説明

化粧板の製造方法

【課題】化粧板において鉄分を含む繊維板を基板に用いた場合にも、その表面に接着する木質系突板に変色を生じさせないことである。
【解決手段】濃度が10重量%以上30重量%未満の過酸化水素水溶液と、濃度が26重量%以上30重量%未満のアンモニア水溶液とを混合してpHが8.5〜9.5となるように調整し、この混合液を木質突板に付着させることにより木質突板を処理した後、この木質突板を接着剤を介して繊維板の表面に貼着する。木質突板に対する混合液の付着量は140〜330g/mとする。混合液の調製から60分以内に木質突板への付着処理を行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の床、壁、天井などに使用される化粧板であって、繊維板の表面に木質系の突板を接着してなる化粧板に関し、より詳しくは木質突板の変色を有効に防止することが可能な化粧板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維板などの基板の表面に木質突板を貼着してなる化粧板において、木質突板に経時変化による変色が生ずる。これは、木質突板に含まれる鉄分や木質突板に付着するアルカリ・酸などが木質突板中のフェノール成分に作用して変色し、あるいは太陽光や蛍光灯の光などの影響によるものと推測されている。
【0003】
化粧板の基板としては繊維板、特にMDFを利用することが多く、このMDFを製造する際に用いる木質繊維は、木材資源の枯渇の観点から木質廃材が利用されることが多くなってきている。木質廃材から生成した木質繊維を原料とするMDFは、木質廃材が釘、鉄系金具などによる締結、木質廃材を処理する建設機械の鉄製爪、バケットなどとの接触あるいは外部からの飛散鉄分の付着などにより必然的に鉄分を含む。このため、このMDFを利用する場合、その表面に木質突板を貼って製造される化粧板においては、MDF中の鉄イオンが水分とともに木質突板中に浸入し、木質突板中のフェノール成分、たとえばリグニンやタンニンと反応して黒色の化合物を生じ、木質突板に変色を発生させていた。
【0004】
化粧板の製造において、基板に貼着した木質突板に過酸化水素水溶液を主体とする漂白剤を塗布するとともに加熱環境において漂白を行うものがある(特許文献1)。
【特許文献1】特開平8−229903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1記載の漂白処理は、専用の加熱装置を用いて加熱することが要求され、製造方法が煩雑化し、コストも嵩む。
したがって、本発明の課題は、木質廃材から生成した木質繊維を原料とするMDFなどの鉄分を含む繊維板を基板に用いて化粧板を製造する場合にも、その表面に貼着する木質突板に変色を生じさせないことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するため、請求項1に係る本発明は、濃度が10重量%以上30重量%未満の過酸化水素水溶液と、濃度が26重量%以上30重量%未満のアンモニア水溶液とを混合してpHが8.5〜9.5となるように調整し、この混合液を木質突板に付着させることにより木質突板を処理した後、この木質突板を接着剤を介して繊維板の表面に貼着することを特徴とする繊維板の製造方法である。
【0007】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の繊維板の製造方法において、過酸化水素水溶液とアンモニア水溶液との混合液を木質突板に対して140〜330g/m付着させることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る本発明は、請求項1または2記載の繊維板の製造方法において、混合液の調製から60分以内に木質突板への付着処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る本発明方法によれば、木質突板に含まれる変色発生物質(フェノール成分)を除去ないし変色しない物質に変化させているので、繊維板に含まれる鉄分による鉄イオンが水分とともに木質突板中に浸入しても、木質突板の変色を発生させることがなくなる。本発明方法による変色防止のメカニズムは必ずしも完全には解明されていないが、アンモニアの添加により木質突板中のフェノール成分であるリグニン、タンニンなどの有色物質が分散し、過酸化水素の分解により発生する酸素によってこれら有色物質が酸化分解されて、木材本来の色調が失われない程度に淡色化するものと推測される。
【0010】
木質突板の処理液中の過酸化水素水溶液の濃度は10重量%以上30重量%未満の比較的低い濃度に抑えられるので、該処理液のpHを8.5〜9.5に調整するに際して必要なアンモニア水溶液は過酸化水素水溶液に対して僅かな量で足りる(数十分の一ないし数百分の一程度。表1にデータ記載)。
【0011】
さらに、過酸化水素水溶液の濃度が比較的低いことから、過酸化水素自体の分解が緩慢に進行し、混合液を木質突板に付着させるまでの時間的余裕(数十分間程度。表2にデータ記載)を与えることができる。
【0012】
また、混合液を木質突板に付着処理した後も、過酸化水素の分解が比較的緩慢に進行することから、混合液が木質突板に浸透する時間が十分に確保できて均一に浸透し、木質突板の全般にわたって変色発生物質を非変色発生物質に変化させ、色むらと変色を防止する。
【0013】
さらに、混合液のpHを弱アルカリ性の8.5〜9.5に調整して木質突板に付着されるので、いわゆるアルカリ焼けを生じない。
【0014】
また、混合液を木質突板に付着させる際、加熱環境下において処理することがないので、装置構成の簡略化および処理の効率化が可能となる。
【0015】
請求項2に係る本発明方法によれば、木質突板に対する混合液の付着量を140〜330g/mとすることにより、木質突板に含まれる変色発生物質と必要かつ十分に反応し、変色発生物質を効率的に除去ないし非変色発生物質に変化させることができる。
【0016】
請求項3に係る本発明方法によれば、混合液の調製から60分以内に木質突板への付着処理を行うので、混合液を木質突板に付着処理してから反応終了までの時間が40分以内となる(表2にデータ記載)。反応処理中の木質突板が多量に存在すると、作業場所を必要以上に占有し、且つ、処理が煩雑になって歩留まりも低下するが、この本発明方法によれば40分以内に反応が終了するので、そのような弊害を生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明方法の各要件の詳細について説明する。
【0018】
過酸化水素水溶液は、過酸化水素水溶液を水で希釈して濃度10重量%以上で30重量%未満に調整する。過酸化水素水溶液の濃度が10重量%未満では水溶液の濃度が低いことから水溶液の量が多く必要となり、取り扱いにくいものとなる。過酸化水素水溶液の濃度が30重量%以上になると水溶液の濃度が高すぎて、過酸化水素の分解に伴う酸素発生が急激且つ短時間に進行してしまい、混合液を木質突板に付着させるまでの時間的余裕を十分に与えることができず、付着処理後も木質突板への浸透が急激すぎて均一にならないため色むらの原因となる。
【0019】
アンモニア水溶液の濃度は、26重量%以上で30重量%未満とするが、好ましくは濃度28重量%のものを使用する。
【0020】
混合液のpHは、8.5〜9.5に調整される。pHが8.5未満であると過酸化水素水溶液の分解が小さくなり、木質突板との反応性を低下させる。pHが9.5を越えると木質突板に対するアルカリ汚染を生じやすくなる。
【0021】
混合液は、木質突板に対してローラー、ハケ、噴霧(スプレー)などによる塗布、浸漬(ディッピング)などにより付着させる。
【0022】
木質突板に付着させる混合液の量は140〜330g/mであることが好ましい。付着量が140g/m未満であると単位面積当たりの付着量が小さく白色化が不十分となる。付着量が330g/mを越えると白色化は十分に行われるが過酸化水素が残留し色むらの原因になる。
【0023】
混合液は、濃度調整から付着させるまでの時間(経過時間)を60分以内、好ましくは30分以内で行うと良い。経過時間が60分以内であれば混合液の反応活性度(または漂白性能)が維持され、木質突板に含まれる変色発生物質と反応し終了する時間が40分以内になる。経過時間が30分以内であれば反応活性度(漂白性能)がより効果的に維持される。
【0024】
繊維板に木質突板を接着する接着剤は、木質突板の変色に影響を与えないものであれば特に限定されないが、たとえば水性酢酸ビニル樹脂系、エチレン酢酸ビニル樹脂系、尿素樹脂系、メラミン樹脂系、フェノール樹脂系、水性ビニルウレタン樹脂系またはそれらの変性樹脂接着剤、あるいはイソシアネート系接着剤、合成ゴム系、ニトリルゴム系などの中から任意に一種または複数種を混合して使用することができる。
【0025】
本発明の化粧板は、床、壁、天井などに利用されるもので、木質系の繊維板と、この表面に接着される木質突板とを有する。
【0026】
繊維板はJIS A5905:2003に規定されるもので、インシュレーションファイバーボード(またはインシュレーションボード、記号IB)、ミディアムデンシティファイバーボード(記号 MDF)、ハードファイバーボード(またはハードボード、記号HB)が含まれるが、特にMDFが最適である。
【0027】
繊維板の製造方法の一例としては、木質繊維をダクトを介して風送乾燥して所定含水率に調整した後、これを混合装置に搬送し、この混合装置内において木質繊維に接着剤を添加混合して混合物を得る。接着剤の添加は、解繊後の風送時にダクト内で行っても良い。次に、この混合物を風送し、フォーミング装置にて搬送装置上に均一に散布することにより一定厚の連続した混合物のマットを形成する。得られたマットを定尺切断した後、熱圧プレスに挿入して熱圧成形する。得られた繊維素板を必要に応じてその表面をサンディングして、繊維板とされる。
【0028】
このときの熱圧条件は、一般に、圧力10〜30kgf/cm、温度110〜220°C、時間1〜20分の各範囲で行われるが、熱圧成形時の加圧力、温度、時間などの選定は、木質繊維や接着剤などの種類、寸法、使用目的などにより最適の条件を決定する。
【0029】
木質繊維に添加する接着剤としては、尿素、フェノール、メラミン、ウレタンなどの樹脂またはそれらの変性樹脂、イソシアネート系、合成ゴム系などの熱硬化性接着剤から任意選定される一種または複数種を使用する。
【0030】
木質繊維は、たとえばマツ、スギ、ヒノキなどの針葉樹やラワン、カポール、クリ、ポプラ、ヤナギなどの広葉樹を、一種または複数種よりなる木材チップを高温高圧蒸気で蒸煮して軟化処理した後、解繊装置で解繊することによって得られる。木質繊維の長さと太さは、たとえば0.4〜40mm、直径は0.05〜0.5mm(アスペクト比10〜400)程度である。さらに、本発明に使用する繊維板は、木質廃材から生成した木材チップから得た木質繊維を原料とすることもできる。木質廃材チップから得た木質繊維を原料とする繊維板は必然的に鉄分を多く含む。
【0031】
木質突板は、フリッチを薄削することにより得られる。フリッチは、ブナ、カバ、ナラ、サクラ、オーク、チークなどの樹種の複数の木質板材または角材を加圧下で接着剤で集成して大型ブロックを作製し、この大型ブロックを薄削して製作したものである。木質突板の厚さは0.15〜0.8mm程度である。
【0032】
以下、本発明方法の実施例について比較例を参照しながら説明する。
【0033】
表1は、混合液の各成分濃度、量と木質突板の色むら、変色有無および反応の発熱分解速度の関係を示す試験結果である。表1中の実施例1は、濃度10%の過酸化水素水溶液293重量部と濃度28%のアンモニア水溶液1重量部とを混合してpH9の混合液とし、この混合液を木質突板の単位表面(m)当たり327gで塗布した場合である。混合液塗布後の養生期間は常温(20℃)で3〜4日である。この後、さらに色むらおよび変色の有無を試験するため、木質突板の表面に1%NaOH水溶液を163g/mの割合で噴霧した。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例2,3および比較例1,2についても、それぞれ表1に示した混合液の各成分濃度および量でpH9に調整した混合液を表1の塗布量で木質突板に塗布処理した。木質突板の表面には、実施例1と同様に、1%NaOH水溶液を160〜170g/mの割合で噴霧した。
【0036】
色むらについては、実施例1〜3および比較例1については「良好」(○印)、比較例2については「少々あり」(△印)であった。変色については、実施例1〜3および比較例2について「無し」であったが、比較例1については「有り」であった。また、反応の発熱分解速度については、実施例1〜3および比較例1では「低温で遅い」であり、比較例2では「高温で遅い」であった。これらの試験結果から、実施例1〜3はいずれも色むらが良好であり且つ変色も無かったので、木質突板の処理条件が最適であることが確認された。比較例1,2は色むらまたは変色の点で不十分で、処理条件が適切であると評価できるものではなかった。
【0037】
表2は、混合液調製から使用するまでの時間と、木質突板に付着させてから反応が終了するまでの反応終了時間との関係を示す表である。経過時間が大であるほど混合液pHは中性側に移行し、混合液温度は上昇する。反応終了時間は、経過時間が大であるほど長くなる。製造時の反応終了時間の許容度を40分以内とすれば、混合液調製から使用までの時間を60分以内とすれば良いことが判る。
【0038】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度が10重量%以上30重量%未満の過酸化水素水溶液と、濃度が26重量%以上30重量%未満のアンモニア水溶液とを混合してpHが8.5〜9.5となるように調整し、この混合液を木質突板に付着させることにより木質突板を処理した後、この木質突板を接着剤を介して繊維板の表面に貼着することを特徴とする繊維板の製造方法。
【請求項2】
過酸化水素水溶液とアンモニア水溶液との混合液を木質突板に対して140〜330g/m付着させることを特徴とする、請求項1記載の繊維板の製造方法。
【請求項3】
混合液の調製から60分以内に木質突板への付着処理を行うことを特徴とする、請求項1または2記載の繊維板の製造方法。

【公開番号】特開2009−34855(P2009−34855A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199532(P2007−199532)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(390030340)株式会社ノダ (146)
【Fターム(参考)】