説明

印刷物の堅牢性評価装置、印刷物の堅牢性評価方法

【課題】 インクジェットデバイスとインクを用いて形成された印刷物についても初期段階の堅牢性が評価可能で、かつデータの取得が比較的簡便・短時間で可能な印刷物堅牢性の評価方法を提供すること。
【解決手段】 被印刷媒体上にインクジェットデバイスとインクを用いて画像や文字が形成されている印刷物の堅牢性を評価するための方法であって、画像や文字が形成されていない、評価される印刷物と同一の被印刷媒体を試験片として、印刷物の印刷面に該試験片を接触させ、均一の荷重を負荷させた状態で試験片を所定の回数だけ摩擦し、それによる試験片の摩擦面の光学濃度の変化量と、印刷物の摩擦面の光沢度の変化量を測定し、該測定値および該測定値から算出される評価値と、あらかじめ定めた任意の基準値とを比較する事で堅牢性を評価する事を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の擦過性や耐久性といった堅牢性の評価方法、印刷物の堅牢性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷物の擦過性や耐久性といった堅牢性の評価方法においては、印刷面を摩擦し、その摩擦面を目視で観察するという方法が多く用いられている。例えばJIS K5701「6.2.3 耐摩擦性」には印刷面の摩擦法の一例が規定されており、これに基づき摩擦を行った後、検査官が印刷物の摩擦面の変化を官能的に評価、数値化する手法が一般的である。
【0003】
しかし、このような官能的な方法では評価の基準が一定せず、測定データの客観性及び再現性に難がある場合が多い。また目視による判断は比較的容易に擦過性評価ができるように考えられるが、試験条件を統一するためや正確なデータを得るために結局多大な労力を要しなければならない事も多い。
【0004】
これを改善する為に特許文献1には、摩擦荷重を変動させる機構と、摩擦力を検出する機構とを備えた摩耗試験機を用いて、印刷面と、印刷前の印刷用紙とを摩擦し堅牢性を評価する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−125957号公報(段落番号〔0005〕、〔0006〕)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら先に示した従来の技術においては以下のような課題が生じることがあった。
【0007】
すなわち特許文献1で提案されている方法では、堅牢性を評価するために摩擦回数と摩擦力の関係を測定しているが、摩擦力の変化が検知されるよりも前に実画像に変化が生じる場合がある。
【0008】
すなわちごく初期段階での堅牢性について違いが検出できない場合があり、特にインクジェットデバイスとインクを用いて形成された印刷物についてその傾向が顕著な場合があった。
【0009】
また摩擦力の変動が検出されるのはある程度画像の劣化が進行してからであり、データを取得するのに非常に長時間かかる場合もある。
【0010】
そこで本発明の目的は、インクジェットデバイスとインクを用いて形成された印刷物についても初期段階の堅牢性が評価可能で、かつデータの取得が比較的簡便・短時間で可能な印刷物堅牢性の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは先述した背景技術を深く鑑み、鋭意検討の結果、以下に示す構成の印刷物の堅牢性評価装置と印刷物の堅牢性評価方法が、印刷物の堅牢性評価装置と印刷物の堅牢性評価方法として課題に対し優れた性能を有することを見出し、本発明を成すに至った。
【0012】
すなわち、被印刷媒体上にインクジェットデバイスとインクを用いて画像や文字が形成されている印刷物の堅牢性評価装置であって、
画像や文字が形成されていない、評価される印刷物と同一の被印刷媒体を試験片として、印刷物の印刷面に該試験片を接触させ、
均一の荷重を負荷させた状態で試験片を所定の回数だけ摩擦し、それによる試験片の摩擦面の光学濃度の変化量と、印刷物の摩擦面の光沢度の変化量を測定し、
該測定値および該測定値から算出される評価値と、あらかじめ定めた任意の基準値とを比較する事で堅牢性を評価する事を特徴とする印刷物の堅牢性評価装置を提供することであり、
又、被印刷媒体上にインクジェットデバイスとインクを用いて画像や文字が形成されている印刷物の堅牢性を評価するための方法であって、画像や文字が形成されていない、評価される印刷物と同一の被印刷媒体を試験片として、印刷物の印刷面に該試験片を接触させ、均一の荷重を負荷させた状態で試験片を所定の回数だけ摩擦し、それによる試験片の摩擦面の光学濃度の変化量と、印刷物の摩擦面の光沢度の変化量を測定し、該測定値および該測定値から算出される評価値と、あらかじめ定めた基準値とを比較する事で堅牢性を評価する事を特徴とする印刷物の堅牢性評価方法を提供する事で前記課題を解決する事ができる。
【0013】
本発明がこのように優れた性能を有する理由は明確ではないが、本発明者らは以下のように推測している。
【0014】
目視によって画像の変化を検知する感度や、摩擦力の検出機構の感度に比べ、光学濃度の測定感度は極めて高い。本発明者らは検討の結果、その中でも特に印刷物をその被印刷媒体を試験片として摩擦した時の試験片の摩擦面の光学濃度変化が、最も鋭敏に摩擦による印刷面の変化、即ち堅牢性を検出できる事を見出した。
【0015】
またその傾向は特にインクジェットデバイスとインクを用いて画像や文字が形成された印刷物の表面について顕著な場合が多い。
【0016】
またそれとともに本発明者らは、摩擦前後の印刷物表面の光沢度が堅牢性に対し強い相関を有する場合がある事を見出した。
【0017】
従来の堅牢性の評価方法においては、画像や文字そのもの、言い換えればインク(色材)の存在する部分の摩擦による変化のみに注目したものが多かった。
【0018】
しかし本発明者らは、中でもインクジェットデバイスとインクを用いて形成された印刷物については特に、被印刷媒体も含めた摩擦による変化について評価を行う事でより的確に堅牢性の評価が可能であるとの知見を得た。
【0019】
そこで被印刷媒体も含めた摩擦による変化を総合的に鋭敏かつ簡易に定量化する手法として、摩擦後の印刷物表面の光沢度を測定することに想到した。
【発明の効果】
【0020】
従って上述した通り、印刷物をその被印刷媒体で摩擦した時の試験片の光学濃度と、摩擦後の印刷物表面の光沢度を測定することで、インクジェットデバイスとインクを用いて形成された印刷物についても初期段階の堅牢性が評価可能で、かつデータの取得が比較的簡便・短時間で可能な印刷物堅牢性の評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】摩擦試験機の概要を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明にかかる印刷物堅牢性の評価方法の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0023】
表1に示す各種組み合わせの印刷物イ〜ハを作成し、本発明にかかる方法を用いてその堅牢性の評価を行った。全ての印刷物は市販の顔料インク搭載型インクジェットプリンタにより作成した。被印刷媒体としてはインクジェット専用コート紙を用いた。
【0024】
【表1】

【0025】
評価に用いた摩擦試験機の概要を図1に示す。本例では井元製作所社製の摩擦試験機、耐摩耗試験機Aを一部改造した物を用いた。これはJIS L0849に規定されている摩擦試験機II型(通称学振形摩擦試験機)に準拠している。
【0026】
試験片2として画像や文字が形成されていない初期状態の被印刷媒体をアーム先端の荷重部1に取り付け、また印刷物3として表1に示した各種印刷物を、荷重が摺動するステージ部に固定した。本試験機においては固定する部分が両方ともかまぼこ型形状をしており、試験片2と印刷物3との接触面積はおおよそ60mmであった。
【0027】
なお、本発明に用いられる摩擦試験機については特に限定は無く、趣旨を損なわない物であれば全て好適に用いられる。即ち印刷物の印刷面に試験片を接触させ、均一の荷重を負荷させた状態で試験片を所定の回数だけ摩擦し、その後印刷物と試験片を各測定に供する事ができればよい。具体的には上述の摩擦試験機II型以外にクロックメーター(染色堅牢度試験機)を一部改造した物も好適である。
【0028】
荷重1を500g(アーム等の重量も含む)に設定し、印刷物3が固定されたステージを往復運動させる事で摩擦を行った。この時荷重1を支持するアームは上下方向に自由に可動なため、試験片2は荷重1によって常に均一の力で印刷物3表面に押し付けられる。
【0029】
そして所定の回数毎に試験片2の摩擦面の光学濃度と、印刷物3の摩擦面の光沢度を測定し、その変化量を求めた。
【0030】
光学濃度の測定手法については、広く一般に知られている各種手法がいずれも好適に用いる事ができる。ISO 13660にはグラフィック画像に関する画質属性の1つとして光学濃度を測定する方法が規定されており広く用いられている。本実施例においてはISO 13660に準拠した米国QEA社製の画像品質評価システム、Personal IASを用いて光学濃度を測定した。
【0031】
また光沢度についても、広く一般に知られている各種測定手法がいずれも本発明には好適に用いられる。例としてJIS Z8741には、試料面に規定された入射角で規定の開き角の光束を入射し、鏡面反射方向に反射する規定の開き角の光束を受光器で測る方式の光沢度測定手法が規定されている。本実施例においては堀場製作所社製の光沢計、IG−330を用い光沢度(60°光沢度)の測定を行った。
【0032】
表2に各測定値と評価値、さらに参考として、同一条件の印刷物を旧来の手法で印刷物の摩擦面を○、△、×の3段階に目視官能評価した結果を示す。ここでいう評価値とは下記の式1により一意に求めたパラメータである。
【0033】
【表2】

【0034】
式1
評価値={(光学濃度の変化量)×A+B}×{(光沢度の変化量)×C+D}
本例におけるA=−50
本例におけるB=10
本例におけるC=0.2
本例におけるD=10
式1中の係数A、B、C、Dは、その評価対象や目的、判断基準に応じ適宜最適化して用いることができる。例えば光学濃度の変化について重要視しない用途であればAの値を低くすれば良いし、光沢度が変化した方が好ましくない場合はCの符号を反転させる、等といった事が考えられる。
【0035】
本例においては「光学濃度の変化」と「光沢度の変化」のどちらも同程度重視し、初期値が100となるように係数A、B、C、Dを設定した。
【0036】
表2の結果からわかる通り、旧来の印刷物の摩擦面を目視官能評価する方法に比べ、本発明に因ればより鋭敏に初期段階からその変化が検出可能であった。
【0037】
上記の通り、本発明に係る評価方法を用いることで、初期段階を含めた印刷物の堅牢性が、鋭敏に精度良く、かつ比較的簡便・短時間に可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1 荷重
2 試験片
3 印刷物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷媒体上にインクジェットデバイスとインクを用いて画像や文字が形成されている印刷物の堅牢性評価装置であって、
画像や文字が形成されていない、評価される印刷物と同一の被印刷媒体を試験片として、印刷物の印刷面に該試験片を接触させ、
均一の荷重を負荷させた状態で試験片を所定の回数だけ摩擦し、それによる試験片の摩擦面の光学濃度の変化量と、印刷物の摩擦面の光沢度の変化量を測定し、
該測定値および該測定値から算出される評価値と、あらかじめ定めた任意の基準値とを比較する事で堅牢性を評価する事を特徴とする印刷物の堅牢性評価装置。
【請求項2】
被印刷媒体上にインクジェットデバイスとインクを用いて画像や文字が形成されている印刷物の堅牢性を評価するための印刷物の堅牢性評価方法であって、
画像や文字が形成されていない、評価される印刷物と同一の被印刷媒体を試験片として、印刷物の印刷面に該試験片を接触させる接触工程と、
均一の荷重を負荷させた状態で試験片を所定の回数だけ摩擦し、それによる試験片の摩擦面の光学濃度の変化量と、印刷物の摩擦面の光沢度の変化量を測定する測定工程と、
該測定値および該測定値から算出される評価値と、あらかじめ定めた任意の基準値とを比較する比較工程とを有する事を特徴とする印刷物の堅牢性評価方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−217007(P2010−217007A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64429(P2009−64429)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】