説明

反応装置および反応方法

【課題】亜臨界水、超臨界水処理を伴う2重管型反応装置において、反応カートリッジからリークが生じた場合でも安全に処理が継続できる反応装置および方法を提供する。
【解決手段】被処理物をバッチ式、若しくは連続式で処理する反応装置であって、圧力容器と、該圧力容器内に設けられ、内部に被処理物が充填されて所定の反応が行われ、蓋体により内外を隔離可能な反応カートリッジと、該反応カートリッジの内部圧力と該反応カートリッジと前記圧力容器との間のバランス流路の圧力とを実質的にバランスさせるためのバランス流体を供給する手段とを有する二重管型の反応装置において、バランス流体として実質的に酸化性ガスを含まないガスを用いることを特徴とする反応装置、および反応方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッチ式、若しくは連続式反応装置および反応方法に関し、更に詳細には、容易に開閉が可能な開閉機構を有する圧力容器と、圧力容器内部に設置した反応カートリッジとにより構成される2重管型反応装置において、反応カートリッジ上部は実質的に圧力容器内部、反応カートリッジ外部のバランス流体とは接触しない蓋構造となっており、そのバランス流体として実質的に酸化性ガスを含まないガスを用いることを特徴とした、水熱反応や有機物、無機物の合成反応等に用いて好適な反応装置および反応方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、有機物の酸化、分解能力の高い超臨界水反応を利用して、環境汚染物質を分解、無害化する試みが注目されている。すなわち、超臨界水の高い反応性を利用した超臨界水反応により、従来技術では分解することが難しかった有害な難分解性の有機物、例えば、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、ダイオキシン、有機塩素系溶剤等を分解して、二酸化炭素、窒素、水、無機塩などの無害な生成物に転化する試みである。その試みの一つとして、最近では、このような有害な有機化合物を含む、様々な下水汚泥、都市ゴミ、産業排水等の液状および固体状の広義の廃棄物の処理にも、超臨界水反応の利用が試みられている。
【0003】
また、有害物質を分解する前記超臨界水反応の他、有機物合成反応、無機物合成反応など新たな有価物を製造するもの、反応を途中で止めて有価物(中間生成物)を回収するもの、例えばモノマー化技術などがある。これらは、亜臨界水や超臨界水、若しくはその両方を用い、必要に応じて酸、アルカリ、反応を促進させる気体(空気、酸素、水素)を供給する場合がある。
【0004】
さらに、有機物合成、無機物合成においては、反応媒体として二酸化炭素やアルコールを用い、それらの亜臨界流体や超臨界流体を利用することもある。
【0005】
亜臨界流体、超臨界流体を用いて、分解反応、有機物合成反応、無機物合成反応を行うプロセスは、バッチ式か連続式のいずれか、若しくは両方を複合させたものなど、その形態は限定されるものではない。被処理物と処理後生成物の性状により適切なプロセスが選定される。
【0006】
一例としては、汚染固形物を連続式の超臨界水反応装置で処理する場合には、固形物を粉砕してスラリー化することが必要であるものの、固形物によっては粉砕することが技術的に難しいものもある。また、仮に固形物を粉砕してスラリー化できたとしても、沈殿等のスラリー固有の種々の問題がある。そこで、被処理固形物をスラリー化することなく、そのままの形態で反応器に投入し、バッチ式で超臨界水処理することが必要になっている。また、バッチ式反応器は、超臨界水反応に伴う反応器の腐食を抑制することが容易であり、またバッチ毎に反応容器を開放するので、中和に伴い析出した無機塩の排出が容易であるという優れた利点も有する。
【0007】
ここで、例として、特許文献1に記載のバッチ式水熱反応器を含む装置フローを図3に示し、バッチ式超臨界水反応装置の構成をハロゲン化有機物、特にPCB汚染固形物を処理する場合を例にして説明する。バッチ式超臨界水反応装置は、被処理対象である有機性固形物を亜臨界・超臨界水反応によりバッチ処理する装置であって、図3に示すように、バッチ式反応器(第1反応器101)と、連続式チューブ型反応器(第2反応器102)を有する。第1反応器101では、対象物(被処理物)を圧力容器103内に設けられた反応カートリッジ104内に充填し、上部蓋105を閉じた後、初期充填水と、必要に応じて添加されるアルカリ(水酸化カリウム、若しくは炭酸水素カリウム、炭酸カリウム)を封入する。その後、第1反応器を内部加熱器106により300℃程度まで昇温し、必要に応じて保持する。その際、PCBを含む対象物は無酸素状態下で亜臨界水とアルカリにより加水分解され、脱塩素される。脱塩素された塩化水素は反応場に存在するアルカリにより中和されて無機塩を生成する。また、その他の有機物は亜臨界水、アルカリによる加水分解により可溶化する。これらの処理流体は第1反応器101に連結されている亜臨界水・超臨界水導入管107より供給される亜臨界水・超臨界水により、第2反応器102へ排出される。この亜臨界水・超臨界水は、例えば、水タンク108から高圧水ポンプ109、第1予熱器110を介して導入される。第1反応器101では、圧縮機111から、反応カートリッジ104内の圧力と、反応カートリッジ104と圧力容器103の間の圧力をバランスさせるためのバランス流体として空気が、反応カートリッジ104と圧力容器103の間のバランス流路112に導入され、バランス流路112から冷却器113、バランス流体排出弁114を介して排出される。115は、反応カートリッジ104内の残渣を最終工程において超臨界水酸化反応により除去するために反応用空気を供給するためのノズル空気ラインを示している。
【0008】
第2反応器102に対しては、超臨界水及び空気を第2反応器空気ライン116を介して連続的に供給し、例えば、水タンク108から高圧水ポンプ117、第2予熱器118を介して超臨界水を導入し、例えば600℃、23MPaの超臨界水酸化雰囲気を形成している。第2反応器102に導入された第1反応器処理流体は第2反応器102内で超臨界水酸化されて完全分解する。第2反応器102からの処理流体は、例えば冷却器119、処理流体排出弁120を介して排出される。
【0009】
第1反応器処理流体が第2反応器102で完全分解され、処理ガス中には二酸化炭素が検出される。そこで、処理ガス中の二酸化炭素濃度がゼロになると、第1反応器101内の液状化された有機物のほとんどが排出されたことがわかる。しかし、亜臨界水のみでは、第1反応器101内の有機物は完全に分解されないため、超臨界水を通水しながら(例えば、高圧水ポンプ109、第1予熱器110を介して通水しながら)徐々に加熱を行い、超臨界状態に昇温される。その際、超臨界水により加水分解されて液状化する有機物は、前述の通り、第2反応器102内で完全分解される。第1反応器101は400〜500℃まで昇温され、液状化可能な有機物は第2反応器102へ排出され分解される。その後、第1反応器101に徐々に酸化剤(空気など)を供給し、第1反応器101内に残っている微量の有機性残渣を超臨界水酸化により前述の如く完全分解する(最終酸化)。最終酸化が完了した後、装置は冷却・減圧され、第1反応器101に残っている無機残渣を排出し、次の処理対象物を充填する。
【特許文献1】特開2003−340261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
水熱反応器は対象物により処理条件が異なる。例えば、ポリ塩化ビフェニル(PCB)のように、難分解性有機物を処理する場合は、最終的な条件として600〜650℃、22〜25MPa程度の条件となる。この条件を確保するためには、高温・高圧に耐えうる材料、また耐食性に優れた材料にて反応器を設計製作する必要がある。この条件を満足するために、水熱反応器は2重管型反応器を採用することが多い。また、前述した固形物処理用のバッチ式水熱反応器についても2重管型反応器をすでに提案している(特許文献1)。
【0011】
これらの2重管型反応器の特徴は、外側の圧力容器が耐圧を、内側の反応カートリッジが耐食の役目を担うことである。すなわち、超臨界水酸化雰囲気は一般的に腐食環境も厳しく、耐食材料で製作する必要があるが、この耐食材料は高価なため耐圧構造で製作すると反応器の全体コストが非常に高くなる。従って、圧力容器と反応カートリッジの隙間に上述のようにバランス流体を供給して、反応カートリッジへの圧力負荷を最小化する方法を採っている。すなわち、反応カートリッジ内部圧力とバランス流体流路の圧力は同じか、僅かにバランス流体の方が高い程度に調節することで、反応カートリッジの耐圧強度を下げて、肉厚を薄くし、低コスト化を実現している。その結果、高価な耐食材料で製作する反応カートリッジは反応圧力における耐圧機構を必要としない様にしている。上述したように反応カートリッジ上部に蓋体を設け、反応カートリッジ内外が隔離されている場合、反応カートリッジ内外の圧力差を最小化するシステムを用いて、反応カートリッジにかかる圧力負荷を低減することができる。特許文献1では、反応カートリッジ上部内蓋がバランス流体と反応カートリッジ内部を隔離しているため、バランス流体は別途排出ラインを設け、反応カートリッジ内部圧力よりも僅かに高い圧力に調節されて排出される。
【0012】
ここで考えられる問題点の一例としては、反応カートリッジ内部に亜臨界水、若しくは超臨界水を用いて、酸化分解反応、有機物合成反応、無機物合成反応を行なう場合や、反応カートリッジ内部に多量の有機物を入れる特許文献1に示されるようなバッチ式水熱反応器において、万が一反応カートリッジ上部内蓋の圧力シール部からリークが生じた場合、バランス流体に空気を使用している場合は、想定外の空気と有機物の接触が生じることになり、制御不可能な酸化反応を起こす可能性がある。
【0013】
また、図3に示したような特許文献1の反応器を用いるバッチ式水熱酸化反応装置では、被処理物である有機物を反応カートリッジ内部に多量に充填し、それらを亜臨界水による加水分解、脱塩素反応により処理し、さらに超臨界水により加水分解して、第2反応器に導入して完全分解を行う。このようなシステムでは、第1反応器内部に有機物が存在するときに、制御し得ない酸化剤(空気など)が混入すると、亜臨界水雰囲気では気相中の有機物と気相反応が生じ、異常昇温する可能性がある。また、超臨界水雰囲気では、制御し得ない超臨界水酸化反応が生じる危険性がある。有機物が多量に充填された水熱反応器内には、内部の有機物量に応じた処理手順が必要であり、ほとんどの有機物を排出するまでは、無酸素状態下で亜臨界水、若しくは超臨界水のみを供給する必要がある。最終的に有機物がほとんど残っていない状態になってから徐々に空気を供給し、酸化反応を制御しながら処理を行う必要がある。
【0014】
そこで、本発明の課題は、亜臨界水、超臨界水処理を伴う2重管型反応装置において、反応カートリッジからリークが生じた場合でも安全に処理が継続できる反応装置および反応方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明に係る反応装置は、被処理物をバッチ式、若しくは連続式で処理する反応装置であって、圧力容器と、該圧力容器内に設けられ、内部に被処理物が充填されて所定の反応が行われ、蓋体により内外を隔離可能な反応カートリッジと、該反応カートリッジの内部圧力と該反応カートリッジと前記圧力容器との間のバランス流路の圧力とを実質的にバランスさせるためのバランス流体を供給するバランス流体供給手段とを有する二重管型の反応装置において、前記バランス流体として実質的に酸化性ガスを含まないガスを用いることを特徴とするものからなる。
【0016】
上記実質的に酸化性ガスを含まないガスとは、酸化性ガス、すなわち酸素を実質的に含まないガスを指し、例えば、窒素または二酸化炭素からなる。また、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを使用することも可能である。
【0017】
また、上記バランス流体供給手段としては、バランス流路に供給するバランス流体の圧力を、反応カートリッジ内部圧力と同じ、若しくは僅かに高い圧力に制御する手段から構成できる。
【0018】
また、上記バランス流体供給手段は、前記反応カートリッジの内部圧力が一定となった以降、バランス流体を必要に応じて断続的に供給する手段として構成することができる。すなわち、バランス流路側の圧力と反応カートリッジ内部圧力との圧力差は、反応カートリッジの耐圧圧力範囲内であればよいので、反応カートリッジ内部圧力が一定となった以降、不足分のみ供給し、連続的に(つまり、積極的に)供給しないようにした構成である。
【0019】
あるいは、上記バランス流体供給手段は、前記反応カートリッジの内部圧力が一定となった以降もバランス流体を連続的に供給し、かつ、連続的に系外に排出する手段として構成することもできる。すなわち、反応カートリッジ内部圧力が一定となった以降も連続的に供給し、カートリッジ内部圧力と同じ、若しくは僅かに高い圧力に制御し、圧力制御後のバランス流体は系外に排出するようにした構成である。反応カートリッジ周囲に断熱材などを施工し、放熱を最小限に止めることができればバランス流体は積極的に流す必要は無い。ただし、反応カートリッジ内部流体からのリークを検知することや、バランス流体の加熱による放熱増加を抑制するため、バランス空気を少量ずつ流通させる手段を採る場合がある。その場合、バランス流体圧力を反応カートリッジの耐圧圧力範囲内、好ましくは僅かに高い圧力に制御した上で、流通させることを特徴としている。
【0020】
また、上記バランス流路に供給されたバランス流体を減圧後に回収し、再度昇圧してバランス流体として再利用する手段を有する構成することができる。すなわち、バランス流体に使用するガスを回収再利用することにより、プラントのランニングコストを低減することが可能となる。
【0021】
また、上記バランス流体とは異なる、実質的に酸化性ガスを含まないガスを前記反応カートリッジ内部にトレースガスとして少量供給する手段と、バランス流体排出ラインに設けられ、前記トレースガスを検知する検出手段とを有する構成を採用することができる。ここでは、反応カートリッジ内部から外部へリークが生じた場合、反応カートリッジ内部にバランス流体として用いるガスとは別の種類のガスをトレースガスとして供給することで、バランス流体排出ラインにおいて、検出手段によりトレースガスを検知し、リークの有無を検知することができる。反応カートリッジ内部流体が、バランス流路側にリークした場合、水を含むため、特許文献1に示されているような構成では、反応カートリッジ外周に設置されている内部加熱器の漏電や圧力容器の腐食を招く危険性がある。これらについても、本検出手段により予測が可能となる。
【0022】
上記構成とは別に、あるいは上記構成と共に、バランス流体とは異なる、実質的に酸化性ガスを含まないガスを前記バランス流路にトレースガスとして少量供給する手段と、反応カートリッジ内部流体の排出ラインに設けられ、前記トレースガスを検知する検出手段とを有する構成を採用することもできる。ここでは、反応カートリッジ外部から内部へリークが生じた場合を想定している。バランス流体が反応カートリッジ内部に流入するだけでは特に異常反応は生じないものの、反応カートリッジのシール性が悪化していることを検知することが可能である。これは、反応カートリッジ内部の温度変化、流量条件変化により、上述の反応カートリッジ内部流体の外部へのリークを生じる可能性がある。従って、直接的な不利益は無いものの、以後の状況悪化を推測するための手段として有効である。
【0023】
なお、例えば図3に示したような系で第2反応器での超臨界水酸化処理用に空気を供給している場合、トレースガスとして窒素は使用できない。加えて、超臨界水酸化により生成する処理ガス中に二酸化炭素が含まれるため、二酸化炭素も同様に使用はできない。したがってこのような場合には、窒素、二酸化炭素以外のガスをトレースガスとして使用する必要がある。
【0024】
このような本発明に係る反応装置は、前記反応カートリッジ内部に有機物を充填し、水の臨界点以下の亜臨界水中での酸化剤を実質的に含まない加水分解反応または水の臨界点以上の超臨界水中での酸化剤を実質的に含まない加水分解反応を行う反応装置として構成できる。つまり、水熱反応装置として構成できる。
【0025】
また、本発明に係る反応装置は、亜臨界状態若しくは超臨界状態、またはその両方を用い、反応流体が水、二酸化炭素、アルコールの少なくともいずれかを含み、有機物、若しくは無機物の合成反応を行う反応装置として構成できる。つまり、有機物合成反応、無機物合成反応装置として構成できる。
【0026】
例えば、図3に示したようなプロセスなどの、バッチ式水熱反応装置内部に有機物を多量に充填するプロセスにおいて、制御し得ない酸化剤(例えば、空気)の混入は、制御し得ない酸化反応を生じさせるため、本質的に安全から逸脱してしまう。従って、酸化剤(空気など)を供給しない運転工程を含む亜臨界水反応、超臨界水反応を行うバッチ式水熱反応装置において、バランス流体として酸化性ガスを含まないガスを用いることにより、制御し得ない酸化反応の危険性を排除するものである。
【0027】
本発明は、上記のような反応装置に対応した反応方法も提供する。すなわち、本発明に係る反応方法は、圧力容器と、該圧力容器内に設けられ、内部に被処理物が充填、若しくは連続的に供給されて所定の反応が行われ、蓋体により内外を隔離可能な反応カートリッジとを有し、該反応カートリッジの内部圧力と該反応カートリッジと前記圧力容器との間のバランス流路の圧力とを実質的にバランスさせるためにバランス流路にバランス流体を供給する二重管型の反応装置を用いて、被処理物をバッチ式、若しくは連続式で処理する反応方法において、前記バランス流体として実質的に酸化性ガスを含まないガスを用いることを特徴とする方法からなる。
【0028】
この反応方法においては、上記実質的に酸化性ガスを含まないガスとして、窒素または二酸化炭素を用いることができ、それ以外に、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを使用することも可能である。
【0029】
また、上記バランス流路に供給するバランス流体の圧力を、反応カートリッジ内部圧力と同じ、若しくは僅かに高い圧力に制御することが好ましい。反応カートリッジの内部圧力が一定となった以降、前記バランス流体を必要に応じて断続的に供給することもできるし、反応カートリッジの内部圧力が一定となった以降もバランス流体を連続的に供給し、かつ、連続的に系外に排出することもできる。
【0030】
また、上記バランス流路に供給されたバランス流体を減圧後に回収し、再度昇圧してバランス流体として再利用することもできる。
【0031】
また、トレースガスを用いて反応カートリッジ内外へのリークを検出することも可能である。すなわち、上記バランス流体とは異なる、実質的に酸化性ガスを含まないガスを前記反応カートリッジ内部にトレースガスとして少量供給し、バランス流体排出ラインにて前記トレースガスを検知することができるし、バランス流体とは異なる、実質的に酸化性ガスを含まないガスを前記バランス流路にトレースガスとして少量供給し、反応カートリッジ内部流体の排出ラインにて前記トレースガスを検知することもできる。
【0032】
このような本発明に係る反応方法も、水熱反応方法や、有機物合成、無機物合成反応方法として実施できる。すなわち、反応カートリッジ内部に有機物を充填、若しくは連続的に供給し、水の臨界点以下の亜臨界水中での酸化剤を実質的に含まない加水分解反応または水の臨界点以上の超臨界水中での酸化剤を実質的に含まない加水分解反応を行うバッチ式、若しくは連続式反応方法として実施できる。あるいは、反応カートリッジ内部で亜臨界状態若しくは超臨界状態、またはその両方を用い、反応流体が水、二酸化炭素、アルコールの少なくともいずれかを含み、有機物、若しくは無機物の合成反応を行う反応方法として実施できる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る反応装置および反応方法によれば、反応カートリッジ内部側へのバランス流体のリーク、あるいは反応カートリッジ内部側からのバランス流体側へのリークが生じた場合にも、想定外の反応が生じることを防止でき、意図した反応を的確に行うことができるとともに、装置や反応自体の安全性を大幅に高めることができる。例えば、有機物を多量に充填して水熱反応を行う反応においては、制御不可能となる酸化反応を生じることなく、安全性を格段に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下に、本発明に係る反応装置および反応方法の望ましい実施の形態、とくに、PCB汚染固形物を処理対象とした場合の実施態様を挙げて、図面を参照しながら具体的かつ詳細に説明する。
【0035】
図1は、本発明の一実施態様に係る反応装置を示しており、とくに、バッチ式水熱反応器を含む水熱酸化装置を示している。被処理物1は、第1反応器2の反応カートリッジ3内部に充填され、初期充填水として水と、必要に応じて中和剤としてアルカリ(水酸化カリウム、若しくは炭酸水素カリウム、炭酸カリウム)を充填する。反応カートリッジ3は、圧力容器4内に設けられており、上部蓋5を閉じることにより、内部を外部に対してシールできる構造となっている。この水熱酸化装置では、初めに、第2反応器6に、例えば水タンク7から高圧水ポンプ8、第2予熱器9を介して超臨界水を、圧縮機10から第2反応器用空気を、それぞれ供給して加熱を行い、第2反応器6を超臨界水酸化雰囲気にスタンバイする。その後、第1反応器2を亜臨界水、空気などを供給せずに亜臨界水雰囲気(好ましくは300〜350℃)に内部加熱器11により加熱して、脱塩素反応、加水分解による可溶化反応を行う。その後、第1反応器2に亜臨界水を、例えば水タンク7から高圧水ポンプ12、第1予熱器13を介して供給し、第1反応器2内部の処理流体を押し出して第2反応器6に導入し、第2反応器6で超臨界水酸化反応により完全分解する。さらに、第1反応器2を超臨界水雰囲気にまで加熱を行い、超臨界状態で可溶化する対象物を第2反応器6に導入して分解を行う。最終的に、第1反応器2から有機物がほとんど排出された後、最終酸化として第1反応器2に徐々に空気(図示のノズル空気)を供給して超臨界水酸化を行い、第1反応器2内の有機物残渣を完全分解する。第2反応器6からの処理流体は、冷却器14、処理流体排出弁15を介して排出される。
【0036】
第1反応器2は、反応カートリッジ3と圧力容器4との二重管型の反応装置に構成されているが、反応カートリッジ3の内部圧力と該反応カートリッジ3と圧力容器4との間のバランス流路16の圧力とを実質的にバランスさせるために、バランス流体供給手段としての圧縮機10とは別の圧縮機17から、バランス流路16内に、実質的に酸化性ガスを含まないガスが、バランス流体として供給される。その際、第1反応器2の圧力容器4と反応カートリッジ3との間のバランス流体圧力は、差圧(ΔP)を検知する差圧計18による検出差圧を参照し、反応カートリッジ3の内部圧力よりも僅かに高い圧力になるように制御されている。すなわち、バランス流体はバランス流路16から冷却器19、バランス流体排出弁20を介して排出されるようになっているが、このバランス流体排出弁20はバランス流体圧力調節弁としても機能し、この部分でのバランス流体圧力の検知手段21(PRCA-02)を参照して制御されるようになっている。PRCA-02の設定値SVは、例えば以下の式で制御される。
バランス流体圧力PRCA-02 設定値SV=プロセス流体圧力(PRCA-01)の現在値PV+差圧ΔP ここで、プロセス流体圧力(PRCA-01)は、第2反応器6入口側での圧力の検知手段22で検知される。差圧ΔPは好ましくはゼロ〜0.2MPa程度である。
【0037】
従来のバッチ式水熱酸化装置は、図3に示したように、上記バランス流体として空気を使用しており、反応カートリッジ上部の圧力シールからリークが生じた場合にプロセスに悪影響を及ぼしていた。
【0038】
具体的には、反応カートリッジ内部が無酸素状態下で亜臨界雰囲気の際に、バランス流体が反応カートリッジ内部に流入した場合、亜臨界雰囲気の気相中の有機物が流入した空気により酸化されて反応カートリッジ内部温度の上昇が生じる可能性がある。これは、バランス流体に空気を用いているため、空気中の酸素による酸化反応が起こるためと考えられる。
【0039】
また、反応カートリッジ内部が亜臨界雰囲気の際に、反応カートリッジ内部流体がバランス流路に流出した場合、亜臨界雰囲気の気相中の有機物がバランス流路内で酸化されてバランス流体温度が上昇し、結果的に圧力容器温度を上昇させて、圧力容器の設計温度近くまで温度が上昇する結果を招く可能性がある。
【0040】
さらに、反応カートリッジ内部が無酸素状態下で超臨界雰囲気の際、反応カートリッジ内部に空気が流入すると内部にて制御し得ない超臨界水酸化反応が生じ、反応カートリッジ外部に内部流体が流出した場合も、高温気相反応が生じる危険性がある。
【0041】
本発明では、バランス流体に酸化性ガスを含まないガス(例えば、窒素ガス)を用いることにより、これらの問題を解決した。すなわち、図1において、圧縮機17からは、圧縮機10とは異なり、バランス流体として酸化性ガスを含まないガスが供給される。酸化性ガスを含まないので、上記のようなリークが生じた場合にあっても、想定外の高温化反応が生じることはなく、安全性が確保されるとともに、意図した所定の反応が他から悪影響を受けることなく、予定通りに行われることになる。
【0042】
図2は、本発明の別の実施態様に係る反応装置を示しており、図1の装置に比べ、圧縮機17を用いることなく窒素ブースター31を用いて所定の圧力に加圧したバランス流体としての窒素を供給する構成と、バランス流体を回収再利用する機構と、さらに、トレースガスを供給し、排出側にてリークを検知する機構を付加している。
【0043】
バランス流体の回収機構は、バランス流体排出弁20の下流側で検出器32を介して排出されてきたバランス流体としての窒素を一旦窒素回収タンク33に回収し、窒素ブースター31により再昇圧して窒素調整タンク34に貯留した後、バランス流体の供給ライン35に戻すことで、バランス流体の再利用を可能にしている。
【0044】
また、バランス流体として窒素を用いる場合を例にすると、トレースガスとしてヘリウムを使用し、トレースガスボンベ41からブースター42を介して、バランス流体供給ライン35または/およびノズル空気ライン43にトレースガスを選択的に供給可能に構成されている。例えば、トレースガスを反応カートリッジ3内部側に僅かに供給し、バランス流体排出側の検出器32で反応カートリッジ3のシール性を確認することができる。若しくは、バランス流体側に僅かにトレースガスを供給して、例えば気液分離器44の処理ガスラインに設置してある検出器45で反応カートリッジ3のシール性を確認することができる。その他の構成、作用効果は、図1に示したものに準じる。
【0045】
なお、上記実施態様に係る装置および方法は、水熱反応装置に関して説明したが、本発明に係る反応装置および反応方法は、前述したように、同様の構成を採用して、有機物合成反応、無機物合成反応に適用できる。例えば、亜臨界状態若しくは超臨界状態、またはその両方を用い、反応流体が水、二酸化炭素、アルコールの少なくともいずれかを含み、有機物、若しくは無機物の合成反応を行う反応装置、反応方法として適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施態様に係る反応装置の機器系統図である。
【図2】本発明の別の実施態様に係る反応装置の機器系統図である。
【図3】従来の反応装置の機器系統図である。
【符号の説明】
【0047】
1 被処理物
2 第1反応器
3 反応カートリッジ
4 圧力容器
5 上部蓋
6 第2反応器
7 水タンク
8、12 高圧水ポンプ
9 第2予熱器
10、17 圧縮機
11 内部加熱器
13 第1予熱器
14、19 冷却器
15 処理流体排出弁
16 バランス流路
18 差圧計
20 バランス流体排出弁
21 バランス流体圧力検知手段
22 第2反応器入口側圧力検知手段
31 窒素ブースター
32 検出器
33 窒素回収タンク
34 窒素調整タンク
35 バランス流体供給ライン
41 トレースガスボンベ
42 ブースター
43 ノズル空気ライン
44 気液分離器
45 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物をバッチ式、若しくは連続式で処理する反応装置であって、圧力容器と、該圧力容器内に設けられ、内部に被処理物が充填されて所定の反応が行われ、蓋体により内外を隔離可能な反応カートリッジと、該反応カートリッジの内部圧力と該反応カートリッジと前記圧力容器との間のバランス流路の圧力とを実質的にバランスさせるためのバランス流体を供給するバランス流体供給手段とを有する二重管型の反応装置において、前記バランス流体として実質的に酸化性ガスを含まないガスを用いることを特徴とする反応装置。
【請求項2】
前記実質的に酸化性ガスを含まないガスが、窒素または二酸化炭素からなる、請求項1の反応装置。
【請求項3】
前記バランス流体供給手段は、バランス流路に供給するバランス流体の圧力を、反応カートリッジ内部圧力と同じ、若しくは僅かに高い圧力に制御する手段からなる、請求項1または2の反応装置。
【請求項4】
前記バランス流体供給手段は、前記反応カートリッジの内部圧力が一定となった以降、バランス流体を必要に応じて断続的に供給する手段からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の反応装置。
【請求項5】
前記バランス流体供給手段は、前記反応カートリッジの内部圧力が一定となった以降もバランス流体を連続的に供給し、かつ、連続的に系外に排出する手段からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の反応装置。
【請求項6】
前記バランス流路に供給されたバランス流体を減圧後に回収し、再度昇圧してバランス流体として再利用する手段を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の反応装置。
【請求項7】
前記バランス流体とは異なる、実質的に酸化性ガスを含まないガスを前記反応カートリッジ内部にトレースガスとして少量供給する手段と、バランス流体排出ラインに設けられ、前記トレースガスを検知する検出手段とを有する、請求項1〜6のいずれかに記載の反応装置。
【請求項8】
前記バランス流体とは異なる、実質的に酸化性ガスを含まないガスを前記バランス流路にトレースガスとして少量供給する手段と、反応カートリッジ内部流体の排出ラインに設けられ、前記トレースガスを検知する検出手段とを有する、請求項1〜7のいずれかに記載の反応装置。
【請求項9】
前記反応装置が、前記反応カートリッジ内部に有機物を充填し、水の臨界点以下の亜臨界水中での酸化剤を実質的に含まない加水分解反応または水の臨界点以上の超臨界水中での酸化剤を実質的に含まない加水分解反応を行う反応装置である、請求項1〜8のいずれかに記載の反応装置。
【請求項10】
前記反応装置が、亜臨界状態若しくは超臨界状態、またはその両方を用い、反応流体が水、二酸化炭素、アルコールの少なくともいずれかを含み、有機物、若しくは無機物の合成反応を行う反応装置である、請求項1〜8のいずれかに記載の反応装置。
【請求項11】
圧力容器と、該圧力容器内に設けられ、内部に被処理物が充填、若しくは連続的に供給されて所定の反応が行われ、蓋体により内外を隔離可能な反応カートリッジとを有し、該反応カートリッジの内部圧力と該反応カートリッジと前記圧力容器との間のバランス流路の圧力とを実質的にバランスさせるためにバランス流路にバランス流体を供給する二重管型の反応装置を用いて、被処理物をバッチ式、若しくは連続式で処理する反応方法において、前記バランス流体として実質的に酸化性ガスを含まないガスを用いることを特徴とする反応方法。
【請求項12】
前記実質的に酸化性ガスを含まないガスとして、窒素または二酸化炭素を用いる、請求項11の反応方法。
【請求項13】
前記バランス流路に供給するバランス流体の圧力を、反応カートリッジ内部圧力と同じ、若しくは僅かに高い圧力に制御する、請求項11または12の反応方法。
【請求項14】
前記反応カートリッジの内部圧力が一定となった以降、前記バランス流体を必要に応じて断続的に供給する、請求項11〜13のいずれかに記載の反応方法。
【請求項15】
前記反応カートリッジの内部圧力が一定となった以降もバランス流体を連続的に供給し、かつ、連続的に系外に排出する、請求項11〜13のいずれかに記載の反応方法。
【請求項16】
前記バランス流路に供給されたバランス流体を減圧後に回収し、再度昇圧してバランス流体として再利用する、請求項11〜15のいずれかに記載の反応方法。
【請求項17】
前記バランス流体とは異なる、実質的に酸化性ガスを含まないガスを前記反応カートリッジ内部にトレースガスとして少量供給し、バランス流体排出ラインにて前記トレースガスを検知する、請求項11〜16のいずれかに記載の反応方法。
【請求項18】
前記バランス流体とは異なる、実質的に酸化性ガスを含まないガスを前記バランス流路にトレースガスとして少量供給し、反応カートリッジ内部流体の排出ラインにて前記トレースガスを検知する、請求項11〜17のいずれかに記載の反応方法。
【請求項19】
前記反応方法が、前記反応カートリッジ内部に有機物を充填、若しくは連続的に供給し、水の臨界点以下の亜臨界水中での酸化剤を実質的に含まない加水分解反応または水の臨界点以上の超臨界水中での酸化剤を実質的に含まない加水分解反応を行うバッチ式、若しくは連続式反応方法である、請求項11〜18のいずれかに記載の反応方法。
【請求項20】
前記反応方法が、前記反応カートリッジ内部で亜臨界状態若しくは超臨界状態、またはその両方を用い、反応流体が水、二酸化炭素、アルコールの少なくともいずれかを含み、有機物、若しくは無機物の合成反応を行う反応方法である、請求項11〜18のいずれかに記載の反応方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−7157(P2006−7157A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190890(P2004−190890)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】