説明

反芻動物の腸へ生物活性化合物を供給するための細菌の培養方法

反芻動物の胃腸に生物活性化合物を供給するのに有用な、培養されたグラム陽性細菌株の、第一胃での不活性化に対する耐性を増加する方法であって、前記方法は、原生動物による捕食に耐性のある細菌の細胞壁の成長を促進するのに効果的なリゾチーム量を含む成長培地中で、少なくとも1代継代を経て、細菌株の培養物を培養する段階;および、前記細菌株をリゾチーム含有培地から回収する段階を含む。前記方法発明による第一胃を迂回する飼料用栄養補助剤、加えて、第一胃を迂回する飼料用栄養補助剤を反芻動物の既定食に栄養補給する方法、およびインビボでの第一胃の不活性化に対するグラム陽性細菌の耐性を評価するためのインビトロでの方法もまた開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、第一胃中での不活性化に本質的に耐性のある生物活性化合物を、反芻動物の胃腸へ供給するのに有用な微生物の同定方法、さらに、第一胃中での不活性化に一層耐性のある、不活性化耐性が低くて有用な微生物の培養方法に関する。前記微生物は、反芻動物に経口投与されると、胃腸に細胞を丸ごと供給することが可能であり、反芻動物への栄養物および生物活性化合物が前記細胞中に含まれる。本発明はまた、反芻動物の胃腸へ生物活性化合物を供給するのに有用であって、第一胃中での不活性化により耐性を有するように培養した微生物、およびそれと共に反芻動物の飼料に栄養補給する方法も含む。
【背景技術】
【0002】
背景技術
乳酸菌、プロピオン酸菌、および乳酸菌に根差すプロバイオティクス培養物が、単胃の家畜およびヒトの、腸機能の維持のために益々利用されている。主張される利益は、消化率の増加、免疫機能の改善、および胃腸不調の軽減を含む。プロバイオティクス、主要例として酵母および菌類のプロバイオティクスは、反芻動物に用いられるが、プロバイオティクスが第一胃を通過し、そして小腸および大腸に入ることが確実には行われづらい点において、反芻動物の胃腸に機能するプロバイオティクスの利益は制限されている。
【0003】
第一胃は主に、反芻動物への細菌の侵入を阻止する役割を果たしており、実験により、飼料に添加された細菌培養物の10%未満が第一胃の残渣から回収できたことが示されている。原生動物による細菌の飲み込みおよび消化が、第一胃中での細菌分解の主な原因である。第一胃での原生動物による細菌分解の第一段階および律速段階は、細菌の細胞壁の分解である。これまでの研究では、この分解は、細菌の細胞壁の構成および組成に強く影響されており、実際、細胞壁分解酵素であるリゾチームに由来する、継続的なストレス存在下で細菌を培養することにより、細菌の細胞壁を、原生動物による捕食に対してより耐性と有するように、“強固”にすることが可能である。
【0004】
反芻動物では、摂取した飼料は、反芻動物が有する複数胃の最初の区画である、反芻胃に入る。反芻胃内では、摂取した飼料は、微生物発酵によって前消化または分解される。摂取したタンパク質のうちの相当量が、反芻胃中で水溶性ペプチドおよびアミノ酸に分解される。これらのペプチドおよびアミノ酸のうちの一定の割合は、無駄にアンモニアに変換され、もはや反芻動物に用いられない。残渣は第一胃の微生物に利用され、微生物自身のバイオマスとして活用される。第一胃の内容物が、第四胃および腸へと受け渡されるときに、第一胃の微生物バイオマスの一定の割合も、残りの第一胃の内容物と共に反芻胃から出ていく。この微生物バイオマスは後に小腸中で分解され、反芻動物に栄養物を供給する。しかしながら、反芻胃内に存在する細菌のうちのかなりの割合は、反芻胃内に常在する原生動物群によって消費および消化される。これは宿主の反芻動物にとっては、無駄の多い過程である。なぜなら、細菌細胞および細胞内に含まれる栄養物が、第一胃から出ていかず、反芻動物の栄養摂取に貢献しないからである。
【0005】
同様の方法として、動物に、腸上皮に付着する細菌調合物を摂取させることにより、動物の成長および飼料効率が改善する(米国特許第4980164号明細書、米国特許第5256425号明細書)。しかしながら、反芻動物においては、細菌調合物もまた、第一胃を通過する際の生存率が低い。経口摂取による生存率の損失を克服するため、バチッヒ(Batich)(米国特許第6242230号明細書)は、動物の小腸へ供給されうるように、ゲル状マトリックス内に細菌を封入する方法を記載した。バチッヒの目的は、宿主動物において細菌に対する免疫反応を発生させないことにより、これらの生存率を低下させないことである。バチッヒは、宿主の免疫反応を克服することのみを意図し、原生動物に対する耐性は意図していないので、第一胃の加水分解条件はマトリックス封入体の分解をもたらしうる。また、これはコストがかかる方法であって、特定の微生物の生存率を低下させることができる化学物質を使用する。
【0006】
酵母菌は、細菌より多くのひだを持ち大きいので、第一胃内での分解に典型的に影響を受けやすい細菌とは異なり、第一胃内での原生動物による捕食に対して影響を受けにくい。シオザキ等(米国特許第4562149号明細書)は、細胞のS−アデノシルメチオニンを10%〜20%豊富にするという、酵母菌、サッカロミセス・セレビシエの培養方法を記載する。この発明は、メチオニンを合成するために、細菌よりもむしろ酵母菌を用いることを試みる。新規ではあるものの、酵母菌は経済的に適しておらず、このようなアミノ酸合成において、細菌よりも効率がよくない。加えて、この方法が、第一胃内でメチオニンの分解に耐性のある生成物を生産するという証拠はない。
【0007】
同様に、オオスミ等(Biosci.Biotech.Biochem.(1994),58,1302−1305)は、リジン含有量が豊富な、酵母菌の培養方法を記述する。そのリジン含有量は、野生型酵母菌で通常見られる両よりも多いが、この方法は、第一胃にリジンのバイパスを形成する方法であるとして、経済的とみなされていない。ストラウス等(Can.J.Anim.Sci.(2004))は、他種の酵母菌であるピチア・パストリスを遺伝子組み換えすると、特定の遺伝子組み換えタンパク質を、反芻動物の小腸に供給するために用いることが可能であることを示した。しかしながら、ピチア・パストリスは、家畜への飼料として安全と見なされてはいない。
【0008】
ボラ等(米国特許第6737262号明細書)は、個々のアミノ酸というよりもむしろ、少なくとも二つのアミノ酸を含むペプチド生産のために、遺伝子転換された生物を用いて、菌類または他の微生物を飼料に組み込む方法を記載する。加えて、前記発明者は、ペプチドが第一胃の環境を迂回するのを確実にするために、さらにカプセル封入が、必要となりうると述べる。
【0009】
上記のすべての場合において、酵母菌細胞の操作は、集中的選択または遺伝子操作のいずれかを必要とする。典型例として、サッカロミセス・セレビシエは、第一胃で利用可能な栄養物を供給するために家畜に与えられ、実際は、小腸中で生物活性を示すような、化合物を大量に生産することには実際のところあまり適していない。細菌は酵母菌に比して、広範囲の生物活性化合物および栄養物を生産する上で、商業的に利用できるが、目標は前記化合物を、単離し易い化合物にするために、細胞外へ取り出すことである。徹底した菌株の選択により、または培養可能な条件を介して含まれる細菌および生物活性化合物が、第一胃での分解から保護されるように、細菌調合物を培養する既知の方法発明はない。
【0010】
反芻動物への投与を目的とする、細菌調合物、栄養物、およびその他の生物活性w有する化合物の生産においては、第一胃内で起こる微生物による分解から、活性成分を保護することが必要である。もし、成長律速要因である必須アミノ酸および他の生物活性化合物が、第一胃の微生物による変化から保護され、続いて該動物の胃腸管での吸収が可能であれば、肉、毛および/または乳の生産を増加できることはよく知られている。
【0011】
生物活性化合物および栄養物を、コーティングを伴うカプセル封入によって、または化学マトリックス内に化合物を埋め込むことによって、第一胃内で安定にするための多数の発明が存在する。米国特許第3959493号明細書は、脂肪酸で保護された生物活性物質を含む、第一胃で安定な生成物について述べる。グラス等によって公表された米国特許第3655864号明細書は、生物活性のある飼料用添加物を、第一胃以後に供給することを可能にする、動物用組成物について述べる。この際、該組成物は、液体不飽和高級脂肪酸を含むトリステアリン酸グリセリルのマトリックス内に埋め込まれ、またはコーティングされる。
【0012】
ドレイク等によって公表された米国特許第4473545号明細書は、比較的不溶な結合剤、可溶性粒子材料および活性剤の混合物を含む、動物の飼料用添加物について述べる。前記粒子材料は、特定の範囲のpH条件下で直ちに溶解するようなものである。前記粒子材料の溶解により、前記結合剤は水透過性を有し、前記活性剤が放出される。
【0013】
米国特許第4533557号明細書は、少なくとも一つの生物活性材料、キトサン、および長鎖脂肪酸の保護物質からなる、錠剤または顆粒形態の混合物を含む、反芻動物のための飼料用添加物について述べる。米国特許第6238727号明細書および米国特許第5885610号明細書は、第一胃中で不溶なために、微生物による分解には利用できないが、後の小腸での吸収には利用できるような、必須アミノ酸の不溶性ミネラル塩の製造を記載する。
【0014】
クローゼ(米国特許第6013286号明細書)は、組成物、および生物活性化合物が第一胃に直接入らず、そのまま小腸へと通過するような、反芻動物への生物活性化合物の投与方法について記載する。この方法においては、物質が0.3〜2.0の特定の比重を持ち、粒子が疎水性のコーティングで完全にカプセル化された生物活性物質の核を含むことが要求される。さらに、第一胃内で粒子を浮かせないようにするため、疎水性のコーティングの表面に界面活性剤を用いる。
【0015】
生物活性化合物が、第一胃での分解から保護されるように設計されたマトリックス内にカプセル化され、または埋め込まれた全ての発明において、前記化合物は、第一に微生物発酵または化学合成によって生産されることが必要であり、次に精製およびカプセル化工程に供される。この多段階工程はコストがかかり、第一胃で保護される生物活性化合物を製造する方法としては、コストがかかり、効率が悪い。各段階において、生成物の損失および回収物内の生物活性の損失がある。
【0016】
L−リジンは、L−リジン産生菌であるコリネバクテリウム・グルタミカムの発酵によって生産される。C.グルタミカムの生産効率は、菌株の選択や発酵技術(すなわち、攪拌、酸素供給、栄養培地の組成物)の改良によって改善することができる。同様に、組み換えDNA技術に関する方法は、個々の生合成遺伝子の増幅によって、C.グルタミカムの菌株における、L−リジンの生産を改善するために用いられている。このように、アミノエチルシステインに耐性を付与するDNA断片の増幅(EP 88 166)、フィードバック耐性のあるアスパラギン酸キナーゼ(EP 387 527)、ジヒドロジピコリネートシンターゼの増幅(EP 197 335)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(EP 219 027)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼアスパラギン酸(EP 143 195およびEP 358 940)、セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(EP 219 027)、およびピルビン酸カルボキシラーゼ(DE 198 31 609)によって、L−リジン生産の増加が達成されている。
【0017】
L−リジンの工業的な生産において、細菌によるL−リジン合成の効率を高めるために、L−リジン生成物と細菌細胞を分離することが必要である。遺伝子LysEが、L−リジンのC.グルタミカムの細胞質外および培地中への輸送に関与していること、ならびに工業的なL−リジン生産の効率にとって重要であることが発見された(Tryfona et al.,Process Biochem(2004))。LysEの活性増加によって、L−リジンの輸送担体がリジン生産を促進する(DE 195 48 222)。
【0018】
課題は、第一胃を迂回でき、小腸にそのまま供給されうるような、第一胃での分解から細菌および他の微生物を保護する手段がない、ということである。さらに、細菌および他の微生物が生産した生物活性化合物は、精製可能なように細菌細胞から排出されなければならない。一旦精製されれば、生物活性化合物は、カプセル化または埋め込み技術により、第一胃での分解に対して保護されなくてはならない。
【発明の開示】
【0019】
発明の概要
今回開示する方法は、第一胃中での不活性化に耐性であって、生物活性化合物を反芻動物の胃腸へ供給するために有用な、グラム陽性細菌の菌株を同定する方法である。本開示の別の方法は、細菌株が第一胃での不活性化にどんなに本質的に耐性でありえるとしても、生物活性化合物を反芻動物の胃腸へ供給するために有用な、培養された細菌株の、第一胃での不活性化に対する耐性を増加させる方法である。
【0020】
従って、本発明の一態様によると、インビボにおける、第一胃での不活性化に対する細菌株の耐性の評価を提供する、インビトロの方法であって、この際、前記方法は以下を含む:
天然または合成による第一胃流動物を含む栄養培地中での、生物活性化合物を反芻動物の胃腸へ供給するために有用なグラム陽性細菌株の、インビトロでの培養方法;および
時間の関数として、細菌培地中のタンパク質分解を測定する方法。
【0021】
第一胃流動物は、投与される細菌株が遭遇する、およその第一胃の条件が選択される。天然の第一胃流動物は、健全な反芻動物の第一胃の内容物から、食後24時間以内に採取される。合成した第一胃流動物は、第一胃中の擬似条件に選択された物質の混合物であって、第一胃中の微生物を摂食する一または二以上の捕食性原生動物種を含む。この原生動物種は当業者によって容易に同定される。
【0022】
本発明にかかる好ましい方法は、ワラス(Wallace et al.)(Br.J.Nutr.,58,313−323(1987))の方法に従い、C14で標識されたロイシンの放出を分析して、タンパク質の分解を測定するものであり、本開示は、参照により本願に用いられる。結果は、1時間当たりに分解に供された細菌のうち、残存細菌の%で表される速度として示される。本発明の目的のために、1時間当たり8%未満の分解速度を有する細菌株を、第一胃の不活性化に耐性のあると定義する。1時間当たり6%未満の分解速度を有する菌株は、反芻動物へ生物活性物質を供給するために好ましく、1時間当たり4%未満の分解速度を有する菌株はより好ましい。
【0023】
これに対応して、第一胃での不活性化に耐性のある菌株は、1日当たりの動物に与えられる微生物投与量の20%より多くが、そのまま反芻胃を通って供給されうる。好ましい菌株は、1日当たりの動物に与えられる微生物の投与量の50%より多くが、そのまま反芻胃を通って供給されうり、さらに好ましい菌株は、1日当たりの動物に与えられる微生物の投与量の80%より多くが、そのまま反芻胃を通って供給されうる。
【0024】
よって、本発明の本態様の一実施形態は、ワラス(Wallace et al.)の方法によってC14で標識されたロイシンの放出によって測定されたときに、1時間当たり8%未満の分解速度を有する細菌株を、第一胃での不活性化に耐性のあると同定する段階をさらに含む。
【0025】
本発明の本態様の他の実施形態によると、有用な細菌株はリジン産生細菌株であり、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカムの菌株であり、さらに好ましくはリジンの過剰生産で知られるC.グルタミカムの菌株であり、リジンを過剰生産するために遺伝子組み換えされたC.グルタミカムの菌株を含む。しかしながら、この方法は、第一胃の不活性化に対する耐性の評価が望まれる、反芻動物の胃腸への生物活性化合物の供給のために有用な、いかなる細菌種にも潜在的に適用しうる。
【0026】
本発明の目的のために、「胃腸への供給」は反芻動物の第4胃、小腸および大腸への供給を含むと定義する。正確に、どこに生物活性化合物が供給されるかは、供給される生物活性化合物の性質によって決まり、当業者であれば前記化合物の投与を模索することによって把握しうる。
【0027】
本発明の本態様にかかる方法は、胃腸に特定の細菌を供給するのに用いることが可能な、第一胃での分解性が低下した細菌株を選択する能力を提供する。および、前記方法は、細菌内に含まれる、反芻動物への生物物活性化合物を提供し、この際、細菌細胞は、細胞の内容物に第一胃の迂回(bypass)を保護する役割を果たす。選択された前記細菌株は、さらなる遺伝子組み換えなしに、第一胃での分解に対して適度な耐性を持ちうり、反芻動物にとって有用な細菌バイオマスの供給を可能とする。
【0028】
さらなる遺伝子組み換えなしに、反芻動物に細胞内容物の供給を可能とする、第一胃の変化に対して適度な耐性を持っていることが発見された菌株は、C.グルタミカムATCC株13058、13825、14066、14067、14068、21127および700239を含む。よって、本発明の他の態様によると、C.グルタミカムATCC株13058、13825、14066、14067、14068、21127、および700239から成るグループから選択される、C.グルタミカム菌株のリジン含有バイオマスを含む、第一胃を迂回する飼料用栄養補助剤を提供する。
【0029】
本発明は、さらに、細菌株が第一胃での不活性化により耐性となりうる方法を提供する。本発明の本態様にかかる方法は、第一胃での不活性化に耐性のあると同定された細菌株、および耐性ではないと同定された細菌株の、第一胃での不活性化への耐性を増加するために用いられる。
【0030】
よって、本発明の他の実施形態によると、培養された細菌株の、第一胃での不活性化に対する耐性を増加させるために提供された方法であって、この際、細菌株は、反芻動物にとって栄養的に有益なグラム陽性細菌株であって、以下の段階を含む:
原生動物による捕食に耐性のある、細菌の細胞壁の成長を促す効果のある、一定量のリゾチームを含む成長培地中で、細菌株の培養物を少なくとも1代継代培養する段階;および
リゾチーム含有培地から細菌株を回収する段階。
【0031】
本発明の本態様の一実施形態によると、成長培地中のリゾチーム濃度は1〜100ug/mlである。本発明の本態様の他の実施形態によると、複数の継代成長が用いられ、好ましい継代数は2〜20代である。
【0032】
本発明の本態様のさらに他の実施形態によると、第一胃での分解に耐性のある細菌の細胞壁中から細菌のバイオマスを回収した後の最終継代後に、回収段階を行う。好ましくは、前記バイオマスは、次に、反芻動物に与えるために、従来の方法で脱水され、および濃縮される。
【0033】
本発明の本態様の他の実施形態では、細菌株はリジン産生菌株であり、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカムの菌株であり、さらに好ましくはリジンの過剰生産で知られるC.グルタミカムの菌株であり、リジンを過剰生産するために遺伝子組み換えされた菌株を含む。しかしながら、この方法は、第一胃の不活性化に対する耐性の増加が望まれる反芻動物へと、生物活性化合物を胃腸内輸送するために有用な、いかなる細菌種にも潜在的に適用することができうる。
【0034】
本発明は、反芻動物へと生物活性化合物を胃腸内輸送するために有用な細菌バイオマスを含む、第一胃を迂回する飼料用栄養補助剤をさらに含む。前記飼料用栄養補助剤は、第一胃での不活性化に耐性であって、本発明にかかる方法、および第一胃を迂回する飼料用栄養補助剤を用いて反芻動物の既定食に栄養補助をするための方法、のいずれかによって得られる。前記細菌は、動物の飼料中に含まれ、反芻動物に提供されるとき、反芻動物へと、生物活性化合物を胃腸内輸送するためのシステムとして機能する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
前述ならびに他の目的、本発明の特徴および利点は、添付図面を参照し、以下で説明する好ましい実施形態の詳細な説明によって、より容易に理解できる。
【0036】
好ましい実施形態の詳細な説明
第一胃での分解に対する耐性を付与するために、有用な細菌がリゾチーム存在下の栄養培地中で培養される。好ましくは、特定の生物を大量に培養するために理想的な発酵条件下、かつ有益な生物活性化合物の合成のために最適化された発酵条件下で培養される。適した栄養培地の例は、レノックス培地(Kumagai et al.Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,69,2051−2056(2005))、CGXII培地(Keilhauer et al.1993.J Bacteriol 175:5595−5603)、ルリア・ベルタニ培養液(Lennox,E.S.1955.Virology 1:190−206)、ならびにブロエルおよびクラメルによって記載された複合培地(J.Bacteriol.1990,172,7241−7248)を含む。
【0037】
リゾチームは、第一胃での溶解に対する耐性を強くするために、効果的な濃度で栄養培地に添加される。前記リゾチーム濃度は、第一胃での分解性において統計上または商業上飛躍的な改善が見られない程度に低くあってはならず、または細胞の培養が許容しがたいほど抑制される程度に高くあってもならない。よって、前記リゾチームの濃度は好ましくは約0.1〜約100ug/mlであり、およびより好ましくは約1〜約10ug/mlである。
【0038】
好ましくは、リゾチームを含有した成長培地中に複数の連続継代を採用する方法。さらに好ましくは、2〜10連続継代を採用する方法。好ましくは、細菌は各々の継代で12〜48時間培養され、リゾチーム存在下での全培養時間は1〜20日である。
【0039】
細菌細胞は、次にろ過および/または遠心分離によって採取され、濃縮および/または乾燥され、および商用に適した方法で包装される。
【0040】
第一胃での分解に対する耐性を付与するために、リゾチームを採用する本発明は、反芻動物の胃腸に生物活性化合物を供給するために有用な、いかなる細菌種にも適用することができる。このような種の例は、ビフィドバクテリウム・インファンチス、ラクトバチルス・レウテリ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ロイコノストック・メセンテロイデス、バチルス・コアグランス、ビフィドバクテリウム・サーモフィルム、ペディオコッカス・アシジラクチシ、バチルス・レンタス、ラクトバチルス・アシドフィルス、ペディオコッカス・セレビス.(ダンノサス)、バチルス・リケニホルミス、ラクトバチルス・ブレビス、ペディオコッカス・ペントサセウス、バチルス・プミラス、ラクトバチルス・ブルガリクス、プロピオニバクテリウム・フレウデンレイチ、バチルス・サブチリス、ラクトバチルス・カセイ、プロピオニバクテリウム・シェルマニ、バクテロイデス・アミロフィルス、ラクトバチルス・セロビオサス、バクテロイデス・カピロサス、ラクトバチルス・カルバタス、ストレプトコッカス・クレモイルス、バクテリオデス・ルミニコラ、ラクトバチルス・デルブエキ、ストレプトコッカス・ジアセチラクチス、バクテロイデス・スイス、ラクトバチルス・フェルメンタム、ストレプトコッカス・ファエシウム、ビフィドバクテリウム・アドレセンチス、ラクトバチルス・ヘルベチクス、ストレプトコッカス・インテルメジウス、ビフィドバクテリウム・アニマリス、ラクトバチルス・ラクチス、ストレプトコッカス・ラクチス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ラクトバチルス・プランタラムおよびストレプトコッカス・サーモフィルスを含むが、これらに制限されることはない。
【0041】
得られる飼料用添加物も、第一胃を迂回する性質が求められていなくても、ヒトを含む単胃動物に対してもまた有用な利益を与える。
【0042】
グラム陽性細菌は、厚いペプチドグリカン細胞壁を有しているので、本発明は、グラム陽性細菌を用いるのに特によく適している。グラム陽性細菌の例は、結核菌、ノカルジア菌、乳酸菌、連鎖球菌、バチルス属およびコリネバクテリア属を含む。ATCC菌株13058,13825,14066,14067,14068,21127および700239のように、本発明に用いるのによく適するような、多くの商業的に有用なC.グルタミカムのリジン産生菌株が開発されている。ATCC菌株21127および700239のように、高濃度のL−リジンを合成することができるコリネバクテリウア・グルタミカム菌株が好ましい。輸送遺伝子LysEを欠損しているコリネバクテリウア・グルタミカム菌株もまた好ましい。
【0043】
生物活性化合物は、アミノ酸、その誘導体、アミノ酸の水酸基同族体、タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、および動物用医薬品等の栄養物を、単独で、または二以上の混合物として含み、リゾチーム存在下で培養した細菌種によって供給されうる。
【0044】
生物活性化合物の説明に役立つ実例は、リジン、メチオニン、トリプトファン、スレオニン等のアミノ酸;N−アシルアミノ酸、N−ヒドロキシメチルメチオニンカルシウム塩、リジン塩酸塩等のアミノ酸誘導体;2−ヒドロキシ−4−メチルメルカプト−酪酸およびその塩等のアミノ酸の水酸基同族体;デンプン、スクロース、グルコース等の炭水化物;多価不飽和脂肪酸、オメガ−3 脂肪酸、オメガ−6 脂肪酸、トランス脂肪酸等の脂肪酸;および、ビタミンAアセテート、ビタミンAパルミテート等のビタミンA、チアミン、チアミン塩酸塩、リボフラビン、ニコチン酸、ニコチンアミド、パントテン酸カルシウム、パントテン酸コリン、ピリドキシン塩酸塩、塩化コリン、シアノコバラミン、ビオチン、葉酸等のビタミンB、p−アミノ安息香酸、ビタミンD2およびD3、ビタミンE等のビタミンおよびビタミンと同様の機能を持つ物質を含む。
【0045】
生物活性化合物は、栄養物に加えて、エストロゲン、スチルベストール、ヘキセステロール、甲状腺タンパク質、ゴイトロゲン、成長ホルモン等のホルモンを含む治療化合物も含む。生物活性治療化合物は、アミラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、ぺクチナーゼ、セルラーゼ、ラクターゼ、リパーゼ等の治療ペプチドおよびタンパク質;成長ホルモン、ホルモンタンパク質;マンナン−およびフルクト−オリゴ糖等の微生物結合炭水化物ならびにバクテリオシン等の抗菌性ペプチド化合物も含む。
【0046】
よって、本発明の方法は、天然に存在する細菌株および集中的選択的工程によって生産された菌株の両方に有用なだけでなく、遺伝子組み換えによって生産された細菌株も適用することができる。目的とする治療ペプチドまたはタンパク質を生産するために遺伝子組み換えされた遺伝子組み換え細菌株は、次に、前記ペプチドまたはタンパク質を胃腸に供給するために、遺伝子組み換えされた細菌細胞が安全に第一胃を迂回するのを可能とする方法発明によって遺伝子組み換えされうる。
【0047】
前記細菌細胞自身は、細菌の細胞表面上に含まれる化合物を、胃腸へ供給することについても価値がありうる。加えて、本発明の目的のために腸中で病原菌と競い合う機能(すなわち、競争的排除)を有する栄養価のない細胞も、「生物活性化合物」の定義の範囲内に含まれる。
【0048】
インビトロでの分離方法は、第一胃での不活性化に対して鈍いか、または第一胃での不活性化に対して鈍い状態にするためにリゾチーム含有成長培地で培養する必要がある、有用な細菌株を同定することもまた提供する。第一胃での不活性化に耐性のある有用な細菌株を評価する本方法は、上記の有用な細菌種に適用されうる。本方法は第一胃での不活性化に本質的に耐性であって、リゾチーム含有培地中で培養させることなしに、第一胃を迂回する飼料用栄養補助剤としての実用性を持つ菌株、およびリゾチーム存在下で培養することによって、第一胃での不活性化に対する耐性を付与されるに違いない菌株の同定方法を提供する。
【0049】
インビトロでの本方法は、生物活性化合物の反芻動物の胃腸へ供給するために有用なグラム陽性細菌株を、天然または合成の、第一胃流動物を含んだ成長培地中で培養させ、およびタンパク質分解を時間の関数として測定する。前記成長培地は、栄養培地を80〜99体積%および第一胃流動物を1〜20体積%含む。適した栄養培地の例はデホリティー培地(Dehority’s Medium)(Scott and Dehority,J.Bacteriol.,89,1169−1175(1965))、ホブソンM2培地(Hobson’s M2 Medium)(Hobson,Methods Microbiol.,3B,133−149(1969))およびCRT培地(Wallace et al.,Int.J.Syst.Evol.Microbiol.,53,965−970(2003))を含む。フンゲイト(Hungate R E 1966.The rumen and its microbes.Academic Press,New York,NY)およびホブソンとステュワート(The Rumen Microbial Ecosystem,Chapman and Hall,London)に、その他多数の適した培地が記載されている。
【0050】
第一胃流動物は、およその第一胃の条件に選択される。天然の第一胃流動物は、健康な反芻動物の第一胃の内容物から得られる。例えば、流動物は反芻動物の第一胃フィステルから回収されうる。前記流動物は、好ましくは同種の反芻動物から採取され、および好ましくは細菌株が投与されるであろう反芻動物と同じ摂食条件に属する反芻動物から採取される。前記流動物は、好ましくは摂食後24時間以内に採取され、およびより好ましくは朝食後1〜3時間以内に採取される。第一胃流動物は不溶な粒子状物質を除くためにろ過されるべきである。
【0051】
合成された第一胃流動物は、第一胃中で遭遇する条件を擬似した物質から調製される。前記流動物は、第一胃中で微生物を摂食する一または二以上の種の捕食性原生動物ならびに前記細菌の培養のための糖、リン酸および重炭酸緩衝剤、ミネラル塩、揮発性脂肪酸およびビタミンを含む栄養物を含みうる。合成培地の例はホブソンおよびスチュワートによって十分に記載されている(The Rumen Microbial Ecosystem,Chapman and Hall,London)。細菌の分解の原因である第一胃の原生動物の例は、エピジニウム、エウジプロジニウム、イソトリチャ ダシトリチャ、エンドジニウムおよびポリプラストロン種を含む(Ivan et al.2000a.J Anim Sci 78,750−759;Ivan et.al.2000b.J Dairy Sci 83,776−787)。
【0052】
前記の有用な細菌株は、評価されるために、例えば36〜40℃の、第一胃中で遭遇する温度条件下の成長培地で培養される。培養時間は、第一胃中で細菌株が常駐しうる、およその時間量が選択されうり、典型例として、1〜48時間でありうる。多量のタンパク質の分解データを得るために長時間が費やされうり、例えば、12〜48時間である。実際に第一胃中で費やしうる時間量から予測される前記タンパク質分解量は、このデータから推定されうる。
【0053】
細菌株によるタンパク質分解は、分解生成物の質量または生成物が生成された時間の関数として測定される。本発明にかかる好ましい方法の一つは、ワラス(Wallace et al.)の方法(Br.J.Nutr.,58,313−323(1987))による、タンパク質分解を測定するための、C14で標識されたロイシンの放出の分析であって、本開示は、参照により本願に採用される。結果は、1時間当たりに分解された、残存する細菌の%として表される速度として示される。本発明の目的のために、1時間当たり8%未満の分解速度を有する細菌株は、第一胃での不活性化に耐性のあると定義される。6%未満の分解速度を有する菌株が、反芻動物への生物活性化合物供給のために好ましく、4%未満の分解速度を有する菌株がより好ましい。
【0054】
以下の評価で、第一胃での分解に耐性のあるとみなされない細菌株、すなわち一時間当たり8%を超える分解速度を有する菌株は、次に第一胃での分解に対しての耐性を改善するために、リゾチーム存在下で培養されうる。前記改善は、天然または合成された第一胃流動物を用いた、本発明のインビトロでの評価方法を用いて、リゾチームにさらした後の細菌株の再評価によって測定されうる。改善の度合いは、次に続くリゾチームとの接触での、同じ単位時間における分解速度の百分率の減少によって表示されうる。しかしながら、改善の度合いは、本出願によって定義されるような、第一胃での分解に耐性とみなされる細菌株に必要とされる閾値を下回る分解速度を有すること程重要ではない。すなわち、耐性のわずかな増加は十分にありうるが、大幅な増加は依然として不足しているのかもしれない。
【0055】
第一胃での分解に耐性を有する、またはリゾチーム存在下での培養の際に第一胃での分解に耐性を有する、と同定される有用な細菌株は、(もし第一胃での分解に対する耐性のために必要であればリゾチームを用いて)次に培養されうり、およびバイオマスはバッチ、フェドバッチおよび連続培養設備を含む工業的発酵設備を用いて大量採取されうる。前記バイオマスは、次に、許容できる範囲の充填剤、結合剤、香料添加物等と共に任意に配合され、第一胃を迂回する飼料用補助栄養剤が形成され、またはバイオマス自体は飼料用栄養補助剤として反芻動物の飼料に割当量混ぜられうる。あるいは、飼料の割当量に噴霧されて第一胃を迂回する飼料用栄養補助剤を形成するために、バイオマスおよびその他の添加物は水媒体中に溶解、または分散されうる。いずれかの剤形の形成は、本質的に当業者にとって従来から行われているか、既知である。その他の既知の反芻動物の栄養含有物は、第一胃を迂回する飼料用栄養補助剤のいずれかの形態に添加されうる。
【0056】
第一胃での分解に対して耐性のある、採取された細菌細胞は、従来から用いられている反芻動物用の飼料と混ぜられ、反芻動物に便利に与えられうる。前記飼料は、典型例として、反芻動物の食用である植物質、例えば、マメ科植物の干草、イネ科植物の干草、トウモロコシの貯蔵牧草、イネ科植物の貯蔵牧草、マメ科植物の貯蔵牧草、トウモロコシ穀粒、麦、オオムギ、蒸留かす、ビールかす、大豆穀粉および綿実穀粉であって、ならびに(前記細菌細胞は)畜産栄養学者によって一般的に推奨される量に含まれ、通常は飼料の乾燥固形成分の重量の5%を超えない。
【0057】
C.グルタミカムバイオマスを含む飼料用栄養補助剤のような、第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤において、飼料の乾燥固形成分に添加される栄養補助剤の量は、一日平均5〜150mgの補給に効果的な、反芻動物の体重のkg当たりの代謝に利用可能なリジン量であるべきである。代謝に利用可能なリジンの量は、反芻動物の体重のkg当たり15〜75gが好ましい。代謝に利用可能なリジンは、インビトロでの第一胃の擬似システムからリジンの流量を決定すること;すなわち、第4胃および/または小腸排管にも適応する、動物の小腸へのリジンの流量を測定することは、あるいは乳タンパク質比率の増加および/または代謝に利用可能なリジンが欠乏することを意図とした既定食を与えられた反芻動物のメスの出産数を測定することにより、測定することができる。代謝に利用可能なリジンを測定するのに用いられるこれらの方法の多くの置換が、当業者に知られている。
【0058】
本発明の、第一胃を迂回する飼料用栄養補助剤は、栄養補助の必要があるあらゆる反芻動物に与えられうり、家畜、実験動物ならびに動物園およびその他の野生展示場で展示されている動物を含む。反芻動物の例は、畜牛、雄牛、羊およびヤギを含む。第一胃を迂回する飼料用栄養補助剤は食肉、乳、皮、毛または羊毛のために飼育されている家畜、または農場の労役用動物として使用される反芻動物に与えることができる。
【実施例】
【0059】
以下に示す実施例は、本発明のある態様を説明するが、これに限定されることはない。すべての割合および百分率は特に既定しない限り重量を基準としており、すべての温度は摂氏温度である。
【0060】
実施例
実施例1 原生動物による捕食を経る第一胃での分解に対する、C.グルタミカム菌株の感受性
C.グルタミカムおよびS.ルミナンチウム(“平均的な”第一胃の細菌を表す)の分解は、ワラス(Wallace et al.)によって記載された方法(Br.J.Nutr.,58,313−323(1987))によって、第一胃流動物により決定された。
【0061】
コリネバクテリア・グルタミカム菌株(ATCC13761およびATCC13869)を有酸素下のワラス−マックフェーソン培地中で培養した。S.ルミナンチウムZ108を無酸素下のワラス−マックフェーソン培地で培養した。ワラス−マックフェーソン培地およびその調製は上記のワラス(Wallace et al.)の論文に記載されている。培養物を39℃で一晩培養した。細胞を室温、1000g×10分で遠心分離することにより採取した。細胞を5mMのC14で標識されたL−ロイシンを含む無酸素のコールマン緩衝液中に再分散し、一晩培養(OD=1.0)して細菌タンパク質を標識した。試料(1ml)を分取し、タンパク質定量のために、0.25mlの25%TCA中に加えた。50μlずつ2つに分取したものを閃輝(scintillation)流動物中に加え、付加された放射能の量を決定した。
【0062】
第一胃流動物は摂食後2時間の羊3匹から採取した。標識されていないL−ロイシン(5mM)を加え、ろ過した第一胃流動物(SRF)を保温した。原生動物の数を計測するため、試料(1ml)を4%ホルマリン1mlに加えた。
【0063】
標識された細菌細胞の懸濁液0.5mlを、SRFまたは緩衝液4.5mlに加え、39℃で培養した。0、1、2または3時間後に試料0.5mlずつを分取し、TCA0.125ml中に加えた。試料を14000rpmで3分間遠心分離し、上澄み200μlの放射能の放出を確認することによって測定したが、これは原生動物による細菌のタンパク質の分解を意味する。
【0064】
放射能の放出に基づき、原生動物によって分解された細菌のタンパク質を表す、分解百分率を各時点で測定した。データは以下の方程式(Mehrez and Orskov,1987)にあてはめた:
【0065】
【数1】

【0066】
この際、Y=ある特定の時間X(h)における分解;a=初期分解;c=最大分解;k=分解速度(hr−1
有効な分解性は、以下の方程式に従い、選択された第一胃の継代の速度から決定された。
【0067】
【数2】

【0068】
この際、K=第一胃の代謝回転速度
結果を図1に示す。C.グルタミカムの両菌株はS.ルミナンチウムZ108と比べて早い分解を示した。3時間を超える培養時間が無いと、S.ルミナンチウムZ108が21.9%であるのに比べ、菌株10336および13869は71.2%および83.1%を示した。第一胃での代謝回転速度0.07hr−1での有効な分解性は、菌株13761および13869がそれぞれ71.2%および53.8%であった。
【0069】
実施例2 低リゾチーム存在下におけるC.グルタミカムの培養
ワラス−マックフェーソンの非C14標識培地を調製し(24×7ml)、ろ過滅菌したリゾチーム(0.1;1.0;10;100;または1000μg/ml)0.5mlを各々4本ずつ試験管に加えた。最後の4本の試験管にはコールマンD培地0.5mlを加えた(対照)。試験管にC.グルタミカム菌株ATCC13761を植菌し、39℃で48時間培養した後、24、48時間後の各々の生物についてOD(650nm)を測定した。
【0070】
菌株13761は最もリゾチームにさらされなかった二つ(0.1および1μg/ml)においてよく成長した。成長は100μg/mlで半分になり、1000μg/mlでは完全に阻害された。
【0071】
実施例3 原生動物による捕食に対する感受性に関する、リゾチーム存在下のC.グルタミカム菌株の培養の効果
実施例1と同様にまたはリゾチームの存在下で(0.25μg/mlのリゾチーム0.5ml;最終濃度16.7μg/ml)培養したC.グルタミカム菌株ATCC13761およびATCC13869からなる処理を除いて、本質的な方法論は実施例1と同様である。実施例1と同様に、S.ルミナンチウムZ108を対照生物として用いた。
【0072】
結果を図2に示す。本実施例では実施例1と比較してすべての生物において分解度が低かった。3時間の培養時間を通して、リゾチーム(天然)が消失することなく、菌株を培養した場合には、S.ルミナンチウムZ108では13.3%であるのと比較して、菌株13761および13869は各々37.9%および42.8%であった。しかしながら、リゾチーム存在下で培養すると、3時間の分解により、菌株13869は15.2%に減少したのに、菌株13761は影響が無かった。リゾチームの存在下で培養しないときは、0.07hr−1の第一胃での代謝回転速度における効果的な分解性は菌株13761および13869においてそれぞれ53.8%および64.7%であり、リゾチーム存在下で培養したときは、それぞれの菌株において36.1%および24.5%であった。
【0073】
実施例4−6 原生動物による捕食への感受性に関する、リゾチーム存在下でのC.グルタミカム菌株13869、700239および31269の培養効果
C.グルタミカム菌株13869、700239および31269をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から得た。ATCCの取扱説明書にあるように培養物を栄養寒天上で蘇生し、栄養培養液へ移した。健全な培養が観察された場合(39℃の栄養培養液中で3×24時間継代の後)には培養物を鶏卵白リゾチーム±20μg/mlの39℃の栄養培養液中でさらに3×24時間培養した。あらかじめ羊の第一胃からS.ボビスES1を採取し、アベリストウィスのウェールズ大学の農業化学研究所の菌株保存施設内で保存している。
【0074】
細菌を、アンモニアシステインおよびL−[U−14C]ロイシン、ならびに鶏卵白リゾチーム20μg/mlを唯一添加されたN源として含む、第一胃流動物含有のワラス−マックフェーソン培地39℃で24時間標識し、リゾチーム存在下で前もって培養された培養物に加えた。細胞を遠心分離によって採取し、ろ過した第一胃流動物と共に、培養する前にコールマン塩溶液D(Coleman,1978)で一度洗浄した。第一胃流動物は朝食から2時間後に、割当量に基づき貯蔵牧草を摂食した、牛3頭の第一胃のフィステルから回収された。前記流動物を、綿モスリン布4層を経てろ過した。
【0075】
見かけ上のタンパク質分解を、3時間の培養の間、14Cのトリクロロ酢酸溶液物質中への放出によって測定した。標識されていないL−ロイシンを、全ての培養中に、最終濃度5mmol/Lで含有させた。
【0076】
第一胃流動物中の、3時間の培養にわたる、異なる細菌の分解を図3に示した。初期の細菌の分解速度(%/時として)の比較は、C.グルタミカム菌株700239が、他のC.グルタミカム菌株または第一胃の細菌S.ボビス(C.グルタミカム菌株13869,700239および31269ならびにS.ボビスES1においてそれぞれ,5.63,2.58,8.27,6.88%/時 SED 1.287 図4)のいずれよりも、かなりゆっくりと分解されたことを示した。C.グルタミカム菌株のみのデータを分析したとき、改良に用いられなかった前記菌株と、リゾチームを伴う前培養の後のこれらに菌株には、分解速度において有意な差異があったこともまた明らかとなった(表1)。
【0077】
【表1】

【0078】
ここで用いた分析は、ワラス(Wallace et al.)が記載した内容に基づいており、この際、過剰な非標識ロイシンの存在下、第一胃流動物中の細菌から放出されたC14ロイシンは、第一胃中での細菌の分解を測定するために用いられる。3種類の細菌株において、約16%の数的減少があるにもかかわらず、リゾチーム中での培養物を培養することは、第一胃流動物中の分解速度に関してあまり効果が無かった。この効果の欠如で考えられうる二つの理由を以下に示す:
培養時間:本実施例においてC.グルタミカムをリゾチームと共に計96時間培養した(栄養培養液中の20μg/mlを経た24時間3代継代に加え、細胞を標識するために用いたワラス−マックフェーソン培地中に1代継代)。不適当な時間を培養物に与えたので、リゾチームへの応答中に細胞構造が変化した可能性がある。
【0079】
リゾチームの非存在下であっても培養物の低い分解性:本実施例においてリゾチームの非存在下で培養したC.グルタミカム菌株の分解性は9〜3%/時と多様であった。C.グルタミカムの他の菌株を用いて、以前に記録された値、すなわち(菌株10334および10337では12%および14%)よりもこれは相当に低く、B.フィブリソルベンス(約30%/時)のデータ値よりも非常に低い、この際、初期の観察によれば、リゾチームは作られた場所で分解を減少しうる。一方、S.ボビスの値は、以前に観察されたそれらと非常に類似している。リゾチームがほとんど防御の効果を付与しない理由は、すでに前記細胞が、原生動物の攻撃に対して比較的耐性を有していたからであるという可能性がある。
【0080】
C.グルタミカム700239をリゾチーム存在下で培養したとき、分解速度が約2%/時であったことは特筆すべきことである。第一胃に加えられたとき、C.グルタミカム700239は液相中で、比較的少量な10%/時が第一胃から離れると仮定すると、次に24時間を超えると、15%未満が分解を伴って、およそ77%のC.グルタミカム700239が第一胃を迂回しうる。より現実的な15%/時で、85%を超える液体の代謝回転が、12%未満を分解しながら、第一胃を迂回しうる。
【0081】
本実施例のリゾチーム存在下での培養は、第一胃での分解に対して調査されたC.グルタミカムの菌株を明らかに保護しなかった。しかしながら、C.グルタミカム菌株700239が、第一胃での分解に対して著しく耐性のあることは、第一胃を経たリジン等のアミノ酸の通過に適したベクターを供給するために期待される。
【0082】
実施例7−13 リゾチーム存在下における、原生動物による捕食に対する感受性に関する、ビフィドバクテリウム・ロンガム、プロピオニバクテリウム・フレウデンレイチ、ラクトバチルス・ラフィノラクチス、ラクトバチルス・フェルメンタム、ラクトバチルス・ラクチス、ラクトバチルス・ペントサスおよびプロピオニバクテリウム・アシジプロピオニシ菌株の培養の効果
C.グルタミカムの他に、7つの異なる潜在的なプロバイオティクス生物における、第一胃流動物中の分解の効果を、インビトロでのリゾチーム存在下で培養することによって調査した。実施例1−6と同様にストレプトコッカス・ボビスを典型的な第一胃の細菌の対照とした。
【0083】
産業および海洋細菌の国家保存菌株(NCIMB)ならびに食物細菌の国家収集、アバディーンから、ビフィドバクテリウム・ロンガム、P.フレウデンレイチおよびP.アシジプロピオニシを得た。ラクトバチルス・ラフィノラクチス、ラクトバチルス・フェルメンタム、ラクトバチルス・ラクチスおよびラクトバチルス・ペントサスを英国、ゲチスバーグのケビン−ヒルマン博士から得た。
【0084】
細菌を培養および標識して、見かけのタンパク質分解をS.ボビス ES1を含む実施例4−6と同様に測定した。異なる細菌の3時間を超える第一胃流動物中での培養を図5に示す。リゾチーム存在下での培養がS.ボビス、P.フレウデンレイチおよびL.ラフィノラクチスの分解を70%以上減少させた。L.ラクチスまたはP アシジプロピオニシの分解に関する効果は無かったが、L.ペントサス、B.ロンガムおよびL.フェルメンタムの分解は40〜50%減少した(表2)。
【0085】
【表2】

【0086】
前述の実施例および好ましい実施形態の記載は、請求項によって定義される本発明の説明のために用いられるべきものであって、制限するものではない。上記で説明した特徴の多数の組み合わせは、請求項で示す本発明から外れることなく利用することができる。このような多様性は本発明の精神や範囲から外れるとは見なされず、全てのこのような修飾は以下の請求項の範囲内に含まれることを目的としている。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、S.ルミナンチウムZ108菌株と比較した、リゾチーム非存在下で培養した二つのC.グルタミカム菌株の分解速度を示す。
【図2】図2は、S.ルミナンチウムZ108菌株と比較した、リゾチーム存在下で培養した図1と同様の二つのC.グルタミカム菌株の分解速度を示す。
【図3】図3は、S.ボビスES1と比較した、リゾチーム存在下および非存在下で培養したC.グルタミカム株ATCC13869、700239および31269の第一胃流動物中の分解量を示す。
【図4】図4は、S.ボビスES1と比較した、リゾチーム存在下および非存在下で培養した図3と同様のC.グルタミカム株の第一胃流動物中の分解速度を示す。
【図5】図5は、S.ボビスES1と比較した、リゾチーム存在下および非存在下で培養したビフィドバクター・ロンガム、プロピオニバクテリウム・フレウデンレイチ、ラクトバチルス・ラフィノラクチス、ラクトバチルス・フェルメンタム、ラクトバチルス・ラクチス、ラクトバチルス・ペントサスおよびプロピオニバクテリウム・アシヂプロピオニシの、畜牛由来第一胃流動物中での分解を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リジン産生グラム陽性細菌の、第一胃での分解に対する耐性を増加させる方法であって、以下の段階:
原生動物による捕食に耐性を有する細菌の細胞壁の成長を促進するのに効果的なリゾチーム量を含む成長培地中で、細菌株の培養物を少なくとも1代継代培養する段階と、
リゾチーム含有培地から、細菌株を回収する段階と、
を含む方法。
【請求項2】
当該細菌株が、コリネバクテリア・グルタミカム菌株である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
当該コリネバクテリア・グルタミカム菌株が、13058,13825,14066,14067,14068,21127および700239からなる群から選択されるATCC菌株である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
当該コリネバクテリア・グルタミカム菌株が、リジンを過剰生産する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
当該コリネバクテリア・グルタミカム菌株が、リジンを過剰生産するように遺伝子組み換えされる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
当該成長培地中のリゾチーム濃度が、約0.01〜約100ug/mlである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
当該リゾチーム濃度が、約0.1〜約10ug/mlである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
リゾチーム含有成長培地中に、複数の継代を採用する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
約2〜約10代継代を採用する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法によって培養されたリジン産生細菌株を含む、第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤。
【請求項11】
当該細菌株がコリネバクテリア・グルタミカム菌株である、請求項10に記載の第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤。
【請求項12】
当該コリネバクテリア・グルタミカム菌株が、リジンを過剰生産する、請求項11に記載の、第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤。
【請求項13】
当該コリネバクテリア・グルタミカム菌株がリジンを過剰生産するように遺伝子組み換えされる、請求項12に記載の、第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤。
【請求項14】
当該細菌株が、ワラス(Wallace et al.)の方法によってC14で標識されたロイシンを放出することにより測定される際、1時間当たり約8%未満の第一胃での分解速度を有する、請求項10に記載の第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤。
【請求項15】
当該分解速度が1時間当たり約6%未満である、請求項14に記載の第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤。
【請求項16】
当該細菌株が、ワラス(Wallace et al.)の方法によってC14で標識されたロイシンを放出することにより測定される際、1時間当たり約8%未満の第一胃での分解速度を有する、リジン産生細菌株を含む、第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤。
【請求項17】
1日当たり反芻動物に与えられる細菌の投与量の20%を上回る量が、そのまま反芻胃を通って供給されるような第一胃での分解速度である、請求項14または16に記載の、第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤。
【請求項18】
当該細菌株が、コリネバクテリア・グルタミカムATCC菌株13058,13825,14066,14067,14068,21127および700239からなる群から選択される、請求項14または16に記載の第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤。
【請求項19】
請求項10または16に記載の、第一胃から保護されるリジンの飼料用栄養補助剤について効果的な量を反芻動物の飼料の割当量に添加することを含む、当該飼料の割当量に含まれる、代謝に利用可能なリジンの含有量を増加させる方法。
【請求項20】
反芻動物の体重のkg当たりの代謝に利用可能なリジン量である、約5〜約150mgを供給するために効果的な量となるように、当該飼料用栄養補助剤を当該飼料の割当量に添加する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
当該反芻動物が乳牛である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
インビボの第一胃での不活性化に対する、リジン産生細菌株の耐性を評価するインビトロでの方法であって、以下の段階:
天然または合成の反芻胃の流動物を含む栄養培地中での、グラム陽性リジン産生細菌株をインビトロで培養する段階;および
細菌培養中でのタンパク質分解を時間の関数として測定する段階、
を含む方法。
【請求項23】
当該細菌株はコリネバクテリア・グルタミカム菌株である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
当該コリネバクテリア・グルタミカム菌株が13058,13825,14066,14067,14068,21127および700239からなる群から選択されるATCC菌株である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
当該コリネバクテリア・グルタミカム菌株がリジンを過剰生産する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
当該コリネバクテリア・グルタミカム菌株が、リジンを過剰生産するように遺伝子組み換えされる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
当該タンパク質の分解を測定する段階が、ワラス(Wallace et al.)の方法により、C14で標識されたロイシンの放出の測定を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
1時間当たり8%未満の分解速度を有する、第一胃で不活性な細菌株に耐性を有することを同定する段階をさらに含む、請求項22に記載の方法
【請求項29】
当該第一胃流動物が天然の第一胃流動物である、請求項22に記載の方法。
【請求項30】
当該第一胃流動物が合成の第一胃流動物である、請求項22に記載の方法
【請求項31】
当該方法が、1日当たり反芻動物に与えられる微生物の投与量の20%より多くが、そのまま反芻胃を通って供給されるような、第一胃での分解速度を持つ、第一胃での不活性化に耐性のある細菌株を同定する段階をさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
同定された菌株が、当該投与量の50%より多くがそのまま供給されるような分解速度を持つ、請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−522609(P2008−522609A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545020(P2007−545020)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【国際出願番号】PCT/IB2005/004094
【国際公開番号】WO2006/090212
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(507186517)セージ バイオサイエンセズ インコーポレイテッド (1)
【出願人】(507186528)
【出願人】(507186539)
【Fターム(参考)】