説明

印刷用塗工紙

【課題】オフセット印刷の枚葉機で両面印刷する場合に特有の印刷トラブルであるグロスゴーストを抑制でき、かつ印刷光沢が低下しない印刷用塗工紙を提供する。
【解決手段】基紙上の両面に、顔料を含有する塗工層を少なくとも2層以上塗設してなる印刷用塗工紙において、各々の最表層の塗工層がTg−20℃以上20℃未満のラテックスを含有し、各々の最表層の塗工層に隣接する塗工層がTg20℃以上60℃以下のラテックスを含有し、片面あたりの最表層の塗工層の塗工固形分質量が5g/m以上20g/m以下であることを特徴とする印刷用塗工紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機に用いる両面の印刷用塗工紙に関する。特に、枚葉紙を使用したオフセット印刷で従来問題となっているグロスゴースト(後刷りした印刷面に先刷りした印刷面の画像に相当する模様が現れる現象をいう。)を軽減する両面の印刷用塗工紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チラシ、パンフレット、カタログ等の商業印刷物や、書籍、雑誌等の出版印刷物を印刷する場合の現在主力となっている印刷方式はオフセット印刷である。オフセット印刷機には、枚葉紙を印刷する枚葉機と、巻き取り紙を印刷する通称オフ輪機と呼ばれるものがある。
【0003】
枚葉機で使用されるインキとして酸化重合タイプのインキを使用し、用紙の両面を同一工程で印刷する両面機と呼ばれるタイプも存在するが、通常用紙の片面を印刷して、その印刷後に印刷面のインキが乾燥したら用紙を反転させて反対面を印刷する。反対面のインキが乾燥したら、断裁、製本等の後工程作業を行い製品化する。
【0004】
枚葉機で両面印刷する場合に特有の印刷トラブルとしてグロスゴーストがある。グロスゴーストとは後刷りした印刷面に先刷りした印刷面の画像に相当する模様が現れる現象をいう。先刷りした印刷面のインキが後刷りした印刷面のインキと重なり接することで後刷りインキの乾燥に影響を与え、結果として後刷りした印刷面の画像部において、先刷りした印刷面の画像部と接する部分に光沢差が発生し、後刷りした印刷面の画像部に模様が浮き出てしまう現象である(例えば、非特許文献1参照)。グロスゴーストは、印刷物の美観を著しく損なってしまい、結果的に商品価値を低下させてしまう。
【0005】
グロスゴーストを軽減させる従来方法としては、印刷機側の印刷作業操作により調整する方法が取られている(例えば、非特許文献1および2参照)。例えば、後刷りした印刷面の乾燥に影響しないように先刷りした印刷面のインキの乾燥を促進させる方法である。この方法では、先刷りした印刷面がインキセットした状態に達した段階で「風入れ」と呼ばれる作業を行うことで新鮮な空気を用紙の間に導入し、インキ中の油成分の酸化重合を促進させてインキの乾燥を速める。インキセットした状態とは、印刷面のインキの表面を指で触れても指にはインキが付着しないが、強く擦ったりするとインキが取れてしまうインクの乾燥途中の段階であって、完全にインキが乾燥し硬化している状態に達していない状態をいう。
【0006】
また、グロスゴーストを目立たなくするための従来方法としては、「ベタ面先刷り」という手法が知られている(例えば、非特許文献1および2参照)。「ベタ面先刷り」とは、用紙の表面と裏面に印刷する画像を考慮して、ベタ部分若しくは色彩の濃い部分の面積が広い画像またはベタ部分若しくは色彩の濃い部分が多数存在する画像を印刷する面を先に印刷する方法である。
【0007】
しかしながら、印刷機側の印刷作業操作による対応では、印刷オペレーターの作業量を増大させ、また、これらの対応を行ってもグロスゴーストを防げるか否かは印刷をしてみないと分からないという問題点がある。グロスゴーストが発生した場合には、刷り直しまたは値引きによる損失や納期の遅れが生じる場合もあり、印刷会社の生産性を大きく低下させてしまう。以上のことから、グロスゴースト軽減について用紙側による対応が求められているが、用紙側による対応は未だに実施されていない現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】東京洋紙協同組合、[online]、Q&A/印刷豆知識/枚葉印刷でおこりやすいトラブル/グロスゴースト、[平成22年12月14日検索]、インターネット<URL:http://www.tykk.com/tykk/q_and_a/mame/maiyo/index.html>
【非特許文献2】照井義行著、「オフセット印刷ブック 印刷の知識と技術の継承」、株式会社印刷出版研究所、平成19年9月20日発行、p.153
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的な印刷用塗工紙は、白紙光沢のレベルにより低い方から、マット紙、ダル紙、グロス紙に分類される。しかしながら、視認性や鮮鋭性の点で、マット紙であっても印刷光沢については高くなる印刷用塗工紙が求められている場合が多い。ましてやグロス紙で印刷光沢の低い印刷用塗工紙は商品性が著しく損なわれる。
【0010】
グロスゴーストは、両面印刷後に先刷りした印刷面のインキが後刷りした印刷面のインキに重なり接することで後刷りした印刷面のインキの乾燥に影響を与え、結果として後刷りした印刷面の画像部において、先刷りした印刷面の画像部と重なり接する位置に光沢差が発生する現象であるため、用紙側でインキ乾燥を速くする必要がある。しかしながら、一般的にインキの乾燥が速いと印刷光沢は低下する場合がほとんどであり、印刷光沢を低下させないことも求められる。また、作業性の点で、印刷用塗工紙のいずれの面から先刷りを開始してもグロスゴーストを発生しないことが求められる。
【0011】
本発明の目的は、オフセット印刷の枚葉機で両面印刷する場合に特有の印刷トラブルであるグロスゴーストを抑制でき、かつ印刷光沢が低下しない印刷用塗工紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上述した問題点を解決するために鋭意検討した結果、基紙上の両面に、顔料を含有する塗工層を少なくとも2層以上塗設してなる印刷用塗工紙において、各々の最表層の塗工層と各々の最表層の塗工層に隣接する塗工層とがそれぞれ特定のガラス転移温度(以下、「Tg」と記載する。)を有するラテックスを含有することにより、印刷光沢が低下することなく、グロスゴーストを抑制できることを見出した。
【0013】
本発明の課題は、基紙上の両面に、顔料を含有する塗工層を少なくとも2層以上塗設してなる印刷用塗工紙において、各々の最表層の塗工層がTg−20℃以上20℃未満のラテックスを含有し、各々の最表層の塗工層に隣接する塗工層がTg20℃以上60℃以下のラテックスを含有し、片面あたりの最表層の塗工層の塗工固形分質量が5g/m以上20g/m以下であることを特徴とする印刷用塗工紙によって解決できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、オフセット印刷の枚葉機で両面印刷する場合に特有の印刷トラブルであるグロスゴーストを抑制することができる印刷光沢が低下しない印刷用塗工紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の印刷用塗工紙について詳細に説明する。
【0016】
本発明は、基紙上の両面に、顔料を含有する塗工層を少なくとも2層以上塗設してなる印刷用塗工紙において、各々の最表層の塗工層がTg−20℃以上20℃未満のラテックスを含有し、各々の最表層の塗工層に隣接する塗工層がTg20℃以上60℃以下のラテックスを含有し、片面あたりの最表層の塗工層の塗工固形分質量が5g/m以上20g/m以下とする印刷用塗工紙である。これにより、オフセット印刷の枚葉機で両面印刷する場合に特有の印刷トラブルであるグロスゴーストを抑制することができ、かつ印刷光沢が低下しない。
【0017】
本発明において、最表層の塗工層とは、基紙を基準として最も外側に位置する塗工層をいう。また、最表層の塗工層に隣接する塗工層とは、該最表層の塗工層に接するかつ基紙側に位置する塗工層をいう。本発明の印刷用塗工紙は、基紙上の両面に塗工層を塗設してなるため、最表層の塗工層および最表層の塗工層に隣接する塗工層は、基紙の両面に各々存在する。
【0018】
本発明において、Tgは、示差走査熱量計(DSC)、例えばEXSTAR 6000(セイコー電子社製)、DSC220C(セイコー電子工業社製)、DSC−7(パーキンエルマー社製)などで測定して求めることができ、ベースラインと吸熱ピークの傾きとの交点をTgとする。
【0019】
本発明において、ラテックスとは樹脂の液状分散体であり、重合可能な単量体から乳化重合法など公知の製造方法を用いることにより製造することができる。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン−アクリロニトリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル−塩化ビニル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン樹脂、エチレン−塩化ビニル樹脂、イソプレン樹脂、クロロプレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、尿素樹脂、アルキッド樹脂等、およびこれら樹脂をグラフト的、ブロック的に組み合わせた重合体等の合成樹脂、並びに天然ゴム等の液状分散体が挙げられる。なお、本発明において、例えば酢酸ビニル樹脂とは、酢酸ビニルを主体とした樹脂状の重合体を指し、これには単独重合体のみならず、酢酸ビニルを主体に、他の一種以上の単量体を共重合したものも含まれる。最表層の塗工層のラテックスは、層強度の点でスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスが好ましい。さらに好ましくは、最表層の塗工層に隣接する塗工層のラテックスもスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスである。
【0020】
ラテックスのTgは、例えばスチレン、メタクリル酸メチル、プロピレン、アクリル酸等のホモポリマーとしてTgの高い単量体と、例えばエチレン、ブタジエン、塩化ビニル等のホモポリマーとしてTgの低い単量体とを、重合時の添加数量を組み合わせることによって調整することができる。また、ラテックスの粒子径は、乳化重合の乳化剤の形成するミセルサイズ、ラジカルの連鎖移動剤の添加量を調整することによって制御することができる。
【0021】
本発明において、最表層の塗工層が含有するラテックスはTgが−20℃以上20℃未満であり、かつ最表層の塗工層に隣接する塗工層が含有するラテックスはTgが20℃以上60℃以下である。これらTg範囲のラテックスを含有する各塗工層を基紙の両面に設けることによって、オフセット印刷の枚葉機で両面印刷する場合に特有の印刷トラブルであるグロスゴーストを抑制し、かつ印刷光沢が低下しない印刷用塗工紙を得ることができる。
【0022】
本発明において、ラテックスのTgのこのような作用効果が得られる理由は不明であるが、以下のように考えられる。まず比較的低いTgのラテックスと比較的Tgの高いラテックスとの間には成膜性において差があり、比較的低いTgのラテックスの方が成膜性に優れる。印刷光沢の点で、最表層の塗工層に比較的低いTgのラテックスを含有させることにより、最表層の塗工層の被膜状態が比較的均一となるために印刷されたインキが表面に平滑面をもった状態でインキセットされ、印刷光沢に優れる。しかしながら、比較的低いTgのラテックスだけではグロスゴーストを抑制できない。最表層の塗工層に隣接する塗工層に含有する比較的高いTgのラテックスを含有させることにより、最表層の塗工層に隣接する塗工層の被膜状態が比較的空隙の有する面となるためにインキ中の溶剤成分を浸透し易く、溶剤成分を分離することによりインキ乾燥が促進される。
【0023】
両面の印刷用塗工紙において、先刷り印刷される面が最表層の塗工層および最表層の塗工層に隣接する塗工層を有し、最表層の塗工層および最表層の塗工層に隣接する塗工層が含有するラテックスのTgが各々−20℃以上20℃未満の範囲と20℃以上60℃以下の範囲であれば、後刷りする印刷面の塗工層に関係なく、後刷りした印刷面に発生するグロスゴーストは軽減される。しかしながら、これでは、両面の印刷用塗工紙において先刷り印刷する面を常に点検・確認しながら印刷用塗工紙をオペレーターは印刷機に補充しなければならず、印刷作業性の点で極めて効率が悪い。作業性の効率よくかつよりグロスゴーストを抑制するために、本発明では、両面共に最表層の塗工層および最表層の塗工層に隣接する塗工層を有し、最表層の塗工層および最表層の塗工層に隣接する塗工層が含有するラテックスのTgが各々−20℃以上20℃未満の範囲と20℃以上60℃以下の範囲であることが好ましい。
【0024】
本発明において、最表層の塗工層は、片面あたりの塗工固形分質量が5g/m以上20g/m以下である。最表層の塗工層の片面あたりの塗工固形分質量は、前記の範囲であれば、両面の各々において同じであっても異なっていても構わない。最表層の片面あたりの塗工層の塗工固形分質量を5g/m以上20g/m以下の範囲にすることによって、インキ中の溶剤成分が最表層の塗工層に隣接する塗工層に浸透するまでの時間が短過ぎずかつ長過ぎない範囲となり、好適な時間範囲にインキセットの速さをコントロールする。
【0025】
本発明において、最表層の塗工層が含有するラテックスはTgが−20℃以上20℃未満であり、かつ最表層の塗工層に隣接する塗工層が含有するラテックスはTgが20℃以上60℃以下であり、最表層の塗工層の片面あたりの塗工固形分質量が5g/m以上20g/m以下である。それぞれの塗工層に含まれるラテックスのTgが上記の範囲から外れる場合、あるいは最表層の塗工層の片面あたりの塗工固形分質量が上記の範囲を外れる場合は、グロスゴーストの抑制および印刷光沢の低下防止を両立して得ることができない。
【0026】
本発明において、基紙は、LBKP、NBKPなどの化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CGPなどの機械パルプ、および古紙パルプなどの各種パルプを含み、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリンなどの各種填料、サイズ剤、定着剤、歩留り剤、紙力増強剤などの各種配合剤を必要に応じて配合して抄造された紙であり、酸性、中性、アルカリ性のいずれかでも抄造できる。
【0027】
本発明において、基紙は、サイズ液によりサイズプレス処理を行っても、あるいは行わなくても構わない。サイズ液にはデンプン、ポリビニルアルコールなど公知の表面サイズ剤を含有することができる。
【0028】
本発明において、基紙の抄紙方法における抄紙機として、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、コンビネーション抄紙機、円網抄紙機、ヤンキー抄紙機など製紙業界で公知の抄紙機を適宜使用できる。
【0029】
基紙のISO白色度に関しては何ら制限されるものではないが、84%以上であることが好ましい。
【0030】
本発明において、最表層の塗工層に隣接する塗工層と基紙の間に1層以上のその他塗工層を設けることができる。
【0031】
本発明において、最表層の塗工層または最表層の塗工層に隣接する塗工層が含有する顔料は、特に限定されるものではなく、従来公知の顔料を使用することができる。例えば、各種カオリン、クレー、タルク、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、サチンホワイト、リトポン、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、プラスチック顔料など挙げられ、印刷用塗工紙に顔料として一般に用いられるものは適宜自由に併用できる。
【0032】
本発明において、最表層の塗工層を塗工する方法は、特に限定されるものではなく、ゲートロールやシムサイザーなどのフィルムトランスファーコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、ダイレクトファウンテンなどの各種方式を適宜使用することができるが、好ましくはブレードコーターやエアーナイフコーターである。
【0033】
本発明において、最表層の塗工層に隣接する塗工層またはその他塗工層(ただし、最表層の塗工層を除く。)を塗工する方法は、特に限定されるものではなく、ゲートロールやシムサイザーなどのフィルムトランスファーコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、ダイレクトファウンテンなどの各種方式を適宜使用することができるが、好ましくはブレードコーターである。最表層の塗工層に隣接する塗工層またはその他塗工層(ただし、最表層の塗工層を除く。)の片面あたりの塗工固形分質量は5g/m以上17g/m以下が好ましい。最表層の塗工層に隣接する塗工層の片面あたりの塗工固形分質量は、前記の範囲であれば、両面の各々において同じであっても異なっていても構わない。この範囲の塗工固形分質量により、基紙の表面の凹凸の影響を軽減し、平滑性が向上することから、光沢の発現性が良くなる。
【0034】
本発明において、最表層の塗工層または最表層の塗工層に隣接する塗工層は、ラテックス以外に従来公知のバインダーを併用することができる。本発明に用いることができるバインダーとしては、通常のデンプン、酸化デンプン、リン酸エステル化デンプン、酵素変性デンプンやそれらをフレッシュドライして得られる冷水可溶性デンプンなどのデンプン類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリンなどの水溶性合成物、ワックス、カゼイン、大豆蛋白などの天然物およびこれらをカチオン化したものなどが挙げられる。これを単独でラテックスと併用しても構わないし、これらのうち複数種を併用することは何ら制限されるものではない。
【0035】
前記のその他塗工層は、上記の公知の顔料、上記ラテックスまたは上記の従来公知のバインダーから適宜1種以上選択し含有することができる。
【0036】
本発明において、それぞれの塗工層は、一般的に塗工紙を製造する上で用いられる各種助剤や添加剤を配合して構わない。例えば、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ソーダ、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カゼイン、ポリアクリル酸ソーダなどの水溶性高分子、珪酸塩などが挙げられる。その他にも例えば、分散剤、pH調整剤、潤滑剤、消泡剤、耐水化剤、界面活性剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤などおよびこれらの各種助剤をカチオン化したものが挙げられる。
【0037】
本発明における印刷用塗工紙は、基紙および各塗工層を設けた各々段階でスーパーカレンダーやソフトカレンダーで処理することができる。特に、最表層の塗工層を塗設・乾燥後はカレンダー処理することが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。配合に記載される質量部は全て固形分量の値である。
【0039】
各実施例および各比較例における印刷用塗工紙の評価は以下の方法で行った。
【0040】
<グロスゴーストの評価>
枚葉機(三菱重工製ダイヤ3H−4)を用い、平版オフセットプロセスインキを使用して4色印刷を行った。印刷する画像は、先刷り用として文字、図形、写真画像を印刷しそのまま用紙を積み重ねた。24時間後、反対面に後刷り用として面積を広くしたベタ画像および平網画像を印刷し、そのまま用紙を積み重ねた。24時間後、後刷りのベタ画像および平網画像に先刷り画像に起因するグロスゴーストを以下の4段階で目視評価を行った。本発明においては、3以上を発明の対象とした。
4:グロスゴーストが判別できない
3:グロスゴーストがやや判別できる
2:グロスゴーストが判別できる
1:グロスゴーストがはっきりと判別できる
【0041】
<印刷光沢の評価>
RI印刷機(明製作所)を用い、枚葉オフセットプロセスインキのマゼンタインキ(DIC製、スペースカラーフュージョンG ST)0.3mlをローラーで練り、試験片にベタ印刷を施した後、一昼夜室温にて放置し、JIS Z8741の方法3に準じて角度60°−60°反射率で印刷光沢を評価した。評価基準を以下に示す。ただし本発明においては、3以上を発明の対象とした。
4:印刷光沢が44.0%以上
3:印刷光沢が40.0%以上44.0%未満
2:印刷光沢が36.0%以上40.0%未満
1:印刷光沢が36.0%未満
【0042】
<基紙の調製>
基紙としては、以下のような配合で1質量%パルプスラリーに調成し、長網抄紙機で坪量76g/mの塗工用基紙を抄造した。
(基紙配合)
ECF漂白されたLBKP(濾水度440mlcsf) 70質量部
ECF漂白されたNBKP(濾水度490mlcsf) 30質量部
軽質炭酸カルシウム(基紙中灰分で表示) 6.0質量部
市販カチオン化デンプン 1.0質量部
市販カチオン系ポリアクリルアミド歩留り向上剤 0.03質量部
【0043】
<印刷用塗工紙の調製>
印刷用塗工紙は以下のようにして製造した。
上記のようにして製造した基紙の両面に、最表層の塗工層に隣接する塗工層の塗工液をブレードコーター方式の塗工装置を用いて塗設し、乾燥して最表層の塗工層に隣接する塗工層を設けた塗工紙を得た。得られた該塗工紙の最表層の塗工層に隣接する塗工層上の両面に最表層の塗工層の塗工液をエアーナイフコーター方式の塗工装置を用いて塗設し、乾燥して最表層の塗工層を設け、得られた塗工紙をオフラインでソフトカレンダー装置により仕上げ処理し、印刷用塗工紙を製造した。
【0044】
(実施例1)
<最表層の塗工層に隣接する塗工層>
最表層の塗工層に隣接する塗工層の塗工液は以下のようにして調製した。
顔料として、重質炭酸カルシウムスラリー(ファイマテック社製FMT−90、固形分濃度75質量%)75質量部と、高白1級カオリン(ヒューバー社製ハイドラファイン90)100質量部にポリアクリル酸系分散剤0.10質量部を添加して分散機で固形分濃度72質量%に分散したカオリンスラリー25質量部とを混合し顔料スラリーとした。この顔料スラリーに、Tgが20℃のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックス9.5質量部、リン酸エステル化デンプン2質量部、ステアリン酸カルシウム0.45質量部を添加し、水酸化ナトリウムでpH9.6に調整した。さらに調整水で固形分濃度65質量%にし、最表層の塗工層に隣接する塗工層の塗工液を得た。このようにして調製した該塗工液を片面あたりの塗工固形分質量9.5g/m、両面で19g/mとなるように塗設した。
【0045】
<最表層の塗工層>
最表層の塗工層の塗工液は以下のようにして調製した。
顔料として、重質炭酸カルシウムスラリー(ファイマテック社製FMT−97、固形分濃度75質量%)30質量部と、高白1級カオリン(ヒューバー社製ハイドラファイン90)100質量部にポリアクリル酸系分散剤0.10質量部を添加して分散機で固形分濃度72質量%に分散したカオリンスラリー62質量部と、中空プラスチック顔料スラリー(ローム&ハース社製ローベイクHP−91、固形分濃度27.5質量%)8質量部とを混合し顔料スラリーとした。この顔料スラリーに、Tgが−2℃の市販スチレン−ブタジエン樹脂のラテックス12.5質量部、ポリビニルアルコール(ケン化度98%、平均重合度400、固形分濃度30質量%)2質量部、ステアリン酸カルシウム0.50質量部を添加し、水酸化ナトリウムでpH9.6に調整した。さらに調整水で固形分濃度41質量%にし、最表層の塗工層の塗工液を得た。このようにして調製した該塗工液を片面あたりの塗工固形分質量6.5g/m、両面で13g/mとなるように塗設し、実施例1の印刷用塗工紙を得た。
【0046】
(実施例2)
実施例1において、最表層の塗工層に隣接する塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが20℃の樹脂からTgが35℃の樹脂に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例2の印刷用塗工紙を得た。
【0047】
(実施例3)
実施例1において、最表層の塗工層に隣接する塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが20℃の樹脂からTgが42℃の樹脂に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例3の印刷用塗工紙を得た。
【0048】
(実施例4)
実施例1において、最表層の塗工層に隣接する塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが20℃の樹脂からTgが60℃の樹脂に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例4の印刷用塗工紙を得た。
【0049】
(実施例5)
実施例1において、最表層の塗工層の片面あたりの塗工固形分質量を6.5g/mから5.0g/mに変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例5の印刷用塗工紙を得た。
【0050】
(実施例6)
実施例1において、最表層の塗工層の片面あたりの塗工固形分質量を6.5g/mから20g/mに変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例6の印刷用塗工紙を得た。
【0051】
(実施例7)
実施例1において、最表層の塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが−2℃の樹脂からTgが−20℃の樹脂に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例7の印刷用塗工紙を得た。
【0052】
(実施例8)
実施例1において、最表層の塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが−2℃の樹脂からTgが19℃の樹脂に変更する以外は実施例1と同様に行い、実施例8の印刷用塗工紙を得た。
【0053】
(比較例1)
<印刷用塗工紙の調製>
印刷用塗工紙は以下のようにして製造した。
上記のようにして製造した基紙の両面に、下記の最表層の塗工層の塗工液をブレードコーター方式の塗工装置を用いて塗設し、乾燥して最表層の塗工層を設け、得られた塗工紙をオフラインでソフトカレンダー装置により仕上げ処理し、印刷用塗工紙を製造した。
【0054】
最表層の塗工層の塗工液は以下のようにして調製した。
顔料として、重質炭酸カルシウムスラリー(ファイマテック社製FMT−97、固形分濃度75質量%)30質量部と、高白1級カオリン(ヒューバー社製ハイドラファイン90)100質量部にポリアクリル酸系分散剤0.10質量部を添加して分散機で固形分濃度72質量%に分散したカオリンスラリー62質量部と、中空顔料スラリー(ローム&ハース社製ローベイクHP−91、固形分濃度27.5質量%)8質量部とを混合し顔料スラリーとした。この顔料スラリーに、Tgが35℃の市販スチレン−ブタジエン樹脂のラテックス12.5質量部、ポリビニルアルコール(ケン化度98%、平均重合度400、固形分濃度30質量%)2質量部、ステアリン酸カルシウム0.50質量部を添加し、水酸化ナトリウムでpH9.6に調整した。さらに調整水で固形分濃度41質量%にし、最表層の塗工層の塗工液を得た。このようにして調製した該塗工液を片面あたりの塗工固形分質量16g/m、両面で32g/mとなるように塗設し、比較例1の印刷用塗工紙を得た。
【0055】
(比較例2)
比較例1において、最表層の塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが35℃の樹脂からTgが−2℃の樹脂に変更する以外は比較例1と同様に行い、比較例2の印刷用塗工紙を得た。
【0056】
(比較例3)
実施例1において、最表層の塗工層に隣接する塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが20℃の樹脂からTgが−2℃の樹脂に変更する以外は実施例1と同様に行い、比較例3の印刷用塗工紙を得た。
【0057】
(比較例4)
実施例1において、最表層の塗工層に隣接する塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが20℃の樹脂からTgが15℃の樹脂に変更する以外は実施例1と同様に行い、比較例4の印刷用塗工紙を得た。
【0058】
(比較例5)
実施例1において、最表層の塗工層に隣接する塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが20℃の樹脂からTgが65℃の樹脂に変更する以外は実施例1と同様に行い、比較例5の印刷用塗工紙を得た。
【0059】
(比較例6)
実施例1において、最表層の塗工層の片面あたりの塗工固形分質量を6.5g/mから3.5g/mに変更する以外は実施例1と同様に行い、比較例6の印刷用塗工紙を得た。
【0060】
(比較例7)
実施例1において、最表層の塗工層の片面あたりの塗工固形分質量を6.5g/mから21.5g/mに変更する以外は実施例1と同様に行い、比較例7の印刷用塗工紙を得た。
【0061】
(比較例8)
実施例1において、最表層の塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが−2℃の樹脂からTgが−22℃の樹脂に変更する以外は実施例1と同様に行い、比較例8の印刷用塗工紙を得た。
【0062】
(比較例9)
実施例1において、最表層の塗工層のスチレン−ブタジエン樹脂のラテックスをTgが−2℃の樹脂からTgが21℃の樹脂に変更する以外は実施例1と同様に行い、比較例9の印刷用塗工紙を得た。
【0063】
実施例1〜8、比較例1〜9の評価結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
本発明に相当する実施例1〜8は、グロスゴーストが抑制され、印刷光沢の低下も認められないことが分かる。一方、単層である比較例1と比較例2では、Tgが−20℃以上20℃未満あるいは20℃以上60℃以下のいずれの範囲内であってもグロスゴーストの抑制および印刷光沢の両方を満足することができなかった。2層であっても、比較例3〜5並びに比較例8および9から、最表層の塗工層または最表層の塗工層に隣接する塗工層が含有するラテックスのTgが本発明の範囲内でなければ、グロスゴーストの抑制および印刷光沢の両方を満足することができなかった。比較例6および7から、Tgが本発明の範囲内であっても、最表層の塗工層の塗工固形分質量が本発明の範囲内でなければ、グロスゴーストの抑制および印刷光沢の両方を満足することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の印刷用塗工紙はオフセット印刷に好適であるが、少なくとも一方の印刷面または一方の印刷面の一部分的領域を、インクジェット方式による印刷、電子写真方式による印刷など各種印刷方式に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙上の両面に、顔料を含有する塗工層を少なくとも2層以上塗設してなる印刷用塗工紙において、各々の最表層の塗工層がガラス転移温度−20℃以上20℃未満のラテックスを含有し、各々の最表層の塗工層に隣接する塗工層がガラス転移温度20℃以上60℃以下のラテックスを含有し、片面あたりの最表層の塗工層の塗工固形分質量が5g/m以上20g/m以下であることを特徴とする印刷用塗工紙。

【公開番号】特開2012−197535(P2012−197535A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62494(P2011−62494)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】