該部材8に施された塗装14を剥離し摩擦抵抗の大きい粗面13を形成することで、座金16を使用する場合には、座金16と部材8との間、そして、座金16を使用しない場合には、ボルト頭17aと部材8との間、及びナット18と部材8との間の摩擦力を向上させ、ボルト17をナット18に螺合する際に、ボルト17、ナット18、及び座金16の共回りと共に緩みを防止できるのである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る切削工具1は、ボルト孔9の周囲を荒らすことによる塗装14の剥離だけでなく、削り部7の目の大きさを変えることにより、ボルト孔9の周囲のバフ研磨等にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態に係る切削工具の全体斜視図
【図2】その他の実施形態に係る切削工具の全体斜視図
【図3】本実施形態に係る切削工具の使用状態図
【図4】ボルト孔周囲の表面の塗装が剥離され、座金を介してボルトとナットを用いて2つの部材を連結する状態を示す図
【図5】ボルト孔周囲の表面の塗装が剥離され、ボルトとナットを用いて2つの部材を連結する状態を示す図
【図6】ボルト孔周囲の表面の塗装が剥離され、ボルトを螺合して部材を固定する状態を示す図
【図7】ボルトをナットに螺合した状態を示す図
【図8】ボルト孔周囲の表面が塗装されたままの状態を示す図
【図9】共回りが発生している状態を示す図
【図10】従来技術を示す図
【符号の説明】
【0031】
1 切削工具
2 回転式切削機(電気ドリル)
3 回転部
4 軸部
5 削り溝
6 削り面
7 削り部
8(8a〜c) 部材
9 ボルト孔
10 ガイド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式切削機の回転部にその一端側が着脱自在に取付けられる円柱状の軸部と、
該軸部の他端側に連続して形成され、その先端側面に削り面を具備する削り部と、
該削り部の削り面の中心部に連続して形成される円柱状のガイド部と、
を具備することを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記ガイド部が先端方向に向かって先細るようにテーパー状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の切削工具。
【請求項3】
請求項1又は2記載の切削工具を用いて、部材に形成されたボルト孔周囲の表面に粗面を形成することを特徴とする切削工具を用いた部材の粗面形成方法。
【請求項4】
前記ボルト孔周囲の表面に形成された粗面の径が、ボルト頭、ナット、若しくはこれらと前記部材との間に介在される円盤状の座金よりも小径であることを特徴とする請求項3記載の切削工具を用いた部材の粗面形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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