説明

同期検定器

【課題】従来の機械式の回転指針による視認性の良さを踏襲しながら、大幅な小形軽量化および低コスト化が図れる新しい機械式の同期検定器を実現すること。
【解決手段】2つの交流電源の位相差および周波数差を指示する同期検定器において、前記位相差および周波数差を指示する指示計器が、2個の空芯コイルが直交するように配置固定され、これら空芯コイルの内部に回転可能に回転磁石が配置され、この回転磁石には回転指針が前記空芯コイルの外側に位置するように取り付けられた固定交差コイル可動磁石形指示計器で構成されたことを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は同期検定器に関し、詳しくは、新しい駆動方式に基づく同期検定器置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同期検定器は2つの交流電源の位相差および周波数差を指示する計器であって、発電機の出力を並列接続するのにあたり、位相および周波数が一致した同期点を測定表示するモニタとして使用されている。
【0003】
このような同期検定器の代表的なものとしては、図6(A),(B)に示すような回転指針で指示する機械式と、図7に示すような円形に配置したLEDで点灯表示する電子式が広く利用されている。
【0004】
図6(A),(B)は回転磁界可動鉄片形と言われるものであり、120度の角度間隔で鉄心1に設けられたコイル2による回転磁界とそれに直角に配置されたコイル3との合成磁界により回転指針4と共通の軸5に取り付けられた可動鉄片6を励磁するように構成されている。
【0005】
図7は図示しない電子回路で位相検出および周波数検出を行い、それらの検出結果を円形に配置されたたとえば24個のLEDで表示する。なお、検出および信号処理にマイクロコンピュータを使用したものが多い。
【0006】
これらはいずれも電気位相角360度がそのまま指示角360度に対応するものであって、2つの電圧の周波数に差がある場合は位相差が周期的に変化することから、指示器はこの周波数差に従った回転動作をする。
【0007】
特許文献1は、ディジタル指示方式の同期検定器に関するものである。なお、特許文献1の図8および図9にはこの出願の従来例として図5に示したものと同様な機械式同期検定器の構成が記載され、図7にはその使用時の接続方法を示す回路図が記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開平6−160451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、図6に示す機械式の同期検定器は、必要なトルクを得るために全体の形状を比較的大きく構成しなければならず、計器の重量は重くなり、回転指針4を回転駆動するための消費電力も大きくなる。
また、構造が比較的複雑であり、製造コストも高くなっている。
さらに、三相用は界磁コイルの信号が比較的容易に得られるが、単相用は120度の移相回路が必要になる。
【0010】
一方、図7に示す電子式の同期検定器は、配列されたLEDの数により測定分解能が決まってしまう。
また、LEDの点灯による表示動作は歴史の長い機械式回転指針の動作とは違和感があり、視認性に劣る。
【0011】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、その目的は、従来の機械式の回転指針による視認性の良さを踏襲しながら、大幅な小形軽量化および低コスト化が図れる新しい機械式の同期検定器を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、
2つの交流電源の位相差および周波数差を指示する同期検定器において、
前記位相差および周波数差を指示する指示計器が、
2個の空芯コイルが直交するように配置固定され、これら空芯コイルの内部に回転可能に回転磁石が配置され、この回転磁石には回転指針が前記空芯コイルの外側に位置するように取り付けられた固定交差コイル可動磁石形指示計器で構成されたことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、
前記一方の空芯コイルには母線側の電圧と起動側の電圧の位相差に関連した駆動信号が入力され、前記他方の空芯コイルにはこの位相差信号を90度位相シフトした駆動信号が入力されることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の同期検定器において、
前記駆動信号は、アナログ電子回路で生成出力されることを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1または請求項2記載の同期検定器において、
前記駆動信号は、マイクロコンピュータで生成され、PWM(パルス幅変調)信号の形態で出力されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の同期検定器によれば、従来の機械式の回転指針と同様な視認性が得られ、大幅な小形軽量化および低コスト化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明で用いる固定交差コイル可動磁石形指示計器の説明図であり、(A)は概念構成図、(B)は接続図、(C)は磁界ベクトル図、(D)は駆動信号のフロー図である。
【0018】
(A)に示すように、空芯コイル7と8は直交するように配置固定されている。以下、これらの空芯コイル7と8を固定交差コイルという。これら固定交差コイル7と8の空間内部には、円形永久磁石9が回転磁石として回転可能に配置されている。この回転磁石9には、回転指針10が固定交差コイル7と8の外側に位置するように、固定交差コイル7と8を貫通する図示しない取付軸を介して取り付けられている。
【0019】
このような構成において、(B)に示すように一方の固定交差コイル7をLxとし他方の固定交差コイル8をLyとしてそれぞれのコイルに電流を流すことにより、磁界BxおよびByが発生する。これらの合成磁界により回転磁石9の停止位置が決定され、この回転磁石9の停止位置は回転指針10により図示しない目盛板上に指示される。
【0020】
磁界BxおよびByによる合成磁界Bのベクトルは(C)に示すようになり、これらの関係を式であらわすと以下のようになる。
|B|=SQRT(|Bx|・|Bx|+|By|・|By|)
Θ=argB=atan(|By|/|Bx|)=atan(|Iy|/|Ix|) (1)
ここで、SQRTは平方根をあらわし、argは角度をあらわし、atanはアークタンジェントをあらわす。この(1)式から明らかなように、回転磁石9に固定された回転指針10の振れ角は、合成磁界のΘのみによって決まる。すなわち、磁界の強さ|B|には直接関与しない「比率計」といえる。
【0021】
したがって、(D)に示すように入力Aを角度φに変換し、変換された角度φのcos、sinに比例した電流で交差コイルLx、Lyを駆動することにより、(2)式に示すように入力Aに比例した振れ角が得られる。
Θ=atan(k・sinφ/k・cosφ)=atan(tanφ)=φ=α・A (2)
【0022】
このように構成することにより、コイル定数や磁石材料などで変わるものの、従来の回転磁界可動鉄片形計器よりも1桁以上大きな回転トルクが得られる。
【0023】
また、正弦、余弦信号に変換した駆動回路とそのための電源が必要になるものの、その消費電力は従来の回転磁界可動鉄片形計器における測定時の消費電力の1/2以下に小さくできる。
【0024】
なお、駆動信号がない状態における回転指針10の指示位置は不定になるが、可動指針部の重量バランスを調整することにより、下方向を指示させて非同期状態にあることを表示させることができる。
【0025】
図2は図1に示す固定交差コイル可動磁石形指示計器を用いた同期検定器の具体的な回路例図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けている。図2において、出力電圧V1の母線側の電源11の一方の端子は固定交差コイル7と8の接続点COMに接続され、他方の端子は波形整形器12および90度移相器16に接続されている。
【0026】
波形整形器12の出力端子は位相検出器13の一方の入力端子に接続され、位相検出器13の出力端子は正弦波変換器14に接続されている。正弦波変換器14の出力端子は駆動アンプ15を介して固定交差コイル8の一端に接続されている。
【0027】
90度移相器16の出力端子は波形整形器12を介して位相検出器18の一方の入力端子に接続され、位相検出器18の出力端子は正弦波変換器19に接続されている。正弦波変換器19の出力端子は駆動アンプ20を介して固定交差コイル7の一端に接続されている。
【0028】
起動側の電源(発電機)21の出力電圧V2は、絶縁トランス22を介して波形整形器23に接続され、波形整形器23の出力端子は位相検出器13の他方の入力端子および位相検出器18の他方の入力端子に接続されている。
なお、母線側の電源11には、内部回路用電源24が並列接続されている。
【0029】
図2に示すように、母線側の電源11の出力電圧V1と起動側の電源12の出力電圧V12の位相差を検出して、それに対応した正弦波信号および余弦波信号を生成する変換回路を設けることにより、同期検定器としての動作を実現できる。固定交差コイル可動磁石形指示計器は、前述のように360°の回転指示が可能であるため、現在の機械式同期検定器と違和感のない指示動作が得られる。
【0030】
各部の動作について、図3の波形図を参照して説明する。
波形整形器12、17、23は、正弦波信号のゼロクロス点を検出して、方形波に整形する。90度移相器16は、母線側の電源11の出力電圧V1の位相を90度シフトさせる。絶縁トランス22は、母線側の電源11と起動側の発電機12とを電気的に絶縁するために設けている。
【0031】
位相検出器13の位相検出信号は±90°で折り返し、位相検出器18は位相検出器13の位相検出信号を90°シフトさせたのに相当する位相検出信号を出力する。なお、これら位相検出信号は入力の位相差に比例するため、三角波となる。そこで、均一回転を得るために、正弦波変換器14、19を用いて正弦波への変換を行う。具体的には、たとえば折線回路により、近似正弦波に変換する。このように変換されたsin信号およびcos信号で固定交差コイル7と8を駆動励磁する。
【0032】
これにより、従来の機械式の回転指針による視認性の良さを踏襲しながら、大幅な小形軽量化および低コスト化が図れる新しい機械式の同期検定器を実現できる。
【0033】
なお、コージェネや船舶では、同一配電線で送受電が切り換わる場合がある。このような電力監視には、4象限で動作する力率計が要求される。本発明の同期検定器の入力トランス部分を電流トランスに変更して図4(A)のように接続することにより、図4(B)のような4象限力率計を容易に製作することができる。
【0034】
また、図2の実施例では、検出・駆動回路をアナログ電子回路で構成した例について説明したが、図5(A)に示すようにワンチップマイクロコンピュータ(以下MPUという)25を使用して実現することもできる。なお、図5(A)において、図2と共通する部分には同一の符号を付けている。
【0035】
MPU25は、図5(B)に示すような波形整形器17を介して入力される母線側の電源11の出力電圧V1に対応した方形波信号および波形整形器23を介して入力される起動側の電源(発電機)12の出力電圧V2に対応した方形波信号に基づき、位相検出、周波数検出などの処理を行い、
Vx=k・cos(360・t/T1)
Vy=k・sin(360・t/T1) (3)
で表される固定交差コイル7および8の駆動信号を生成出力する。これら駆動信号の生成は、(3)式に従った演算でもよいし、あらかじめ作成したテーブルを参照するようにしてもよく、時間の比率が正しく検出できれば絶対的な時間精度は不要である。
【0036】
そして、MPU25がA/D変換器を内蔵している場合には、波形整形器17、23の機能も含めて内部で処理できる。この場合には、(3)式で表される固定交差コイル7および8の駆動信号VxおよびVyを、PWM(パルス幅変調)信号の形態で出力することができる。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、従来の機械式の回転指針による視認性の良さを踏襲しながら、大幅な小形軽量化および低コスト化が図れる新しい機械式の同期検定器を実現することができ、各種の受配電をはじめ、コージェネや船舶における4象限力率計としても簡単に転用できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明で用いる固定交差コイル可動磁石形指示計器の説明図である。
【図2】本発明の一実施例を示す回路例図である。
【図3】図3の動作を説明する波形図である。
【図4】4象限力率計の説明図である。
【図5】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図6】従来の機械式同期検定器の一例を示す構成図である。
【図7】従来の電子式同期検定器の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0039】
7、8 固定交差コイル
9 回転磁石
10 回転指針
11 母線側電源
12、17、23 波形整形器
13、18 位相検出器
14、19 正弦波変換器
15、20 駆動アンプ
16 90度移相器
21 起動側電源(発電機)
22 絶縁トランス
24 内部回路用電源
25 MPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの交流電源の位相差および周波数差を指示する同期検定器において、
前記位相差および周波数差を指示する指示計器が、
2個の空芯コイルが直交するように配置固定され、これら空芯コイルの内部に回転可能に回転磁石が配置され、この回転磁石には回転指針が前記空芯コイルの外側に位置するように取り付けられた固定交差コイル可動磁石形指示計器で構成されたことを特徴とする同期検定器。
【請求項2】
前記一方の空芯コイルには母線側の電圧と起動側の電圧の位相差に関連した駆動信号が入力され、前記他方の空芯コイルにはこの位相差信号を90度位相シフトした駆動信号が入力されることを特徴とする請求項1記載の同期検定器。
【請求項3】
前記駆動信号は、アナログ電子回路で生成出力されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の同期検定器。
【請求項4】
前記駆動信号は、マイクロコンピュータで生成され、PWM(パルス幅変調)信号の形態で出力されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の同期検定器。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−300089(P2009−300089A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−151454(P2008−151454)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(596157780)横河メータ&インスツルメンツ株式会社 (43)
【Fターム(参考)】