説明

刈払機及び動力機械

【課題】チューブによるギヤケース内へのグリースの注入をスムースに行えるようにする。
【解決手段】原動機11によって駆動される駆動軸14の回転を、駆動軸14に交差する方向に延設された刈刃駆動用の回転軸19に伝えるギヤ手段としての各ベベルギヤ17、29に、駆動軸14の先端に連設されたギヤケース13と、ギヤケース13にこれの内外に貫通するように形成されたグリース注入用ネジ孔31および空気孔41と、を設けたものとし、グリース注入用ネジ孔31にグリース流出防止用ネジ32をねじ込んだとき、該グリース流出防止用ネジ32の顎部が前記空気孔41を塞ぐ構成である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機によって駆動される駆動軸の回転を、ギヤを介して刈刃駆動用の回転軸に伝える刈払機等の動力機械に係り、特に前記ギヤを収納したギヤケース内へのグリースの注入を確実にするものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の草刈機や芝刈機として用いられる刈払機として、図5および図6に示すものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この刈払機は、原動機としての2サイクルエンジン11と、このエンジン11を一端に取り付けている筒状の操作桿12と、この操作桿12の他端に連設されたギヤケース13と、操作桿12内に回転自在に支持されて、前記エンジン11の回転をギヤケース13に伝える駆動軸14と、この駆動軸14の回転によって前記ギヤケース13内のギヤおよび刈刃用回転軸(図示しない)を介して駆動される円板状の刈刃15とを備えている。また、操作桿12には刈刃15を作業位置に移動するように操作桿12を横振り操作する操作ハンドル16が取り付けられている。
【0003】
ギヤケース13は、全体として「く」の字状に折れ曲がった筒形態をなし、その一端(図上、上端)が圧入やその他の締結方法によって、操作桿12の下端に固着されている。また、駆動軸14の下端には、第1のベベルギヤ17の基端部が固定されている。この第1のベベルギヤ17は全長に亘って中心孔17aを有し、この中心孔17a内に駆動軸14の下端部が、例えばスプラインキー溝の嵌合によって互いに回転しないように結合されている。また、この第1のベベルギヤ17は、円筒部17b外周がギヤケース13の内周面に固設されたベアリング18によって、これらの中心線の回りに滑らかに回転可能に支承されている。
【0004】
また、ギヤケース13内には前記駆動軸14に交差する方向に回転軸(従動軸)19が設置されている。この回転軸19は、一端(図上、上端)がギヤケース13の開口部13a内周にC形リング30によって抜け止めされたベアリング21によって、水平回転自在に支持されている。また、回転軸19は、上端部がギヤケース13内の天部に固定されたベアリング20によって水平回転自在に支持されている。
【0005】
さらに、回転軸19の下端はギヤケース13の下端から下方へ突出し、この下端部に刈刃15を支持するための支持座22の取り付け孔22aがスプラインキー溝嵌合構造によって連結可能になっている。なお、スプラインキー溝嵌合構造であるから、支持座22は回転軸19に対し抜き差し可能であり、またギヤケース13のいずれにも干渉しない取り付けとなっている。
【0006】
刈刃15は、中心部に回転軸19を挿通させる取付孔15aを有する。この回転軸19の下端部の中心にはネジ孔(図示しない)が所定深さに亘って形成されている。支持座22との間に介在した刈刃15は、刈刃押さえ24を介してそのネジ孔にねじ込んだボルト25によって、支持座22にしっかりと固定可能にしている。つまり、刈刃15は支持座22と刈刃押さえ24との間に挟圧保持され、回転軸19とともに、図中、水平回転自在となっている。
【0007】
なお、そのネジ孔およびボルト25は逆ネジ結合され、刈刃15の回転中に緩みを生じないようにされている。ギヤケース13の外周にはフランジ26が水平方向に突設され、このフランジ26には、刈刃15の上部を覆うようにアタッチメント27がネジ28によって取り付けられている。このアタッチメント27は刈刃15で切断した草などが上方(作業者の身体方向)へ飛び散ることを防止するように機能する。
【0008】
一方、回転軸19の上端部には第2のベベルギヤ29が固定されており、この第2のベベルギヤ29はギヤケース13内において前記第1のベベルギヤ17に噛合されている。さらに、ギヤケース13の胴部には、これの内外に貫通するグリース注入用のグリース注入用ネジ孔31が穿設されており、このグリース注入用ネジ孔31にネジ頭を持ったグリース流出防止用ネジ32がねじ込まれている。
【0009】
グリース注入用ネジ孔31はギヤケース13内にグリースを注入するためのものであり、グリースの注入後にはこれにグリース流出防止用ネジ32がねじ込まれて、グリースがギヤケース13外に漏れることを防止可能にしている。グリースはベベルギヤ17,29の噛合部およびベアリング18、20、21の回転機構を潤滑するために、十分な量をギヤケース13内に充填しておく必要がある。
【0010】
ところで、前述のようなギヤケース13を持つ刈払機では、草刈のために刈刃15を高速回転させるところからグリースの消耗が激しく、所定期間ごとにグリースの補充を行っている。このグリースの補充は、前記ネジ32をグリース注入用ネジ孔31から緩めて外し、グリースが充填されたチューブの先端をグリース注入用ネジ孔31内に差し込んで、そのチューブの胴部を絞ることによって、グリース注入用ネジ孔31を通じてギヤケース13内に注入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平2−29286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の刈払機のギヤケース13にあっては、グリースが充填されたチューブの先端がグリース注入用ネジ孔31内に差し込まれた段階で、ギヤケース13内の空気の出入り口が塞がれてしまい、チューブを強く絞り込んでもグリースがギヤケース13内にスムースに注入されず、結果的にギヤケース13内へのグリースの充填量が不十分になって、結果として潤滑動作の信頼性が劣るという不都合があった。
【0013】
本発明はかかる従来の問題点に着目してなされたものであり、グリース注入用ネジ孔とは別にギヤケースに空気孔を設けることで、チューブによるギヤケース内へのグリースの注入をスムースに行えるようにするとともに、グリースを所定量充填した後は、グリース流出防止用ネジによってグリース注入用ネジ孔および前記空気孔を同時に閉じることで、ギヤケースの外観を損ねることなく、ギヤケース内にごみや塵埃が進入することを確実に防止することができる、刈払機及び動力機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために、本発明に係る刈払機は、原動機によって駆動される駆動軸の回転を、該駆動軸に交差する方向に延設された刈刃駆動用の回転軸にギヤ手段を介して伝える刈払機であって、前記ギヤ手段は、前記駆動軸の先端に連設されたギヤケースと、該ギヤケースにこれの内外に貫通するように形成されたグリース注入用ネジ孔および空気孔と、を有し、前記グリース注入用ネジ孔にグリース流出防止用ネジをねじ込んだとき、該グリース流出防止用ネジの顎部が前記空気孔を塞ぐように形成されてなることを特徴とする(請求項1)。
【0015】
この構成により、ギヤケースのグリース注入用ネジ孔にグリースが充填されたチューブの先を挿し込み、そのチューブを手で絞って内部のグリースをギヤケース内に注入すると、このグリースの注入量に応じた容量の空気が空気孔を通じてギヤケースの外に排出されるため、このギヤケース内のグリースの注入が空気の抵抗なくスムースに行われ、必要量をギヤケース内に充填できる。従って、ベベルギヤやベアリングの回転系でのグリースの消耗分を容易、迅速に補充することができる。また、そのグリースの充填後は、グリース注入用ネジ孔にグリース流出防止用ネジをねじ込むことで、このグリース流出防止用ネジの顎部がそのグリース注入用ネジ孔を塞いで、グリースのギヤケース内からの漏れを確実に防止することができる。
【0016】
この場合において、グリース流出防止用ネジを十分締めこむと、このグリース流出防止用ネジの頭(鍔)が空気孔を同時に塞ぐこととなる。従って、この空気孔からのグリースの漏れも同時に防止できる。また、これにより空気孔がグリース流出防止用ネジによって塞がれるため、空気孔閉塞用のネジを別途用意するなどして、これを空気孔にねじ込むという作業が不要である。そして空気孔を設けたことによる外観の劣化、ごみの浸入や外気によるグリースの酸化促進などの問題発生を回避することができる。
【0017】
また、本発明に係る刈払機は、空気孔の内径を、グリース注入用ネジ孔の内径より小さくすることにより(請求項2)、グリース流出防止用ネジ、特にネジ頭が小径のものを用いることができる。
【0018】
本発明に係る動力機械は、原動機によって駆動される駆動軸の回転を従動軸に伝えるためのギヤ手段を有する動力機械であって、前記ギヤ手段は、ギヤケースと、該ギヤケースにこれの内外に貫通するように形成されたグリース注入用ネジ孔および空気孔と、を有し、前記グリース注入用ネジ孔にグリース流出防止用ネジをねじ込んだとき、該グリース流出防止用ネジの顎部が前記空気孔を塞ぐように形成されてなることを特徴とする(請求項3)。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、チューブによるギヤケース内へのグリースの注入をスムースに行えるとともに、グリースを所定量充填した後は、前記グリース注入用ネジ孔およびその空気孔を同時に閉じることができ、空気孔がギヤケースの外観を損ねることなく、また空気孔を通してギヤケース内にごみや塵埃が進入することをも確実に防止することができる。
【0020】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態による動力機械としての刈払機の要部を示す斜視図である。
【図2】図1に示す刈払機のA−A線縦断面図である。
【図3】図2におけるグリース注入用ネジ孔に対するグリース入りチューブのねじ込み状態を示す説明図である。
【図4】図2におけるグリース注入用ネジ孔にグリース流出防止用ネジをねじ込んだ状態を示す説明図である。
【図5】従来の刈払機を示す斜視図である。
【図6】図5に示す刈払機の要部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態にかかる動力機械として、刈払機を例示して説明する。図1は、本実施形態にかかる刈払機の要部を示す斜視図、図2は、図1におけるA‐A線断面図である。本実施形態の刈払機は、図6に示したものと基本構成は略同一であり、以下この同一構成を除く部位を中心に、具体的に説明する。
【0023】
本実施形態において、ギヤケース13の胴部には、このギヤケース13の内外に貫通するグリース注入用ネジ孔31が形成されている。このグリース注入用ネジ孔31は、グリースが充填された図3に示すようなチューブ42の先端をねじ込むことができるサイズ、長さを有する。このグリース注入用ネジ孔31の近傍には、このグリース注入用ネジ孔31より小径の空気孔41が、ギヤケース13の内外に貫通するように設けられている。
【0024】
グリース注入用ネジ孔31にはネジ頭32aを持ったグリース流出防止用ネジ32のネジ軸32bがねじ込まれている。このグリース流出防止用ネジ32は、ギヤケース13内へグリースを注入または補充する際に、グリース注入用ネジ孔31から外され、グリースの注入後または補充後に再びグリース注入用ネジ孔31にねじ込まれる。また、このグリースの注入の際には、グリースが充填されたチューブ42の先端に螺合されたキャップ(図示しない)を緩めて外し、図3に示すように、そのチューブ42の先端外周に設けられた螺子部43を、前記グリース注入用ネジ孔31にねじ込む。このねじ込み状態において、チューブ42を手で絞りながら、チューブ42内のグリースをギヤケース13内に注入する。
【0025】
このグリースのギヤケース13内への注入の際に、グリース注入用ネジ孔31はチューブ42の先端部によって塞がれている。しかし、グリースがギヤケース13内に注入されるとともに、その注入量分の空気がギヤケース13内から空気孔41を通してギヤケース13外へ放出される。このため、グリースの注入が スムースかつ迅速に、しかもギヤケース13内に奥深く送り込まれる。これにより、グリースはギヤケース13内のベアリング18、20、21およびベベルギヤ17、29の噛合部に行きわたり、これらの機械的接触部を十分に潤滑することとなる。
【0026】
一方、ギヤケース13内へのグリースの充填量が大凡の設定量になった時点で、グリースの注入作業を止め、グリース注入用ネジ孔31とチューブ42のネジ部43との螺合を解除する。そしてそのグリース注入用ネジ孔31に、前記チューブ42に代えてグリース流出防止用ネジ32のネジ軸32bを、ネジ頭32aの下面(顎部)がギヤケース13の胴部外周に形成された平坦な座面44に密接するまでねじ込む。これにより、前記座面44上に開口した前記空気孔41は前記ネジ頭32aの顎部によって、図4に示すように塞がれることになる。この結果、ギヤケース13内のグリースはグリース注入用ネジ孔31および空気孔41のいずれからもギヤケース13外に漏れ出ることはない。なお、必要に応じて、グリース流出防止用ネジ32をパッキングやゴムワッシャを介してグリース注入用ネジ孔31にねじ込むようにすることもできる。この場合には、前記グリース流出防止用ネジ32のネジ頭32aの下面で前記パッキングやゴムワッシャが前記座面44に密着させられて、前記空気孔41が塞がれる。
【0027】
また、本実施形態のアタッチメント27Aは、円錐状に下方へ開くテーパ部Pと、このテーパ部Pの上面に水平に延びるリング状の水平部Qとからなり、その水平部Qが、ギヤケース13の胴部外周に突設された複数対の上部突片13bおよび下部突片13c間に挟圧保持されている。刈刃押さえ24は下端部にリング状突起24aを有し、このリング状突起24a内にボルト25の頭25aが隠れるように,ボルト25のネジ軸25bがワッシャ45を介して回転軸19の下端部にねじ込まれている。このため、ボルト25の頭25aがその外周辺部分に晒されることがなく、刈刃押さえ24の外観の向上並びに小石などとの干渉によるボルト25の緩みや損傷を未然に回避することができる。
【0028】
このように、本実施形態にかかる刈払機は、原動機11によって駆動される駆動軸14の回転を該駆動軸14に交差する方向に延設された刈刃駆動用の回転軸19に伝えるギヤ手段としての前記各ベベルギヤ17、29に、前記駆動軸14の先端に連設されたギヤケース13と、該ギヤケース13にこれの内外に貫通するように形成されたグリース注入用ネジ孔31および空気孔41と、を設けたものとし、前記グリース注入用ネジ孔31にグリース流出防止用ネジ32をねじ込んだとき、該グリース流出防止用ネジ32の顎部が前記空気孔41を塞ぐ構成とした。
【0029】
これにより、グリース注入用ネジ孔31にチューブ42の先を挿し込み、そのチューブ42を手で絞りながら内部のグリースをギヤケース13内に注入すると、このグリースの注入量に応じた容量の空気がギヤケース13内から外へ排出される。このため、このギヤケース13内のグリースの注入が抵抗なくスムースに行われ、グリースの必要量をギヤケース13内に充填でき、ベベルギヤ17、29等の回転系でのグリースの消耗分を容易、迅速に補充することができる。また、そのグリースの充填後は、グリース注入用ネジ孔31にグリース流出防止用ネジ32をねじ込むことで、そのグリース流出防止用ネジ32の顎部に空気孔41を塞がせることができ、この空気孔41を通してのグリースの漏れも確実に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、チューブによるギヤケース内へのグリースの注入をスムースに行えるようにするとともに、グリースを所定量充填した後は、前記グリース流出防止用ネジ孔31およびその空気孔41を同時に閉じることができるという効果を有し、原動機11によって駆動される駆動軸14の回転を、ギヤを介して作業部材に伝える動力機械に有用であり、例えば、本明細書で説明した刈刃機等に有用である。
【符号の説明】
【0031】
11 エンジン(原動機)
12 操作桿
13 ギヤケース
14 駆動軸
15 刈刃
16 操作ハンドル
17 第1のベベルギヤ
18、20、21 ベアリング
19 回転軸(従動軸)
22 支持座
24 刈刃押さえ
29 第2のベベルギヤ
31 グリース注入用ネジ孔
32 グリース流出防止用ネジ
41 空気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機によって駆動される駆動軸の回転を、該駆動軸に交差する方向に延設された刈刃駆動用の回転軸にギヤ手段を介して伝える刈払機であって、
前記ギヤ手段は、
前記駆動軸の先端に連設されたギヤケースと、
該ギヤケースにこれの内外に貫通するように形成されたグリース注入用ネジ孔および空気孔と、を有し、
前記グリース注入用ネジ孔にグリース流出防止用ネジをねじ込んだとき、該グリース流出防止用ネジの顎部が前記空気孔を塞ぐように形成されてなることを特徴とする刈払機。
【請求項2】
前記空気孔の内径が、グリース注入用ネジ孔の内径より小さいことを特徴とする請求項1に記載の刈払機。
【請求項3】
原動機によって駆動される駆動軸の回転を従動軸に伝えるためのギヤ手段を有する動力機械であって、前記ギヤ手段は、
ギヤケースと、
該ギヤケースにこれの内外に貫通するように形成されたグリース注入用ネジ孔および空気孔と、を有し、
前記グリース注入用ネジ孔にグリース流出防止用ネジをねじ込んだとき、該グリース流出防止用ネジの顎部が前記空気孔を塞ぐように形成されてなることを特徴とする動力機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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