説明

動的荷重計測装置

【課題】 本発明は、自動車構造を代表とする衝撃吸収部材の特性評価に必須の動的荷重の計測装置を提供する。
【解決手段】 試験体の動的変形特性を測定する際に、試験体の支持点が二点以上存在する装置において、試験体、押し込み治具、荷重検出部、荷重検出部の支持構造がこの順に配置され、かつ、荷重検出部が円柱状であり、その直径D(mm)と、長さL(mm)の比が、0.3≦L/D≦3を満たし、かつ、(荷重検出部の断面積)<(押し込み治具の断面積)を満たすことを特徴とする動的荷重計測装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車構造を代表とする衝撃吸収部材の特性評価に必須の動的荷重の計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界では、衝突時の乗員への傷害を低減しうる車体構造の開発が急務の課題となっている。このような車体構造は複数の部材から構成されているが、車体の衝突変形挙動を最適化するためには個々の部材あるいはそのいくつかを組み合せた構造の変形特性を知ることが極めて重要である。
【0003】
これまで部材の変形特性は準静的な方法により行われることが多かった。具体的には大型の圧縮試験機等を用いて部材を低速で変形させることにより、その特性評価が行われてきた。
【0004】
しかしながら、実際の衝突変形は高速で変形が起こるものであり、準静的な荷重負荷での挙動とは差がある。特に、自動車で多く使用される薄板構造において重要な座屈は荷重負荷が動的か準静的かによって挙動が異なることが知られている。これに鑑みて動的な変形特性を把握するためには落重試験が行われることが多い。これは固定した部材に対して、上部から落錘を衝突させて動的な変形を起こさせると言うものである。
【0005】
このような手段を用いることにより、変形については実際の衝突時のものに近付くが、実際には部材の衝撃変形時の吸収エネルギーを評価する必要がある。吸収エネルギーの評価には部材の圧潰距離と、その時の圧潰荷重の計測が必要である。動的な試験の場合にはこの圧潰荷重の計測が非常に難しい。一般に通常の準静的な試験で使われるロードセルで動的な荷重を計測しようとする場合、測定中に衝撃弾性波がロードセル中を反射・伝播するため測定荷重にこの伝播に起因した振動が重畳してしまい、真の荷重計測が出来ない。
【0006】
このような動的な荷重の計測方法については、材料の応力−ひずみ関係を計測するための方法としていくつかの提案がなされている。例えば、非特許文献1などにあるように、細長い弾性棒で衝撃弾性波を棒の長手方向に逃がすことにより、試験変形時の荷重のみを計測すること可能にする、いわゆるKolsky法が高速変形の試験法として知られている。しかしながらこの試験法は材料の応力−ひずみ関係を計測するために考案されたものであり、部材の動的試験で必要とされる長い計測時間や大荷重に対応しようとすると試験装置は巨大なものとなり、現実的には試験装置の構成が不可能であり、また実現したとしても精度の維持管理が難しく、精度の高いデータを得るためには深い経験と知識が必要とされる。
【0007】
一方、特許文献1に示されているように、ブロック状の基部の上に突設した小突起部に、基部からの応力波の伝播および透過を遮断するための絶縁手段で構成される衝撃試験装置が開示されている。この装置では基部に比べて小さい小突起部で荷重の計測を行うが、この際小突起部中を伝播する応力波の影響がなく、絶縁手段が基部と外部の応力波の伝播および透過を遮断することにより高ひずみ速度で計測が可能となることが示されている。しかしながら、一般に応力波の伝播を防ぐための絶縁手段の選択は難しく、その具体的な方法は開示されていない。また本発明で対象とする部材のような材料試験片より大きな荷重を発生するものに関しては何ら技術開示がなされていない。
【特許文献1】特開平10−30980号公報
【非特許文献1】SAE TECHNICAL PAPER #960019(1996年10月発行、発行所:Society of Automotive Engineer)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、自動車構造を代表とする衝撃吸収部材の動的な変形特性の測定において、試験体の支持点が二点以上存在するような場合に精度の高い荷重測定を簡便に提供する装置に関するものである。ここに試験体とは単一または複数の部材により構成された構造を言う。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、試験実行時の応力波の伝播特性に注目して検討を行い、測定したい荷重のできるだけ近くに荷重検出部を配置すること、部材から荷重検出部、および荷重検出部を支持する支持構造につながる部分の断面積を適正に配置することにより、比較的簡便な手段で動的な荷重の計測が可能であることを見出した。本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1) 試験体の動的変形特性を測定する際に、試験体の支持点が2点以上存在する装置において、試験体、押し込み治具、荷重検出部、荷重検出部の支持構造がこの順に配置され、かつ、荷重検出部が円柱状であり、その直径D(mm)と、長さL(mm)の比が、0.3≦L/D≦3を満たし、かつ、(荷重検出部の断面積)<(押し込み治具の断面積)、かつ、(荷重検出部の断面積)<(荷重検出部の支持構造の断面積)を満たすことを特徴とする動的荷重計測装置。
(2) 更に、押し込み治具、荷重検出部、荷重検出部の支持構造を一体化したことを特徴とする(1)記載の動的荷重計測装置。
(3)試験体が可動であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の動的荷重計測装置。
(4)一体化した押し込み治具、荷重検出部、荷重検出部の支持構造が可動であることを特徴とする(2)に記載の動的荷重計測装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明に基づいて高精度な動的荷重を計測し、自動車全体設計または部材設計時に信頼性の高い動的変形挙動を提供し、設計にかかる試行錯誤を減らし、かかる時間を短縮することができる。また近年導入が進む衝突シミュレーション結果を本試験装置により得た信頼性の高い実験結果により検証することが容易となり、シミュレーション技術の適用拡大に役立てることができる。また、従来の試験方法に比べて、低コストで試験精度を大幅に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、まずこれまでの高速変形の試験方法を鋭意検討した。その結果、高精度の試験結果が得られるKolsky法と、簡便であるが精度の劣る油圧サーボ方式との違いの一つは荷重計測の位置にあることに思い至った。これを解消するにはまず試験体の近くで荷重計測を行う必要がある。特許文献1に開示される方法においては、荷重計測を試験片近くで行っているが、荷重計測用小突起部の内部での応力波伝播の影響を受けないようにするためには、その大きさを制限する必要があり、従って今回対象としている部材の動的荷重の計測には適さない。また、この方法ではブロック状の基部と外部との間に何らかの絶縁手段が必要であった。
【0012】
通常の変形速度で試験を行う場合は試験速度に比べて試験片および試験機内を伝播する応力波の伝播速度は十分に大きいため、直列につながる荷重伝達経路のどの断面で荷重を測定してもその値は一定となる。しかし今問題にしている動的変形では、応力波の伝播速度が十分大きいとは言えず、応力波の伝播を考慮しなければ正確な荷重計測はできない。通常のロードセルで荷重計測を行うと正規の波形に重畳して振動が観測されるがこれは試験装置内を伝播する応力波の影響である。また三点曲げ試験に代表されるような試験体の支持部が二点以上存在する場合には、どの位置で荷重計測を行うかが重要である。
【0013】
図1に側面衝突変形での代表的な変形形態である曲げに関して、部材の三点曲げ特性を動的に評価する試験装置の模式図を示す。このような試験において曲げ変形時の変形荷重を計測するには二種類の測定位置がある。一つは二箇所の試験体支持構造6の下部に荷重計測装置を設置して計測するものと、もう一つは本発明のように押し込み治具2側で計測するものである。本発明者らの知見では動的な荷重計測をする場合には試験体との接触位置に対して試験体と反対側、つまり図1の場合では試験体支持構造6側で荷重計測を行った方が接触による荷重遥動の影響を避けることができるため望ましい。しかしながら試験体の支持部が二点以上存在し、試験体が曲げ変形を起こす場合には試験の進行とともに試験体支持構造6に軸方向以外の曲げ応力が働くため、計測した荷重計測値が不正なものとなりやすい。そこで本発明では荷重計測を押し込み治具2側で行うこととした。
【0014】
本来であれば荷重が発生する位置の直近で計測を行うことが望ましいが、押し込み治具は用途や目的に応じて様々な形状が選択される。押し込み治具の弾性変形を利用して荷重を計測することも可能であるが、円柱状から離れた形状になると断面内での応力分布が均一でなくなり表面の弾性ひずみを計測しただけでは真の荷重値の計測したことにはならない。そこで本発明では、押し込み治具の後方に荷重検出部を配置し、さらにそれらを固定するための支持構造も用いて、試験体、押し込み治具、荷重検出部、荷重検出部の支持構造の順に配置することとした。
【0015】
さらに動的な荷重計測を高い精度で行うため、本発明者らは荷重検出部3の構造を開発した。動的な試験を行う場合は、試験荷重に重畳する応力波ノイズの原因となる内部での反射・干渉を早期に飽和させることが必要である。そのため、荷重検出部の軸方向長さを短くした。これは応力波が荷重検出部全体を伝播するのに必要な時間を低減するためである。またこのような飽和を起こさせるためには、押し込み治具2、荷重検出部3、荷重検出部の支持構造4の断面積を適正に配置することが重要である。
【0016】
またもう一つの重要な点は荷重検出部とその支持構造の断面積の配置である。本発明者らの鋭意検討の結果、断面積が大の領域から小の領域に進行する場合には、断面積大の領域で応力波の伝播の乱れの影響が非常に大きいが、小から大の領域に進行する場合、小の領域ではその乱れの影響をほとんど受けないということが判明した。荷重検出部においては正確な計測のために伝播してゆく応力波の乱れを避ける必要があり、荷重検出部の断面積は小の領域に属する必要がある。すなわち、荷重検出部の断面積は(荷重検出部の断面積)<(押し込み治具の断面積)、かつ、(荷重検出部の断面積)<(荷重検出部の支持構造の断面積)を満たす必要があることが分かった。
【0017】
また、荷重検出部の形状および寸法も重要である。荷重検出部は円柱状であり、その断面を同じくする部分の長さL(mm)と、直径D(mm)の比L/Dの範囲が0.3以上3以下とする。荷重検出部の形状は、表面に貼付したひずみゲージにより荷重を計測するために、断面内の荷重分布が均一である必要があるため円柱状である必要がある。また、比L/Dが0.3より小さくなると荷重検出部の応力が断面内で不均一となりひずみゲージにより測定した表面ひずみから算出した荷重と実際の荷重の差が大きくなる。また、3より大きくなると前述のように荷重検出部内部での応力波の飽和が起こりにくくなるので、上記の範囲とすることが好ましい。
【0018】
前記(2)に係る本発明では、押し込み治具、荷重検出部と荷重検出部の支持構造を一体化している。これは荷重検出部とその支持構造との間で想定外の応力波の反射が起こることを防止するために一体化するものであり、荷重検出部とその支持構造を一体で製作するか、機械的な固定あるいは溶接することが望ましい。
【0019】
前記(3)に係る本発明では、動的な荷重を与える装置を規定している。つまり、試験体を可動とし、荷重検出を行う装置は試験中に固定されていることとする。そのため例えば図2に示すように、落錘5に試験体1を取り付け、これを落下させることで動的変形特性を測定するものである。これは荷重検出部3を可動にすると荷重計測が荷重検出部を含む構造の振動の影響を受けやすくなるのを防止するためである。
【0020】
前記(4)に係る本発明では、図1に示すように、試験体を可動とすることが出来ない場合に、押し込み治具、荷重検出部、荷重検出部の支持構造を可動とするものである。この際、押し込み治具、荷重検出部、荷重検出部の支持構造は一体化する必要があるが、望ましくは一体で削り出し加工を行った方が良い。ボルト等による接合構造にする場合には十分な締め付け力の得られるボルトを用いて締結することが望ましい。
【0021】
以上の記述は試験装置を構成する各部が同等材質、すなわち弾性率および密度が同程度であることを前提に記述してきたが、各部の材料が異なる場合には断面積だけではなく、音響インピーダンスをあわせて考慮する必要がある。音響インピーダンスは材料の密度と応力波(=弾性波)伝播速度の積であらわされる。従って異種の材料を用いる場合には断面積に関する記述を(断面積)×(密度)×(応力波伝播速度)の値に置換することで本発明を利用することができる。
【0022】
荷重検出部の長さLは200mm以下、望ましくは100mm以下とするのが好ましい。これは応力波の伝播に対してLとDとの比だけでなく、応力波の伝播速度に対するLの長さの絶対値が問題となるからである。またDは想定される最大荷重から決定する。具体的には応力検出部の材料の降伏応力に断面積をかけたものが最大荷重以下となるようにする。望ましくはこの計算値が試験最大荷重の50%以上であれば尚良い。
【実施例1】
【0023】
以下に実例を挙げながら、本発明の技術内容について説明する。図2に使用した装置の模式図を示す。落錘5により動的な試験体1の曲げ圧潰試験を行った。落錘の重量は300kgで落下高さは2mとした。また試験体1の変位として落錘5の変位を下部に設置したレーザー式変位計により計測したものを用いた。落錘5についての条件は同等であるが、比較例として従来型ロードセルを用いた試験も行った。今回は試験体1として板厚2mmの590MPa級鋼板を用いて作製したハット部材を用いた、部材長さは1000mmとした。ハット部と背板はスポット溶接により接合した。図3にハット型部材の断面形状を示す。試験体1は曲げスパン600mmの位置で落錘5に取り付けられた試験体支持構造6により固定した。
【0024】
図4に押し込み治具3、荷重検出部2、荷重検出部の支持構造4からなる動的荷重計測装置の模式図を示す。さらに図5に押し込み治具3の詳細寸法を示す。荷重計測部は円柱状のものを用いたがLとDを変化させて種々の組み合せで試験を行った。その一覧を表1に示す。荷重計測はこの円柱状の荷重検出部の弾性ひずみを用いて行うが、その弾性ひずみを検出する手段としては荷重検出部の軸方向の中央部に貼付したひずみゲージを用いた。これは今回のすべての実験に共通している。
【0025】
【表1】

【0026】
図6にNo.3の条件で試験を行った結果を示す。また同時に比較例として従来型ロードセルを用いた試験結果も示す。従来型ロードセルの値が応力波ノイズを含んで不正確な値となっているのに対して、本発明の荷重計測装置では高精度な計測が可能であった。荷重検出装置の寸法の影響を把握するため、同じ条件で落重試験を行い、種々の荷重計測装置を用いて試験を行った。その結果を表1に示す。No.7に示すようにL/Dが4.0で(1)に係る本発明の上限を越える場合には、測定時間内での荷重検出部の応力波の飽和が十分ではなく、図3に示した従来型ロードセル測定波形に類似した若干の応力波ノイズが見られた。またNo.1のようにL/Dが0.24で(1)に係る本発明の下限を下回る場合、応力波ノイズの問題はないものの、測定しようとする荷重が小さい場合に荷重検出部の断面内で弾性変形が一様でなく、低荷重での測定荷重が実際の荷重よりも小さな値となった。その他の条件では良好な測定を行うことが出来た。またNo.8は荷重検出部の支持部の断面積を小さくして試験を行ったものであるが、測定波形に振動が見られ精度の高い荷重計測は行えなかった。
【実施例2】
【0027】
実施例1と同様に落重試験機を用いて試験を行ったが、図1に示すように試験体1を下部に置き、試験体支持構造6にのせた状態のいわゆる三点曲げ試験を行った。この際、押し込み治具2は落錘5側に取り付け、試験体1に接する側から、押し込み治具2、荷重検出部3、荷重検出部の支持構造4、落錘5のように取り付けた。試験体1は実施例1と同じものを用いた。また曲げのスパンは600mmとした。
【0028】
この際、荷重検出部LおよびDをそれぞれ30mm、50mmとした。また、荷重検出部3の支持構造には200角で厚さ40mmの形状のものを用いた。図7に試験結果を示す。実施例1(図6)に比べると荷重負荷の揺動の影響を受け若干の振動が見られるものの、良好な動的荷重の計測が可能であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】落重試験装置の模式図を示す。
【図2】落重試験装置の模式図を示す。
【図3】実験に用いた部材の断面形状を示す。
【図4】本発明例の荷重計測装置の模式図を示す。
【図5】実験に用いた押し込み治具の形状を示す。
【図6】本発明例と比較例による測定結果を示す。
【図7】本発明例による測定結果を示す。
【符号の説明】
【0030】
1 試験体
2 押し込み治具
3 荷重検出部
4 荷重検出部の支持構造
5 落錘
6 試験体支持構造
7 変位計
8 ひずみゲージ貼付位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体の動的変形特性を測定する際に、試験体の支持点が2点以上存在する装置において、試験体、押し込み治具、荷重検出部、荷重検出部の支持構造がこの順に配置され、かつ、荷重検出部が円柱状であり、その直径D(mm)と、長さL(mm)の比が、0.3≦L/D≦3を満たし、かつ、(荷重検出部の断面積)<(押し込み治具の断面積)、かつ、(荷重検出部の断面積)<(荷重検出部の支持構造の断面積)を満たすことを特徴とする動的荷重計測装置。
【請求項2】
更に、押し込み治具、荷重検出部、荷重検出部の支持構造を一体化したことを特徴とする請求項1記載の動的荷重計測装置。
【請求項3】
試験体が可動であることを特徴とする請求項1又は2に記載の動的荷重計測装置。
【請求項4】
一体化した押し込み治具、荷重検出部、荷重検出部の支持構造が可動であることを特徴とする請求項2に記載の動的荷重計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−284515(P2006−284515A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−108180(P2005−108180)
【出願日】平成17年4月5日(2005.4.5)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】