説明

切開断面に処理剤等を塗付して植物を処理する方法とその鋏。

【課題】
気付かないうちに公園や庭の片隅、低木の植込み、生垣、街路の植栽等の中から雑木や雑草や蔓性草本が新梢や茎を伸ばしてくる。これらを根を掘り起こして除去する方法ではなく、処理剤で選択的に枯殺する。それを専用の鋏を使って臨場的処置で行う。
【解決手段】
鋏の一対の柄を握り両柄が閉合を停止した状態において、切刃と受刃が重合せず両者の刃線が一定の離間を保って離れている切込み鋏を用い、処理対象物の幹や枝に切り込んで切開断面部を造成し、次に浸透移行性を持つ処理剤や薬剤をその切開断面部に塗布し、あるいは吸水・保水材に含ませて差し込み、次に処理剤等を塗付した切開断面の上の枝小片を元の姿勢に戻してそれを蓋体とする。さらに当該切開部の外周をテープ等被覆材で巻いて処理剤等を内部に封じ込める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切開断面に処理剤等を塗付して植物を処理する技術とその際使用する鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
温暖な地域、肥沃な地域での植物の成長は実に旺盛である。庭であれ家屋周辺の空き地であれ、実にいろいろの種類の樹木、植物が芽を出してくる。おそらくそれは鳥が食して運んできた実や周囲の木から落ちたり風が運んできたりした種子が発芽したものである。
【0003】
気付かないうちに公園や庭の片隅、低木群の株の中、生垣、街路の植栽等の中にこっそりと芽を出している。低木の植込みや株の中の雑木や雑草はある程度まで生長しないと我々の目には止まらない。気付いたときにはかなり根が深くなっている。これを引き抜こうとすると意外に強く、根が引き抜かれるまえに幹の途中から切れたり、樹皮だけが引き剥かれることになる。そして翌年も根元等から新梢を出して伸びてくる。
【0004】
葛なども同様で雑草の中で蔓を延ばしている間は気付かず、周囲の雑草の中で葉が目立つようになったときには大抵かなり茎も太く根も深く下している。更に、葛は多年生のつる性草本で地上を這い、延した茎の各節から根を下ろして繁茂する。放置するといたるところで根が発生しそれを処理するのが困難になる。
【0005】
このような場合はスコップ等で根元を掘り起して除去するのが通常の手段であるが、大切な庭、剪定された植栽、生垣、植込み、低木群等の中にあっては採用できる手段ではない。また、根が深くなっていたり広く張っている場合は、掘り起こすのは大変な作業にもなる。
【0006】
そこでもう一つの方法としては、樹幹を切断し、植物体内での浸透移行性を持つ茎葉処理型枯殺剤をその切断断面に塗って枯らすことが可能である。
植物体内を水や養分が蒸散による陰圧、根圧、体内各部の濃度差による圧力等により移動する主な通路が維管束である。維管束は木部と師部から成り茎の他に根や葉にもあって、全てが互いに繋がっている。茎では木部が根で吸収した水分を茎頂へ送り、師部が葉等でつくられた養分を各消費部位へ送る通路となっている。
グリホサート・アンモニウム塩の溶液は植物体内を移行し、植物の成長に必要な芳香族アミノ酸をつくるのに必要な酵素であるEPSPSの働きを阻害してその植物を枯らしてしまう。ちなみに、樹径が50ミリメートル以下の雑かん木の場合なら3月から10月の間に1から2ミリリットルの41パーセント溶液を切断断面の内皮より内にある維管束部に塗布載置すればよい。
【特許文献1】特開2005−218359
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、塗った処理剤等の植物体内への浸透には時間を要するため、最低1日程度は切断面に付着させておく必要がある。その時間が長ければ長いほど効果が確実に現れる。また付着した処理剤等は規定の範囲の濃度を長時間維持していることが求められる。
ところが、現在実施されているのは処置を施そうとする部位を鋏等で切断して、その切断断面に処理剤を塗る方法や器に入れた処理剤に切断端を浸しておく方法であるため、雨が降れば直ちに濃度が薄められたり洗い流されてしまう。乾燥した日や風がある日は乾いてしまい規定の濃度を維持することができない。また、晴天下では紫外線等が薬効成分を破壊してしまう。
【0008】
更に、細い径の枝を処理する場合は枝の断面積が極端に小さいため、断面に2次元的処置で塗り付けることができる処理剤の量は限界があり極端に少なくなる。また、断面が小さいため塗っても付着が悪く直ぐに落ちたり、雨や風でも落されてしまう。径で5ミリメートル以下の幹はそのような理由でどうしても断面積が小さすぎる。剪定された植栽の中から出てきた雑木などは幹が細いうちに枯殺処置をしてしまいたい場合が多いので、この問題は是非とも解決しなければならない。
逆に太い枝の場合は多量に処理剤を樹体に供給する必要があるが、これも切断断面に塗付する2次元的方法では供給できる量に限界がある。
【0009】
またこれまで、少ない器具数、簡易な器具で臨場的処置で処理することも求められており、その方法として鋏の柄の開閉を利用して処理剤を切断面に吐出する鋏が提案されているが、この鋏は一般の人の握力では充分な塗布を確保することが出来ないことが問題である。
【特許文献2】特願2005−274935
【特許文献3】特願2006−274035
【0010】
通常、親指と四本指で両柄を握り、切刃の刃線の部分が枝に切り入りそれに従って刀身部が貫入していくことになるが、円形断面の枝を切ろうとするときなどは最初のうちは刃渡り方向の切断幅が急激に広くなるため、精一杯の力で握らなければならない。ところが刃線部が切り進んでいくと、今度は枝が切刃刃体の両側面間で開口しだすとともに、枝の径の半分の深さまで切り込んだところから、刃線部が切る切断巾が減少しだしその後急激に減少することになるため貫入の抵抗も必然的に急激に減少して切り込みが容易になり、切り進みの速度が急激に増すことになり、その後はどうしても瞬時に切りきってしまう。そして枝は鋏から放れてしまう。
【0011】
これでは切断面に処理剤等を充分に吐出する時間を確保することが出来ない。枝が鋏から放れる直前のところ即ち切り進みの速度が急激に増している途中で吐出の時間がほしい。握る力を加減しながら、切り込む速さを加減して時間を稼ぎ、充分な量を吐出させることは一般の人には至難の技である。また、急激に速くなった切り進み動作を途中で止めることも出来ない。
【0012】
以上問題点をいくつか挙げたが、本願では先ず薬効を確実に発現させるための処理方法として、塗った処理剤の材質を長時間維持するため処理剤の上に蓋をして多量の処理剤を3次元的に密封することを提案する。さらにその蓋は処理対象物である枝自身を利用して作る。また、その蓋は処理面に係止されて、塗付断面上でずれたり落ちたりせず、長時間蓋としての位置を維持するように形成する。
次に細い枝・太い枝を処置する場合でも切開断面創成用として安心して、思いっきり、力いっぱい、最後まで握ることが許される利器としての鋏を提案する。更に、塗付断面にゆっくりと時間をかけて十分な量の処理剤を塗付できる鋏も提案する。
なお、本願では一般的な鋏とは用途・構造が異なるため本提案の利器を「切込み鋏」と称して説明することにする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
先ず塗付処置の作業手順を雑木の枯殺を例にして説明する。塗布しようとする断面部位の茎頂側の少し上の位置を切断して枝の先端側を切り放し、次にその下の塗付処置しようとする部位に本願の切込み鋏で切り込みを入れて塗付処置のための切開断面と枝側面視でV字形の切開空間を造成する。
【0014】
そこでその切り込みは本発明の切込み鋏で行うが、その鋏は塗付処置しようとする部位を挟んで両柄を閉合が止まるところまで握っても枝は切断されることがなく必要な厚みの切残しを処置断面外縁部に生じさせる構造となっており、切残し部分にある植物繊維で枝の上下が繋がっている状態を創出するものである。20ミリメートル以下の枝の枯殺作業なら切残しの厚みは0.5から2ミリメートルくらいが適当である。
【0015】
次に両柄を開放してこの鋏を切込み部から離し、切込み部位の上に生じた枝の小片を指先で摘んで倒すなどして切り口を広げ、図2のように処理剤入りの注入器(14)を別途用意しておき、切り口の開口部から奥に向けてノズルを差し込んで処理剤を注出し、あるいは刷毛、箆等を使って塗付断面Zの維管束部に塗布する。このとき、切り残し部分の植物繊維は蝶番の機能を持つ。
細い枝の場合など、処置必要量に対して断面積が小さい場合は図3のように脱脂綿など吸水性や保水性のある物(19)をV字形切開部に差し込み、その吸水・保水体に処理剤を十分含ませる。あるいは吸水・保水性の物に含ませてから差し込む。そうすることによって切開断面に面的に塗り付けることが出来る量以上の十分な量を切開断面に載置出来る。
【0016】
次に図3のように枝小片(8)を概ね元の姿勢に戻してそれを蓋とする。この蓋すなわち枝小片(8)は下の枝(7)と切残し部分を構成している植物繊維で繋がっているので塗付断面上でずれたり下に落ちたりしない。
蓋としての枝小片(8)があると太陽光が入射してこない。また乾燥しにくいので塗布された処理剤の濃度が長時間保たれる。塗付された処理剤(9)は切開部の上と下の切開断面に付着して安定し落ちにくい。吸水・保水性の物に含ませた処理剤も安定していて垂れ落ちない。
【0017】
塗付した処理剤が更に垂れ落ちないように切開部を封じるように外周をビニールテープ等被覆材(13)等で巻く。切込み部外縁には三日月状あるいは弓形状の切残し部分があるためこれが蝶番の役目をして枝小片(8)は切開断面に対してずれたりせず安定しているので作業者一人で容易にテープを巻くことが可能である。又、切開断面の上と下など両側の枝は車の両輪のように同じ径であるのでテープは巻きやすい。単に枝の外周にテープを巻く感覚でよい。更に両側の上の枝と下の枝の間のV字形の切開空間は切開塗付断面と蓋体内面と被覆材に囲われて処理剤や吸水・保水材を収納するのに適した函となる。またこの函は三角形の骨組み構造で堅牢であり、中の吸水体を押し潰しの外圧から守ってくれる。また、これは処理剤の密封や乾燥防止や遮光にもなる。また、雨の日でも作業を行うことが出来るようになる。
【0018】
通常の剪定用鋏は図9のように切刃(1)と受刃(2)は両把持柄(3,4)にそれぞれ一体的に接合され、支軸(5)を軸受けして回動し一対で切断作用を行なう。受刃刃線(D)・切刃刃線(C)は滑らかな弧状で両者相対している。両刃線は側面視でそれぞれ両柄の交差角の2等分線の延長線と交差する形状である。そして受刃(2)は被切断物の枝(7)を下から頂版面で受け止め、支軸(5)を支点とした握手部での握りの作用で切刃(1)は受刃(2)によって保持されている枝(7)に上から刃元に向けて退きながら鉛直に切り込むことになる。両刃刃線の交点である切断点Vは握り込みとともに刃元から切先へ移動し両刃は重合する。握り込みを進めると両柄(3,4)の交差角が閉じ、両柄(3,4)の顎(A,B)の部分等支軸(5)を中心とした回動の軌跡上で両鋏構成部材のそれぞれの一部位が当接して係合し、機構的に回動が停止した状態、すなわち両柄(3,4)の交差角が閉合停止角となって回動を停止する。一方刃体側では刃渡りの全辺で両刃の刃線(C,D)が交差し、受刃の頂版面で支えられていた被切断物は切断され、その後両刃は重合して回動を停止する。
【0019】
そこで、図1で示すように両柄が支軸を中心に回動して閉合停止角で止まったとき、それぞれの柄の先に一体的に接合されている切刃(1)と受刃(2)が両者の刃線の一部区間であるいは刃渡りの全辺にわたって交差しておらず隙間Sが生じているような切込み鋏を提案する。
刃線を構成する刃先点の位置、支軸の中心の位置、軸受の中心の位置、両柄のそれぞれの顎等係合部位点の位置等が、上述したように両刃刃線間に隙間Sを確保した状態で回動停止になるような位置関係を持って形成されている切込み鋏を提案する。すなわち図6のように側面視で支軸(5)中心と軸受(6)中心を一致させ両柄(3,4)の係合部位(A,B)も合致させて重ねたとき、切刃の刃線(C)と受刃の刃線(D)は離間Sで離れているように形成することを提案する。
【0020】
両柄の交差角が閉合停止角となって回動が停止したとき、図1のように切刃(1)の両側の枝は両刃刃線間の隙間Sによる切り残し部分すなわち被切断物が円形断面の場合は切開断面の外縁に生じる三日月状あるいは弓形状の切残し部分の植物繊維で繋がっているため、切開断面の上の枝小片(8)は放れず逆に切刃(1)を挟んでいるため、図5のようにポンプ装置(11)等で圧送され径路(10)を通じて刃側面に送られた処理剤を切込み切開部にゆっくりと十分に吐出できる。また、両柄を開いて鋏を枝から放せば切込み部は両側の枝が繋がったままのV字形開口部として残る。
【0021】
図9のような一般的な鋏の場合、一般的には枝の素材的硬さ等にもよるが、普通の人の掌の大きさ、握力で切断できるのは直径で20ミリメートルくらいまでである。そこで径が20ミリメートル以下の枝を対象とすると、切残し部分は最も厚いところで即ち図1の隙間Sとしては0.5から2ミリメートルくらいの厚みで、断面図的には三日月状等の切り残し部分で上下片が繋がった状態にする。これくらいであれば上の枝小片(8)は蓋として下の枝(7)に確実に繋止される。また小片を抵抗少なく指先で傾けて切開部を開口することが出来る。三日月状の形における両先端部の繊維で蓋は捻れず閉じようとする状態を維持することが出来る。処置断面内の維管束部分のほとんど全てに塗付出来る。
【0022】
更に、回動が停止したときの両刃線は一定距離の離間による隙間で両者が粗平行していることが望ましい。これにより受刃のどの部分で受け止めて切り込んでも所用の厚さの切残しが確保出来る。また、処理対象の枝の径が大きくても小さくても常に一定の厚みの切残し厚を確保できる。
また、離間をもつ刃線上の区間長は概ね11ミリメートル以上は必要である。11ミリメートル以上あれば一般的に対象とする概ね20ミリメートルまでの径の枝なら大小問わず常に求める厚みの切残しを創成できる。区間長が短いと枝を切断してしまうことが生じる。
【発明の効果】
【0023】
本願では、本願提案の切込み鋏を使って処置部位に切り込んでV字形の切開空間と蓋体を創設することを提案している。そこに多量の処理剤を含ませた吸水・保水材を挟み込み、次にその切開空間をテープ等被覆材で密封する方式を提案している。蓋体があるので外周をテープ等で巻いて吸水・保水材を密封することが可能となる。これにより処置部位に切開塗付断面と蓋体内面とテープ等被覆材と切り残し部植物繊維で構成された堅牢な函が出来ることになる。函の中の切開断面は湿度が維持され処理剤の規定濃度も維持されて維管束部組織細胞が長時間生きているので浸透作用も長時間継続して確かな効果が出る。
切開断面と蓋体の間に出来たV字切開空間に処理剤等を挿入するため、処理剤は表面張力や界面付着の作用で付着・保持が安定する。吸水・保水材に沁み込んだ状態の多量の処理剤は毛管現象で吸水・保水材に強く保持されて安定している。従って前述の函は器になる。よって、多量の処理剤が保持される分だけ処理剤の濃度を薄くして、時間をかけゆっくりと浸透させることも可能となる。
また、処理対象が小さい径の断面で、その断面に2次元的に塗付するだけでは量的に不足となるような場合でも、吸水・保水材に必要十分な量の処理剤を含ませて挟み込むことが出来るようになることで、処理対象の枝径の範囲が拡大する。また、樹体1本あたりの処理箇所数を減らすことができる。また、植込み群の中の地表近くの短い太い幹をそこから伸びてきている今年の新梢の小さい断面を使って処理することも可能となる。
【0024】
また、これまで一般的には、浸透移行性の処理剤を雑木や雑草に処置するときは散布機で広く葉面に散布していた。しかしこのように吸水・保水材と切開空間を利用して大量の処理剤を一箇所から供給できるようになることで比較的大きな樹木にも応用できる。この方法は概ね樹高で3メートル以下の樹木に適用できる。一面に繁茂した葛の除去にも応用できる。
【0025】
臨場的に使用する利器として鋏は大変便利なものである。本発明の切込み鋏は安心して両柄を無造作に力いっぱい握っても必要な厚みの切り残しを生じさせる構造となっている。また、握りが終了したとき処理対象物は鋏から放れず切刃を両側面から挟んでいるため、切刃刃体内から処理剤をゆっくりと十分に切開断面に吐出することも出来る。
【0026】
本発明の切込み鋏は常に所要の厚みの切り残しを生じさせることが出来る。径で10ミリメート前後の枝を対象とする微妙な現場作業であるのでこれをナイフやナタやノコギリ等で創るのは実際上至難である。また、処置部位の断面外縁部での三日月状等の残しであるため、これにより上の枝小片を乾燥防止の保護用等の蓋体として利用することができる。
【0027】
このような、簡便な手段と道具で立体的な処置が可能になるのは切開断面の外縁に切り残しの部分を設ける本提案の切込み鋏によるもので、従来の鋏にはそのような用途はなく従ってそのような機能が無い。
その他の効果は実施例の説明や発明を実施するための最良の形態等の説明等の中で記述する。
【0028】
次に切込み鋏の実施例をいくつか説明する。なお支軸および支軸の軸受孔はそれぞれ受刃刃体あるいは切刃刃体のどちらに設けてもよいし、両刃体に貫通孔を穿設しそこに軸を挿通して軸の両端を閉じて支軸とする形態も可能である。また、両刃構成部材の一方の孔をネジ穴として支軸をそこのナット機能で固持することも可能である。
【実施例1】
【0029】
まず、切込みと切断の両方の作用が可能な鋏の例を説明する。
図4の例は受刃の長手方向の縦断形状が刃元に近い部分で凹状になっている。柄を握り顎等が係合して回動停止状態のときの図であるが、切先に近い部分では両刃は重合しているが、刃元近くの凹部では両刃は重合せず両刃刃線の間には離間距離Sを保って隙間が生じている。
【0030】
両刃の刃線を構成する刃先点の位置、切刃刃体に穿設した軸受孔中心の位置、受刃の支軸中心位置、両柄の縦顎等係合部位点の位置等について、上述のような動作をするような位置関係を持って形成されている。
それぞれの代表的な点の相対的位置関係は仮に軸受(6)中心点を原点にしX軸が両柄の係合点(A,B)を通るXY座標形式で表すと次のようになっている。
受刃構成部材の形状について
受刃の支軸中心点Ea(0.00,0.00)
受刃部材の係合部位点Fa(4.43,0.00)
受刃切先付近刃線を構成する刃先点の例Ia(−9.98,−0.30),Ja(−6.98,−1.99)
受刃刃元付近凹部刃線を構成する刃先点の例Ka(−5.59,−2.36),La(−4.50,−3.19),Ma(−2.74,−3.19),Na(−1.95,−1.99)
切刃構成部材の形状について
切刃の軸受中心点Oa(0.00,0.00)
切刃部材の係合部位点Qa(4.43,0.00)
切刃刃線を構成する刃先点の例Ta(−10.35,−0.45),Ua(−7.16,−2.40),Ya(−2.74,−2.96)
なお、切刃・受刃の刃線が常に滑らかに擦り合うように受刃のKa点は両刃の内側面が擦り合う面より外側に少し逃げるように形成している。
【0031】
この鋏で切開面を造る場合は刃元部の凹部で枝を挟んで両柄を閉じればよい。また、この鋏で枝を切断するときは、先ず刃元の凹部分で挟んで切り込みほとんどを切断したところで、一度両柄を開いて刃を枝から離し、次に切先部の刃が重合する部分で改めて切って切断する。
【0032】
この鋏の凹部で挟めば、20ミリメートル以上の大きな径の枝を処理することが出来る。鋏の両刃が大きな径の枝を切断するにはいくつかの条件を揃える必要がある。先ず、太い枝に切り込むには大きな切込みの力すなわち支軸を支点とした大きなモーメントを介した切込みの力が必要である。また、挟んだ枝を切先の方へ押し出してしまわないこと、すなわち切り込む力は被切断物の中芯部に向いていることが必要である。この条件を揃えているのがこの鋏である。先ず刃元の凹部で太い径を受け入れて挟むことが出来る。次に刃元部すなわち支点に近いところで切ることになるので大きな切断の切込みの力を得ることが出来る。そしてこの鋏の凹部は枝を下から支えるがその下からの反力の方向は切刃の切先の方向ではなく切刃が被切断物に切り込んでいる点に近い方向であるため枝を切先方向へ押し出すことがない。即ちこの鋏では太い枝を切断したり切り込んだりすることが出来る。また、枝を切先の方へ押し出さないので太い枝を回し斬りして切断することも容易である。
【0033】
一般的剪定鋏同様この例の切込み鋏は切断点に柄の捻り等を原因にして刃の厚み方向に両刃の刃線が離反する所謂口開きや両刃が重合しようとする所謂口閉じが起こる。
この実施例は、凹部切先側の終端点Kaでの切刃と受刃の口閉じによる両刃刃先の衝突あるいは交錯で柄の閉合が阻止される恐れがある。
そこで凹み部の切先側の終端点Kaの位置は刃の厚み方向において外側へ逃がすことを提案する。これにより切刃と受刃の口閉じによる両刃の刃先の衝突や交錯を回避して柄の閉合が常に可能になる
【実施例2】
【0034】
図5は処理剤(9)あるいは薬剤を切刃(1)の刀身内より吐出する鋏の例で、刃線を構成する刃先点の位置、支軸中心の位置、軸受中心の位置、両柄等の係合点の位置等は基本的に実施例1と同じである。
【0035】
柄を握ると柄の開閉がポンプ装置(11)を作動し、処理剤を刃側面の液溜(12)へ圧送する。柄を閉じたときにピストンの圧送作用は終了するが、枝(7)は切断されず切刃の両側面に接触したままの状態であり図1で図示のように粘性のある処理剤は切開面に時間をかけて圧出される効果がある。
【実施例3】
【0036】
図6,図7の例は図7で図示しているように切刃刃体に2つの軸受孔(15)が穿設されている。図6(イ)は支軸(5)を下の孔に通しその下の孔を軸受(6)として両柄(3,4)を握り込み両鋏構成部材の一部位、この例ではそれぞれの縦顎の一部分が衝突係合して回動が止まったときの図で、受刃(2)と切刃(1)は重合しておらず両刃の刃線(C,D)は一定の距離Sを保って離れている。図6(ロ)は上の孔を軸受として両柄を握り込み、両鋏構成部材のそれぞれの一部位、ここでは両柄の縦顎の一部分が衝突係合して回動が止まったときの図で受刃と切刃の刃線(C,D)は交差し両刃は重合している。
【0037】
両刃の刃線を構成する刃先点の位置、切刃刃体に穿設した2つの軸受孔中心の位置、受刃の支軸中心位置、両柄の縦顎等係合部位点の位置等について、上述のような動作をするような位置関係を持って形成されている。
それぞれの代表的な点の相対的位置関係は、仮に下の孔の軸受中心点を原点にし、X軸が下の孔を中心に回動したときの係合点を通るXY座標形式で表すると次のようになっている。
受刃構成部材の形状について
受刃の支軸中心点Eb(0.00,0.00)
切刃の上の孔を回動中心としたときの受刃部材の係合部位点Fb(4.24,0.00)
切刃の下の孔を回動中心としたときの受刃部材の係合部位点Gb(3.45,−0.04)
受刃刃線を構成する刃先点の例Ib(−9.79,−2.25),Jb(−7.01,−3.64),Lb(−2.70,−3.45)
切刃構成部材の形状について
切刃の上の軸受中心点Ob(0.00,0.60)
切刃の下の軸受中心点Pb(0.00,0.00)
切刃の上の孔を回動中心としたときの切刃部材の係合部位点Qb(4.24,0.00)
切刃の下の孔を回動中心としたときの切刃部材の係合部位点Rb(3.45,−0.04)
切刃刃線を構成する刃先点の例Tb(−9.75,−1.69),Ub(−7.01,−3.00),Yb(−2.66,−3.23)
【0038】
これも処理断面を境に両側を切り離してしまう「切断」と切り残し部分を生じさせて両側を繋ぎとめておく「切込み」の両方が行える鋏の例である。上の孔を軸受けにすれば切断が出来るし、下の孔を軸受けにすれば切込みが出来る。また、下の孔を軸受にする場合は太い枝を挟んで切り込むことが出来る。回し斬り切断も容易である。1つの鋏で複数の作業を行なうことができる。
【0039】
ここでは切刃刃体に2つの軸受孔を設けている例を説明したが孔は2つ以上でもよい、又それらの孔は必ずしも離れて1つづつ独立している必要はない。図7のように重なっていてもよい。孔の断面が重なっていると支軸の軸径を最低一方向について細くしておけば支軸の両端のボルト等を外して差し込み直すことなく切刃あるいは受刃を相対的に異動させて支軸を隣の孔中心へ容易に移動させることができる。そして必要とする切残し厚を確保してくれる孔や切断してしまう孔を選ぶことが出来る。また、孔を切刃刃体でなく受刃刃体に設けてもよい。
【実施例4】
【0040】
図8の例は一般的切断用の剪定鋏の親指柄(3)の背付近において、柄体内を左右に貫通した孔を軸受として軸(16)を貫通し、その軸の両端に固設したアーム(17)の端部で適当な厚みを持つ離隔材いわゆる「枕(18)」を横架している。
【0041】
図示のように、軸(16)を中心とした回動をする枕(18)を親指の指先の腹の部分等を使って押せば両柄の顎(A,B)の間に枕(18)を押し入れることが出来る。引けばそこから外される。押し込んだ状態で両柄(3,4)を握り込めば、枕は閉合制止部材となって切刃(1)と受刃(2)は重合せず所用の幅の平行な離間が生じる。すなわち両柄(3,4)がそれぞれ閉合制止の枕(18)と係合して途中で回動を停止するので、両刃の間で一定の幅の離間が生じ、その離間により枝は切り離されず、切刃は枝に喰い込んだ状態で止まる。切断してしまいたい場合は閉合制止枕(18)を両柄の顎(A,B)の間から外して柄を最後まで握り両刃を重合させればよい。
【0042】
閉合制止枕(18)の径を小さくして離間Sの調節用として両柄の顎(A,B)の間に押し入れる機構とすることもできる。
また、閉合制止枕(18)を弾性のある材料あるいは構造にして、両柄がそれぞれ閉合制止枕と係合した後の閉合動作に一定の弾性的抵抗を加えることも提案できる。抵抗が発生しそれを感じたところで握りを一旦止めて切断を止めれば必要な切り残しが生じる。更に握力を増して閉合制止枕を変形させながら柄を握れば切断してしまうことも可能である。多様な使用が出来る鋏となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以上、切込み・切断両用の鋏の例を説明した。標準的な作業の手順としては処理剤や薬剤を塗布しようとする部位の直ぐ上を切断用あるいは本発明の切込み・切断両用の鋏で切り、茎頂側の枝を切り落す。
次にその少し下位を本発明の切込み鋏で切り込みV字形の切開部を創設する。
次に形成されたV字形の切開部に処理剤を十分塗り込む。細い枝で切開断面の面積が小さい場合や太い径の枝でも樹体が大きくて多量の処理剤を樹体に浸透させたい場合は十分な量の吸水・保水材に十分な量の処理剤を沁み込ませて差し込む。
次に切開断面の上の枝小片を粗元の姿勢に戻して蓋体とする。
次に処理剤等が差し込まれたV字形切開部を包むようにビニールテープ等被覆材で巻いて密封すれば、差し込まれた処理剤は外の気象に影響されず長時間適切な材質が維持され切開断面の維管束部に長時間に渉って浸透して確実な薬効の発現をもたらす。
【0044】
また、葛等つる性の草本が地上を這い延ばした茎の各節で根を下している場合は、蔓の中間点で処置する。処置点部分で茎を切断することをせず、図10のように本発明の切込鋏で切り込んでV字形開口部を創設して、そこに処理剤を十分含ませた吸水・保水材を挟み込み切開断面部の両全断面に処理剤を塗付する。そうすることによって処置切開部の両切開断面の木部と師部から処置点の根元側の主根にも茎頂側の各節の根にも処理剤を行き渡らせることができ、基本的に一箇所での処置でその蔓に係る全ての根を枯殺することが出来る。葛の繁茂した中で根元や茎頂部を探す必要はなく、適当な一定間隔でこの処置を施せば全体を処理できることになる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の切込み鋏と茎葉処理型除草剤と本発明処理法を組み合せれば落葉雑かん木、常緑雑かん木、つる性草本等の選択的枯殺処理に使用することができ、携帯性が良く効率的で、確実な処理に資する。この処置を施して4日ぐらい経つと維管束系の中で近い部位から順に葉が枯れ出し、全ての葉が枯れて最後には根も枯れる。
また、林業家の行うスギ、ヒノキなどの間伐にも使用できる。また、保育期間が済み太陽の光も人の目も届きにくくなった植林施業地内で、密かに生長を維持し気付かないうちに成木をも倒してしまう藤蔓の枯殺処理にも有効である。保育期を過ぎた林地の管理は疎かになりがちである。見廻りの際には本発明の切込み鋏と処理剤と吸水材とテープの4点を携行することを提案する。
【0046】
またススキ、セイタカアワダチソウなど茎が比較的太い雑草を枯らすときにも同様に使用できる。
葛は雑草のなかでは生命力が強くなかなか絶やすことが困難であるが、市販のグリホサート・アンモニウム塩41パーセントの処理剤なら春期か秋期に1株に1から2ミリリットルほど切開部に付ければ先述の薬効で枯死させることが出来る。
広範囲に葉面に薬剤を散布する方法に比べて薬量が少なくて済み、付近の住民に飛散による健康被害をもたらさないことから人や地球環境にやさしい処理方法である。
【0047】
応用としては桃や梨、林檎、柿などの果樹あるいはカエデ等の庭木や街路樹において、シンクイムシ類やハマキムシ類などの害虫が樹幹や葉、果肉、新梢、樹皮下等に潜り込むのを予防するためにあるいは駆除するために、本発明の切込み鋏で切り込むなどして、浸透移行性を持つアセフェート剤など防虫、殺虫の薬剤を脇の枝や次期剪定時に不用となる枝の切開部から浸透させる方法も提案出来る。複数箇所に処置すれば樹全体に薬効を及ぼすことが出来る。カイガラムシ、ハモグリバエ、ケムシ、アブラムシ、コナジラミ、アザミウマ等樹皮や葉に着いたり樹幹に入り込んだ害虫の退治や予防にも有効である。
さらに葡萄やイチゴ等の無種子化、果粒肥大、熟期促進処理剤との組み合わせも提案できる。また、切り口から雑菌が入るのを防ぐために切断面にワックスを塗ることにも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】切刃刃体から処理剤を吐出する鋏の例で、両柄の回動が閉合停止角で止った状態で、切刃・受刃は断面で図示している。
【図2】切開断面に処理剤を塗付する作業の例。
【図3】切開部に処理剤を含ませた吸水・保水材を差し込んだ後、切開部を被覆材で覆って封じ込めた例。要部を断面図で図示している。
【図4】実施例1の側面図。
【図5】実施例2の側面図。切刃構成部材、ポンプ装置については切開断面で図示している。
【図6】実施例3の側面図。
【図7】実施例3の切刃構成部材側面図。
【図8】実施例4の斜視図。
【図9】一般的剪定鋏の説明図。
【図10】つる性植物を処理する処置例。処置部を拡大して図示している。
【符号の説明】
【0049】
1 切刃
2 受刃
3 親指柄
4 四本指柄
5 支軸
6 軸受
7 枝
8 枝小片
9 処理剤
10 径路
11 ポンプ装置
12 液溜り
13 被覆材
14 注入器
15 軸受孔
16 軸
17 アーム
18 閉合制止枕
19 吸水・保水材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の切開断面に処理剤や薬剤を塗付して枯殺処理等する作業において、植物の処置部位に切り込み、その処置部位断面の外縁に三日月状または弓形状の切り残し部分を確保した切開断面を創設し、その切残し部分の植物繊維で切開断面を境にした両側が繋がった状態の切開断面部を創設し、次に切開断面に処理剤や薬剤を塗付することを特徴とする処理剤等塗付法。
【請求項2】
請求項1記載の処理剤等塗付法において、切開断面部に処理剤や薬剤を含ませた吸水・保水材を挟み込むことを特徴とする処理剤等塗付法。
【請求項3】
請求項1から2のいずれかに記載の処理剤等塗付法において、処置部位の少し上の位置を切断してその先端側を切り放し、切開断面部の上の枝小片を蓋体として利用することを特徴とする処理剤等塗付法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の処理剤等塗付法において、切り込みによって創設した切開部空間を封じるように切開断面部を被覆材で覆って処理剤や薬剤を切開部空間内に封じ込めることを特徴とする処理剤等塗付法。
【請求項5】
受刃・切刃をそれぞれ有する一対の鋏構成部材を支軸にて回動自在に枢着した鋏において、両柄を握り支軸を中心に回動させ、それぞれの鋏構成部材の一部位が両者で係合して回動が停止した状態のとき、それぞれの柄に一体的に接合されている切刃と受刃の両者が刃渡りの全辺であるいは刃渡りの一部区間で互いに重合しておらず刃渡りの全辺であるいは刃渡りの一部区間で両者の刃線の間に隙間が生じるような位置関係で形成されており、植物を両刃で挟んで両柄を握ったとき、請求項1に記載の切り残し部分を確保した切開断面を創設することを特徴とする切込み鋏。
【請求項6】
両柄を握り回動が停止した状態のとき、受刃・切刃の両者の刃線の間の隙間が略一定幅の離間による粗平行な隙間であることを特徴とする請求項5に記載の切込み鋏。
【請求項7】
鋏構成部材に軸受孔を2以上設け、そのうちの1の孔を支軸の軸受にしたとき、鋏構成部材の主要な部位が請求項5から6のいずれかに記載の位置関係にあり、更に別の孔を支軸の軸受にして回動させ両鋏構成部材のそれぞれの一部位が両者で係合して回動停止した状態のとき、切刃と受刃が刃渡りの全辺で重合しているような位置関係であるように形成されていることを特徴とする切込み鋏。
【請求項8】
一対の鋏構成部材の両柄等の間に閉合制止機構を配置し、閉合制止機構を機能させたとき、鋏構成部材の主要な部位が請求項5から7のいずれかに記載した刃線の間に隙間が生じるような位置関係であり、更に閉合制止機能を解除した状態で両柄を握って回動が終了した状態のとき、切刃と受刃が刃渡りの全辺で重合しているような位置関係であるように形成されていることを特徴とする切込み鋏。
【請求項9】
切刃側面から処理剤や薬剤を吐出する鋏において、鋏構成部材の主要な部位が請求項5から8のいずれかに記載の位置関係で形成されていることを特徴とする切込み鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−46048(P2010−46048A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225488(P2008−225488)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【特許番号】特許第4357582号(P4357582)
【特許公報発行日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(307036535)
【Fターム(参考)】