説明

動力工具用コアビット組

【課題】コアビットとシャンク部をガタつきなく安定的に固定し、着脱時の操作性が良好な動力工具用コアビット組を提供する。
【解決手段】動力工具本体に取り付ける取付軸21と、取付軸21に固定される固定フランジ22と、取付軸21と固定フランジ22に対して軸方向に移動可能なプッシュリング26及び可動フランジ24を有し、固定フランジ22と可動フランジ24の外周面に突起部(23、25)を設けた。これら突起部が切り欠き部13に係合することによりコアビット10はシャンク部20に固定される。切り欠き部13は、軸方向に延びる軸方向切り欠き13aと、その途中から周方向に延びる第1の周方向切り欠き13bと、軸方向切り欠き13aの下端から周方向に延びる第2の周方向切り欠き13cが形成され、第2の周方向切り欠き13cの末端には、可動フランジ突起25の移動を制限するロック部13gが設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力工具の先端に取り付け可能なコアビット組に関し、特に、円筒状の穿孔ができるコアビットのシャンク部へのワンタッチ取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、コンクリートや石材の大径穴あけには、ハンマドリル等の動力工具の先端にダイヤモンドのコアを有するコアビット(ダイヤモンドコアビット)を取り付けて行われることが多い。ダイヤモンドコアビットは円筒状ボディの先端の縁部に、複数のダイヤモンド刃部をセグメント状に配置(分割して配置)させたものである。このようなダイヤモンドコアビットを用いて穿孔作業をした後には、コアビットの内部に切削物(コア)が残留するため、次の穿孔作業を行う場合にはコアビット内部に残留したコアを取り出した後に行わねばならない。しかしながら、コンクリートや石材等の穴あけにおいては、残留したコアを先端側開口(ダイヤモンド刃部)側から取り出そうとしてもスムーズには取り出せないことが多いため、コアビットをシャンク部から取り外してコアを取り出すことができるコアビットが実現されている。この構造は、シャンク部を介してコアビットを動力工具に装着するものであり、このようなコアビット組の場合は、コアを取り出すために、シャンク部からコアビットを分離させて、コアビットの後端側(シャンク部側)の穴から棒のようなもので残留コアを押し出すことにより、コアの取り出しが可能である。
【0003】
しかしながら、従来のコアビットとシャンク部はねじ固定されるため、穿孔作業中に固く締まってしまい、穿孔作業後にコアビットとシャンク部を分離させるのにかなりの労力と時間を要する場合があった。この欠点を解消するために、近年、ワンタッチでコアビットとシャンク部を分離できる取付け構造が提案されており、例えば特許文献1に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−1413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1ではシャンク部と締結ピンが一体でないため、工具本体が上方へ持ち上げられるような穿孔作業の場合に締結ピンが軸方向の下方に移動し、シャンク部の鍔部とコアボディとの間にガタが生じてしまう恐れがあり騒音や振動の悪化を招いてしまうことがあった。
【0006】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、コアビットとシャンク部の間でガタを生じさせることなく固定できるようにした動力工具用コアビット組を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、人為的に操作しない限りロックが解除されることがなく、安定してシャンク部にコアビットを固定することができる動力工具用コアビット組を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、コアビットの着脱時の操作性が良好な動力工具用コアビット組を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0010】
本発明の一つの特徴によれば、動力工具に取り付けられるシャンク部と、シャンク部に着脱可能に固定される円筒形状のコアビットにより構成されるコアビット組であって、シャンク部は、動力工具に取り付けるための取付軸と、取付軸に固定され突起部を有する固定部材と、固定部材に対して軸方向に移動可能に設けられ突起部を有する可動部材と、可動部材を固定部材に対して軸方向に付勢するバネを有する。一方、コアビットは、円筒形のボディの下端に設けられる刃部と、可動部材の突起部と係合する第1の係合手段と、固定部材の突起部と軸方向に係合する第2の係合手段を有する。第1の係合手段及び第2の係合手段は、ボディに形成された切り欠き又は溝であって、固定部材及び可動部材の突起が案内される切り欠き又は溝の入口部分の周方向位置が同一となるように形成される。
【0011】
本発明の他の特徴によれば、切り欠き又は溝は、ボディの開口端から軸方向に延びる軸方向部と、軸方向部の途中から周方向に延びる第1の周方向部と、軸方向部の下端から周方向に延びる第2の周方向部から形成され、第2の周方向部の末端には可動部材の突起部を軸方向に微少距離移動させることにより周方向の移動を制限するロック部を設けた。固定部材にはコアビットのボディの上縁部と接する鍔部を設けると好ましい。さらに、固定部材の上方に位置し可動部材を移動させるプッシュリングを設け、プッシュリングを固定部材に形成された穴部を貫通する複数のピンによって固定部材の下側に位置する可動部材と固定し、バネはプッシュリングと固定部材の間に介在されるようにした。固定部材の突起と可動部材の突起が同じ角度位置に配置されると共に、一体となって軸方向に回動する。
【0012】
本発明のさらに他の特徴によれば、円筒状のボディと、ボディの一端に設けられる刃部と、シャンク部の固定部材と可動部材の突起部にそれぞれ係合することにより、ボディをシャンク部に固定させる突起係止手段を有するコアビットにおいて、突起係止手段はボディに形成された切り欠き又は溝であって、切り欠き又は溝は、ボディの開口端から軸方向に延びる軸方向部と、軸方向部の途中から周方向に延びる第1の周方向部と、軸方向部の下端から周方向に延びる第2の周方向部から形成され、第2の周方向部の末端には、可動部材の突起部を軸方向に微少距離移動させることにより周方向の移動を制限するロック部を設けて構成した。軸方向部は入口側に第1の周方向幅を有し、奥側に第1の周方向幅よりも狭い第2の周方向幅を有し、第1から第2の周方向幅部の連結部は斜めに切り欠き又は溝が形成されて、可動部材の突起が当接することによりボディを回転させるとコアビットをシャンク部から離す方向に移動させる分力を生じさせるように形成した。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、固定部材及び可動部材に設けた突起部とコアビットのボディに設けた突起係止手段が係止することによりコアビットがシャンク部に固定されるので、2組の突起部により安定してコアビットを固定することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、第1の係合手段及び第2の係合手段はボディに形成された切り欠き又は溝であるので、ボディの加工が容易であり製造コストを抑えることができる。また、固定部材突起との係合溝と可動部材の突起との係合溝の入口を同一箇所としているためコアビットのボディに、より多くの周方向の切り欠きや溝を形成することが可能になる。さらに、個別に溝を加工する場合に較べて加工の手間を省くことができるので製造コストを低減することが可能となる。
【0015】
請求項3の発明によれば、切り欠き又は溝は、軸方向部と、軸方向部の途中から周方向に延びる第1の周方向部と、軸方向部の下端から周方向に延びる第2の周方向部から形成されるので、係合溝の入口を同一箇所とした突起係止手段を実現できる。また、第2の周方向部の末端にロック部を設けたので、動力工具を使用中にコアビットがシャンク部から外れてしまうことを防止できる。
【0016】
請求項4の発明によれば、固定部材にコアビットのボディの上縁部と接する鍔部を形成したので、穿孔作業時に動力工具を上方へ持ち上げるような力を加えた場合にも、固定部材の鍔部とコアビットボディ上端部との間でガタを発生させることがない。
【0017】
請求項5の発明によれば、固定部材の上方に位置し可動部材を移動させるプッシュリングを設け、プッシュリングを固定部材に形成された穴部を貫通する複数のピンによって固定部材の下側に位置する可動部材と固定し、バネはプッシュリングと固定部材の間に介在されるので、最上部に位置するプッシュリングを移動させるだけで容易に可動部材を軸方向に相対移動させることができ、その結果可動部材の外周側に設けられた突起部を軸方向に移動できるので、突起部をロック部に確実に係合させることができる。また、可動部材とプッシュリングとの固定を固定部材を貫通するピンによって行うため、シンプルな構造とすることが可能となり製造コストを低減することが可能となる。
【0018】
請求項6の発明によれば、固定部材突起と可動部材突起が同一角度で配置され、一体となって回動するのでワンアクションで着脱操作を行うことができる。
【0019】
請求項7の発明によれば、ボディの開口端から軸方向に延びる軸方向部と、軸方向部の途中から周方向に延びる第1の周方向部と、軸方向部の下端から周方向に延びる第2の周方向部から形成され、第2の周方向部の末端には、可動部材の突起部を軸方向に微少距離移動させることにより周方向の移動を制限するロック部を設けたので、安定してシャンク部に固定できるコアビットを実現できる。
【0020】
請求項8の発明によれば、突起係止手段の軸方向部に斜めに切り欠き又は溝を形成したので、可動部材の突起が当接することによりボディを回転させるとコアビットをシャンク部から離す方向に移動させる分力を生じ、回転するだけで容易にコアビットとシャンク部の密接状態を解除することができる。
【0021】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に係るコアビット組1の全体を示す正面図である。
【図2】本発明の実施例に係るコアビット10のシャンク部20への取り付け構造を示す部分斜視図である。
【図3】図2のシャンク部20の可動部分の部品構成を示す斜視図である。
【図4】図2のシャンク部20の可動部分の部品を組み立てた状態を示す斜視図である。
【図5】図2のシャンク部20のフリー状態を示す正面図である。
【図6】図2のシャンク部20の係合時の状態を示す正面図である。
【図7】第2の実施例に係るコアビット10に形成される切り欠き部の形状を示す側面図である(装着時)。
【図8】第2の実施例に係るコアビット10に形成される切り欠き部の形状を示す側面図である(取り外し時)。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、上下方向は各図に示す方向であるとして説明する。図1は本実施例に係るコアビット組1の全体を示す正面図である。
【0024】
コアビット組1は、振動ドリルやハンマドリルや等の動力工具に取り付けられるシャンク部20と、シャンク部20に着脱可能に固定されるコアビット10により構成される。シャンク部20には外周側に突出する突起部たる固定フランジ突起23と可動フランジ突起25が設けられる。コアビット10は、円筒形のボディ11と、ボディ11の下端の縁部に刃部12により主に構成される。ボディ11の上端の縁部には、固定フランジ突起23と可動フランジ突起25が係止されることによってコアビット10をシャンク部20に保持させるための突起係止手段が設けられる。本実施例では、突起係止手段は切り欠き部13で実現され、切り欠き部13は円周方向に90度ずつ隔てて4箇所設けられる。シャンク部20から突出する固定フランジ突起23と可動フランジ突起25が、切り欠き部13の所定の端部に係合する。
【0025】
シャンク部20には取付軸21が設けられる。取付軸21は、軸方向と垂直な断面において、円形に面取りにより三面の平面を備えた形状であって、振動ドリルやハンマドリルや等の動力工具の出力軸に取り付けられる。固定フランジ突起23は取付軸21に対して非可動な固定フランジ22(固定部材)に固定される。一方、可動フランジ突起25は、取付軸21に対して軸方向(上下方向)にだけ相対移動が可能な可動フランジ24(可動部材)に固定されるため、所定範囲で軸方向に移動可能である。シャンク部20の上下方向ほぼ中央付近には、取付軸21に対して軸方向に相対移動が可能なプッシュリング26が設けられる。プッシュリング26は、シャンク部20からコアビット10を取り外す際に、可動フランジ24を軸方向に動かして可動フランジ突起25の位置を変更させるための部材である。プッシュリング26は可動フランジ24と複数本の固定ピン27によって固定される。プッシュリング26と固定フランジ22の間には圧縮バネ28が設けられる。圧縮バネ28によって、プッシュリング26は固定フランジ22に対して上方向に付勢される。
【0026】
本実施例のコアビット10のボディ11は直径dが65mmであり、ボディ11の高さ(軸方向の長さ)Hは、150mmである。取付軸21の直径d1は13mmである。しかしながら、シャンク部20は共通で用いられるもののコアビット10のサイズは任意であり、ボディ11の大きさは例えば20mmから150mm程度、場合によっては150mmを超えるサイズとしても良い。シャンク部20は、径の異なるコアビット10毎に違うサイズのものを準備しても良いが、シャンク部20をできるだけ共通にすると好ましい。この際、固定フランジ22と可動フランジ24の径と異なるサイズのコアビット10を取り付けるためには、ボディ11の刃部12側と上端側の径が異なるように、太径部と細径部を段差状に形成するか、又は、なめらかに径が太く又は細く変化するように接続するように構成しても良い。
【0027】
図2は本発明の実施例に係るコアビット10のシャンク部20への取り付け構造を示す部分斜視図である。シャンク部20の各部品は、動力工具に取り付けられて回転方向に一緒に回転する。しかし、軸方向(本実施例の定義では上下方向と同じ)に対しては、取付軸21に対して移動しない部分(固定部分)と、取付軸21に対して相対的に移動可能な部分(可動部分)の2つに分かれる。取付軸21に対して移動しない固定部分は、固定フランジ22及びその外周側に複数取り付けられる固定フランジ突起23である。一方、取付軸21に対して軸方向に所定の範囲だけ移動可能な可動部分は、プッシュリング26、4本の固定ピン27、可動フランジ24、及び、可動フランジ24の外周側に複数取り付けられる可動フランジ突起25である。これらの可動部分は、互いに固定されるため一体的に軸方向に移動する。さらに、可動部分と固定部分の間には、圧縮バネ28が介在される。圧縮バネ28は、固定部分たる固定フランジ22とプッシュリング26の間に介在され、プッシュリング26を軸方向上方に移動するように付勢する。
【0028】
プッシュリング26の中央付近には、取付軸21を貫通させるための貫通穴26aが形成される。貫通穴26aは取付軸21とは固定されずに、貫通穴26aが取付軸21に対して摺動可能なように保持される。プッシュリング26の軸方向の可動範囲は、上方向には図2の状態、即ち、可動フランジ24が固定フランジ22に対して当接する状態が上方向の限界点である。また、プッシュリング26の下方向の可動範囲は、固定フランジ22の上面から圧縮バネ28の縮み限界付近までである。尚、プッシュリング26と可動フランジ24は、円周方向に等間隔(例えば90度毎)で配置される固定ピン27によってお互いに固定される。固定フランジ22の円周方向には、4つの貫通穴22cが形成され、この貫通穴22cを介して固定ピン27がプッシュリング26側から可動フランジ24側に延びる。貫通穴22cと固定ピン27は、互いに摺動可能であって固定されない。また、プッシュリング26の貫通穴26aの周囲は段付き形状の段付部26bを形成した。このように構成することにより、取付軸21との嵌め合いの長さを長くとるとともに重量増加を抑制することができる。
【0029】
コアビット10のボディ11は円筒形に形成され、その上端部には4つの切り欠き部13が形成される。切り欠き部13は、ボディ11の上端面から軸方向下方に延びる軸方向切り欠き13a(軸方向部)と、軸方向切り欠き13aの途中から周方向に延びる第1の周方向切り欠き13b(第1の周方向部)と、軸方向切り欠き13aの下端から周方向に延びる第2の周方向切り欠き13c(第2の周方向部)が形成される。第1の周方向切り欠き13bと第2の周方向切り欠き13cが軸方向切り欠き13aから延びる周方向は、穿孔作業時の取付軸21の回転方向に対応させて決定し、穿孔作業時がコアビット10がシャンク部20に対して緩まないように設定することが重要である。第1の周方向切り欠き13bには固定フランジ突起23が係合される。同様にして、第2の周方向切り欠き13cには可動フランジ突起25が係合される。
【0030】
シャンク部20のコアビット10への取り付けは、シャンク部20の固定フランジ突起23と可動フランジ突起25の周方向位置を、軸方向切り欠き13aの位置に合わせて、固定フランジ22の上端に形成される鍔部22bとボディ11の上端を当接させる。この状態で、プッシュリング26を圧縮バネ28の付勢力に反して下方向に押すことで可動フランジ24をコアビット10の方向(図中矢印2の方向)に移動させる。そして、固定フランジ突起23と可動フランジ突起25との軸方向距離が第一の周方向切り欠き13bと第2の周方向切り欠き13cの軸方向距離とほぼ等しくなったところでシャンク部20をコアビット10に対して矢印3の方向に所定角度回転させる。固定フランジ突起23と可動フランジ突起25は同じ角度位置に配置され、プッシュリング26を回動させると固定ピン27により固定される可動フランジ24と、固定フランジ22の貫通穴22cを介して固定フランジ22が一体となって回動する。この結果、固定フランジ突起23が第1の周方向切り欠き13bの端部に接触し、可動フランジ突起25が第2の周方向切り欠き13cの端部に接触する。この状態でプッシュリング26の下方向への押しつけを解除すると、圧縮バネ28の力により可動フランジ24及び可動フランジ突起25が上方向に移動し、可動フランジ突起25がロック部13gに嵌合することにより、可動フランジ24が周方向に回転することが防止される。
【0031】
尚、第2の周方向切り欠き13cは、作業者がプッシュリング26及び可動フランジ24を押し下げた状態で回転させやすいよう、可動フランジ突起25より若干幅が広く形成されている。このため、コアビット10をシャンク部20への着脱時の操作性が良い。これに対し、第1の周方向切り欠き13bやロック部13gは、作業時にできる限りガタを生じさせないように固定フランジ突起23及び可動フランジ突起25とほぼ等しい幅となるよう構成される。このため、穿孔作業時にはコアビット10はシャンク部20にたいしてしっかりと保持されるので、がたつきが発生することなく作業が可能となる。
【0032】
以上説明したように、固定フランジ22及び可動フランジ24に設けられる固定フランジ突起23と可動フランジ突起25を切り欠き部13に係合させることよってコアビット10をシャンク部20に固定させるので、コアビット10をシャンク部20に対して安定して固定させることができる。また取り付けの際にプッシュリング26を押す方向は、コアビット10に対するシャンク部20の取り付け方向と同じであるので、作業者にとって力を加えやすく、装着が容易なコアビット組1を実現できる。
【0033】
次に図3及び図4を用いて、シャンク部20の可動部分の構成を説明する。図3はシャンク部20の可動部分の部品構成を示す斜視図であって、各部品を組み立てる前の状態を示す。可動フランジ24は、軸方向に所定の厚さを有する円形の金属製の部材であって、中央に取付軸21の先端部分を貫通させるための貫通穴24aが形成される。可動フランジ24の上面の4箇所には穴24bが形成され、円筒状の固定ピン27の先端が圧入により固定される。可動フランジ24の側面の4箇所には円柱形の径方向に形成された貫通しない穴24cが形成され、穴24cには可動フランジ突起25が形成される。可動フランジ突起25をどのように形成するかは任意であるが、本実施例では穴24cに円筒状のスプリングピンを圧入することにより形成される。尚、可動フランジ突起25は切り欠き部13に嵌合させることが主目的であるので、スプリングピン等で別体式にしなくても、金属の鋳造又は削りだしによって可動フランジ24と一体に形成しても、その他の製造方向により製造しても良い。また、可動フランジ24と固定ピン27の固定方法は圧入による構造としたが、上面の4箇所の穴24bの内部に雌ねじを形成し、固定ピン27の下端部に雄ねじ(図示せず)を形成し、穴24bに形成された雌ねじにねじ締めされるようにしてもよい。
【0034】
プッシュリング26は、軸方向に所定の厚さを有する円形の金属製の部材であって、中央付近に取付軸21を貫通させるための貫通穴26aが形成される。図3では、プッシュリング26の円柱形の外周面はなめらかに形成されているが、ここに縦方向に溝などを形成して作業者がプッシュリング26を回転させる際に滑りにくくなるようにしても良い。尚、図3の視点からは見えないが、プッシュリング26の下面の4箇所には、軸方向に延びる円柱状の穴が形成され、その穴に4本の固定ピン27の先端(上端)が圧入される。
【0035】
このようにして組み立てられた状態が図4である。図4では説明のために、シャンク部20の可動部分のみの部品を組み立てた状態を示しているが、実際にはプッシュリング26と可動フランジ24の間には固定フランジ22(図2参照)が位置するようにして組み立てられる。その際、固定ピン27は固定フランジ22の貫通穴22cに貫通され、軸方向の移動は妨げられない。同様にしてプッシュリング26は、貫通穴26aが取付軸を貫通するように位置づけされる。以上のように構成することにより、プッシュリング26は、固定フランジ22を貫通する4本の固定ピン27により可動フランジ24と一体となって軸方向に移動する構成を実現できる。
【0036】
次に、図5及び図6を用いてシャンク部20の動作について説明する。図5はシャンク部20のフリー状態を示す正面図である。プッシュリング26と可動フランジ24は、固定ピン27によって固定されると共に、圧縮バネ28によって所定方向に(プッシュリング26と固定フランジ22が離れる方向に)付勢されるために、可動フランジ24は固定フランジ22と取付軸21に対して矢印の方向に移動し、図示の状態が最も上側に位置する状態になる。この際、固定フランジ突起23と可動フランジ突起25の中心点の軸方向距離はaとなる。固定フランジ22の外周面は、コアビット10のボディ11の内周面と接するが、そのボディ11の内周壁に接する部分の外径はd3である。可動フランジ24の外周面は、固定フランジ22の外径d3より若干小径に形成されており、コアビット10のボディ11の内周面と微小な隙間を有するよう構成されるため、取付時の摩擦抵抗を低減することが可能となる。固定フランジ突起23の上端付近には、コアビット10のボディ11の後端側の開口である上端面を押さえるための鍔部22bが形成される。鍔部22bの外径はコアビット10のボディ11とほぼ同じとすると好ましい。また、外径d3は、プッシュリング26の外径d2よりも大きい。
【0037】
図6は、図2のシャンク部20の係合時の状態を示す正面図である。作業者が、鍔部22bがコアビット10のボディ11と突き当たった状態で、ボディ11を押さえながらプッシュリング26を下方に押して、矢印の方向にプッシュリング26を移動させると、固定ピン27による接続のために可動フランジ24も矢印の方向に移動する。その際、固定フランジ22は取付軸21に対して移動しないため、固定フランジ22と可動フランジ24が離れて、固定フランジ突起23と可動フランジ突起25の中心点の軸方向距離がおおよそbになる。この距離bは、少なくとも図2で示した第1の周方向切り欠き13bと第2の周方向切り欠き13cの軸方向距離より大きくなるように構成される。この際は、可動フランジ24は取付軸21の下端21a付近にまで下降する。
【0038】
上記の構成によってコアビット10とシャンク部20の着脱をワンタッチで行うことができるコアビット組を実現できる上に、穿孔作業時のガタつきを生じさせること無い。コアビット10にシャンク部20を固定させるには、固定フランジ突起23と可動フランジ突起25をボディ11の上端に設けた切り欠き部13の軸方向切り欠き13aに合わせて挿入させ、固定フランジ22の鍔部22bをボディ11の上端面に突き当てた状態でプッシュリング26を圧縮バネ28の付勢力に反して下方に押し下げる。プッシュリング26を押し下げると同時に可動フランジ24が下方に移動し、可動フランジ突起25が第2の周方向切り欠き13cに移動可能な状態となる。その状態で、プッシュリング26を時計回りに回動させると可動フランジ突起25が第2の周方向切り欠き13cに沿って最奥部のロック位置まで移動させることができる。このとき固定フランジ22も同時に時計回りに動くため固定フランジ突起23も第1の周方向切り欠き13bの最奥部まで移動できる。これによって、穿孔作業時にシャンク部20が上方に持ち上げられるような場合にも、固定フランジ突起23の上面と第1の周方向切り欠き13bの上面が当接し固定フランジ22がガタつくことを防止できる。また、プッシュリング26を人為的に操作しない限りコアビット10とシャンク部20のロックが解除されないので、コアビット10を安定的に保持することができる。さらに、プッシュリング26を下方に押し下げることでコアビット10を着脱できるため、操作性が良好であり、動力工具本体に取り付けたままの状態でも着脱作業を容易に行うことができる。
【実施例2】
【0039】
次に図7及び図8を用いて、コアビット10に形成される切り欠き部の別の形状を説明する。図7は、第2の実施例に係るコアビット10に形成される切り欠き部63を示す部分側面図である(装着時)。切り欠き部63の基本形状は図2における切り欠き部13とほぼ同じであり、図2の切り欠き部13が点線113の輪郭であるのに対して、第2の実施例では傾斜部63hを設け、軸方向切り欠き63aの入口部分の幅(第1の周方向幅w1)が図2の切り欠き部13に対して広くなるように形成した。その他の部分、第2の周方向幅w2や、63b〜63gの形状、サイズは、対応する切り欠き部13と全く同一である。第1の周方向切り欠き63bと第2の周方向切り欠き63cは同一の入口となるように軸方向切り欠き63aと連続して配置される。
【0040】
第1の周方向切り欠き63bは、下側縁63eは水平であるが、上側縁63dがやや傾斜しており、軸方向切り欠き63aから離れるにつれて周方向切り欠き63bの上下方向幅が狭くなるように形成される。図7の固定フランジ突起23の位置が、コアビット10を用いて切削時の状態である。第2の周方向切り欠き63cは、図2に示した第2の周方向切り欠き13cと全く同一形状である。軸方向切り欠き63aから離れた周方向の端部には、軸方向上側にくぼむ窪み63fが形成される。図7の可動フランジ突起25の位置が、コアビット10を用いて切削時の状態である。可動フランジ突起25は、作業者がプッシュリング26の軸方向下方への押下を解除すると圧縮バネ28の作用により可動フランジ突起25が上方に移動し、図7の位置にて安定して保持される。この際、回転方向で軸方向切り欠き63aに近い側の一部は、ロック部63gにて保持されるために、可動フランジ突起25は回転方向にがたつくことなく安定的に保持される。
【0041】
図8は、第2の実施例に係るコアビット10に形成される切り欠き部の形状を示す側面図であり、取り外し時の状態を説明するための図である。コアビット10をシャンク部20から取り外す時は、図1の状態からボディ11を片手で押さえながらシャンク部20のプッシュリング26を下方向に押しながら装着時とは逆方向に回転させる。この回転によって、固定フランジ突起23は123aの位置から、123c、123eと移動する。位置123a、123c、123eの中心点を結ぶ矢印122は、固定フランジ突起23の中心点の移動軌跡を示す。この矢印122から理解できるように、固定フランジ突起23は123aから123eの地点までは軸方向には移動せずに周方向にだけ移動する。
【0042】
一方、可動フランジ突起25は固定フランジ突起23の移動とは異なる。まず、プッシュリング26を下方向に移動させることにより125aの位置から、125bの位置に移動させる。この移動によって可動フランジ突起25が掛止部63gと接触しなくなるので、この状態でボディ11の回転を開始させる。この回転により、125bの位置から125c、125dの位置に到達すると、可動フランジ突起25が溝方向切り欠き63aの縁に接するのでそれ以上の回転ができなくなる。そこで、作業者はプッシュリング26の軸方向下方への押下を解除すると、圧縮バネの力によって可動フランジ突起25は位置125eの位置まで自動的に移動する。この時の位置関係(123eと125eの位置)が図5の状態にある距離aの位置であり、圧縮バネ28によって固定フランジ22と可動フランジ24が接触している状態である。通常ならばこの状態から作業者がボディ11をシャンク部20から軸方向に離れる方向に移動させることによってコアビット10を容易に取り外すことができる。しかしながら、鍔部22b及び固定フランジ22は取り付け精度の確保のためにコアビット10のボディ11と密着するよう構成されており、更に、接合面に塵埃が入って固定フランジ22、可動フランジ24とコアビット10の相対移動がスムーズでなくなり、なかなか取り外せない場合があり得る。そこで、第2の実施例では傾斜部63hを形成して、スムーズにコアビット10がシャンク部20から離れるように構成した。
【0043】
図8の固定フランジ突起23が123eの位置に、可動フランジ突起25が125eに位置にある場合は、軸方向切り欠き63aの回転方向の幅が広くなっているために、コアビット10をさらに回転させることが可能である。この回転の際には作業者はプッシュリング26を軸方向下方に押しつける必要はなく、ただ単にコアビット10をシャンク部20に対して相対回転させるだけで良い。すると、125eの位置にある可動フランジ突起25は傾斜部63hに当たるため、可動フランジ突起25は傾斜部63hに案内されて斜め上向きに移動する。この状態を示すのが矢印124の最後の部分の移動軌跡である。この際、図5の状態のように可動フランジ24の上面は固定フランジ22の下面にぴったり当接しているため、可動フランジ突起25は傾斜部63hに案内されて斜め上向きに移動することにより固定フランジ突起23も斜め上向きに移動する。この結果、コアビット10がシャンク部20から離れる方向に移動するので、回転させるだけでコアビット10を容易にシャンク部20から離れる方向に移動させることができる。このように、第2の実施例では傾斜部63hを用いて、コアビット10を回転させることによってコアビット10をシャンク部20から離すことができるので、小さい力でコアビット10を取り外すことができる。
【0044】
以上説明したように、第2の実施例においてはコアビット10とシャンク部20を取り外す場合には、プッシュリング26を押し下げながら反時計回りに回動させると可動フランジ突起25が軸方向切り欠き63aの方に移動してコアビット10とシャンク部20のロックを容易に解除されることができる。さらに、コアビット10とシャンク部20のロックが解除された後に、ほんのわずかだけコアビット10を回転させることで、コアビット10をシャンク部20から軸方向に離すように移動させることができるので、コアビット10が取り外しやすくなり、使い勝手の良い動力工具用のコアビット組を実現できる。
【0045】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、上述の実施例では固定フランジ突起23、可動フランジ突起25が係止するコアビット10の部分を、ボディ11に形成した切り欠きで実現したが、切り欠きだけに限られずに、ボディ11の内壁側に、径方向外側に向けて形成される溝によって形成するようにしても良い。また、掛止部分のすべてを溝で形成するのではなく、軸方向切り欠き13aに相当する部分だけを溝として、第1の周方向切り欠き13b、第2の周方向切り欠き13cに相当する部分だけは内壁側から外壁側に貫通する切り欠きや穴などで形成するようにしても良い。このように第1の周方向切り欠き13b、第2の周方向切り欠き13cに相当する部分を貫通穴で形成すれば、固定フランジ突起23と可動フランジ突起25が所定位置までしっかり係止されたかを目視できるので使い勝手の良いコアビット組を実現できる。
【符号の説明】
【0046】
1 コアビット組 10 コアビット
11 ボディ 12 刃部
13 切り欠き部 13a 軸方向切り欠き
13b 第1の周方向切り欠き 13c 第2の周方向切り欠き
20 シャンク部 21 取付軸
21a(取付軸の)下端 22 固定フランジ
22b 鍔部 22c 貫通穴
23 固定フランジ突起 24 可動フランジ
24a 貫通穴 24b、24c 穴
25 可動フランジ突起 26 プッシュリング
26a (プッシュリングの)貫通穴 26b (プッシュリングの)段付部
27 固定ピン 28 圧縮バネ
63 切り欠き部 63a 軸方向切り欠き
63b 第1の周方向切り欠き 63c 第2の周方向切り欠き
63d 上側縁 63e 下側縁
63f 窪み 63g ロック部
63h 傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力工具に取り付けられるシャンク部と、シャンク部に着脱可能に固定される円筒形状のコアビットにより構成されるコアビット組であって、
前記シャンク部は、
動力工具に取り付けるための取付軸と、
前記取付軸に固定され、突起部を有する固定部材と、
前記固定部材に対して軸方向に移動可能に設けられ、突起部を有する可動部材と、
前記可動部材を前記固定部材に対して軸方向に付勢するバネを有し、
前記コアビットは、
円筒形のボディの下端に設けられる刃部と、
前記可動部材の突起部と係合する第1の係合手段と、
前記固定部材の突起部と軸方向に係合する第2の係合手段とを設けたことを特徴とする動力工具用コアビット組。
【請求項2】
前記第1の係合手段及び前記第2の係合手段は、前記ボディに形成された切り欠き又は溝であって、
前記固定部材及び可動部材の突起が案内される切り欠き又は溝の入口部分の周方向位置が同一となるように形成されることを特徴とする請求項1に記載の動力工具用コアビット組。
【請求項3】
前記切り欠き又は溝は、ボディの開口端から軸方向に延びる軸方向部と、軸方向部の途中から周方向に延びる第1の周方向部と、軸方向部の下端から周方向に延びる第2の周方向部から形成され、
前記第2の周方向部の末端には、前記可動部材の突起部を軸方向に微少距離移動させることにより周方向の移動を制限するロック部を設けたことを特徴とする請求項2に記載の動力工具用コアビット組。
【請求項4】
前記固定部材には、前記コアビットの前記ボディの上縁部と接する鍔部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の動力工具用コアビット組。
【請求項5】
前記固定部材の上方に位置し前記可動部材を移動させるプッシュリングを設け、
前記プッシュリングを前記固定部材に形成された穴部を貫通する複数のピンによって前記固定部材の下側に位置する前記可動部材と固定し、
前記バネは前記プッシュリングと前記固定部材の間に介在されることを特徴とする請求項4に記載の動力工具用コアビット組。
【請求項6】
前記固定部材の突起と前記可動部材の突起が同じ角度位置に配置されると共に、一体となって軸方向に回動することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の動力工具用コアビット組。
【請求項7】
円筒状のボディと、
前記ボディの一端に設けられる刃部と、
シャンク部の固定部材と可動部材の突起部にそれぞれ係合することにより、前記ボディを前記シャンク部に固定させる突起係止手段を有し、
前記突起係止手段は前記ボディに形成された切り欠き又は溝であって、
前記切り欠き又は溝は、ボディの開口端から軸方向に延びる軸方向部と、軸方向部の途中から周方向に延びる第1の周方向部と、軸方向部の下端から周方向に延びる第2の周方向部から形成され、
前記第2の周方向部の末端には、前記可動部材の突起部を軸方向に微少距離移動させることにより周方向の移動を制限するロック部を設けたことを特徴とするコアビット。
【請求項8】
前記軸方向部は、入口側に第1の周方向幅を有し、奥側に第1の周方向幅よりも狭い第2の周方向幅を有し、前記第1から第2の周方向幅部の連結部は斜めに切り欠き又は溝が形成されて、前記可動部材の突起が当接することにより前記ボディを回転させると前記コアビットを前記シャンク部から離す方向に移動させる分力を生じさせるように形成したことを特徴とする請求項7に記載のコアビット。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate