説明

可溶性エポキシドヒドロラーゼの阻害剤の新規な使用

本願発明は、泌尿生殖器障害に関連する病状を、可溶性エポキシドヒドロラーゼの阻害剤を用いて処置または予防する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、一般に、可溶性エポキシドヒドロラーゼの阻害剤が泌尿生殖器障害に関連する疾患状態の処置に有用でありうる、という発見に関する。特には、本願発明は、可溶性エポキシドヒドロラーゼの阻害剤を用いて泌尿生殖器障害に関連する疾患状態を治療または予防する方法に関する。
【0002】
エポキシドヒドロラーゼは、エポキシドへの水の付加により、隣接ジオールをうむ触媒をする酵素群である(Hammock et al (1997) in Comprehensive Toxicology: Biotransformation (Elsevier, New York), pp. 283-305)。いくつかのタイプのエポキシドヒドロラーゼが哺乳動物において特徴付けられており、サイトゾルのエポキシドヒドロラーゼ、コレステロールエポキシドヒドロラーゼ、LTAヒドロラーゼ、ヘポキシリンエポキシドヒドロラーゼおよびミクロソームエポキシドヒドロラーゼとしても知られる可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)が挙げられる(Fretland and Omiecinski, Chemico-Biological Interactions, 129: 4159 (2000))。エポキシドヒドロラーゼは、心臓、腎臓および肝臓といった脊椎動物の種々の組織に見出されている。
【0003】
sEHの公知の内在性基質は、エポキシエイコサトリエン酸またはEETsとして知られるアラキドン酸の4つのエポキシ位置異性体である。これらは、5,6−、8,9−、11,12−および14,15−エポキシエイコサトリエン酸である。これらの基質の加水分解により生じる産物は、ジヒドロキシエイコサトリエン酸またはDHETSであり、それぞれ5,6−、8,9−、11,12−および14,15−ジヒドロキシ−エイコサトリエン酸である。ロイコトキシンまたはイソロイコトキシンとして知られるリノール酸のエポキシドも公知の基質である。EETsおよびロイコトキシンは両者とも、チトクロムP450モノオキシゲナーゼファミリーのメンバーにより産生される(Capdevila et al., J. Lipid Res., 41: 163-181 (2000))。sEHの基質についての構造的要件は、最近記載されており(Morisseau et al., Biochem. Pharmacol. 63: 1599-1608 (2002))、そして結晶構造だけでなく、阻害剤との共結晶の構造も決定された(Argiriadi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96: 10637-10642 (1999))。sEHの種々の阻害剤も、記載されている(Mullin and Hammock, Arch. Biochem. Biophys. 216: 423-439 (1982), Morisseau et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96: 8849-8854 (1999)), McElroy et al., J. Med. Chem. 46: 1066-1080 (2003))。ヒドロキシ不飽和脂肪酸のリン酸化型についてのホスファターゼ活性が、最近、可溶性エポキシドヒドロラーゼについて記載され、これを二元機能酵素であるとしている(Newman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 1558-1563 (2003))。このホスファターゼ活性の生理学的意義は確立されていない。
【0004】
EETsの生理学的役割は、血管床の血管拡張において確立されている。EETsは実際には内皮由来の過分極化因子またはEDHFとして機能するとの、証拠が蓄積されている(Campbell et al., Circ. Res. 78: 415-423 (1996))。EETsは内皮細胞で形成され、付随する過分極および弛緩とともに、「K最大」のカリウムチャネルの活性化を起こす機構により血管平滑筋細胞での血管拡張を導く(Hu and Kim, Eur. J. Pharmacol. 230: 215-221)。細胞内サイクリックAMPおよびプロテインキナーゼAなどのシグナル伝達機構により調節される細胞表面受容体へ結合することによって、14,15−EETはその生理学的効果を発揮することが示された(Wong et al., J. Lipid Med. Cell Signal. 16: 155-169 (1997))。さらに最近では、冠動脈平滑筋ではこのEETに依存する弛緩が、グアニンヌクレオチド結合タンパク質であるGsαを介して、ADPリボシル化を伴って起こることが実証された(Li et al., Circ. Res. 85: 349-56 (1999))。あるいは、陽イオンチャネルTRPV4が、マウスの大動脈血管内皮細胞において、5,6−EETにより活性化されることが、最近示されている(Watanabe et al., Nature 424: 434-438 (2003))。これは、降圧のためのターゲットとして、EETsおよび可溶性エポキシドヒドロラーゼにおける関心を引き起こした。実際、雄性sEHノックアウトマウスが、野生型の対照に比べて血圧が下降した(Sinal et al., J. Biol. Chem. 275: 40504-40510 (2000))。さらに、自然発症高血圧のラットにおけるsEHの阻害は、血圧下降を引き起こした(Yu et al., Circ. Res. 87: 992-998 (2000))。
【0005】
EETs、特には11,12−EETは、抗炎症性を表すことも示された(Node et al., Science, 285: 1276-1279 (1999); Zeldin and Liao, TIPS, 21: 127-128 (2000))。Nodeらは、11,12−EETがサイトカイン誘導性の内皮細胞接着分子、特にはVCAM−1の発現を低下させることを実証した。彼らは、さらに、EETsが血管壁への白血球の接着を妨げ、それを担う機構がNF−κBおよびiκBキナーゼの阻害に関することを示した。sEHの阻害剤は心血管疾患および炎症疾患の処置に有用であるとはいえ、sEHの阻害剤が泌尿生殖器疾患の処置に有用でありうるということは、今まで見出されていない。
【0006】
自然発症高血圧のラット(SHR)は、血圧上昇のためにWistar-Kyoto(WKY)ラットの選択的育種から導かれた高血圧のための動物モデルである。SHRは、頻尿増大も示し、覚醒時ではWistar-Kyotoの対照よりも、約3倍もより頻繁に排尿する(Clemow et al., Neurourol Urodyn. 16: 293 (1997))。SHRにおける過活動排尿の背後にある病因のための種々の案が提示されたが、その種々の提案は、説得力のある証拠に欠くと示されている。ある研究では、F1世代のSHR X WKYハイブリッドの戻し交配により、頻尿の表現型および高血圧の表現型の遺伝間で高い相関となることを示しており(Clemow et al., J. Urol. 161: 1372-1377 (1999))、いくつかの遺伝的決定因子が両表現型に共通しているかもしれないことを示唆している。
【0007】
SHRにおける多数の研究により、高血圧と相関する遺伝子座のマッピングが示されている。CD36という脂肪酸輸送タンパク質は一旦は、SHRの飼育コロニーにおいて本質的には存在しない優れた候補であったが、遺伝子導入によりSHRストックへ戻して加えると、高血圧表現型を転じたようであった(Aitman et al., Nat. Genet. 21: 76-83 (1999))。後に、これらの促進する結果とは反対に、日本のSHRの元祖コロニーは、定義である突然変異としてのCD36を効果的に排除しているその高血圧の表現型にも関わらず、CD36を正常に発現すると指摘された(Gotoda et al., Nat. Genet. 22: 226-228 (1999))。より最近では、高血圧のラット系統と正常血圧のラット系統との間のほかの戻し交配のF2世代での遺伝連鎖の研究により、高血圧に寄する2番と10番の染色体上の遺伝子座が示された。10番染色体の遺伝子座がAce遺伝子を含む一方で、2番染色体の遺伝子座は多数のナトリウム利尿のペプチド受容体ファミリーのメンバーをコードするNpr1遺伝子についてであると考えられた。排尿に関するこれらの遺伝子座の効果は、未だ報告されていない。
【0008】
可溶性エポキシドヒドロラーゼはSHRのいくつかの組織で上昇していると報告されており(とはいえ、膀胱での上昇を示すものはない)、SHRに見られるsEH量は、動物の供給源によって変化しうるものであると報告されている(Okuda et al., Biochem. Biophys. Res. Comm. 296: 537-543 (2002))。これは、SHRの特定の遺伝子の発現とともに、しばしば観察される。通常の近交系統のげっ歯類の場合より、SHRの遺伝的不均一性の度合いがより高い場合があり、所与のコロニーの遺伝的構造はほかのコロニーとは異なり、樹立者の対の遺伝的組成に因る(Nabika et al., Hypertension 18: 12-16 (1991))。14,15−EETへのアラキドン酸のエポキシ化に一部関与するチトクロームP450 2J14は、いくつかのチトクロームP450のうち、SHRにおいて特異的に上昇していると示された(Yu et al., Mol. Pharmacol. 57: 1011-1020 (2000))。sEHがCYP2J14上昇の帰結として上昇するのか、またはその逆であるのかは明確でない。あるいは、両者がシグナル経路における混乱の帰結として上昇しているのかは、依然として解明されていない。
【0009】
尿失禁は、おおまかに4つの主要なクラス:1)膀胱不安定に関する切迫性尿失禁;2)膀胱頚部/尿道の弱機能に関するストレス性尿失禁;3)切迫性とストレス性の両者が一緒に起こる機構である混合型尿失禁;4)機械性閉塞または機能性疾患に因る溢流性尿失禁、にカテゴリー分けしうる。医薬処置に付される最もありふれた型である、切迫性尿失禁では、筋性または神経性の因子を含む疾患(MS、卒中、パーキンソン病、脊髄損傷)の原因にいくつかの機構が関与しているようである。病状は、不随意の尿漏れや切迫性に関する頻繁で異常な排尿筋収縮により、特徴付けされる。
【0010】
この病状のために最も広く使用される治療は、抗ムスカリンのオキシブチニンおよびトルテロジンであり、これらは平滑筋収縮性の阻害と基本的な膀胱の緊張低下を介して作用するが、その効用はそれらのクラスにより限定されており、副作用のプロファイルは口渇、便秘および認知障害を含む。
【0011】
本願発明は、抗ムスカリンに関する副作用のない、これらの異常な排尿筋収縮における介入による失禁の処置のための約束を示す。
【0012】
本願発明は、対象に有効量の可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤を投与することを含む、泌尿生殖器障害に関連する病状を有する哺乳動物の対象を処置する方法を提供する。さらなる実施態様では、泌尿生殖器障害は、過活動膀胱、出口の閉塞、出口の不全、間質性膀胱炎、男性勃起障害または骨盤過敏症である。別の実施態様では、有効量の可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤は、経口投与される。好ましくは、可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤は、1μM未満のIC50を有する。さらなる実施態様では、哺乳動物の対象は、ヒトである。
【0013】
本願発明は、対象に有効量の可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤を投与することを含む、哺乳動物の対象における膀胱収縮の頻度および振幅を減少する方法を提供する。本願発明はまた、膀胱収縮の頻度および振幅を減少する化合物を同定する方法であって、化合物を可溶性エポキシドヒドロラーゼと接触させる工程、および該化合物が可溶性エポキシドヒドロラーゼを阻害するかどうかを決定する工程、および該化合物を膀胱収縮の頻度および振幅に対する化合物の効果を測定する機能アッセイにおいて試験する工程を含む方法を提供する。
【0014】
本願発明はさらに、泌尿生殖器障害のリスクがある哺乳動物の対象を同定する方法であって、対象の試料、好ましくは尿試料または膀胱組織中の可溶性エポキシドヒドロラーゼレベルまたは活性(基質と産物の間のバランス)をアッセイすることを含む方法を提供する。
【0015】
本願発明はさらに、泌尿生殖器障害に関する病状を有する哺乳動物の対象を処置する方法であって、対象に有効量の14,15−EET受容体アゴニストであって、好ましくは14,15−EET受容体に対し100nM未満の親和性の値を有するアゴニストを投与することを含む方法を提供する。
【0016】
特に記載のないかぎり、明細書および特許請求の範囲を含む本願で用いられる以下の用語は、以下の意味を有する。明細書および特許請求の範囲で用いた「a」、「an」および「the」といった単数形は他に前後の明確な記載がないかぎり、複数の指示対象を含むことを承知すべきである。
【0017】
用語「14,15−EET受容体アゴニスト」は、14,15−EET受容体へ結合するか、または14,15−EET受容体の近傍にある際に、受容体の効果の持続を増大または延長することによりそのような受容体の活性をモジュレーションする分子をいう。アゴニストは、14,15−EETおよび他のエポキシエイコサトリエン酸だけでなく、14,15−EET受容体の効果をモジュレーションするヌクレオチド、タンパク質、核酸、炭水化物、有機化合物、無機化合物または任意の他の分子を含む。
【0018】
用語「病状」とは、任意の疾患、状態、症状、障害または兆候をいう。
【0019】
用語「泌尿生殖器障害に関する病状」とは、「泌尿生殖器障害に関する症状」と互換的に用いられ、尿路に関する病状をいい、過活動膀胱、出口の閉塞、出口の不全、前立腺肥大、間質性膀胱炎、男性勃起障害および骨盤過敏症が挙げられるが、これらに限定されない。特に、本願発明の化合物は、上記病状、例えば切迫性、頻繁性、膀胱容量の変化、失禁、排尿閾値、不安定な膀胱収縮、括約筋痙縮、排尿筋反射亢進(神経因性膀胱)、排尿筋不安定、前立腺肥大(BPH)、尿道狭窄症、腫瘍、低流速、排尿開始の困難、切迫性、恥骨上痛、尿道運動亢進、内因性括約筋欠損、混合型失禁、ストレス性尿失禁、骨盤痛、間質(細胞)性膀胱炎、プロスタディニア(prostadynia)、前立腺症、外陰部痛、尿道炎、睾丸痛、および過活動膀胱に関連するほかの症状の処置に有用でありうる。
【0020】
用語「有効量」または「治療的有効量」とは、非毒性でありながら、所望の生物学的結果を奏する薬剤の充分量をいう。その結果とは、兆候、症状または病因の減少および/または軽減、または任意のほかの所望の生物系の変化でありうる。任意の個体症例における適切な「有効」量は、慣用の実験を用いて当該技術分野における通常の知識を有する者により決定されうる。
【0021】
用語「間質性膀胱炎」とは、未知の原因、または尿の切迫性および頻繁性症状、排尿困難、少量尿の排出、ならびに排尿によって軽減される一時的な膀胱および/または尿道の痛みを示す原因である膀胱壁の慢性炎症状態をいう。いくつかの症例では、生殖器、直腸領域および大腿に放射状に広がりうる。膀胱の膀胱鏡検査では、90%の患者に点状出血または斑点状出血がある。
【0022】
用語「男性勃起障害」とは、満足のいく性行動のための陰茎勃起への到達および/または維持の不能により特徴付けられる障害をいう。
【0023】
用語「出口の閉塞」とは、前立腺肥大(BPH)、尿道狭窄症、腫瘍などを含む病状をいうが、これらに限定されない。出口の閉塞は、さらに閉塞性(たとえば、低流速、排尿開始の困難など)または刺激性(たとえば、切迫性、恥骨上痛など)として定義することができる。
【0024】
用語「出口の不全」とは、尿道運動亢進または内因性括約筋欠損をいい、ストレス性尿失禁のような兆候として現われる。
【0025】
用語「過活動膀胱」または「排尿筋過活動」とは、切迫性、頻繁性、および/または尿失禁の発症として現われる症状をいう。これらの症状は、膀胱容量の変化、排尿閾値、不安定な膀胱収縮、および/または括約筋痙縮により引き起こされうる。反射亢進、出口の閉塞、出口の不全、および骨盤過敏もこの病状に特発性でありうる。
【0026】
用語「骨盤過敏」とは、骨盤痛、失禁、プロスタディニア、前立腺症、外陰部痛、尿道炎、睾丸痛などをいう。骨盤過敏は、骨盤領域の痛みや不快として現われ、通常上記過活動膀胱の症状を含む。
【0027】
用語「可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤」とは、1μM未満、好ましくは100nM未満のIC50を有する可溶性エポキシドヒドロラーゼを阻害する化合物をいう。IC50は、標準的な方法により決定される。1つの特定の方法は、実施例3に記載するような比色アッセイである。
【0028】
用語「対象」とは、哺乳動物および非哺乳動物をいう。哺乳動物の例には、哺乳類:ヒト、チンパンジーやほかの類人猿およびサル種などの非ヒト霊長類;ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどの家畜;ウサギ、イヌおよびネコといった飼育動物;げっ歯類、例えばラット、マウスおよびモルモットなどを含む実験動物が含まれるが、それらに限定されない。非哺乳動物の例には、鳥類、魚などが含まれるが、それらに限定されない。用語は、特定の年齢または性別を意味しない。
【0029】
病状についての用語「処置する」または「処置」とは、1)病状を予防すること、すなわち病状にさらされるか、またはかかりやすい対象において進行させず、しかし病状の症状を未だ経験しないか、またはあらわさない病状の臨床症状を引き起こすこと;2)病状を阻害すること、すなわち病状または臨床症状の進行を抑止すること;または3)病状を軽減すること、すなわち病状またはその臨床症状の一時的なまたは持続的な退行を引き起こすこと、を含む。
【0030】
本明細書に示す化学構造式は、ISIS(登録商標)のバージョン2.2を用いて作成した。本明細書の構造式における炭素、酸素または窒素原子にある任意の開放の結合価は、水素の存在を示す。
【0031】
本願発明は、可溶性エポキシドヒドロラーゼが膀胱の排尿平滑筋の収縮を調節することにおいて重要な役割を果たすという発見に基づく。Affymetrix GeneChipsを用いたディファレンシャルな遺伝子発現研究(実施例1)および定量的逆転写(qRT)−PCR(実施例2)を、SHRラットとWKYラットとの間で膀胱からのメッセンジャーRNA(mRNA)レベルを比較して行った。可溶性エポキシドヒドロラーゼを、WKYの膀胱に対してSHRの膀胱において最も高く発現上昇される遺伝子であるとして同定し、sEHのレベルまたは活性増大が、高い排尿頻度および低い膀胱容量といった、SHRの膀胱過活動の観察される症状に寄与することを示唆した。したがって、sEHの阻害は過活動膀胱などの尿路の病状の処置に有利な効果を有するべきである。さらに、対象の尿試料または膀胱組織におけるsEHのレベルまたは活性増大は、対象に泌尿生殖器疾患のリスクがあることを示唆するであろう。
【0032】
多数のクラスのsEH阻害剤が同定されてきた。本明細書において参考文献により取り入れられているWO00/23060は、1−(4−アミノフェニル)ピラゾールクラスの化合物がμM以下のIC50でsEHを阻害し、抗炎症活性を示すことを開示している。これらの化合物は、式Iで示される構造式を有する。
【化1】


(式中、Rは、3−ピリジニル、MeOCH、I−Pr、Et、CFまたはMeであり;Rは、Et、CF、I−Pr、2−オキサゾリジニルまたはMeであり;Rは、3−ピリジニル、3,5−ジメチルオキサゾール−4−イルまたは2−クロロピリジニン−4−イルである)。この一連の代表的なメンバーを、化合物1として、(N−[4−(5−エチル−3−ピリジン−3−イル−ピラゾール−1−イル)−フェニル]−ニコチンアミド)を以下の実験に用いた。
【0033】
sEH阻害剤のほかのクラスには、カルコンオキシド誘導体(MullinおよびHammock, Arch. Biochem. Biophys., 216: 423-429 (1982); Miyamoto et al, Arch. Biochem. Biophys., 254: 203-213 (1987))および種々のトランス−3−フェニグリシドール(phenyglycidols)(Dietze et al, Biochem Pharm. 42: 1163-1175; Dietze et al., Comp. Biochem. Physiol. B, 104: 309-314 (1993))がある。より最近では、Hammock et al.はナノモル単位のIC50値を有する一連の1,3−二置換尿素、カルバミン酸塩およびアミドを開示している(US6,531,506; Morisseau et al, Biochem. Pharmacology 63: 1599-1608 (2002)、そのどちらも本願明細書の参考文献に取り込まれている)。348種のこれらの化合物のQSARモデリング分析も、頒布されている(McElroy et al, J. Med. Chem. 46: 1066-1080 (2003))。これらの化合物の構造式は、式II:
【化2】


(式中、Xは、NH、OまたはCHであり、RおよびRは、アルキルまたはアリール基である)で表される。この一連の化合物の代表的な化合物としては、N−シクロヘキシル−N−4−クロロフェニル尿素、N,N’−ビス(3,4−ジクロロフェニル)尿素およびN−シクロペンチル−N’−ドデシル尿素があげられる。
【0034】
sEH阻害剤である化合物1の排尿に対する効果を、麻酔した自然発症高血圧ラットを用いてテストした(実施例4)。阻害剤を点滴静注すると、膀胱の排尿筋の不随意収縮の頻度および振幅の両者において用量依存的に減少する結果となり、過活動膀胱の症状を処置するためのsEH阻害剤の有用性を確認した。sEHの阻害はその基質の蓄積の結果であるから、単離された膀胱組織に対する14,15−EETの効果を調べた(実施例5)。これらの研究により、プリン作動性機構に関連して、低頻度電場により刺激された膀胱平滑筋を、14,15−EETが弛緩させることが示された。この弛緩効果は、14,15−EETに特異的であり、8,9−EET、11,12−EETおよび14,15−DHETは全て効果を示さない。
【0035】
本願明細書に記載する方法では、上記分子を、一つまたはそれ以上の薬学的に許容しうる担体またはビヒクルとともに、そして場合によりほかの治療的および/または予防的成分を含む医薬組成物を使用する。このような担体としては、水、食塩水、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、エタノールなどの液体があげられる。非液体製剤に適した担体も、当該技術分野の通常の知識を有するものには公知である。薬学的に許容しうる塩を、本願発明の組成物に使用することができ、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などのミネラル酸塩;および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸の塩があげられる。薬学的に許容しうる担体および塩の詳細な議論は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Edition (Easton, Pennsylvania: Mack Publishing Company, 1990)で得られる。
【0036】
さらに、湿潤剤または乳化剤、生物緩衝物質、界面活性剤などの補助的な物質を、このようなビヒクル中に存在させてもよい。生物緩衝液は事実上、薬学的に許容することができ、所望とするpH、すなわち生理学的に許容しうる範囲のpHを有する製剤を提供する任意の溶液でありうる。緩衝溶液の例は、食塩水、リン酸緩衝食塩水、トリス緩衝食塩水、ハンクス緩衝食塩水などを含む。
【0037】
目的とする投与形態に応じて、薬学的組成物を固体、半固体または液体投与剤型にするとよく、例えば錠剤、坐剤、丸剤、カプセル剤、粉剤、液剤、懸濁剤、クリーム剤、軟膏、ローションなど、好ましくは正確な用量の単一投与に適した単位投与剤型にするとよい。組成物は、有効量の選択された薬剤を薬学的に許容しうる担体との組合せにおいて含むことができ、他の薬剤、アジュバント、希釈剤、緩衝液などを含んでもよい。
【0038】
固体組成物のための、慣用の非毒性固体担体としては、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロール、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムなどがあげられる。液体の薬学的に許容しうる組成物は、例えば水、食塩水、水性デキストロース、グリセロール、エタノールなどの賦形剤中で本明細書に記載する有効成分および任意の薬学的アジュバントを例えば溶解、分散などにより調製することができ、それにより溶液または懸濁液を形成する。所望であれば、投与するための薬学的組成物は、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミン酢酸ナトリウム、オレイン酸トリエタノールアミンなどといった、少量の非毒性の補助物質を含んでもよい。このような投与剤型を調製する実際の方法は、当該技術分野の通常の知識を有するものには、公知であるか、または明らかであり、例えば上記Remington’s Pharmaceutical Scienecesを参照されたい。
【0039】
経口投与のためには、組成物を一般的に錠剤、カプセル剤、軟カプセル剤の形態にするか、水性溶液または非水性溶液、懸濁液またはシロップ剤としてもよい。錠剤およびカプセル剤が好ましい経口投与剤である。経口投与のための錠剤およびカプセル剤は、一般的には一つまたはそれ以上の慣用の担体、例えばラクトースおよびトウモロコシデンプンを含むであろう。ステアリン酸マグネシウムなどの滑剤も、典型的には加えられる。液体懸濁剤を用いる場合は、有効成分を乳化剤および懸濁剤と組み合わせてよい。所望であれば、香料、着色剤および/または甘味料も加えてよい。本明細書の経口製剤に取り入れる他の任意の成分としては、保存料、懸濁剤、増粘剤などがあげられるが、それらに限定されない。
【0040】
非経口製剤は、慣用の剤型、液体または懸濁液、注射前の液体中での可溶化または懸濁に適した固体剤、または乳液に調製することができる。好ましくは、滅菌の注射可能な懸濁液を、当該技術分野で公知の技術に従って、適切な担体、分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて製剤にする。滅菌の注射可能な製剤は、非毒性の非経口投与で許容しうる希釈剤または溶媒中の滅菌の注射可能な溶液または懸濁液であってもよい。許容しうるビヒクルおよび溶媒のうち、採用するとよいのは、水、リンゲル液および等張食塩水である。さらに、滅菌の、固定油、脂肪エステルまたはポリオールは、溶媒または懸濁媒として慣用に採用される。さらに、非経口投与は、一定の投与レベルを維持するように、徐放性または持続放出性系の使用を含んでもよい。
【0041】
あるいは、本願発明の医薬組成物を直腸投与のための坐剤の剤型で投与してもよい。室温では固体であるが、直腸温度では液体であるがゆえ、直腸で溶解して薬剤を放出する、適切な刺激性のすくない賦形剤とともに薬剤を混合することにより、これらを調製することができる。このような材料としては、カカオバター、蜜ろうおよびポリエチレングリコールがあげられる。本願発明の医薬組成物は、膣投与のために製剤することもできる。有効成分に加えて、このような担体を含むペッサリー、タンポン、クリーム剤、ジェル剤、ペースト剤、泡剤またはスプレーが、当該技術分野において適切であると知られている。
【0042】
本願発明の医薬組成物は、経鼻噴霧剤または吸入剤により投与することもできる。このような組成物は医薬製剤の技術分野で周知の技術により調製され、食塩水中で溶液として、ベンジルアルコールまたは他の適切な保存料、バイオアベイラビリティを高めるための吸収促進剤、フッ化炭素または窒素などの噴霧剤、および/またはほかの慣用の可溶化または分散剤を採用して調製してもよい。
【0043】
局所医薬送達のための好ましい剤型は、軟膏およびクリーム剤である。軟膏は、典型的にはワセリンまたはほかの石油誘導体に基づく半固体剤である。選択された有効成分を含むクリーム剤は当該技術分野で公知であり、粘稠液または半固体乳液であり、水中油型または油中水型である。クリーム剤の基剤は水溶性であり、そして油相、乳化剤および水相を含んでいる。油相は、ときに「内部」相ともよばれ、一般的にワセリンおよび脂肪アルコール、例えばセチルアルコールまたはステアリルアルコールを含み;水相は、通常は必ずしも必要ではないとはいえ、容量で油相を超え、そして一般的に保湿剤を含む。クリーム剤中の乳化剤は、一般的には非イオン性、アニオン性、カチオン性または両性の界面活性剤である。使用する特異的な軟膏またはクリーム剤の基剤は、当該技術分野の通常の知識を有する者により理解されるように、最適な薬物送達を提供するものである。他の担体またはビヒクルと同様に、軟膏基剤は不活性で、安定で、刺激が少なく、そして非感作性であるべきである。
【0044】
頬側投与製剤としては、錠剤、トローチ剤、ジェル剤などがあげられる。あるいは、頬側投与は当該技術分野で公知の経粘膜薬物送達系を用いて効果的になりうる。本願発明の化合物は、慣用の経皮薬物送達系、すなわち薬物送達のデバイスが体表面に貼り付けられるように、典型的には薬物がラミネートした構造内に含まれる経皮「パッチ剤」を用いて、皮膚または粘膜組織を介して送達されてもよい。このような構造では、医薬組成物は、典型的には上に裏打ち層がある層、または「保有層(reservoir)」に含まれる。ラミネートされたデバイスは、単一の保有層を含んでいるか、複数の保有層を含んでいてもよい。一実施態様では、保有層は、系を薬物送達の間、皮膚に貼るような薬学的に許容しうる接点粘着性材料のポリマーマトリックスを含む。適切な皮膚接点接着性材料の例としては、ポリエチレン、ポリシロキサン、ポリイソブチレン、ポリアクリラート、ポリウレタンなどがあるが、これらに限られない。あるいは、薬物を含む保有層および皮膚接触接着層は離れて存在し、そして異なる層であり、保有層を下に張る接着層を有しているが、それは、この場合、上記ポリマーマトリックスであってもよく、または液体またはゲル状の保有層であってもよく、または他の形態であってもよい。これらのラミネート中の裏打ち層は、デバイスの上部表面であり、ラミネートした構造の主な構造エレメントとして機能し、そしてデバイスに多くの可動性を与える。裏打ち層のために選択される材料は、実質的に有効成分に不透過性であるべきであり、任意のほかの材料が存在する。
【0045】
薬学的有効量または治療的有効量の組成物を対象に送達する。正確な有効量は、対象と対象とによって異なり、種、年齢、対象の大きさおよび健康状態、性質および処置条件の範囲、処置をする者の推奨、そして投与のために選択される治療または治療の組合せによるであろう。このように、所与の状況での有効量は、ルーチンの実験により決定できる。本願発明の目的では、一般に治療的な量とは、約0.05mg/kg〜約40mg/kg体重、より好ましくは約0.5mg/kg〜約20mg/kgの範囲で、少なくとも1用量にある。より大きな哺乳動物では、指示される1日量は、約1mg〜100mg、1日当たり1回以上、より好ましくは約10mg〜50mgの範囲でありうる。問題とする障害の兆候、症状または原因を減少および/または軽減するため、または生物系の任意の他の所望とする変更をもたらすために必要とされる用量を、患者に投与するとよい。
【0046】
ポリヌクレオチドの送達は、例えば可溶性エポキシドヒドロラーゼアンチセンスオリゴヌクレオチドの送達には、上記任意の製剤を用いて、または組換え発現ベクターを、担体ウイルスまたは粒子とともに、もしくはなしに、用いることにより達成することができる。このような方法は、当該技術分野では周知である。例えば、US 6,214,804; US 6,147,055; US 5,703,055; US 5,589,466; US 5,580, 859; Slater et al. (1998) J. Allergy Clin. Immunol. 102: 469-475を参照されたい。例えば、ポリヌクレオチド配列の送達は、レトロウイルスおよびアデノ随伴ウイルスベクターといった、種々のウイルスベクターを用いて達成することができる。例えば、Miller (1990) Blood 76: 271; およびUckertおよびWalther (1994) Pharmacol. Ther. 63: 323-347を参照されたい。アンチセンス遺伝子治療に用いることができるベクターとしては、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニア、または好ましくはレトロウイルスのようなRNAウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチド配列を標的細胞に送達するのに用いることができる他の遺伝子送達機構としては、コロイド分散およびリポソーム誘導系、人工ウイルスエンベロープ、および他の当該術分野の知識を有するものに入手しうる系が挙げられる。例えば、Rossi (1995) Br. Med. Bull. 51: 217-225; Morris et al. (1997) Nucl. Acids Res. 25: 2730-2736;およびBoado et al. (1998) J. Pharm. Sci. 87: 1308-1315を参照されたい。例えば、送達系はマクロ分子複合体、ナノカプセル、マイクロカプセル、ビーズ、および脂質に基づく系、例えば水中油型乳液、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを用いることができる。
【0047】
このように本願発明は、
−例えば、過活動膀胱、出口の閉塞、出口の不全、間質性膀胱炎または骨盤過敏症、例えば過活動膀胱といった泌尿生殖器障害に関連する病状を有する哺乳動物の対象、例えばヒトを処置する方法であって、例えば経口で、対象に有効量の可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤、例えば1μM未満のIC50を有する可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤を投与することを含む方法;
−哺乳動物の対象、例えばヒトにおける膀胱収縮の頻度および振幅を減少する方法であって、例えば経口で、対象に有効量の可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤、例えば1μM未満のIC50を有する可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤を投与することを含む方法;
−泌尿生殖器障害に関連する病状を有する哺乳動物の対象を処置する方法または哺乳動物の対象における膀胱収縮の頻度および振幅を減少する方法であって、対象に有効量の
式I
【化3】


(式中、Rは、3−ピリジニル、MeOCH、I−Pr、Et、CFまたはMeであり;Rは、Et、CF、I−Pr、2−オキサゾリジニルまたはMeであり;そしてRは、3−ピリジニル、3,5−ジメチルオキサゾール−4−イルまたは2−クロロピリジニン−4−イルである)で表される可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤またはその薬学的に許容しうる塩;
または
N−[4−(5−エチル−3−ピリジン−3−イル−ピラゾール−1−イル)−フェニル]−ニコチンアミドまたはその薬学的に許容しうる塩;
または
式II
【化4】


(式中、Xは、NH、OまたはCHであり、RおよびRは、アルキルまたはアリール基である)で表される可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤またはその薬学的に許容しうる塩を投与することを含む方法;
−哺乳動物の対象における膀胱収縮の頻度および振幅を減少する化合物を同定する方法であって、a)化合物を可溶性エポキシドヒドロラーゼと接触させ、そして該化合物が可溶性エポキシドヒドロラーゼを阻害するかどうかを決定する工程、およびb)該化合物を膀胱収縮の頻度および振幅に対する化合物の効果を測定する機能アッセイにおいて試験する工程を含む方法;
−泌尿生殖器障害のリスクがある哺乳動物の対象を同定する方法であって、対象の試料、例えば膀胱組織または尿試料中の可溶性エポキシドヒドロラーゼレベルまたは活性をアッセイすることを含む方法;
−泌尿生殖器障害、例えば過活動膀胱、出口の閉塞、出口の不全、間質性膀胱炎または骨盤過敏症、例えば膀胱過活動に関連する病状を有する哺乳動物の対象、例えばヒトを処置する方法であって、例えば経口で、対象に有効量の14,15−EET受容体アゴニスト、例えば14,15−EET受容体に対し1nM未満の親和性の値を有するアゴニストを投与することを含む方法;
−泌尿生殖器障害、例えば過活動膀胱、出口の閉塞、出口の不全、間質性膀胱炎または骨盤過敏症に関連する病状の処置のための医薬の製造のための可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤の使用;
−泌尿生殖器障害に関連する病状の処置のための医薬の製造のための可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤の使用であって、可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤が上記式Iにより表される化合物またはその薬学的に許容しうる塩;N−[4−(5−エチル−3−ピリジン−3−イル−ピラゾール−1−イル)−フェニル]−ニコチンアミドまたはその薬学的に許容しうる塩;または上記式IIにより表される化合物またはその薬学的に許容しうる塩である方法;
−膀胱収縮の頻度および振幅を減少するための医薬の製造のための可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤の使用;および
−泌尿生殖器障害に関連する病状の処置のための医薬の製造のための14,15−EET受容体アゴニストの使用
を提供する。
【0048】
本明細書における全ての特許、特許出願および刊行物は、上記または内部のいずれも、その全体において参考文献によりそれぞれ取り込まれている。本願発明は広範囲に、以下の実施例を参照することで最も理解されるが、これらは本願発明を以下に記載する特定の実施態様に限定することを目的としてはいない。
【0049】
実施例
以下の調製および実施例は、当該技術分野の通常の知識を有するものには可能であり、より明らかに理解され、そして本願発明を実施するために記載される。これらを、本願発明の範囲を限定するものとしてとらえるべきではないが、単にその説明であり、例示であるとしてとらえるべきである。
【0050】
実施例1: 自然発症高血圧ラット膀胱の遺伝子発現プロファイリング
Affymetrix GeneChipプロファイリングを6匹の自然発症高血圧ラット(SHR)および6匹のWistar-Kyotoラット(WKY)の膀胱全体に対して行った。SHRとWKYラットの膀胱間で異なる遺伝子発現を、過活動膀胱(OAB)についての可能性のある遺伝子を同定する目的で解析した。
【0051】
総RNAをトリゾール法を用いて膀胱全体から単離した。単離された総RNAを分光光度法によりO.D.260で定量し、そしてアガロースゲル電気泳動およびAgilent BioAnalyzer RNA 6000アッセイにより認定した。
【0052】
cDNAの第1鎖および第2鎖を総RNA10μgからAMV逆転写酵素およびRoche Applied Science製の「cDNA合成システム」キット(カタログ番号1117831)の構成要素を用いて産生させた。cDNAを産生するために、オリゴdT(24mer)−T7プライマーを用いて、mRNAを第1鎖合成のために刺激した。第2鎖のcDNA合成工程の後、試料をフェノール/クロロホルム抽出し、そして酢酸アンモニウムとエタノールを用いて塩沈させた。ペレットをDEPC処理した水に再懸濁した。
【0053】
ENZO Diagnostics社の「BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit (T7 RNA Polymerase)」(カタログ番号42655-10)を次に、先に合成したcDNAの1/2を使ってin vitro転写工程のために用いた。このT7 RNAポリメラーゼによるin vitro転写工程の間に、ビオチン標識リボヌクレオチドを取り込んだ。反応は40μlの容量で37℃で6時間行った。次に試料をQiagen RNeasyミニカラムにかけて、取り込まれていないヌクレオチドの試料を精製した。
【0054】
In vitro転写したビオチン標識RNA試料を定量し、そして上記方法により質をチェックした。試料12μgを次に酢酸緩衝液中で断片化し、そしてハイブリダイゼーションカクテルにいれた。
【0055】
試料10μgをラットのAffymetrix U34Aチップ上で16時間ハイブリダイズさせた。次にチップを非ストリンジェントな緩衝液とストリンジェントな緩衝液で洗浄し、染色した。染色操作は、1次染色として、フィコエリトリンを用いてストレプトアビジンを標識(SAPE)し、次に2次抗体増幅染色をし、その後3次SAPE染色によるものであった。染色操作の後、各チップをスキャンした。可溶性エポキシドヒドロラーゼ、NCBIタンパク質記録番号P80299を、Wistar-Kyotoの膀胱に対してSHRの膀胱で、SHR/WKY倍の発現で表して、U34A遺伝子発現アレイ上で最も高く上方調節される遺伝子であることを見出した。
【0056】
実施例2: TaqMan Real-Time定量的逆転写酵素(qRT)−PCR
実施例1のようにしてラットの膀胱からRNAを調製し、実験を行うまで−80℃で保存した。リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)分析(Heid et al., Genome Res. 6: 986-994 (1996))を用いて総RNAからのラットとヒトの可溶性エポキシドヒドロラーゼの相対レベルを決定した。増幅の前に、総RNA試料をDNAseI処理し、そしてQiagenの「Rneasy Mini Kit」を用いて製造者の指示に従って(カタログ番号74104、Qiagen Inc., Valencia, U.S.A.)精製した。逆転写およびPCRの反応は、「One-Step RT-PCR Master Mix Reagents」を用いて製造者の指示に従って(カタログ番号4309169、Applied Biosystems, Foster City, U.S.A.)行った。ラットおよびヒトの可溶性エポキシドヒドロラーゼ配列特異的増幅は、増幅サイクル中に増大するFAMレポーター色素の蛍光シグナルにより検出した。各配列特異的増幅を、2回行った。異なるmRNAのレベルを、次に18sRNAの対照に対して基準化した(カタログ番号4308329、Applied Biosystems)。オリゴヌクレオチドプライマーとTaqManプローブは、Primer Expressソフトウェア(Applied Biosystems)を用いて設計し、そしてApplied Biosystemsにより合成した。
【化5】

【0057】
実施例3: 化合物1の合成およびIC50の決定
化合物1、すなわち(N−[4−(5−エチル−3−ピリジン−3−イル−ピラゾール−1−イル)−フェニル]−ニコチンアミド)
【化6】


を上記のように合成した(WO 00/23060、化合物1)。IC50をDietze et al Anal. Biochem. 216: 176-187 (1994)に記載されたように基質として比色基質、4−ニトロフェニル−(2S,3S)−2,3−エポキシ−3フェニルプロピルカーボナートを用いて決定した。IC50は、発現した100nMのヒトの可溶性エポキシドヒドロラーゼ(Beetham et al. Arch. Biochem. Biophys. 305: 197-201 (1993))を用いてアッセイし、そしてWixtromら(Anal. Biochem. 169: 71-80 (1994))による記載に従って、40μMの基質濃度および30℃で精製したところ、0.084+/−0.002マイクロモルであることが分かった。
【0058】
実施例4: 麻酔したラットにおける可溶性エポキシドヒドロラーゼ活性の阻害
本願発明の可溶性エポキシドヒドロラーゼ酵素活性の阻害の排尿に対する効果を、in vivoでラットにおいて、Yoshiyama et al., Brain Research (1994) 639 (2): 300-8に記載された方法を改変して用いて決定した。
【0059】
雌性自然発症高血圧ラット(SHR)をウレタンで麻酔した(1.5g/kg、皮下注射)。気管を露出させ、そしてポリエチレン(PE)−240チュービング(Becton-Dickinson)を用いてカニューレ挿入した。血圧測定および薬物投与のために、右側頚動脈および左側大腿静脈をPE−50チュービングを用いてそれぞれカニューレ挿入した。切開は、白線に沿って腹膜腔下部に行い、尿管および膀胱を露出させた。両尿管を連結し、そして切断して、尿を腎臓から腹部に排出させた。膀胱をPE−50チュービングを用いてドームを介してカニューレ挿入し、結紮法により確実にカニューレを固定した(3〜0絹縫合)。膀胱のカニューレを「Y型コネクター」を介してトランスデューサーおよびシリンジ注入ポンプ(Harvard Apparatus)の両者へ連結した。血圧および排尿収縮の平均をGouldレコーダー(Gould 3800)へ連結したGould血圧トランスデューサー(P23XL)およびPower Labデータ取得システムを用いた実験により記録した。1時間の安定期間の後、食塩水を膀胱に0.1ml/分で1時間注入した。1時間の食塩水注入の後、化合物またはビヒクルを累積的用量応答として静脈に、または短回のボーラス注入により投与した。膀胱の収縮振幅および頻度を測定し、そして試験化合物をそれらのビヒクルの時間対照と比較した。動物を研究の終了時にペントバルビタールナトリウム(Ro 100-5534/033)の致死量で、静脈注射により安楽死させた。化合物1は、麻酔したSHRにおける膀胱内圧測定の効果のように、有効であった。
【0060】
実施例5: 収縮研究
(雄性/雌性の)スプラーグドーリー(Charles River)ラットの膀胱からの膀胱片を、NaCl(118.5mM)、KCl(4.8mM)、NaHCO(25mM)、KHPO(1.2mM)、MgSO(1.2mM)、CaCl(2.5mM)およびグルコース(11.0mM)からなる10mlの食塩水を含む、37℃に維持した10mlの組織浴にのせた。膀胱片を95%のOおよび5%のCOの混合物で通気した。組織は初めに1時間、1gの残量で平衡化した。次に、67mMのKClに対する対照の応答を決定した。組織の各側から1cm離れて位置する1.14cmの表面領域の白金電極を通じて、電気的フィールド刺激(EFS)を与えた。白金電極への刺激は、GRASS Medical Instruments(Quincy, Mass.) S88 Square Pulse Stimulatorセットにより、1、2、4または8Hzで10秒のパルス列での期間に0.5msパルスで10Vパルスを送達するようにして、与えた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
泌尿生殖器障害に関連する病状の処置のための医薬の製造のための可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤の使用。
【請求項2】
泌尿生殖器障害が、過活動膀胱、出口の閉塞、出口の不全、間質性膀胱炎または骨盤過敏症である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤が、式I
【化7】


(式中、Rは、3−ピリジニル、MeOCH、I−Pr、Et、CFまたはMeであり;Rは、Et、CF、I−Pr、2−オキサゾリジニルまたはMeであり;そしてRは、3−ピリジニル、3,5−ジメチルオキサゾール−4−イルまたは2−クロロピリジニン−4−イルである)で表される化合物またはその薬学的に許容しうる塩;
N−[4−(5−エチル−3−ピリジン−3−イル−ピラゾール−1−イル)−フェニル]−ニコチンアミドまたはその薬学的に許容しうる塩;または
式II
【化8】


(式中、Xは、NH、OまたはCHであり、RおよびRは、アルキルまたはアリール基である)で表される化合物またはその薬学的に許容しうる塩である、請求項1記載の使用。
【請求項4】
膀胱収縮の頻度および振幅を減少するための医薬の製造のための可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤の使用。
【請求項5】
泌尿生殖器障害に関連する病状の処置のための医薬の製造のための14,15−EET受容体アゴニストの使用。
【請求項6】
哺乳動物の対象における膀胱収縮の頻度および振幅を減少する化合物を同定する方法であって、a)化合物を可溶性エポキシドヒドロラーゼと接触させ、そして該化合物が可溶性エポキシドヒドロラーゼを阻害するかどうかを決定する工程、およびb)該化合物を膀胱収縮の頻度および振幅に対する化合物の効果を測定する機能アッセイにおいて試験する工程を含む方法。
【請求項7】
泌尿生殖器障害のリスクがある哺乳動物の対象を同定する方法であって、対象の試料中の可溶性エポキシドヒドロラーゼレベルまたは活性をアッセイすることを含む方法。
【請求項8】
試料が、膀胱組織または尿試料である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
泌尿生殖器障害に関連する病状を有する哺乳動物の対象を処置する方法であって、対象に有効量の可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤を投与することを含む方法。
【請求項10】
哺乳動物の対象における膀胱収縮の頻度および振幅を減少する方法であって、対象に有効量の可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤を投与することを含む方法。
【請求項11】
泌尿生殖器障害に関連する病状を有する哺乳動物の対象を処置する方法であって、対象に有効量の14,15−EET受容体アゴニストを投与することを含む方法。
【請求項12】
本明細書に記載の本発明。

【公表番号】特表2010−513372(P2010−513372A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541971(P2009−541971)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063583
【国際公開番号】WO2008/074678
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】