説明

反応器内部の温度制御方法、反応装置及びジメチルエーテルの製造方法。

【課題】発熱反応を伴う平衡反応により例えばメタノールからジメチルエーテルを合成するにあたり、反応器内における温度及び転化率の制御性を向上させること。
【解決手段】反応器内に複数の触媒層を設けて、それらの触媒層間にメタノールとジメチルエーテルとを含む混合物を冷却するためのクエンチゾーンを設けて、このクエンチゾーンにジメチルエーテル及びジメチルエーテルと共に生成した水の少なくともいずれかを含む流体をクエンチ流体として供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料を断熱型反応器に供給し、発熱を伴う平衡反応により目的物を製造するときに行う反応器内部の温度制御方法と反応装置、及びジメチルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製造プラントにおいては、反応器内に触媒層を設け、この中に原料を通流させて反応させ、その反応生成物である製品を得る場合がある。反応器内において適切に反応を進行させるための重要な運転条件の一つとして、反応器内の温度管理が挙げられる。一般に、反応器内の温度を反応に適した温度となるように調整するためには、原料を予め設定した温度に調整した後、反応器に供給するようにしている。
【0003】
上記の反応が発熱反応である場合には、原料が反応器内を下流側に向かって通流するに従って、即ち反応が進行するにつれて、原料の温度が上昇していく。原料の温度が主反応に適した温度範囲よりも高くなってしまうと、好ましくない副生成物(不純物)が生成し、原料のロスとなったり、あるいはコーキングの促進によって触媒が劣化したりする一方、原料の温度が前記温度範囲を下回ると収率が低下するため、触媒層内の温度を目的とする温度範囲内に維持する種々の方法が提案されている。そのような反応器内の温度を維持するための代表的な例として、以下の手法が知られている。
【0004】
図14は、多管式反応器100であり、多管式反応器100内に多数垂設された管101内に原料を供給し、この管101内において反応を行い、その管101を外部から冷媒により冷却するように構成されている。この多管式反応器100では、原料を確実に且つ速やかに冷却できるが、多量の冷媒が必要であり、また反応器100の構造が複雑になるので、装置のコストが高くなってしまい、更に大型化には不向きである。
【0005】
図15は、複数基の反応器102を接続して、この反応器102、102の間に熱交換器(中間熱交換器)103を介設した装置を示している。この装置では、1段目の反応器102内に供給された原料は、この1段目の反応器102内で反応により発熱し、次いで熱交換器103により冷却された後に2段目の反応器102に供給され、そしてこの2段目の反応器102において反応が進行していく。その後、原料は、図示を省略するが、更に熱交換器を介して3段目以降の反応器に供給されていく。このような構成では、反応器102内での温度の制御性を高めるためには、反応器102及び熱交換器103の基数を増やす必要があると共に、接続配管なども必要になるので、装置のコストが高くなり、また装置構成が複雑になってしまう。また、このような熱交換器103では、熱交換用の冷媒として、1段目の反応器102に供給する前の反応前の原料を用いることが多く、反応生成物との間で熱交換した後の原料を1段目の反応器102に供給するようにしている。そのような場合には、反応器102の出口の温度が反応器102の入口の温度に影響を及ぼし、反応器102内の温度制御が難しくなるといった問題がある。
【0006】
そこで、特許文献1は、固定床流通式の断熱型反応器内の触媒層を複数の層に分割し、この各層間に原料を冷却するためのクエンチゾーンを設けて、このクエンチゾーンにおいてクエンチ流体として原料を液体状で供給し、反応器内を冷却する手法が提案されている。この装置では、加熱された原料が上側から供給されると、上流側の触媒層において発熱反応が進行して、原料の温度が上昇する。そして、原料は、クエンチゾーンにおいてクエンチ流体により冷却され、その後下流側の触媒層に流れていき、同様に反応する。クエンチ流体の流量は、クエンチ流体を供給した後のクエンチゾーンの下側において原料の温度を測定して、この部位の温度が主反応に適した温度範囲となるように調整される。
【0007】
この装置は、1基の反応器により構成されており、また熱交換器が不要なので、コストを抑えることができる。また、クエンチ流体として不活性成分を用いた場合には、不活性成分の精製や分離が必要になるが、原料を利用しているので、こうした操作が不要となるといったメリットがある。
【0008】
ところで、上記の発熱を伴う平衡反応の一例として、例えばメタノールからジメチルエーテルを製造する反応器では、反応器の出口温度が通常運転時の温度よりも僅かに上昇した場合、好ましくない副反応により副生成物が生成してしまう。そのために、反応器内の温度を安定化させる必要がある。
上記の特許文献1に記載の反応器では、下流側の触媒層の入口側の温度に基づいて、クエンチ流体の供給量を調整し、反応器の内部温度を制御してはいるが、制御系の特性上、前記入口側の温度を一定化することは困難であり、原料の温度変化などの要因も加わって当該入口側の温度変化を避けることができない。
【0009】
このような状況下において、特許文献1のように原料をクエンチ流体として供給すると、原料が多くなるので、平衡が反応生成物側に偏る。このため触媒層の入口側の温度変化に対し、反応速度が敏感に変わるので、反応器の出口側の温度に対する触媒層の入口側の温度の影響が大きくなり、結果として反応器の出口の温度の振れ幅が大きくなって、転化率の変化も大きくなる。このため反応器の出口の温度が高くなりすぎて、好ましくない副反応による副生成物が生成し、製品の純度が低下したり、また、反応器の出口の温度が低くなりすぎて、目的とする収率が得られなくなったりする。
そのため、大型化が可能な単純な構成の反応器にて、簡便な方法にて反応器内の温度を制御できる技術が求められている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−298768(段落0014、0020、0021)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、その目的は、原料を断熱型の反応器に供給し、この反応器内において発熱を伴う平衡反応により目的物を製造するにあたり、反応器内の温度の制御性を向上させて、温度上昇による副生成物の生成や、温度低下による収率の低減を抑えるための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の反応器内部の温度制御方法は、
反応領域を複数に分割し、分割された複数の反応領域が一つまたは二つ以上の断熱型反応器に割り当てられ、原料を断熱型反応器内に供給し、発熱を伴う平衡反応により目的物を製造するときに行う温度制御方法において、
原料を1段目の反応領域に供給して、目的物を含む反応生成物を得る工程と、
次いで、前段側の反応領域から取り出された反応生成物と未反応の原料とからなる混合物を順次後段側の反応領域に供給し、目的物を含む反応生成物を得る工程と、
前記反応領域同士の間の少なくとも1カ所において、前記混合物にクエンチ流体を供給して、混合することにより当該混合物を冷却する工程と、を含み、
前記クエンチ流体は、前記クエンチ流体の供給領域よりも後段側の反応領域で得られた前記反応生成物の一部及び前記断熱型反応器以外で得られた前記目的物と同じ化合物の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0013】
前記クエンチ流体は、最終段の反応領域にて得られた反応生成物を冷却した後の反応生成物の一部を含んでいても良い。
前記複数の反応領域は、各々触媒層により構成されていることが好ましい。
分割された前記反応領域は3個であることが好ましい。
前記冷却する工程は、前記クエンチ流体の供給量と組成と温度との少なくとも一つを調整して行うことが好ましい。
【0014】
前記発熱を伴う平衡反応は、メタノールを原料として、水と目的物であるジメチルエーテルとからなる反応生成物を得る反応であっても良い。その場合には、前記クエンチ流体は、ジメチルエーテルとジメチルエーテル及び水の混合流体とのいずれかを含むことが好ましい。
【0015】
本発明の反応装置は、
原料を断熱型反応器内に供給し、発熱を伴う平衡反応により目的物を製造する反応装置において、
反応領域を複数に分割し、分割された複数の反応領域が割り当てられる一つまたは二つ以上の断熱型反応器と、
1段目の反応領域に原料を供給する手段と、
前記反応領域同士の間の少なくとも1カ所に介在し、前段側の反応領域から取り出された前記反応生成物と未反応の原料とからなる混合物にクエンチ流体を供給し、混合することにより当該混合物を冷却するためのクエンチゾーンと、
前記クエンチゾーンよりも後段側の反応領域で得られた前記反応生成物の一部及び前記断熱型反応器以外で得られた前記目的物と同じ化合物の少なくとも一方を含む流体をクエンチ流体としてクエンチゾーンに供給する手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
前記反応装置は、
最終段の反応領域において得られた反応生成物を冷却するための冷却手段を備え、
前記クエンチ流体は、前記冷却手段により冷却された後の前記反応生成物の一部を含む流体であることが好ましい。
前記複数の反応領域は、各々触媒層により構成されていることが好ましい。
分割された前記反応領域は3個であることが好ましい。
また、本発明の反応装置は、前記クエンチ流体の供給量と組成と温度との少なくとも一つを調整して、前記クエンチ流体を前記クエンチゾーンに供給するような制御部を備えていることが好ましい。
【0017】
前記発熱を伴う平衡反応は、メタノールを原料として、水と目的物であるジメチルエーテルとからなる反応生成物を得る反応であっても良い。その場合には、前記クエンチ流体は、ジメチルエーテルとジメチルエーテル及び水の混合流体とのいずれかを含むことが好ましい。
【0018】
本発明のジメチルエーテルの製造方法は、
反応領域を複数に分割し、分割された複数の反応領域が一つまたは二つ以上の断熱型反応器に割り当てられ、メタノールを断熱型反応器内に供給し、脱水縮合反応によりジメチルエーテルを製造する方法において、
メタノールを1段目の反応領域に供給して、ジメチルエーテルと水とからなる反応生成物を得る工程と、
次いで、前段側の反応領域から取り出された反応生成物と未反応のメタノールとからなる混合物を順次後段側の反応領域に供給し、ジメチルエーテルと水とからなる反応生成物を得る工程と、
前記反応領域同士の間の少なくとも1カ所において、前記混合物にクエンチ流体を供給して、混合することにより当該混合物を冷却する工程と、を含み、
前記クエンチ流体は、前記クエンチ流体の供給領域よりも後段側の反応領域で得られたジメチルエーテル及び水の少なくとも一方と、前記断熱型反応器以外で得られたジメチルエーテルと、のいずれかを含むことを特徴とする。
【0019】
前記冷却する工程は、前記クエンチ流体の供給量と組成と温度との少なくとも一つを調整して行うことが好ましい。
前記クエンチ流体は、最終段の反応領域にて得られ、冷却した後のジメチルエーテル及び水のいずれかを含むことが好ましい。
前記複数の反応領域は、各々触媒層により構成されていることが好ましい。
分割された前記反応領域は3個であることが好ましい。
前記クエンチ流体は、ジメチルエーテルに混在している副生成物である水と未反応のメタノールとを除去した後のジメチルエーテルの一部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、反応領域を複数に分割し、分割された複数の反応領域が一つまたは二つ以上の断熱型反応器に割り当てられ、原料を断熱型反応器内に供給し、発熱を伴う平衡反応により目的物を製造するにあたり、原料を1段目の反応領域に供給することにより得られた目的物を含む反応生成物と、未反応の原料と、からなる混合物を、この1段目の反応領域から順次後段側の反応領域に供給して目的物を含む反応生成物を得て、反応領域同士の少なくとも1カ所において、当該反応領域よりも後段側で得られた反応生成物の一部及び前記断熱型反応器以外で得られた前記目的物を同じ化合物の少なくとも一方をクエンチ流体として供給して当該混合物を冷却するようにしている。そのため、混合物中の反応生成物の量が増えて、平衡が原料側に偏り、反応が穏やかに進んでいくので、反応領域の入口側の温度変化による反応速度の変化が少ない。この結果、反応器内の温度の制御性が向上し、温度上昇による予定しない副生成物の生成や、温度低下による収率の低減を簡便に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の反応装置及びこの装置を用いた温度制御方法の実施の形態について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、目的物を製造するための反応装置2を含む製造プラントの全体の概要を示している。反応装置2は、例えば固定床流通式の断熱型反応器である縦型の反応器20を備えている。この反応器20の塔頂部には、原料を供給する手段である原料ガス供給管20aの一端側が接続されており、この原料ガス供給管20aの他端側には、熱交換器2a及び蒸発器2bを介して、液体原料が貯留された原料貯留源4が接続されている。蒸発器2bは、液体原料を気化させて原料ガスを得るためのものである。
【0022】
反応器20の底部には、生成ガス流出管20bの一端側が接続されており、この生成ガス流出管20bには、上記の熱交換器2aが接続されている。この熱交換器2aにおいて、原料ガス供給管20a内の原料と、生成ガス流出管20b内の反応生成物と原料とからなる混合物と、の間において、原料は加熱され、混合物は冷却されて熱交換が行われるように構成されている。この生成ガス流出管20bの他端側は、後述の第1の蒸留塔30の側壁に接続されている。
【0023】
反応器20の内部には、目的とする反応収率を得るのに必要な反応領域例えば触媒層22が上流側と下流側とに分割して設けられており、上流側の反応領域は、第1の触媒層22aにより第1の反応領域として形成され、下流側の反応領域は、第2の触媒層22bにより第2の反応領域として形成されている。これら触媒層22(22a、22b)は、多数の図示しないガス供給孔が形成されたサポート23により支持されている。
【0024】
反応器20内の第1の触媒層22aと第2の触媒層22bとの間の領域には、反応器20内の混合物をクエンチ流体により冷却するためのクエンチゾーンQが設けられている。このクエンチゾーンQにおける反応器20の側面には、反応生成物の一部をクエンチ流体としてクエンチゾーンに供給する手段であるクエンチ流体供給管24が接続されており、このクエンチ流体供給管24は、反応器20内のクエンチゾーンQの上方側の第1の触媒層22aに近接する部位において、クエンチ流体を均一に分散供給するための複数の吐出孔24bが形成されたスプレー部24aに接続されている。
【0025】
また、反応器20の側面には温度検出部29が設けられており、反応器20内にその一端側が突出して、クエンチゾーンQで冷却された混合物の温度を例えば第2の触媒層22bの上部側付近において検出するように構成されている。この温度検出部29には、制御部3が接続されており、この制御部3は、温度検出部29の検出温度に基づいて、後述の流量調整バルブ27により原料ガスの温度が反応に適した温度範囲となるように、クエンチ流体の流量を制御するように構成されている。
反応器20の後段には、反応器20から得られた混合物から目的とする反応生成物を取り出し、その一部をクエンチ流体として反応器20に供給するための設備が設けられ、図1には例えばジメチルエーテルを目的物として得るための2本の蒸留塔30、40を含む設備が設けられている。
【0026】
第1の蒸留塔30は、未反応の原料と反応生成物とからなる混合物から、目的物を分離精製するためのものであり、塔頂部には冷却手段である目的物取り出し管31が接続され、下端部には排出管32の一端側が接続されている。目的物取り出し管31から排出された目的物は、製品として系外に取り出されるが、その一部がこの目的物取り出し管31から分岐した既述のクエンチ流体供給管24により、クエンチ流体として既述のクエンチゾーンQに戻されるように構成されている。クエンチ流体供給管24には、流量調整バルブ27が介設されている。
【0027】
既述の排出管32の他端側は、第2の蒸留塔40の側壁に接続されている。この第2の蒸留塔40は、上記の第1の蒸留塔30において目的物が取り除かれた混合物から未反応の原料を分離精製するためのものであり、塔頂部には原料排出管41の一端側が接続され、下端部には排出管42が接続されている。原料排出管41の他端側は、既述の蒸発器2bの上流側の原料ガス供給管20aに接続されており、未反応の原料を戻して再使用するように構成されている。排出管42は、混合物から目的物及び未反応の原料が取り除かれた後に残った副生成物や不純物などを廃棄するためのものであり、これらは、系外に排出される。
【0028】
続いて、上述の反応装置2を運転する方法について、図1及び図2を参照して説明する。
一つの物質あるいは複数の物質で構成される液体原料は、前段に設けられた蒸発器2bで気化され、また、熱交換器2aにおいて、反応器20から取り出された未反応の原料と反応生成物とからなる混合物との間で熱交換が行われて、温度T1に加熱される。
しかる後、原料ガスは、原料ガス供給管20aを介して反応器20に供給され、この反応器20内を上から下方向に流れていく。そして、第1の触媒層22a内で以下の式(1)の平衡反応により、目的物を含む反応生成物が生成し、この反応生成物と未反応の原料ガスとを含んだ混合物のガスとなる。
原料ガス ⇔ 反応生成物(目的物(+副生成物)) + 反応熱 ・(1)
【0029】
この時生じる反応熱により、混合物のガスの温度が上昇して温度T2になる。
ジメチルエーテルを製造する場合には、液体原料であるメタノールが気化し、第1の触媒層22a内にて下記(2)式の平衡反応によりジメチルエーテルと水とが生成される。
2CH3OH ⇔ CH3OCH3 +H2O + ΔH ・・(2)
ΔH=−23.4kJ/mol
【0030】
続いて、クエンチゾーンQにおいて、スプレー部24aからクエンチ流体を供給すると、このクエンチ流体と前段の触媒層22aの発熱反応により高温(T2)になった混合物のガスとが混ざり合い、混合物の温度がT3になる。このクエンチ流体は、当該反応装置2で得られた反応生成物の一部からなる流体であり、液体状あるいは気体状で供給される。ジメチルエーテルを製造する場合には、クエンチ流体は例えば気体であるジメチルエーテルが用いられる。
このように反応生成物の一部をクエンチ流体として供給することにより、第2の触媒層22b内において、上記の式(1)、(2)の右側の反応生成物の量が多くなるので、式(1)、(2)の平衡反応が原料側に偏り、目的物が生成する反応が抑えられるので、上記の反応が穏やかに進んでいくこととなる。
【0031】
こうして冷却された混合物のガス、より詳しくはクエンチ流体を含んだ混合物は、第2の触媒層22bに供給され、第2の触媒層22bにおいて同様の反応により、穏やかに反応生成物が生成していく。この反応生成物と未反応の原料とからなる混合物は、この第2の触媒層22bにおける反応で生じる反応熱により温度T4に上昇する。
その後、混合物は、生成ガス流出管20bを介して反応器20から取り出されて、熱交換器2aにおいて原料との間で熱交換が行われる。
【0032】
そして、ジメチルエーテルを製造する場合を例にとってこれ以降のフローを説明すると、反応器20から排出された反応生成物であるジメチルエーテル及び水と未反応原料であるメタノールとからなる混合物は、第1の蒸留塔30に供給されて、目的物であるジメチルエーテルが分離精製される。混合物から分離精製されたジメチルエーテルは、目的物取り出し管31から取り出されて、目的物取り出し管31の管壁などに放熱し、既述の温度T2以下の温度となり、一部がクエンチ流体供給管24を介してクエンチ流体として反応器20に戻される。残りのジメチルエーテルは、製品として系外に取り出される。
【0033】
ジメチルエーテルが取り除かれた混合物は、第1の蒸留塔30の下方側から排出されて第2の蒸留塔40に供給され、この第2の蒸留塔40において未反応の原料であるメタノールが分離精製される。既述のように、未反応の原料は、原料ガス供給管20aに戻されて、原料貯留源4から供給される原料と共に再度反応器20に供給される。また、目的物及び未反応の原料が取り除かれた副生成物である廃棄物、この例では水は系外に排出される。
【0034】
ここで、触媒層22bの入り口の温度T3が温度検出部29により検出され、その温度検出値に応じて制御部3及び流量調整バルブ27を介してクエンチ流体の供給流量が制御され、以って触媒層22bの入口温度T3の安定化が図られているが、この入口温度T3がある変動幅で変動することは避けられない。しかし、本発明では、クエンチ流体として反応生成物を用いているので、既述のように、平衡反応が原料側に偏り目的物が生成する反応が抑えられることから、触媒層22bの出口温度T4に対する触媒層22aの入口温度T1の影響が小さくなる。即ち触媒層22aの入口温度T1の変化に対し、目的生成物への反応速度の変化が小さくなるので、触媒層22bの出口温度T4の変化が鈍感になり、転化率の振れ幅が小さくなる。
【0035】
上述の実施の形態によれば、原料を断熱型の反応器20内に供給し、発熱を伴う平衡反応により目的物を製造するにあたり、原料の反応を行うための第1の反応領域と第2の反応領域との間にクエンチゾーンQを設けて、このクエンチゾーンQに第2の反応領域から取り出した反応生成物の一部を冷却してクエンチ流体として供給し、原料と反応生成物とからなる混合物を冷却するようにしている。そのために、既に詳述したように、混合物中の反応生成物の量が増えて、平衡が原料側に偏り、反応が穏やかに進んでいくので、反応器20内の温度制御が容易になり、結果として、温度上昇による予定しない副生成物の生成を抑えることができると共に、温度低下による収率の低減を抑えることができる。更に触媒のコーキングを抑えて、触媒の寿命を長くすることができる。更にまた反応装置2における急激な温度上昇(暴走反応)を抑制することができ、安全に反応装置2を運転することができる。従って、既存の方法に比べて反応器20の構成を簡略化することができ、大型化が容易となり、また反応器20を構成する部品数が少なくてすむ。
【0036】
上記のクエンチ流体としては、気体であっても良いし、液体であっても良い。気体のクエンチ流体を用いる場合には、蒸発潜熱を利用できないので、液体を用いる場合に比べて供給量を多くする必要があるが、反応器20内における反応生成物の量が多くなるので、反応速度を抑える効果は大きい。一方、液体のクエンチ流体を用いる場合には、気体を用いる場合よりも少ない供給量で混合物の温度を下げることができる。尚、例えば原料の供給量が少なく、反応による混合物の温度上昇が小さい場合には、反応生成物を冷却せずにクエンチ流体として供給しても良い。そのような場合であっても、反応器20内における反応生成物の量が多くなるので、反応速度が抑えられる。
【0037】
尚、上記の例では、触媒層22を2層としたが、例えば図3及び図4に示すように、それ以上の触媒層があっても良い。図3は3層の触媒層(22a、22b、22c)、図4は5層の触媒層(22a、22b、22c、22d、22e)を備えた反応器20を示している。図3、図4においても、各触媒層22間のクエンチゾーンQにて、温度検出部29により混合物の温度が検出されて、スプレー部24aから供給されるクエンチ流体の流量が調整される。このような反応器20でも、上記の例と同様にクエンチ流体により反応速度が抑えられた状態で反応が進行していく。このように触媒層22を複数層とすることで、上記の例と同様の効果が得られる。
【0038】
また、1基の反応器20内に複数層の触媒層22を設ける場合の他、例えば図5、図6に示すように、1層の触媒層22を設けた反応器20を複数基接続するようにしても良い。図5、図6は、このような反応器20をそれぞれ3基、5基接続した例を示しており、各々の反応器20間を接続する生成ガス流出管20bには、クエンチ流体供給管24が接続されている。更に、このような反応器20以外にも、例えば図7、図8に示すように、少なくとも1層の触媒層22を設けた反応器20を複数基組み合わせて接続しても良い。図7は1層の触媒層22を設けた反応器20と2層の触媒層(22a、22b)を設けた反応器20とを直列に接続した例を示している。図8は、2層の触媒層(22a、22b)を設けた反応器20と3層の触媒層(22a、22b、22c)を設けた反応器20とを直列に接続した例を示している。これらの触媒層22間においても、同様にクエンチゾーンQにてクエンチ流体が供給されるように構成されている。このような構成においても、上記の例と同様の効果が得られる。
【0039】
上記の各例において、各触媒層22、22間の全てにクエンチゾーンQを設けることが好ましいが、例えば温度の振れ幅が小さい場合などには、クエンチゾーンQの数を減らしても良く、つまり少なくとも1以上のクエンチゾーンQがあれば良い。図9は、既述の図4に示した反応器20において、上流側から2番目の触媒層22bと3番目の触媒層22cとの間のクエンチゾーンQを省いた例を示している。このような反応器20においても、同様の効果が得られる。
【0040】
また、上記の例では、クエンチ流体として系内の目的物を利用したが、系外の目的物と同じ化合物をクエンチ流体として利用することもできる。このような例として、例えば図10に示すように、複数の反応装置2を設けて、一方の反応装置2から他方の反応装置2にクエンチ流体を供給しても良い。このような場合には、一方の反応装置2の目的物取り出し管31に、他方の反応装置2のクエンチ流体供給管24が接続される。尚、以上の図3〜図10においては、図1と同じ構成については、同じ符号を付してある。これらクエンチ流体である目的物には未反応の原料が混入していても良い。
【0041】
更にクエンチ流体として目的物を利用する以外にも、例えば原料から目的物以外の反応生成物(副生成物)が生成する場合(目的物以外にも式(1)の右辺側において生成する物質がある場合)には、その反応生成物をクエンチ流体として利用しても良く、例えばジメチルエーテルを得る反応においては、クエンチ流体として水を用いても良い。その場合には、図11に示すように、目的物の全量が目的物取り出し管31から取り出されて、廃棄物の一部がクエンチ流体としてクエンチゾーンQに戻されることとなる。この場合においても、上記の例と同様に式(1)、(2)の右辺側の反応生成物が増えることによって反応が抑制されるので、反応が穏やかに進んでいき、反応器20の出口における混合物の温度の振れ幅が小さくなる。また、図11では、既述の図1と同じ構成については、同じ符号を付してある。
尚、この副生成物と共に、目的物をクエンチ流体として用いても良く、例えばメタノールからジメチルエーテルを得る反応においては、ジメチルエーテルと水とをクエンチ流体として用いても良い。更に系外からのジメチルエーテルをクエンチ流体として利用しても良い。
【0042】
また、上記の各例では、クエンチ流体として反応生成物や目的物と同じ系外の化合物を用いたが、反応速度が抑えられる程度に反応生成物や目的物と同じ系外の化合物を含んでいるのであれば、このクエンチ流体には、未反応の原料が含まれていても良い。その場合には、例えば図1において、バルブが介設された分岐管(いずれも図示せず)の一端側を原料排出管41に接続し、この分岐管の他端側をクエンチ流体供給管24に接続して、このバルブの開度を調整することにより未反応の原料を積極的にクエンチ流体の一部として用いても良い。
【0043】
更に、上記の各例においては、制御部3によりクエンチ流体の流量を制御して、反応器20の入口温度T3を安定化させているが、クエンチ流体の流量を一定にし、制御部3を介して例えば前述の分岐管のバルブ及び流量調整バルブ27の開度を調整して、クエンチ流体に含まれる反応生成物や目的物と同じ系外の化合物の割合、つまりクエンチ流体の組成を調整することにより入口温度T3を安定化させるようにしても良い。また、クエンチ流体供給管24に図示しない冷却機構を設けて、クエンチ流体の流量を一定にして、制御部3を介してこのクエンチ流体の温度を調整することにより、反応器20の入口温度T3を安定化させるようにしても良い。更にまた、制御部3を介してクエンチ流体の流量と、クエンチ流体の組成と、クエンチ流体の温度と、の複数を組み合わせて調整することにより反応器20の入口温度T3を安定化させるようにしても良い。
【0044】
本発明の目的物の温度制御方法および反応装置は、上記のように、発熱を伴う平衡反応により目的物を生成する場合、例えば後述の実施例におけるメタノールからの脱水によるジメチルエーテルの合成反応や、水素と窒素とからのアンモニアの合成反応などに適用してもよい。また、前記合成反応の他にも、発熱を伴う平衡反応例えば酸化反応、水素化反応その他の反応に適用しても良いし、液相におけるこれらの反応に適用しても良い。
【実施例】
【0045】
本発明の方法の効果を確かめるために行った実験について、以下に説明する。この実施例では、上記の原料としてメタノールを用いて、既述の(2)式における発熱を伴う平衡反応により目的物としてジメチルエーテルを得る実験を行った。
また、以下の各実験において標準条件を設定しているが、この標準条件は、最終触媒層出口におけるメタノールの転化率及び各触媒層の出口の温度をそれぞれの標準条件において等しくなるように設定した条件である。
【0046】
(実施例1)
上記の反応を行うための装置としては、既述の図1に示した反応装置2を用いて、反応器20の入口及び触媒層22a、22bのそれぞれの入口と出口とに温度計を設けた。
この反応装置2において、流量F1のメタノールを供給し、クエンチ流体としてジメチルエーテルをクエンチゾーンQに流量F2で供給し、また未反応のメタノールを流量F3で戻した。副生成物である水については、既述の排出管42から排出した。尚、各流量F1〜F3は、それぞれの流体の質量流量を表している。
【0047】
実験条件としては、反応器20の出口におけるメタノールの転化率及び温度がそれぞれ75%、340℃となるように以下のように各条件を決定して、この条件を標準条件とした。また、反応器20の入口の原料の温度を上記の標準条件から上下に1℃ずつ変えて、それ以外の条件については標準条件と同じ条件にて実験を行った。そして、それぞれの条件において反応器20の出口の温度(第2の触媒層22bの出口側の温度)および、また反応器20の出口におけるメタノールの転化率を比較した。尚、クエンチ流体であるジメチルエーテルの流量F2及び原料排出管41から戻される未反応の原料であるメタノールの流量F3の流量については標準条件と同じ流量とした。
【0048】
(標準条件)
反応器20の入口温度:279℃
反応器20の入口の圧力:1.55MPa(ゲージ圧)
原料の流量に対するクエンチ量の比(F2/(F1+F3)):0.18
クエンチジメチルエーテル条件:1.5MPa(ゲージ圧)
ジメチルエーテル飽和蒸気(100%)
【0049】
(実験結果)
実験結果を表1に示す。
(表1)

【0050】
その結果、反応器20の入口の温度(第1の触媒層22aの入口側の温度)の変化に応じて、反応器20内の温度も変化していた。また、反応器20の入口の温度の変化よりも、反応器20の出口の温度の変化の方が大きくなることが分かった。反応器20内の温度が高くなると転化率が増加し、また反応器20内の温度が低くなると転化率が減少していた。
【0051】
(比較例1−1)
続いて、比較例1−1として、既述の図15の複数の反応器102、102間に熱交換器103を介設した装置に蒸留塔30、40を接続して実験を行った。この装置を図12に示す。尚、既述の図1と同じ構成の部位には同じ符号を付している。この装置においても、上流側の反応器(第1反応器)102及び下流側の反応器(第2反応器)102のそれぞれの入口及び出口の原料の温度を測定した。
この装置では、蒸発器2bにおいて気化させた後の原料ガスを供給路200から熱交換器103に供給し、この熱交換器103において、この原料ガスと、上流側の反応器102における反応により高温となった原料と反応生成物とからなる混合物と、の間で熱交換を行うように(混合物を冷却するように)構成した。尚、この熱交換器103において熱交換した(加熱された)後の原料ガスを、上流側の反応器102の手前側において、原料ガス供給管20aに戻すようにした。また、この熱交換器103へ供給される流体以外の原料や反応生成物などの流れについては、既述の図1の反応装置2と同様にした。
【0052】
そして、上記の実施例1と同様に、下流側の反応器102の出口におけるメタノールの転化率及び原料の温度がそれぞれ75%、340℃となるように以下の各条件を決定して、この条件を標準条件とした。また、同様に上流側の反応器102の入口の原料の温度を標準条件から上下に1℃ずつ変えて、それ以外の条件については標準条件と同じ条件で実験を行った。
【0053】
そして、同様に下流側の反応器102の出口の温度を測定し、また転化率を比較した。尚、原料排出管41から戻されるメタノールの量は、標準条件と同じ流量とした。また、熱交換器103におけるクエンチ流体と混合物との間の熱交換量(伝熱量)については、上流側の反応器102の入口の温度を変えても変化しないものとした。
【0054】
(標準条件)
反応器102の入口温度:279℃
反応器20の入口の圧力:1.55MPa(ゲージ圧)
【0055】
(実験結果)
実験結果を表2に示す。
(表2)

【0056】
その結果、実施例1と同様に、上流側の温度変化に応じて、各部の温度及び転化率が変化していたが、その変化量は、実施例1の変化量よりも多くなっていた。このことから、実施例1では、クエンチ流体として反応生成物であるジメチルエーテルを用いることにより、反応が抑制され、反応器20の内部の温度や転化率の制御性が向上していることが分かる。
【0057】
(比較例1−2)
次に、既述の特許文献1に記載の装置と同様の構成の装置として、図13に記載の装置を用いて実験を行った。この装置は、概略的には図1の反応器20とほぼ同様の構成の反応器300を備えているが、原料クエンチ供給路200からクエンチ流体として液体状の原料を供給するように構成されている。尚、この図13においても、図1と同様の構成の部位については同じ符号を付している。
【0058】
また、上記の実験と同様に、反応器300の出口側におけるメタノールの転化率及び原料の温度がそれぞれ75%、340℃となるように以下の各条件を決定して、この条件を標準条件とし、同様に反応器300の入口側の温度を上下に1℃ずつ変えて実験を行った。尚、この場合においても、原料排出管41から戻される未反応のメタノールの流量及びクエンチ流体の流量は一定とした。この例においても、F1はメタノール供給量、F2はクエンチメタノールの供給量、F3はリサイクルのメタノール流量である。
【0059】
(標準条件)
反応器300の入口温度:279℃
反応器300の入口の圧力:1.55MPa(ゲージ圧)
原料の流量に対するクエンチ量の比(F2/(F1+F3)):0.09
クエンチメタノール条件:1.6MPa(ゲージ圧)、沸点における液体
【0060】
(実験結果)
実験結果を表3に示す。
(表3)

【0061】
この結果においても、反応器300の入口の温度により、反応器300の内部の各部の温度及び転化率が変化していたが、比較例1−1と同様に、その変化量は、実施例1よりも大きくなっていた。
【0062】
以上の結果から、クエンチ流体として原料を用いる場合には、平衡反応が反応生成物側に偏り、目的生成物への反応速度が高くなってしまうので、発熱量が多くなり、結果として反応器20の出口における混合物の温度のばらつきが大きくなってしまうが、反応生成物の一部をクエンチ流体として用いることで、目的生成物への反応を抑えて、反応器20の出口における混合物の温度の振れ幅を小さくすることができることが分かった。
【0063】
(実施例2)
次に、既述の図3に示したように、触媒層22を3層とした場合、反応器20の出口の温度と転化率とがどのように変化するか確認するための実験を行った。
実験には、図3の反応器20を用いて、反応器20の出口におけるメタノールの転化率及び温度がそれぞれ75%、340℃となるように以下のように各条件を決定して、この条件を標準条件とした。また、反応器20の入口の原料の温度を同様に上下に1℃ずつ変えて、それ以外の条件については標準条件と同じ条件にて実験を行った。そして、それぞれの条件において反応器20の各触媒層22の入口の温度と出口の温度とを測定し、また反応器20の出口におけるメタノールの転化率を比較した。尚、クエンチ流体であるジメチルエーテルの流量F2及び原料排出管41から戻される未反応の原料であるメタノールの流量F3の流量については標準条件と同じ流量とした。
【0064】
(標準条件)
反応器20の入口温度:279℃
反応器20の入口の圧力:1.55MPa(ゲージ圧)
原料の流量に対するクエンチ量の比(F2/(F1+F3)):0.18
クエンチジメチルエーテル条件:1.5MPa(ゲージ圧)
ジメチルエーテル飽和蒸気(100%)
【0065】
(実験結果)
実験結果を表4に示す。
(表4)

【0066】
その結果、生成物をクエンチ流体として用いることで、実験例1の結果と同様に、反応器20の入口側の温度が変化しても、反応器20の出口側の温度と転化率との変化を抑えることができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の製造方法を実施するための反応装置の一例を示す概略的な構成図である。
【図2】上記の反応装置における反応器内の原料の温度変化の一例を示す概略図である。
【図3】上記の反応装置の他の例を示す縦断面図である。
【図4】上記の反応装置の他の例を示す縦断面図である。
【図5】上記の反応装置の他の例を示す縦断面図である。
【図6】上記の反応装置の他の例を示す縦断面図である。
【図7】上記の反応装置の他の例を示す縦断面図である。
【図8】上記の反応装置の他の例を示す縦断面図である。
【図9】上記の反応装置の他の例を示す縦断面図である。
【図10】上記の反応装置の他の例を示す縦断面図である。
【図11】上記の反応装置の他の例を示す縦断面図である。
【図12】本発明の実施例における比較例に用いた装置を示す概略図である。
【図13】本発明の実施例における比較例に用いた装置を示す概略図である。
【図14】合成反応に用いられている従来の装置を示す概略図である。
【図15】合成反応に用いられている従来の装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0068】
2 反応装置
2a 熱交換器
2b 蒸発器
20 反応器
22 触媒層
24 クエンチ流体供給管
Q クエンチゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応領域を複数に分割し、分割された複数の反応領域が一つまたは二つ以上の断熱型反応器に割り当てられ、原料を断熱型反応器内に供給し、発熱を伴う平衡反応により目的物を製造するときに行う温度制御方法において、
原料を1段目の反応領域に供給して、目的物を含む反応生成物を得る工程と、
次いで、前段側の反応領域から取り出された反応生成物と未反応の原料とからなる混合物を順次後段側の反応領域に供給し、目的物を含む反応生成物を得る工程と、
前記反応領域同士の間の少なくとも1カ所において、前記混合物にクエンチ流体を供給して、混合することにより当該混合物を冷却する工程と、を含み、
前記クエンチ流体は、前記クエンチ流体の供給領域よりも後段側の反応領域で得られた前記反応生成物の一部及び前記断熱型反応器以外で得られた前記目的物と同じ化合物の少なくとも一方を含むことを特徴とする反応器内部の温度制御方法。
【請求項2】
前記クエンチ流体は、最終段の反応領域にて得られた反応生成物を冷却した後の反応生成物の一部を含むことを特徴とする請求項1に記載の反応器内部の温度制御方法。
【請求項3】
前記複数の反応領域は、各々触媒層により構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の反応器内部の温度制御方法。
【請求項4】
分割された前記反応領域は3個であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の反応器内部の温度制御方法。
【請求項5】
前記冷却する工程は、前記クエンチ流体の供給量と組成と温度との少なくとも一つを調整して行うことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の反応器内部の温度制御方法。
【請求項6】
前記発熱を伴う平衡反応は、メタノールを原料として、水と目的物であるジメチルエーテルとからなる反応生成物を得る反応である請求項1ないし5のいずれか一つに記載の反応器内部の温度制御方法。
【請求項7】
前記クエンチ流体は、ジメチルエーテルとジメチルエーテル及び水の混合流体とのいずれかを含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載の反応器内部の温度制御方法。
【請求項8】
原料を断熱型反応器内に供給し、発熱を伴う平衡反応により目的物を製造する反応装置において、
反応領域を複数に分割し、分割された複数の反応領域が割り当てられる一つまたは二つ以上の断熱型反応器と、
1段目の反応領域に原料を供給する手段と、
前記反応領域同士の間の少なくとも1カ所に介在し、前段側の反応領域から取り出された前記反応生成物と未反応の原料とからなる混合物にクエンチ流体を供給し、混合することにより当該混合物を冷却するためのクエンチゾーンと、
前記クエンチゾーンよりも後段側の反応領域で得られた前記反応生成物の一部及び前記断熱型反応器以外で得られた前記目的物と同じ化合物の少なくとも一方を含む流体をクエンチ流体としてクエンチゾーンに供給する手段と、を備えたことを特徴とする反応装置。
【請求項9】
最終段の反応領域において得られた反応生成物を冷却するための冷却手段を備え、
前記クエンチ流体は、前記冷却手段により冷却された後の前記反応生成物の一部を含む流体であることを特徴とする請求項8に記載の反応装置。
【請求項10】
前記複数の反応領域は、各々触媒層により構成されていることを特徴とする請求項8または9に記載の反応装置。
【請求項11】
分割された前記反応領域は3個であることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか一つに記載の反応装置。
【請求項12】
前記クエンチ流体の供給量と組成と温度との少なくとも一つを調整して、前記クエンチ流体を前記クエンチゾーンに供給するような制御部を備えたことを特徴とする請求項8ないし11のいずれか一つに記載の反応装置。
【請求項13】
前記発熱を伴う平衡反応は、メタノールを原料として、水と目的物であるジメチルエーテルとからなる反応生成物を得る反応である請求項8ないし12のいずれか一つに記載の反応装置。
【請求項14】
前記クエンチ流体は、ジメチルエーテルとジメチルエーテル及び水の混合流体とのいずれかを含むことを特徴とする請求項8ないし13のいずれか一つに記載の反応装置。
【請求項15】
反応領域を複数に分割し、分割された複数の反応領域が一つまたは二つ以上の断熱型反応器に割り当てられ、メタノールを断熱型反応器内に供給し、脱水縮合反応によりジメチルエーテルを製造する方法において、
メタノールを1段目の反応領域に供給して、ジメチルエーテルと水とからなる反応生成物を得る工程と、
次いで、前段側の反応領域から取り出された反応生成物と未反応のメタノールとからなる混合物を順次後段側の反応領域に供給し、ジメチルエーテルと水とからなる反応生成物を得る工程と、
前記反応領域同士の間の少なくとも1カ所において、前記混合物にクエンチ流体を供給して、混合することにより当該混合物を冷却する工程と、を含み、
前記クエンチ流体は、前記クエンチ流体の供給領域よりも後段側の反応領域で得られたジメチルエーテル及び水の少なくとも一方と、前記断熱型反応器以外で得られたジメチルエーテルと、のいずれかを含むことを特徴とするジメチルエーテルの製造方法。
【請求項16】
前記冷却する工程は、前記クエンチ流体の供給量と組成と温度との少なくとも一つを調整して行うことを特徴とする請求項15に記載のジメチルエーテルの製造方法。
【請求項17】
前記クエンチ流体は、最終段の反応領域にて得られ、冷却した後のジメチルエーテル及び水のいずれかを含むことを特徴とする請求項15または16に記載のジメチルエーテルの製造方法。
【請求項18】
前記複数の反応領域は、各々触媒層により構成されていることを特徴とする請求項15ないし17のいずれか一つに記載のジメチルエーテルの製造方法。
【請求項19】
分割された前記反応領域は3個であることを特徴とする請求項15ないし18のいずれか一つに記載のジメチルエーテルの製造方法。
【請求項20】
前記クエンチ流体は、ジメチルエーテルに混在している副生成物である水と未反応のメタノールとを除去した後のジメチルエーテルの一部であることを特徴とする請求項15ないし19のいずれか一つに記載のジメチルエーテルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−149531(P2009−149531A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326460(P2007−326460)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000004411)日揮株式会社 (94)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】