説明

切削工具

【課題】切刃部の強度を高め刃先摩耗による突発欠損を抑制し切刃寿命の長い切削工具を提供する。
【解決手段】工具本体10の上面11のコーナ部Cに、すくい面42と、逃げ面43と、これらすくい面42と逃げ面43の交差稜線に形成された切刃稜41と、からなる超高圧焼結体製の切刃部40を有し、前記すくい面42から隆起するブレーカ壁面31を有するチップブレーカ30を備えた切削工具1において、前記すくい面42は前記切刃稜41から内方且つ上方に延び前記上面11とのなす角度θ1が5°〜25°の範囲内にあり、前記すくい面42に続くブレーカ壁面31は内方且つ上方に延び前記上面11とのなす角度θ2が25°〜45°の範囲内にあるようにし、前記切刃稜41に沿って設けたホーニング面50は、前記上面11とのなす角度θ3を15°〜40°の範囲内にあり且つ平面視で前記切刃稜41に垂直方向の幅L3を0.05mm〜0.20mmの範囲内にあるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切刃部が超高圧焼結体からなり、高硬度鋼の旋削加工に好適なチップブレーカ付き切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
浸炭焼き入れ鋼、高周波焼き入れ鋼等の高硬度鋼の旋削加工では、刃先が超高圧焼結体からなる切削工具が主に用いられている。この種の従来切削工具を図5に例示する。この従来切削工具は、切屑処理性の向上を目的としたものであり、工具本体1の先端コーナ上面に形成された座溝2に超高硬度焼結体3を接合し、その超高硬度焼結体3に、切刃7、チップブレーカ5、刃先強化用面取部6を設けたチップブレーカ付き切削工具である。そして、工具本体1及び超高硬度焼結体3の各々の上面と側面の交差部に面取部8が形成され、その面取部8の高さHがチップブレーカ加工による超高硬度焼結体3上面からの刃先芯下がり量hよりも大きく、前記刃先強化用面取部6の面が前記高さHの面取部8の面の一部で構成されているものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−155702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来切削工具では、切削加工の進行にともない刃先強化用面取部6の表面がえぐられるように摩耗していく。この摩耗がチップブレーカ5に達すると、このチップブレーカ5を形成した部位は刃先強化用面取部6よりも強度が低いため、切削抵抗に耐えられなくなり切刃が早期に突発欠損する問題があった。特に、立方晶窒化硼素を含有する超高圧焼結体製切削工具により焼き入れ鋼等の高硬度材を切削した場合、切削抵抗が非常に大きくなることから早期に切刃の突発欠損する可能性が高くなる問題があった。
【0005】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、切刃部の強度を高め刃先摩耗による突発欠損を抑制し切刃寿命の長い切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、工具本体の上面コーナ部に、すくい面と、逃げ面と、これらすくい面と逃げ面の交差稜線に形成された切刃稜と、からなる切刃部を有し、前記すくい面に続いて該すくい面の表面から隆起し、前記上面に交差するブレーカ壁面を備えたチップブレーカを有し、少なくとも前記切刃部が超高圧焼結体からなる切削工具において、前記すくい面が前記切刃稜から内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜し、前記上面となす角度が5°〜25°の範囲に設定され、前記ブレーカ壁面が内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜し、前記上面となす角度が25°〜45°の範囲に設定され、さらに、前記切刃稜には、平坦な傾斜面からなるホーニング面が該切刃稜に沿って形成され、前記ホーニング面は、前記上面となす角度が15°〜40°の範囲に設定され、且つ前記上面に直交する方向からみて前記切刃稜に直交する方向の幅が0.05mm〜0.20mmの範囲となるように設定されていることを特徴とする切削工具である。
【0007】
請求項2に係る発明は、工具本体の上面コーナ部に、すくい面と、逃げ面と、これらすくい面と逃げ面の交差稜線に形成された切刃稜と、からなる切刃部を有し、前記すくい面に続いて該すくい面の表面から隆起し、前記上面に交差するブレーカ壁面を備えたチップブレーカを有し、少なくとも前記切刃部が超高圧焼結体からなる切削工具において、前記すくい面が前記切刃稜から内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜し、前記上面となす角度が5°〜25°の範囲に設定され、前記ブレーカ壁面が内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜し、前記上面となす角度が25°〜45°の範囲に設定され、さらに、前記切刃稜には、すくい面及び逃げ面の双方に滑らかに接続する曲面からなるホーニング面が該切刃稜に沿って形成され、前記ホーニング面の断面円弧の曲率半径が0.01mm〜0.20mmの範囲に設定されていることを特徴とする切削工具である。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記ホーニング面を構成する平坦な傾斜面と逃げ面との交差稜線部には、前記傾斜面及び前記逃げ面の双方に滑らかにつながる微小曲面が該稜線部に沿って形成され、前記微小曲面の断面円弧の曲率半径が0.005mm〜0.050mmの範囲に設定されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に係る発明において、前記ブレーカ壁面と前記上面との交差稜線部には、これらブレーカ壁面及び上面の双方に滑らかに接続する曲面からなる繋ぎ部が形成され、前記曲面の断面円弧の曲率半径が0.05mm〜0.20mmの範囲に設定されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に係る発明において、前記超高圧焼結体が立方晶窒化硼素を含有する多結晶焼結体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1及び請求項2に係る発明は、切刃部において、すくい面が切刃稜から内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜していることから、該すくい面を形成した部位の強度が高められるとともに、すくい面摩耗による切刃部の強度低下が緩やかであるため、該切刃部が早期に突発欠損することを防止して切刃寿命を延長させる。すくい面と上面がなす角度が5°未満では、該すくい面における強度が確保できないうえ、すくい面摩耗による切刃部の強度低下が急速に進むため切刃寿命の延長効果が得られず、前記角度が25°を超えると切削抵抗の増大や切屑詰まり、切屑焼き付きといった切屑処理性の悪化の問題が生じるおそれがあるため、前記角度は5°〜25°の範囲に設定されるのが望ましい。さらに、前記すくい面に続いて該すくい面から隆起するチップブレーカは、そのブレーカ壁面に衝突した切屑を拘束しカールもしくは分断させるため、切屑処理性をいっそう良好にする。ブレーカ壁面と上面がなす角度を25°〜45°の範囲に設定したのは、25°未満では切屑を前記ブレーカ壁面で拘束できずカールもしくは分断させることができないおそれがあり、45°を超えると前記ブレーカ壁面によって切屑を強く拘束するため、切屑詰り等の切屑処理性の問題が生じたり切削抵抗が高くなりびびりが生じたりするおそれがある。
【0012】
さらに、切刃稜に沿って設けた平坦な傾斜面からなるホーニング面(請求項1)、ならびに、切刃稜に沿って設けたすくい面及び逃げ面の双方に滑らかに接続する曲面からなるホーニング面(請求項2)は、切刃部の切刃稜近傍の強度をさらに高め、特に断続切削における該切刃稜近傍の欠損を防止するうえ、すくい面摩耗の進行を遅延させ切刃部の強度低下を緩やかにするため切刃寿命をいっそう延長させる。そのうえ、上面に対して傾斜したすくい面とともに、切屑厚みを大きくするように作用し、切屑の流出方向を安定させブレーカ壁面に確実に衝突させるため、切屑処理性を良好にする。前記傾斜面からなるホーニング面と上面がなす角度は、15°未満になると切刃稜近傍の強度を高める効果が小さく、40°を超えると切れ味が悪くなり切削抵抗が増大するため切削中にびびりが発生し、前記ホーニング面に切屑の凝着が生じ被削材の加工面の表面粗さが悪化するおそれがあるため、15°〜40°の範囲に設定されるのが望ましい。また、前記ホーニング面の切刃稜に直交する方向の幅は、0.05mm未満になると切刃稜近傍の強度を高める効果が小さいため実用的な送り条件(0.1mm程度)において早期欠損を招くおそれがあり、0.20mmを超えても切刃稜近傍の強度を高める効果が大きくなるものではなく、かえって加工時間や加工コストが大きくなってしまうため、0.05mm〜0.20mmの範囲に設定されるのが望ましい。一方、前記曲面からなるホーニング面においても、切刃稜に直交する断面における円弧の曲率半径は、0.01mm未満になると切刃稜近傍の強度を高める効果が小さいため上述した実用的な送り条件(0.1mm程度)において早期欠損を招くおそれがあり、0.20mmを超えても切刃稜近傍の強度を高める効果が大きくなるものではなく、かえって加工時間や加工コストが大きくなったり切れ味が低下し切削抵抗が増大したりするため、0.05mm〜0.20mmの範囲に設定されるのが望ましい。
【0013】
請求項3に係る発明のように、請求項1に係る発明において、前記平坦な傾斜面と逃げ面との交差稜線部に、双方に滑らかにつながる微小曲面を該稜線部に沿って形成することは、シャープエッジとなる前記稜線部において断続切削時の繰り返し衝撃による初期欠損を防止するのに有効である。前記微小曲面の切刃稜に直交する断面における円弧の曲率半径は、0.005mm未満では、前記稜線部の早期欠損を防止する効果が得られず、0.050mmを超えても前記稜線部の初期欠損を防止する効果が大きくなるものではなく、かえって切れ味が低下することにより微小曲面に切屑が凝着し加工面の表面粗さや外観品位が悪化するため、0.005mm〜0.050mmの範囲に設定されるのが望ましい。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に係る発明において、ブレーカ壁面と前記上面との交差稜線部に、これらブレーカ壁面及び上面の双方に滑らかに接続する曲面状の繋ぎ部を形成したことから、前記交差稜線部の強度を高め欠損、破損等の損傷を抑制し切屑処理性の安定性を確保する。前記曲面の断面円弧の曲率半径は、0.05mm未満では前記損傷を防止する効果が得られず、0.20mmを超えても前記効果が大きくなるものではなく、かえって切屑が繋ぎ部の曲面上を滑走するため切屑のカール及び分断ができなくなるおそれがあるため、0.05mm〜0.20mmの範囲に設定されるのが望ましい。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4のいずれか1項に係る発明において、少なくとも切刃部が立方晶窒化硼素を含有する多結晶焼結体からなるものである。この多結晶焼結体は、浸炭焼き入れ鋼、高周波焼き入れ鋼等の高硬度鋼の仕上げ旋削加工において、高い耐摩耗性を発揮するためすくい面摩耗の進行を緩やかにし切刃寿命の延長を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明を適用した切削工具について、図面を参照しながら説明する。図1の(a)及び(b)はそれぞれ本発明を適用した切削工具の平面図及び側面図である。図2の(a)及び(b)はそれぞれ図1に示す切削工具の要部を拡大した平面図及び側面図である。図3の(a)〜(d)はそれぞれ図1に示す切削工具のS1−S1線断面図である。図4は本発明を適用した他の切削工具の斜視図である。
【0017】
図1において、本切削工具1の工具本体10は、菱形板状を呈する超硬合金からなり、その上面11のコーナ部Cには、切欠き段部14が形成されている。前記切欠き段部14には、立方晶窒化硼素を含有する多結晶焼結体からなる切刃部材20が蝋付けにより固着されている。なお、切削工具は多角形板状もしくは円形板状に変更可能である。
【0018】
図2の拡大図において、切刃部材20のコーナ部には、円弧とこの円弧からそれぞれ延びる一対の直線からなる切刃稜41が形成されている。この切刃稜41は、すくい面42と逃げ面43との交差稜線上に形成されており、その内側には、前記コーナ部に向かって突出するチップブレーカ30が形成されている。チップブレーカ30のブレーカ壁面31は、前記切刃稜41から連なるすくい面42の表面から隆起し上方且つ内方に向かって延びるとともに、工具本体10の上面11と共通の平面で構成される切刃部材20の上面11に交差している。ブレーカ壁面31は、コーナ部Cの2等分線上で交差し且つ該2等分線を基準にして対称な一対の傾斜平面から構成されており、平面視において、これら傾斜平面同士がなす角度α2は前記コーナ部のなす角度α1よりも大きくなっており、それぞれの傾斜平面が該コーナ部から離れるにしたがって切刃稜41に漸次接近し交わるように形成されている。なお、図2の(a)に示すように前記2等分線上の交差部は、曲面によって滑らかに丸められてもよい。チップブレーカ30、すくい面42及び逃げ面43は、例えば研削砥石を用いた研削加工、放電加工、電子ビーム加工又はレーザー加工の少なくともいずれか1つ加工方法により形成されている。
【0019】
図3の(a)に示す断面図において、前記すくい面42は、切刃稜41から内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜し、切刃部材20の上面11となす傾斜角度θ1が5°〜25°の範囲となるように形成されている。さらに、前記断面において、前記ブレーカ壁面31も内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜し、前記上面11となす傾斜角度θ2が25°〜45°の範囲となるように形成されている。ブレーカ壁面31に切屑を衝突させ拘束することに配慮して、前記上面11に直交する方向からみて、切刃稜41からブレーカ壁面31と上面11との交差稜線部までの距離Lは0.3mm〜2.0mmの範囲に設定されるのが望ましい。
【0020】
さらに、図3の(a)において、切刃稜41には、該切刃稜41に沿って平坦な傾斜面からなる面取り状ホーニング面50が形成されている。このホーニング面50は、例えば研削砥石を用いた研削加工によって成形され、上面11となす傾斜角度θ3が前記すくい面42の傾斜角度θ1以上であり且つ15°〜40°の範囲となるように形成されている。さらに、ホーニング面50は、前記上面11に直交する方向からみて、切刃稜41に直交する方向の幅L3が0.05mm〜0.20mmの範囲となるように形成されている。通常、前記ホーニング面50の加工はすくい面42の成形後に行われるため、このホーニング面50の傾斜角度θ1はすくい面42の傾斜角度θ2よりも大きくなっている。
【0021】
本切削工具1のホーニング面の変形例を図3の(b)及び(c)に示す。図3の(b)に示すものは、すくい面42及び逃げ面43の双方に滑らかにつながる曲面からなるホーニング面51が切刃稜41に沿って設けられたものである。前記ホーニング面51は、例えば遊離砥粒を付着したブラシや遊離砥粒を混入したラバー砥石等を用いた研削加工によって成形され、切刃稜41に直交する断面において、曲率半径R3が0.01mm〜0.20mmの範囲に設定された円弧で形成されている。図3の(c)に示すものは、平坦な傾斜面からなる面取り状ホーニング面50が切刃稜41に沿って設けられた後、前記ホーニング面50と逃げ面43との交差稜線部に、これらホーニング面50及び逃げ面43の双方に滑らかにつながる微小曲面60が前記稜線部に沿って形成されたものである。前記微小曲面60は、例えば遊離砥粒を付着したブラシや遊離砥粒を混入したラバー砥石等を用いた研削加工によって成形され、切刃稜41に直交する断面において、曲率半径r3が0.005mm〜0.050mmの範囲に設定された円弧で形成されている。
【0022】
さらに、図3の(d)に示すように、チップブレーカ30において、ブレーカ壁面31及び切刃部材20の上面11の双方に滑らかにつながる曲面からなる繋ぎ部33が形成されてもよい。この繋ぎ部33は、チップブレーカ30の成形と同時に、研削砥石を用いた研削加工、放電加工、電子ビーム加工又はレーザー加工の少なくともいずれか1つ加工方法により成形されるか、もしくは、チップブレーカ成形後に、例えば遊離砥粒を付着したブラシや遊離砥粒を混入したラバー砥石等を用いた研削加工により成形される。繋ぎ部33の曲面は、切刃稜41に直交する断面において、曲率半径R4が0.05mm〜0.20mmの範囲に設定された円弧で形成されている。ブレーカ壁面31に切屑を衝突させ拘束することに配慮して、上面11に直交する方向からみて、切刃稜41から前記繋ぎ部33と上面11との接続部までの距離Lは、0.3mm〜3.0mmの範囲に設定されるのが望ましい。
【0023】
以上に説明した切削工具1により高硬度鋼を連続旋削加工した実施例について以下に説明する。第1の実施例において、切削工具1は、立方晶窒化硼素を65体積%含有し残部がTiNを主成分とする立方晶窒化硼素焼結体からなる切刃部材20を用い、ブレーカ壁面31の傾斜角度θ2を35°に固定し、すくい面42、面取り状ホーニング面50を表1に示す各種形状に設定されている。これら切削工具1により表面硬度がロックウェル硬度で58〜60HRCの浸炭焼入れ鋼の外周を連続旋削加工した。連続旋削加工とは、断続的に切刃部40が被削材に食い付くことがなく且つ切込みがほぼ一定な旋削加工のことをいう。切削条件は、切削速度が150m/min、切込みが0.25mm、送りが0.1mm/revである。各サンプルについて10個のデータを収集した。表1中の欠損確率は切削時間40分における欠損発生率を示している。
【0024】
【表1】

【0025】
表1において、すくい面42と上面11がなす角度θ1が0°であるサンプル1では、すくい面42を形成した部位の強度が十分ではないため、ホーニング面50がえぐられるような摩耗が進行していくと、切刃部40が切削抵抗に耐えられなくなり早期に切刃欠損が生じるため、欠損確率は50%と高くなった。これに対してすくい面42と上面11がなす角度が5°〜25°の範囲にあるサンプル2〜4では、すくい面42を形成した部位の強度が切削抵抗に対して十分に確保されているため、ホーニング面50及びすくい面42の摩耗に伴う切刃部40の強度低下が緩やかに進み、早期に切刃欠損することが防止されるため、欠損確率はきわめて低くなった。しかしながら、すくい面42と上面11がなす角度が25°を超えるサンプル5では、切れ味が悪くなり切削抵抗が増大しびびりが生じるうえに、詰り気味且つ焼き付き気味の切屑が生じてしまい被削材の加工面を傷付けてしまう問題が生じた。
【0026】
ホーニング面50の幅L3が0.05mm未満のサンプル6、及び、ホーニング面50の傾斜角度θ3が15°未満のサンプル9では、切削時に負荷が高くなる切刃稜41近傍の強度が小さため0.1mm/rev程度の送り条件において早期の切刃欠損が発生し欠損確率が高くなった。一方、ホーニング面50の傾斜角度θ3が40°を超えるサンプル12では、切れ味が悪くなり切削抵抗が増大するため切削中にびびりが発生するとともに、ホーニング面50に切屑の凝着が生じ被削材の加工面の表面粗さが悪化した。これらに対して、ホーニング面50の幅L3が0.05mm以上、且つホーニング面50の傾斜角度θ3が15°〜40°の範囲に設定されたサンプル2〜4、7、8、10、11では、切刃稜41近傍の強度が十分に確保されることから、早期の切刃欠損がみられず、欠損確率はまったく発生しなかった。なお、ホーニング面50の幅L3が0.20mmを超えると該ホーニング面50の加工時間や加工コストが大きくなり不経済であるため、ホーニング幅L3は0.05mm〜0.20mmの範囲に設定されるのが望ましい。
【0027】
次に、サンプル3(すくい面42の傾斜角度θ1が20°、ホーニング面50の幅L3が0.05mm、ホーニング面の傾斜角度θ3が15°の切削工具)において、ブレーカ壁面31の傾斜角度θ2を各種変化させたもので、同一の連続旋削加工を行った。そのときの切屑処理性を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2において、ブレーカ壁面31の傾斜角度θ2が25°未満のサンプル13では、切屑をブレーカ壁面31で拘束できずカールもしくは分断させることができないため、切屑が切削工具や被削材に伸び絡んでしまった。一方、ブレーカ壁面31の傾斜角度θ2が45°を超えるサンプル17では、切屑がブレーカ壁面31に強く拘束され詰り気味であったため切屑処理性及び切削中のびびりの問題が発生した。
【0030】
次に、曲面からなるホーニング面51を施した切削工具1に関して、ホーニング面51の断面円弧の曲率半径R3を各種寸法に設定したものを用いて、同一の連続旋削加工を行った(ブレーカ壁面31の傾斜角度θ2は35°に固定した)。結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
表3において、ホーニング面51の断面円弧の曲率半径R3が0.01mm未満であるサンプル18では、切刃稜41近傍の強度が確保できず0.1mm/rev程度の送り条件において早期欠損が発生するため、欠損確率が高くなった。一方、ホーニング面51の断面円弧の曲率半径R3が0.20mmを超えるサンプル22では、欠損確率は低いものの、ホーニング面51の加工時間や加工コストが大きくなり不経済であるうえに、切れ味が悪くなり切削抵抗が増大するため切削中にびびりが発生するとともに、ホーニング面51に切屑の凝着が生じ被削材の加工面の表面粗さが悪化した。これらに対し、ホーニング面51の断面円弧の曲率半径R3が0.01mm〜0.20mmの範囲に設定されたサンプル19〜21では、切刃稜41近傍の強度が確保されており、早期の切刃欠損が抑制され、欠損確率はきわめて小さくなった。
【0033】
次に、表4に示す各種切削工具1を用いて断続旋削加工した実施例について説明する(ブレーカ壁面31の傾斜角度θ2は35°に固定した)。これら切削工具1により表面硬度がロックウェル硬度で58〜60HRCの浸炭焼入れ鋼の外周を断続旋削加工した。本実施例では、送り、切込みは一定とし、被削材への切刃稜41の食い付きと離脱をきわめて短い周期で繰り返す断続旋削加工を行った。切削条件は、切削速度が120m/min、切込みが0.2mm、送りが0.1mm/revである。各サンプルについて10個のデータを収集した。表4中の欠損確率は切削時間20分における欠損発生率を示している。
【0034】
【表4】

【0035】
表4において、面取り状ホーニング面50が付されたサンプル3及び6〜12においては、既述した連続旋削加工にくらべ、総じて早期の切刃欠損の発生確率が増加したため欠損確率は高くなった。なお、ホーニング面50の幅L3が0.05mm以上、且つホーニング面50の傾斜角度θ3が15°〜40°の範囲にあるサンプル3、7、8、10、11(本発明)は、ホーニング面50の幅L3及びホーニング面50の傾斜角度θ3が本発明に満たないサンプル6及び9(比較例)にくらべ早期の切刃欠損がきわめて少なく欠損確率が低かった。ホーニング面50の傾斜角度θ3が40°を超えるサンプル12(比較例)は、連続旋削加工と同様に切れ味が悪くなり切削抵抗が増大するため切削中にびびりが発生するとともに、ホーニング面50に切屑の凝着が生じ被削材の加工面の表面粗さが悪化した。一方、曲面からなるホーニング面51を付されたサンプル18〜22においては、欠損確率は連続旋削加工と変わらない結果となった。すなわち、ホーニング面51の断面円弧の曲率半径R3が0.01mm〜0.20mmの範囲にあるサンプル19〜21(本発明)は、前記曲率半径R3が0.01mm未満であるサンプル18(比較例)にくらべ、切刃稜41近傍の強度が確保されており、早期の切刃欠損が抑制され、欠損確率はきわめて小さくなった。以上の結果から平坦な傾斜面からなるホーニング面50が付されたサンプル3及び6〜12においては、ホーニング面50と逃げ面43との交差稜線部がシャープエッジとなるため断続切削による繰り返し衝撃に耐えられず初期欠損するものと考えられる。そこで、サンプル3において、面取り状ホーニング面50と逃げ面43との交差稜線部に、これらホーニング面50及び逃げ面43の双方に滑らかにつながる微小曲面60を該交差稜線部に沿って形成した切削工具1を用いて、同様の断続旋削加工を行った。微小曲面60の曲率半径r3ならびに欠損確率を表5に示す。
【0036】
【表5】

【0037】
微小曲面60の断面円弧の曲率半径r3が0.005mm未満であるサンプル3Aでは、面取り状ホーニング面50と逃げ面43との交差稜線部の初期欠損が抑制できなかったことから、微小曲面60のないサンプル3(表4に示す)と欠損確率は差がなかった。また、前記曲率半径r3が0.050mmを超えるサンプル7Fでは、初期欠損は抑えられたものの切れ味が低下するため、微小曲面60及び被削材の加工面に切屑の凝着が発生し前記加工面の表面粗さが悪化してしまった。これらに対して、微小曲面60の断面円弧の曲率半径r3が0.005mm〜0.050mmの範囲にあるサンプル3B〜3Eでは、面取り状ホーニング面50と逃げ面43との交差稜線部の強度が確保されるため初期欠損がまったく見られず欠損確率は0%となった。しかも、切れ味が低下することがないので、被削材の加工面の表面粗さは良好であった。
【0038】
図4に示す切削工具1は、正方形板状を呈する工具本体10の上面11の対角コーナ部に、立方晶窒化硼素を含有する多結晶焼結体からなる切刃部40を備えた切刃部材20をろう付けにより固着したものである。そして、先の実施形態と同様に、切刃稜41の内側には、すくい面42の表面から上方且つ内方に向かって延びるブレーカ壁面31を有したチップブレーカ30が形成されている。ブレーカ壁面31は、コーナ部Cからそれぞれ延びる一対の直線状の切刃稜41と平行に延びており、且つ、切刃部材20にとどまらず工具本体10に貫通し隣接コーナ部まで達している。さらに、チップブレーカ30を切刃稜41に直交する平面で切断した断面形状は各位置でほぼ等しくなっている。
【0039】
このような構成を有する切削工具1によれば、切刃稜41の各位置におけるチップブレーカ30の断面形状が一定であるため、切屑処理性におよぼす切込みの影響を排除でき、仕上げ加工から粗加工まで広範な切込み条件あるいは切込みが変動するような加工において優れた切屑処理性が実現される。しかも、全周にわたって形成されたチップブレーカ30は、同一断面形状のブレーカ壁面31を工具本体10の稜辺に平行な方向に研ぎ抜くようにして加工することによって製作されるため、研削砥石を用いた一般的な研削加工によって容易に製作することができる。切刃部材20を工具本体10の正方形を呈する上面11の全てのコーナ部にろう付け固着しても、製作の容易性が変わらず切削工具1個あたりの使用回数が増加するためさらに経済性が大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】(a)及び(b)はそれぞれ本発明を適用した切削工具の平面図及び側面図である。本発明を適用したスローアウェイチップの斜視図である。
【図2】(a)及び(b)はそれぞれ図1に示す切削工具の要部を拡大した平面図及び側面図である。
【図3】(a)〜(d)はそれぞれ図1におけるS1−S1線断面図である。
【図4】本発明を適用した他の切削工具の斜視図である。
【図5】従来切削工具を説明する図であり(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は側面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 切削工具
10 工具本体
11 上面
20 切刃部材
30 チップブレーカ
31 ブレーカ壁面
40 切刃部
41 切刃稜
42 すくい面
43 逃げ面
50、51 ホーニング面
60 微小曲面
θ1 すくい面と上面がなす角度
θ2 ブレーカ壁面と上面がなす角度
θ3 ホーニング面と上面がなす角度
L3 ホーニング面の切刃に直交する方向の幅
R3 曲面からなるホーニング面の断面円弧の曲率半径
r3 微小曲面の断面円弧の曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体の上面コーナ部に、すくい面と、逃げ面と、これらすくい面と逃げ面の交差稜線に形成された切刃稜と、からなる切刃部を有し、前記すくい面に続いて該すくい面の表面から隆起し、前記上面に交差するブレーカ壁面を備えたチップブレーカを有し、少なくとも前記切刃部が超高圧焼結体からなる切削工具において、
前記すくい面が前記切刃稜から内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜し、前記上面となす角度が5°〜25°の範囲に設定され、
前記ブレーカ壁面が内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜し、前記上面となす角度が25°〜45°の範囲に設定され、
さらに、前記切刃稜には、平坦な傾斜面からなるホーニング面が該切刃稜に沿って形成され、前記ホーニング面は、前記上面となす角度が15°〜40°の範囲に設定され、且つ前記上面に直交する方向からみて前記切刃稜に直交する方向の幅が0.05mm〜0.20mmの範囲となるように設定されていることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
工具本体の上面コーナ部に、すくい面と、逃げ面と、これらすくい面と逃げ面の交差稜線に形成された切刃稜と、からなる切刃部を有し、前記すくい面に続いて該すくい面の表面から隆起し、前記上面に交差するブレーカ壁面を備えたチップブレーカを有し、少なくとも前記切刃部が超高圧焼結体からなる切削工具において、
前記すくい面が前記切刃稜から内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜し、前記上面となす角度が5°〜25°の範囲に設定され、
前記ブレーカ壁面が内方に向かうにつれ上方に向かうように傾斜し、前記上面となす角度が25°〜45°の範囲に設定され、
さらに、前記切刃稜には、すくい面及び逃げ面の双方に滑らかに接続する曲面からなるホーニング面が該切刃稜に沿って形成され、前記ホーニング面の断面円弧の曲率半径が0.01mm〜0.20mmの範囲に設定されていることを特徴とする切削工具。
【請求項3】
前記ホーニング面を構成する平坦な傾斜面と逃げ面との交差稜線部には、前記傾斜面及び前記逃げ面の双方に滑らかにつながる微小曲面が該稜線部に沿って形成され、前記微小曲面の断面円弧の曲率半径が0.005mm〜0.050mmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項1記載の切削工具。
【請求項4】
前記ブレーカ壁面と前記上面との交差稜線部には、これらブレーカ壁面及び上面の双方に滑らかに接続する曲面からなる繋ぎ部が形成され、前記曲面の断面円弧の曲率半径が0.05mm〜0.20mmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の切削工具。
【請求項5】
前記超高圧焼結体が立方晶窒化硼素を含有する多結晶焼結体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の切削工具




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−190633(P2007−190633A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9779(P2006−9779)
【出願日】平成18年1月18日(2006.1.18)
【出願人】(000221144)株式会社タンガロイ (185)
【Fターム(参考)】