説明

加工工具破損防止装置および加工工具破損防止方法

【課題】加工中に工具に掛かるトルクを高精度に検出し、工具の破損を防止する。
【解決手段】加工機が加工中に、当該加工に用いているタップ1に掛かるトルクを測定する切削動力計3と、切削動力計3により測定されたトルクが所定の閾値を超えたかを判断する比較手段44と、比較手段44によりトルクが閾値を超えたと判断された場合に、加工を停止させてタップ1をワーク100から引き抜くように加工機に指示する操作指示手段45とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加工工具の破損を防止する加工工具破損防止装置および加工工具破損防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、雌ねじ加工に用いるタップの損傷を防止する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1に開示された方法では、ワークの所定箇所に設けられた下穴に対して雌ねじ加工を行う際に、コンプレッサからのエアーをタップに噴き付けて冷却しながら加工を行っている。これにより、タップが高温になることを防ぐことができ、タップの損傷を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−296349号公報
【特許文献2】特開2007−283362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、雌ねじ加工中にワークとタップとの摩擦によってタップが磨耗することで、タップが折れてしまう場合がある。この場合、折れたタップがワークに食いついてしまうため、通常、放電加工によって取り除くことになる。しかしながら、折れたタップをワークから取り除くことは容易ではなく、非常に時間の掛かる作業となる。
【0005】
それに対して、工具を駆動させるモータのトルクを検出し、この検出結果を基に工具状態を制御するものが提案されている(例えば特許文献2参照)。この特許文献2では、金属板などのワークに穴を開けるプレス装置において、モータのトルクを検出することで工具に掛かる荷重を検出し、工具状態を制御している。
この特許文献2による方法を上記雌ねじ加工に適用することで、モータのトルク検出からタップ折れの防止を図ることも考えられる。しかしながら、モータのトルクからタップのトルクを予測する際に、モータ−タップ間の軸によるトルクや摩擦などの影響により予測精度が低くなる。そのため、タップの破損を防止することはできないという課題がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、加工中に工具に掛かるトルクを高精度に検出することができ、工具の破損を防止することができる加工工具破損防止装置および加工工具破損防止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る加工工具破損防止装置は、加工機が加工中に、当該加工に用いている工具に掛かるトルクを測定するトルク測定手段と、トルク測定手段により測定されたトルクが所定の閾値を超えたかを判断する比較手段と、比較手段によりトルクが閾値を超えたと判断された場合に、加工を停止させて工具をワークから引き抜くように加工機に指示する操作指示手段とを備えたものである。
【0008】
また、この発明に係る加工工具破損防止方法は、加工機が加工中に、当該加工に用いている工具に掛かるトルクを測定するトルク測定ステップと、トルク測定ステップにおいて測定したトルクが所定の閾値を超えたかを判断する比較ステップと、比較ステップにおいてトルクが閾値を超えたと判断した場合に、加工を停止させて工具をワークから引き抜くように加工機に指示する操作指示ステップとを有するものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、上記のように構成したので、加工中に工具に掛かるトルクを高精度に検出することができ、工具が破損する前にワークから引き抜くことで工具の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る加工工具破損防止装置が接続された雌ねじ加工機の構成を示す斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る加工工具破損防止装置の構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る加工工具破損防止装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1におけるタップの動作状態とタップに掛かるトルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
以下では、雌ねじ加工を行う雌ねじ加工機に加工工具破損防止装置を接続した場合について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係る加工工具破損防止装置が接続された雌ねじ加工機の構成を示す斜視図である。
雌ねじ加工機は、タップ(工具)1を用いて、ワーク100の所定箇所に設けられた下穴100aに対して雌ねじ加工を行うものである。この雌ねじ加工機には、図1に示すように、タップ1と、タップ1を回転(正転・逆転)させながら上下に移動させるマシニングセンタなどの駆動部2とから構成されている。なお、雌ねじ加工を行う際にタップ1を所定の下穴100aに対向させるため、駆動部2自体またはワーク100が設定固定されるテーブル(不図示)を前後左右に移動可能に構成している。
【0012】
また、タップ1には、外周に数条の溝および切り刃が設けられ、先端部がワーク100に食いつきやすくするためにテーパ状に加工された増径タップや、貫通ねじ穴などに用いられる等径タップなどがある。また、アルミ合金など比較的軟らかい金属に対して雌ねじ加工を行う場合には、下穴100aに雄ねじを押し込むことで塑性変形によって雌ねじを形成する溝なしタップを用いる。本実施の形態に係る加工工具破損防止装置で対象とするタップ1としては、いずれのタップであってもよい。また、図1では、駆動部2に増径タップを装着した場合について示している。
【0013】
さらに、雌ねじ加工機には、雌ねじ加工中にタップ1に掛かるトルクを一定の周期で測定する切削動力計(トルク測定手段)3が取り付けられている。なお、タップ1に掛かるトルクは、雌ねじ加工中にワーク100とタップ1との摩擦によってタップ1が磨耗することで増大する。
この切削動力計3により測定されたトルクを示すデータは、ケーブル4aを介して外部に接続されたPCなどの表示・演算部4に出力される。そして、表示・演算部4にて、タップ1に掛かるトルクをモニタリングすることで、タップ1の破損を防止するように雌ねじ加工機(駆動部2)を制御する。この切削動力計3および表示・演算部4は、本願発明の加工工具破損防止装置を構成する。
【0014】
また、図1では、駆動部2に装着されたタップ1のみを示しているが、雌ねじ加工機には、複数のタップ1が収納されたツールチェンジャ(不図示)が設けられている。このツールチェンジャは、加工工具破損防止装置からの指示に従って、駆動部2に装着されたタップ1を新しいタップ1と交換するものである。
【0015】
次に、加工工具破損防止装置の表示・演算部4の構成について説明する。図2はこの発明の実施の形態1に係る加工工具破損防止装置の構成を示すブロック図である。
加工工具破損防止装置の表示・演算部4は、図2に示すように、動力計測定データ取得手段41、閾値設定手段42、表示手段43、比較手段44および操作指示手段45から構成されている。
【0016】
動力計測定データ取得手段41は、切削動力計3により測定されたトルクを示すデータを取得し、記録するものである。
閾値設定手段42は、使用者により入力された加工条件(雌ねじ加工対象のワーク100の材質や下穴100aの径など)を基に、予め、タップ1に掛かるトルクに対する閾値を設定するものである。
表示手段43は、動力計測定データ取得手段41により取得されたトルクを示すデータをモニタ上にリアルタイムで表示するものである。
【0017】
比較手段44は、動力計測定データ取得手段41により取得されたトルクを示すデータと、閾値設定手段42により設定された閾値とを比較するものである。ここで、比較手段44は、トルクが閾値を超えたと判断した場合には、その旨を操作指示手段45に通知する。
【0018】
操作指示手段45は、雌ねじ加工機を制御するものである。この操作指示手段45は、比較手段44からトルクが閾値を超えた旨の通知を受けた場合に、まず、雌ねじ加工を停止するように駆動部2に指示する。そして、雌ねじ加工が停止した後、タップ1を逆転させてタップ1をワーク100から引き抜くように駆動部2に指示する。そして、タップ1をワーク100から引き抜いた後、タップ1を交換するようにツールチェンジャに指示する。
【0019】
次に、上記のように構成された加工工具破損防止装置の動作について説明する。図3はこの発明の実施の形態1に係る加工工具破損防止装置の動作を示すフローチャートである。
加工工具破損防止装置の動作では、図3に示すように、まず、閾値設定手段42は、雌ねじ加工を行う前に使用者により入力された加工条件(雌ねじ加工対象のワーク100の材質や下穴100aの径など)を基に、タップ1に掛かるトルクに対する閾値を設定する(ステップST1)。
【0020】
その後、雌ねじ加工機の駆動部2またはワーク100が設置固定されたテーブルを移動することで、タップ1を所定の下穴100aに対向させる。そして、駆動部2は、この下穴100aに対して、タップ1を正転させながら挿入することで、雌ねじ加工を開始する。
一方、切削動力計3は、雌ねじ加工機による雌ねじ加工の開始に伴い、タップ1に掛かるトルクを一定の周期で測定する(ステップST2、トルク測定ステップ)。
【0021】
次いで、動力計測定データ取得手段41は、切削動力計3により測定されたトルクを示すデータを取得し、記録する。次いで、表示手段43は、動力計測定データ取得手段41により取得されたトルクを示すデータをモニタ上に表示する(ステップST3)。これにより、例えば図4の下図に示すようなトルクの時間変化を示すグラフがモニタ上にリアルタイムで表示される。図4は、タップ1の動作状態(上図)と、タップ1に掛かるトルク(下図)との関係を示す図である。また、図4に示すグラフでは、横軸が時間を表し、縦軸がトルクを表している。また、図4のグラフに示された横線は、閾値設定手段42により設定された閾値である。
なお、このステップST3におけるグラフ表示は必須の要件ではなく、グラフ表示を行わなくてもよい。
【0022】
次いで、比較手段44は、動力計測定データ取得手段41により取得されたトルクを示すデータと、閾値設定手段42により設定された閾値とを比較する。そして、比較手段44は、このトルクが閾値を超えたかを判断する(ステップST4、比較ステップ)。
このステップST4において、比較手段44が、トルクが閾値を超えていないと判断し、雌ねじ加工が途中の場合(ステップST5‘NO’)には、雌ねじ加工を継続する。すなわち、図4(a)に示すように、タップ1に掛かるトルクが低い場合には、タップ1が折れる恐れはないため、雌ねじ加工を継続する。
【0023】
一方、ステップST4において、比較手段44が、トルクが閾値を超えたと判断した場合には、操作指示手段45は、雌ねじ加工を停止するように駆動部2に指示する(ステップST6)。すなわち、図4(b)に示すように、タップ1に掛かるトルクが増大して閾値を超えた場合(符号Aで示す部分)、タップ1の回転・送りを停止させる。これによって、これ以上タップ1の磨耗が進むことを防止し、タップ1が折れることを未然に防止することができる。またこの際、アラームを鳴らしたり、モニタ上に、トルクが閾値を超えた旨を示すメッセージを表示するなどして、使用者に報知するようにしてもよい。
【0024】
次いで、操作指示手段45は、タップ1を逆転させながらワーク100の主軸上方向に移動させることで、タップ1をワーク100から引き抜くように駆動部2に指示する(ステップST7)。これにより、タップ1が折れる前に、このタップ1をワーク100から引き抜くことができる。なお、ステップST6,7は、本願発明の操作指示ステップに相当する。
次いで、操作指示手段45は、タップ1を交換するようにツールチェンジャに指示する(ステップST8)。そして、タップ1を交換した後、雌ねじ加工が終了していない場合には加工を再開する。
【0025】
以上のように、この実施の形態1によれば、雌ねじ加工時にタップ1に掛かるトルクを直接モニタリングし、このトルクが閾値を超えた場合には雌ねじ加工を停止させてタップ1をワーク100から引き抜くようにねじ加工機に指示するように構成したので、雌ねじ加工中にタップ1に掛かるトルクを高精度に検出することができ、タップ1が折れる前に、このタップ1をワーク100から引き抜いて新たなタップ1に交換することができる。そのため、タップ1の破損を防止することができるとともに、連続作業が可能となる。
【0026】
なお、実施の形態1に係る加工工具破損防止装置では、雌ねじ加工機に接続されて、雌ねじを切るタップ1の折損を防止する場合について示したが、これに限るものではなく、例えば、雄ねじ加工機に接続されて、雄ねじを切るダイスの折損を防止する場合にも同様に適用可能である。
また、本願発明はその発明の範囲内において、実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは実施の形態の任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 タップ(工具)
2 駆動部
3 切削動力計(トルク測定手段)
4 表示・演算部
4a ケーブル
41 動力計測定データ取得手段
42 閾値設定手段
43 表示手段
44 比較手段
45 操作指示手段
100 ワーク
100a 下穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して加工を行う加工機に取り付けられた加工工具破損防止装置において、
前記加工機が加工中に、当該加工に用いている工具に掛かるトルクを測定するトルク測定手段と、
前記トルク測定手段により測定されたトルクが所定の閾値を超えたかを判断する比較手段と、
前記比較手段によりトルクが前記閾値を超えたと判断された場合に、前記加工を停止させて前記工具を前記ワークから引き抜くように前記加工機に指示する操作指示手段と
を備えたことを特徴とする加工工具破損防止装置。
【請求項2】
ワークに対して加工を行う加工機に対する加工工具破損防止方法において、
前記加工機が加工中に、当該加工に用いている工具に掛かるトルクを測定するトルク測定ステップと、
前記トルク測定ステップにおいて測定したトルクが所定の閾値を超えたかを判断する比較ステップと、
前記比較ステップにおいてトルクが前記閾値を超えたと判断した場合に、前記加工を停止させて前記工具を前記ワークから引き抜くように前記加工機に指示する操作指示ステップと
を有することを特徴とする加工工具破損防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−49103(P2013−49103A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187392(P2011−187392)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】