説明

半導体装置

【課題】 IGBTのようなMOS型デバイスを気密構造の平型パッケージに実装した半導体装置に関し、内部での縁面放電を皆無にすることを目的とする。
【解決手段】 IGBTチップ1のエミッタ電極が配置された面の外周にはガードリング部2が形成されており、そのガードリング部2を覆うようにして額縁状の絶縁フィルム3が接着されている。この絶縁フィルム3の外形寸法はIGBTチップ1の外形寸法よりも大きく形成され、その外周端部はチップ端面4よりも必ず外側に出るようにしてIGBTチップ1に接着される。これにより、チップ端面4とエミッタ電極との間の縁面距離が延長され、電界強度の影響を緩和することができ、放電耐量が上がる。たとえ絶縁フィルム3に微小な金属粉が乗ったとしても、それによる電界強度の変化はないので、縁面放電が発生することはない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は半導体装置に関し、特に絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)などのパワーデバイスを対象に、基板の一主面に第1の主電極(エミッタ電極)および制御電極(ゲート電極)、別な主面に第2の主電極(コレクタ電極)を有する半導体チップを外気と完全に気密が保持された構造の平型セラミックパッケージ内に組み込んだ半導体装置に関する。
【0002】
【従来の技術】IGBTは、MOS(金属酸化物半導体)型FET(電界効果トランジスタ)とバイポーラトランジスタとの特性を併せ持った素子であり、パワースイッチングデバイスとしてモータを制御するインバータの応用などに幅広く使われている。さらに、最近では電圧駆動型で使いやすく、また、安全動作領域が広くて壊れにくいという特長から、従来のGTO(ゲート・ターン・オフ)サイリスタの領域である大容量領域までIGBTの用途が広がりつつある。
【0003】このIGBTのようなMOS制御デバイスでは、チップの製造プロセスがGTOサイリスタなどと違って、数ミクロンからサブミクロンの精度が要求されるので、大きなウエーハをそのままデバイスとして使用する工程は良品率の関係から採用できなくて、10mmから28mm角程度のチップを複数個並列に実装することが必要である。
【0004】また、このようなIGBTのようなMOS制御デバイスでは、半導体チップの一主面上にエミッタ電極とゲート電極とが並んで作られている。このために一般的なモジュール構造ではIGBTチップをパッケージ容器に組み込む場合に、下面側に作られたコレクタは、IGBTを放熱体兼用の金属ベース上にマウントして外部に引き出し、エミッタ電極とゲート電極とは別々に外部導出端子を介して引き出すことにより、パッケージ内部に実装する。その後、プラスチックパッケージを外部に設け、その中に放電防止のためにゲルなどのシリコーン系樹脂を封入する。
【0005】しかしながら、IGBTをGTOサイリスタのような平型セラミックパッケージに組み込んだ平型IGBTでは、セラミックパッケージを使用し、窒素を封入して完全に気密を保つ形を採っている。したがって、平型IGBTはゲルなどを注入できるような構造でないため、別な放電対策が必要である。このため、従来では、チップの縁面放電を防ぐためにエミッタ側の主電極から縁面までのチップ表面を不動態化することが行われている。これはポリイミドを10ミクロン程度塗布することでパッシベーション膜を形成し、これによって、チップのエッジにかかる電界強度を弱めるようにしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、IGBTのチップは複数のチップが形成された1枚のウエーハをダイシングにより切断、分離することにより得られるが、その際あるいはその後の加工の際にチップに微小な削り屑あるいは微小な金属粉が付着していることがある。平型IGBTのチップ端面の構造では、チップエッジと主電極との間はポリイミド膜にて保護されているが、組み立ての際などでそのポリイミド膜の上に上記のような金属粉などの異物が乗ることがある。ポリイミド膜に金属粉などが乗ると、その部分の電界強度が強くなり、実デバイスの放電耐量が低下してそこで放電が発生したり放電によりチップが破壊したりするという問題点があった。
【0007】本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、IGBTのようなMOS型デバイスを複数個、平型パッケージに実装する上で、内部での縁面放電を皆無にした半導体装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明では上記問題を解決するために、第1の主面に第1の主電極および制御電極、第2の主面に第2の主電極を有するMOS制御型半導体チップを気密構造の平型パッケージに組み込んだ半導体装置において、前記第1の主面のチップエッジ部に外形寸法が少なくともチップ外形寸法よりも大きい絶縁性の樹脂フィルムを接着したことを特徴とする半導体装置が提供される。
【0009】このような半導体装置によれば、絶縁性の樹脂フィルムとチップとの相対位置は、樹脂フィルムがチップよりも必ず外側に突き出る構造としたことにより、チップ端面と主電極との間の縁面距離が伸び、放電耐量を上げることができる。また、たとえ樹脂フィルムに金属粉などの導電性の異物が乗っても、縁面放電を誘発するような電界強度の急変がないため、あらゆるパッケージ内部の雰囲気に対して安定した動作を確保することができ、信頼性を向上させることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、複数のIGBTチップを搭載した加圧接触構造を有する平型パワーパックに適用した場合を例に図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】図1は本発明を適用したIGBTチップの構成を示す図であって、(A)はチップの平面図、(B)はチップのa−a矢視側面図である。図1において、IGBTチップ1は上面に第1の主電極であるエミッタ電極と制御電極であるゲート電極(図示せず)が配置され、下面は第2の主電極であるコレクタ電極を構成している。IGBTチップ1の上面には、その外周に沿ってガードリング部2が形成されている。そのガードリング部2を覆うようにして額縁状の絶縁フィルム3が形成されている。この絶縁フィルム3の外形寸法はIGBTチップ1の外形寸法よりも大きく形成され、絶縁フィルム3をIGBTチップ1に接着するときには、絶縁フィルム3の外周端部がチップ端面4よりも必ず外側に飛び出した状態になるよう正確に位置合わせが行われる。このように、絶縁フィルム3を外周がチップ端面4より外側に出るよう設けたことにより、チップ端面4とエミッタ電極との間の縁面距離が延長されるため、電界強度の影響が緩和され、素子自身の持つ耐圧よりも少なくとも500ボルトは放電耐量が上がる。したがって、絶縁フィルム3の外側に飛び出す長さの量は、必要な絶縁耐圧で決定される。
【0012】なお、パワーパックには、複数個のIGBTチップ1が搭載されるが、これらのIGBTチップ1と同時に複数個のフライホイールダイオードチップも内蔵される。このフライホイールダイオードチップについてもIGBTチップ1と同様に、その主電極であるアノード電極のある上面の外周に同様の絶縁フィルムが接着される。
【0013】図2はIGBTチップの実装例を示すパワーパックの断面図である。図2において、モリブデン(Mo)基板5は、その上面に碁盤の目状に形成された溝部6を有している。その溝部6には耐熱性の樹脂によって形成された枡目状の位置決めガイド7が嵌合されている。それぞれ絶縁フィルム3が接着されたIGBTチップ1は位置決めガイド7によって規定されたMo基板5上に実装される。このとき、IGBTチップ1はコレクタ電極を下にして絶縁フィルム3を位置決めガイド7の内壁面に沿って摺動させながら位置決めガイド7によって囲まれた空間に挿入される。したがって、このIGBTチップ1の実装の際には、絶縁フィルム3がIGBTチップ1のチップ端面4より外側に突出していることにより、チップ端面4は位置決めガイド7の内壁面に直接接触することがなく、接触によるIGBTチップ1の物理的損傷が防止されることになる。このため、絶縁フィルム3は自身の曲がりを回避するために柔軟性のある材料および厚さが必要となる。また、IGBTチップ1は絶縁フィルム3を介して位置決めされるために、熱膨張率の違いで発生したチップ端面4に対する熱応力が絶縁フィルム3で吸収され、しかもIGBTチップ1にたとえば振動などが発生したとしても絶縁フィルム3が介在していることにより、チップ端面4が位置決めガイド7と擦れることはなく、安定した状態を保つことができる。さらに、IGBTチップ1のエミッタ電極に対応する位置に、モリブデン製のエミッタ端子8が配置されている。IGBTチップ1はこのエミッタ端子8とMo基板5とにより上下から加圧接触によってそれぞれ主電極に電気的に接続されることになる。なお、IGBTチップ1のゲート電極は位置決めガイド7の外側に周設されたセラミック基板上の配線パターンにそれぞれワイヤボンディングすることにより外部に導かれるエミッタ端子8は中間の高さ位置につば状突起を有し、それを介して位置決めガイド7内に正確に位置決めされている。このエミッタ端子8はIGBTチップ1の微細なパターンに対して上から加圧することになるので、エミッタ端子8とIGBTチップ1とが正確に位置合わせされていなければならない。エミッタ端子8は位置決めガイド7により正確に位置決めされるが、IGBTチップ1の位置決めは絶縁フィルム3を介して行われるため、絶縁フィルム3のIGBTチップ1への接着はエミッタ端子8との相対位置を考慮して正確に位置合わせを行った上で行わなければならない。
【0014】図3はIGBTチップへ絶縁フィルムを接着する工程を示す説明図であって、(A)はチップの位置合わせ状態を示し、(B)は熱圧着動作状態を示し、(C)は絶縁フィルムの接着後の状態を示している。IGBTチップ1は耐圧の安定確保のためのパッシベーション膜にポリイミドを用いている場合には、絶縁フィルム3としてポリイミド系の樹脂が使用される。絶縁フィルム3をポリイミド系とすることにより、IGBTチップ1への接着には熱圧着方法を用いることができる。絶縁フィルム3はIGBTチップ1の位置決めガイド7への挿入のときにフィルム自体の曲がりを回避するため、少なくとも30ミクロンの厚さは必要となる。
【0015】IGBTチップ1と絶縁フィルム3との相対位置を規定するために、位置合わせ用の基台10が使用される。この基台10の上面には、その中央にIGBTチップ1を嵌め込む凹部が形成され、外周には絶縁フィルム3を嵌め込むリング状規制部材が設けられている。この凹部およびリング状規制部材はエミッタ端子8とIGBTチップ1との相対位置に合わせて位置決めされている。
【0016】まず、(A)に示したように、基台10の中央にある凹部にIGBTチップ1を嵌め込み、上から絶縁フィルム3をリング状規制部材の中に挿入する。次に、(B)に示したように、下面が絶縁フィルム3の形状に合わせてリング状の端面形状を有する加熱装置11を降下させ、絶縁フィルム3を加圧する。これにより、絶縁フィルム3はIGBTチップ1のポリイミドを用いたパッシベーション膜に接着され、(C)に示したように、絶縁フィルム3が接着されたIGBTチップ1を得ることができる。これにより、絶縁フィルム3は±50ミクロン程度の位置決め精度を以てIGBTチップ1に接着することができる。
【0017】図4はIGBTチップの放電耐圧特性を示す図である。図4において、横軸はIGBTチップの測定雰囲気の気圧を示し、縦軸は気中放電を開始する最低電圧であるIGBTチップの耐圧を示している。試料としては、アバランシェ耐圧が3000ボルト程度のIGBTチップを使用した。
【0018】ここで、曲線20は参考のために絶縁フィルムがなく、パッシベーション膜に金属粉が乗っていない状態でのIGBTチップの耐圧変化特性を示している。この特性から、IGBTチップのエミッタ側のパッシベーション膜付近とコレクタ側のチップ端面との間で発生する放電は気圧が減少するに連れて直線的に低下していることが分かる。この結果から、パワーパック内は通常窒素によって1.01×105 Pa以上の圧力に保持されていることから、1.01×105 Paより低い雰囲気で放電が発生しなければ、高い耐放電性を有していると言える。
【0019】曲線21は絶縁フィルムがなく、パッシベーション膜に500μmの大きさの金属粉を載せた状態でのIGBTチップの耐圧変化特性を示している。この特性から、実際の使用時に近い1.01×105 Pa付近の放電耐圧は大きく減少していることが分かる。
【0020】曲線22は絶縁フィルムがあり、この絶縁フィルムに500μmの大きさの金属粉を載せた状態でのIGBTチップの耐圧変化特性を示している。この特性から、絶縁フィルムを接着したことにより、たとえ、金属粉が乗った状態でも気圧が0.202×105 Paまで低下しても放電は発生せず、良好な耐放電性を示していることが分かる。
【0021】
【発明の効果】以上説明したように、本発明では、セラミックパッケージに気密封止されたMOS型のマルチチップ半導体装置において、チップエッジ部に外形寸法が少なくともチップ外形寸法よりも大きい絶縁性の樹脂フィルムを接着する構成とした。これにより、チップ端面と主電極との間の縁面距離が延長され、その間の電界強度が緩和されることにより放電耐量を上げることができ、たとえ、微小金属粉などが混入するなどの劣悪な環境要因があっても絶縁耐圧を減少させることはなくなり、半導体装置の信頼性を向上させることができる。
【0022】また、樹脂フィルムはチップ外形寸法よりも大きいため、チップを位置決めガイドを利用して実装するときのチップの位置決め機能を有し、位置決めガイドとは所定距離だけ隔離されているため、チップが位置決めガイドと接触したり応力を受けることはなくなり、チップの安定状態を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用したIGBTチップの構成を示す図であって、(A)はチップの平面図、(B)はチップのa−a矢視側面図である。
【図2】IGBTチップの実装例を示すパワーパックの断面図である。
【図3】IGBTチップへ絶縁フィルムを接着する工程を示す説明図であって、(A)はチップの位置合わせ状態を示し、(B)は熱圧着動作状態を示し、(C)は絶縁フィルムの接着後の状態を示している。
【図4】IGBTチップの放電耐圧特性を示す図である。
【符号の説明】
1 IGBTチップ
2 ガードリング部
3 絶縁フィルム
4 チップ端面
5 モリブデン(Mo)基板
6 溝部
7 位置決めガイド
8 エミッタ端子
10 基台
11 加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 第1の主面に第1の主電極および制御電極、第2の主面に第2の主電極を有するMOS制御型半導体チップを気密構造の平型パッケージに組み込んだ半導体装置において、前記第1の主面のチップエッジ部に外形寸法が少なくともチップ外形寸法よりも大きい絶縁性の樹脂フィルムを接着したことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】 前記樹脂フィルムが接着される前記第1の主面の領域にポリイミド膜が塗布されていることを特徴とする請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】 前記樹脂フィルムはポリイミド系の樹脂とし、前記ポリイミド膜とは熱圧着によって接着されていることを特徴とする請求項2記載の半導体装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開平11−251339
【公開日】平成11年(1999)9月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−51870
【出願日】平成10年(1998)3月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1997年9月26日 社団法人電気学会開催の「電気学会研究会」において文書をもって発表
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)