説明

切削工具

【課題】耐摩耗性に優れるとともに、切刃先端の摩耗に伴う切削性能の低下が抑えられ、より多くの加工数に亘り切削性能が持続する切削工具を提供する。
【解決手段】切刃部のすくい面6に前記切刃部の母材(例えば、超硬合金)より耐摩耗性の高い材料の被覆12(例えば、ダイヤモンド被覆)が施され、被削材の切削中に、被覆の切刃部の切刃先端の縁部が被削材との摩擦による摩耗により脱落するとともに逃げ面10及びマージン5の母材が被削材との摩擦による摩耗することにより、切刃最大径部が軸方向へ後退するドリル等の切削工具である。
【効果】切刃最大径部が軸方向へ後退することにより、切刃最大径部及びその付近の切刃先端が滑らかに連続するように保持され、切刃先端の摩耗に伴う切削性能の低下が抑えられ、より多くの加工数に亘り切削性能が持続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切刃に耐摩耗被覆が施された切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
ドリル等の切削工具を用いて炭素繊維強化樹脂複合材に孔を加工する場合、デラミネーション(層間剥離)、繊維のほつれ、バリの発生等が問題となる。
従来、このような問題が生じにくいドリルとして特許文献1,2にも記載されるダブルアングルドリルが用いられていた。
特許文献1に記載のダブルアングルドリルにあっては、耐摩耗性を向上させるために先端部にダイヤモンド被覆が施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平6−075612号公報
【特許文献2】特開2008−036759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の先端部にダイヤモンド被覆が施されたドリルを用いて炭素繊維強化樹脂複合材に穿孔加工を行うと、図6(a1)→(a2)で示すように切刃先端15の摩耗が進行するに従い、切刃先端15のRが大きくなり、著しく切削性能を低下させてしまう。
【0005】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、耐摩耗性に優れるとともに、切刃先端の摩耗に伴う切削性能の低下が抑えられ、より多くの加工数に亘り切削性能が持続する切削工具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、切刃部のすくい面に前記切刃部の母材より耐摩耗性の高い材料の被覆が施され、切刃最大径部において前記切刃部の逃げ面の軸方向後方に連続してマージンが形成され、被削材の切削中に、前記被覆の前記切刃部の切刃先端の縁部が前記被削材との摩擦による摩耗により脱落するとともに前記逃げ面及び前記マージンの母材が前記被削材との摩擦により摩耗することにより、切刃最大径部が軸方向へ後退することを特徴とする切削工具である。
【0007】
請求項2記載の発明は、切刃部のすくい面に前記切刃部の母材より耐摩耗性の高い材料の被覆が施され、切刃最大径部において前記切刃部の逃げ面の軸方向後方に連続してマージンが形成され、被削材の切削中に、前記被覆の前記切刃部の切刃先端の縁部が前記被削材との摩擦による摩耗により脱落するとともに前記逃げ面及び前記マージンの母材が前記被削材との摩擦により摩耗することにより、切刃最大径部が軸方向へ後退し、前記切刃先端が鋭利に保持されることを特徴とする切削工具である。
【0008】
請求項3記載の発明は、前記切刃部には、前記切刃最大径部から軸方向前方に滑らかに連続して切刃が形成されており、被削材の切削中に切刃最大径部が軸方向へ後退することにより、前記切刃最大径部及びその付近に構成される切刃先端が滑らかに連続するように保持されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の切削工具である。
【0009】
請求項4記載の発明は、前記切刃部には、前記切刃最大径部から軸方向前方に滑らかに連続して先端まで切刃が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の切削工具である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、すくい面の耐摩耗被覆で切刃が保護されることにより耐摩耗性に優れるとともに、当該被覆の切刃先端のエッジが摩耗して減ってもそれと同時に逃げ面及びマージンも摩耗して減るために切刃先端が比較的鋭利に保持され、かつ、切刃最大径部が軸方向へ後退することにより、切刃最大径部及びその付近の切刃先端が滑らかに連続するように保持されるので、切刃先端の摩耗に伴う切削性能の低下が抑えられ、より多くの加工数に亘り切削性能が持続するという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係るドリルの側面図である。
【図2】図1に示したドリルの先端部1の拡大図である。
【図3】図1に示した矢印α方向から見た矢視図である。
【図4】図2に示した矢印β方向から見た矢視図である。
【図5】図4に示したX−X線における断面図である。
【図6】比較例のドリルによる切削状態断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るドリルによる切削状態断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るドリルの摩耗の進行を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。以下のドリル及びその形状は一例であって本発明はこれに限定されない。
【0013】
図1は本発明の一実施形態に係るドリルの側面図である。
図1に示すように、本実施形態のドリルは、先端部1とシャンク部2とを有する。先端部1とシャンク部2の間の部分に2条のストレート溝3が形成されている。
【0014】
図1に示したドリルの先端部1の拡大図を図2に示す。図1に示した矢印α方向から見た矢視図を図3に示す。図2に示した矢印β方向から見た矢視図を図4に示す。図4に示したX−X線における断面図を図5に示す。
【0015】
先端部1には、一対の切刃が中心軸について対称に設けられている。切刃は、先端から一次切刃7、二次切刃8、三次切刃9により構成されている。切刃にはそれぞれすくい面6及び逃げ面10,13が形成されている。
先端部1はクロスシンニングされており、シンニング11,11にストレート溝3,3が連続する。シンニング11,11及びストレート溝3,3により窪んだ部分にすくい面6が形成されている。
【0016】
図5に示すように、すくい面6と切刃二番逃げ面10とが鋭角を成して切刃先端15で合わさる。切刃二番逃げ面10の切削方向後方に連続して切刃三番逃げ面13が形成されている。切刃三番逃げ面13と切刃二番逃げ面10とでつくる内角が180度より小さい角度を成す。二次切刃8、三次切刃9については、切刃二番逃げ面10及び切刃三番逃げ面13が形成されている。一次切刃7については、一つの逃げ面が形成されている。
すくい面6にはダイヤモンド被覆12が施されている。切刃二番逃げ面10においては母材が露出している。母材は超硬合金である。切刃三番逃げ面13内の切削方向前縁側の領域は母材が露出し、切削方向後縁側の領域にはダイヤモンド被覆12が施されている。このように、切刃二番逃げ面10の全面と、切刃三番逃げ面13内の切削方向前縁側の領域については母材を露出させる。切削時の摩耗により被削材に逃げ面のダイヤモンド被覆12が接触しないようにするためである。したがって、本実施形態に拘わらず、切刃部の逃げ面の全部においてドリルの母材を露出させても良い。一次切刃7については、一つの逃げ面の全部において母材が露出している。
【0017】
ストレート溝3,3の間の部分においては、ストレート溝3,3に沿った両縁にマージン5,5が形成されている。両縁のマージン5,5の間には、平面カット逃がし面4が形成されている。切削方向前縁のマージン5は、切刃二番逃げ面10のドリル後端側に連続して形成されている。切刃三番逃げ面13のドリル後端側には平面カット逃がし面4及び切削方向後縁のマージン5が連続して形成されている。マージン5,5,5,5は、被加工穴の内面に当りドリルを支持する。
切削方向前縁のマージン5のうち、少なくとも切刃二番逃げ面10に連続する一部においては母材が露出している。
【0018】
ダイヤモンド被覆12の形成方法としては、まず、すくい面6を含めて先端部1全体にダイヤモンド被覆を施し、その後、逃げ面上の被覆を研削により除去して母材を露出させる方法を適用することができる。被覆施工時、ダイヤモンド被覆を先端部1の軸方向後方にも及ばせる。そのため、上述の切刃二番逃げ面10に連続するマージン5の一部上の被覆をも研削により除去して母材を露出させる。
本法を適用するため、除去する必要性のない切削方向後縁側の領域にダイヤモンド被覆12が残っているが、これについても除去してよい。
逃げ面やマージン5をマスキングした上で、すくい面6にダイヤモンド被覆を施す方法も考えられるが、ダイヤモンド被覆の形成時に高温化し、この高温に耐えるマスキングが難しい。したがって、上記方法が有利である。
【0019】
図2に示すように、一次切刃7は直線状であり、その先端角A°は、鈍角とされている。二次切刃8は、一次切刃7と三次切刃9との間に配置され、両者に滑らかに連続している。先端からLの距離において刃部の外径は最大外径φDとなる。距離Lは、最大外径φDの1〜2倍に相当する。
【0020】
次に、以上の本実施形態のドリルを使用した際の作用につき説明する。
本実施形態のドリルと同一形状のドリルに対して切刃部のすくい面6及び逃げ面10,13の全体にダイヤモンド被覆が施されたドリルを比較例とする。比較例のドリル及び本実施形態のドリルをそれぞれ使用して炭素繊維強化樹脂複合材への穿孔加工を行う。
比較例のドリルによる切削状態断面図を図6に示す。本実施形態のドリルによる切削状態断面図を図7に示す。図中の被削材14は炭素繊維強化樹脂複合材である。
【0021】
比較例のドリルにあっては図6(a1)→(a2)のように、炭素繊維強化樹脂複合材14への穿孔加工を行うと切刃先端15の摩耗が進行するに従い、切刃先端15の被覆12が脱落するが、逃げ面10に被覆12が残り切刃先端15のRが大きくなって切削性能が低下する。こうなると、被削材14のバリ、デラミネーションの発生につながる。
一方、本実施形態のドリルにあっては図7(b1)→(b2) →(b3)のように、炭素繊維強化
樹脂複合材14への穿孔加工を行うとすくい面6に施されたダイヤモンド被覆12の切刃先端の縁部が摩耗により脱落すると同時に母材がむき出しの逃げ面10が摩耗して中心方向へ後退することにより切刃先端15が比較的鋭利に保持され切れ味の低下が抑えられる。
また、母材の摩耗は先端部1から軸方向後方へも進行しようとする。図8において5は初期のマージン形成範囲、Cは摩耗領域である。上述したように本実施形態のドリルは、切削方向前縁のマージン5のうち、少なくとも切刃二番逃げ面10に連続する一部においては母材が露出している。したがって、本ドリルによれば、マージン5上の母材の摩耗も逃げ面同様に進行させることができるので、三次切刃9の切刃最大外径部を矢印5aのように軸方向へ後退させることができ、最大外径部及びその付近に構成される切刃先端15が比較的鋭利に、かつ、ドリル先端側の切刃先端15から滑らかに連続するように保持され、切れ味の低下が抑えられる。したがって、本実施形態のドリルにあっては、切刃先端の摩耗に伴う切削性能の低下が抑えられ、より多くの加工数に亘り切削性能が持続する。
【0022】
以上説明した本発明の実施形態のドリルによれば、すくい面6のダイヤモンド被覆12で切刃が保護されることにより耐摩耗性に優れるとともに、切刃先端の摩耗が進行しても、切刃の欠損や、被削材のバリ、デラミネーションが確実に防止され、切削工具寿命が大幅に向上するとともに、長期間に亘って安定した連続穿孔が可能となり、作業時間の短縮、工具費の削減の効果が得られる。
【0023】
以上の実施形態にあっては、切削工具としてドリルを例に挙げたが、本発明は、ドリルに限らず、旋盤のバイト、エンドミルなど、あらゆる切削工具に有効である。
本発明の切削工具を有効に使用できる被削材としては、上掲の材料に限られない。図6に示した切刃の摩耗現象が生じる被削材に対しては、本発明の切削工具を有効に適用することができ、それにより図7に示したように本発明の効果が得られる。具体的には、繊維強化樹脂複合材、コンクリートなどに対しては本発明の切削工具を有効に適用することができる。切刃に焼きつきが生じる金属材料に対しては、切刃が使用不能になる過程が図6に示すような摩耗現象によるものではないので、そのような材料には上述の本発明による切刃維持原理が有効に働かない。金属でも鋳物など粘度の低い材料に対しては、本発明の切削工具を有効に適用することができる。
【0024】
なお、超硬合金にダイヤモンド被覆を施すために、超硬合金のコバルト含有率が6%(重量濃度、以下同じ)以下であることが必要であることが従来知られている。コバルト含有率が増大することにより、ダイヤモンド被覆が剥離するからである。
本発明の切刃維持原理は、逃げ面の母材を切削時の摩耗により減らすことにあるから、母材は低硬度であることが好ましい。したがって、ダイヤモンド被覆を適用する場合、超硬合金のコバルト含有率を従来の上限の6%いっぱいとすることが好ましい。
本発明の切刃維持原理を大いに活かすために、将来的には、「コバルト含有率が6%を超える超硬合金を母材として切刃部が形成され、前記切刃部のすくい面にダイヤモンド被覆が施され、前記切刃部の逃げ面の全部又は前記切刃部の切刃先端に連続する一部において前記母材が露出してなる切削工具」を構成することは有効である。
【符号の説明】
【0025】
1 先端部
2 シャンク部
3 ストレート溝
4 平面カット逃がし面
5 マージン
6 すくい面
7 一次切刃
8 二次切刃
9 三次切刃
10 切刃二番逃げ面
11 シンニング
12 ダイヤモンド被覆
13 切刃三番逃げ面
14 炭素繊維強化樹脂複合材(被削材)
15 切刃先端
φd 一次切刃7の外径
φD 刃部最大外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃部のすくい面に前記切刃部の母材より耐摩耗性の高い材料の被覆が施され、
切刃最大径部において前記切刃部の逃げ面の軸方向後方に連続してマージンが形成され、
被削材の切削中に、前記被覆の前記切刃部の切刃先端の縁部が前記被削材との摩擦による摩耗により脱落するとともに前記逃げ面及び前記マージンの母材が前記被削材との摩擦により摩耗することにより、切刃最大径部が軸方向へ後退することを特徴とする切削工具。
【請求項2】
切刃部のすくい面に前記切刃部の母材より耐摩耗性の高い材料の被覆が施され、
切刃最大径部において前記切刃部の逃げ面の軸方向後方に連続してマージンが形成され、
被削材の切削中に、前記被覆の前記切刃部の切刃先端の縁部が前記被削材との摩擦による摩耗により脱落するとともに前記逃げ面及び前記マージンの母材が前記被削材との摩擦により摩耗することにより、切刃最大径部が軸方向へ後退し、前記切刃先端が鋭利に保持されることを特徴とする切削工具。
【請求項3】
前記切刃部には、前記切刃最大径部から軸方向前方に滑らかに連続して切刃が形成されており、被削材の切削中に切刃最大径部が軸方向へ後退することにより、前記切刃最大径部及びその付近に構成される切刃先端が滑らかに連続するように保持されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記切刃部には、前記切刃最大径部から軸方向前方に滑らかに連続して先端まで切刃が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−104772(P2011−104772A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21584(P2011−21584)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【分割の表示】特願2008−223467(P2008−223467)の分割
【原出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(594143271)マコトロイ工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】