説明

化合物、有機機能性材料及び有機機能性素子

【課題】 高い機能性能を維持すると共に、耐熱性や安定性に優れた化合物を提供する。
【解決手段】 下記一般式(1)で表されることを特徴とする化合物。


(一般式(1)中、Z1,Z2及びZ3は芳香族基を、Lは2価のπ共役基又は単結合を、Y1は2価の有機基を示す。尚、Z1,Z2及びZ3で示される芳香族基並びにLで表される2価のπ共役基は、何れか2以上が結合し縮合環を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コピー機、プリンター、電子ペーパー等に利用できる有機電子写真感光体;電子表示板、ディスプレー等に利用できる有機電界発光素子;光情報通信、光情報処理等において有用な光変調器、光スイッチ、光集積回路、光コンピューター、光メモリー、波長変換素子、フォログラフ素子等に利用できる有機非線形光学素子;等の光及び/又は電気に関する機能を発揮する有機機能性素子に関する。またさらには、該有機機能性素子を形成するキー(Key)材料である有機機能性材料、及び該有機機能性材料等として好適に用いることができる化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
光を用いる光情報通信、光情報処理、イメージング等の分野において重要な波長変換素子、光変調器、光スイッチ、等の機能性素子の多くは非線形光学材料、特に二次非線形光学材料を用いることによって具現化される。二次非線形光学材料としてはこれまでにニオブ酸リチウム、燐酸二水素カリウム等の無機非線形光学材料が既に実用化され、広く用いられているが、近年、これらの無機材料に対し、高い非線形光学性能、安価な材料並びに製造コスト、高い量産性、等の優位性を有する有機非線形光学材料が注目され、実用化に向けての活発な研究開発が行われている。
【0003】
二次非線形光学効果は、原理的に系に対称中心が存在しないことが必須要件であり、非線形光学活性を有する有機化合物を対称中心の存在しない結晶構造に結晶化させた系(結晶系)、と非線形光学活性を有する有機化合物を高分子バインダーに含有又は結合させ、該非線形光学活性有機化合物を何らかの手段によって配向させた系(高分子系)に大別される。結晶系有機非線形光学材料は、非常に高い非線形光学性能を発揮し得ることが知られているが、結晶構造の人為的な制御は現状では不可能に近く対称中心の存在しない結晶構造が得られことは稀であり、たとえ得られたとしても素子化に必要な大きな有機結晶を作製することは困難である。また有機結晶の強度は非常に脆く素子化工程で破損してしまう等の問題がある。これに対し、高分子系有機非線形光学材料は、バインダー高分子により、素子化するに当って有用な成膜性、機械的強度等の好ましい特性が付与され、実用化に向けてのポテンシャルが高く有望視されている。
【0004】
高分子系有機非線形光学材料では、高分子バインダー中に非線形光学活性有機化合物が凝集せずに均一に分散又は結合され、光学的に均質透明となることが要求される。さらに、前記の通り二次の非線形光学効果を発現するには、非線形光学活性有機化合物を何らかの手段によって配向させ異方性を付与しなければならず、また機能性素子に利用するに当ってはその配向状態が素子の置かれる温湿度環境にあって長期間に亘って安定に保持されなければならない。
【0005】
したがって、高分子系有機非線形光学材料に用いる非線形光学活性有機化合物としては、高い非線形光学性能に加えて、凝集性が低く、バインダー高分子との相溶性に優れることが要求される。また、高分子系有機非線形光学材料は一般に薄膜の形態にて素子化され、該薄膜の形成法としては湿式塗布法が好適に用いられるため、高分子系有機非線形光学材料に用いる非線形光学活性有機化合物としては、塗布溶剤への高い溶解性が要求される。一方、バインダー高分子としては、高い成膜性、機械的強度等に加え、内包する非線形光学活性有機化合物の配向状態を安定に保持するための高いガラス転移温度が要求される。
【0006】
高分子系有機非線形光学材料において二次の非線形光学活性を生起させるには、上述の様に非線形光学活性有機化合物を配向させる必要がある。該配向法としては、一般に電界ポーリング法が用いられる。電界ポーリング法は、非線形光学材料に電界を印加し、非線形光学活性化合物の双極子モーメントと印加電界とのクーロン力によって、非線形光学活性化合物を印加電界方向に配向させる配向法であり、一般に、電界印加に加え、ガラス転移温度付近の温度にまで加熱することによって非線形光学活性化合物の分子運動を促進させる。
【0007】
前記非線形光学活性有機化合物としては、π共役鎖の一方の端に電子供与性基、他方の端に電子吸引性基を有する所謂、プッシュ−プル型のπ共役系化合物が有効であることが知られている。例えば、π共役鎖としてのジアゾベンゼン構造の4位に電子供与性基としてのN−エチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アミノ基、4’位に電子吸引性基としてニトロ基を有するDR1(Disperse Red 1)が、代表的な非線形光学活性有機化合物としてよく知られている。しかしながら、DR1は通常の高分子バインダーとの相溶性が低い、昇華し易く乾燥時や電界ポーリング時の加熱に伴い消失してしまう、ジアルキルアミノ基が酸化され変質してしまう、非線形光学性能が低い等の問題がある。これらの問題を解決するために、これまでに種々の非線形光学活性有機化合物が開発されてきたが、未だに全てを同時に満足するものは見出されていない。特に、高い非線形光学性能と高いバインダー相溶性の両立が困難である。すなわち、プッシュ−プル型のπ共役系化合物においては、一般に、π共役鎖を長くする、電子吸引性基の電子吸引能を強くする、電子供与性基の電子供与能を強くする等によって非線形光学性能が向上することが知られているが、これらは同時に凝集性の増加を伴い高分子バインダーとの相溶性の低下を齎す。
【0008】
また、非常に高い非線形光学性能を示す化合物として下記構造の化合物が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、非線形光学性能には優れるものの、凝集性が非常に高く結晶の析出を抑えて高分子バインダー中に分子分散させた膜を得ることが非常に困難である。また、塗布溶剤として沸点の低いハロゲン系の溶剤を用いる必要があることが知られており、ハロゲン系の溶剤は大気環境への悪影響が大きいため実用化に当っては好ましくない。
【0009】
【化1】

【0010】
一方、前記バインダー高分子としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が最もよく検討されてきたが、PMMAのガラス転移温度は100℃程度と低く、PMMAをバインダー高分子として用いた高分子系有機非線形光学材料の配向状態は室温でも徐々に緩和し、非線形光学性能が経時で著しく低下してしまい機能性素子としての実用化には耐えないことが知られている(例えば、非特許文献2参照)。この問題を解決するためにPMMAに代わるバインダー高分子の探索が活発に行われ、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリスルフォン(例えば、特許文献1参照)、ポリ環状オレフィン等のPMMAよりもガラス転移温度の高い高分子の有効性が報告されている。しかし、これらの高いガラス転移温度を有するバインダー高分子を用いると、電界ポーリング時に必要となる加熱温度も上がることになり、前記DR1等の非線形光学活性有機化合物の場合、昇華により消失してしまったり、酸化されてしまったりするという問題があった。また、これらの高いガラス転移温度を有するバインダー高分子とDR1等の非線形光学活性有機化合物との相溶性は必ずしもよくなく、非線形光学性能を高めるために非線形光学活性有機化合物を高濃度で添加するとそれらが凝集化或いは結晶化してしまうという問題や、また低濃度であっても加熱や経時により凝集化或いは結晶化が起こってしまうという問題があった。
【0011】
上述したような、高分子系有機非線形光学材料における高い機能性(非線形光学材料においては非線形光学性能)と高い相溶性との両立と云う課題は、一般に、機能性有機化合物を高分子バインダーに含有させてなる有機機能性材料に共通する課題である。
【非特許文献1】ケミストリー オブ マテリアルズ(Chemistry of Materials)、2001年、13巻、3043〜3050頁
【非特許文献2】ケミカル レビューズ(Chemical Reviews)、1994年、94巻、1号、31〜75頁
【特許文献1】特開平6−202177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、以上のような従来技術の問題を解決することを目的とする。即ち、本発明の目的は、高い機能性能を維持すると共に、耐熱性や安定性に優れた化合物、高い機能性能を維持すると共に、優れた安定性を有する有機機能性材料、並びに該有機機能性材料を用いた有機機能性素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、前記の課題を解決すべく、機能性有機化合物並びにバインダー高分子に関して鋭意検討を行った結果、新規な機能性有機化合物を活用することにより、前記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題は以下の本発明により解決される。
<1> 下記一般式(1)で表されることを特徴とする化合物である。
【0014】
【化2】

【0015】
(一般式(1)中、Z1,Z2及びZ3は芳香族基を、Lは2価のπ共役基又は単結合を、Y1は2価の有機基を示す。尚、Z1,Z2及びZ3で示される芳香族基並びにLで表される2価のπ共役基は、何れか2以上が結合し縮合環を形成してもよい。)
【0016】
<2> 下記一般式(2)で表されることを特徴とする前記<1>に記載の化合物である。
【0017】
【化3】

【0018】
(一般式(2)中、Z1,Z2及びZ3は芳香族基を、Lは2価のπ共役基又は単結合を、Y2は2価の有機基又は単結合を、R1及びR2は有機基を示す。また、n及びmは、それぞれ0から3の整数を示す。尚、Z1,Z2及びZ3で示される芳香族基並びにLで表される2価のπ共役基は、何れか2以上が結合し縮合環を形成してもよく、また、R1及びR2で表される有機基は、R1とR2、R1同士又はR2同士が結合して環構造を形成してもよい。)
【0019】
<3> 有機機能性化合物として前記<1>又は<2>に記載の化合物を含有することを特徴とする有機機能性材料である。
【0020】
<4> 前記有機機能性化合物が高分子バインダーに分散又は結合して成ることを特徴とする前記<3>に記載の有機機能性材料である。
【0021】
<5> 前記高分子バインダーが、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアリレート及びポリ環状オレフィンから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする前記<4>に記載の有機機能性材料である。
【0022】
<6> 前記<3>〜<5>の何れか1項に記載の有機機能性材料を塗布したことを特徴とする有機機能性素子である。
【0023】
<7> 非線形光学機能によって動作することを特徴とする前記<6>に記載の有機機能性素子である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、高い機能性能を維持すると共に、耐熱性や安定性に優れた化合物、高い機能性能を維持すると共に、優れた安定性を有する有機機能性材料、並びに該有機機能性材料を用いた有機機能性素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
<有機機能性化合物>
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする。
該化合物は高い機能性能を有する有機機能性化合物であり、その機能性能としては、両極性電荷輸送機能、光電荷発生機能等の光電機能;フォトルミネッセンス機能、エレクトロルミネッセンス機能等の発光機能;高調波発生機能、電気光学機能、フォトリフラクティブ機能等の非線形光学機能;等を挙げることができる。
【0026】
【化4】

【0027】
(一般式(1)中、Z1,Z2及びZ3は芳香族基を、Lは2価のπ共役基又は単結合を、Y1は2価の有機基を示す。尚、Z1,Z2及びZ3で示される芳香族基並びにLで表される2価のπ共役基は、何れか2以上が結合し縮合環を形成してもよい。)
【0028】
電子供与性基の一種である置換又は無置換のトリアリールアミン構造を有する有機機能性化合物は、相当するジアルキルアミン構造を有する有機機能性材料に比して高い熱安定性を有することが知られている(詳しくは、「米国化学会誌」、1993年、115巻、12599〜12600頁に記載されている。)。また、一般式(1)で表される化合物の電子吸引性基と同様の構造を持つ3,5,3’,5’−テトラアルキルジフェノキノン誘導体電子吸引性化合物は、強い電子吸引性と高いバインダー相溶性を有し、高分子バインダーに分散することによって優れた電子輸送材料として機能することが知られている(詳しくは、「Chemistry of Materials」、1991年、3巻、709〜714頁に記載されている)。
本発明者等は、4−シアノ−5−ジシアノビニリデニル−2,5−ジヒドロフラン−3−イル基誘導体の強い電子吸引性と高いバインダー相溶性、及びトリアリールアミン誘導体の高い熱安定性に注目し、それらをプッシュ−プル型π共役系化合物の電子吸引性基並びに電子供与性基として用いることによって、耐熱性、耐酸化性、耐光性、耐昇華性、溶解性、合成の容易さ等の点で好ましい機能が発現し、有機機能性材料として好適に用いられる化合物であることを見出した。
【0029】
ここで、前記一般式(1)で表される化合物について説明する。
一般式(1)中、Z1及びZ2は1価の、Z3は2価の芳香族基である。該芳香族基としては特に限定されるわけではないが、5〜7員環のもの、更には6員環のものが好ましく、窒素、酸素、イオウ等のヘテロ原子を含んでいてもよく、複数の芳香環が縮環した構造を有していてもよい。さらにはZ1、Z2及びZ3が直接もしくは適当な連結基を介して結合していてもよい。
また、前記芳香族基は置換基を有していてもよく、Z1及びZ2はメチル基よりもバルキーな置換基を有していることが好ましい。該置換基としては、例えば、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、アダマンチル基、メトキシ基、フェノキシ基等が挙げられる。
【0030】
前記1価の(置換)芳香族基の具体例としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基、チオフェン−2−イル基、チオフェン−3−イル基、アズレン−1−イル基、ピロール−2−イル基、ピロール−3−イル基等が挙げられ、中でもフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、チオフェン−2−イル基、チオフェン−3−イル基が好ましく、特に合成が容易で、かつ電子密度が高く安定性の高い原子団であるという観点から、フェニル基、チオフェン−2−イル基が好ましい。
【0031】
また、前記2価の(置換)芳香族基の具体例としては、例えば、1,4−フェニレン基、1,3−ナフタレニル基、1,4−ナフタレニル基、2,6−ナフタレニル基、2,7−ナフタレニル基、2,5−チエニル基、2,5−ピリジニル基、2,5−ピリミジル基、9,10−アントラセニル基等が挙げられ、中でも、1,4−フェニレン基、1,4−ナフタレニル基、2,5−チエニル基が好ましく、特に合成が容易で、かつ電子密度が高く安定性の高い原子団であるという観点から、無置換の1,4−フェニレン基、置換もしくは3、4位に置換基を有する2,5−チエニル基が好ましい。
【0032】
また、Z1,Z2及びZ3で示される芳香族基は、何れか2以上が結合し縮合環を形成してもよく、該縮合環の例としては、Z1とZ2が互いに窒素原子に対してオルト位で結合しカルバゾール構造を形成しているもの等が挙げられる。
【0033】
上記一般式(1)中、Lは2価のπ共役基又は単結合である。また、Z1、Z2及びZ3のいずれかと直接もしくは適当な連結基を介して結合し、縮合環を形成していてもよい。
前記π共役基は、環構造に含まれるか、環構造に直結するか、若しくは環構造に隣接するπ共役基であることが好ましく、さらにはtrans−ビニレン構造、trans−ビニレン−p−フェニレン−trans−ビニレン構造、アセチレン結合を有するエチニル構造、エチニル−p−フェニレン−エチニル構造、trans−アゾ−構造、trans−アゾ−p−フェニレン―trans―アゾ構造もしくはこれらを累積させた構造であることがより好ましい。尚、Lの長さを調整することにより非線形光学性能等の機能性能をより向上させることができる。一般にはLの長さが長いほど機能性能は大きくなる。一方でLが長くなると溶解性、相溶性は低下し、加工性が損なわれる。加えて、合成の容易さに起因する経済性も、Lが長くなると大きく低下する。耐熱性、耐久性についてはLの長さと一次的相関関係はないが、Lが極端に長い場合には低下する。その観点から特にLとしては、trans−ビニレン構造、trans−ビニレン−p−フェニレン−trans−ビニレン構造が好ましい。
【0034】
上記一般式(1)中、Y1は2価の有機基である。前記Y1を含んで形成される環構造は、特に限定されるわけではないが5又は6員環であることが好ましく、またその環構造中にヘテロ原子を含んでいてもよい。該へテロ原子としては、−NH−、−O−、−S−、−S(=O)2−、−SO−、−PO2−等が挙げられ、中でも−NH−、−O−、−S−が好ましい。更に、Y1を含んで形成される環構造はさらに環が縮合した縮合環の形状であってもかまわない。
【0035】
また、本発明における有機機能性化合物としては、前記一般式(1)で表される化合物の中でも、下記一般式(2)で表される化合物が、合成が容易で耐熱性、バインダーとの相溶性に優れるという観点から、より好ましく用いられる。
【0036】
【化5】

【0037】
(一般式(2)中、Z1,Z2及びZ3は芳香族基を、Lは2価のπ共役基又は単結合を、Y2は2価の有機基又は単結合を、R1及びR2は有機基を示す。また、n及びmは、それぞれ0から3の整数を示す。尚、Z1,Z2及びZ3で示される芳香族基並びにLで表される2価のπ共役基は、何れか2以上が結合し縮合環を形成してもよく、また、R1及びR2で表される有機基は、R1とR2、R1同士又はR2同士が結合して環構造を形成してもよい。)
【0038】
一般式(2)中、Z1、Z2、Z3及びLは一般式(1)と同様である。
【0039】
一般式(2)中、R1及びR2は有機基であり、特に脂肪族性置換基であることが好ましい。n又はmが2以上である場合、複数のR1又は複数のR2は、それぞれ同一であっても異なったものでもよい。さらにはR1とR2、R1同士又はR2同士が結合して環構造を形成してもよい。n、mは同一環に対する基の結合数を示し0から3の数を表す。
【0040】
前記脂肪属性置換基としては、置換または無置換の、アルキル基、アルキルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニル基、アルキニル基や、置換または無置換のアミノ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。
前記アルキル基、アルキルオキシ基、アルキルチオ基、アルケニル基、アルキニル基や、置換または無置換のアミノ基としては、直鎖状、分枝状の何れであってもよく、また特に限定されるわけではないが、炭素数は1〜18、更には1〜8であることが好ましい。
【0041】
また、R1とR2、R1同士又はR2同士が結合して環構造を形成してもよい。
また、一般式(2)中、n及びmは、多置換体の場合、立体障害により原料合成反応が進行しづらくなることがあるため、それぞれ0〜1であることがより好ましい。
【0042】
上記一般式(2)中、Y2は2価の有機基又は単結合である。尚、前記Y2を含んで形成される環構造は、特に限定されるわけではないが5又は6員環であることが好ましい。
前記2価の有機基としては、−CH2−、−NH−、−O−、−S−、−S(=O)2−、−SO−、−PO2−等が挙げられ、中でも−CH2−、−NH−、−O−、−S−が好ましい。
【0043】
前記一般式(1)及び一般式(2)で表される化合物の具体例としては、下記のものが例示できる。尚、下記構造式は簡単化のため平面的に、且つ構造異性に関しては一つのケースで、光学異性体については無視して標記しているが、実際には立体的な構造を有し、且つ構造異性、光学異性体並びにこれらの組み合わせに関しては取り得るいずれの構造でも構わない。
【0044】
【化6】

【0045】
【化7】

【0046】
また、前記一般式(1)においてZ1からZ3の全て又は何れかがヘテロ原子を含む芳香環(例えば、ピリジン環、チオフェン環)、縮合環(例えば、ナフタレン環、ピレン環)となっているものや、Z1とZ2が縮環してカルバゾール構造、キサンテン構造となっているものも、好適な例として挙げることができる。
【0047】
上記一般式(1)及び(2)で表される化合物の合成方法としては、任意の如何なる方法も利用可能である。例えば、L部が単独二重結合の場合この形成には、下記に示すような、対応するホルミル化合物と対応する電子吸引性基に隣接したメチル基を有する化合物を塩基の存在下にて脱水縮合させる方法が有用である。対応するホルミル化合物の合成方法としては、Vilsmeier法等のホルミル化法等が利用できる。対応する電子吸引性基に隣接したメチル基を有する化合物の合成方法としては、上述の「Chemistry of Materials」、1991年、3巻、709〜714頁;米国特許第4968811号等に記載の方法が利用できる。
【0048】
【化8】

【0049】
【化9】

【0050】
尚、トリアリールアミン部の形成反応としては、ウルマン(Ulmann)カップリング、スズキ(Suzuki)反応、ヘック(Heck)反応、ウィティッヒ(Witig)反応等の既知の反応を用いることができる。
ジヒドロフラニル部の形成については例えば「Chemistry of Materials」、2002年、14巻、2393〜2400頁に開示されている方法もしくはそこに記載されている参考文献記載の方法により合成できる。
【0051】
後述の本発明の有機機能性材料において、有機機能性化合物の含有量は、用いる有機機能性化合物の種類、要求される機能性能や機械的強度、等によって異なるため一概には規定できないが、一般的に、有機非線形光学材料として用いる場合などにおいては、全質量に占める割合として、1〜90質量%の範囲内であることが好ましい。その理由は、1質量%未満では、十分な機能性能が得られない場合が多く、また90質量%を超えると、十分な機械的強度が得られない等の問題が発生する傾向にあるためである。有機機能性化合物の含有量のより好ましい範囲は10〜75質量%であり、さらに好ましくは25〜60質量%である。
【0052】
<有機機能性材料>
本発明の有機機能性材料は、有機機能性化合物として前記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする。本発明の有機機能性材料は、高い機能性能を有するだけでなく、有機機能性化合物として用いる一般式(1)で表される化合物自体の耐熱性や安定性が高いことや、一般式(1)で表される化合物が高分子バインダーとの相溶性が高く均質な膜とすることができることから、耐熱性や経時安定性等の優れた安定性を有する。
(バインダー高分子)
本発明の有機機能性材料は、前記有機機能性化合物を含有することを特徴とし、有機機能性化合物単独の単結晶、多結晶、アモルファス固体として利用してもよいが、一般に素子化するにあたっての成膜性や機械的強度等の要請から、有機機能性化合物を高分子バインダーに分散又は結合した複合材料として用いることが好ましい。
【0053】
本発明に用いるバインダー高分子は、光学品質並びに成膜性に優れるものであれば如何なるものでも構わないが、ガラス転移温度が100℃以上であるものが好ましい。特に好ましくは、ガラス転移温度が140℃以上であり、且つ機械的強度の高いのものであり、具体的にはポリイミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリ環状オレフィンが挙げられ、中でも特にポリカーボネート、ポリアリレートが好ましい。前記一般式(1)で表される機能性有機化合物はこれらの高分子バインダーと高い相溶性を示す。
【0054】
上記の有機機能性化合物はバインダー高分子中に微結晶状態又は分子状態にて分散された状態にて有機機能性材料として供されるが、光に関する機能を活用する素子に応用するに当たっては分子状態にて分散することが、透明性等の光学品質の点で好ましい。また、上記の有機機能性化合物をバインダー高分子の側鎖又は主鎖中に化学的に連結させてもよい。
【0055】
(他の添加剤)
本発明の有機機能性材料には、前記の有機機能性化合物とバインダー高分子の他に、必要に応じ種々の添加物を加えることができる。例えば、有機機能性化合物及び/又はバインダー高分子の酸化劣化を抑制する目的で2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ヒドロキノン等の公知の酸化防止剤を、有機機能性化合物及び/又はバインダー高分子の紫外線劣化を抑制する目的で2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等の公知の紫外線吸収剤を、また、湿式塗布法を用いる場合には、その塗布液に、塗布膜の表面平滑性を改善する目的でシリコーンオイル等の公知のレベリング剤を、或いは架橋硬化性官能基を有する有機機能性化合物及び/又はバインダー高分子を用いる場合には、その架橋硬化を促進させる目的で公知の硬化触媒や硬化助剤を添加してもよい。
【0056】
(薄膜の形成方法)
本発明の有機機能性材料の形態は、如何なるものでも構わないが、非線形光学素子への応用に当っては薄膜の形態にて利用されることが一般的である。本発明の有機機能性材料を含有する薄膜の作製方法としては、射出成形法、プレス成形法、ソフトリソグラフ法、湿式塗布法等の公知の手法が利用可能であるが、製造装置の簡便性、量産性、膜品質(膜厚の均一性、気泡等の欠陥の少なさ等)、等の観点から、少なくとも上記の有機機能性材料とバインダー高分子とを有機溶剤に溶解させた溶液をスピンコート法、ブレードコート法、浸漬塗布法、インクジェット法、スプレー法等の手法により適当な基板上に塗布することによって成膜する湿式塗布法が好ましい。
【0057】
湿式塗布法において用いる有機溶剤は、用いる有機機能性化合物とバインダー高分子とを溶解し得るものであれば如何なるものでも構わないが、その沸点が100〜200℃の範囲内にあるものが好ましい。沸点が100℃未満の有機溶剤を用いると、塗布溶液の保管時に溶剤揮発が起こり塗布溶液の粘度が変化(上昇)してしまう、塗布時に溶剤の揮発速度が早過ぎ結露が発生してしまう、等の問題が顕著となる傾向にある。一方、沸点が200℃を超える有機溶剤を用いると、塗布後の溶剤除去が困難になり残存した有機溶剤が高分子バインダーの可塑剤として働きガラス転移温度の低下を齎す、等の問題が発生する場合がある。好ましい有機溶剤の例としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、トルエン、クロロベンゼン、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、等が挙げられる。尚、これらの有機溶剤は単独で用いても、複数を混合して用いてもよい。尚、これらの好ましい有機溶剤に沸点が100℃未満のテトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルエチルケトン、イソプロパノール等の有機溶剤を添加した混合溶剤も利用可能である。
【0058】
(配向法)
高分子系有機非線形光学材料において二次の非線形光学活性を生起させるには、前述の様に非線形光学活性有機化合物を配向させる必要がある。該配向法としては、高分子系有機非線形光学材料を、表面に配向膜を有する基板上に塗布し、該基板配向膜の配向性により、高分子系有機非線形光学材料中の非線形光学活性有機化合物の配向を誘起する方法がある。また、光ポーリング法、光アシスト電界ポーリング法、電界ポーリング法等の公知のポーリング法も有効に利用できる。これらの中でも、電界ポーリング法は、装置の簡便性、得られる配向度合いの高さ、等の点で特に好ましい。
【0059】
電界ポーリング法は、非線形光学材料を一対の電極で挟み電界を印加するコンタクトポーリング法と、基板電極上の非線形光学材料の表面にコロナ放電を施し、帯電電界を印加するコロナポーリング法に大別される。電界ポーリング法は、非線形光学活性化合物の双極子モーメントと印加電界とのクーロン力によって、非線形光学活性化合物を印加電界方向に配向させる配向法である。電界ポーリング法においては、一般的に、電界を印加した状態で、非線形光学材料のガラス転移温度付近の温度に加熱することによって非線形光学活性化合物の電界方向への配向移動を促進させ十分な配向が誘起された後、電界を印加した状態のまま室温まで冷却し該配向状態を凍結した上で、印加電界を除去する。しかしながら、この配向状態は基本的に熱力学的非平衡状態であるため、ガラス転移温度以下の温度であっても経時にて徐々にランダム化し、非線形光学性能が低下してしまうという根本的な問題を抱えている。経時による配向状態のランダム化は、非線形光学材料の置かれる環境温度とガラス転移温度の差が大きい程、緩やかに進行するため、ガラス転移温度の高いバインダー樹脂を用いることによって実際の使用においては実質的にこの問題を解決することができる。
【0060】
<有機機能性素子>
本発明の有機機能性素子は、本発明の有機機能性材料の持つ機能を活用することを特徴とし、その具体例としては、電荷輸送機能及び/又は電荷発生機能を活用する有機電子写真感光体;電荷輸送機能及び/又はエレクトロルミネッセンス機能を活用する電界発光素子;フォトルミネッセンス機能を活用するレーザー素子又は光増幅素子;高調波発生機能、電気光学機能、フォトリフラクティブ機能等の非線形光学機能を活用する非線形光学素子等が挙げられる。本発明の有機機能性材料は特に優れた非線形光学性能を有することから、本発明の有機機能性素子としては、非線形光学機能を有する本発明の有機機能性材料を用いた有機非線形光学素子が特に好ましい。
【0061】
有機非線形光学素子としては、非線形光学効果に基き動作するものであれば如何なるものでもよく、その具体例としては、例えば、高調波発生素子、波長変換素子、フォトリフラクティブ素子、電気光学素子、等が挙げられる。特に好ましくは、電気光学素効果に基き動作する光スイッチ、光変調器、位相シフト器等の電気光学素子である。
【0062】
電気光学素子は、非線形光学材料を基板上に導波路構造にて形成し、入力電気シグナル用の電極対で挟み込む構成とした素子として利用することが好ましい。
【0063】
このような基板を構成する材料としては、アルミニウム、金、鉄、ニッケル、クロム、チタン等の金属;シリコン、ガリウム−ヒ素、インジウム−燐、酸化チタン、酸化亜鉛等の半導体;ガラス等のセラミックス;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリイミド等のプラスチック;等を用いることができる。
【0064】
これらの基板材料の表面には、導電性膜が形成されていてもよく、該導電性膜の材料としては、アルミニウム、金、ニッケル、クロム、チタン等の金属;酸化スズ、酸化インジウム、ITO(酸化スズ−酸化インジウム複合酸化物)等の導電性酸化物;ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリアセチレン等の導電性高分子等が用いられる。これらの導電性膜は、蒸着、スパッタリング等の公知の乾式成膜法や、スプレー塗布法、浸漬塗布法、電解析出法等の公知の湿式成膜法を利用して形成され、必要に応じてパターンが形成されていてもよい。尚、導電性基板、或いは、上記したように基板上に形成された導電性膜は、ポーリング時や素子としての動作時の電極(以下、「下部電極」ということがある)として利用される。
【0065】
基板上にはさらに、必要に応じて、その上に形成される膜と基板との接着性を向上させるための接着層、基板表面の凹凸を平滑化するためのレベリング層、或いはこれらの機能を一括して提供する何らかの中間層が形成されていてもよい。このような膜を形成する材料としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ビニルアルコール樹脂、アセタール樹脂等及びそれらの共重合物;ジルコニウムキレート化合物、チタンキレート化合物、シランカップリング剤等の架橋物及びそれらの共架橋物;等の公知のものを用いることができる。
【0066】
本発明の電気光学素子は、導波路構造を含むものとして形成することが好ましく、本発明の非線形光学材料を、導波路のコア層に含有させることが特に好ましい。
【0067】
本発明の非線形光学材料を含有するコア層と基板との間にはクラッド層(以下、「下部クラッド層」ということがある)が形成されていてもよい。この下部クラッド層としては、コア層よりも屈折率が低く、コア層形成の際に侵されないものであれば如何なるものでもよい。このようなものとして、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系等のUV硬化性或いは熱硬化性の樹脂;ポリイミド;SiO2等が好ましく使用される。
【0068】
本発明の非線形光学材料によるコア層を形成した後、さらにその上部にクラッド層(以下、「上部クラッド層」ということがある)を下部クラッド層と同様にして形成してもよい。これにより、基板/下部クラッド層/コア層/上部クラッド層、という構成のスラブ型導波路が形成される。
また、コア層を形成した後、反応性イオンエッチング(RIE)、フォトリソグラフィー、電子線リソグラフィー等の半導体プロセス技術を用いた公知の方法によりコア層をパターニングし、チャネル型導波路或いはリッジ型導波路を形成することもできる。或いは、コア層の一部にUV光、電子線等をパターン化して照射することにより、照射部分の屈折率を変化させてチャネル型又はリッジ型導波路を形成することもできる。
【0069】
上部クラッド層の表面に入力電気シグナルを印加するための電極(以下、「上部電極」ということがある)を、前記上部クラッド層の所望の領域に形成することで基本的な電気光学素子を形成することができる。
上記のようにしてチャネル型導波路やリッジ型導波路を形成する際、コア層のパターンとしては、直線型、Y分岐型、方向性結合器型、Mach−Zender型等の公知のデバイス構造を構成することができ、光スイッチ、光変調器、位相シフト器等の公知の光情報通信用デバイスへの適用が可能である。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はそれらによって制限されるものではない。尚、実施例中においては特に断りのない限り、「部」は「質量部」をあらわす。
【0071】
(実施例1)
−有機機能性化合物の製造−
以下の方法によって下記化合物(A)を製造した。
攪拌装置、冷却管を装備したフラスコに、p−[N,N−ジ(3−メトキシフェニル)アミノ]−ベンズアルデヒド2.85g(0.01mol)、1−オキサ−2−ジシアノベンジリデン−3−シアノ−4−メチル−6,8−ジベンゾ−スピロ−[4,4]−ノナン−3−エン3.21gをとり、ここにあらかじめ10mlあたり5mgの水酸化ナトリウムを溶解させたエタノール40mlを加え、4時間加熱還流した。次にエタノールを留去し、生成した固体を、n−ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒(混合比容積比にて2:1)を流出溶媒とするシリカゲルカラムにて精製し目的物3.5gを得た。収率は59%であった。この反応スキームを以下に示す。
【0072】
【化10】

【0073】
尚、得られた化合物(A)をNMRスペクトルによって同定したデータを、図1に示す。
(δ=5.58−7.77:m,23.2H(理論値 22.0H)、δ=3.71:s,6.0H(理論値 6.0H))
【0074】
−非線形光学材料としての評価−
表面に金製の平行電極対(電極間距離=20μm)が備えられたガラス基板上に、前記化合物(A)3部と、ポリカーボネート(バインダー高分子)の1種であるPoly[Bisphenol A carbonate−co−4,4'−(3,3,5−trimethylcyclohexylidene)diphenol carbonate](Aldrich社製、ガラス転移温度200℃)7部とをテトラヒドロフラン(沸点66℃)90部に溶解させた溶液をスピンコート法により塗布し、室温にて3時間、100℃にて3時間乾燥させ膜厚0.1μmの薄膜を得た。
【0075】
次に、前記電極間に50V/μmの電界を印加した状態で、前記薄膜を170℃15min保持し、その状態から電界を印加したまま室温まで冷却し電界を除去して、電界ポーリングを施した。
このようにして電界ポーリングを施した本発明の有機非線形光学材料からなる薄膜に、1550nmの発振波長を持つ半導体レーザー光を照射したところ、775nmの二次高調波の発生が観測でき、非線形光学材料として有効に機能することが確認できた。さらに、本非線形光学材料を65℃の高温環境に10日間保持した後に、再度レーザー光を照射したところ、保持前と同等の強度を有する二次高調波の発生が確認でき、本非線形光学材料が高い耐熱性並びに経時安定性を有することが確認できた。
尚、本薄膜を光学顕微鏡にて観察したところ、化合物(A)の偏析等は認められず、化合物(A)がポリカーボネート中に均質に分散されているクリアな膜であることが確認できた。
【0076】
(比較例1)
実施例1における非線形光学活性有機化合物(化合物(A))を「Chemistry of Materials、2001年、13巻、3043〜3050頁」に記載されている下記化合物(B)に変更した以外は、実施例1と同様にして有機非線形光学材料の薄膜を作製したところ、下記化合物(B)の微結晶が析出してしまい、クリアな膜を得ることができなかった。
【0077】
【化11】

【0078】
(比較例2)
「Chemistry of Materials、2001年、13巻、3043〜3050頁」に記載されているように、比較例1において、塗布溶剤としてテトラヒドロフランに代えて1,2−ジクロロエタンを用い、且つ細心の注意を払ってスピンコートを行ったところ、クリアな膜を得ることができた。
この膜に対し、実施例1と同様にして電界ポーリング処理を行い、実施例1と同様にしてレーザー光を照射したところ、実施例1よりも若干強度の強い二次高調波の発生が観測できた。さらに実施例1と同様に、高温環境に10日間保持した後に、再度レーザー光を照射したところ、二次高調波の発生に伴う緑色の発光は認められたものの、材料の不均一化、偏析等に伴う発光の散乱が大きく、発光のパターンが初期とは明らかに異なることが視認された。
【0079】
実施例1と比較例1及び2とを比較することによって、本発明によれば、高い非線形光学性能を示すことが確認されている「Chemistry of Materials、2001年、13巻、3043〜3050頁」に開示の有機非線形光学材料とほぼ同等の優れた非線形光学材料が、塗布溶剤として100℃以上の沸点を持つ非ハロゲン系有機溶剤を用い、且つ特別な注意を払うことも無く簡便に得られることが確認できた。また、耐熱性や経時安定性に関しては、比較例の材料が経時変化により発光パターンに乱れが生じること、さらには加熱することによりその再現性も低下することから、本発明の材料が比較例に挙げた材料と比較して優れていることが確認できた。
【0080】
(実施例2)
−有機機能性化合物の製造−
以下の方法によって下記化合物(C)を製造した。
スピロ化合物として、1−オキサ−2−ジシアノベンジリデン−3−シアノ−4−メチル−6,8−ジベンゾ−スピロ−[4,4]−ノナン−3−エンの代わりに1,8−ジオキサ−2−ジシアノベンジリデン−3−シアノ−4−メチル−6,9−ジベンゾ−スピロ−[4,5]−デカン−3−エン3.37gを用いる他は、実施例1と同様にして化合物Cを合成した。収量は3.3g(収率54%)であった。
尚、得られた化合物(C)をNMRスペクトルによって同定した。(δ=5.55−7.77:m,22.8H(理論値 22.0H)、δ=3.71:s,6.0H(理論値 6.0H))。
【0081】
【化12】

【0082】
−非線形光学材料としての評価−
実施例1における非線形光学活性有機化合物(化合物(A))を前記化合物(C)に、バインダー高分子を下記構造式のポリ環状オレフィン(D)(JSR社製、商品名Arton、ガラス転移温度170℃)に、それぞれ変更し、且つ電界ポーリング時の加熱温度を140℃に変更した以外は、実施例1と同様にして電界ポーリングを施した有機非線形光学材料の薄膜を作製した。
得られた薄膜を実施例1と同様にしてレーザー照射したところ、実施例1と同等の強度を有する二次高調波の発生が観測でき、非線形光学材料として有効に機能することが確認できた。また、高温環境に10日保持した後においても保持前と同等の強度を有する二次高調波の発生が確認でき、本非線形光学材料が高い耐熱性並びに経時安定性を有することが確認できた。
【0083】
【化13】

【0084】
(実施例3)
表面に下部電極としての金薄膜をスパッタリング法にて形成したガラス基板(2cm×2cm)上に、UV硬化型アクリル樹脂(Norland社製、商品名:NOA72)をスピンコート法により塗布し、100mW/cm2の紫外光(ウシオ電機社製、高圧水銀灯)を30sec照射した後、120℃30minの加熱処理を行い、膜厚2μmの薄膜を形成して、下部クラッド層とした。
【0085】
次に、前記下部クラッド層の上に、実施例2で用いた非線形光学活性有機化合物(化合物(C))2部とポリ環状オレフィン(D)8部を含むシクロペンタノン溶液をスピンコート法により塗布し、120℃にて1時間乾燥させ膜厚2μmの薄膜を形成して、コア層とした。
次いで、前記コア層の上に、下部クラッド層と同じUV硬化型アクリル樹脂を、下部クラッド層と同様にして成膜し、上部クラッド層とした(膜厚2μm)。
【0086】
次に、前記上部クラッド層の上に、上部電極として、ストライプ状の金薄膜(ストライプ幅20μm、ストライプ間隔30μm)を通常のフォトリソグラフ法並びにスパッタリング法を用いて形成した。
以上のようにして得られたサンプルを、ダイサー(Disco社製)によって幅5mmのチップに切断し、該切断面をサンドペーパーにて研摩し、図2に示す構成のスラブ型導波路素子(電気光学素子)を作製した。
【0087】
次に、本素子の上部電極と下部電極の間に150V/μmの電界を印加し、実施例1と同様の条件にて電界ポーリング処理を行った。
電界ポーリング処理を施した本素子が電気光学素子として機能することを確認するため、「Japanese Journal of Applied Physics、1991年、30巻、2号、320〜326頁」に記載された方法に従い電気光学特性の評価を行った。評価系の概略構成図を図3に示す。半波長板22を介在して光源(半導体レーザー)21から発せられたレーザー光(発振波長850nm)は偏光子23aを通過し、レンズ24を通して本素子28に一方の端面から入射する。入射したレーザー光は本素子28中のコア層を伝播し、他方の端面から出射し、レンズ24とピンポール26とを介在して偏光子23bを通過した後、光検出器27によって検出される。
本素子28の上下電極間に電界を印加し、電界強度を0Vから5Vまで変化させたところ、電界強度の増加に伴い検出光強度が減少する挙動が確認できた。これは、本素子が電気光学効果を有し、電界印加に応じ偏光面の回転が生じたことによるものであり、本素子が電気光学素子として有効に機能し、光変調器として活用できることを示すものである。またさらに、本素子28を65℃85%の高温高湿環境に10日間保持した後に、再度同様の電気光学特性の評価を行ったところ、保持前と同等の光変調特性が確認でき、本素子が高い耐熱性及び経時安定性を有することが確認できた。
【0088】
(比較例3)
実施例3における非線形光学活性有機化合物(化合物(C))をDisperse Red 1(Across Organics社製)に変更した以外は、実施例3と同様にして電気光学素子を作製し、実施例3と同様にして電気光学特性の評価をしたところ、印加電界強度を0Vから5Vまで変化させた時の光変調量は、実施例3の光変調量の十分の一以下と非常に低いものであった。またさらに、65℃85%の高温高湿環境に10日間保持した後の評価では、Disperse Red 1の結晶の析出が認められ、電気光学素子としての使用には耐えなくなっていた。
【0089】
実施例3と比較例3を比較することによって、本発明は、優れた電気光学特性と優れた安定性(耐熱性、経時安定性)を兼ね備えた電気光学素子を提供するものであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
上記の通り、本発明の有機機能性材料は、非線形光学機能等の機能性能、アモルファス性、耐熱性、耐昇華性等に優れた特定の構造の有機機能性化合物を用いることを特徴とし、高いガラス転移温度を有する高分子バインダーとの相溶性もよく、高い濃度でも有機機能性化合物が凝集せずに均一な分散状態を取るため、高い光学品質と優れた機能性能を兼ね備え、また非線形光学材料においては配向状態の耐熱性並びに経時安定性が高く、長期に亘って優れた性能を保持できる、等の好ましい効果を奏する。このため、本発明の有機機能性材料を用いることによって、有機機能性材料としての諸特性並びに安定性に優れた有機機能性素子を具現化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】実施例にて製造した有機機能性化合物の同定データを示すグラフである。
【図2】実施例において作製した電気光学素子を示す模式的断面図である。
【図3】実施例において電気光学特性の評価に用いた評価系を示す概略模式図である。
【符号の説明】
【0092】
11 ・・・ ガラス基板
12 ・・・ 下部電極
13 ・・・ 下部クラッド層
14 ・・・ コア層
15 ・・・ 上部クラッド層
16 ・・・ 上部電極
21 ・・・ レーザー光源
22 ・・・ 半波長板
23a、23b ・・・ 偏光子
24 ・・・ レンズ
25 ・・・ 電源
26 ・・・ ピンホール
27 ・・・ 光検出器
28 ・・・ 電気光学素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする化合物。
【化1】

(一般式(1)中、Z1,Z2及びZ3は芳香族基を、Lは2価のπ共役基又は単結合を、Y1は2価の有機基を示す。尚、Z1,Z2及びZ3で示される芳香族基並びにLで表される2価のπ共役基は、何れか2以上が結合し縮合環を形成してもよい。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表されることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化2】

(一般式(2)中、Z1,Z2及びZ3は芳香族基を、Lは2価のπ共役基又は単結合を、Y2は2価の有機基又は単結合を、R1及びR2は有機基を示す。また、n及びmは、それぞれ0から3の整数を示す。尚、Z1,Z2及びZ3で示される芳香族基並びにLで表される2価のπ共役基は、何れか2以上が結合し縮合環を形成してもよく、また、R1及びR2で表される有機基は、R1とR2、R1同士又はR2同士が結合して環構造を形成してもよい。)
【請求項3】
有機機能性化合物として請求項1又は2に記載の化合物を含有することを特徴とする有機機能性材料。
【請求項4】
前記有機機能性化合物が高分子バインダーに分散又は結合して成ることを特徴とする請求項3に記載の有機機能性材料。
【請求項5】
前記高分子バインダーが、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアリレート及びポリ環状オレフィンから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項4に記載の有機機能性材料。
【請求項6】
請求項3〜5の何れか1項に記載の有機機能性材料を塗布したことを特徴とする有機機能性素子。
【請求項7】
非線形光学機能によって動作することを特徴とする請求項6に記載の有機機能性素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−99739(P2007−99739A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−295503(P2005−295503)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】