説明

加工部品の製造方法及びその加工部品

【課題】 加工部品の搬送時に、被加工面の仕上げ加工が施された部位に傷が発生するのが防止される加工部品の製造方法及び加工部品を提供する。
【解決手段】 シリンダブロック1の前面3に、仕上面削加工を回避して形成した各加工代残り部4a,4bを設けた。したがって、前面3に面削加工が施されたシリンダブロック1が搬送コンベア2を縦向きに列なって搬送される場合であっても、シリンダブロック1の前面3の各加工代残り部4a,4bが先行のシリンダブロック1の後面に当接されて、シリンダブロック1の前面3の各シール部6と先行のシリンダブロック1との間にギャップが確保される。これにより、シリンダブロック1の仕上加工が施された各シール部6に、先行のシリンダブロック1の後面が衝突することが回避されて、当該シリンダブロック1の各シール部6に傷が発生するのが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工部品の製造方法及びその加工部品に関するものであって、特に、直線状の加工部品搬送路を列なって搬送される加工部品の製造方法及びその加工部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用V型エンジンのシリンダブロックの加工ラインにおいては、シリンダブロックが、搬送コンベア(加工部品搬送路)上を縦向き(各バンクのシリンダ配列方向とワーク搬送方向とが一致する向き)に列なって搬送される。このような搬送コンベアでは、シリンダブロックの前面(加工部品搬送方向側の面)と該シリンダブロックの先行のシリンダブロック(以下、単に先行のシリンダブロックと称する。)の後面(加工部品搬送方向に対して反対側の面)とが衝突した時に、当該シリンダブロックの前面の仕上加工が施されたシール部に傷が付いて、完成したエンジンのシール部にオイル漏れを生じる虞がある。そこで、図5に示されるように、各シリンダブロック1の後面5にリブ9を設けておいて、シリンダブロック1と先行のシリンダブロック1との衝突時に、シリンダブロック1の前面3に設定されるリブ当接部10に先行のシリンダブロック1のリブ9を当接させて、当該シリンダブロック1のシール部6と先行のシリンダブロック1の後面5との間にギャップを確保することにより、シール部6に傷が発生するのを防止したシリンダブロック1が従来から知られている。
【0003】
しかしながら、上記従来のシリンダブロック1では、補機との干渉を回避させる等のレイアウト上の問題から過大な肉盛が必要になることが多く、エンジンの重量が増大されると共に粗材の重量の増加に伴い製造コストが増大される。他方、搬送コンベアに減速機構を設けておいて、シリンダブロックが先行のシリンダブロックに衝突する直前で、当該シリンダブロックを減速させることにより、衝突時の衝撃力を減少させる加工ラインが従来からあるが、設備コストが増大されると共に構造が煩雑になって、装置の信頼性が低下する。また、シリンダブロックを横向き(各バンクのシリンダ配列方向と加工部品搬送方向とが直交する向き)に列ねて搬送してもシリンダブロックのシール部に他のシリンダブロックが衝突するのを回避できるが、例えば、全長が大きい8気筒以上のV型エンジンのシリンダブロックでは、加工部品搬送路の幅(ライン幅)が大きくなるため、製造ラインが大型化される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、第1の目的は、加工部品の搬送時に、被加工面の仕上げ加工が施された部位に傷が発生するのが防止される加工部品の製造方法を提供することにある。
また、第2の目的は、加工部品の搬送時に、被加工面の仕上げ加工が施された部位に傷が発生するのが防止される加工部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、直線状に延びる加工部品搬送路上を列なって搬送される加工部品の製造方法であって、加工部品の被加工面の面削加工時に、面削工具を被加工面の所定部位を回避して移動させて被加工面に加工代残り部を形成して、加工部品の搬送時に、加工代残り部を先行又は後続の加工部品に当接させて被加工面の仕上加工が施された部位と先行又は後続の加工部品との間にギャップを確保しつつ、加工部品を搬送することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の加工部品の製造方法において、加工部品の被加工面の搬送路幅方向両側に設けられる加工代残り部が、先行又は後続の加工部品に当接されることを特徴とする。
【0006】
上記第2の目的を達成するために、本発明のうち請求項3に記載の発明は、直線状に延びる加工部品搬送路上を列なって搬送される加工部品であって、加工部品の被加工面に、面削用工具が回避して移動されて形成される加工代残り部が設けられることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の加工部品において、加工代残り部が、被加工面の搬送路幅方向両側に設けられることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の加工部品において、加工部品がエンジンのシリンダブロックであって、加工代残り部が、シール面の外側に配設されることを特徴とする。
【0007】
したがって、請求項1及び3に記載の発明では、加工部品の搬送時に、加工代残り部が先行又は後続の加工部品に当接されて被加工面の仕上加工が施された部位と先行又は後続の加工部品との間にギャップが確保されるので、被加工面の仕上加工が施された部位に先行又は後続の加工部品が衝突するのが回避される。
請求項2及び4に記載の発明では、加工部品の搬送時に、被加工面の搬送路幅方向両側に配設された加工代残り部が、先行又は後続の加工部品に当接される。
請求項5に記載の発明では、シリンダブロックの搬送時に、エンジンのシリンダブロックのシール面の外側の加工代残り部が、先行又は後続のシリンダブロックに当接される。
【発明の効果】
【0008】
加工部品の搬送時に、被加工面の仕上げ加工が施された部位に傷が発生するのが防止される加工部品の製造方法及び加工部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一実施の形態を図1〜図4に基づいて説明する。本加工部品の製造方法は、自動車用V型8気筒エンジンのシリンダブロック1(加工部品)の加工ラインにおけるものであって、図2に示されるように、シリンダブロック1の前面3(部品搬送方向に向けられる側の面)に、仕上加工用面削工具(仕上加工用フライス)による面削加工が回避されて形成される各加工代残り部4a,4bが設けられる。そして、本加工部品の製造方法では、上記シリンダブロック1が直線状に延びる搬送コンベア2(加工部品搬送路)によって縦向き(各バンクにおけるシリンダ配列方向と部品搬送方向とが一致する向き)に列なって搬送されて、この搬送中に、図4に示されるように、上記シリンダブロック1の前面3の各加工代残り部4a,4bが、先行のシリンダブロック1の後面5(部品搬送方向に対して反対方向に向けられる側の面)の各被当接部7a,7bに当接されて、当該シリンダブロック1の前面3のシール部6(シール面)と先行のシリンダブロック1との間にギャップGが確保されることにより、仕上加工が施された上記シール部6に、先行するシリンダブロック1の後面5が衝突するのが回避される構造になっている。
【0010】
上記搬送コンベア2は、部品搬送方向へ延びてコンベア幅方向(搬送路幅方向)に配設される一対の無端チェーンを備えて構成される。各無端チェーンの外周面には、シリンダブロック1を支持するローラが所定ピッチで取付けられる。そして、上記搬送コンベア2では、各無端チェーンが電動モータによって駆動されることにより、当該搬送コンベア2上に縦向きに載置されたシリンダブロック1が、部品搬送方向(図4における右方向)へ搬送される構造になっている。図2に示されるように、上記シリンダブロック1は、上記シール部6が当該シリンダブロック1の前面3のコンベア幅方向両側(図2における左右両側)に配設されて、各シール部6の外側(クランク軸中心側を内側とする時の外側)に加工代残り部4a,4bが配設される。そして、本加工部品の製造方法では、各シール部6の仕上面削加工時に、上記仕上加工用面削工具のフライスパスが各加工代残り部4a,4bを回避して設定されることにより、当該シリンダブロック1の前面3の各シール部6の外側に、各シール部6に対して所定高さ(本実施の形態では、0.6mm。)の段差を有する各加工代残り部4a,4bが形成される構造になっている。
【0011】
なお、本加工部品の製造方法では、各加工代残り部4a,4bは、シリンダブロック1が搬送コンベア2上を縦向きに列なって搬送される時のシリンダブロック1の前面3と先行のシリンダブロック1の後面5とが接触する範囲を特定して、この特定された範囲を各シール部6を含まない範囲に絞込み、さらに、この絞込まれた範囲におけるチェーンカバーや補機等との干渉が回避される位置に設定される。
【0012】
次に、本加工部品の製造方法の作用を説明する。加工ラインを流れるシリンダブロック1(加工部品)は、順次加工ステーションに搬入されて、マシニングセンタによって所定の加工が施される。ここで、シリンダブロック1の前面3は、荒加工用面削工具によって、各シール部6(シール面)と各加工代残り部4a,4bとが同一高さに面削加工された後、仕上加工用面削工具によって加工代残り部4を回避して面削加工されて、図2に示されるように、各シール部6の外側に、各シール部6に対して高さが0.6mm高い各加工代残り部4a,4bが形成される。そして、当該加工ステーションにおける必要な加工が施されたシリンダブロック1は、図1に示されるように、加工ステーションから搬出されて、搬送コンベア2(加工部品搬送路)によって次工程へ向けて搬送される。
【0013】
この時、シリンダブロック1は、搬送コンベア2上を縦向き(各バンクにおけるシリンダ配列方向と部品搬送方向とが一致する向き)に列なって搬送される。そして、本加工部品の製造方法では、図4に示されるように、シリンダブロック1が先行のシリンダブロック1に接近衝突された場合であっても、当該シリンダブロック1の前面3の各加工代残り部4a,4bが、先行のシリンダブロック1の後面5の図3に示される各被当接部7a,7bに当接されることにより、当該シリンダブロック1の前面3の各シール部6と先行のシリンダブロック1の後面5との間にギャップG(0.6mmの間隔)が確保される。これにより、本加工部品の製造方法では、当該シリンダブロック1の前面3の各シール部6に先行のシリンダブロック1が衝突することがないため、各シール部6に傷が発生するのを防止することができる。
【0014】
この実施の形態では以下の効果を奏する。
本加工部品の製造方法では、シリンダブロック1(加工部品)の前面3(被加工面)の各シール部6(シール面)の外側に、仕上面削加工を回避して形成した各加工代残り部4a,4bが設けられる。したがって、本加工部品の製造方法では、前面3に面削加工が施されたシリンダブロック1が搬送コンベア2(加工部品搬送路)が縦向きに列なって搬送される場合であっても、シリンダブロック1の前面3の加工代残り部4a,4bが先行のシリンダブロック1の後面5の被当接部7a,7bに当接されて、当該シリンダブロック1の前面3のシール部6(シール面)と先行のシリンダブロック1の後面5との間にはギャップGが確保される。
【0015】
これにより、本加工部品の製造方法では、シリンダブロック1の仕上加工が施されたシール部6に、先行のシリンダブロック1が衝突することが回避されて、当該シリンダブロック1のシール部6に傷が発生するのが防止される。
また、従来から、シール部6に先行又は後続のシリンダブロック1が衝突するのを防止するためのリブが設けられたシリンダブロック1が知られているが、本加工部品の製造方法では、このリブを廃止することができ、シリンダブロック1が軽量化されると共にシリンダブロック1の製造コストが削減される。
また、従来から、シール部6の傷を防止するためにシリンダブロック1を横向きに搬送した加工ラインが知られているが、本加工部品の製造方法では、シリンダブロック1を縦向きに搬送することができるため、加工ラインが小型化される。
【0016】
なお、実施の形態は上記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
本実施の形態では、シリンダブロック1の前面3のフランジ7の前端面8に加工代残り部4a,4bが設定されるが、シリンダブロック1が搬送コンベア2上を縦向きに列なって搬送される時のシリンダブロック1の前面3と先行のシリンダブロック1の後面5とが接触する範囲を特定して、この特定された範囲を上記シール部6を含まない範囲に絞込み、さらに、この絞込まれた範囲におけるチェーンカバーや補機等との干渉が回避される位置に加工代残り部4が設定されていれば、加工代残り部4a,4bをフランジ7の前端面8以外の部位に設定してもよい。
加工代残り部4のシール部6に対する高さは適宜設定すればよい。
本実施の形態では、加工部品として自動車用エンジンのシリンダブロックを挙げたが、部品加工ラインに流される加工部品であれば、シリンダブロックでなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態の説明図であって、搬送コンベア上を縦向きに列なって搬送されるシリンダブロックを示す斜視図である。
【図2】本実施の形態の説明図であって、シリンダブロックの前面を示す図である。
【図3】本実施の形態の説明図であって、シリンダブロックの後面を示す図である。
【図4】本実施の形態の説明図であって、搬送コンベア上を縦向きに列なって搬送されるシリンダブロックが簡略化して示された平面図である。
【図5】従来のシリンダブロックの後面を示す図である。
【図6】従来のシリンダブロックの前面を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
1 シリンダブロック(加工部品)、2 搬送コンベア(加工部品搬送路)、3 前面、4a,4b 加工代残り部、6 シール部(シール面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に延びる加工部品搬送路上を列なって搬送される加工部品の製造方法であって、前記加工部品の被加工面の面削加工時に、面削工具を前記被加工面の所定部位を回避して移動させて前記被加工面に加工代残り部を形成して、前記加工部品の搬送時に、前記加工代残り部を先行又は後続の加工部品に当接させて前記被加工面の仕上加工が施された部位と先行又は後続の加工部品との間にギャップを確保しつつ、前記加工部品を搬送することを特徴とする加工部品の製造方法。
【請求項2】
前記加工部品の前記被加工面の搬送路幅方向両側に設けられる前記加工代残り部が、先行又は後続の前記加工部品に当接されることを特徴とする請求項1に記載の加工部品の製造方法。
【請求項3】
直線状に延びる加工部品搬送路上を列なって搬送される加工部品であって、前記加工部品の被加工面に、面削用工具が回避して移動されて形成される加工代残り部が設けられることを特徴とする加工部品。
【請求項4】
前記加工代残り部が、前記被加工面の搬送路幅方向両側に設けられることを特徴とする請求項3に記載の加工部品。
【請求項5】
前記加工部品がエンジンのシリンダブロックであって、前記加工代残り部が、シール面の外側に配設されることを特徴とする請求項3又は4に記載の加工部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−32519(P2007−32519A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−220987(P2005−220987)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】