説明

切断装置

【課題】切断時や通電時に関係なく、自走台が一定以上の速度で降下すると、作動する機械式のブレーキ機構を備えた切断装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ機構20がピニオン軸13の端部に直径方向に固定されるアーム22と、各アーム端に突設されるクランクピン23に軸支されるブレーキシュー24と、両ブレーキシュー24を連結するコイルバネ25よりなり、支柱4を縦向きにして設置したワイヤーソーイング時において、送りモータ15のトルクが下がり、自走台11を持上げる推力が自走台11の自重を下回ると、自走台11が支柱4に沿い降下し、これによりラック3を転動するピニオン17と共にピニオン軸13も回転する。ピニオン軸13の回転が高速になると、ブレーキシュー24が遠心力の作用でコイルバネ25の作用に抗してライナー27に強く押付けられ、摩擦力でブレーキがかかる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばビルの壁、床、天井或いは橋脚、堤防等のコンクリート構造物をワイヤーソーイングにより切断する切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、ワイヤーソーイングによる切断装置について示すもので、コンクリート構造物1にアンカーボルト等により取外し可能に止着される取付台2と、該取付台2より突設され、ラック3を添設した支柱4と、図示しない駆動モータ及び該モータにより回転駆動される駆動プーリ5、更には図示しない送りモータと、該送りモータにより回転駆動され、上記ラック3に噛合して転動するピニオンを備え、支柱4に移動可能に装着される自走台6と、支柱4に直交して固定されるガイドバー7と、該ガイドバー7に取外し可能に止着され、それぞれが同一平面上に位置する複数のガイドプーリ8a、8b、8c、8dと、コンクリート構造物1と駆動プーリ5との間にガイドプーリ8a、8b、8c、8dを介して掛け渡されるダイヤモンドワイヤー9よりなり、コンクリート構造物1の切削時には、前記駆動モータによりプーリ5を回転駆動してコンクリート構造物1に掛けられるダイヤモンドワイヤー9を牽引し循環駆動させながら、前記送りモータによりピ二オンを回転駆動して自走台6を後退(図1においては上昇)させ、ワイヤー9の弛みを吸収してコンクリート構造物1のワイヤーソーイングを行うようになっている。
【0003】
前記切断装置のメインポールを立て向きに設置してコンクリート構造物を切断する際、切電ないし停電すると、電動モータが停止するが、このとき自走台が電動モータを逆転させながら支柱に沿い、落下して下部のガイドプーリやコンクリート構造物に衝突し、その衝撃で自走台やガイドプーリが破損し、或いは破損の危険を生ずることがある。この問題を解消するためにピ二オン軸に落下防止用の電磁ブレーキを取付け、切電ないし停電すると、ブレーキがかかり、通電するとブレーキが解除されるようにしたものが知られる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−68252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電磁ブレーキを備えた自走台は、通電時にはブレーキが解除されているが、送りモータのトルクが下がり、自走台の推力が自走台の自重を下回ると、自走台が支柱に沿い降下して下部のガイドプーリやコンクリート構造物に当り、自走台やガイドプーリ等を破損させるおそれがある。
【0006】
本発明は、切断時や通電時に関係なく、自走台が一定以上の速度で降下すると、作動する機械式のブレーキ機構を備えた切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係わる発明は、コンクリート構造物に取外し可能に取着される取付台と、該取付台より突設され、ラックを添設した支柱と、該支柱4に移動可能に装着され、駆動プーリを備えた自走台と、駆動プーリに掛けられるコンクリート構造物切断用の無端状のワイヤーを有し、前記自走台内には送りモータと、該送りモータを駆動源として回転駆動され、前記ラックと噛合するピニオンを備えたピニオン軸を有する切断装置において、前記ピニオン軸の周りをピニオン軸と一体となって回転するクランクピンと、該クランクピンに一端を軸支し、外周面を周方向に凸状の円弧面としたブレーキシューと、前記自走台に設けられ、前記ブレーキシューと接合可能な円周面を備えたブレーキ胴と、前記ブレーキシューの円弧面をブレーキ胴の内周面より離間する方向に付勢するバネ手段とよりなるブレーキ機構を前記自走台に設けたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係わる発明は、請求項1に係わる発明において、前記ブレーキ機構のクランクピンが一対、ピニオン軸を挟んで対称位置に設けられると共に、一端をクランクピンに軸支したブレーキシューが一対、対象位置に設けられ、両ブレーキシューがバネ手段により連結されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係わる発明によると、切断装置を支柱を縦向きにしてコンクリート構造物に設置した状態で自走台が降下すると、ラックと噛合するピニオンが送る方向と逆向きに回転し、ピニオン軸が逆回転する。そしてクランクピンがピニオン軸の回りを回転するのに伴ってブレーキ機構のブレーキシューも一端がクランクピンに軸支された状態でピニオン軸の周りを旋回する。ブレーキシューのピニオン軸の回りの旋回による遠心力が大きくなると、ブレーキシューはクランクピンを支点としてバネ手段の作用に抗して開き、ブレーキ胴の内周面に押し付けられる。自走台の降下速度が速くなるほど、ブレーキシューはブレーキ胴の内周面に強く当り、摩擦力でブレーキが掛かるようになる。
【0010】
自走台の降下速度が遅く、遠心力が小さいと、ブレーキシューはバネ手段の作用によりブレーキ胴の内周面より離脱し、自走台の降下はスムースに行える。
【0011】
請求項2に係わる発明によると、一対のブレーキシューにより制動力が増し、ブレーキ効果が倍増すると共に、ブレーキシューを対称位置に設けることによりバランスが取れ、ブレーキシューによる振動も生じにくい。またバネ手段も個々のブレーキシューに設けることなく一つですむ。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】切断装置の正面図。
【図2】切断装置に用いる自走台の断面図。
【図3】図2のA−A線での拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面により説明する。
図2は、ワイヤーソーイングによる切断装置、例えば図1に示す切断装置、すなわちコンクリート構造物1に取外し可能に取着される取付台2と、該取付台2より突設され、ラック3を添設した支柱4と、該支柱4に移動可能に装着され、駆動プーリ5を備えた自走台6と、駆動プーリ5に掛けられるコンクリート構造物切断用の無端状のワイヤー9を有し、前記自走台内には(図示しない)送りモータと、該送りモータを駆動源として回転駆動され、前記ラック3と噛合するピニオンを有するピニオン軸を備えた切断装置において、前記自走台6に代えて用いられる自走台11を示すものであり、図3は図2のA−A線での拡大断面を示すもので、自走台11は、ケーシング12を備え、ケーシング内にはピニオン軸13がベアリングにより回転自在に軸支されると共に、送りモータ15が取付けられ、ピニオン軸13が送りモータ15より歯車伝導装置16を介して回転駆動されるようになっている。そしてピニオン軸13には、ピニオン17と、機械式のブレーキ機構20が設けられており、以下これらについて順に詳述する。
【0014】
ピニオン17は前記支柱4に添設のラック3に噛合し、送りモータ15により正逆に回転して自走台11を支柱4に沿い進退させるようになっている。
【0015】
電磁クラッチ18は、ワイヤーソーイング時、ワイヤー9がコンクリート構造物1に噛み込み、負荷が増大すると、電磁クラッチ18がスリップし、動力の伝達が解除されるようになっているもので、特開昭2004−6825号に開示されるように既知のものであり、本発明の特徴部分ではないので、これ以上の詳細な発明は省略する。
【0016】
ブレーキ機構20は、ピニオン軸13の軸部に直径方向に一直線上に固定される一対のアーム22と、各アーム22端にピニオン軸13と平行をなし、かつピニオン軸13を挟んで対称位置に突設されるクランクピン23と、一端がそれぞれクランクピン23に回転可能に軸支され、外周面を周方向に凸状の湾曲面としたブレーキシュー24と、ピニオン軸13を挟んで対称位置に配置される両ブレーキシュー24を連結するバネ手段としてのコイルバネ25とよりなり、各ブレーキシュー24に対応する箇所のケーシング12は周方向の内周面がブレーキシュー24の外周面と同じ曲率半径をなすブレーキ胴となり、制動時ブレーキシュー24が当たるブレーキ胴内周面にはライナー27がブレーキ胴内周面と面一をなして取付けられている。図中、28はクランクピン23に嵌挿されるブレーキシュー24の抜け止めのため、クランクピン23に止着されるナットである。
【0017】
前記実施形態では、ピニオン軸13に電磁クラッチ18や電磁ブレーキ19を設けているが、これらは必須の要素ではなく、省いてもよい。同様にブレーキ胴の内周面に設けられるライナー27も必須の要素ではなく、省くことができる。
【0018】
前記実施形態ではまた、バネ手段としてコイルバネ25を例示したが、空気バネ(空気クッション)を用いることもでき、またブレーキシュー24を一回転方向に付勢するつる巻きバネを用いることもできる。つる巻きバネの場合、各ブレーキシュー24に個別に設けられる。
【0019】
前記実施形態ではまた、ブレーキシュー24は一対、対称位置に設けられるが、一つであっても制動を行うことができる。
【0020】
本実施形態の切断装置によると、電磁クラッチ18の作動の有無にかかわらず、支柱4を縦向きにして設置したワイヤーソーイング時において、送りモータ15のトルクが下がり、自走台11を持上げる推力が自走台11の自重を下回ると、自走台11が支柱4に沿い降下し、これによりラック3を転動するピニオン17と共にピニオン軸13も送り方向と逆向きに回転するが、ピニオン軸13の回転が高速になると、ブレーキシュー24が遠心力の作用でコイルバネ25の作用に抗してライナー27に強く押付けられ、摩擦力でブレーキがかかるようになる。これに伴い自走台11の降下速度が低下する。自走台11の降下速度が低下すると、ブレーキシュー24は遠心力が低下し、コイルバネ25の作用によりライナー27との摩擦力が低下して制動力が弱くなる。したがって自走台11が支柱4に沿い降下し取付台2や図1に示すガイドプーリ8a、8b、8c、8d等に当たるにしても、衝撃力が緩和され、各機器の損傷を生じないか、少なくすることができる。
【符号の説明】
【0021】
1・・コンクリート構造物
2・・取付台
3・・ラック
4・・支柱
5・・駆動プーリ
6、11・・自走台
8a、8b、8c、8d・・ガイドプーリ
9・・ダイヤモンドワイヤー
12・・ケーシング(ブレーキ胴)
13・・ピニオン軸
15・・送りモータ
17・・ピニオン
20・・ブレーキ機構
22・・アーム
23・・クランクピン
24・・ブレーキシュー
25・・コイルバネ
27・・ライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に取外し可能に取着される取付台と、該取付台より突設され、ラックを添設した支柱と、該支柱に移動可能に装着され、駆動プーリを備えた自走台と、駆動プーリに掛けられるコンクリート構造物切断用の無端状のワイヤーを有し、前記自走台内には送りモータと、該送りモータを駆動源として回転駆動され、前記ラック3と噛合するピニオンを備えたピニオン軸を有する切断装置において、前記ピニオン軸の周りをピニオン軸と一体となって回転するクランクピンと、該クランクピンに一端を軸支し、外周面を周方向に凸状の円弧面としたブレーキシューと、前記自走台に設けられ、前記ブレーキシューと接合可能な円周面を備えたブレーキ胴と、前記ブレーキシューの円弧面をブレーキ胴の内周面より離間する方向に付勢するバネ手段とよりなるブレーキ機構を前記自走台に設けたことを特徴とする切断装置。
【請求項2】
前記ブレーキ機構のクランクピンが一対、ピニオン軸を挟んで対称位置に設けられると共に、一端をクランクピンに軸支したブレーキシューが一対、対象位置に設けられ、両ブレーキシューがバネ手段により連結されることを特徴とする請求項1記載の切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−36183(P2013−36183A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171428(P2011−171428)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000165424)株式会社コンセック (30)
【Fターム(参考)】