説明

反射鏡製造方法

【課題】焼結用ガラス材料を乾式プレス成形して得られた焼結用成形体を加熱焼結して反射鏡を製造する際に、不均一な変形を起こすことなく、光学特性の優れた高品質の反射鏡を低コストで量産できるようにする。
【解決手段】パラフィン系バインダ及びステアリン酸系バインダの一方又は双方を含むバインダがシリカを主成分とするコアの表面に隙間なくコーティングされて成るガラス原料粉末を集合させて顆粒状に形成した焼結用ガラス材料を用い、これを乾式プレス成形する際に、反射鏡型成形体Fを、そのランプ挿通口36側から反射光照射開口部31側に向って反射面33となる部分の肉厚分布を漸増させた形状又は均一にした形状に成形した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電ランプ等の光源用の反射鏡製造方法に関し、特に液晶プロジェクタのバックライト光源ユニット等に用いられる超高圧放電ランプの反射鏡を製造する場合に好適である。
【背景技術】
【0002】
石英ガラスは、光学特性に優れることから液晶プロジェクタのバックライト光源ユニットの反射鏡としての用途が期待されている。
しかし、複雑な形状物の加工が難しく、熟練した作業者の技術が要求されるため、設計寸法通りに成形することが困難であり、同一形状、同一品質のものを量産できないことから、加工コストも著しく高価という問題があった。
また、加工温度が約2000℃と著しく高温であるため、エネルギーの消費量が多く、ひいては地球温暖化ガスであるCOの大量発生につながるという懸念がある。
【0003】
そこで本出願人は、球状シリカにバインダを添加し、これを顆粒状に造粒した焼結用ガラス材料を金型に入れて乾式プレス成形することにより焼結用成形体を作成し、この成形体を大気中の酸化性雰囲気または還元性雰囲気で加熱焼結して石英ガラス製品を製造する方法を提案した。
【特許文献1】特開2004−131351
【特許文献2】特開2004−311320
【0004】
これによれば、所望の光学特性を得るために加工精度が要求される反射鏡を製造する場合に、熟練を必要とせず、量産しても寸法制度が確保されるため、製造コストを格段に低減できるし、焼結温度も比較的低温で済むので、エネルギーの消費量が少なくて済み、その分、COの発生も抑制することができるというメリットがある。
【0005】
しかしながら、このような製法で、プロジェクタ用光源装置の反射鏡を作成し、熟練工が手作業で作成した反射鏡と比較したところ、手作業の反射鏡と遜色のないものもあるが、中には著しく明るさの劣る反射鏡が製造される場合があることが判明した。
これらの反射鏡を比較検討してみたところ、良品は反射鏡表面のガラス組織が密で凹凸がないのに対し、明るさの劣る反射鏡表面は、表面の一部あるいは全面のガラス組織が比較的粗く梨地状の微細な凹凸が形成されているものがあることが判明した。
【0006】
このように鏡面部分に一部でも粗面が形成されると、ランプから放出された直線光が反射鏡に入射しても、粗面で散乱して所望の設計角度通りに反射しないため、プロジェクタ用光源装置の反射鏡として用いると著しく明るさが劣るだけでなく、散乱光が液晶パネル面に直角入射しない光となって無駄に放射されるだけでなく、液晶パネル面を余分に加熱してしまうという問題を生ずる。
このため発明者らが、粗面が形成される原因を究明すべく試験・研究を行ったところ、顆粒状に造粒された焼結用ガラス材料に用いられている球状シリカに混合されているバインダの態様に影響していることが判明した。
【0007】
図7は顆粒状に造粒された焼結用ガラス材料を拡大したときの模式図であるが、図7(a)に示すように、バインダ粒子51が球状シリカ52に比して小さく均一に分布する場合は表面に粗面が形成され難く、図7(b)に示すように、バインダ粒子53が球状シリカ52に比して大きいものもあり、不均一に分布する場合は表面に粗面が形成されやすいことが判明した。
即ち、バインダ粒子が大きい分、球状シリカの密度が低くなるため焼結時に巣が入りやすく、また、バインダを揮発燃焼させるのに時間がかかるため焼結時に完全に揮発燃焼されないままガラス組織内に閉じ込められて粗面が形成されることが判明した。
【0008】
したがって、図7(a)に示すようにバインダ粒子51を球状シリカ52に比して小さく均一に揃えれば高品質の石英ガラス製品が製造されるが、バインダ粒子51を小さく均一に形成することは難しく、コストも時間もかかるため、実験室レベルでの研究であればともかく実用的ではない。
【0009】
そこで、焼結用ガラス材料を金型に入れて乾式プレス成形して得られた焼結用成形体を加熱焼結して反射鏡を製造する際に、製品表面にガラス組織の粗い梨地状の微細な凹凸が形成されないように、パラフィン系バインダ及びステアリン酸系バインダの一方又は双方を含むバインダがシリカを主成分とするコアの表面に隙間なくコーティングされて成るガラス原料粉末を集合させて顆粒状に形成したものを提案した。
これによれば、図7(a)に示す焼結用ガラス材料を用いて製造した場合と同様に製品表面にガラス組織の粗い梨地状の微細な凹凸が形成されることはなくなったが、焼結の際に不均一に変形する場合があり、反射面が設計された形状から250μm以上も逸脱して、所望の反射光特性が得られないものが見られた。
【0010】
そして、様々な実験を行った結果、焼結用ガラス材料をプレス成形して得られた反射鏡型成形品を焼結させて反射鏡を製造する場合は、石英ガラスを軟化させた状態で型に押し当てて成形する場合と異なり、焼結により粒子状の焼結用ガラス材料が均一のガラスに変化していく過程で組織が不安定となるため、このとき作用する外力のバランスによって、不均一な変形を生じるのではないかという結論に達した。
【0011】
例えば、通常は、図8に示すように反射光照射開口部61を上向きにし、ランプ挿通口62側を下に置いて焼結させることとしているが、この場合、焼き縮みを起こす方向の力Pと、開口部61近傍に作用する重力Wの反射鏡垂線方向分力Pが相反する方向に作用するため、焼結の過程で材料の組織が不安定となったときに、力のバランスが崩れ、不均一な焼き縮みにより変形を起こすと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、そのような発明者の知見に基づきなされたもので、焼結用ガラス材料を金型に入れて乾式プレス成形して得られた焼結用成形体を加熱焼結して反射鏡を製造する際に、不均一な変形を起こすことなく、光学特性の優れた高品質の反射鏡を低コストで量産できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題を解決するために、請求項1の発明は、焼結用ガラス材料を反射鏡成形用金型に充填して、光軸前方に反射光照射開口部を有し、光軸後方にランプ挿通口を有する反射鏡型成形体を乾式プレス成形し、得られた成形体を焼成炉で加熱焼結した後、その反射面に反射膜を形成する反射鏡製造方法であって、乾式プレスにより成形された反射鏡型成形体を焼成炉で加熱焼結する際に、その反射光照射開口部が下向きになるように焼成炉内に置いて加熱焼結することを特徴とする。
請求項2の発明は、乾式プレスにより成形する反射鏡型成形体を、そのランプ挿通口側から反射光照射開口部側に向って反射面となる部分の肉厚分布を漸増させた形状又は均一にした形状に成形することとした。
請求項3の発明は、反射面の反射光照射開口部側に変曲点を介して環状曲面が形成され、光軸を含む切断面内において、変曲点における光軸の垂線と環状曲面の接線との交差角を、光軸の垂線と反射面接線との交差角より大きく、且つ、90度以下に選定して反射鏡型成形体を形成することとした。
請求項4は、焼結用ガラス材料として、パラフィン系バインダ及びステアリン酸系バインダの一方又は双方を含むバインダがシリカを主成分とするコアの表面に隙間なくコーティングされて成るガラス原料粉末を集合させて顆粒状に形成したものを用いた。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、乾式プレス成形された反射鏡型成形体を焼結する際に、顆粒状の焼結用ガラス材料が均一のガラスに変化していく過程で組織が不安定となるが、反射光照射開口部を下向きに伏せて焼結させているので、反射光照射開口部を上向にして焼結させる場合に比して、反射光照射開口部を開こうとする押し広げようとする力が極端に小さくなり不均一の変形を起こしにくい。
【0015】
また、請求項2の発明のように、反射鏡型成形体を、そのランプ挿通口側から反射光照射開口部側に向って反射面となる部分の肉厚分布を漸増させた又は均一にした形状に成形すれば、上に位置するランプ挿通孔周囲は比較的軽くなるので、ランプ挿通口近傍が重力で撓むこともないという効果がある。
【0016】
請求項3のように、反射面の反射光照射開口部側に変曲点を介して環状曲面を形成し、光軸を含む切断面内において、変曲点における光軸の垂線と環状曲面の接線との交差角を、光軸の垂線と反射面接線との交差角より大きく、且つ、90度以下に選定すれば、反射光照射開口部には、その外側斜め下向きに作用する重力の分力がほとんどなくなるため、水平外向きの力を生じることがないという効果がある。
【0017】
請求項4の発明のように、焼結用ガラス材料として、ガラス原料粉末の表面にはバインダを隙間なくコーティングしたものを用いれば、ガラス粒子の周囲に径の小さなバインダ粒子を製造したり均一に分布させたりするまでもなく、これと同等の粒子分布を形成することができる。
また、このように生成された焼結用ガラス材料のガラス原料粉末は、コアにバインダをコーティングすることによりその表面に形成されたバインダ層は薄膜状になっているので、これを集合させて顆粒状に形成したときにガラス原料粉末の密度が高くなる。
したがって、これを型に入れて乾式プレスするときに、表面に付着されているバインダが潤滑材となって個々のガラス原料粉末を流動させると共に、ガラス原料粉末が稠密に固められる。
また、加熱焼結したときに巣が入りにくく、同時に、その表面に形成されているバインダ層は比較的薄く均一であるのでバインダが揮発燃焼されやすい。
したがって、製品表面にガラス組織の粗い梨地状の微細な凹凸が形成されることがなく、ガラス組織が密で高品質の反射鏡を低コストで量産できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本例では、焼結用ガラス材料をプレス成形して得られた反射鏡型成形品を焼結させて反射鏡を製造する場合に、不均一な変形を起こすことなく、光学特性に優れた高品質の反射鏡を低コストで量産するという目的を、反射鏡型成形体の置き方や形状を工夫することにより達成した。
【0019】
以下、本発明を図面に示す実施例に基づいて説明する。
図1は本発明に用いた焼結用ガラス材料を示す拡大模式図、図2はその製造方法を示す説明図、図3は反射鏡の製造方法を示す説明図、図4は反射鏡型成形体の一例を示す説明図、図5は反射鏡型成形体に作用する力を示す説明図、図6は反射鏡型成形体の他の例及び比較例を示す説明図である。
【実施例1】
【0020】
本例に係る焼結用ガラス材料1は、成形用金型に充填して乾式プレス成形することにより焼結用成形体を形成した後、この成形体を加熱焼結して反射鏡を製造するためのものであって、パラフィン系バインダ及びステアリン酸系バインダの一方又は双方を含むバインダ2がシリカを主成分とするコア3の表面に隙間なくコーティングされて成るガラス原料粉末4を集合させて顆粒状に形成されている。
【0021】
バインダ2は、ファインセラミックの成形助剤となるパラフィン系バインダを1.0重量%(融点=55℃)及びステアリン酸系バインダを1.0重量%(融点=100℃)、その他PVAやレジンを加え、その総量をコア3の約3.4重量%としている。
【0022】
コア3は外径0.3〜1.5μmの球状シリカを用いている。
球状シリカは、シリカ100%が理想であるが、製造過程でアルミナが不純物として混入し、その量によって焼結温度及び焼結された石英ガラスの性状に影響を与える。
すなわち、球状シリカは、半導体産業に多く使用される基板であるシリコンウエハをカットした残砕物(切れ端)やシリコンウエハの不良品を破砕した後、アルミナ製ボールミルで粉状化して生成するため、粉状化する際にアルミナ(Al)が混入し、その量は粉砕時間によって変化する。
粉砕時間は、ボールミルに投入するシリコンウエハの破片の大きさ等で加減されるため一定ではなく、またアルミ成分(Al)は、球状シリカを最も多く利用している半導体パッケージ内の絶縁材料の指定不純物としては規制されていないためその混在量には大きなバラツキがある。
【0023】
そして、このようなアルミ成分を不純物に含むシリカで生成されたコア3にバインダ2をコーティングする場合、バインダ2にはアルミ成分が含まれていないので、コア3に含まれるアルミ成分がそのままガラス原料粉末4の不純物となる。
そして、アルミ成分がシリカに対して70ppmを超えると焼結温度が1350℃を超えてしまい、70ppm以下だと1300℃以上1350℃以下の焼結温度でガラス組織が密で歪のない焼結体が得られることが分かった。
なお、アルミ成分がシリカに対して100ppm以上になると焼結温度が1370℃を超え、さらに220ppmを超えると1400℃以上に加熱しても焼結せずクリストパーライト化してしまうことが判明した。
したがって、アルミ成分をシリカに対して70ppm以下とすれば、加工時の作業温度(軟化点)が2000℃近い石英ガラスでも、1300〜1350℃の低温度で良好な焼結体を得ることができる。
【0024】
また、アルミの重量比率をシリカに対して50ppm以下にすれば、焼結温度の下限値を1280℃まで下げることができ、1350℃までは上述と同様、ガラス組織が密で歪のない焼結体が得られることが分かった。
しかし、1350℃を超える場合には、歪の発生があり、更に1400℃の様な高温度では、僅かな不純物を核としてクリストバーライト化してしまう。
したがって、アルミ成分をシリカに対して50ppm以下としたときは、1280℃以上1350℃以下の低温度で良好な焼結体を得ることができる。
【0025】
そして、このようなバインダ2をコア3の表面に隙間なくコーティングして成るガラス原料粉末4を集合させた顆粒状の焼結用ガラス材料1は以下の手順で製造する。
まず、コア3となる球状シリカに前記バインダ2を約3.4重量%混合し、粘性値10〜20mPa・sとなるように純水を加え、水分率60%に調整した後、メッシュの個々の開口が縦横38μmに設計されたフィルタにより異物を除去してスラリ(懸濁液)を得る。
コア3は、不純物となるアルミ成分がシリカに対して70ppm以下にコントロールされている。
【0026】
次いで、このスラリから顆粒を作成するために噴霧乾燥機を用いる。
図2はこのような噴霧乾燥機11を示し、下端部に顆粒回収口12が形成された直径1.5m程度のホッパ型チャンバ13の天井部中央に、スラリを噴霧する回転霧化ディスク14aを備えたアトマイザ14が配されている。
また、チャンバ13の上端側周壁面に水平接線方向から熱風を流入させる給気ダクト15が接続されると共に、チャンバ13内には前記顆粒回収口12に対向して開口する排気ダクト16が配されている。
【0027】
なお、前記給気ダクト15に熱風発生装置17が接続されており、給気ダクト15がチャンバ13に開口する流入口15aに配された温度センサ18と、排気ダクト16がチャンバ13内に開口する流出口16aに配された温度センサ19で熱風の温度コントロールを行う。
本例では、パラフィン系バインダとステアリン酸系バインダの融点が何れも100℃以下であるので、給気ダクト15の開口部における流入熱風温度を220℃とし、排気ダクト16の開口部における排気熱風温度を130℃として、いずれも、バインダ2の融点よりも高くなるように熱風の温度が制御されるようになっている。
なお、排気熱風温度がバインダ2の融点より高ければ、流入熱風温度は必ずその温度より高いので、流出口16aのみに温度センサ19を配して温度コントロールしても同様である。
【0028】
そして、熱風発生装置17から給気ダクト15を介して流入熱風温度が220℃となる熱風を供給し、排気熱風温度が130℃に達するまでチャンバ13を加熱したところで、アトマイザ14の霧化ディスク14aの回転数を12000rpmとし、スラリを100ml/minで供給して霧化させる。
給気ダクト15からチャンバ13に流入した熱風は、チャンバ13の周壁に沿って回転しながら螺旋状に流下していく。
【0029】
このとき、流入熱風温度及び排気熱風温度がいずれもバインダ2の融点より高く、したがって、チャンバ13内の温度がバインダ2の融点よりも高く維持されるので、バインダとコア3を含むスラリを霧化したときに、バインダ2が溶けてコア3の表面に付着する。
また、コア3の表面温度もバインダ2の融点より高くなっているので、バインダ2はコア3の表面を流れて、均一で薄膜状のコーティング層が隙間なく形成されたガラス原料粉末4が形成される。
そして、多数のガラス原料粉末4がチャンバ13の熱風に乗って乾燥される過程で、その表面にコーティングされたバインダ2を介在して溶着され、直径50μm程度の顆粒状の焼結用ガラス材料1が生成される。
【0030】
チャンバ13は、断面積が徐々に低下するホッパ状の部分を熱風が流下することにより、ホッパ下端の顆粒回収口12近傍の内圧が高くなるので、熱風は顆粒回収口12に対向して開口している排気ダクト16から排出される。
その際に、螺旋状に流下してきた熱風により運ばれてきた顆粒状の焼結用ガラス材料1は、熱風の流れが上向に反転されるときに熱風から分離されて顆粒回収口12に落下して回収される。
図1はこのように製造した焼結用ガラス材料1の顆粒の模式図であって、表面にバインダ2が隙間なくコーティングされたガラス原料粉末4が稠密に集合されている様子がわかる。
【0031】
図3はこのように製造した焼結用ガラス材料1を用いて、反射鏡を製造する方法を示す説明図である。
まず、顆粒状の焼結用ガラス材料1を成形用金型21の胴型22に入れた後(図3(a))、プランジャ23を降下させ、その挿通孔24に胴型22の中心ロッド25を挿入させながらプレス圧力を加えると焼結用成形体Fが成形される(図3(b))。
【0032】
反射鏡型成形体Fは図4に示すように、反射光照射開口部31の外周にフランジ32が形成されると共に、反射面33の反射光照射開口部31側に変曲点34を介して環状曲面35が形成され、光軸Xを含む切断面内において、変曲点34における光軸Xの垂線Yと環状曲面35の接線Lとの交差角θが、光軸Xの垂線Yと反射面接線Lとの交差角θより大きく、且つ、90度以下(本例では90度)に選定されており、次式の条件を満足するように成形される。
θ<θ≦90度
なお、ここでいう交差角θ及びθは、光軸Xから変曲点34に至る垂線Yと、変曲点34からランプ挿通口36側へ伸びる接線L及びLとの角度あるいはその対頂角をいう。
【0033】
これにより、図5に示すように、反射光照射開口部31では、環状曲面35に沿って作用する力Pが略鉛直下向きに作用するので、外側斜め下向きに作用する分力は0に等しく、したがって、焼き縮みにより生ずる水平内向きの力Pと相反する水平外向きの力を生じることがないから、不均一な変形が生じにくい。
【0034】
また、ランプ挿通口36側から反射光照射開口部31側に向って反射面33となる部分の肉厚分布を漸増させた又は均一にした形状に成形されている。
すなわち、反射面33のランプ挿通口36側の肉厚をt、反射光照射開口部31側の肉厚をtとしたときに、肉厚分布がt≦t(本例ではt=t/2)となるように形成されている。
これにより、反射光照射開口部31を下向きに伏せて焼成炉28に置いて焼結する場合に、上方に位置するランプ挿通孔36の周囲は比較的軽くなるので、焼結により組織が不安定になるときでもランプ挿通口36近傍が重力で撓むことがない。
【0035】
その後、プランジャ23を引き上げて、胴型22の底枠26を外枠27から外して型バラシし(図3(c))、底枠26から焼結用成形体Fを抜き出す(図3(d))。
このようにして作成した焼結用成形体Fを、その反射光照射開口部31が下向きになるように焼成炉28内の載置面29に伏せて置き、酸化性雰囲気加熱焼結法と還元性雰囲気加熱焼結法によって焼結させて、反射鏡形状の石英ガラス体Mを製造した(図3(e))。
【0036】
この場合、いずれの方法においても、バインダを完全に揮発燃焼させるため、先ず、300〜1000℃の酸化性雰囲気で予備加熱を行う。
バインダを揮発燃焼させる温度は、使用するバインダの種類により異なるため、示差熱分析等で燃焼除去に適した温度を予め確認しておく必要がある。
【0037】
そして、酸化性雰囲気加熱焼結法では、予備加熱終了後、酸化性雰囲気でバインダを燃焼除去した後、そのまま酸化性雰囲気によって、1280〜1350℃で加熱焼結を行った。本例では、1300℃で1時間保持した。
また、還元性雰囲気加熱焼結法では、予備加熱終了後、一酸化炭素を使用した還元性雰囲気において1280〜1350℃で加熱焼結を行う。本例では、1300℃で30分保持した。
【0038】
このような比較的低温で加熱焼結させて得られた反射鏡型石英ガラス体Mの表面を数千倍の顕微鏡で観察したが、どこを観察しても粗面となる部分が見当たらず、凹凸がなく極めて緻密で良好なガラス体Mを製造することができた。
また、反射面33の変形もほとんど見られず、外径約50mmの反射鏡において設計値からの逸脱量が最大で5μm以内であり、製品品質上許容範囲の変形であった。
これは、乾式プレス成形された反射鏡型成形体Fを焼結する際に、顆粒状の焼結用ガラス材料が均一のガラスに変化していく過程で組織が不安定となるが、ランプ挿通口36側の肉厚が薄いために、ランプ挿通口36近傍に作用する重力が小さいだけでなく、反射面33から反射光照射開口部31に至る環状曲面35が焼成炉28の載置面29に対して略直角であるので、反射光照射開口部31において重力の分力が外向きには作用しないためと考えられる。
【0039】
そして、その内面に多層膜のコールドミラーを施して反射鏡を形成し、定格200Wの高圧水銀蒸気放電ランプと組み合わせた光源ユニットを作成したところ、熟練者が作成した同じ形状寸法の試作反射鏡と組み合わせた光源ユニットに比して同等の明るさが得られた。
また、その光源ユニットの寿命試験を行ったところ、寿命末期の2000時間まで、熟練者の試作反射鏡と、光学特性で何等遜色はなく良好な結果が得られた。
【実施例2】
【0040】
図6は、乾式プレスにより成形された反射鏡型成形体の他の例を示す。
図6(a)の反射鏡成形体Fは図4に示す反射鏡成形体Fの肉厚分布をt=tとしたものであり、焼結後の反射面33の変形はほとんど見られず、設計値からの逸脱量が最大で10μm以内であり、製品品質上許容範囲の変形であった。
図6(b)の反射鏡成形体Cは図4に示す反射鏡成形体Fの肉厚分布をt=2tとした場合の比較例である。この場合は、焼結後の反射面33は大きく変形し、設計値からの逸脱量は最大で250μm程度であり、製品品質上許容できない変形であった。
これは、ランプ挿通口36側の肉厚が厚いために組織が不安定となる焼結時にランプ挿通口36近傍に作用する重力が大き過ぎて反射面33が撓むためと考えられる。
【実施例3】
【0041】
さらに、図6(c)に示すように、フランジを形成せずに、反射面42が反射光照射開口部41まで達し、肉厚分布がt≦tに形成された外径約50mmの反射鏡型成形体Fを用いた場合も逸脱量が少なかった。
例えば、肉厚分布を2t=tとした場合、焼結後の反射面42の設計値からの逸脱量が最大で10μm程度、肉厚分布をt=tとした場合は設計値からの逸脱量が最大で20μm程度であり、製品品質上許容範囲の変形であった。
【0042】
なお、図6(d)の反射鏡成形体Cは図6(c)に示す反射鏡成形体Fにおいて肉厚分布をt=2tとした場合の比較例を示し、本例では、焼結後の反射面42の設計値からの逸脱量は最大で500μmを越えるものもあり、製品品質上許容できない変形であった。
これは、ランプ挿通口43側の肉厚が厚いために組織が不安定となる焼結時にランプ挿通口43近傍に作用する重力が大き過ぎて反射面42が撓むだけでなく、反射面42が反射光照射開口部41まで広がっているので、反射光照射開口部41において外向きに作用する重力の分力が大きくなるためと考えられる。
【0043】
以上述べたように、乾式プレス成形された反射鏡型成形体F〜Fを焼結する際に、顆粒状の焼結用ガラス材料が均一のガラスに変化していく過程で組織が不安定となるが、反射鏡型成形体F〜Fを伏せ焼にすることにより又は断面形状を工夫することにより、焼結時に作用する重力と焼き縮み方向の力関係のバランスを安定化させて、反射面を設計値から大きく逸脱しない程度に均一に変形させることができるという効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、光学特性の極めて良好な反射鏡を、高精度且つ低コストで量産する用途に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】焼結用ガラス材料を示す拡大模式図。
【図2】その製造方法を示す説明図。
【図3】反射鏡の製造方法を示す説明図。
【図4】反射鏡型成形体の一例を示す説明図。
【図5】反射鏡型成形体に作用する力を示す説明図。
【図6】反射鏡型成形体の他の例及び比較例を示す説明図。
【図7】従来の焼結用ガラス材料を示す拡大模式図。
【図8】従来製法で反射鏡型成形体に作用する力を示す説明図。
【符号の説明】
【0046】
1 焼結用ガラス材料
2 バインダ
3 コア
4 ガラス原料粉末
〜F 反射鏡型成形体
31 反射光照射開口部
33 反射面
34 変曲点
35 環状曲面
36 ランプ挿通口
X 光軸
Y 垂線
、L 接線
θ、θ 交差角



【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結用ガラス材料を反射鏡成形用金型に充填して、光軸前方に反射光照射開口部を有し、光軸後方にランプ挿通口を有する反射鏡型成形体を乾式プレス成形し、得られた成形体を焼成炉で加熱焼結した後、その反射面に反射膜を形成する反射鏡製造方法であって、
乾式プレスにより成形された反射鏡型成形体を焼成炉で加熱焼結する際に、その反射光照射開口部が下向きになるように焼成炉内に置いて加熱焼結することを特徴とする反射鏡製造方法。
【請求項2】
乾式プレスにより成形する反射鏡型成形体を、そのランプ挿通口側から反射光照射開口部側に向って反射面となる部分の肉厚分布を漸増させた形状又は均一にした形状に成形した請求項1記載の反射鏡製造方法。
【請求項3】
反射面の反射光照射開口部側に変曲点を介して環状曲面が形成され、光軸を含む切断面内において、変曲点における光軸の垂線と環状曲面の接線との交差角を、光軸の垂線と反射面接線との交差角より大きく、且つ、90度以下に選定して反射鏡型成形体を形成する請求項1又は2記載の反射鏡製造方法。
【請求項4】
前記焼結用ガラス材料が、パラフィン系バインダ及びステアリン酸系バインダの一方又は双方を含むバインダがシリカを主成分とするコアの表面に隙間なくコーティングされて成るガラス原料粉末を集合させて顆粒状に形成されてなる請求項1記載の反射鏡製造方法。
【請求項5】
前記ガラス原料粉末に不純物として存在するアルミ成分の重量比率がシリカに対して70ppm以下に選定され、前記焼結用成形体の焼結温度が、1300℃以上1350℃以下である請求項1乃至3記載の反射鏡製造方法。
【請求項6】
前記ガラス原料粉末に不純物として存在するアルミ成分の重量比率がシリカに対して50ppm以下に選定され、前記焼結用成形体の焼結温度が、1280℃以上1350℃以下である請求項1乃至3記載の反射鏡製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−256903(P2006−256903A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76549(P2005−76549)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【出願人】(591033364)ヤマキ電器株式会社 (5)
【Fターム(参考)】