説明

半導体組成物

【課題】加工に適した加工特性を保持しつつ、室温における安定性が維持された半導体組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物、液体溶剤、半導体材料の溶解性を高める溶解促進剤を含む半導体材料を含む、液体組成物。
【化1】


(一般式(I)中、Aは二価の連結基;RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、ヘテロ原子含有基、ハロゲン、パーハロアルキル、アルコキシアルキル、シロキシル置換アルキル、およびポリエーテルから選択され、nは2〜5,000の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薄膜トランジスタ(「TFT」)などの電子デバイス中での使用に適した配合物およびプロセスに関する。本開示は、そのような組成物およびプロセスを用いて製造された構成要素または層、ならびにそのような材料を含む電子デバイスにも関する。
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)は、例えばセンサー、イメージスキャナ、および電子表示素子などの現代の電子機器における基本的な構成要素である。TFTは一般的に、支持基板と、3種類の電気伝導性電極(ゲート電極、ソース電極、およびドレイン電極)と、半導体チャネル層と、半導体層からゲート電極を分離する電気絶縁性ゲート誘電体層とを含む。一般的に、製造コストがはるかに低いだけでなく、物理的に小型、軽量であり、かつ適応性があるといった魅力的な機械的特性を有するTFTを製造することが望ましい。1つのアプローチは、TFTの1または複数の構成要素が有機化合物を含む、有機薄膜トランジスタ(「OTFT」)によるものである。特に、いくつかの構成要素は、良く理解された安価な印刷技術を用いて被覆およびパターン形成することができる。
【0003】
ドロップオンデマンド印刷などのインクジェット印刷は、OTFTを作製する非常に有望な方法であると考えられる。作製プロセスについては、有機半導体のインクジェット印刷が重要な工程である。したがって、噴射可能な半導体インクが必要である。
【0004】
スピンコーティング、印刷などの堆積方法とともに用いられるインク組成物などの液体組成物を形成する一般的な方法の1つは、半導体材料を適切な溶媒に溶解して溶液または分散液を形成することである。しかし、半導体材料、特にp型半導体材料は、容易に溶解せず、かつ/または溶液状態に維持することが容易ではない。例えば、半導体ポリマーは、液体組成物を室温に冷却すると直ちに沈殿することが知られている。したがって、公知の液体(インク)組成物は、半導体材料のコーティングまたはインクジェット印刷の全ての要件を満たさないことがある。例えば、公知のインク組成物は、室温での安定性および適切な加工特性と、所望の高い移動度を両立しないことがある。半導体材料の炭素側鎖の鎖長を長くすると、室温での溶液の安定性は増加する。しかし、炭素鎖長が長くなると移動度が低下することがある。半導体薄膜を高温でコーティングすると、高温(例えば、約30℃〜約50℃などの室温を超える温度)でコーティング溶液の粘度が低いことにより問題が生じることがある。トランジスタ素子は、約30〜約50ナノメートルの均一な薄膜を有することが望ましい。この厚さは、高い移動度とともに低いオフ電流を得るために好ましい。
【0005】
スピンコーティングおよびインクジェット印刷による塗布への適合性などの好ましい加工特性とともに室温での安定性を有する半導体インク配合物を提供することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
下記一般式(I)で表される化合物、液体溶剤、半導体材料の溶解性を高める溶解促進剤、および任意に結晶化抑制剤を含む半導体材料を含む液体組成物を開示する。
【0007】
【化1】

【0008】
一般式(I)中、Aは二価の連結基;RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、好適なヘテロ原子含有基、ハロゲン、パーハロアルキル、アルコキシアルキル、シロキシル置換アルキル、およびポリエーテルから選択され、nは約2〜約5,000の整数である。
【0009】
さらに、a)本明細書に記載の半導体材料を含む液体組成物を提供すること、b)前記液体組成物をトランジスタの基板上に塗布すること、およびc)前記液体組成物を乾燥させて半導体層を形成することを含む、薄膜トランジスタの半導体層の形成方法を開示する。
【0010】
さらに、基板、ゲート電極、ゲート誘電体層、ソース電極、ドレイン電極、ならびにソース電極およびドレイン電極とゲート誘電体層とに接触した本明細書に記載の半導体層、を含む半導体デバイスを開示する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
半導体組成物を開示する。この半導体組成物により、移動度の高い半導体材料が、好適な粘度など、スピンコーティングおよびインクジェット加工などの加工に適した加工特性を保持しつつ、室温における安定性を維持することが可能となる。いくつかの実施形態では、印刷される場合、半導体組成物をインク組成物と呼ぶことがある。実施形態では、半導体デバイスは、TFT、ダイオード、太陽電池(photovoltaics)、記憶素子などであってもよい。別の実施形態では、半導体デバイスは、基板、ゲート電極、ゲート誘電体層、ソース電極、ドレイン電極、ならびにソース電極およびドレイン電極とゲート誘電体層とに接触した本発明の半導体組成物を含む半導体層を含むTFTとして開示される。本発明の半導体デバイスは、任意の好適なまたは所望の構成を含み得る。例えば、好適な電子デバイスの構成については米国特許公開第2008/0102559号を参照されたい。
【0012】
本発明の半導体デバイスは、第1のボトムゲート型OTFTの構成を有する有機薄膜トランジスタ(OTFT)を含んでいてもよい。OTFTは、ゲート電極と誘電体層とに接接した基板を含んでいてもよい。ゲート電極は、基板内または基板の外側に配置してもよい。しかし、誘電体層は、ゲート電極を、ソース電極、ドレイン電極、および半導体層から分離する。ソース電極およびドレイン電極は半導体層に接している。半導体層は、ソース電極とドレイン電極の上方および間に配置してもよい。誘電体層と半導体層の間に必要に応じて界面層を設けてもよい。
【0013】
あるいは、ゲート電極と誘電体層とに接触する基板を含む第2のボトムゲート型OTFTの構成を用いてもよい。半導体層は、誘電体層の上方または上に設けられ、誘電体層をソース電極およびドレイン電極から分離する。誘電体層と半導体層の間に必要に応じて界面層を設けてもよい。
【0014】
別の可能なOTFTの構成としては、ゲート電極としても作用し、かつ誘電体層に接触している基板を含む第3のボトムゲート型の構成が含まれる。半導体層は、誘電体層の上方または上に設けられ、誘電体層をソース電極およびドレイン電極から分離する。誘電体層と半導体層の間に必要に応じて界面層を設けてもよい。
【0015】
さらに、ソース電極およびドレイン電極と半導体層とに接触する基板を含むトップゲート型OTFTの構成を用いてもよい。半導体層は、ソース電極とドレイン電極の上方および間に存在する。誘電体層は半導体層の上にある。ゲート電極は誘電体層の上にあり、半導体層に接触していない。誘電体層と半導体層の間に必要に応じて界面層を設けてもよい。
【0016】
半導体層は、トップゲート型薄膜トランジスタを含む薄膜トランジスタの形成に用いるのに適した、本明細書に開示する半導体組成物から形成してもよい。半導体組成物は、半導体材料、液体溶剤、半導体材料の溶解性を高める溶解促進剤、および任意に結晶化抑制剤を含む。
【0017】
本明細書の組成物には、任意の好適な半導体材料を用いることができる。実施形態では、半導体材料はp型半導体材料である。別の実施形態では、半導体材料はn型半導体材料である。別の実施形態では、半導体材料は、両極性(p型およびn型の両方)半導体材料である。例示的な半導体材料としては、チオフェン系ポリマー、トリアリールアミン系ポリマー、ポリインドロカルバゾールなどが挙げられる。チオフェン系ポリマーとしては、レジオレギュラーポリ(3−アルキルチオフェン)、レジオランダムポリ(3−アルキルチオフェン)、置換および非置換チエニレン基を含むチオフェン系ポリマー、随意に置換されたチエノ[3,2−b]チオフェン基および/または随意に置換されたチエノ[2,3−b]チオフェン基を含むチオフェン系ポリマー、ベンゾチオフェン、ベンゾ[1,2−b:4,5−b′]ジチオフェン、ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェン、ジナフト−[2,3−b:2′,3′−f]チエノ[3,2−b]チオフェンを含むチオフェン系ポリマー、およびフェニレン、フルオレン、フランなどの非チオフェン系芳香族基を含むチオフェン系ポリマーが挙げられる。
【0018】
実施形態では、半導体材料は、下記一般式(I)で表される化合物を含む。
【0019】
【化2】

【0020】
一般式(I)中、Aは二価の連結基であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、パーハロアルキル、アルコキシアルキル、シロキシ置換アルキル、ポリエーテル、アルコキシ、およびハロゲンから選択され、nは2〜5,000の整数である。いくつかの実施形態では、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数6〜30または炭素数6〜20のアルキルである。
【0021】
二価の連結基Aは、下記式で表される化合物およびその組合せから選択してもよい。
【0022】
【化3】

【化4】

【0023】
式中、R′およびR″は、それぞれ独立に、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、フッ素、塩素、および臭素などのハロゲン、−CN、および−NOから選択される。アルキルおよびアリールの置換基は、例えば−F、−Cl、−OCHなどの、任意の好適な置換基であってもよい。別の実施形態では、R′およびR″は、炭素数6〜30または炭素数6〜20のアルキルまたはアリールである。
【0024】
実施形態では、半導体材料は、下記一般式(II)〜(VI)で表される化合物を含む。
【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
式中、R、R、R′、およびR″は、それぞれ独立に、i)水素、ii)アルキルまたは置換アルキル、iii)アリールまたは置換アリール、iv)アルコキシまたは置換アルコキシ、v)好適なヘテロ原子含有基、vi)ハロゲン、またはその組合せから選択され、nは2〜5,000の整数である。半導体ポリマーは、米国特許出願公開第2008/0102559号および同第2008/0103286号に記載されているような半導体ポリマー材料であってもよい。
【0028】
実施形態では、R、R、R′、およびR″は、それぞれ独立に、水素、好適な炭化水素、好適なヘテロ原子含有基、およびハロゲンの少なくとも1つから選択され、例えば炭化水素は、炭素数0〜35、炭素数1〜30、炭素数1〜20、または炭素数6〜18の側鎖を有するアルキル、アルコキシ、アリール、その置換誘導体などであってもよく、nは繰返し単位の数であり、例えば2〜5,000、2〜2,500、2〜1,000、100〜800、または2〜100である。
【0029】
実施形態では、RおよびRは、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立に、炭素数6〜30および炭素数6〜20の長鎖の炭素側鎖から選択され、R′およびR″は、同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立に、炭素数0〜5の置換基から選択される。または、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数0〜5の置換基から選択され、R′は炭素数6〜30の長鎖の炭素側鎖である。実施形態では、RおよびR、R′およびR″は、それぞれ独立に、炭素数1〜35のアルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、またはオクタデシル;または炭素数7〜42のアリールアルキル、例えばメチルフェニル(トリル)、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、トリデシルフェニル、テトラデシルフェニル、ペンタデシルフェニル、ヘキサデシルフェニル、ヘプタデシルフェニル、およびオクタデシルフェニルである。別の実施形態では、R、R、R′およびR″は、それぞれ独立に、炭素数1〜35のアルキルまたは置換アルキル基である。
【0030】
特定の実施形態では、R、R、R′、およびR″は同じである。別の特定の実施形態では、R、R、R′、およびR″は、炭素数6〜18の同じアルキル基である。
【0031】
特定の実施形態では、半導体材料は、下記式で表される化合物である。
【0032】
【化7】

【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
実施形態におけるポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜150,000など、500〜400,000であってもよく、重量平均分子量(Mw)は、1,500〜200,000など、600〜500,000であってもよい。ここで、MnおよびMwはいずれも、ポリスチレン標準を用いたゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される。
【0036】
特定の実施形態では、半導体材料は、式(1)で表される化合物である。別の特定の実施形態では、半導体材料は、式(2)、(3)、または(4)で表される化合物である。
【0037】
液体溶剤は、任意の好適なまたは所望の液体溶剤であってもよい。実施形態では、液体溶剤とは、室温で液体であり、通常、溶媒である化合物を指す。実施形態では、液体溶剤は、芳香族溶媒またはハロゲン化芳香族溶媒である。例示的なハロゲン化芳香族溶媒としては、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン(1,2−ジクロロベンゼンおよび1,3−ジクロロベンゼン)、トリクロロベンゼン、およびクロロトルエンが挙げられる。特定の実施形態では、液体溶剤は、1,2−ジクロロベンゼンを含む。別の実施形態では、液体溶剤は非ハロゲン化溶媒である。例示的な非ハロゲン化芳香族溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、ビシクロヘキシルなどが挙げられる。
【0038】
溶解促進剤は、組成物中の半導体材料の溶解性を高める、任意の好適なまたは所望の溶解促進剤であってもよい。「溶解促進剤」という用語は、液体溶剤中における半導体材料の溶解性を高めることができる化合物または組成物を指す。溶解促進剤は、例えば、ゲル、ガラス、結晶、液体などのいずれの形態であってもよい。別の実施形態では、溶解促進剤は、室温で流動性を有しない固体、例えば、室温で結晶またはガラスである化合物または組成物である。これは、「固体添加剤」ともいう。実施形態では、溶解促進剤は結晶である。実施形態では、溶解促進剤の融点は35℃〜100℃または35℃〜80℃である。
【0039】
本明細書の特定の実施形態は、溶解促進剤の選択に関する。第一に、溶解促進剤は、液体溶剤に可溶性である。例えば、溶解度は1〜80重量パーセント、5〜70重量パーセント、または1〜20重量パーセントである。第二に、溶解促進剤は、半導体材料と近い溶解度パラメータを有する。ハンセンの溶解度パラメータを用いてもよい。半導体材料および溶解促進剤は、いずれも3個のハンセンパラメータが与えられ、それぞれMPa1/2で測定され、δが分子間の分散結合エネルギー、δが分子間の極性結合エネルギー、δが分子間の水素結合エネルギーである。半導体材料の溶解度パラメータと溶解促進剤の溶解度パラメータとの相互作用距離(R)は、以下の式を用いて算出することができる。
=4(δdsc−δda+(δpsc−δpa+(δhsc−δha
【0040】
式中、δdscは半導体材料分子間の分散結合エネルギー、δdaは溶解促進剤分子間の分散結合エネルギー、δpscは半導体材料分子間の極性結合エネルギー、δpaは溶解促進剤分子間の極性結合エネルギー、δhscは半導体材料分子間の水素結合エネルギー、δhaは溶解促進分子間の水素結合エネルギーである。溶解促進剤の溶解度パラメータが半導体材料と近い場合、Rの値は非常に小さくなる。実施形態では、小さいRが特に選択される。実施形態では、Rは10MPa未満、8Mpa未満、5MPa未満、または1MPa未満である。別の実施形態では、δdsc−δdaの絶対値は、2.0MPa1/2未満または1.0MPa1/2未満である。
【0041】
半導体材料は通常、共役した芳香族コア(大きなδ)を有するが、極性基は全くまたはほとんど有しない(小さなδおよびδ)。特定の実施形態では、溶解促進剤は、δ+δが8MPa1/2未満、より具体的には4MPa1/2未満、δが18MPa1/2より大きく、より具体的には19MPa1/2より大きくなるように選択される。
【0042】
実施形態では、溶解促進剤は、3−クロロ−5−フルオロベンゾニトリル、ジクロロナフタレン、1−クロロ−4−(フェニルエチニル)ベンゼン、および1,4−ジクロロベンゼンからなる群から選択される。特定の実施形態では、溶解促進剤は、1,4−ジクロロベンゼンを含む。
【0043】
必要に応じて用いる結晶化抑制剤は、半導体インク組成物溶液から溶解促進剤が結晶化および沈殿するのを抑制または防止するように作用する、任意の所望のまたは好適な結晶化抑制剤であってもよい。実施形態では、必要に応じて用いる結晶化抑制剤が存在し、クロロナフタレン、テトラヒドロナフタレン、および1,2,4−トリクロロベンゼンからなる群から選択される。
【0044】
特定の実施形態では、半導体材料が下記一般式で表される化合物であり、液体溶剤が1,2−ジクロロベンゼンであり、溶解促進剤が1,4−ジクロロベンゼンであり、必要に応じて用いる結晶化抑制剤が存在し、1,2,4−トリクロロベンゼンである。
【0045】
【化10】

【0046】
半導体インク組成物は、液体溶剤、溶解促進剤、および必要に応じて用いる結晶化抑制剤を混合してその中に半導体材料を溶解させるなど、所望のまたは好適ないずれの方法で製造してもよい。
【0047】
実施形態では、半導体材料はいずれの形態で存在していてもよく、例えば、液体組成物中で、凝集体(例えばナノサイズの凝集体)、溶解分子、またはその組合せで存在していてもよい。
【0048】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、溶解促進剤を含めると、液体溶剤中での半導体材料の溶解性および溶液安定性が向上すると考えられる。溶解促進剤と半導体材料の溶解度パラメータが近いと、分子レベルでそれらの強力な相互作用が可能になる。溶解促進剤は液体溶剤への溶解性が良好なので、溶解促進剤/半導体ポリマー対(または複合体)を液体溶剤に溶解させて安定に維持することができる。
【0049】
いかなる理論にも拘束されるものではないが、結晶化抑制剤を含めると、溶解促進剤および/または半導体材料が室温で溶液から沈殿するのが防がれることにより、インク組成物の安定性が向上すると考えられる。実施形態では、溶解促進剤および半導体材料は、室温(すなわち20℃〜25℃、または25℃)で、少なくとも20分、少なくとも30分、または少なくとも1日、液体溶剤中に実質的に完全に溶解されたままである。実施形態では、溶解促進剤および半導体材料は、室温で、25分、少なくとも35分、または少なくとも1時間、実質的に完全に液体溶剤中に溶解したままである(「保存期間」という)。実施形態では、溶解促進剤および半導体材料は、いつまでも実質的に完全に液体ヒビクル中に溶解したままである。実施形態では、保存期間は、溶解促進剤を含まない同様な液体組成物よりもかなり長い。実施形態では、液体組成物の保存期間は、溶解促進剤を含まない同様な液体組成物よりも少なくとも50%長い。別の実施形態では、保存期間は、溶解促進剤を含まない組成物の2倍長いか、溶解促進剤を含まない組成物の10倍長い。
【0050】
半導体材料、液体溶剤、溶解促進剤、および必要に応じて用いる結晶化抑制剤は、所望のまたは効果的ないずれの量で存在してもよい。例えば、半導体材料は、液体組成物の全重量を基準にして、0.1〜10重量%、0.1〜2.0重量%、または0.1〜1.0重量%など、所望のまたは好適ないずれの量で存在してもよい。同様に、液体溶剤も、液体組成物の全重量を基準にして、20〜99重量%、30〜95重量%、または40〜90重量%など、任意の所望のまたは好適な量で存在していてもよい。溶解促進剤も、インク組成物の全重量を基準にして、0.1〜80重量%、1〜70重量%、または5〜60重量%など、任意の所望のまたは好適な量で存在していてもよい。同様に、必要に応じて用いる結晶化抑制剤も、インク組成物の全重量を基準にして、0.1〜20重量%、0.5〜10重量%、または1〜5重量%など、任意の所望のまたは好適な量で存在していてもよい。
【0051】
ある実施形態では、半導体インク組成物の粘度は2〜40センチポアズ、2〜15センチポアズ、または4〜12センチポアズである。この粘度はインクジェット印刷に適している。
【0052】
本明細書の半導体インク配合物は、ボトムゲート・ボトムコンタクト型トランジスタ、およびトップゲート型トランジスタなどの薄膜トランジスタに半導体層を形成するために用いることができる。半導体材料は、例えば水の前進接触角が60°〜70°である中程度の表面エネルギーのポリエチレンテレフタレートなどのプラスチック基板上に堆積させてよく、または、例えば水の前進接触角が90°〜110°である低表面エネルギーの疎水性ゲート誘電材料上に堆積させてもよい。前記配合物は、一般的に、トランジスタの表面に堆積された後、乾燥されて層を形成する。例示的な堆積方法としては、スピンコーティング、ディップコーティング、ブレードコーティング、ロッドコーティング、スクリーン印刷、スタンピング、インクジェット印刷、および当該技術分野で公知のその他の従来のプロセスなどの液相成長が挙げられる。実施形態では、堆積方法はインクジェット印刷である。得られる半導体層は、5〜1000ナノメートル厚、具体的には10〜100ナノメートル厚である。
【0053】
本明細書の半導体組成物は、従来の材料に対して有利である。例えば、本明細書の半導体組成物は、室温において安定性が高く、それにより、トランジスタデバイスを製造するための組成物層をスピンコーティングまたはインクジェット印刷するなど、半導体を加工し、それを用いて電子デバイスを製造するのに十分な時間が得られる。本発明のインク組成物により、室温で従来公知のインク組成物より約30倍長い保存期間を得ることができるため、高性能トランジスタ用の均質な半導体層のコーティングが可能となる。
【0054】
基板は、シリコン、ガラスプレート、プラスチックの膜またはシートなどの材料からなっていてもよいが、これらに限定されるものではない。構造的に可撓性のデバイスには、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドシートなどのプラスチック基板を用いてもよい。基板の厚さは、所望のまたは好適ないずれの厚さであってもよく、例えば、10マイクロメートルから10ミリメートルより厚くてもよく、例示的な厚さは、特に可撓性プラスチック基板では50マイクロメートル〜5ミリメートルであり、ガラスまたはシリコンなどの剛性基板では0.5〜約10ミリメートルである。
【0055】
ゲート電極は、電気伝導性材料を含む。ゲート電極は、金属薄膜、導電性ポリマー膜、導電性のインクもしくはペーストから作製された導電性膜、または基板自体、例えば高濃度にドープされたシリコンであってもよい。ゲート電極材料の例には、アルミニウム、金、銀、クロム、酸化インジウムスズ;ポリスチレンスルホン酸塩がドープされたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PSS−PEDOT)などの導電性ポリマー;およびカーボンブラック/グラファイトまたは銀コロイドを含む導電性インク/ペーストが含まれる。ゲート電極は、真空蒸着、金属または導電性金属酸化物のスパッタリング、従来のリソグラフィーおよびエッチング、化学蒸着法、スピンコーティング、キャスティングまたは印刷、またはその他の堆積プロセスにより作製されてもよい。ゲート電極の厚さは、金属膜では10〜500ナノメートル、導電性ポリマーでは0.5〜10マイクロメートルである。
【0056】
誘電体層は、一般的に、無機材料膜、有機ポリマー膜、または有機−無機複合膜であってもよい。誘電体層として好適な無機材料の例としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、バリウムジルコニウムチタン酸などが挙げられる。好適な有機ポリマーの例としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(ビニルフェノール)、ポリイミド、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、エポキシ樹脂などが挙げられる。誘電体層の厚さは、使用する材料の誘電率に依存するが、10〜500ナノメートルであってもよい。誘電体層の導電度は、1センチメートルあたり約10−12ジーメンス(S/cm)未満であってもよい。誘電体層は、ゲート電極の形成において記載されている方法など、当該技術分野で公知の従来のプロセスを用いて形成される。
【0057】
ソース電極およびドレイン電極としての使用に適した代表的な材料としては、金、銀、ニッケル、アルミニウム、白金、導電性ポリマー、導電性インクなどのゲート電極材料が挙げられる。特定の実施形態では、電極材料により、半導体に接触抵抗が低くなる。典型的な厚さは、40ナノメートル〜1マイクロメートルであり、より具体的な厚さは100〜400ナノメートルである。本開示のOTFTデバイスは、半導体チャネルを含む。半導体チャネルの幅は、5マイクロメートル〜5ミリメートル、より具体的には100マイクロメートル〜1ミリメートルであってもよい。半導体チャネルの長さは、例えば1マイクロメートル〜1ミリメートル、より具体的には5マイクロメートル〜100マイクロメートルであってもよい。
【0058】
ソース電極を接地し、例えば0〜80ボルトのバイアス電流をドレイン電極に印加し、ゲート電極に例えば+10ボルト〜−80ボルトの電圧を印加した時に半導体チャネルを横切って輸送された荷電キャリアを収集する。電極は、当該技術分野で公知の従来のプロセスを用いて形成または堆積させる。
【0059】
電気的特性を劣化させ得る光、酸素、湿気などの環境条件からTFTを保護するために、TFT上にバリア層を堆積させてもよい。そのようなバリア層は当該技術分野で公知であり、単純にポリマーからなっていてもよい。
【0060】
OTFTの種々の構成要素は、基板上にいずれの順序で堆積させてもよい。「基板上に」という用語は、各構成要素が直接基板に接触することを要求するものと解釈されるべきではない。この用語は、基板に対する構成要素の位置を記述するものと解釈されるべきである。一般的に、ゲート電極および半導体層はどちらも誘電体層に接触すべきである。さらに、ソース電極およびドレイン電極もどちらも半導体層に接触すべきである。本開示の方法により形成された半導体ポリマーを有機薄膜トランジスタの適切な任意の構成要素上に堆積して、有機薄膜トランジスタの半導体層を形成してもよい。
【実施例】
【0061】
比較例1
5ミリグラムのポリ(4,8−ジドデシル−2,6−ビス(3−ドデシルチオフェン−2−イル)ベンゾ[1,2−b:4,5−b′]ジチオフェン(PBTBT−12)(式(1))を、1.0グラムの1,2−ジクロロベンゼン溶媒に加熱して溶解させ、透明な赤褐色の溶液を形成させた。該溶液をオーブン中に80℃の等温で10分間維持した。溶液をオーブンから取り出し、実験台の上に置き、室温まで冷ました。溶液をオーブンから取り出して8分後に半導体ポリマーが沈殿し始めた。この8分の時間には80℃から室温への冷却時間も含まれる。室温における溶液の実際の保存期間は2〜3分未満であった。
【0062】
比較例2
5ミリグラムのPBTBT−12を1.0グラムの1,2,4−ジクロロベンゼン溶媒に加熱して溶解させ、透明な赤褐色の溶液を形成させた。溶液をオーブン中に80℃の等温で10分間維持した。溶液をオーブンから取り出し、実験台の上に置き、室温まで冷ました。溶液をオーブンから取り出して8分後に半導体ポリマーが沈殿し始めた。この8分の時間には80℃から室温への冷却時間も含まれる。室温における溶液の実際の保存期間は2〜3分未満であった。
【0063】
実施例1
5ミリグラムのPBTBT−12を、60重量%の1,4−ジクロロベンゼン(溶解促進剤)を含有する1,4−ジクロロベンゼンと1,2−ジクロロベンゼンの混合物1.0グラムに加熱して溶解させ、透明な赤褐色の溶液を形成させた。溶液をオーブン中に80℃の等温で10分間維持した。溶液をオーブンから取り出し、実験台の上に置き、室温まで冷ました。半導体ポリマーは溶液中で25分間安定であった。このことは、室温での安定性および保存期間の向上を示している。25分後、溶液から半導体ポリマーが沈殿し始めた。
【0064】
実施例2
5ミリグラムのPBTBT−12を、66重量%の1,4−ジクロロベンゼンを含有する1,4−ジクロロベンゼンと1,2−ジクロロベンゼンの混合物1.0グラムに加熱して溶解させ、透明な赤褐色の溶液を形成させた。溶液をオーブン中に80℃の等温で10分間維持した。溶液をオーブンから取り出し、実験台の上に置き、室温まで冷ました。半導体ポリマーは溶液中で35分間安定であった。35分後、溶液から半導体ポリマーが沈殿し始めた。
【0065】
実施例3
5ミリグラムのPBTBT−12を、66.7重量%の1,4−ジクロロベンゼンおよび6重量%のトリクロロベンゼンを含有する1,4−ジクロロベンゼンと1,2−ジクロロベンゼンと1,2,4−トリクロロベンゼンとの混合物1.0グラムに加熱して溶解させ、透明な赤褐色の溶液を形成させた。溶液をオーブン中に80℃の等温で10分間維持した。溶液をオーブンから取り出し、実験台の上に置き、室温まで冷ました。半導体ポリマーは溶液中で60分間安定であった。60分後、溶液から半導体ポリマーが沈殿し始めた。
【0066】
1,4−ジクロロベンゼンは、室温で固体であり、融点は約64℃である。1,4−ジクロロベンゼンを半導体組成物に添加することで、組成物の安定性が大きく向上した。理論により束縛されるものではないが、トリクロロベンゼンは半導体組成物の保存期間の延長を促進しないが、1,4−ジクロロベンゼンの結晶化の防止を促進する。したがって、この三成分の系は、1,4−ジクロロベンゼンを多量に充填することを可能にし、半導体ポリマー組成物の安定性をさらに向上させる。
【0067】
実施例4
実施例3の半導体インク配合物を用いて薄膜トランジスタを作製した。厚さ約200ナノメートルの熱成長させた酸化シリコン層を有するnドープシリコンウエハを用いた。ウエハは、基板およびゲート電極として機能する。酸化シリコン層は、ゲート誘電体層として働き、静電容量は約15nF/cmである。シリコンウエハを、最初にイソプロパノール、アルゴンプラズマ、およびイソプロパノールで洗浄し、次いで風乾した。次いで、ウエハを、0.1Mドデシルトリクロロシランのトルエン溶液に60℃で20分間浸漬し、誘電表面を修飾した。実施例3の組成物を、修飾した酸化シリコン表面の上にスピンコーティングした後、70℃のオーブン中で乾燥させた。半導体層上に金のソース電極およびドレイン電極を真空蒸着してデバイスを完成させた。
【0068】
環境条件下で、Keithley 4200 SCSを用いてトランジスタを特徴解析した。これらのトランジスタは、電界効果移動度が0.2〜0.24cm/Vsecであり、電流オンオフ比が10を超えていた。このことは、1,4−ジクロロベンゼンの添加がデバイスの性能に悪影響を与えないことを示している。
【0069】
種々の上記開示およびその他の特徴および機能、またはその代替物を、その他多くのさまざまなシステムまたは用途と望ましく組み合わせてもよいと理解される。また、その中で、現在予測不可能なまたは予期されない代替物、変形例、変更例、または改良が今後当業者によりなされることがあり、これらも添付の特許出願の範囲に包含されることが意図される。特許出願の範囲で特に記載していない限り、特許出願の範囲の工程または構成要素は、いかなる特定の順序、数、位置、サイズ、形状、角度、色、または材料に関しても、本明細書または任意のその他の請求項から示唆または意味されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物を含む半導体材料;
液体溶剤;および
前記半導体材料の溶解性を高める溶解促進剤
を含む液体組成物であって、
前記溶解促進剤が、前記液体溶剤中に溶解可能である、液体組成物。
【化1】

(一般式(I)中、Aは二価の連結基であり;RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、ヘテロ原子含有基、ハロゲン、パーハロアルキル、アルコキシアルキル、シロキシル置換アルキル、およびポリエーテルから選択され;nは2〜5,000の整数である。)
前記二価の連結基が、下記式、またはその組合せで表され、
【化2】

【化3】

(式中、R′およびR″は、それぞれ独立に、水素、アルキル、置換アルキル、アリール、置換アリール、ヘテロアリール、ハロゲン、−CN、および−NOから選択される。)
【請求項2】
前記溶解促進剤のハンセン溶解度パラメータが、前記半導体材料のハンセン溶解度パラメータと近い、請求項1に記載の液体組成物。
【請求項3】
前記溶解促進剤の分子間の分散結合エネルギー(δ)が18MPa1/2より大きく、分子間の極性結合エネルギー(δ)と分子間の水素結合エネルギー(δ)との合計が8MPa1/2未満である、請求項1または請求項2に記載の液体組成物。
【請求項4】
前記半導体材料の溶解度パラメータと前記溶解促進剤の溶解度パラメータの相互作用距離がRであり、Rが8MPa未満である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項5】
前記半導体材料分子間の分散結合エネルギーがδdscであり、前記溶解促進剤分子間の分散結合エネルギーがδdaであり、δdsc−δdaの絶対値が2.0MPa1/2未満である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項6】
前記溶解促進剤が、3−クロロ−5−フルオロベンゾニトリル、ジクロロナフタレン、1−クロロ−4−(フェニルエチニル)ベンゼン、または1,4−ジクロロベンゼンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項7】
さらに結晶化抑制剤を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の液体組成物。
【請求項8】
前記結晶化抑制剤が、クロロナフタレン、テトラヒドロナフタレン、および1,2,4−トリクロロベンゼンからなる群から選択される、請求項7に記載の液体組成物。
【請求項9】
基板と、
ゲート電極と、
ゲート誘電体層と、
ソース電極と、
ドレイン電極とを含み、
前記ソース電極および前記ドレイン電極と前記ゲート誘電体層とに接触した半導体層を含む半導体デバイスであって、
前記半導体層が、下記一般式(I)で表される化合物、液体溶剤、および前記半導体材料の溶解性を高める溶解促進剤
を含む、半導体デバイス。
【化4】

(一般式(I)中、Aは二価の連結基であり、RおよびRは、それぞれ独立に、水素、アルキル、置換アルキル、アルコキシ、置換アルコキシ、ヘテロ原子含有基、ハロゲン、パーハロアルキル、アルコキシアルキル、シロキシル置換アルキル、およびポリエーテルから選択され;nは2〜5,000の整数である。)
【請求項10】
前記半導体層が、さらに結晶化抑制剤を含む、請求項9に記載の半導体デバイス。

【公開番号】特開2011−40751(P2011−40751A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179867(P2010−179867)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】