説明

制振性に優れたプレコート金属板及びその製造方法

【課題】本発明は、静音性能が求められる複写機、洗濯機、エアコン室外機等、あるいは吸熱性能を要するパソコン、ハードディスクドライブ等のディスク型記憶媒体を搭載した機器等の筐体に用いられる制振性に優れたプレコート金属板に関するものである。
【解決手段】本発明のプレコート金属板とは、金属板に樹脂層が形成されたプレコート金属板であって、前記樹脂層は熱膨張性カプセルにより発泡された発泡樹脂層であり、前記金属板に対する前記発泡樹脂層の厚み比h2が、10〜35倍であり、前記プレコート金属板の損失係数ηが0.020以上である点に要旨を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静音性能が求められる複写機、洗濯機、エアコン室外機等、あるいは吸熱性能を要するパソコン、ハードディスクドライブ等のディスク型記憶媒体を搭載した機器等の筐体に用いられる制振性に優れたプレコート金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複写機、洗濯機、エアコン室外機等のように、動作中の音が大きく、静音性能が求められるような電気機器の筐体には、動作音を抑制する機能を有する金属板が一般に使用されている。また、パソコンやハードディスクドライブ等の記憶媒体は、使用時に発熱しやすいことから、これらの筐体には発生した熱を吸収する性能を有する金属板が用いられている。
【0003】
上記のような静音性能や吸熱性能を発揮する金属板には、振動を低減させる性質(制振性)が付与されていることが好ましい。この制振性を評価する指標としては、広く損失係数ηが知られている。
【0004】
例えば、制振性を有する金属板(制振材)としては、弾性復元能のある発泡塗膜が下地金属の一面に設けられている建材用プレコート金属板がある(特許文献1)。しかしこの金属板は、制振性が必要とされる技術分野に適用されようとしているものの、制振性の指標となる損失係数ηは測定されていない。そのため、特許文献1に記載される金属板を製品として使用した際に、実際にどの程度の制振性を発揮するかを文献から判断することは難しい。
【0005】
また、発泡剤を含む配合物を圧延ロールでシート化し、得られたシート状の制振材を、接着剤が塗りつけられた鉄板に貼り合わせて製造された制振材がある(特許文献2)。しかし特許文献2の制振材は、発泡したシート状の制振材を、鉄板に貼り合わせて製造されたラミネート鋼板であるため、プレコート金属板とは異なり、制振材をラインで連続的に生産することができず、コストが高くなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−219354号公報
【特許文献2】特開2005−126646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、発泡樹脂層が積層されたプレコート金属板の損失係数ηは、基板となる金属板と、その表面に形成される樹脂層に依存する。具体的には下記式(1)により算出され、プレコート金属板の損失係数ηの値が大きいほど、高い制振性能を有していると評価できる。
【0008】
【数1】

(η:プレコート金属板の損失係数、η2:樹脂層の損失係数)
【0009】
2及びh2は、以下の式(2)及び(3)より求めることができる。
【0010】
【数2】

(E1:金属板のヤング率[Pa]、E2:樹脂層のヤング率[Pa])
【0011】
【数3】

(H1:金属板の厚み[μm]、H2:樹脂層の厚み[μm])
【0012】
式(1)より、制振性を高めるためには、プレコート金属板の損失係数ηを決定する3種のパラメータ、すなわち樹脂層の損失係数η2、ヤング率の比e2、厚み比h2の数値がそれぞれ大きくなるように設定されなければならない。
【0013】
プレコート金属板を工業的に製造する場合、実機レベルにおいては金属板に塗工できる塗料の厚みには限りがある。そのため、プレコート金属板の損失係数ηを大きくするには、例えば樹脂層形成用の塗料を発泡させ、樹脂層を厚くし、金属板との厚み比h2を大きくすることが考えられる。しかし図1より、樹脂層の発泡倍率と樹脂層のヤング率E2はトレードオフの関係にあるため、制振性能を向上させる目的で樹脂層の発泡倍率を高めても、樹脂層のヤング率E2が小さくなってしまう。樹脂層のヤング率E2が低下すると、式(1)よりプレコート金属板全体としての損失係数ηも低下してしまい、結果としてプレコート金属板の制振性能を向上させることができない。
【0014】
また図2は、金属板と樹脂層の厚み比h2を4.0と一定にした場合の発泡樹脂層のヤング率E2と損失係数η2との関係を示したグラフである。この図2から明らかなように、発泡樹脂層のヤング率E2と損失係数η2も同様にトレードオフの関係にある。そのため、プレコート金属板の損失係数ηを大きくする目的で、発泡樹脂層のヤング率E2を高く設定しようとすると、発泡樹脂層の損失係数η2の値が小さくなってしまい、プレコート金属板の損失係数ηを大きくできない。
【0015】
優れた制振性を示すプレコート金属板を得るには、プレコート金属板の損失係数ηを大きくする必要がある。しかし、損失係数ηを構成するパラメータ(樹脂層の損失係数η2、ヤング率の比e2、厚み比h2)は互いに関係し合っており、パラメータ間の適正なバランスを見出すことは決して容易なことではない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、ラインで連続的に生産されるプレコート金属板のように、塗料を厚く塗工することのできない場合であっても、塗料に熱膨張性カプセルを添加し、前記カプセルを加熱させて得られる発泡樹脂層の厚みが、金属板に対して10〜35倍となるように樹脂層を発泡させれば、プレコート金属板の損失係数ηが0.020以上である優れた制振性を示す金属板を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、上記目的を達成し得た本発明のプレコート金属板とは、金属板に樹脂層が形成されたプレコート金属板であって、前記樹脂層は熱膨張性カプセルにより発泡された発泡樹脂層であり、前記金属板に対する前記発泡樹脂層の厚み比が、10〜35倍であり、前記プレコート金属板の損失係数が0.020以上である点に要旨を有するものである。本発明においては、前記発泡樹脂層には、フィラーが発泡樹脂層中20〜45質量%含有されていることが好ましい。また、前記フィラーの平均粒径は5〜13μmであることが好ましい。さらに、前記発泡樹脂層には、熱膨張後のカプセルが10〜50質量%含有されていることが好ましい。
【0018】
本発明のプレコート金属板の製造方法は、金属板の上に樹脂層を形成し、プレコート金属板を製造する方法であって、前記金属板の上に、熱膨張性カプセルを含有した発泡性樹脂塗料を塗工したプレコート金属板を、前記熱膨張性カプセルの膨張温度未満で加熱する第1加熱工程と、前記熱膨張性カプセルの膨張温度以上で加熱する第2加熱工程との少なくとも2回の加熱工程により加熱することが好ましい。また、前記第2加熱工程における加熱温度が170〜250℃であり、加熱時間が2分以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、熱膨張性カプセルを含有した発泡性樹脂塗料を金属板に塗布した後、加熱により発泡後の発泡樹脂層の厚みが、金属板の厚みに対し10〜35倍となるように発泡させると、プレコート金属板の損失係数ηを構成するパラメータ(樹脂層の損失係数η2、ヤング率の比e2、厚み比h2)を、プレコート金属板の損失係数ηが大きくなるようにバランス良く規定することができる。そのため、プレコート金属板の損失係数ηが0.020以上という優れた制振性を示すプレコート金属板を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は樹脂層における発泡倍率(発泡樹脂層の膜厚/塗料の塗工厚)とヤング率の比(発泡樹脂層のヤング率/未発泡樹脂層のヤング率)の関係を示したグラフである。
【図2】図2は発泡樹脂層のヤング率E2と発泡樹脂層の損失係数η2との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.発泡性樹脂塗料
本発明において、金属板に塗工される発泡性樹脂塗料には、熱膨張性カプセルが含有される。前記熱膨張性カプセルは、ガス化する液体を内包しており、加熱によりこの内部の液体がガス化することによって前記カプセルは膨張する。しかし、カプセル壁が変形能に優れているため膨張しても破裂することはなく、前記カプセルは発泡後の発泡樹脂層の中に膨張状態で残存する。このようにカプセルが残存すると、発泡樹脂層中の気泡が潰れにくく、長期にわたって発泡樹脂層の発泡状態を保持することができる。本発明で使用される熱膨張性カプセルとしては、例えば、日本フィライト社製の「エクスパンセル」シリーズや、積水化学工業社製の「アドバンセル(登録商標)」シリーズがある。エクスパンセル950−80は、平均粒子径(膨張前)が18〜24μm、膨張開始温度138〜148℃、最高膨張温度188〜200℃であり、920−40は、平均粒子径(膨張前)が10〜14μm、膨張開始温度123〜133℃、最高膨張温度170〜180℃である。「アドバンセル(登録商標)EHM401」は膨張開始温度140〜150℃である。
【0022】
また熱膨張性カプセルは、好ましくは発泡性樹脂塗料固形分中に10〜50質量%、より好ましくは15〜40質量%含有されている。尚、カプセル内部のガスが、カプセル外部に抜け出すことがなければ、発泡後の発泡樹脂層中に膨張前と同量のカプセルが存在することになる。この熱膨張性カプセルの性質により、発泡後の発泡樹脂層中に存在する膨張後のカプセルは、FT−IRや公知の定量分析法で、定量することが可能となる。
【0023】
本発明においては、熱膨張性カプセルと化学発泡剤を併用して使用することも可能である。前記化学発泡剤とは、加熱されることにより分解してガス化する化合物であり、このような化学発泡剤としては、有機系発泡剤、無機系発泡剤のいずれも使用可能である。有機系発泡剤としては、例えば、アゾ化合物、ニトロソ化合物、スルホニルヒドラジド化合物およびその他の化合物等が使用可能であり、具体的には、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸バリウム、アゾビスイソブチロニトリル、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p−トルエンスルホニルヒドラジド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ヒドラゾジカルボンアミド、ジフェニルスルホン−3,3−ジスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルセミカルバジド、トリヒドラジノトリアジン等が例示できる。また、無機系発泡剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸亜鉛等が挙げられる。化学発泡剤は通常、分解残渣が発泡塗膜樹脂中に残存しているので、発泡後であってもFT−IRや公知の定量分析法で、化学発泡剤の使用量を確認することができる。
【0024】
本発明では、発泡性樹脂塗料中にフィラーを分散させておくことが好ましい。発泡樹脂層中にフィラーが存在すると、発泡樹脂層のヤング率E2を高めることができるため、プレコート金属板の損失係数ηの向上(即ち、制振性の向上)に繋がる。本発明で使用できるフィラーとしては、例えば炭化珪素、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム、タルク、マイカ、黒鉛、炭酸カルシウム、シリカ、カーボンブラック、クレー、酸化亜鉛、酸化チタン等が例示でき、特に本発明においては、ヤング率を適度な範囲に制御できることから、炭化珪素を使用することが好ましい。
【0025】
前記フィラーの含有量は、好ましくは発泡樹脂層中に20〜45質量%、より好ましくは25〜40質量%、さらに好ましくは30〜35質量%である。前記フィラーの含有量が20質量%以上であれば、発泡樹脂層のヤング率E2を効果的に高めることができる。しかしフィラーの含有量が45質量%より多くなると、金属板と発泡樹脂層との接着性が悪化し、発泡樹脂層が剥離する虞があるため好ましくない。
【0026】
前記フィラーの体積基準平均粒径は、例えば5〜13μmであり、好ましくは8〜12μmである。フィラーの粒径が前記範囲であれば、発泡樹脂層のヤング率E2がさらに高まり、プレコート金属板の損失係数ηの向上に繋がるため、プレコート金属板の制振性がより顕著に発揮される。
【0027】
発泡性樹脂塗料のベースとなる樹脂の種類は特に限定されないが、汎用のウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等を使用することが好ましい。ベースとなる樹脂の含有量は、好ましくは発泡性樹脂塗料固形分中10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%である。
【0028】
例えば、前記樹脂として、ポリイソシアネートとポリエステルポリオールを重縮合させたウレタン系樹脂を用いる場合、ジブチル錫ジラウレート等の反応触媒に加え、さらに架橋促進剤を添加することも好ましい。架橋促進剤を添加することにより、ポリウレタン樹脂の架橋密度を向上させることができるため、発泡樹脂層のヤング率E2を大きくすることが可能となる。上述したように、発泡樹脂層のヤング率E2が向上すると、プレコート金属板の損失係数ηが大きくなり、プレコート金属板の制振性がより顕著に発揮される。
【0029】
前記架橋促進剤としては、樹脂の架橋密度を向上させることができるものであれば、特に限定されないが、例えば、住化バイエルウレタン社製「デスモフェン(登録商標)NH1420」、「デスモフェン(登録商標)NH1521」、または「デスモフェン(登録商標)NH1220」等の(アスパラギン酸)アミン系架橋促進剤を使用することが可能である。前記架橋促進剤の使用量は、発泡性樹脂塗料中2〜15質量%が好ましく、より好ましくは4〜13質量%、さらに好ましくは5〜10質量%である。
【0030】
前記フィラーと前記架橋促進剤を併用して発泡性樹脂塗料を調製すると、発泡樹脂層のヤング率E2が大きくなり、かえって発泡樹脂層の損失係数η2を低下させてしまうことがある(図2を参照)。そのため、フィラーと架橋促進剤を併用する場合は、フィラーと架橋促進剤の合計量を、例えば発泡性樹脂塗料中10〜60質量%、好ましくは20〜50質量%、より好ましくは30〜40質量%とする。また、架橋促進剤に対するフィラーの配合比率は、架橋促進剤1に対し、好ましくは3.0〜10、より好ましくは3.4〜7.4、さらに好ましくは3.7〜6.1である。
【0031】
発泡性樹脂塗料は、前記に記載した各成分を所定量加え、充分に混合させて調製される。各成分を混合する際に、各組成物を溶媒に溶解、分散または乳化させ、適度に塗料の粘度を調整することが好ましい。本発明では、使用できる溶媒に特に制限はないものの、メトキシプロピルアセテート、キシレン、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ソルベントナフサ等の溶媒を用いることが望ましい。また、架橋促進剤と反応触媒を予め塗料に添加しておくと、塗料を金属板に塗工する前に重縮合反応が進行する虞があるため、架橋促進剤と反応触媒は、塗料を金属板に塗工する直前に添加するとよい。さらに、塗料の調整の際に使用される攪拌装置としては、公知の攪拌機であれば好ましく使用でき、例えばビーズミル、各種ブレンダー等の攪拌装置が例示できる。
【0032】
また上記発泡性樹脂塗料には、本発明の目的を阻害しない範囲で、艶消し剤、体質顔料、防錆剤、沈降防止剤、ワックス等、樹脂塗膜金属板分野で用いられる各種公知の添加剤を添加してもよい。
【0033】
2.金属板
本発明のプレコート金属板の基板として使用される金属板は、特に限定されず、汎用の鋼板または非鉄金属の金属板、これらに単一金属または各種合金のめっきを施しためっき金属板等が使用できる。例えば、熱延鋼板、冷延鋼板、ステンレス鋼板等の鋼板;溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni合金めっき鋼板等のめっき鋼板;アルミニウム、チタン、亜鉛等の非鉄金属板またはこれらにめっきが施されためっき非鉄金属板等が挙げられる。これらに、表面処理として、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、酸洗処理、アルカリ処理、電解還元処理、シランカップリング処理、無機シリケート処理等が施されていてもよい。特に本発明では、めっき鋼板が好ましく使用される。
【0034】
前記金属板のヤング率E1は、例えばめっき鋼板であれば、好ましくは180〜240GPa、より好ましくは200〜215GPaである。金属板のヤング率E1が前記範囲内であれば、プレコート金属板の損失係数ηが大きくなるよう、金属板と発泡樹脂層のヤング率の比e2を適切な値に規定することが可能となる。
【0035】
3.プレコート金属板の製造方法
本発明のプレコート金属板は、前記発泡性樹脂塗料を前記金属板に塗布した後、加熱し発泡させることによって製造される。
発泡性樹脂塗料を金属板に塗工する方法は特に限定されず、金属板に塗料を塗工する方法、例えば、バーコーター法、ロールコーター法、スプレー法、カーテンフローコーター法等の方法が採用できる。本発明においては、発泡倍率を低く抑えながらも、加熱後の発泡樹脂層は厚くできるよう、前記塗料の塗工厚は好ましくは50〜500μm、より好ましくは100〜400μm、さらに好ましくは150〜300μmである。
【0036】
金属板に発泡性樹脂塗料が塗工された金属板は、前記熱膨張性カプセルの膨張温度未満で加熱する第1加熱工程と、前記熱膨張性カプセルの膨張温度以上で加熱する第2加熱工程との少なくとも2回の加熱工程により加熱することが好ましい。前記第1加熱工程では、樹脂塗料の一部または全部を硬化する。続く第2加熱工程では、前記熱膨張性カプセルの膨張温度以上で加熱することにより、硬化または半硬化状態の樹脂層(以下、「硬化樹脂層」という)を発泡させ、発泡樹脂層を形成する。ただし、第1加熱工程で硬化樹脂層を発泡させると、得られる発泡樹脂層が金属板から剥離しやすくなる。そのため、硬化樹脂層の発泡は、第2加熱工程で行うことが望ましい。
【0037】
第1加熱工程における加熱温度は、前記熱膨張性カプセルの膨張温度未満であれば特に限られない。例えば、熱膨張性カプセルの膨張温度が138〜148℃の場合、第1加熱工程における加熱温度は、例えば135〜150℃が好ましい。
【0038】
また第1加熱工程での加熱時間は、4分以上であることが好ましい。しかし、装置によっては4分以上加熱することが困難な場合もあるため、装置の能力を考慮しながら、少なくとも2分以上加熱することが望ましい。
【0039】
前記第2加熱工程における加熱温度は、前記熱膨張性カプセルの膨張温度以上であることが好ましい。第2加熱工程における加熱温度や加熱時間によって、金属板に塗工された発泡性樹脂塗料の発泡倍率を制御することが可能となる。例えば、第2加熱工程での加熱温度は、例えば170〜250℃であり、より好ましくは180〜240℃、さらに好ましくは190〜230℃である。加熱温度が高いほど、熱膨張性カプセルが膨張するため好ましい。ただし、高温で加熱する場合は、樹脂を劣化させないために、加熱時間を適宜調整するとよい。加熱温度が250℃より高温の場合、硬化樹脂層の発泡が急激に進行するため、加熱の途中で樹脂層が剥離する虞がある。また、加熱温度が170℃より低温の場合では、熱膨張性カプセルの膨張率が悪く、硬化樹脂層を充分に発泡させることができない。このように、発泡が密に進行すると、発泡樹脂層のヤング率が高くなるおそれがある。そのため、プレコート金属板の損失係数を所望の範囲に制御することが困難になる場合がある。
【0040】
また、第2加熱工程での加熱時間は、例えば2分以下、好ましくは1分以下である。2分より長く加熱すると、樹脂層が剥離することもあるため好ましくない。
【0041】
4.プレコート金属板
上述した製造方法により、硬化樹脂層を加熱して得られた発泡樹脂層は、適度な厚みを有しており、前記発泡樹脂層の金属板に対する厚み比h2は、10〜35倍である。厚み比h2の上限は、好ましくは25倍以下、より好ましくは20倍以下である。式(1)より、金属板と発泡樹脂層の厚み比h2は、プレコート金属板の制振性を評価するプレコート金属板の損失係数ηを構成するパラメータの一種である。そのため、発泡樹脂層の厚みH2の数値が小さいと、この厚み比h2の値に依存するプレコート金属板の損失係数ηの値も小さくなることにより、プレコート金属板が充分な制振性を示すことができなくなる。
【0042】
発泡樹脂層の発泡倍率は、例えば30〜80倍、好ましくは32〜50倍、より好ましくは35〜40倍である。図2にも示した様に、発泡倍率とヤング率E2はトレードオフの関係にある。そのため、発泡倍率を高めると発泡樹脂層のヤング率E2が小さくなり、ヤング率E2に依存するプレコート金属板の損失係数ηが低下する。また、発泡倍率が低いと、発泡樹脂層が薄く、金属板に対する厚み比h2が小さくなる。そのため厚み比h2の数値が小さいと、この厚み比h2の値に依存するプレコート金属板の損失係数ηの値も低くなり、プレコート金属板が充分な制振性を発揮することが難しくなる。
【0043】
上述した方法により得られたプレコート金属板は、制振性を評価する損失係数ηの値が0.020以上という優れた制振性能を発揮する。損失係数ηは、好ましくは0.025以上、より好ましくは0.030以上である。本発明のプレコート金属板は、複写機、洗濯機、エアコン室外機等の動作音を発する電気機器類や、パソコンやハードディスクドライブ等の吸熱性を要する電子機器類の筐体材料として好ましく適用される。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
まず製造例で用いた評価方法について、以下に説明する。
【0046】
[各層の厚み]
塗料の塗工厚は、バーコーターを用いて金属板に発泡性樹脂塗料を塗工したときの切断面を、SEM観察することによって決定した
また、第2加熱工程終了後の発泡樹脂層の厚みは、10mm×20mmのサンプルを切り出し、デジタルマイクロスコープによる断面観察によって決定した。
【0047】
[発泡倍率]
発泡倍率は、第2加熱工程終了後の発泡樹脂層の厚みを、塗料の塗工厚で除することにより算出した。ただし、塗料の塗工厚は下記式(4)により、塗料中の固形分濃度で換算したものを用いた。
【0048】
【数4】

【0049】
[厚み比]
厚み比は、第2加熱工程終了後の発泡樹脂層の厚みを、金属板の厚みで除することにより算出した。
【0050】
[損失係数]
製造されたプレコート金属板を、幅30mm、長さ150mmに切断し、一端から長さ方向に5mm、幅方向に15mmのところを始点として、接着長さ5mmで、長さ方向に糸を接着した。得られた試験片について、JIS G 0602(1993)に記載のつり下げ打撃加振法を用いて減衰比を測定した。具体的には、支柱から一端までの長さを500mmとして試験片をつり下げ、上記始点から80mm下の位置の金属板側にセンサーを取り付け、センサー中心から20mm下(一端からの長さ105mm)で、幅方向に15mmのところの発泡樹脂層面を、インパルスハンマーを用いて5〜15Nで垂直に打撃する。雰囲気温度は室温とした。上記JIS G 0602(1993)にあるように、加振力Fはハンマーから増幅器を経て解析装置に送られ、応答加速度Aもセンサーから解析装置に送られる。
今回の分析条件は、分析周波数(上限の周波数)10kHz、サンプリング周波数(データの取り込み速度)25.6kHzとし、バンドパスフィルターでのカットオフ周波数を、ハイパスは850Hz、ローパスは910Hzとした。求めた減衰比を2倍して損失係数を求めた。
【0051】
[ヤング率]
発泡樹脂層のヤング率は、下記式(5)によって求められる。
【0052】
【数5】

n:プレコート金属板と金属板の厚み比、Z2:プレコート金属板と金属板単体の曲げ剛性比
【0053】
[金属板]
金属板として、横30mm×縦150mm×厚さ0.5mmの鋼板(溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき)を用いた。尚、前記金属板のヤング率は、206〜208GPaである。
【0054】
[発泡性樹脂塗料の調製]
以下の試料(1)〜(8)を用い、それぞれを表1に示す組成比でモーター駆動の攪拌羽根を用いてよく混合し、発泡性樹脂塗料を調製した。各成分組成は、発泡性樹脂塗料100質量%中の百分率を示したものである。
(1)ポリイソシアネート(住化バイエルウレタン社製「デスモジュール(登録商標)VPLS2253」)
(2)ポリエステルポリオール(住化バイエルウレタン社製「デスモフェン(登録商標)T1665」)
(3)アミン系架橋促進剤(住友バイエルウレタン社製「デスモフェン(登録商標)NH1220」
(4)液体ガスを内包する熱膨張性カプセル(日本フィライト社製「エクスパンセル950DU80」、膨張開始温度138〜148℃)
(5)炭化珪素(信濃電気精錬社製「GP」、#1000(体積基準平均粒径11.5μm)及び#800(平均粒径14.0μm))
(6)タルク(日本タルク社製「タルクMS」、体積基準平均粒径14.0μm)
(7)ジブチル錫ジラウレート(和光純薬工業社製)
(8)溶媒(ソルベントナフサ)
【0055】
[プレコート金属板の作製]
前記発泡性樹脂塗料を、バーコーターを用いて金属板に塗工し、樹脂層を形成する。得られた金属板を表2及び表3に示す第1加熱工程の製造条件で加熱し、金属板に樹脂層を固定した後、さらに表2及び表3に記載の第2加熱工程の製造条件で再度加熱し、樹脂層を発泡させることによりプレコート金属板を作製した。
【0056】
発泡後の金属板について、発泡樹脂層の厚みを測定し、発泡倍率及び厚み比h2を算出した。また、打撃試験法により得られたプレコート金属板の損失係数ηを測定し、さらに発泡樹脂層を金属板から剥がし、この剥がした発泡樹脂層のヤング率E2と損失係数η2をそれぞれ測定した。測定結果を表2及び表3に示す。
尚、評価は以下の通り行った。
◎:プレコート金属板の損失係数が0.030以上である製造例
○:プレコート金属板の損失係数が0.020以上0.030未満であって、厚み比が10〜35倍である製造例
×:上記のいずれにも該当しない製造例
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
尚、製造例4で得られたプレコート金属板には、一部に樹脂層の剥離が見られた。これは、金属板への加熱のムラ等に起因するものと思われる。しかしながら、この金属板も、所望の損失係数を発現し、優れた制振性を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板に樹脂層が形成されたプレコート金属板であって、
前記樹脂層は熱膨張性カプセルにより発泡された発泡樹脂層であり、
前記金属板に対する前記発泡樹脂層の厚み比が、10〜35倍であり、
前記プレコート金属板の損失係数が0.020以上であることを特徴とするプレコート金属板。
【請求項2】
前記発泡樹脂層には、フィラーが発泡樹脂層中20〜45質量%含有されている請求項1に記載のプレコート金属板。
【請求項3】
前記フィラーの平均粒径は5〜13μmである請求項2に記載のプレコート金属板。
【請求項4】
前記発泡樹脂層には、熱膨張後のカプセルが10〜50質量%含有されている請求項1〜3のいずれかに記載のプレコート金属板。
【請求項5】
金属板の上に樹脂層を形成し、プレコート金属板を製造する方法であって、
前記金属板の上に、熱膨張性カプセルを含有した発泡性樹脂塗料を塗工したプレコート金属板を、
前記熱膨張性カプセルの膨張温度未満で加熱する第1加熱工程と、
前記熱膨張性カプセルの膨張温度以上で加熱する第2加熱工程との少なくとも2回の加熱工程により加熱することを特徴とするプレコート金属板の製造方法。
【請求項6】
前記第2加熱工程における加熱温度が170〜250℃であり、加熱時間が2分以下である請求項5に記載のプレコート金属板の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−86391(P2013−86391A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229784(P2011−229784)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】