説明

受圧装置

【課題】間隙の大きさに関わらず地盤側とアンカー部材側との間に生じる間隙を簡便かつ的確に吸収することができ、しかも的確な動作の維持が容易で、厄介なメンテナンス作業が殆ど不要な、使い勝手の良好な受圧装置を提供する。
【解決手段】アンカー部材1側に設置される第1係合部材4と支圧板3側に設置される第2係合部材5とを備え、それらの第1係合部材4と第2係合部材5とを第2係合部材5が下方へのみ段階的に移動し得る状態に係合させ、その第2係合部材5の段階的な下降により地盤2側との間に生じる間隙を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山等の斜面の安定化などに使用されるアンカー用の受圧装置に関する。すなわち、ロックボルトや、PC鋼線、PC鋼より線、異形PC鋼棒等を用いたアンカーテンドンなどから構成されるアンカー部材に作用する引張力を地盤側へ伝達するアンカー用の受圧装置に関する。とりわけ、地盤の沈下などによって地盤上の支圧板とアンカー部材に螺合した締付ナットとの間などの、地盤側と受圧装置を構成するアンカー部材側との間に生じる間隙を吸収し得るように改良した受圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の受圧装置において、アンカー部材の頭部外周面に形成された雄ねじに螺合したナットと支圧板との間にコイルばね等の弾性手段を介在させて支圧板を地盤側へ押圧するように構成したものが知られている(特許文献1)。しかしながら、この従来技術の場合には、雪解けなど、何らかの原因によって地盤側が沈下すると、それに追随して支圧板が前記弾性手段の付勢力によって降下し、地盤側とアンカー部材側との間の間隙の発生を抑制し得る点では有効なものの、支圧板の下降に伴って前記弾性手段の付勢力が低下し、その分地盤側の上方への移動に対する抗力が弱まってしまい、斜面の崩落を的確に阻止できないというおそれもあった。
【特許文献1】特許第3516091号公報
【0003】
そこで、アンカー部材の頭部外周面に形成された雄ねじに螺合したナットと支圧板との間に皿ばね等の弾性手段を介在させて支圧板を地盤側へ押圧するように構成するとともに、それとは別に支圧板の上部に他のナットを設け、そのナットをゼンマイばねなどによって下方へ進む方向に回転するように付勢することにより、地盤側とアンカー部材側との間に生じる間隙を常に吸収し得るように構成するとともに、地盤側の上方への移動を前記ナットを介してアンカー部材で直に受けることによって、地盤の上方への移動に対抗する強力な抗力を確保し得るように構成したものも開発されている(引用文献2)。しかしながら、この従来技術の場合には、締付用のナットや間隙吸収用の弾性機構とは別に支圧板の上方への移動を阻止するためのナットを設置し、そのナットに対してゼンマイばねを巻上げた状態で設置しなければならないことから、構造が複雑になり設置スペースや設置作業にも大きな難点があった。しかも、ゼンマイばねの構造上、薄肉のばね材の使用に起因する腐食などによる機能低下の問題や、支圧板に作用するばねの回転付勢力の反力をどのようにとるかといった技術的問題もあった。さらに、想定される間隙の大きさに対応するためにはナットの回転角も大きくなり、大型のゼンマイばねが必要とされ、しかもナットの螺合部の錆付きなどを常に防いだ状態に維持しなければ的確な動作が得られないという動作維持上の厄介な問題もあった。
【特許文献2】特開2002−339356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑み、間隙の大きさに関わらず地盤側とアンカー部材側との間に生じる間隙を簡便かつ的確に吸収することができ、しかも的確な動作の維持が容易で、厄介なメンテナンス作業が殆ど不要な、使い勝手のきわめて良好な受圧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、前記課題を解決するため、アンカー部材側に設置される第1係合部材と支圧板側に設置される第2係合部材とを備え、それらの第1係合部材と第2係合部材とを第2係合部材が下方へのみ段階的に移動し得る状態に係合させ、その第2係合部材の段階的な下降により前記地盤側とアンカー部材側との間に生じる間隙を吸収するという技術手段を採用した。前記第2係合部材とアンカー部材側に設置された受止部との間に弾性付勢手段を介在させ、その弾性付勢手段の付勢力により前記第2係合部材を段階的に下降させるように構成してもよい。また、前記弾性付勢手段としてコイルスプリングを用いてもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、アンカー部材側に設置される第1係合部材に対して支圧板側に設置した第2係合部材を下方へ段階的に移動させることにより、地盤側とアンカー部材側との間に生じる間隙を吸収するように構成したので、次の効果を得ることができる。
(1)前記第2係合部材の下方への移動量の設定に関しては特段の制約がなく、自由な設定が可能なことから、間隙の大きさに関わらず地盤側とアンカー部材側との間に生じる間隙を簡便かつ的確に吸収することができる。
(2)従来のように回転動作を伴うことなく、前記第2係合部材の下方への段階的な移動のみによって地盤側とアンカー部材側との間に生じる間隙を吸収する構成を採用したことから、的確な動作の確保が容易で、その動作維持のための厄介なメンテナンス作業は殆ど不要である。
(3)アンカー部材側に設置される第1係合部材に対して支圧板側に設置した第2係合部材を下方へ段階的に移動し得るように係合させるという構成を採用したことから、アンカー部材に沿って比較的コンパクトに設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、地山等の斜面の安定化などに使用され、ロックボルトや、PC鋼線、PC鋼より線、異形PC鋼棒等を用いたアンカーテンドンなどから構成されるアンカー部材に作用する引張力を地盤側へ伝達するアンカー用の受圧装置として広く適用することが可能である。なお、アンカー部材側に設置される第1係合部材に対して支圧板側に設置した第2係合部材を下方へ段階的に移動させるための原動力は、コイルスプリングなどの弾性付勢手段によるものでも、第2係合部材自体の自重によるものや、重錘などの重錘付勢手段を付設するものでもよい。因みに、以下の実施例のように、前記第1係合部材と第2係合部材との係合面の断面を傾斜面と該傾斜面に連なる横方向の係止面とからなる鋸歯状に形成した係合形態を採用すれば、第1係合部材と第2係合部材とが前記係止面において楔のように食込んだ状態で地盤の上方への相対移動に対して強力に対抗し得るとともに、その係合機構の半径方向の拘束力は小さくてもよい。なお、この第1係合部材と第2係合部材との係合面の具体的な断面形状に関しては、地盤側の上方への相対移動に対する十分な抗力を得られるものであれば、他の断面形状を選択することも可能である。さらに、第2係合部材の内面に設ける係合部の曲率を、第1係合部材の外面に設ける係合部の曲率より小さい曲率に設定すれば、第2係合部材の外方からの拘束の方向に多少のばらつきがあっても、その拘束方向に応じて係合状態の中心位置が移動しながら適応するので、的確な係合状態をより安定的に得ることができる。ところで、第2係合部材は下方へ段階的に移動することから、地盤側とアンカー部材側との間に生じる間隙が完全には解消されない中間の状態もあり得るが、その場合でも地盤側とアンカー部材側との間に生じる間隙は殆ど吸収されるとともに、下方への移動ピッチの大小を選定することにより実用的に問題のない程度の間隙に縮小することも可能である。なお、前記第1係合部材は、アンカー部材の頭部外周面に形成された雄ねじとの螺合などによって該第1係合部材に作用する力をアンカー部材側へ伝達し得る状態で設置されるものであればよい。
【実施例】
【0008】
図1は本発明の一実施例を示した分解組立図である。また、図2〜図6はそれぞれ部品を拡大して示した部品説明図である。図中1はアンカー部材で、地盤2に対して定着した状態に埋設され、図1に示したように頭部が支圧板3に形成された挿通部を介して上方へ突出した状態に設置される。その支圧板3より上方に突出したアンカー部材1の頭部に対して、アンカー部材1側に設置される第1係合部材4と支圧板3側に設置される第2係合部材5とから構成される係合機構組立体6が装着される。第1係合部材4は、図2の片側断面で示した部品説明図のように、内周面にアンカー部材1の頭部外周面に形成された雄ねじ7に螺合可能な雌ねじ8が形成され、外周面には傾斜面と該傾斜面に連なる横方向の係止面とからなる鋸歯状の係合面9を形成している。さらに、本実施例では、第1係合部材4の上端部に図3に示したように六角形からなるスパナ掛け部10を形成している。なお、アンカー部材1に形成する前記雄ねじ7に関しては、少なくともアンカー部材1の頭部外周面に形成されていれば足り、アンカー部材1の全長に対して形成したものでも、部分的に形成したものでもよい。
【0009】
図4〜図6は前記第2係合部材5を拡大して示した部品説明図であり、それぞれ図4は第2係合部材5の内周面、図5は外周面、図6は平面を示したものである。図示のように、前記第2係合部材5は、内周面に前記第1係合部材4の係合面9と同様の傾斜面と係止面とからなる鋸歯状の係合面11が形成され、その第1係合部材4の係合面9に係合して下方へのみ段階的に移動し得るように構成されている。図6の平面図に示したように、本実施例の第2係合部材5は、縦に円弧状に3分割した場合を示したものである。第2係合部材5の外周面には適宜数の溝部12が形成され、図9に示した拘束用の弾性変形可能なリング13を嵌入することにより半径方向に拡縮し得るように構成している。なお、この分割されたそれぞれの第2係合部材5の係合面11の半径を大きくし、その曲率を第1係合部材4の係合面9の曲率より小さい曲率に設定すれば、第2係合部材5の外方からの拘束の方向に多少のばらつきがあっても、その拘束方向に応じて第1係合部材4の係合面9との係合の中心位置が移動しながら適応するので、的確な係合状態をより安定的に得ることができる。さらに、第2係合部材5の下部には水平部14が形成され、その下面が支圧板3上に当接し得るように構成するとともに、その水平部14の上面側にリング状の凹部15を形成し、本実施例ではコイルスプリングからなる弾性付勢手段16の下端部を嵌合支持し得るように構成している。
【0010】
しかして、支圧板3より上方に突出したアンカー部材1の頭部に前記係合機構組立体6を装着する場合には、先ず図7に示したように、3分割された各第2係合部材5を、第1係合部材4の外周面に対して、それぞれの係合面9,11を係合させながら組付け、その組付け状態を各溝部12にリング13を嵌入して拘束維持することにより、図8に示した係合機構組立体6を形成する。しかる後、アンカー部材1の頭部外周面に形成した雄ねじ7に対して前記第1係合部材4の内周面に形成した雌ねじ8を螺合し、前記係合機構組立体6を所期の位置に装着する。なお、以上の説明では、予め係合機構組立体6を組立ててからアンカー部材1の頭部に装着する場合を説明したが、第1係合部材4の外周面に対して3分割されたそれぞれの第2係合部材5を直接装着してリング13で拘束する形態も可能である。
【0011】
前記係合機構組立体6がアンカー部材1の頭部に対して装着された場合には、図1に示したように、第2係合部材5の外周面に沿ってコイルスプリングからなる弾性付勢手段16を外嵌し、その弾性付勢手段16の下端部を第2係合部材5の水平部14の上面側に形成したリング状の凹部15に嵌合支持する。さらに、その弾性付勢手段16の上端部を締付ナット17の下面側に形成した凹部18に嵌合支持するとともに、その締付ナット17をアンカー部材1の頭部外周面に形成された雄ねじ7に螺合して締付ける。これにより、その締付ナット17による締付力が弾性付勢手段16を介して支圧板3に伝達されることになる。なお、前記第1係合部材4の下端部を支圧板3に当接した状態において、第1係合部材4をアンカー部材1に形成した雄ねじ7に対して締付けることにより、その締付力を支圧板3に伝達してアンカー部材1に引張力を作用させることも可能である。因みに、前記凹部15,18に関しては形成せずに平坦部のままでも構わない。
【0012】
図10は当初の設置状態を片側断面で示した設置状態説明図である。図示のように、当初の設置状態においては、締付ナット17による締付け作用によって弾性付勢手段16は最も圧縮された状態にある。図11はその当初の設置状態と地盤2が沈下した場合の設置状態を比較して示した設置状態説明図である。また、図12は前記第1係合部材4の係合面9と第2係合部材5の係合面11との係合状態の変化の過程を示した係合状態説明図である。しかして、図11に示した当初の設置状態から地盤2側が沈下した場合には、第1係合部材4の係合面9と第2係合部材5の係合面11との係合状態は、図12の(イ)〜(ハ)に示した過程で変化する。すなわち、図12の(イ)に示した設置当初の係合状態から、地盤2側が沈下すると、前記弾性付勢手段16の付勢力によって、第2係合部材5が(ロ)のように係合面9,11に沿って斜め下方に拡径しながら摺動し、さらに第2係合部材5の係合面11が第1係合部材4の係合面9の外周部を乗越えると、(ハ)に示したように1段下の係合状態へ移行することになる。そして、地盤2側の沈下が大きい場合には、その沈下の大きさに応じて第2係合部材5の下方への段階的な移動を繰返し、図11の右半分に示したように地盤2側との間に生じる間隙を吸収することになる。以上のように、係合状態の変化の過程では、分割された各第2係合部材5が外方への拡径を繰返しながら段階的に下降することになる。なお、本実施例では第1係合部材4の係合面9と第2係合部材5の係合面11は、前述のように傾斜面と該傾斜面に連なる横方向の係止面からなる鋸歯状に形成され、地盤側の相対移動などにより第2係合部材5が上昇する方向の外力を受けた場合には、それらの係合面9,11が互いに前記係止面において楔のように食込んだ状態で強力に対抗することから、大きな抗力が的確に得られるとともに、その係合機構に必要とされる半径方向の拘束力を小さくすることができる。
【0013】
図13は本発明の他の実施例を示した設置状態説明図である。本実施例は、図示のように支圧板3に形成した挿通孔を介して上方へ突出するアンカー部材1の頭部が地盤2に対して傾斜している場合に簡便に対応できるように工夫したものである。すなわち、図14及び図15に示したように、中央にアンカー部材1の挿通孔19を有し、上下面が相対的に傾斜した円板状のスペーサ20を用い、図13に示したように適数枚のスペーサ20を第1係合部材4と第2係合部材5とから構成される前記係合機構組立体6の下面と支圧板3の上面との間に挟むことにより簡便に対応することができる。また、係合機構組立体6の下面を球面状に形成し、球面状の受け部により受けたり、支圧板3に形成した挿通孔で直接受けることによっても、アンカー部材1の傾斜に簡便に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を示した分解組立図である。
【図2】第1係合部材を拡大して片側断面で示した部品説明図である。
【図3】同第1係合部材の平面を示した部品説明図である。
【図4】第2係合部材を拡大して内周面を示した部品説明図である。
【図5】同第2係合部材の外周面を示した部品説明図である。
【図6】同第2係合部材の平面を示した部品説明図である。
【図7】上記部品の組立説明図である。
【図8】同部品の組立状態説明図である。
【図9】拘束用のリングを拡大して示した部品説明図である。
【図10】当初の設置状態を片側断面で示した設置状態説明図である。
【図11】当初の設置状態と地盤が沈下した場合の設置状態を比較して示した設置状態説明図である。
【図12】第1係合部材の係合面と第2係合部材の係合面との係合状態の変化の過程を示した係合状態説明図である。
【図13】本発明の他の実施例を示した設置状態説明図である。
【図14】スペーサを示した部品説明図である。
【図15】同スペーサの平面を示した部品説明図である。
【符号の説明】
【0015】
1:アンカー部材、2:地盤、3:支圧板、4:第1係合部材、5:第2係合部材、6:係合機構組立体、7:雄ねじ、8:雌ねじ、9:係合面、10:スパナ掛け部、11:係合面、12:溝部、13:リング、14:水平部、15:凹部、16:弾性付勢手段、17:締付ナット、18:凹部、19:挿通孔、20:スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカー部材側に設置される第1係合部材と支圧板側に設置される第2係合部材とを備え、それらの第1係合部材と第2係合部材とを第2係合部材が下方へのみ段階的に移動し得る状態に係合させ、その第2係合部材の段階的な下降により地盤側とアンカー部材側との間に生じる間隙を吸収するように構成したことを特徴とする受圧装置。
【請求項2】
前記第2係合部材とアンカー部材側に設置された受止部との間に弾性付勢手段を介在させ、その弾性付勢手段の付勢力により前記第2係合部材を段階的に下降させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の受圧装置。
【請求項3】
前記弾性付勢手段がコイルスプリングからなることを特徴とする請求項2に記載の受圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−185551(P2009−185551A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28208(P2008−28208)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】