説明

可変分散補償器

【課題】 ヒータを用いた可変分散補償器は、ひとつの基板上に複数のヒータが形成されるため、熱干渉が生じ、分散補償値の劣化が発生する。
【解決手段】 本発明に係る可変分散補償器は、基板と、この基板上に配置され、入力される所定波長の光信号をブラッグ反射するファイバグレーティングと、このファイバグレーティングを加熱する複数の発熱部と、ファイバグレーティングの温度を測定する感温素子が検出した温度情報に基づいて前記発熱部を制御する駆動信号を生成し、前記発熱部の発熱量を制御する温度制御部を設けた可変分散補償器において、基板には、温度制御部からの駆動信号を発熱部に伝達する駆動電極配線、及びこの駆動電極配線上にさらに薄板電極パターンが形成されており、発熱部は薄板電極パターン上に、ファイバグレーティングの軸線に沿って配置されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高速光通信システムにおける分散補償技術に関し、特にファイバブラッググレーティング(Fiber Bragg Grating、以下、「FBG」と称す)に温度勾配を付加することにより、チャープ率を変化させて郡遅延時間を制御することで分散補償を調整できる可変分散補償器に関している。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルを信号伝送路に用いた光通信システムでは、光パルスがファイバ中を伝播する際に、波長分散(以下、「分散」と称す)によりパルス幅が広がることで、伝送性能劣化が生じる。これは波長の異なる光パルスの波束の群速度が異なる、すなわち群遅延時間(単位:ps)が異なる為に発生する。この群遅延時間の波長に対する割合が分散(単位:ps/nm)である。
【0003】
通常の光ファイバ伝送路に用いられるシングルモードファイバ(SMF)では、波長1550nm付近で光ファイバ伝送路1kmあたりの分散は、約16ps/(nm・km)の値を有する。
【0004】
RZ(return-to-zero)変調方式では、それぞれの線スペクトルの間隔は、ビットレート(伝送速度)が10Gbit/sの場合には0.08nmであるが、ビットレート40Gbit/sの場合には0.32nmとなる。また、NRZ(nonreturn-to-zero)変調方式では、RZ変調方式の線スペクトルの半分の広がりとなる。このようにビットレートが高くなるに従って、光パルスの成分である線スペクトルの間隔は広がる。そのため、光ファイバ伝送路を伝播したときの群遅延時間の差が大きくなり光パルスの歪みが増大する。光パルスが受ける光ファイバ伝送路の分散の影響はビットレートの二乗に比例して大きくなる。この光ファイバ伝送路の分散を打ち消す分散を有するデバイスを伝送路に挿入し、全体として分散を零に近づける技術が分散補償技術である。特に40Gbit/s以上のビットレートでは伝送路の分散を精密に零に近づける必要がある。
【0005】
特許文献1に記載の従来技術としては、分散補償技術をベースにFBGに温度勾配を付与することで分散を補償する可変分散補償器がある。構成は、基板の上面に複数のヒータを形成し、その近傍にFBGを設置する構造。
【0006】
各々のヒータを独立に所定の温度分布を付与及びFBGの中心が一定温度分布制御を行い、FBGに温度勾配を形成することで分散値の制御を行う。複数のヒータは基板の上面に形成されるが、基板は熱伝導率が低い方が良く、5W/(K・m)以下、基板の厚みは、(0.018*k)mm以上、(0.46*k)mm以下の範囲にあることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−258462
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒータエレメントを用いた可変分散補償器は、ひとつの基板上にヒータエレメントを形成しているため、熱容量が大きく隣り合うヒータの影響を受ける構造であるため、消費電力の増大、分散補償値の劣化が発生する。基板上に複数ヒータを形成している可変分散補償器は、その構造上、隣り合うヒータの熱量が基板を介して流入するため、余分な発熱が発生する。また複数ヒータを形成できる基板も限られる等の問題がある。この影響を弱めるために熱伝導率の低い基板を適用することを特徴としているが、発熱部が近いため熱の干渉は避けられない。
【0009】
また、FBGの中心が一定温度になるように制御を行っているが、周囲温度や風量の変化によってFBGの各ヒータに付与した温度分布に対し、実際にFBGへの温度が変化し、環境温度による影響を受けやすい構造である。
【0010】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、熱容量を小さくできる構造を採用し、応答速度の高速化が容易に実現できるとともに、環境温度に影響を受けない分散補償特性を可能にする可変分散補償器を得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る可変分散補償器は、基板と、この基板上に配置され、入力される所定波長の光信号をブラッグ反射するファイバグレーティングと、このファイバグレーティングを加熱する複数の発熱部と、ファイバグレーティングの温度を測定する感温素子が検出した温度情報に基づいて前記発熱部を制御する駆動信号を生成し、前記発熱部の発熱量を制御する温度制御部を設けた可変分散補償器において、基板には、温度制御部からの駆動信号を発熱部に伝達する駆動電極配線、及びこの駆動電極配線上にさらに薄板電極パターンが形成されており、発熱部は薄板電極パターン上に、ファイバグレーティングの軸線に沿って配置されるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る可変分散補償器は、基板と、この基板上に配置され、入力される所定波長の光信号をブラッグ反射するファイバグレーティングと、このファイバグレーティングを加熱する複数の発熱部と、ファイバグレーティングの温度を測定する感温素子が検出した温度情報に基づいて前記発熱部を制御する駆動信号を生成し、前記発熱部の発熱量を制御する温度制御部を設けた可変分散補償器において、基板には、温度制御部からの駆動信号を発熱部に伝達する駆動電極配線、及びこの駆動電極配線上にさらに薄板電極パターンが形成されており、発熱部は薄板電極パターン上に、ファイバグレーティングの軸線に沿って配置されるので、FBGの長手方向に対しては薄板電極→配線部→回路基板を介した経路のみの熱伝達しか存在しないので、隣の発熱体の発熱の影響をほとんど受けない。また、薄板を用いることで、電極方向に対しても熱抵抗を大きくすることが可能であるため、放熱経路が少なく消費電力の低減および温度可変時間の短縮が実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】可変分散補償器の構成を示すブロック図である。
【図2】FBGユニットの外観斜視図である。
【図3】FBGユニットの断面図である。
【図4】FBGユニットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
本発明の実施形態1を図1、図2及び図3を用いて説明する。図1は、本発明を適用した可変分散補償器1の構成を示すブロック図である。可変分散補償器1はFBGユニット2と温度制御ユニット3を備える。外部からの光信号はFBGユニット2に入力され、ブラッグ反射にて光出力される。FBGユニット2には複数の抵抗が発熱体として実装されている。温度制御ユニット3へは駆動用の電源が入力され、PWM(Pulse Width Modulation)制御にて駆動電流を生成し、FBGユニット2へ出力する。FBGユニット2内の各抵抗の発熱量は温度制御ユニット3からの駆動電流4にて制御される。温度制御ユニット3は外部からの分散値入力に応じた温度分布を設定値として具備し、FBGユニット2からの温度モニタ信号5が、温度制御ユニット3内のターゲット温度になるようにフィードバック制御を行い、各抵抗への駆動電流4を調整することでFBGユニット2へ付与する温度を維持する。
【0015】
図2は図1のFBGユニット2の概略図であり、図3は図2に示したFBGユニット2の断面図である。FBGユニット2は回路基板9の上に複数の駆動電極配線10と共通電極配線12を配線し、各電極上に薄板電極パターン8を備え、抵抗6を薄板電極パターン8に実装される。FBG7は温度を均一化する金属管13内に、チャープグレーティングを有する光導波路14にて構成される。FBG7は抵抗6の上部発熱部に接着される。又、FBG7の中央及び両端にサーミスタ11が接着される構造である。温度制御ユニット3から出力される駆動信号である駆動電流4により、抵抗6の上のFBG7に温度が付加される動作は、駆動電流4が駆動電極配線10から薄板電極パターン8を経由して抵抗6、共通電極配線12に駆動電流として流れることで、抵抗6にて消費される電力によりFBG7に対して温度分布の付与が可能となる。また、FBG7に接着されたサーミスタ11は、FBG7にて発生する温度を温度モニタ信号5として温度制御ユニット3に出力する。
【0016】
この発明による実施の形態1によれば、複数の抵抗6を薄板電極パターン8に実装し、FBGに温度分布を付与する構造のため、FBGの長手方向に対しては薄板電極パターン8→駆動電極配線10、共通電極配線12→基板9を介した経路で熱が伝達することになり、基板上に複数ヒータを形成している従来のものと異なり、隣り合うヒータの熱量が基板を介して流入するという問題の発生を削減でき、熱抵抗を非常に大きく設計できる。また、薄板電極パターン8を用いることで、電極方向に対しても熱抵抗をある程度大きくすることが可能であるため、放熱経路が少なく熱抵抗が大きいため高精度な温度制御、不要な温度上昇を避けることができ、低消費電力化が実現できる。
【0017】
又、FBGに付与した温度分布のモニタをFBG7の中心のみならず、両端に対しても監視およびフィードバック制御することで、FBGの周囲温度及び風量等、環境要因に対して影響を受けない分散補償特性が得られる。
【0018】
更に、隣り合う抵抗との熱干渉がないため、隣のヒータとの間隔を狭くすることができ、FBG7に印加する温度勾配をより線形に近づけることができ、光学特性の向上(ペナルティ低減)を実現できる。
【0019】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係る可変分散補償器について図4を用いて説明する。この可変分散補償器は、実施の形態1に対して、FBGユニット2は発熱体である複数の抵抗及び3箇所の温度モニタを複数個のサーミスタ11のみで構成し、FBG7への温度付与と温度モニタを同時に行えることが特徴である。また、温度制御ユニット3はサーミスタ11への駆動電圧を温度モニタ信号5として監視することでサーミスタ11の抵抗値が一定になる様にPWM制御を行い、FBG7への温度分布をターゲット値と一致させることが可能である。
【0020】
この発明による実施の形態2によれば、温度付与と温度モニタをサーミスタ11の1素子にて実現が可能であるため、実施の形態1に比べ温度制御ユニット3にて具備している所定の温度分布ターゲット値に対して高精度で一致させることが可能であり、更なる光学特性の向上(ペナルティ低減)を実現できる。
【符号の説明】
【0021】
1 可変分散補償器、2 FBGユニット、3 温度制御ユニット、4 駆動電流、
5 温度モニタ信号、6 抵抗、7 FBG、8 薄板電極パターン、9 基板、
10 駆動電極配線、11 サーミスタ、12 共通電極配線、13 金属管、
14 光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
この基板上に配置され、入力される所定波長の光信号をブラッグ反射するファイバグレーティングと、
このファイバグレーティングを加熱する複数の発熱部と、
前記ファイバグレーティングの温度を測定する感温素子が検出した温度情報に基づいて前記発熱部を制御する駆動信号を生成し、前記発熱部の発熱量を制御する温度制御部を設けた可変分散補償器において、
前記基板には、前記温度制御部からの前記駆動信号を前記発熱部に伝達する駆動電極配線、及びこの駆動電極配線上にさらに薄板電極パターンが形成されており、
前記発熱部は前記薄型電極パターン上に、前記ファイバグレーティングの軸線に沿って配置されることを特徴とする可変分散補償器。
【請求項2】
感温素子および発熱部としてサーミスタを用いたことを特徴とする請求項1に記載の可変分散補償器。
【請求項3】
ファイバグレーティングは、熱伝導率の高い材料を用いて形成された筒に、チャープグレーティングを有する光導波路を配置して形成されたことを特徴とする請求項1に記載の可変分散補償器。
【請求項4】
温度制御部は、分散値に応じた所定の温度値を設定し、感温素子からの温度情報に基づいて、ファイバグレーティングの温度が所定の温度値になるようにフィードバック制御することを特徴とする請求項1または2に記載の可変分散補償器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−217286(P2010−217286A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61203(P2009−61203)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】