説明

化合物、重合性組成物、高分子材料、及びフィルム

【課題】耐光性に優れる重合性液晶化合物を提供すること。
【解決手段】ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有し、かつ分子内水素結合部位を有する重合性液晶化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異方性フィルム、遮熱フィルム等の種々の光学部材の材料をはじめとして、様々な用途において有用な重合性化合物、重合性液晶組成物、及び高分子材料、並びにこれらを利用したフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶材料は、位相差板、偏光素子、選択反射膜、カラーフィルタ、反射防止膜、視野角補償膜、ホログラフィー、配向膜などの多くの工業分野に利用されている(非特許文献1)。中には、強い光エネルギー照射条件下であっても劣化しない液晶材料が求められており、光学性能に加え、耐光性に優れた液晶材料の開発が望まれている。
一般的に、液晶材料の耐光性を向上させる手段としては、液晶材料に対して紫外線吸収剤を添加する方法が広く用いられている(特許文献1〜5)。紫外線吸収剤としては、フェノール系紫外線吸収剤や非フェノール系紫外線吸収剤を添加することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−286644号公報
【特許文献2】特開2010−265170号公報
【特許文献3】特開2009−51992号公報
【特許文献4】特開2007−334206号公報
【特許文献5】特開2007−304620号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D.J.Broer, G.N.Mol, J.A.M.M.Van Haaren, and J.LubAdv. Mater., 1999,11,573
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紫外線吸収剤を添加することで、液晶性の低下や、ヘイズの上昇など性能面での悪化に加え、紫外線吸収剤の材料費と添加工程が余分に必要になるため、工業的に効率的な手段とは言えない。また、液晶自体の耐光性が向上しているわけではないため、長期間に渡っての耐光性が保証されているとは言い難い。このため、紫外線吸収剤を添加せずに耐光性を向上させることができる液晶材料を提供することができれば望ましい。
本発明は、紫外線吸収剤として作用する重合性液晶化合物を提供することを課題とする。また、本発明は、前記重合性化合物を利用した、種々の用途に有用な、重合性組成物、及び高分子材料を提供することを課題とする。さらに、本発明は、前記重合性化合物を利用した、種々の用途に有用なフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する化合物を用いれば従来技術の課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
[1] ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有し、かつ分子内水素結合部位を有する重合性液晶化合物。
[2] 前記ベンゾトリアゾール骨格およびトリアジン骨格以外に2つ以上のアリーレン基を有する[1]に記載の重合性液晶化合物。
[3] 前記ベンゾトリアゾール骨格を構成する2位の窒素原子にo−ヒドロキシ置換アリール基が結合している構造を有するか、前記トリアジン骨格を構成する炭素原子にo−ヒドロキシ置換アリール基が結合している構造を有する[1]または[2]に記載の重合性液晶化合物。
[4] 前記o−ヒドロキシ置換アリール基が、アリーレン基を含む置換基で置換されている[3]に記載の重合性液晶化合物。
[5] 前記ベンゾトリアゾール骨格を有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の重合性液晶化合物。
[6] 下記の一般式(I)で表される[5]に記載の重合性液晶化合物。
【化1】

[式中、Pは重合性官能基を表し;
Spは、スペーサーまたは単結合を表し;
Aは、ベンゼン環、5もしくは6員の脂肪環、5もしくは6員のヘテロ環、または、ベンゼン環と5もしくは6員の脂肪環と5もしくは6員のヘテロ環からなる群より選択される2つまたは3つの環が融合した融合環で構成される二価の連結基を表し;
Zは、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−O−CO−O−、−CO−NR0−、−NR0−CO−、−OCH2−、−CH2O−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CH2CH2−、−CF2CH2−、−CH2CF2−、−CF2CF2−、−CR0=N−、−N=CR0−、−CY=CY−、−C≡C−、−CH=CH−CO−O−、−O−CO−CH=CH−または単結合を表し、R0は、互いに独立して、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Yは、互いに独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基またはシアノ基を表し;
mは、1〜5のいずれかの整数を表し、mが2以上であるときに分子内に存在する複数のAおよびZは、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく;
1およびL2は、互いに独立して、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表し;
1は、0〜3のいずれかの整数を表し、r1が2以上であるときに分子内に存在する複数のL1は、互いに同一であっても異なっていてもよく;
2は、0〜4のいずれかの整数を表し、r2が2以上であるときに分子内に存在する複数のL2は、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
[7] 一般式(I)中、Pが下記の式(P−1)〜式(P−5)で表される基からなる群から選ば
れる重合性官能基である[6]に記載の重合性液晶化合物。
【化2】

[式中、R1〜R3はそれぞれ、水素原子またはメチル基を表す。]
[8] 一般式(I)中、Pがメタクリレート基またはアクリレート基である[6]または[7]に
記載の重合性液晶化合物。
[9] 前記トリアジン骨格を有することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の重合性液晶化合物。
[10] 下記の一般式(II)で表される[9]に記載の重合性液晶化合物。
【化3】

[式中、P11は重合性官能基を表し;
Sp11は、スペーサーまたは単結合を表し;
11は、ベンゼン環、5もしくは6員の脂肪環、5もしくは6員のヘテロ環、または、ベンゼン環と5もしくは6員の脂肪環と5もしくは6員のヘテロ環からなる群より選択される2つまたは3つの環が融合した融合環で構成される二価の連結基を表し;
11は、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−O−CO−O−、−CO−NR0−、−NR0−CO−、−OCH2−、−CH2O−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CH2CH2−、−CF2CH2−、−CH2CF2−、−CF2CF2−、−CR0=N−、−N=CR0−、−CY=CY−、−C≡C−、−CH=CH−CO−O−、−O−CO−CH=CH−または単結合を表し、R0は、互いに独立して、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Yは、互いに独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基またはシアノ基を表し;
11は、1〜5のいずれかの整数を表し、m11が2以上であるときに分子内に存在する複数のA11およびZ11は、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく;
11は、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表し;
11およびR12は、互いに独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表すか、ベンゼン環、5もしくは6員の脂肪環、5もしくは6員のヘテロ環、または、ベンゼン環と5もしくは6員の脂肪環と5もしくは6員のヘテロ環からなる群より選択される2つまたは3つの環が融合した融合環で構成される一価の基を表し;
11は、0〜3のいずれかの整数を表し、r1が2以上であるときに分子内に存在する複数のL11は、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
[11] 一般式(II)中、P11が下記の式(P−1)〜式(P−5)で表される基からなる群から選ばれる重合性官能基である[10]に記載の重合性液晶化合物。
【化4】

[式中、R1〜R3はそれぞれ、水素原子またはメチル基を表す。]
[12] 一般式(II)中、P11がメタクリレート基またはアクリレート基である[10]または[11]に記載の重合性液晶化合物。
[13] [1]〜[12]のいずれか1項に記載の重合性液晶化合物の少なくとも1種を含有する重合性液晶組成物。
[14] さらに、少なくとも1種のキラル化合物を含有する[13]に記載の重合性液晶組成物。
【0007】
[15] [1]〜[12]のいずれか1項に記載の重合性液晶化合物、または[13]もしくは[14]に記載の重合性組成物を重合させる工程を含む高分子材料の製造方法。
[16] 紫外線を照射することにより前記重合を行う[15]に記載の高分子材料の製造方法。
[17] [1]〜[12]のいずれか1項に記載の重合性液晶化合物、または[13]もしくは[14]に記載の重合性組成物を、重合させてなる高分子材料。
[18] [17]に記載の高分子材料の少なくとも1種を含有するフィルム。
[19] [16]に記載の重合性液晶組成物のコレステリック液晶相を固定してなるフィルム。
[20] 光学異方性を示す[18]または[19]に記載のフィルム。
[21] 選択反射特性を示す[18]〜[20]のいずれか1項に記載のフィルム。
[22] 赤外線波長域に選択反射特性を示す[21]に記載のフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明の化合物は、紫外線吸収剤として作用する重合性液晶化合物である。この化合物を用いた本発明の重合性組成物、高分子材料およびフィルムは、紫外線に対する耐久性が良好であり、様々な用途に有用に用いることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.重合性液晶化合物
本発明は、紫外線吸収剤として作用する重合性液晶化合物に関する。
紫外線吸収剤は、高分子材料や液晶材料、化粧品など様々な用途で紫外線から保護するために使用されている。代表的な紫外線吸収剤としては、フェノール系紫外線吸収剤と、非フェノール系紫外線吸収剤がある。フェノール系紫外線吸収剤の作用機構は、分子内に存在する窒素原子に分子内水素結合しているフェノールの水素原子が、励起状態で窒素原子側に移動することによって、光エネルギーを熱エネルギーへ変換するものであることが知られている。また、非フェノール系紫外線吸収剤の作用機構は、励起状態での分子内電子移動により光エネルギーを熱エネルギーに変換するものであることが知られている。
本発明の化合物においては、紫外線吸収剤としての作用に加え、液晶性を化合物に与えることが重要であることから、分子内水素結合を形成しうる構造の中で特にベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を含む構造を選択して分子設計を行った。本発明の化合物では、ベンゾトリアゾール骨格やトリアジン骨格を構成する窒素原子がこれらの骨格に直結しているベンゼン環のα位に置換している水酸基の水素原子との間で水素結合部位を形成する。すなわち、本発明の化合物は、ベンゾトリアゾール骨格を構成する2位の窒素原子にo−ヒドロキシ置換アリール基が結合している構造を有するか、前記トリアジン骨格を構成する炭素原子にo−ヒドロキシ置換アリール基が結合している構造を有することが好ましい。
【0010】
本発明の化合物は、ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格以外に2つ以上のアリーレン基を有することが好ましい。特に、ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格に結合しているo−ヒドロキシ置換アリール基が、アリーレン基を含む置換基で置換されている構造を有することが液晶性に優れている点で好ましい。
本発明の化合物は、ベンゾトリアゾール骨格を含むことがより好ましい。ベンゾトリアゾール骨格を有する本発明の化合物の構造例として、下記一般式(I)で表される構造を挙げることができる。一般式(I)で表される化合物は、フェノール系紫外線吸収剤の機能を持つ重合性液晶化合物である。液晶化合物自体が紫外線吸収剤の機能を有しており、吸収した光エネルギーを自ら熱失活することができるため、一般式(I)で表される化合物は耐光性に極めて優れた液晶化合物である。また、一般式(I)で表される化合物は、溶剤への溶解性、及び他の液晶材料との相溶性も良好であり、重合性で硬化可能であることから、光学部材等の種々の用途に有用である。
【0011】
【化5】

【0012】
前記一般式(I)中、Pは、重合性官能基を表す。ここでいう重合性官能基とは、重合に直接関与する基(例えばCH2=CH−)のみからなるものと、重合に直接関与する基(例えばCH2=CH−)とそれに結合している官能基(例えば−CO−、−CO−O−、−O−)から構成されるものの両方を包含する概念である。重合性官能基としては、ラジカル重合又はカチオン重合可能な重合性官能基が好ましい。ラジカル重合性官能基としては、一般に知られているラジカル重合性官能基を用いることができ、好適なものとして、(メタ)アクリレート基(アクリレート基及びメタクリレート基の双方を含む意味の用語として用いる)を挙げることができる。カチオン重合性官能基としては、一般に知られているカチオン重合官能性を用いることができ、具体的には、脂環式エーテル基、環状アセタール基、環状ラクトン基、環状チオエーテル基、スピロオルソエステル基、ビニルオキシ基などを挙げることができる。中でも、脂環式エーテル基、ビニルオキシ基が好適であり、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルオキシ基が特に好ましい。
【0013】
Pは、下記式(P−1)〜(P−5)のいずれかで表される重合性官能基であるのが好ましい。
【化6】

式中、R1〜R3はそれぞれ、水素原子又はメチル基を表す。
Pは、(メタ)アクリレート基であるのが好ましい。即ち、以下のいずれかの基であるのが好ましい。
【化7】

【0014】
一般式(I)中、Spはスペーサーまたは単結合を表す。ここでいうスペーサーとは、以下の一般式で表される構造を有する連結基である。
【化8】

上式において、R21は、置換もしくは無置換のアルキレン基、置換もしくは無置換のアルケニレン基、または置換もしくは無置換のアルキニレン基を表す。アルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。アルキレン基の炭素原子数は1〜12であることが好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることがさらにより好ましい。アルケニレン基とアルキニレン基は、それぞれ直鎖状であっても分岐状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。アルケニレン基とアルキニレン基の炭素原子数は、それぞれ2〜12であることが好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることがさらにより好ましい。アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が有していてもよい置換基として、例えば、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基を挙げることができる。アルコキシ基は直鎖状であっても分岐状であってもよく、例えばメトキシ基、エトキシ基を挙げることができる。R21としては、置換もしくは無置換のアルキレン基が好ましく、無置換のアルキレン基がより好ましく、炭素原子数2〜8の無置換のアルキレン基がさらに好ましく、炭素原子数2〜6の無置換のアルキレン基がさらにより好ましい。
21は、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−O−CO−O−、−CO−NR0−、−NR0−CO−、−CR0=N−、−N=CR0−または単結合を表す。R0は、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表す。R0がとりうるアルキル基は、直鎖状、分枝状のいずれであってもよく、炭素原子数は1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。例えば、メチル基やエチル基を採用することができる。アルキル基は置換されていてもよく、置換されている場合の置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、シアノ基を挙げることができる。R0としては、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましく、水素原子がさらにより好ましい。Z21としては、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−が好ましく、−O−、−S−がより好ましい。
m21は1〜6のいずれかの整数を表し、1〜4のいずれかの整数であることが好ましく、1〜3のいずれかの整数であることがより好ましい。m21が2以上の整数であるとき、Sp内に存在する複数のR21は互いに同一であっても異なっていてもよく、Sp内に存在する複数のZ21は互いに同一であっても異なっていてもよい。
好ましいSpとして、置換もしくは無置換のアルキレンオキシ基を含む連結基を挙げることができる。例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシアルキレンオキシ基、アルキレンオキシアルキレンオキシアルキレンオキシ基を好ましく採用することができる。
【0015】
前記一般式(I)中、Aは、ベンゼン環、5もしくは6員の脂肪環、5もしくは6員のヘテロ環、または、ベンゼン環と5もしくは6員の脂肪環と5もしくは6員のヘテロ環からなる群より選択される2つまたは3つの環が融合した融合環で構成される二価の連結基を表す。5もしくは6員の脂肪環は、シクロペンタン環とシクロヘキサン環である。5もしくは6員のヘテロ環は、シクロペンタン環とシクロヘキサン環の環構成炭素原子の1つ以上が窒素原子、酸素原子または硫黄原子で置換された環であることが好ましく、環構成炭素原子の1〜3つが窒素原子、酸素原子または硫黄原子で置換された環であることがより好ましい。環構成炭素原子の2つ以上が置換されている場合、置換される複数のヘテロ原子は互いに同一であっても異なっていてもよい。5もしくは6員のヘテロ環は、ヘテロ芳香環であってもヘテロ脂肪環であってもよい。5もしくは6員のヘテロ環の具体例として、例えばピロリン環、ピロリジン環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、ピラゾリン環、ピラゾリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアザオール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環を挙げることができる。
Aがとりうる融合環は、ベンゼン環同士、脂肪環同士、ヘテロ環同士の融合環であってもよいし、ベンゼン環と脂肪環、ベンゼン環とヘテロ環、脂肪環とヘテロ環、ベンゼン環と脂肪環とヘテロ環の融合環であってもよい。融合環の具体例として、例えばナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フェナレン環、ペンタレン環、インデン環、ビフェニレン環、インダセン環、アセナフチレン環、フルオレン環、インドール環、イソインドール環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、シンオリン環、キナゾリン環、キノオキサリン環、フタラジン環、プリン環、プチリジン環、キサンテン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナジン環、フェナントロリン環、インドリン環、イソインドリン環、クマリン環、ベンゾトリアゾール環を挙げることができる。
Aを構成するベンゼン環、脂肪環、ヘテロ環に結合している水素原子は、互いに独立して、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、水酸基、またはハロゲン原子で置換されてもよい。ここでいうアルキル基、ならびにアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基およびアミド基のアルキル部分は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、例えばメチル基、エチル基を挙げることができる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子、塩素原子が好ましい。
Aは、ベンゼン環を含む二価の連結基であることが好ましく、置換もしくは無置換のフェニレン基であることがより好ましく、置換もしくは無置換の1,4−フェニレン基であることがさらに好ましい。
【0016】
一般式(I)中、Zは、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−O−CO−O−、−CO−NR0−、−NR0−CO−、−OCH2−、−CH2O−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CH2CH2−、−CF2CH2−、−CH2CF2−、−CF2CF2−、−CR0=N−、−N=CR0−、−CY=CY−、−C≡C−、−CH=CH−CO−O−、−O−CO−CH=CH−または単結合を表す。R0は、互いに独立して、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Yは、互いに独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基またはシアノ基を表す。R0とYがとりうるアルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、炭素原子数は1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。例えば、メチル基やエチル基を採用することができる。アルキル基は置換されていてもよく、置換されている場合の置換基としては、例えばフッ素原子、塩素原子、シアノ基を挙げることができる。R0としては、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましく、水素原子がさらにより好ましい。Yとしては、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基またはシアノ基が好ましく、水素原子、フッ素原子または塩素原子がより好ましく、水素原子またはフッ素原子がさらに好ましい。Zは、−O−、−S−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−CO−NR0−、−NR0−CO−、−CR0=N−、−N=CR0−、−CY=CY−、−C≡C−、−CH=CH−CO−O−または−O−CO−CH=CH−であることが好ましく、−O−、−S−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−CO−NH−、−NH−CO−、−CH=N−、−N=CH−、−CH=CH−、−CF=CF−、−C≡C−、−CH=CH−CO−O−または−O−CO−CH=CH−であることがより好ましい。
【0017】
前記一般式(I)中、mは、1〜5のいずれかの整数を表す。mは、1〜4のいずれかの整数であるのが好ましく、1〜3のいずれかの整数であるのがより好ましい。mが2以上であるときに、分子内に存在する複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよく、また、分子内に存在する複数のZは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0018】
前記一般式(I)中、L1およびL2は、互いに独立して、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表す。ここでいうアルキル基、ならびにアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基およびアミド基のアルキル部分は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、例えばメチル基、エチル基を挙げることができる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましい。L1およびL2としては、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、メチルアミド基、エチルアミド基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子を好ましい例として挙げることができる。
【0019】
一般式(I)中、r1は0〜3のいずれかの整数であり、0〜2のいずれかの整数であることが好ましく、0または1がより好ましい。r1が2以上であるとき、分子内に存在する複数のL1は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0020】
一般式(I)中、r2は0〜4のいずれかの整数であり、0〜3のいずれかの整数であることが好ましく、0〜2のいずれかの整数であることがより好ましい。r2が2以上であるとき、分子内に存在する複数のL2は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0021】
以下に、前記一般式(I)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明の一般式(I)で表される化合物の範囲はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0022】
【化9】

【0023】
【化10】

【0024】
【化11】

【0025】
【化12】

【0026】
【化13】

【0027】
【化14】

【0028】
【化15】

【0029】
【化16】

【0030】
【化17】

【0031】
【化18】

【0032】
【化19】

【0033】
【化20】

【0034】
【化21】

【0035】
【化22】

【0036】
【化23】

【0037】
【化24】

【0038】
【化25】

【0039】
【化26】

【0040】
【化27】

【0041】
【化28】

【0042】
【化29】

【0043】
【化30】

【0044】
【化31】

【0045】
【化32】

【0046】
【化33】

【0047】
【化34】

【0048】
【化35】

【0049】
【化36】

【0050】
【化37】

【0051】
【化38】

【0052】
【化39】

【0053】
【化40】

【0054】
【化41】

【0055】
【化42】

【0056】
【化43】

【0057】
【化44】

【0058】
【化45】

【0059】
【化46】

【0060】
【化47】

【0061】
【化48】

【0062】
本発明の化合物には、トリアジン骨格を有する下記一般式(II)で表される化合物が含まれる。下記一般式(II)で表される化合物も、ベンゾトリアゾール骨格を有する上記一般式(I)で表される化合物と同様に、フェノール系紫外線吸収剤の機能を持つ重合性液晶化合物である。液晶化合物自体が紫外線吸収剤の機能を有しており、吸収した光エネルギーを自ら熱失活することができるため、一般式(II)で表される化合物は耐光性に優れた液晶化合物である。また、一般式(II)で表される化合物は、溶剤への溶解性、及び他の液晶材料との相溶性も良好であり、重合性で硬化可能であることから、光学部材等の種々の用途に有用である。
【0063】
【化49】

【0064】
一般式(II)におけるP11、Sp11、A11、Z11、L11、m11およびr11の定義と好ましい範囲は、一般式(I)におけるP、Sp、A、Z、L1、m11およびr11の定義と好ましい範囲と同じである。一般式(II)のR11およびR12は、互いに独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表すか、ベンゼン環、5もしくは6員の脂肪環、5もしくは6員のヘテロ環、または、ベンゼン環と5もしくは6員の脂肪環と5もしくは6員のヘテロ環からなる群より選択される2つまたは3つの環が融合した融合環で構成される一価の基を表す。ここでいうアルキル基、ならびにアルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシル基およびアミド基のアルキル部分は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、例えばメチル基、エチル基を挙げることができる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が好ましい。R11およびR12としては、水素原子、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、メチルアミド基、エチルアミド基、シアノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子を好ましい例として挙げることができる。上記の脂肪環、ヘテロ環、融合環に関する説明と好ましい範囲については、一般式(I)のAの対応する記載を参照することができる。
【0065】
一般式(II)で表される化合物の具体例として、一般式(I)の具体例として挙げた化合物(I−1)〜(I−300)のベンゾトリアゾール環をトリアジン環に置換した化合物(II−1)〜(II−300)を挙げることができる。代表して化合物(II−1)の構造式を以下に記載する。また、それ以外の具体例として化合物(II−301)の構造式も以下に記載する。なお、本発明の一般式(II)で表される化合物の範囲は、これらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【化50】

【0066】
本発明の化合物は、種々の合成法を組み合わせることにより合成することができる。
例えば、一般式(I)で表される化合物であって、Zが−CO−O−である化合物は以下のスキーム1にしたがって収率良く合成することができる。
【化51】

【0067】
スキーム1における一般式(11)、(12)、(13)におけるP、Sp、A、L1、L2、r1、r2の定義は、一般式(1)におけるP、Sp、A、L1、L2、r1、r2の定義と同じである。
スキーム1では、まず一般式(11)で表されるカルボン酸化合物を塩化チオニルを用いて一般式(12)で表される酸クロライドにする。この反応自体は公知の反応であり、公知の条件を適宜選択して採用することができる。この反応は、ジメチルホルムアミド(DMF)の存在下で行うことが好ましく、具体的には、一般式(11)で表されるカルボン酸化合物のテトラヒドロフラン(THF)溶液にDMFを添加して例えば0℃に冷却したうえで、塩化チオニルを滴下し、室温で攪拌することにより反応を行うことができる。反応終了後は、減圧しながらTHFと過剰量の塩化チオニルを除去し、単離せずに次の工程に進むことができる。次の工程では、一般式(13)で表されるフェノール化合物を添加して反応させる。フェノール化合物は、例えばトルエンなどの溶媒に溶解して溶液として添加することができる。反応は加熱しながら行うことが好ましい。反応終了後は通常の後処理と精製を行うことにより、一般式(1)で表される化合物を取得することができる。精製法としては、例えば再結晶やカラムクロマトグラフィーを挙げることができる。以上の反応条件は、適宜改変して最適化を図ることができる。
スキーム1で用いた化合物は、商業的に入手可能なものは商業的に入手して用いてもよいし、既知の合成法を適宜選択して合成したものを用いてもよい。また、一般式(1)のZが−CO−O−以外の化合物もスキーム1と同様の合成ルートにしたがって合成することができる。
【0068】
一般式(II)で表される化合物は、下記のスキーム2にしたがって合成することができる。
【0069】
【化52】

【0070】
スキーム2における一般式(21)、(22)、(23)におけるP11、Sp11、A11、Z11、L11、R11、R12およびr11の定義は、一般式(2)におけるP11、Sp11、A11、Z11、L11、R11、R12およびr11の定義と同じである。スキーム2の反応の詳細については、スキーム1の説明を参照することができる。一般式(2)のZ11が−CO−O−以外の化合物もスキーム2と同様の合成ルートにしたがって合成することができる。
【0071】
本発明の重合性化合物は、液晶性を示す。さらに、紫外領域に吸収を持ち、吸収した紫外線を無害化する紫外線吸収剤としての機能を有するため、耐光性に優れた液晶材料を供給できる。
また、本発明の重合性化合物は、化学的に安定であり、溶剤に溶解しやすく、重合しやすく、無色透明であるなど、複数の特性をも満足する。本発明の化合物を用いて作製される硬化膜は、十分な硬度を示し、無色透明であり、耐候性・耐熱性が良好である等、複数の特性を満足し得るであろう。従って、本発明の化合物を利用して形成された硬化膜は、例えば、光学素子の構成要素である位相差板、偏光素子、選択反射膜、カラーフィルタ、反射防止膜、視野角補償膜、ホログラフィー、配向膜等、種々の用途に利用することができる。
【0072】
2.重合性組成物、高分子材料およびフィルム
本発明は、前記一般式(I)の化合物の少なくとも1種を含有する重合性組成物、及び当該組成物を用いて製造した高分子材料とフィルムにも関する。高分子材料は本発明の重合性組成物を重合することにより製造されるものであり、液晶性であっても、非液晶性であってもよい。本発明の重合性組成物を用いて製造されるフィルムは、液晶性を示すものであることが好ましく、液晶性フィルムは位相膜、反射膜等の種々の光学フィルムとして有用である。
本発明の組成物の一態様は、前記一般式(I)の化合物の少なくとも1種と、少なくとも1種のキラル化合物とを含有する重合性組成物である。本態様の組成物をコレステリック液晶相とした後、それを固定して形成された膜は、その螺旋ピッチに応じて、所定の波長の光に対して、選択反射特性を示し、反射膜(例えば、赤外線反射膜)として有用である。本発明の化合物の中でも高いΔnを示す重合性化合物を利用すれば、より低いΔnの液晶性化合物を利用した同一の厚みの膜と比較して、反射波長域が広帯域化されるという利点がある。
【0073】
本発明の組成物について、前記一般式(I)の化合物は、主成分であっても、添加剤として使用されていてもよい。前記一般式(I)の化合物を組成物の全質量に対して、5質量%以上含有していれば、一般式(I)の化合物による効果を得ることができ、好ましくは10〜85質量%、より好ましくは10〜75質量%、さらに好ましくは15〜70質量%である。但し、この範囲に限定されるものではない。
以下において、本発明の組成物に用いることができる材料と、本発明の組成物を用いて高分子材料やフィルムを製造する方法およびそれに用いる材料と、製造したフィルムの用途について説明する。
【0074】
(1)キラル化合物
本発明の組成物をコレステリック液晶相を示す組成物として調製するためには、キラル化合物を添加するのが好ましい。キラル化合物は液晶性であっても、非液晶性であってもよい。前記キラル化合物は、公知の種々のキラル剤(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4−3項、TN、STN用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)から選択することができる。キラル化合物は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物あるいは面性不斉化合物も用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファンおよびこれらの誘導体が含まれる。キラル化合物(キラル剤)は、重合性官能基を有していてもよい。キラル化合物が重合性官能基を有するとともに、併用する棒状液晶化合物も重合性官能基を有する場合は、重合性キラル化合物と重合性棒状液晶合物との重合反応により、棒状液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル化合物から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル化合物が有する重合性官能基は、重合性棒状液晶化合物が有する重合性官能基と、同種の基であることが好ましい。従って、キラル化合物の重合性官能基も、不飽和重合性官能基、エポキシ基又はアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性官能基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性官能基であることが特に好ましい。
【0075】
本発明の組成物中のキラル化合物は、併用される一般式(I)の化合物に対して、1〜30モル%であることが好ましい。キラル化合物の使用量を、より少なくした方が液晶性に影響を及ぼさないことが多いため好まれる。従って、キラル化合物は、少量でも所望の螺旋ピッチの捩れ配向を達成可能なように、強い捩り力のある化合物が好ましい。この様な、強い捩れ力を示すキラル剤としては、例えば、特開2003−287623公報に記載のキラル剤が挙げられ、本発明に好ましく用いることができる。
【0076】
(2)他の液晶化合物
本発明の組成物は、前記一般式(I)の化合物とともに、他の1種以上の液晶性化合物を含有していてもよい。前記一般式(I)の化合物は、他の液晶性化合物との相溶性も高いので、他の液晶性化合物を混合しても、不透明化等が生じず、透明性の高い膜を形成可能である。他の液晶性化合物を併用可能であることから、種々の用途に適する種々の組成の組成物を提供できる。併用可能な他の液晶化合物の例には、棒状ネマチック液晶化合物である。前記棒状ネマチック液晶化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類及びアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0077】
本発明に利用可能な他の液晶化合物は、重合性であっても非重合性であってもよい。重合性官能基を有しない棒状液晶化合物については、様々な文献(例えば、Y. Goto et.al., Mol. Cryst. Liq. Cryst. 1995, Vol. 260, pp.23-28)に記載がある。
重合性棒状液晶化合物は、重合性官能基を棒状液晶化合物に導入することで得られる。重合性官能基の例には、不飽和重合性官能基、エポキシ基、及びアジリジニル基が含まれ、不飽和重合性官能基が好ましく、エチレン性不飽和重合性官能基が特に好ましい。重合性官能基は種々の方法で、棒状液晶化合物の分子中に導入できる。重合性棒状液晶化合物が有する重合性官能基の個数は、好ましくは1〜6個、より好ましくは1〜3個である。重合性棒状液晶化合物の例は、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号明細書、同5622648号明細書、同5770107号明細書、国際公開WO95/22586号公報、同95/24455号公報、同97/00600号公報、同98/23580号公報、同98/52905号公報、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、及び特開2001−328973号公報などに記載の化合物が含まれる。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の重合性棒状液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる。
【0078】
他の液晶化合物の添加量については特に制限はない。前記一般式(I)の化合物の含有割合が高くても、他の液晶化合物の含有割合が高くても、互いに等しい含有割合であってもよく、用途に応じて好ましい範囲に調整することができる。
【0079】
(3)重合開始剤
本発明の組成物は、重合開始剤を含有しているのが好ましい。例えば、紫外線照射により硬化反応を進行させて硬化膜を形成する態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
【0080】
光重合開始剤の使用量は、組成物(塗布液の場合は固形分)の0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0081】
(4)配向制御剤
本発明の組成物中に、安定的に又は迅速に液晶相(例えば、コレステリック液晶相)となるのに寄与する配向制御剤を添加してもよい。配向制御剤の例には、含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、及び下記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物が含まれる。これらから選択される2種以上を含有していてもよい。これらの化合物は、層の空気界面において、液晶化合物の分子のチルト角を低減若しくは実質的に水平配向させることができる。尚、本明細書で「水平配向」とは、液晶分子長軸と膜面が平行であることをいうが、厳密に平行であることを要求するものではなく、本明細書では、水平面とのなす傾斜角が20度未満の配向を意味するものとする。液晶化合物が空気界面付近で水平配向する場合、配向欠陥が生じ難いため、可視光領域での透明性が高くなる。一方、液晶化合物の分子が大きなチルト角で配向すると、例えば、コレステリック液晶相とする場合は、その螺旋軸が膜面法線からずれるため、反射率が低下したり、フィンガープリントパターンが発生し、ヘイズの増大や回折性を示すため好ましくない。
配向制御剤として利用可能な前記含フッ素(メタ)アクリレート系ポリマーの例は、特開2007−272185号公報の[0018]〜[0043]等に記載がある。
【0082】
以下、配向制御剤として利用可能な、下記一般式(X1)〜(X3)について、順に説明する。
【0083】
【化53】

【0084】
式中、R1、R2及びR3は各々独立して、水素原子又は置換基を表し、X1、X2及びX3は単結合又は二価の連結基を表す。R1〜R3で各々表される置換基としては、好ましくは置換もしくは無置換の、アルキル基(中でも、無置換のアルキル基又はフッ素置換アルキル基がより好ましい)、アリール基(中でもフッ素置換アルキル基を有するアリール基が好ましい)、置換もしくは無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン原子である。X1、X2及びX3で各々表される二価の連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、二価の芳香族基、二価のヘテロ環残基、−CO−、−NRa−(Raは炭素原子数が1〜5のアルキル基又は水素原子)、−O−、−S−、−SO−、−SO2−及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の連結基は、アルキレン基、フェニレン基、−CO−、−NRa−、−O−、−S−及び−SO2−からなる群より選ばれる二価の連結基又は該群より選ばれる基を少なくとも二つ組み合わせた二価の連結基であることがより好ましい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましい。二価の芳香族基の炭素原子数は、6〜10であることが好ましい。
【0085】
【化54】

【0086】
式中、Rは置換基を表し、mは0〜5の整数を表す。mが2以上の整数を表す場合、複数個のRは同一でも異なっていてもよい。Rとして好ましい置換基は、R1、R2、及びR3で表される置換基の好ましい範囲として挙げたものと同様である。mは、好ましくは1〜3の整数を表し、特に好ましくは2又は3である。
【0087】
【化55】

【0088】
式中、R4、R5、R6、R7、R8及びR9は各々独立して、水素原子又は置換基を表す。R4、R5、R6、R7、R8及びR9でそれぞれ表される置換基は、好ましくは一般式(X1)におけるR1、R2及びR3で表される置換基の好ましいものとして挙げたものと同様である。
【0089】
本発明において配向制御剤として使用可能な、前記式(X1)〜(X3)で表される化合物の例には、特開2005−99248号公報に記載の化合物が含まれる。
なお、本発明では、配向制御剤として、前記一般式(X1)〜(X3)で表される化合物の一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0090】
前記組成物中における、一般式(X1)〜(X3)のいずれかで表される化合物の添加量は、前記一般式(I)の化合物の質量の0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、0.02〜1質量%が特に好ましい。
【0091】
(5)その他の添加剤
本発明の組成物は、1種又は2種類以上の、酸化防止剤、紫外線吸収剤、増感剤、安定剤、可塑剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、消泡剤、レべリング剤、増粘剤、難燃剤、界面活性物質、分散剤、染料、顔料等の色材、等の他の添加剤を含有していてもよい。
【0092】
(6)組成物を用いたフィルムの作製方法
本発明の組成物は、位相差フィルム、反射フィルム等の種々の光学フィルムの材料として有用である。当該フィルムの製造方法の一例は、
(i)基板等の表面に、本発明の重合性組成物を塗布して、液晶相(コレステリック液晶相等)の状態にすること、
(ii)前記重合性組成物の硬化反応を進行させ、液晶相を固定して硬化膜を形成すること、
を少なくとも含む製造方法である。
(i)及び(ii)の工程を、複数回繰り返して、複数の上記硬化膜が積層されたフィルムを作製することもできる。
【0093】
前記(i)工程では、まず、基板又はその上に形成された配向膜の表面に、本発明の重合性組成物を塗布する。前記組成物は、溶媒に材料を溶解及び/又は分散した、塗布液として調製されるのが好ましい。塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。該有機溶媒としては、アミド(例えばN,N−ジメチルホルムアミド);スルホキシド(例えばジメチルスルホキシド);ヘテロ環化合物(例えばピリジン);炭化水素(例えばベンゼン、ヘキサン);アルキルハライド(例えばクロロホルム、ジクロロメタン);エステル(例えば酢酸メチル、酢酸ブチル);ケトン(例えばアセトン、メチルエチルケトン);エーテル(例えばテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン);1,4−ブタンジオールジアセテートなどが含まれる。これらの中でも、アルキルハライド及びケトンが特に好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0094】
前記塗布液の塗布は、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法等の種々の方法によって行うことができる。また、インクジェット装置を用いて、組成物をノズルから吐出して、塗膜を形成することもできる。
【0095】
次に、表面に塗布され、塗膜となった組成物を、コレステリック液晶相等の液晶相の状態にする。前記組成物が、溶媒を含む塗布液として調製されている態様では、塗膜を乾燥し、溶媒を除去することで、液晶相の状態にすることができる場合がある。また、液晶相への転移温度とするために、所望により、前記塗膜を加熱してもよい。例えば、一旦等方性相の温度まで加熱し、その後、液晶相転移温度まで冷却する等によって、安定的に液晶相の状態にすることができる。前記組成物の液晶相転移温度は、製造適性等の面から10〜250℃の範囲内であることが好ましく、10〜150℃の範囲内であることがより好ましい。10℃未満であると液晶相を呈する温度範囲にまで温度を下げるために冷却工程等が必要となることがある。また200℃を超えると、一旦液晶相を呈する温度範囲よりもさらに高温の等方性液体状態にするために高温を要し、熱エネルギーの浪費、基板の変形、変質等からも不利になる。
【0096】
次に、(ii)の工程では、液晶相の状態となった塗膜を硬化させる。硬化は、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、配位重合法等、いずれの重合法に従って進行させてもよい。一般式(I)の化合物に応じて、適する重合法が選択されるであろう。この重合により、本発明の一般式(I)の化合物から誘導される単位を構成単位中に有する重合体が得られる。
一例では、紫外線を照射して、硬化反応を進行させる。紫外線照射には、紫外線ランプ等の光源が利用される。この工程では、紫外線を照射することによって、前記組成物の硬化反応が進行し、コレステリック液晶相が固定されて、硬化膜が形成される。
紫外線の照射エネルギー量については特に制限はないが、一般的には、100mJ/cm2〜800mJ/cm2程度が好ましい。また、前記塗膜に紫外線を照射する時間については特に制限はないが、硬化膜の充分な強度及び生産性の双方の観点から決定されるであろう。
本発明の一般式(I)で表される化合物は紫外線に対して劣化しにくいため、紫外線照射後も優れた液晶性や耐久性を維持することができる。
【0097】
硬化反応を促進するため、加熱条件下で紫外線照射を実施してもよい。また、紫外線照射時の温度は、液晶相が乱れないように、液晶相を呈する温度範囲に維持するのが好ましい。また、雰囲気の酸素濃度は重合度に関与するため、空気中で所望の重合度に達せず、膜強度が不十分の場合には、窒素置換等の方法により、雰囲気中の酸素濃度を低下させることが好ましい。
【0098】
上記工程では、液晶相が固定されて、硬化膜が形成される。ここで、液晶相を「固定化した」状態は、液晶相となっている化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ好ましい態様である。それだけには限定されず、具体的には、通常0℃〜50℃、より過酷な条件下では−30℃〜70℃の温度範囲において、該層に流動性が無く、また外場や外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を意味するものとする。本発明では、紫外線照射によって進行する硬化反応により、液晶相の配向状態を固定する。
なお、本発明においては、液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、最終的に硬化膜中の組成物がもはや液晶性を示す必要はない。例えば、組成物が、硬化反応により高分子量化して、もはや液晶性を失っていてもよい。
【0099】
上記硬化膜の厚みについては特に制限はない。用途に応じて、又は所望とされる光学特性に応じて、好ましい膜厚が決定されるであろう。一般的には、厚さは0.05〜50μmが好ましく、1〜35μmがより好ましい。
【0100】
(7)基板
本発明のフィルムは、基板を有していてもよい。当該基板は自己支持性があり、上記硬化膜を支持するものであれば、材料及び光学的特性についてなんら限定はない。ガラス板、石英板、及びポリマーフィルム等から選択することができる。用途によっては、紫外光に対する高い透明性が要求されるであろう。可視光に対する透過性が高いポリマーフィルムとしては、液晶表示装置等の表示装置の部材として用いられる種々の光学フィルム用のポリマーフィルムが挙げられる。前記基板としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルフィルム;ポリカーボネート(PC)フィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム;ポリイミドフィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、などが挙げられる。ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロースが好ましい。
【0101】
(8)配向層
本発明のフィルムは、基板と前記硬化膜との間に、配向層を有していてもよい。配向層は、液晶化合物の配向方向をより精密に規定する機能を有する。配向層は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成等の手段で設けることができる。さらには、電場の付与、磁場の付与、或いは光照射により配向機能が生じる配向層も知られている。配向層は、ポリマーの膜の表面に、ラビング処理により形成するのが好ましい。
【0102】
配向層に用いられる材料としては、有機化合物のポリマーが好ましく、それ自体が架橋可能なポリマーか、或いは架橋剤により架橋されるポリマーがよく用いられる。当然、双方の機能を有するポリマーも用いられる。ポリマーの例としては、ポリメチルメタクリレ−ト、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコ−ル及び変性ポリビニルアルコ−ル、ポリ(N−メチロ−ルアクリルアミド)、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロ−ス、ゼラチン、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリカーボネート等のポリマー及びシランカップリング剤等の化合物を挙げることができる。好ましいポリマーの例としては、ポリ(N−メチロ−ルアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロ−ス、ゼラチン、ポリビルアルコール及び変性ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマーであり、さらにゼラチン、ポリビルアルコール及び変性ポリビニルアルコールが好ましく、特にポリビルアルコール及び変性ポリビニルアルコールを挙げることができる。
【0103】
(9)本発明のフィルムの用途
本発明のフィルムの一態様は、本発明の重合性組成物の、液晶相の配向(例えば、水平配向、垂直配向、ハイブリッド配向等)を固定したフィルムであって、光学異方性を示すフィルムである。当該フィルムは、液晶表示装置等の光学補償フィルム等として利用される。
本発明のフィルムの一態様は、本発明の重合性組成物のコレステリック液晶相を固定したフィルムであって、所定の波長域の光に対して選択反射特性を示すフィルムである。赤外線波長域(波長800〜1300nm)に選択反射特性を示す当該フィルムは、例えば建物又は車両の窓ガラスに貼付され、もしくは合わせガラスに組み込まれて、遮熱部材として利用される。
また、本発明のフィルムは、光学素子の構成要素である、偏光素子、選択反射膜、カラーフィルタ、反射防止膜、視野角補償膜、ホログラフィー、配向膜等、種々の用途に利用することができる。
【実施例】
【0104】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0105】
<本発明の重合性液晶化合物の合成>
合成例1
以下のスキームに従って、化合物(I−1)を合成した。
【化56】

【0106】
3口フラスコに、カルボン酸化合物A−1(1.32g)、テトラヒドロフラン(THF:10mL)、ジメチルホルムアミド(DMF:0.02mL)を入れ、氷/メタノール冷媒を用いて0℃にまで冷却した。その後、塩化チオニル(0.60mL)を滴下し、室温で30分間攪拌した。その後、減圧条件下、THFと過剰量の塩化チオニルを除去した。トルエン(10mL)とフェノール化合物C−1を加え、2時間加熱還流した。メタノールを加え、反応を停止した後、水を加えた。酢酸エチルで抽出した後、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した。エバポレーターで溶媒を除去した後、固体をメタノールで再結晶することにより、化合物(I−1)を白色固体として1.3g得た(収率55%)。同定は、1H−NMRで行った。
1H-NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.85-2.00(4H,m)、4.02-4.30(4H,m)、5.82(1H,d)、6.12(1H,dd)、6.41(1H,d)、6.90-7.10(4H,m)、7.45-7.53(2H,m)、7.90-7.98(2H,m)、8.12-8.18(2H,m)、8.40-8.47(1H,m)、11.5(1H,s)
【0107】
得られた化合物(I−1)の相転移温度を偏光顕微鏡によるテクスチャー観察によって求めたところ、128℃で結晶相からネマチック液晶相に変わり、132℃を超えると等方性液体相に変わった。Δnは100℃において0.236を示した。
【0108】
合成例2
フェノール化合物C−1の代わりに下記の構造を有するフェノール化合物C−2を用いた点を変更して、合成例1と同じ合成法により、化合物(I−41)を収率60%で得た。化合物(I−41)も、化合物(I−1)と同様に相転移した。
【化57】

1H-NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.85-2.00(4H,m)、4.02-4.30(4H,m)、5.82(1H,d)、6.12(1H,dd)、6.41(1H,d)、6.90-8.47(10H,m)、11.5(1H,s)
【0109】
合成例3
カルボン酸化合物A−1の代わりに下記の構造を有するカルボン酸化合物A−2を用いた点を変更して、合成例1と同じ合成法により、化合物(I−61)を収率52%で得た。化合物(I−61)も、化合物(I−1)と同様に相転移した。
【化58】

1H-NMR(溶媒:CDCl3)δ(ppm):1.85-2.00(4H,m)、1.94(3H,s)4.02-4.30(4H,m)、5.53(1H,d)、6.09(1H,d)、6.90-7.10(4H,m)、7.45-7.53(2H,m)、7.90-7.98(2H,m)、8.12-8.18(2H,m)、8.40-8.47(1H,m)、11.5(1H,s)
【0110】
<位相差膜の作製と評価>
実施例1
合成例1で合成した本発明の化合物(I−1)を用いて、下記の方法にしたがって位相差膜を形成して評価した。
まず、下記の組成の液晶性組成物塗布液を調製した。
化合物(I−1) 33質量部
重合性液晶化合物(1) 67質量部
空気界面配向剤(1) 0.03質量部
重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
クロロホルム 800質量部
【0111】
【化59】

【0112】
次に、洗浄したガラス基板上に日産化学社製ポリイミド配向膜SE−130をスピンコート法により塗布し、乾燥後に250℃で1時間焼成した。これをラビング処理して配向膜付き基板を作製した。この基板の配向膜のラビング処理面上に、上で調製した液晶性組成物塗布液をスピンコート法により室温で塗布し、120℃で30秒配向熟成を行った後に、窒素ガス雰囲気下室温でUVの短波長成分を除去した高圧水銀ランプを用いて10秒間光照射して配向を固定し実施例1の位相差膜を作製した。塗布後に加熱するまでの間に、塗布膜に結晶の析出は見られなかった。
作製した位相差膜に対して、キセノンランプを用い、360nm以下をカットした400W/m2の紫外線を1000時間照射した。AXOMETRIX社製のAxoScanを用いて、紫外線照射前後の800nmでのReを測定したところ、下記の式で定義されるRe変化率は0.2%であった。また、日本電飾社製ヘイズメータNHD2000を用いて測定したヘイズは0.07であった。
【数1】

【0113】
実施例2〜4および比較例1〜3
実施例1の化合物(I−1)の代わりに表1に記載される化合物を用いた点を変更して、実施例1と同じ方法により位相差膜を作製してRe変化率とヘイズを測定した。結果は、表1に示す通りであった。
【0114】
比較例4
実施例1で用いた化合物(I−1)の代わりに化合物(C)を用い、紫外線吸収剤としてTINUVIN326を3質量部添加して下記の組成の液晶性組成物塗布液を調製した。
化合物(C) 33質量部
重合性液晶化合物(1) 67質量部
空気界面配向剤(1) 0.03質量部
重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
紫外線吸収剤TINUVIN326(チバジャパン社製) 3質量部
クロロホルム 800質量部
【0115】
調製した液晶性組成物塗布液を用いて、実施例1と同様な条件で位相差膜を作製し、紫外線照射前後のRe変化率とヘイズを測定した。結果は、表1に示す通りであった。
【0116】
【表1】

【0117】
【化60】

【0118】
実施例1〜3および比較例1〜3の結果から、本発明の一般式(I)の化合物は、従来の重合性液晶化合物と比較して、Re変化率が極めて小さく、耐光性に優れることが示されている。更には、ヘイズが低いことが分かる。また、比較例4に示すように、紫外線吸収剤を添加することで、従来の重合性液晶化合物よりRe変化率は小さくなるものの、ヘイズは従来同様に高いことが示されている。即ち、本発明の一般式(I)の化合物を用いれば、優れた耐光性が得られるだけでなく、従来の重合性液晶化合物に紫外線吸収剤を添加しても実現できない低ヘイズを達成することができる。
【0119】
<選択反射膜の作製と評価>
実施例4
合成例1で合成した本発明の化合物(I−1)を用いて、下記の方法にしたがって選択反射膜を形成して評価した。
まず、下記の組成の液晶性組成物塗布液を調製した。
化合物(I−1) 33質量部
重合性液晶化合物(1) 67質量部
キラル剤Paliocolor LC756(BASF社製) 3質量部
空気界面配向剤(1) 0.04質量部
重合開始剤IRGACURE819(チバジャパン社製) 3質量部
溶媒クロロホルム 300質量部
【0120】
実施例1と同様にして製作した配向膜付き基板の配向膜表面に上で調製した液晶性組成物塗布液をスピンコート法により室温で塗布し、120℃で3分間配向熟成を行った後に、室温でUVの短波長成分を除去した高圧水銀ランプを用いて10秒間光照射して配向を固定し実施例4の選択反射膜を得た。塗布後に加熱するまでの間に、塗布膜に結晶の析出は見られなかった。
得られた選択反射膜を偏光顕微鏡で観察したところ配向欠陥が無く均一に配向していることを確認した。さらにこの膜を島津社製の分光光度計UV−3100PCで透過スペクトルを測定したところ1000nmに中心を持つ赤外領域に選択反射ピークがあり、その半値幅が135nmであった。また、この膜に対して、キセノンランプを用い、360nm以下をカットした400W/m2の紫外線を1000時間照射した。AXOMETRIX社製のAxoScanを用いて、照射前後の800nmでのReを測定し、実施例1と同様にRe変化率を求めたところ、0.3%だった。また、日本電飾社製ヘイズメータNHD2000を用いて測定したヘイズは0.08であった。
【0121】
実施例5、6および比較例5〜8
実施例2、3および比較例1〜3でそれぞれ使用した化合物を、化合物(I−1)の代わりに用いた以外は、実施例4と同様にして液晶性組成物塗布液をそれぞれ調製した。また、比較例8では、比較例7の液晶性組成物塗布液に、紫外線吸収剤としてTINUVIN 326を3質量部添加した。これらの塗布液をそれぞれ用いて、実施例4と同様な方法によって、実施例5、6および比較例5〜8の選択反射膜をそれぞれ作製した。これらの選択反射膜はいずれも良好な配向性を示した。実施例4と同様にして測定した選択反射膜のピーク半値幅、Re変化率、ヘイズを下記表にまとめた。
【0122】
【表2】

【0123】
実施例4〜6および比較例5〜7の結果から、本発明の一般式(I)の化合物は、従来の重合性液晶性化合物と比較して、Re変化率が極めて小さく、耐光性が優れることが示されている。更には、ヘイズが低いことが分かる。また、比較例8に示すように、紫外線吸収剤を添加した場合、Re変化率は小さくなるものの、ヘイズは従来同様に高いことを示している。即ち、本発明の一般式(I)の化合物を用いれば、優れた耐光性が得られるだけでなく、従来の重合性液晶化合物に紫外線吸収剤を添加しても実現できない低ヘイズを達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゾトリアゾール骨格またはトリアジン骨格を有し、かつ分子内水素結合部位を有する重合性液晶化合物。
【請求項2】
前記ベンゾトリアゾール骨格およびトリアジン骨格以外に2つ以上のアリーレン基を有する請求項1に記載の重合性液晶化合物。
【請求項3】
前記ベンゾトリアゾール骨格を構成する2位の窒素原子にo−ヒドロキシ置換アリール基が結合している構造を有するか、前記トリアジン骨格を構成する炭素原子にo−ヒドロキシ置換アリール基が結合している構造を有する請求項1または2に記載の重合性液晶化合物。
【請求項4】
前記o−ヒドロキシ置換アリール基が、アリーレン基を含む置換基で置換されている請求項3に記載の重合性液晶化合物。
【請求項5】
前記ベンゾトリアゾール骨格を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の重合性液晶化合物。
【請求項6】
下記の一般式(I)で表される請求項5に記載の重合性液晶化合物。
【化1】

[式中、Pは重合性官能基を表し;
Spは、スペーサーまたは単結合を表し;
Aは、ベンゼン環、5もしくは6員の脂肪環、5もしくは6員のヘテロ環、または、ベンゼン環と5もしくは6員の脂肪環と5もしくは6員のヘテロ環からなる群より選択される2つまたは3つの環が融合した融合環で構成される二価の連結基を表し;
Zは、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−O−CO−O−、−CO−NR0−、−NR0−CO−、−OCH2−、−CH2O−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CH2CH2−、−CF2CH2−、−CH2CF2−、−CF2CF2−、−CR0=N−、−N=CR0−、−CY=CY−、−C≡C−、−CH=CH−CO−O−、−O−CO−CH=CH−または単結合を表し、R0は、互いに独立して、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Yは、互いに独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基またはシアノ基を表し;
mは、1〜5のいずれかの整数を表し、mが2以上であるときに分子内に存在する複数のAおよびZは、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく;
1およびL2は、互いに独立して、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表し;
1は、0〜3のいずれかの整数を表し、r1が2以上であるときに分子内に存在する複数のL1は、互いに同一であっても異なっていてもよく;
2は、0〜4のいずれかの整数を表し、r2が2以上であるときに分子内に存在する複数のL2は、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項7】
一般式(I)中、Pが下記の式(P−1)〜式(P−5)で表される基からなる群から選ばれる重
合性官能基である請求項6に記載の重合性液晶化合物。
【化2】

[式中、R1〜R3はそれぞれ、水素原子またはメチル基を表す。]
【請求項8】
一般式(I)中、Pがメタクリレート基またはアクリレート基である請求項6または7に記載の重
合性液晶化合物。
【請求項9】
前記トリアジン骨格を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の重合性液晶化合物。
【請求項10】
下記の一般式(II)で表される請求項9に記載の重合性液晶化合物。
【化3】

[式中、P11は重合性官能基を表し;
Sp11は、スペーサーまたは単結合を表し;
11は、ベンゼン環、5もしくは6員の脂肪環、5もしくは6員のヘテロ環、または、ベンゼン環と5もしくは6員の脂肪環と5もしくは6員のヘテロ環からなる群より選択される2つまたは3つの環が融合した融合環で構成される二価の連結基を表し;
11は、−O−、−S−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−、−S−CO−、−CO−S−、−O−CO−O−、−CO−NR0−、−NR0−CO−、−OCH2−、−CH2O−、−SCH2−、−CH2S−、−CF2O−、−OCF2−、−CF2S−、−SCF2−、−CH2CH2−、−CF2CH2−、−CH2CF2−、−CF2CF2−、−CR0=N−、−N=CR0−、−CY=CY−、−C≡C−、−CH=CH−CO−O−、−O−CO−CH=CH−または単結合を表し、R0は、互いに独立して、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Yは、互いに独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、炭素原子数1〜12のアルキル基またはシアノ基を表し;
11は、1〜5のいずれかの整数を表し、m11が2以上であるときに分子内に存在する複数のA11およびZ11は、それぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく;
11は、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表し;
11およびR12は、互いに独立して、水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基、炭素原子数1〜4のアルコキシ基、炭素原子数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素原子数2〜5のアシルオキシ基、炭素原子数2〜4のアシル基、炭素原子数2〜5のアミド基、シアノ基、アミノ基、水酸基、またはハロゲン原子を表すか、ベンゼン環、5もしくは6員の脂肪環、5もしくは6員のヘテロ環、または、ベンゼン環と5もしくは6員の脂肪環と5もしくは6員のヘテロ環からなる群より選択される2つまたは3つの環が融合した融合環で構成される一価の基を表し;
11は、0〜3のいずれかの整数を表し、r1が2以上であるときに分子内に存在する複数のL11は、互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項11】
一般式(II)中、P11が下記の式(P−1)〜式(P−5)で表される基からなる群から選ばれる重合性官能基である請求項10に記載の重合性液晶化合物。
【化4】

[式中、R1〜R3はそれぞれ、水素原子またはメチル基を表す。]
【請求項12】
一般式(II)中、P11がメタクリレート基またはアクリレート基である請求項10または11に記載の重合性液晶化合物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の重合性液晶化合物の少なくとも1種を含有する重合性液晶組成物。
【請求項14】
さらに、少なくとも1種のキラル化合物を含有する請求項13に記載の重合性液晶組成物。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の重合性液晶化合物、または請求項13もしくは14に記載の重合性組成物を重合させる工程を含む高分子材料の製造方法。
【請求項16】
紫外線を照射することにより前記重合を行う請求項15に記載の高分子材料の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の重合性液晶化合物、または請求項13もしくは14に記載の重合性組成物を、重合させてなる高分子材料。
【請求項18】
請求項17に記載の高分子材料の少なくとも1種を含有するフィルム。
【請求項19】
請求項16に記載の重合性液晶組成物のコレステリック液晶相を固定してなるフィルム。
【請求項20】
光学異方性を示す請求項18または19に記載のフィルム。
【請求項21】
選択反射特性を示す請求項18〜20のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項22】
赤外線波長域に選択反射特性を示す請求項21に記載のフィルム。

【公開番号】特開2012−184168(P2012−184168A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46284(P2011−46284)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】