説明

吊り下げ用プレキャストブロック及び耐熱カバー

【課題】施工に特殊な熟練技術を必要とせず、且つ耐スポーリング性及び耐食性に優れ、しかも亀裂や脱落の発生が大幅に抑制された吊り下げ用プレキャストブロックおよびそのプレキャストブロックを用いた耐熱カバーを提供する。
【解決手段】構造体9に対して下向き乃至横向きに取り付けられる吊り下げ用プレキャストブロック1であって、プレキャストブロック本体2と、プレキャストブロック本体2の内部に埋め込まれたスタッド3と、プレキャストブロック本体2を構造体9に取り付けるための取付治具4とを有し、スタッド3と取付治具4とが接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶湯の飛散防止や保熱のために使用される高炉の樋カバーなどの内張材として用いられる、吊り下げ用プレキャストブロック、およびそのプレキャストブロックを用いた耐熱カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉の出銑時におけるスラグや溶銑等の飛散を抑えるとともに、保温の目的で、溶銑樋の上部には、樋カバーが設けられている。樋カバーの内張耐火物は、出銑時に高温に曝され、熱的あるいは構造的スポーリングを受けるとともに、スラグや溶銑等の飛散により侵食され、摩耗しやすい。そのため、従来から、耐スポーリング性及び耐食性に優れた耐火レンガやキャスタブル耐火物が、内張材として使用されてきた。
【0003】
ところが、耐火レンガを使用する場合、施工に熟練技術が必要であり、しかも長時間の作業を要する。また、耐火レンガは、スポット補修が困難であるという問題があった。
【0004】
そのため、例えば特許文献1には、断面逆溝型に形成されたカバー本体の内側に、予め取付金具を埋設して成形した耐熱ブロックレンガを、ボルト等の取付金具を介して着脱自在に装着して構成される樋カバーが提案されている。
【0005】
一方、特許文献2には、天井アーチ部に大型プレキャストブロックを用いた窯炉が開示されている。プレキャストブロックは、キャスタブル耐火物を、予め鋳込み成形法で成形し、乾燥工程まで行ったものであり、これを適用することで、耐熱ブロックレンガやキャスタブル耐火物を施工するよりも、施工時間を大幅に短縮することが可能である。したがって、通常は熟練した築炉工を要するアーチ形状の施工が、容易に行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭57−83151号公報
【特許文献2】特開平6−194059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で用いられている耐熱ブロックレンガは、プレキャストブロックに比べて緻密質であり、摩耗に対する損耗性は高いが、耐熱スポーリング性に乏しい。そのため、レンガ内に埋設されたスタッドを起点に亀裂が発生し、脱落しやすいという問題がある。
【0008】
また、特許文献2は、窯炉天井アーチ部や天井平板部等に大型プレキャストブロックを適用したものであるが、天井部上部からのへたりにより亀裂が発生しやすく、そこからの脱落を防止するための保持構造を別途設けなければならないという問題点がある。
【0009】
本発明の目的は、施工に特殊な熟練技術を必要とせず、且つ耐スポーリング性及び耐食性に優れ、しかも亀裂や脱落の発生が大幅に抑制された吊り下げ用プレキャストブロックおよびそのプレキャストブロックを用いた耐熱カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するため、本発明は、構造体に対して下向き乃至横向きに取り付けられる吊り下げ用プレキャストブロックであって、プレキャストブロック本体と、前記プレキャストブロック本体の内部に埋め込まれたスタッドと、前記プレキャストブロック本体を前記構造体に取り付けるための取付治具と、を有し、前記スタッドと前記取付治具とが接合されていることを特徴とする吊り下げ用プレキャストブロックを提供する。
【0011】
ここで、構造体に対して下向き乃至横向きとは、下向きおよび横向きはもちろん、下向きから横向きに至る途中の角度における斜め下向きも含まれる。
【0012】
前記吊り下げ用プレキャストブロックにおいて、前記取付治具は、前記プレキャストブロック本体の外側に突出したボルトと、前記ボルトに着脱されるナットとからなるものであってもよい。
【0013】
前記スタッドと前記取付治具とが、前記プレキャストブロック本体の表面に配置された帯状あるいは板状の接合部材を介して接合されてもよい。前記プレキャストブロック本体の内部に金属繊維が含有されてもよい。また、前記構造体に取り付けられた際に、前記構造体の取付面に対して垂直方向となる前記プレキャストブロック本体の外周面のうち、全面又は少なくとも前記構造体に接する部分に、枠体が配置されてもよい。
【0014】
また、本発明によれば、前記吊り下げ用プレキャストブロックを、前記取付治具により前記構造体に取り付けたことを特徴とする耐熱カバーが提供される。さらに、前記枠体が配置された吊り下げ用プレキャストブロックを、前記取付治具により前記構造体に取り付けるとともに、前記枠体を前記構造体に接合したことを特徴とする耐熱カバーが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プレキャストブロックからなる耐熱材を鉄皮などの構造体に容易に取り付けることが可能であり、また、使用時におけるプレキャストブロックの亀裂や脱落が抑制できることにより、金属溶湯等の飛散防止や保熱のために使用される耐熱カバーの高寿命化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態にかかるプレキャストブロックを示す断面図である。
【図2】本発明のプレキャストブロックの異なる実施形態を示す断面図である。
【図3】図2のプレキャストブロックの斜視図であり、(a)は接合部材が帯状の場合、(b)は接合部材が板状の場合である。
【図4】本発明のプレキャストブロックの更に異なる実施形態を示す断面図である。
【図5】図4のプレキャストブロックの斜視図である。
【図6】本発明のプレキャストブロックの更に異なる実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明の実施形態にかかる耐熱カバーの例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図に基づいて説明すると、図1は、本発明にかかるプレキャストブロックの一実施形態を示し、プレキャストブロック1は、プレキャストブロック本体2と、プレキャストブロック本体2の内部に埋め込まれるY型のスタッド3と、プレキャストブロック1を施工する際に構造体9に取り付けるための取付治具4とを有している。
【0018】
プレキャストブロック本体2は、キャスタブル耐火物を型枠に流し込み、乾燥又は焼成して形成されるものであり、大型のものや自由な形状のものが一体形状に成形できる。
【0019】
図1に示すように、取付治具4は、ボルト11とナット12からなり、プレキャストブロック本体2の内部に埋め込まれたスタッド3の一端が、取付治具4のボルト11の一端と、例えば溶接により接合されている。このようなプレキャストブロック1は、予めスタッド3とボルト4とを溶接して型枠にセットし、キャスタブル耐火物を型枠に流し込んだ後乾燥又は焼成して成形することができる。このプレキャストブロック1を構造体9に取り付ける際には、構造体9に取付治具4のボルト11を通す孔を開け、その孔にボルト11を通し、構造体9の外側からナット12を締め付ける。この例では、構造体9は、例えば樋カバーの鉄皮である。構造体9の被取り付け面の形状に合わせて成形したプレキャストブロック1を1体または複数体組み合わせて、このように取り付けることにより、さまざまな形状の構造体9に対して下向きに吊り下げる場合でも、容易に施工することができる。
【0020】
本発明のプレキャストブロック1は、耐熱ブロックレンガに比べて耐熱スポーリング性に優れたプレキャストブロックを用いているため、亀裂の発生を抑制できる。しかも、プレキャストブロック本体2の内部に埋め込まれたスタッド3の保持機能により、プレキャストブロック1の脱落を抑制できる。また、構造体9に対して吊り下げる方向の下向き、横向き、および、下向きから横向きに至る任意の角度の斜め下向きに取り付ける場合にも、プレキャストブロックを容易に取り付けることができる。
【0021】
図2および図3は、プレキャストブロック1の異なる実施形態を示している。このプレキャストブロック1は、プレキャストブロック本体2の内部に配置されるスタッド3と、外側に突出する取付治具4とが、接合部材5を介して接合されている。接合部材5は、金属製の帯状部材あるいは板状部材であり、鉄皮からなる構造体9に溶接することも可能である。帯状部材の場合は、例えば図3(a)に示すように、プレキャストブロック本体2の上面に格子状に配置される。板状部材の場合は、例えば図3(b)に示すように、プレキャストブロック本体2の上面全体に配置される。
【0022】
図2および図3に示すように、プレキャストブロック本体2の内部に埋め込まれたY形、又はY形とV形とを組み合わせて形成されたスタッド3の一端が、例えば溶接等により接合部材5に接合されている。また、ボルト11及びナット12からなる取付治具4のボルト11の一端部およびそのボルト11に取り付けられたナット13が、プレキャストブロック本体2の内部に埋め込まれている。さらに、ボルト11の他端側は、接合部材5を貫通してプレキャストブロック本体2の外部に突出している。プレキャストブロック本体2に埋め込まれた方のナット13が接合部材5の内側面と接触することで、取付治具4が接合部材5に接合されている。このように、スタッド3と取付治具4とは、接合部材5を介して接合される。スタッド3や取付治具4が配置される位置に接合部材5を設けることで、プレキャストブロック本体2の大きさ、形状等に応じて、複数のスタッド3や取付治具4を自由な位置に、自由な数だけ配置することができる。なお、ボルト11と接合部材5とを溶接により接合してもよい。また、図3に示すように、Y形またはV形のスタッド3の設置方向は、X,Y方向交互に設置することが好ましく、接合部材5に接合されるスタッド3の上側およびプレキャストブロック本体2の内部に埋め込まれるスタッド3の下側の向きも、X,Y方向に交差するように設置することが好ましい。
【0023】
図4および図5は、プレキャストブロック1のさらに異なる実施形態を示す。このプレキャストブロック1は、プレキャストブロック本体2の外周面のうち、構造体9に施工した際に構造体9の取付面9aに対して垂直方向に立ち上がる外周側面に、枠体としての鉄枠6が設けられている。鉄枠6は、プレキャストブロック本体2の外周側面全体に設けてもよいし、図4および図5に示すように、外周側面の一部に設けてもよい。一部に設ける場合には、図5に示すように、構造体9に接する端部から適宜幅で、全周にわたって設けるようにする。
【0024】
図4および図5の例では、スタッド3と取付治具4とは、図1の例と同様に溶接等で直接接合されている。さらに、プレキャストブロック本体2の内部に、鉄枠6に一端を接合させて、V形のスタッド7が設けられている。鉄枠6は、鉄皮からなる構造体9に溶接することができ、これにより、プレキャストブロック1を、より強固に構造体9に固定することができる。また、図4および図5に示したプレキャストブロック1において、図2および図3に示した接合部材5を併用しても構わない。その場合には、更にスタッド3や取付治具4を自由な配置で設けることができる。
【0025】
図6は、プレキャストブロック1のさらに異なる実施形態を示す。このプレキャストブロック1は、プレキャストブロック本体2の内部に、金属繊維が含有されている。さらに、図2に示す接合部材5を備えている。
【0026】
金属繊維は、例えばSUS310が用いられ、径1mm、長さ10mmのものを、乾燥前のプレキャスト耐火物の材料の質量に対して30%程度用いる。このような金属繊維をプレキャストブロック本体2内に含有させることにより、使用時の亀裂進展や脱落を抑制する効果がさらに高くなる。
【0027】
さらに、図6のプレキャストブロック1では、スタッド3や取付治具4の数および配置は、プレキャストブロック本体2の大きさ等に応じて、適宜増減が可能である。すなわち、スタッド3および取付治具4は、接合部材5に接合できる位置であれば、どこでも配置できる。
【0028】
図7は、本発明のプレキャストブロック1を、鉄皮からなる構造体9に取り付けて構成された耐熱カバー10の一例を示す。このような耐熱カバー10は、例えば高炉の樋カバーとして用いられる。
【0029】
本発明のプレキャストブロック1を、鉄皮からなる構造体9に取り付ける際には、鉄皮に形成したボルト孔にプレキャストブロック1のボルト11を通し、鉄皮の外側に突出したボルト11にナット12を締め付けることで、容易に施工できる。プレキャストブロック1の外周面に、図5に示すように鉄枠6が設けられている場合には、鉄枠6を構造体9に溶接することにより、さらに強固にプレキャストブロック1を固定できる。また、プレキャストブロック1が、図3に示すように金属製の接合部材5を有している場合には、接合部材5を構造体9に溶接してもよい。
【0030】
したがって、図7に示すように、構造体9の水平面に対して下向きの、吊り下げ方向にプレキャストブロック1を取り付ける際や、構造体9の鉛直面又は傾斜面に対して横向き、すなわち水平方向又は斜め下向きにプレキャストブロック1を取り付ける際でも、特殊な熟練技術を要することなく容易に施工できる。
【0031】
そして、このように施工されたプレキャストブロック1は、構造体9への取付治具4であるボルト11と、プレキャストブロック本体2の内部に埋め込まれたスタッド3とが、直接或いは接合部材5を介して接合されているので、プレキャストブロック本体2部分の脱落を抑制することができる。
【0032】
また、図7に示す本発明の耐熱カバー10は、プレキャストブロックを用いたことにより、溶銑樋の上方に設置される樋カバーとして用いた場合、溶銑の飛散や粉塵の発生を防止することができる。しかも、プレキャストブロック部分の取り付けおよび取り外しが容易であるため、損傷が激しく頻繁に取り替える際にも、長時間を要することなく容易に作業を行える。
【0033】
しかも、施工場所等に応じて適宜寸法のプレキャストブロック1を組み合わせて用いることにより、大がかりな重機等を必要とせずに施工することができる。また、部分的に損傷した場合には、全体を解体することなく補修することもできる。
【0034】
実際に、本発明のプレキャストブロックを用いた耐熱カバーを高炉の樋カバーとして使用したところ、最も溶銑滓の飛散による損傷が激しく使用条件が厳しい部分において、従来は寿命が5日間程度であったところ、これを10日間まで延ばすことができた。
【0035】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、高炉の樋カバー等のような耐熱カバーの他、小型加熱炉の天井にも適用できる。
【符号の説明】
【0037】
1 プレキャストブロック
2 プレキャストブロック本体
3、7 スタッド
4 取付治具
5 接合部材
6 鉄枠
9 構造体
10 耐熱カバー
11 ボルト
12、13 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に対して下向き乃至横向きに取り付けられる吊り下げ用プレキャストブロックであって、
プレキャストブロック本体と、前記プレキャストブロック本体の内部に埋め込まれたスタッドと、前記プレキャストブロック本体を前記構造体に取り付けるための取付治具と、を有し、
前記スタッドと前記取付治具とが接合されていることを特徴とする、吊り下げ用プレキャストブロック。
【請求項2】
前記取付治具は、前記プレキャストブロック本体の外側に突出したボルトと、前記ボルトに着脱されるナットとからなることを特徴とする、請求項1に記載の吊り下げ用プレキャストブロック。
【請求項3】
前記スタッドと前記取付治具とが、前記プレキャストブロック本体の表面に配置された帯状あるいは板状の接合部材を介して接合されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の吊り下げ用プレキャストブロック。
【請求項4】
前記プレキャストブロック本体の内部に金属繊維が含有されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の吊り下げ用プレキャストブロック。
【請求項5】
前記構造体に取り付けられた際に、前記構造体の取付面に対して垂直方向となる前記プレキャストブロック本体の外周面のうち、全面又は少なくとも前記構造体に接する部分に、枠体が配置されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の吊り下げ用プレキャストブロック。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の吊り下げ用プレキャストブロックを、前記取付治具により前記構造体に取り付けたことを特徴とする、耐熱カバー。
【請求項7】
請求項5に記載の吊り下げ用プレキャストブロックを、前記取付治具により前記構造体に取り付けるとともに、前記枠体を前記構造体に接合したことを特徴とする、耐熱カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−76488(P2013−76488A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215600(P2011−215600)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】