説明

制震装置

【課題】一対の対象部材間を連結するダンパー用鋼板が破断した場合であっても、一対の対象部材の相対変位を規制することを可能にした制震装置を提供する。
【解決手段】一対の対象部材5、6間を連結し、一対の対象部材5、6間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮する制震装置Bであって、一方の対象部材5と他方の対象部材6にそれぞれ接続し、一対の対象部材5、6間に相対変位が生じるとともに塑性変形してエネルギー吸収性能を発揮するダンパー用鋼板13、14と、他方の対象部材6に接続して設けられ、一対の対象部材5間の相対変位によってダンパー用鋼板13、14に破断が生じた際に、一方の対象部材5に固着したダンパー用鋼板13、14の鋼板残片40が当接して、他方の対象部材6に対する一方の対象部材5の相対変位を規制するストッパー機構15(35)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の対象部材間を連結し、これら対象部材間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮する制震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、防災意識の向上に伴い、振動エネルギーを制震装置(制震ダンパー)によって吸収して減衰させ、地震時の揺れを抑えるようにした住宅やマンション等の建物が増えている。また、この種の制震装置として、例えば、鋼材が圧縮・引張時に降伏し、塑性化する履歴にて、振動エネルギーを吸収する鋼材ダンパーが、低コストで大きなエネルギー吸収性能(制震性能)を発揮できることから多用されている。
【0003】
さらに、図8に示すように耐力壁1の下端側に脚部2として設置したり、ブレースに組み込むなどして用いられる制震装置Aには、例えば図9及び図10に示すように、断面コ字状のダンパー用鋼板3、4の両側部のフランジ部3a、4aを溝形鋼などの一方の対象部材5に固着し、他方の対象部材6に連結するアンカーボルト7にナット8、9で接続した形鋼材(連結部材)10にダンパー用鋼板3、4のダンパー部3b、4bを固着して、一方の対象部材5と他方の対象部材6をダンパー用鋼板3、4、形鋼材10、アンカーボルト7を介して連結するように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、このように構成した制震装置Aにおいては、図11(a)〜(c)に示すように、地震時に建物に振動エネルギーが作用して一方の対象部材5と他方の対象部材6の間に相対変位が生じるとともに、ダンパー用鋼板3、4が塑性変形して曲げ降伏することによって、振動エネルギーを吸収し減衰させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−111332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の制震装置Aにおいては、図11(d)に示すように、大地震時など、一方の対象部材5と他方の対象部材6とが大きく相対変位すると、ダンパー用鋼板3、4が塑性化することで大きな変形が発生する。このため、ダンパー用鋼板3、4には大きな塑性変形能力が必要であった。この一方で、フェイルセーフの観点からダンパー用鋼板3、4が万が一に破断した場合も想定すると、一方の対象部材5の溝形鋼と他方の対象部材6に繋がるアンカーボルト7とが分離して、溝形鋼5からアンカーボルト7が引き抜けてしまう可能性が否定できない。
【0007】
そして、例えば図8に示したように、従来の制震装置Aを耐力壁1の下端側に脚部2として設置して用いた場合に、ダンパー用鋼板3、4が万が一に破断した場合を想定すると、溝形鋼5からアンカーボルト7が引き抜けて、耐力壁1が横転する可能性が否定できなかった。このため、ダンパー用鋼板3、4が想定外に破断した場合においても、耐力壁1、すなわち上部構造を転倒させないフェイルセーフ技術が必要であった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、一対の対象部材間を連結するダンパー用鋼板が破断した場合であっても、一対の対象部材の相対変位を規制することを可能にした制震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0010】
本発明の制震装置は、一対の対象部材間を連結し、前記一対の対象部材間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮する制震装置であって、一方の対象部材と他方の対象部材にそれぞれ接続し、前記一対の対象部材間に相対変位が生じるとともに塑性変形してエネルギー吸収性能を発揮するダンパー用鋼板と、前記他方の対象部材に接続して設けられ、前記一対の対象部材間の相対変位によって前記ダンパー用鋼板に破断が生じた際に、前記一方の対象部材に固着した前記ダンパー用鋼板の鋼板残片が当接して、前記他方の対象部材に対する前記一方の対象部材の相対変位を規制するストッパー機構とを備えていることを特徴とする。
【0011】
この発明においては、大地震時など、一方の対象部材と他方の対象部材とが大きく相対変位し、万が一にダンパー用鋼板に破断が生じた場合に、一方の対象部材に固着したダンパー用鋼板の鋼板残片が当接することにより、ストッパー機構によって他方の対象部材に対する一方の対象部材の相対変位を規制することができる。
【0012】
また、本発明の制震装置においては、複数のスリット孔が形成され、前記相対変位に応じて塑性変形する略平板状のダンパー部と、前記ダンパー部の両側部にそれぞれ設けられたフランジ部とを備えて前記ダンパー用鋼板が断面略コ字状に形成されており、前記ダンパー用鋼板は、前記フランジ部を前記一方の対象部材に接続し、前記他方の対象部材に繋がるアンカーボルトに連結部材を介して前記ダンパー部を接続して配設され、前記ストッパー機構は、前記ダンパー用鋼板の端部との間に所定の間隔をあけ、且つ前記ダンパー用鋼板の端部と前記相対変位の方向に重なるように、前記アンカーボルトに接続して配設されるストッパー部材を備えていることが望ましい。
【0013】
この発明においては、ストッパー機構のストッパー部材がダンパー用鋼板の端部との間に所定の間隔をあけて配設されていることにより、地震時に建物に振動エネルギーが作用して一方の対象部材と他方の対象部材の間に相対変位が生じるとともに、ダンパー用鋼板を塑性変形させ、振動エネルギーを吸収し減衰させることができる。
【0014】
一方、ストッパー機構のストッパー部材がダンパー用鋼板の端部と前記相対変位の方向に重なるように配設されているため、一方の対象部材と他方の対象部材とが大きく相対変位し、万が一にダンパー用鋼板に破断が生じた場合に、一方の対象部材に固着したダンパー用鋼板の鋼板残片の端部を確実にストッパー部材に当接させることができる。これにより、確実にストッパー機構によって他方の対象部材に対する一方の対象部材の相対変位を規制することが可能になる。
【0015】
さらに、本発明の制震装置においては、前記ダンパー用鋼板の前記ダンパー部及び前記フランジ部の端部と前記相対変位の方向に重なるように、前記ストッパー部材が配設されていることがより望ましい。
【0016】
この発明においては、一方の対象部材と他方の対象部材とが大きく相対変位し、万が一にダンパー用鋼板に破断が生じた場合に、ダンパー用鋼板(鋼板残片)のダンパー部とフランジ部の端部全体をストッパー部材に当接させることができ、ストッパー部材とダンパー用鋼板の鋼板残片との接触面積を大きく確保することができる。これにより、ストッパー部材とダンパー用鋼板の鋼板残片の当接時の作用応力を小さくすることができ、より確実にストッパー機構によって他方の対象部材に対する一方の対象部材の相対変位を規制することが可能になる。
【0017】
また、本発明の制震装置においては、前記ストッパー部材が前記ダンパー用鋼板の少なくとも前記フランジ部の端部と前記相対変位の方向に重なるように配設されるとともに、前記ダンパー部の両側部に設けられた各フランジ部が、前記相対変位の方向に直交する断面視で1つ以上の角部を備えて形成されていることがさらに望ましい。
【0018】
この発明においては、ダンパー部の両側部に設けられた各フランジ部を1つ以上の角部を備えて屈曲形成することによって、ストッパー部材とダンパー用鋼板の鋼板残片(フランジ部)との接触面積を大きく確保することができる。これにより、ストッパー部材とダンパー用鋼板の鋼板残片の当接時の作用応力をより小さくすることができ、さらに確実にストッパー機構によって他方の対象部材に対する一方の対象部材の相対変位を規制することが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の制震装置においては、大地震時など、一方の対象部材と他方の対象部材とが大きく相対変位し、万が一にダンパー用鋼板に破断が生じた場合に、一方の対象部材に固着したダンパー用鋼板の鋼板残片が当接することにより、ストッパー機構によって他方の対象部材に対する一方の対象部材の相対変位を規制することができる。
【0020】
これにより、フェイルセーフの観点からダンパー用鋼板が万が一に破断した場合を想定したとしても、ストッパー機構を備えていることによって、例えば一方の対象部材の溝形鋼と他方の対象部材に接続したアンカーボルトとが分離して溝形鋼からアンカーボルトが引き抜けてしまうことを確実に防止できる。よって、ダンパー用鋼板が想定外に破断した場合においても、フェイルセーフの観点から確実に耐力壁などの上部構造の転倒を防止できる制震装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る制震装置を示す斜視図である。
【図2】図1のX1−X1線矢視図であり、本発明の一実施形態に係る制震装置を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る制震装置の製作工程を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る制震装置のダンパー用鋼板を示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る制震装置の変更例を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る制震装置の地震時の挙動を示す図である。」
【図7】本発明の一実施形態に係る制震装置の性能試験結果を示す図である。
【図8】耐力壁の下端側に脚部として制震装置を設置した建物の一例を示す図である。
【図9】従来の制震装置を示す斜視図である。
【図10】図9のX1−X1線矢視図であり、従来の制震装置を示す断面図である。
【図11】従来の制震装置の地震時の挙動を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1から図8を参照し、本発明の一実施形態に係る制震装置について説明する。
【0023】
はじめに、本実施形態は、例えば図8に示したように、耐力壁1の下端側に脚部2として設置し、地震時に建物に作用した振動エネルギーを吸収して減衰させる制震装置Bに関し、特に地震時に耐力壁1に浮き上がりが生じた場合であっても、フェイルセーフの観点から確実に耐力壁1(上部構造)の転倒を防止できる制震装置Bに関するものである。
【0024】
本実施形態の制震装置(制震ダンパー)Bは、図1から図3に示すように、一対の断面略コ字状の形鋼材(連結部材)11、12と、一対の断面略コ字状のダンパー用鋼板13、14と、アンカーボルト7と、アンカーボルト7に取り付けられるストッパー機構15とを備えて構成されている。
【0025】
一対の形鋼材11、12はそれぞれ、図2及び図3に示すように、平板状の連結板部11a、12aと、連結板部11a、12aの両側端からそれぞれ、連結板部11a、12aに直交して突設された一対の平板状の突出板部11b、12bと、一方の突出板部11b、12bの先端から一方の突出板部11b、12bに直交する方向の外側に延設された平板状の延出板部11c、12cとを備えて略断面コ字状に形成されている。なお、各形鋼材11、12の連結板部11a、12aの幅方向T1中央に、形鋼材11、12の延設方向(上下方向T2)に沿ってスロット溶接用の溝孔16が形成されている。
【0026】
そして、これら一対の形鋼材11、12は、一方の形鋼材11の一方の突出板部11bの内面に、他方の形鋼材12の他方の突出板部12bの外面を近接させ、他方の形鋼材12の一方の突出板部12bの内面に、一方の形鋼材11の他方の突出板部11bの外面を近接させ、互いの一方の突出板部11b(12b)と他方の突出板部12b(11b)が対向するようにして配設される。これにより、各形鋼材11、12の延出板部11c、12cが外側に突出した形で配設されるとともに、一対の形鋼材11、12のそれぞれの連結板部11a、12aと両突出板部11b、12bで囲まれた内部空間Hが形成される。なお、このように配設した一対の形鋼材11、12を一体に溶接し、鋼管が形成される。
【0027】
一方、図1から図4に示すように、本実施形態の一対のダンパー用鋼板13、14はそれぞれ、矩形平板状のダンパー部(ウェブ)13a、14aと、ダンパー部13a、14aの短手方向である幅方向T1両側部からそれぞれダンパー部13a、14aに直交して突設された一対のフランジ部13b、14bとを備えて断面略コ字状に形成されている。
【0028】
また、ダンパー部13a、14aには、複数のスリット孔17、18、19、20が貫通形成されている。より具体的に、ダンパー部13a、14aの長手方向である上下方向T2両端部21、22側の最上方と最下方に配された2つのスリット孔17、18は、幅方向T1の一側端部側から他側端部側に延びる一つの孔として形成されている。また、これら2つのスリット孔17、18は、幅方向T1略中央部分が上下方向T2の上端部21あるいは下端部22に向けて先細るように形成され、且つダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14aが塑性変形するための可動域を十分に確保できるように上下方向T2の寸法(高さ寸法)を設定して形成されている。
【0029】
また、最上方と最下方の2つのスリット孔17、18の上下方向T2の間には、菱形状の複数のスリット孔19、20が貫通形成されている。これら菱形状のスリット孔19、20は、多段多列で配設されている。すなわち、本実施形態では、これら菱形状のスリット孔19、20が、幅方向T1中央に所定の間隔をあけて両側部側にそれぞれ配設され、上下方向T2にも所定の間隔をあけて配設されている。なお、このスリット孔19、20は必ずしも菱形に限定する必要はなく、幅方向T1に向けて縦長の長方形としたり、その他の多角形状、不定形状であってもよい。また、これらのスリット孔19、20は、幅方向T1に所定の間隔をあけて2個(2列)で穿設されているものとして図示したが、幅方向T1への穿設個数は2個のみに限らず、3個以上としてもよい。
【0030】
そして、最上方と最下方の2つのスリット孔17、18の上下方向T2の間に、菱形状の複数のスリット孔19、20を穿設することによって、上下方向T2に隣接する一対のスリット孔(17と19及び20、19と19、20と20、19及び20と18)の間にダンパー片23が形成される。このダンパー片23は、各スリット孔19、20が菱形で形成されているため、スリット孔19、20の幅方向T1中央部分の高さ寸法が幅方向T1両側部側の高さ寸法よりも小さくなるように形成されている。また、幅方向T1両側部側にそれぞれ配されて隣り合うダンパー片23同士は、幅方向T1中央に形成された略菱形の連結部24によって連結され、上下方向T2に隣り合う連結部24同士も幅方向T1略中央で一体に連結されている。
【0031】
また、図4に示すように、本実施形態のダンパー部13a、14aにおいて、最上方のスリット孔17の上端部21側と最下方のスリット孔18の下端部22側の幅方向T1に連設した部分が架設部25とされ、複数のスリット孔17〜20よりも幅方向T1一側部側と他側部側の上下方向T2に連設した部分が枠縁部26とされている。また、最上方のスリット孔17と最下方のスリット孔18の上下方向T2の間で、幅方向T1に隣り合う菱形状のスリット孔19、20の間の上下方向に連設した部分が接続部27とされている。さらに、幅方向T1に隣り合うダンパー片23とその間の略菱形の連結部24を合わせた幅方向T1の連設部分がダンパー機能部28とされている。
【0032】
さらに、本実施形態のダンパー用鋼板13、14は、各フランジ部13b、14bに、上下方向T2に所定の間隔をあけて複数の雌ネジ穴29が貫通形成されている。また、本実施形態では、このフランジ部13b、14bが、幅方向T1の断面視(上下方向(相対変位の方向)T2に直交する断面視)で1つ以上の角部(本実施形態では1つの角部30)を備えて屈曲形成されている。なお、図5に示すように、例えば2つの角部30、31を備えてフランジ部13b、14bを形成してもよく、特に角部の数を限定する必要はない。そして、本実施形態のダンパー用鋼板13、14は、ダンパー部13a、14aにフランジ部13b、14bを取り付けて形成されているのではなく、図3に示すように、例えば、矩形平板状の鋼板32を用意し、レーザー加工によって所定位置にスリット孔17〜20を形成し、折り曲げ加工によってフランジ部13b、14bを形成して製作される。
【0033】
このように形成されたダンパー用鋼板13、14は、図2から図4に示すように、ダンパー部13a、14aの接続部27の内面部分を形鋼材11、12の連結板部11a、12aのスロット溶接用の溝孔16の位置に合わせ、溶接して形鋼材11、12に一体に取り付けて配設される。また、このとき、一方の形鋼材11に一方のダンパー用鋼板13、他方の形鋼材12に他方のダンパー用鋼板14をそれぞれ一体に取り付け、一対のダンパー用鋼板13、14で一対の形鋼材11、12を内包するように配設される。
【0034】
また、図1及び図2に示すように、一対の形鋼材11、12に一対のダンパー用鋼板13、14を取り付けた状態で、一対の形鋼材11、12の内部空間Hの中心軸O1方向を、一方の対象部材(本実施形態では溝形鋼)5の軸線O2方向に合わせて配置する。そして、各ダンパー用鋼板13、14の各フランジ部13b、14bに形成した雌ネジ穴29にボルト(ネジ)33を螺着して、各ダンパー用鋼板13、14のフランジ部13b、14bを一方の対象部材の溝形鋼5に固着することによって、一対のダンパー用鋼板13、14がそれぞれ一方の対象部材5に直接的に接続されている。
【0035】
アンカーボルト7は、一対の形鋼材11、12の内部空間Hに、その中心軸線O3が内部空間Hの中心軸線O1と同軸上に配されるようにして挿通されている。そして、このアンカーボルト7は、一端(下端)側を図示せぬ他方の対象部材6に固着して配設されている。また、アンカーボルト7は、一対の形鋼材11、12の内部空間Hに挿通する他端側を一対の形鋼材11、12に固着して配設されている。本実施形態では、アンカーボルト7にナット(下部ナット)9を螺着するとともに、座金34を一対の形鋼材11、12の下端部に当接させ、且つ、内部空間Hを挿通して一対の形鋼材11、12の上端よりも上方に配されたアンカーボルト7の他端側にナット(上部ナット)8を螺着するとともにストッパー機構15のストッパー部材35を一対の形鋼材11、12の上端部に当接させる。このように一対の形鋼材11、12を上下方向T2で挟み込むように2つのナット8、9と座金34とストッパー部材35をアンカーボルト7に取り付けることによって、アンカーボルト7の他端側が一対の形鋼材11、12に固着されている。
【0036】
そして、アンカーボルト7の他端側を一対の形鋼材11、12に固着することで、一対の形鋼材11、12に固着した一対のダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14aが、一対の形鋼材11、12、アンカーボルト7を介して他方の対象部材6に間接的に接続されている。
【0037】
一方、図1に示すように、本実施形態のストッパー機構15は、前述の通り、ストッパー部材35を備えて構成されている。このストッパー部材35は、中央にアンカーボルト7を挿通するためのボルト挿通孔35aを備えた略方形平板状に形成されている。また、本実施形態のストッパー部材35は、ボルト挿通孔35aにアンカーボルト7を挿通し、一対の形鋼材11、12の上端部に当接して上部ナット8を締め付けることによって、アンカーボルト7に固着されている。
【0038】
また、このとき、ストッパー部材35は、ダンパー用鋼板13、14の上端部21との上下方向(相対変位の方向)T2の間に所定の間隔d1をあけ、且つダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14a及びフランジ部13b、14bの上端部21と一方の対象部材5の軸O2方向(上下方向T2、相対変位の方向)に重なるように、アンカーボルト7に接続して配設されている。言い換えると、ストッパー部材35は、アンカーボルト7に固着した状態で、ダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14a及びフランジ部13b、14bの上端部21と一方の対象部材5の軸O2方向に重なる大きさ、形状で形成されている。また、ストッパー部材35とダンパー用鋼板13、14の上端部21の上下方向T2の間隔d1は、ダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14aが塑性変形する可動域(可動範囲の寸法)よりも大きな寸法となるように設定されている。
【0039】
ここで、一対の形鋼材11、12の下端部22に当接して下部ナット9を締め付けることによってアンカーボルト7に固着される座金34は、ダンパー用鋼板13、14の下端部22との上下方向T2の間に所定の間隔d2をあけた状態で配設されている。また、座金34とダンパー用鋼板13、14の下端部22の上下方向T2の間隔d2は、ストッパー部材35と同様、ダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14aが塑性変形する可動域よりも大きな寸法となるように設定されている。
【0040】
そして、上記構成からなる本実施形態の制震装置Bにおいては、図6(a)及び図6(b)に示すように、まず、ストッパー機構15のストッパー部材35及び座金34がダンパー用鋼板13、14の端部(上端部21、下端部22)との間に所定の間隔d1、d2をあけて配設されているため、地震時に建物に振動エネルギーが作用して一方の対象部材5と他方の対象部材6の間に相対変位が生じるとともに、ダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14a(ダンパー機能部28)が塑性変形する。そして、このダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14aが塑性変形して曲げ降伏することによって、振動エネルギーが吸収して減衰される。このようにして制震装置Bによってエネルギー吸収性能(制震性能)が発揮されることで、建物の地震時の揺れが抑えられる。
【0041】
一方、図6(c)に示すように、ストッパー機構15のストッパー部材35がダンパー用鋼板13、14の上端部21と前記相対変位の方向T2に重なるように配設されている。このため、大地震時など、一方の対象部材5と他方の対象部材6とが大きく相対変位し、万が一にダンパー用鋼板13、14に破断が生じた場合には、一方の対象部材5に固着したダンパー用鋼板13、14の鋼板残片40の上端部21がストッパー部材35に当接することになる。これにより、ストッパー機構15によって他方の対象部材6に対する一方の対象部材5の相対変位が規制される(相対変位量が限定される)。
【0042】
また、このとき、本実施形態の制震装置Bにおいては、ダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14a及びフランジ部13b、14bの上端部21と前記相対変位の方向T2に重なるように、ストッパー部材35が配設されている。このため、一方の対象部材5と他方の対象部材6とが大きく相対変位し、万が一にダンパー用鋼板13、14に破断が生じた場合に、ダンパー用鋼板13、14の鋼板残片40のダンパー部13a、14aとフランジ部13b、14bの上端部21がストッパー部材35に当接することになる。そして、このようにダンパー用鋼板13、14の鋼板残片40のダンパー部13a、14aとフランジ部13b、14bの上端部21がストッパー部材35に当接することで、ストッパー部材35とダンパー用鋼板13、14の鋼板残片40との接触面積が大きく確保され、ストッパー部材35と鋼板残片40の当接時の作用応力が小さく抑えられる。
【0043】
これにより、本実施形態の制震装置Bにおいては、ダンパー用鋼板13、14が万が一に破断した場合を想定したとしても、ストッパー機構15によって、一方の対象部材の溝形鋼5と他方の対象部材6に接続したアンカーボルト7とが分離して溝形鋼5の内部空間Hからアンカーボルト7が引き抜けてしまうことが確実に防止される。
【0044】
ここで、図7は、図1に示した本実施形態の制震装置Bの性能試験結果を示している。なお、図7において、縦軸は、制震装置Bに作用させた荷重Pと制震装置Bの降伏耐力Pyの比(P/Py)であり、横軸は、制震装置Bの変形量である。
【0045】
この図7から、本実施形態の制震装置Bにおいては、ダンパー部13a、14aが降伏し、変形量が増大してダンパー部13a、14aが破断した後、急減に耐力が減少し、その後、耐力がゼロになる。そして、耐力がゼロになってからさらに変形量が増大し、28mmに達すると、ストッパー機構15のストッパー部材35にダンパー用鋼板13、14の上端部21が接触して変形が拘束され、これとともに耐力が急激に上昇することが確認された。
【0046】
この結果により、大地震時など、一方の対象部材と他方の対象部材とが大きく相対変位し、万が一にダンパー用鋼板13、14に破断が生じた場合に、他方の対象部材6に対する一方の対象部材5の相対変位を規制するように、本実施形態の制震装置Bのストッパー機構15が確実に性能を発揮することが実証された。
【0047】
したがって、本実施形態の制震装置Bにおいては、ストッパー機構15のストッパー部材35がダンパー用鋼板13、14の端部21との間に所定の間隔d1をあけて配設されていることにより、地震時に建物に振動エネルギーが作用して一方の対象部材5と他方の対象部材6の間に相対変位が生じるとともに、ダンパー用鋼板13、14を塑性変形させ、振動エネルギーを吸収し減衰させることができる。
【0048】
また、ストッパー機構15のストッパー部材35がダンパー用鋼板13、14の端部21と前記相対変位の方向T2に重なるように配設されているため、大地震時など、一方の対象部材5と他方の対象部材6とが大きく相対変位し、万が一にダンパー用鋼板13、14に破断が生じた場合に、一方の対象部材5に固着したダンパー用鋼板13、14の鋼板残片40の端部21をストッパー部材35に当接させることができる。これにより、確実にストッパー機構15によって他方の対象部材6に対する一方の対象部材5の相対変位を規制することが可能になる。
【0049】
よって、本実施形態の制震装置Bによれば、フェイルセーフの観点からダンパー用鋼板13、14が万が一に破断した場合を想定したとしても、ストッパー機構15を備えていることによって、一方の対象部材の溝形鋼5と他方の対象部材6に接続したアンカーボルト7とが分離して溝形鋼5からアンカーボルト7が引き抜けてしまうことを確実に防止できる。これにより、ダンパー用鋼板13、14が想定外に破断した場合においても、フェイルセーフの観点から確実に耐力壁1などの上部構造の転倒を防止できる制震装置Bを提供することが可能になる。
【0050】
また、本実施形態の制震装置Bにおいては、ダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14a及びフランジ部13b、14bの端部21と相対変位の方向T2に重なるように、ストッパー部材35が配設されているため、一方の対象部材5と他方の対象部材6とが大きく相対変位し、万が一にダンパー用鋼板に破断が生じた場合に、ダンパー用鋼板13、14(鋼板残片40)のダンパー部13a、14aとフランジ部13b、14bの端部21全体をストッパー部材35に当接させることができ、ストッパー部材35とダンパー用鋼板13、14の鋼板残片40との接触面積を大きく確保することができる。これにより、ストッパー部材35と鋼板残片40の当接時の作用応力を小さくすることができ、より確実にストッパー機構15によって他方の対象部材6に対する一方の対象部材5の相対変位を規制することが可能になる。
【0051】
さらに、本実施形態の制震装置Bにおいては、ダンパー部13a、14aの両側部に設けられた各フランジ部13b、14bが、断面視で1つ以上の角部30、31を備えて屈曲形成されていることによって、ストッパー部材35と鋼板残片40(フランジ部13b、14b)との接触面積を大きく確保することができる。これにより、ストッパー部材35と鋼板残片40の当接時の作用応力をより小さくすることができ、さらに確実にストッパー機構15によって他方の対象部材6に対する一方の対象部材5の相対変位を規制することが可能になる。
【0052】
以上、本発明に係る制震装置の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0053】
例えば、本実施形態では、制震装置Bが耐力壁1の下端側に脚部2として設置される制震装置であるものとして説明を行ったが、本発明にかかる制震装置は、勿論、例えばブレースに組み込むなどして用いてもよく、耐力壁1の脚部2として用いることに限定する必要はない。
【0054】
また、本実施形態では、他方の対象部材6に繋がるアンカーボルト7にストッパー機構15のストッパー部材35を取り付け、このストッパー部材35に一方の対象部材5に接続したダンパー用鋼板13、14の端部21を当接させて、他方の対象部材6に対する一方の対象部材5の相対変位を規制するものとして説明を行ったが、本発明にかかる制震装置のストッパー機構15は、ダンパー用鋼板13、14に破断が生じた際に、一方の対象部材5に固着したダンパー用鋼板13、14の鋼板残片40が当接して、他方の対象部材6に対する一方の対象部材5の相対変位を規制することが可能であればよい。このため、アンカーボルト7にストッパー部材35を取り付けて構成することに限定する必要はない。
【0055】
さらに、本実施形態では、ダンパー用鋼板13、14の上端部21(一端部)が当接するようにストッパー部材35を設け、ダンパー用鋼板13、14の下端部22(他端部)側には単なる座金34を設けて制震装置Bが構成されているものとしたが、ダンパー用鋼板13、14の下端部22側の座金34もストッパー部材35として制震装置Bを構成してもよい。すなわち、ダンパー用鋼板13、14の下端部22側の座金34をストッパー部材35とし、このストッパー部材35を、ダンパー用鋼板13、14の下端部22との間に所定の間隔d2をあけ、且つダンパー用鋼板13、14の下端部22と前記相対変位の方向T2に重なるように、アンカーボルト7に接続して配設するようにしてもよい。そして、このように構成した場合には、上下のストッパー部材35、35によって他方の対象部材6に対する一方の対象部材5の上下双方向T2の相対変位を規制することができ、一方の対象部材の溝形鋼5と他方の対象部材6に接続したアンカーボルト7とが分離して溝形鋼5の内部空間Hからアンカーボルト7が引き抜けてしまうことをより確実に防止して、耐力壁1が横転することを防止することが可能になる。
【0056】
また、ダンパー用鋼板13、14に破断が生じた際には、一方の対象部材5に固着したダンパー用鋼板13、14の鋼板残片40の一部の端部21がストッパー機構15に当接すれば、他方の対象部材6に対する一方の対象部材5の相対変位を規制することが可能であるため、ストッパー機構15(ストッパー部材35)は、必ずしもダンパー用鋼板13、14のダンパー部13a、14a及びフランジ部13b、14bの端部21全体に当接しなくてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 耐力壁
2 脚部
3 従来のダンパー用鋼板
3a フランジ部
3b ダンパー部
4 従来のダンパー用鋼板
4a フランジ部
4b ダンパー部
5 一方の対象部材(溝形鋼)
6 他方の対象部材
7 アンカーボルト
8 ナット
9 ナット
10 形鋼材(連結部材)
11 形鋼材(連結部材)
11a 連結板部
11b 突出板部
11c 延出板部
12 形鋼材(連結部材)
12a 連結板部
12b 突出板部
12c 延出板部
13 ダンパー用鋼板
13a ダンパー部
13b フランジ部
14 ダンパー用鋼板
14a ダンパー部
14b フランジ部
15 ストッパー機構
16 溝孔
17〜20 スリット孔
21 上端部(端部)
22 下端部(端部)
23 ダンパー片
24 連結部
25 架設部
26 枠縁部
27 接続部
28 ダンパー機能部
29 雌ネジ穴
30 角部
31 角部
32 鋼板
33 ボルト(ネジ)
34 座金
35 ストッパー部材
35a ボルト挿通孔
40 鋼板残片
A 従来の制震装置
B 制震装置
d1 間隔
d2 間隔
H 内部空間
O1 内部空間の中心軸
O2 一方の対象部材の軸線
O3 アンカーボルトの中心軸線
T1 幅方向
T2 上下方向(相対変位の方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の対象部材間を連結し、前記一対の対象部材間の相対変位に応じたエネルギー吸収性能を発揮する制震装置であって、
一方の対象部材と他方の対象部材にそれぞれ接続し、前記一対の対象部材間に相対変位が生じるとともに塑性変形してエネルギー吸収性能を発揮するダンパー用鋼板と、
前記他方の対象部材に接続して設けられ、前記一対の対象部材間の相対変位によって前記ダンパー用鋼板に破断が生じた際に、前記一方の対象部材に固着した前記ダンパー用鋼板の鋼板残片が当接して、前記他方の対象部材に対する前記一方の対象部材の相対変位を規制するストッパー機構とを備えていることを特徴とする制震装置。
【請求項2】
請求項1記載の制震装置において、
複数のスリット孔が形成され、前記相対変位に応じて塑性変形する略平板状のダンパー部と、前記ダンパー部の両側部にそれぞれ設けられたフランジ部とを備えて前記ダンパー用鋼板が断面略コ字状に形成されており、
前記ダンパー用鋼板は、前記フランジ部を前記一方の対象部材に接続し、前記他方の対象部材に繋がるアンカーボルトに連結部材を介して前記ダンパー部を接続して配設され、
前記ストッパー機構は、前記ダンパー用鋼板の端部との間に所定の間隔をあけ、且つ前記ダンパー用鋼板の端部と前記相対変位の方向に重なるように、前記アンカーボルトに接続して配設されるストッパー部材を備えていることを特徴とする制震装置。
【請求項3】
請求項2記載の制震装置において、
前記ダンパー用鋼板の前記ダンパー部及び前記フランジ部の端部と前記相対変位の方向に重なるように、前記ストッパー部材が配設されていることを特徴とする制震装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の制震装置において、
前記ストッパー部材が前記ダンパー用鋼板の少なくとも前記フランジ部の端部と前記相対変位の方向に重なるように配設されるとともに、
前記ダンパー部の両側部に設けられた各フランジ部が、前記相対変位の方向に直交する断面視で1つ以上の角部を備えて形成されていることを特徴とする制震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−96437(P2013−96437A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237072(P2011−237072)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】