説明

可搬式直流アーク溶接機

【課題】短絡発生時に短絡状態を早期に終息させて通常の溶接に復帰し得る可搬式直流アーク溶接機を提供すること。
【解決手段】可搬式の直流アーク溶接電源を有し、この溶接電源から第1の定電流を溶接出力端子に供給してアーク溶接を行い、短絡時には前記第1の定電流よりも大なる第2の定電流を供給する可搬式直流アーク溶接機において、前記溶接出力端子P,Nにおける溶接出力電圧および溶接出力電流を検出する検出回路101,CTと、前記溶接出力電圧の大きさに応じた電流特性となるように制御信号を形成する制御回路100と、前記制御回路からの制御信号および前記検出回路からの検出電流に応じて前記溶接出力端子に溶接電流を供給する出力回路110,111とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可搬式直流アーク溶接機に係わり、とくにエンジン駆動アーク溶接機およびバッテリー駆動アーク溶接機を含む可搬式直流アーク溶接機に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のアーク溶接機は、可搬性が示すように建築現場などに持ち込まれて使用されるべく構成されており、使用者も必ずしも熟練者でない場合が多く、溶接作業の作業性が問題になる。
【0003】
例えば溶接棒が母材に短絡した時に大電流を流す特性の溶接機では、短絡してアークが消えても再度アークに移行させることは容易であるが、溶融金属を飛散させてスパッタ等が多く発生し、溶接品質が悪くなる。
【0004】
他方、短絡時に大電流を流さない特性のものでは、溶接品質はよくなるが、短絡後にアークを再発生させることが難しく、アーク切れしたり溶接棒が母材に固着したままになり、ときに溶接作業が中断することにもなる。
【0005】
そこで、溶接時には溶接用の定電流を流す特性で、短絡時にはより大きな定電流を流す特性であり、両特性の遷移領域は垂下特性を示すアーク溶接機が提供されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第2684320号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示すアーク溶接機では、溶接時の定電流および短絡時の定電流を流すものであり、作業性の改善が図られている。
【0007】
しかしながら、作業者の熟練度によっては、溶接棒が母材に固着したままになり、溶接作業が中断することがある。とくに、小電流領域およびショートアーク作業の場合に発生し易い。
【0008】
これは、母材に固着した時に、より大きな電流を流すことにより固着した個所の溶着が一層進行し、かつ大電流により溶接棒が過熱軟化し母材から離れ難くなることによる。この場合、溶接ホルダから溶接棒を一旦外して冷却し、溶接棒を取り外して溶接ホルダに付け直し、溶接作業を再開する。この間、溶接作業は中断する。
【0009】
本発明は上述の点を考慮してなされたもので、短絡発生時に短絡状態を早期に終息させて通常の溶接に復帰し得る可搬式直流アーク溶接機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的達成のため、本発明では、
可搬式の直流アーク溶接電源を有し、この溶接電源から第1の定電流を溶接出力端子に供給して溶接を行い、短絡時には前記第1の定電流よりも大なる第2の定電流を供給する可搬式直流アーク溶接機において、
前記溶接出力端子における溶接出力電圧および溶接出力電流を検出する検出回路と、
(i)前記溶接出力電圧が第1の所定値よりも高いときは前記第1の定電流を出力するための、(ii)前記溶接出力電圧が前記第1の所定値よりも低く設定された第2の所定値よりも低くなると前記第2の定電流を出力するための、(iii)前記溶接出力電圧が前記第1および第2の所定値の間にあるときは垂下特性を示すための、さらに(iv)前記溶接出力電圧が前記第2の所定値よりも低い状態の時間が所定時間以上になったら前記第1の定電流よりも小さい第3の定電流を流すための、制御信号を形成する制御回路と、
前記制御回路からの制御信号および前記検出回路からの検出電流に応じて前記溶接出力端子に溶接電流を供給する出力回路と
をそなえたことを特徴とする可搬式直流アーク溶接機、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上述のように、溶接作業中に短絡が発生して短絡時間が所定時間以上の長さになったら、溶接電流よりも小さな第3の定電流を流して溶接棒を冷却し、溶接棒を母材から引き離して溶接出力電流がゼロもしくは溶接出力電圧が所定値になったら改めて溶接用定電流を通電するようにしたため、短絡により溶接棒が固着状態となっても直ちに脱却して通常の溶接作業に復帰することができる。したがって、作業者の熟練度が高くなくても効率よく溶接を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【実施形態1】
【0013】
図1は、本発明の実施形態1における回路構成を示したものである。この場合、溶接機は、エンジンEにより溶接用発電機Gが駆動されるエンジン駆動アーク溶接機として構成されている。溶接用発電機Gの出力は、整流器SCRにより直流変換された上で、直流リアクタLを介して溶接出力端子P,Nに直流電流を出力する。他方、溶接用発電機Gの補助出力がインバータINVにより単相交流に変換されて、ブレーカCBを介して交流電源出力端子U,Vに供給される。
【0014】
溶接出力端子P,Nに供給される溶接出力は、溶接機制御回路100により制御される。溶接機制御回路100は、出力電圧検出回路101により検出された出力電圧、および変流器CTにより検出された溶接出力電流に基いて整流器SCRを制御することにより出力制御を行う。
【0015】
出力電圧検出回路101により検出された出力電圧Xは、電圧判定回路102により次の(a)ないし(c)の判定が行われる。
(a)V1≦X
(b)V2≦X<V1
(c)X<V2
この結果、Xの値がV1,V2に対してどのような関係にあるかによって3つの判定結果が得られ、判定結果に応じて(a)第1の定電流回路105、(b)垂下特性回路106、(c)限時回路103およびゲート回路104、に出力が与えられる。
【0016】
この電圧判定回路102の判定結果に応じて、第1の定電流回路105、垂下特性回路106に加えて、第2の定電流回路107および第3の定電流回路108が、溶接電流設定器201またはトリマTから与えられる電流設定値を基準に、電流制御信号を形成して出力電流制御回路110に与える。
【0017】
溶接電流設定器201は、基本的に第1の定電流(溶接電流)回路105に対する電流値設定を行う。そして、第2の定電流(短絡電流)回路107は、第1の定電流の設定値に連動して2.0ないし3.0倍の範囲で増減する電流値設定が行われる。これに対し、第3の定電流回路108は、独自の調整用トリマTを有し、第1、第2の定電流から独立して第3の定電流が設定される。
【0018】
第1の定電流回路105および第2の定電流回路107は、溶接電流設定器201から電流I1,I2が与えられ、垂下特性回路106は、I1およびI2が与えられ、これらの基準電圧に基いて出力電流制御回路110に対して制御信号を出力する。第3の定電流回路108は、トリマTからの設定値に基き制御信号を出力する。
【0019】
この第3の定電流回路108が出力を生じているとき、限時回路103の出力によりゲート回路104が閉じられて、電圧判定回路102の出力が第2の定電流回路107の出力が出力電流制御回路に与えられることがないようにしている。すなわち、出力電圧XがX≦V2であるとき、第2の定電流回路107と第3の定電流回路108の何れか一方のみから出力が出て、両方から出ることがないようにしている。
【0020】
出力電流制御回路110は、電流制御信号を、変流器CTから変換器202および出力電流検出回路109を介して与えられた電流検出信号と比較して駆動信号を形成し、サイリスタ駆動回路111に与えて整流器SCRを制御する。これにより、溶接出力端子P,Nに与えられる溶接電流が制御される。
【0021】
この電流制御によって大電流が長く流れることが防止され、溶接棒の固着が解除される時に発生する被覆溶接棒の被覆材の劣化または損傷がなくなり、溶接品質が安定化できる。また、溶接棒の固着が容易に解除できるようになった結果、未熟練者のとってはアークスタートが簡単になり、熟練者にとっても溶接後のグラインダ仕上げ等の作業が軽減され、作業性が大幅に改善される。
【0022】
図2は、図1に示した回路の動作を示すフローチャートであり、図3は、その動作内容を示す電流−電圧特性図である。図2のフローチャートに基いて図3の特性図を参照しながら、図1に示した回路の動作を説明する。
【0023】
いま溶接機が始動し、溶接出力準備が完了したとする(ステップS1)。これによりステップS2に移行して溶接中か否かの判断がされ、溶接中でなければステップS2に留まって溶接が始まるのを待ち、溶接中であればステップS3に移行して溶接出力電圧Xが基準電圧V1よりも小であるか、または等しいかが判断される。
【0024】
この基準電圧V1は、図3に示すように、溶接用の定電流(第1の定電流I1)制御領域から垂下特性領域への移行点であり、出力電圧Xが、V1より大、つまりV1≦Xなる関係にあればステップS4に移行して第一の定電流制御を行いステップS3に戻る。この状態が、通常の溶接作業状態である。
【0025】
一方、出力電圧XがV1より小であればステップS5に移行して基準電圧V1とこのV1より低く設定されたもう一つの基準電圧V2との間にあるか、が判定される。このもう一つの基準電圧V2は、垂下特性から短絡時の定電流特性領域への移行点である。そして、溶接出力電圧Xが2つの基準電圧V1,V2の間にあれば、ステップS6に移行して垂下特性による制御が行われる。
【0026】
これに対して、溶接出力電圧Xが基準電圧V2よりも低いとステップS7による短絡時の定電流(第2の定電流I2)制御が行われ、併せてステップS8による第2の定電流制御の時間が計測される。
【0027】
この時間は0.1〜0.5秒であり、この時間が継続するまでは第2の定電流制御が行われるが、短絡状態が所定時間継続すると、ステップS9に移行して第3の定電流(I3)制御が行われる。この第3の定電流I3とは、図3に示すように、第1の定電流より小さく、溶接棒を熱することがなくてしかも通電しているか否かを確実に検出できる大きさ、例えば3〜10Aの電流である。
【0028】
第3の定電流により溶接出力電流を制限した結果、溶接棒が自然冷却され、固着を解除し易くなる。溶接棒を母材から引き離すと、溶接出力電流がゼロになり、かつ出力電圧が上昇するから、これらの何れかを検出することによりステップS10の固着解除か否かの判定を行うことができる。固着が解除されれば、ステップS2に戻って再び溶接作業を行うことができる。
【0029】
図3に示す特性を用いて改めて実施形態1の動作を概括的に説明すると、次の通りである。溶接用出力端子P,N(図1)の開放電圧はV0であり、溶接時は第1の定電流I1で定電流制御が行われる。
【0030】
そして、溶接中に短絡が起きると、第2の定電流I2で定電流制御が行われる。溶接作業中に短絡が起き掛けると、基準電圧V1ないしV2の範囲で垂下特性領域を辿って第1の定電流領域に戻るが、溶接棒が溶着すると第2の定電流領域で制御される。
【0031】
第2の定電流領域の動作が0.1〜0.5秒続くと、第3の定電流領域に移行する。これにより溶接棒が冷えると母材から引き外すことができ、引き外すと溶接出力電流がゼロになるか、または出力電圧が上昇する。これを検知し、固着解除であると判定して通常の溶接動作に戻る。
【0032】
短絡が起きる都度、溶接棒に流される電流は第3の定電流に落とされるから、溶接棒は冷却されて母材から引き外し易くなり、溶接作業を継続的かつ円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施形態1の回路構成を示す回路図。
【図2】図1に示した実施形態1の動作を示すフローチャート。
【図3】図1に示した実施形態1の動作特性を示す電流―電圧特性図。
【符号の説明】
【0034】
E エンジン、G 溶接機、SCR 整流器、INV インバータ、
L 直流リアクタ、CB ブレーカ、100 溶接機制御回路、
101 出力電圧検出回路、102 電圧判定回路、103 限時回路、
104 ゲート回路、105 第1の定電流回路、106 垂下特性回路、
107 第2の定電流回路、108 第3の定電流回路、
109 出力電流検出回路、110 出力電流制御回路、
111 整流器駆動回路、201 溶接電流検出回路、202 変換器、
V0,V1,V2 電圧、I1 第1の定電流、I2 第2の定電流、
I3 第3の定電流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可搬式の直流アーク溶接電源を有し、この溶接電源から第1の定電流を溶接出力端子に供給してアーク溶接を行い、短絡時には前記第1の定電流よりも大なる第2の定電流を供給する可搬式直流アーク溶接機において、
前記溶接出力端子における溶接出力電圧および溶接出力電流を検出する検出回路と、
(i)前記溶接出力電圧が第1の所定値よりも高いときは前記第1の定電流を出力するための、(ii)前記溶接出力電圧が前記第1の所定値よりも低く設定された第2の所定値よりも低くなると前記第2の定電流を出力するための、(iii)前記溶接出力電圧が前記第1および第2の所定値の間にあるときは垂下特性を示すための、さらに(iv)前記溶接出力電圧が前記第2の所定値よりも低い状態の時間が所定時間以上になったら前記第1の定電流よりも小さい第3の定電流を流すための、制御信号を形成する制御回路と、
前記制御回路からの制御信号および前記検出回路からの検出電流に応じて前記溶接出力端子に溶接電流を供給する出力回路と
をそなえたことを特徴とする可搬式直流アーク溶接機。
【請求項2】
請求項1記載の可搬式直流アーク溶接機において、
前記制御回路は、前記第3の定電流による制御の後、前記溶接出力電流がゼロになったとき固着解除と判定する手段をそなえたことを特徴とする可搬式直流アーク溶接機。
【請求項3】
請求項1記載の可搬式直流アーク溶接機において、
前記制御回路は、前記第3の定電流による制御の後、前記溶接出力電圧が前記第1の所定値以上に上昇したとき固着解除と判定する手段をそなえたことを特徴とする可搬式直流アーク溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−283307(P2007−283307A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109796(P2006−109796)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000109819)デンヨー株式会社 (88)
【Fターム(参考)】