説明

切削用工具

【課題】物理蒸着法により硬質被膜を表面にコーティングする母材が円筒状の切削工具において、個々の工具の被膜と母材との密着強度を保証することを可能とする。
【解決手段】切れ刃と切れ刃の間の部分に、ロックウェル硬さ計による打痕が可能な微小な平面を設けることにより、この面にロックウェル硬さ計による圧痕を打痕することにより、母材とコーティング被膜との密着強度を物理蒸着された個々の切削工具について確認可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理蒸着法により表面に硬質被膜をコーティングすることにより耐磨耗性及び工具寿命に優れた特性を有する、エンドミル、リーマ、ドリル等の金属の切削用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドミル、リーマ、ドリル等の金属の切削用工具には耐磨耗性を改善し、工具寿命を向上させる目的で、物理蒸着法により金属の窒化物や酸化物等の硬質被膜を工具表面に形成する方法が広く行われている。この場合に工具寿命の向上には母材と硬質被膜との密着力が高いことが不可欠であり、スクラッチ試験法やロックウェル硬さ試験機による押し込み法などにより母材と硬質被膜との密着力の評価が行われている。(例えば、文献1参照)
【0003】
【非特許文献1】「塑性加工用金型を対象としたDLC膜の密着性評価法」:基昭夫,片岡征二,森河和雄;東京都産業技術研究所報告,第6号(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばアーク式イオンプレーティング等の物理蒸着法においては、同一の処理機会に多数の切削工具を同時に処理し、硬質被膜を個々の切削工具表面に形成する方法が工業的には一般に行われている。エンドミル、リーマ、ドリル等の切削工具についてはその形状が円筒状であり(図1参照)、個々の切削工具についてスクラッチ試験やロックウェル硬さ計により押し込み試験を行うための測定平面が確保できず、測定平面を有する試験片を同一の処理機会に挿入し、その試験片の密着力を評価しその処理機会における密着力を代表させているのが一般であり、同時に処理される多数の切削工具すべてについて十分な密着強度が得られていることを確認することはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題に鑑み、同一機会に処理される多数の切削工具について、個々に硬質被膜と母材との密着強度を保証する方法について鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至ったものである。
【0006】
すなわち、本発明の骨子とするところは、図1及び図2に示すように切れ刃と切れ刃の間の部分にロックウェル硬さ試験機による圧痕を打ち込める平面を設け、該平面にロックウェル硬さ試験機により圧痕を打ち込み、圧痕周縁部における被膜の剥離の有無を確認することにより個々の切削工具について硬質被膜と母材との密着強度を確認できるようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、エンドミル、リーマ、ドリル等の切削用工具表面に物理蒸着法により硬質被膜を形成させ大幅な工具寿命の延長及び切削時間の短縮を行おうとする場合に、物理蒸着処理される個々の切削工具について確実に被膜と母材との密着強度の確認が行えるようになり、品質の安定、品質の保証が容易に可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
請求項に基づいて本発明の実施の形態について説明を行う。物理蒸着により形成された硬質被膜と母材との密着強度については、課題の項で述べたようにスクラッチ試験法やロックウェル硬さ計による打痕の周縁部における剥離の有無で評価を行っているが、円筒形の母材を用いたエンドミル、リーマ、ドリル等の切削工具においてはこの打痕を行うための平面が取れないため、測定平面を有する試験片を処理物と同時に物理蒸着し、試験片の密着強度をスクラッチ試験法やロックウェル硬さ計による打痕により測定する方法で評価しており、個々の切削工具の被膜の密着強度については評価されていない。
【0009】
本発明においては、請求項1及び2に述べているように、切れ刃と切れ刃との間の部分にロックウェル硬さ計による打痕が可能な平面を設け、その打痕周縁部の剥離の有無を顕微鏡等により観察することにより、同時に大量に物理蒸着処理された個々のエンドミル、リーマ、ドリル等の切削工具のすべてについて、その硬質被膜と母材との密着強度の確認が可能となり、個々の切削工具についての品質保証が容易に可能となった。
【0010】
この平面はロックウェル硬さ計による打痕が可能な大きさであれば十分である。
【0011】
コーティング方法としては請求項3に示したように、アーク式イオンプレーティング法による物理蒸着法が被膜の密着性や作業性の面から好適である。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の1実施例であり、ロックウェル硬さ計による打痕のための平面座を切れ刃と切れ刃との間に有するエンドミルの外観図である。
【実施例2】
【0013】
図2は本発明の1実施例であり、ロックウェル硬さ計による打痕のための平面座を切れ刃と切れ刃との間に有するリーマの外観図である。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明により、同時に大量に物理蒸着される切削工具の個々について、硬質被膜と母材との密着強度を保証することが容易に可能となり、また切削工具を使用する側においても打痕を見ることにより、密着強度が保証された切削工具であることを容易に認識することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】平面座を有するエンドミルの外観図である。(実施例1)
【図2】平面座を有するリーマの外観図である。(実施例2)
【符号の説明】
【0016】
1 切れ刃
2 ロックウェル硬さ計による打痕のための平面座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐磨耗性や工具寿命の改善のため物理蒸着法により硬質被膜をコーティングする円筒形の母材を用いる切削工具において、切れ刃と切れ刃との間の表面にロックウェル硬度計による圧痕を打痕することができる平面の座を有することを特徴とし、物理蒸着された硬質被膜の母材との密着特性を個々の切削工具について品質保証することが容易に可能な金属切削用工具。
【請求項2】
請求項1の切削工具が、エンドミル、リーマあるいはドリルである、物理蒸着された被膜の密着強度を容易に品質保証可能な切削用工具。
【請求項3】
請求項1の物理蒸着法がアーク式イオンプレーティングによる物理蒸着法である、蒸着された被膜の密着強度を容易に品質保証可能な切削用工具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−136940(P2009−136940A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313354(P2007−313354)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(305018856)株式会社アヤボ (4)
【Fターム(参考)】