説明

吸液芯

【課題】アルコールと水などの様々な液体の吸液量をそれぞれ所定の範囲にコントロールすることができる吸液芯を提供すること。
【解決手段】一方面とそれに対向する他方面とを有し、多孔質セラミックスからなる吸液部と、該吸液部を一方面から他方面へかけて区画する緻密質材料からなる隔壁部とを有し、該隔壁部によって区画された部分吸液部の少なくとも一つと他の部分吸液部との平均気孔率が異なること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を吸液するための吸液芯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池における液体燃料や水、あるいは、芳香剤、殺虫剤などの薬物蒸散器における2液反応性の液体など、表面張力や比重が互いに異なる複数の液体を吸液するための吸液芯として、連通気孔をその内部に有する多孔質体が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1の燃料電池には、液体燃料としてのメタノールと水との混合液を、メタノール電池の燃料極に供給するためのNi多孔質体が記載されている。この燃料電池において混合液は、多孔質体の内部にある連通気孔の中を毛細管現象によって移動する。
【特許文献1】特開平6−188008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献1に記載された燃料電池のNi多孔質体では、予めアルコールと水を反応させて水素ガスを取り出す(以下、改質という)が、このときにアルコールと水の濃度バランスがあわないとアルコールの一部が不完全な反応をおこして炭素を発生し、それが残渣となり多孔質体の内部を詰まらせる場合があった。
【0005】
このような、燃料電池におけるアルコールと水の場合に限らず、芳香剤、殺虫剤に使用される一部の薬物蒸散器などでは、2液反応性の液体を吸液して反応させる場合、蒸散前に経路内部で反応してしまうと残渣が溜まるなどの不都合があり、混合液をひとつの経路でしか通過させることができない吸液芯では用途に限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一方面とそれに対向する他方面とを有し、多孔質セラミックスからなる吸液部と、該吸液部を一方面から他方面へかけて区画する緻密質材料からなる隔壁部とを有し、該隔壁部によって区画された部分吸液部の少なくとも一つと他の部分吸液部との平均気孔率が異なることを特徴とする。
【0007】
さらに、前記部分吸液部の平均気孔率が20〜60%であることを特徴とする。
【0008】
さらに、前記隔壁部の一方面または他方面に平行な断面形状が、放射状または同心円状であることを特徴とする。
【0009】
さらに、前記吸液部の熱伝導率が3W/(m・K)以上であることを特徴とする。
【0010】
さらに、前記多孔質セラミックスが炭化珪素を主成分とすることを特徴とする。
【0011】
さらに、前記隔壁部が金属を主成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、表面張力や比重が異なる複数種類の液体について、吸液量をそれぞれ所定の範囲にコントロールして個別に吸液できる吸液芯とすることができる。ここで液体とは水溶液、有機溶媒、液体燃料、電解液、液化ガスなど様々なものに応用でき、2液反応性の液体同士を吸液して反応させることなども含まれる。
【0013】
例えば燃料電池では、アルコールと水の吸液量をそれぞれ所定の範囲にコントロールして個別に必要な分だけを吸液できるので、未反応の液体が残渣となって気孔率が減少するおそれを無くすことができる。
【0014】
また、吸液芯の熱伝導性が高まり吸液芯全体をより均一に加熱することができるので、改質に伴う吸液部の平均気孔率の低下を特に防止することができる。
【0015】
また、隔壁部の耐熱衝撃性を高めることができるので吸液芯を加熱、冷却にしても隔壁部が割れることを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の吸液芯の実施形態について説明する。
【0017】
図1(a)は本発明の吸液芯を示す斜視図、(b)は(a)のA−A’線における断面図である。図2(a)は本発明の吸液芯を示す斜視図、(b)は(a)のB−B’線における断面図である。図3(a)は本発明の吸液芯を示す斜視図、(b)は(a)のC−C’線における断面図である。図4(a)は本発明の吸液芯を示す斜視図、(b)は(a)のD−D’線における断面図である。
【0018】
本発明の吸液芯1は、多孔質セラミックスからなる第1、第2の部分吸液部2a,2b(第1、第2の部分吸液部2a,2bをあわせて吸液部2とする。)を有する吸液芯において、吸液部2は緻密質の隔壁部3により区画されており、吸液部2の区画された各部分吸液部の平均気孔率が異なる吸液芯2とすることによって、例えばアルコールからなる液体(不図示)の燃料と水(不図示)の吸液量をそれぞれ所定の範囲にコントロールし、各部分吸液部2a,2bからそれぞれ同時に吸液できる吸液芯1とすることができる。
【0019】
アルコールは第2の部分吸液部2bの一方面5a側から吸液され、第2の部分吸液部2b内にある連通気孔を通って他方面5b側へ移動できる構造となっている。水は第1の部分吸液部2aの一方面6a側から吸液され、第1の部分吸液部2a内にある連通気孔を通って他方面6b側へ移動できる構造となっている。また、図1−4には図示していないが、第1の部分吸液部2aの側面7には、水が蒸散しないように緻密な壁が設けられている。
【0020】
他端5b,6bに移動したアルコールと水は、加熱されて気化し、改質される。例えばアルコールとしてメタノールを用いた場合、改質反応は、CHOH+HO→3H+COで表される。メタノールと水を同じモル数で吸液、気化させれば、触媒を用いて水素ガスと二酸化炭素を生成させることが可能である。ここで、メタノールが過剰であると、反応していないメタノールから発生する炭素の残渣が多孔質内に付着して気孔率を低下させてしまう。よって、極力メタノールと水が同じモル比になるよう、第1、第2の部分吸液部2a,2bから吸液し、気化させることができるように、それぞれの平均気孔率を設定する。
【0021】
ここで、隔壁3の長手方向に垂直な方向の第1、第2の部分吸液部2a,2bの断面積によっても、吸液量が変化するため、第1、第2の部分吸液部2a,2bのそれぞれの平均気孔率、および第1、第2の部分吸液部2a,2bの断面積を所定の範囲とすることで、アルコールと水のそれぞれの吸液量を同じモル数またはこれに近くすることができる。
【0022】
またここで、緻密質とは連通気孔がなく、毛細管現象が発生しない程度の状態をいう。
【0023】
吸液芯1においては、第1、第2の部分吸液部2a,2bの平均気孔率が異なることが重要である。この理由は、第1、第2の部分吸液部2a,2bの断面積(隔壁に垂直な方向の断面積)を所定の値にするだけでは、一方面5a,6aから吸液され、他方面5b,6b側で気化させるアルコールと水の時間当たりの移動量をコントロールすることが困難だからである。困難である理由は、アルコールと水において、それぞれ、沸点が異なること、毛細管力が異なること、熱伝導性が異なることに起因すると考えられる。
【0024】
さらに、吸液部2の平均気孔率は20〜60%である吸液芯1であることが好ましい。これによって、吸液部2に十分な量の連通気孔を形成させると共に毛細管力を利用して液体を十分に吸液することができるので、アルコールからなる液体の燃料と水の吸液量をそれぞれ所定の範囲にコントロールすることがさらに容易な吸液芯とすることができる。ここでいう平均気孔率の単位は体積%を意味する。平均気孔率が20%より多ければ、第1、第2の部分吸液部2a,2bに十分な量の連通気孔を形成させることができ、アルコールと水を吸液することが容易となる。平均気孔率が60%未満であれば、毛細管力が強くなってアルコールと水を吸液することが容易となる。特に、十分な量の連通気孔を有し、毛細管力を高めて液体を吸液するためには、第1、第2の部分吸液部2a,2bの平均気孔率は30〜50%の範囲であることが好ましい。
【0025】
吸液芯1の構造は、図1〜4に示す構造に限定されるものではないが、前記隔壁部3の一方面または他方面に平行な断面形状が、図1に示すように同心円状、または図3に示すように放射状であることが好ましい。これによって、吸液芯1の一方面5a,6aから例えばアルコールと水を吸液し他方面5b,6bからアルコールと水を気化させて、気化したアルコールを改質する目的で吸液芯1を加熱する際に、隔壁3で区画されたそれぞれの部分吸液部2a,2bが均一に加熱されるので、アルコールと水をほぼ完全に気化することができる。このため改質の際にアルコールが炭素成分となりにくく、吸液部2の連通気孔が閉塞されにくいので、部分吸液部2a,2bの気孔率が低下するおそれを無くすことができる。
【0026】
ここで隔壁部3を設けるのは吸液部2が不均一な温度分布のときに、気化が面方向で安定しなくなるため、隔壁部3で隔離することにより、他の部分吸液部2a,2bへの熱力学的影響を防止している。
【0027】
上記吸液部の熱伝導率が3W/(m・K)以上である吸液芯とすることによって、吸液芯の熱伝導性が高まり吸液芯全体をより均一に加熱することができるので、改質に伴う吸液部の平均気孔率の低下を特に防止することができる。
【0028】
吸液部2は、アルミナ、ムライト、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素のいずれかを主成分とする多孔質セラミックスからなることが好ましい。特に吸液部2は炭化珪素を主成分とする吸液芯1とすることが好ましい。吸液部2を炭化珪素を主成分とすることによって、燃料を改質した際に炭素の残渣が付着しにくい吸液芯1とすることができるので、改質に伴い平均気孔率が変化しにくい吸液芯1とすることができる。
【0029】
隔壁部3が金属にて形成された吸液芯1とすることによって、隔壁部3の耐熱衝撃性を高めることができるので、吸液芯1を加熱、冷却にしても隔壁部3が割れることを低減できる。
【0030】
上記の実施形態では、第2の部分吸液部2bから例えばアルコールを、第1の部分吸液部2aから水を吸液する場合を例にして説明したが、吸液芯1は、第1の部分吸液部2bから水を、第2の部分吸液部2aからアルコールを吸液するものであっても良い。側面7側から吸液芯1を加熱する場合は、図1,2においては、第2の部分吸液部2bから例えばアルコールを、第1の部分吸液部2aから水を吸液した方が温度分布が好ましい。
【0031】
第1、第2の部分吸液部2a,2bの平均気孔率は、例えば、ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法(JIS R1634)に準拠して求めることができる。
【0032】
第1、第2の部分吸液部2a,2bの熱伝導率は、ファインセラミックスのレーザフラッシュ法による熱拡散率・比熱容量・熱伝導率試験方法(JIS R1611)に準拠して求めることができる。
【0033】
多孔質セラミックスからなる第1、第2の部分吸液部2a,2bの主成分は、例えば、各部分吸液部2a,2bの結晶相をX線回折法により測定し、回折ピーク強度が最も大きな結晶相を主成分と判定することができる。また、ICP発光分光分析法による定量分析の結果も主成分を判定するために参酌することができる。
【0034】
次に、本発明の吸液芯1の製造方法について例説する。
【0035】
吸液芯1を構成する第1、第2の部分吸液部2a,2bは、例えば、アルミナ、ムライト、シリカ、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素のうちいずれかを主成分とする多孔質セラミックスからなる。
【0036】
第1、第2の部分吸液部2a,2bがアルミナを主成分とする場合の吸液芯1の製造方法について、図2(a),(b)の形状の吸液芯1を例にして説明する。
【0037】
粒径50〜200μmの範囲内のアルミナ粒子からなるアルミナ粉末と、粒径10μm以下のアルミナ粒子からなるアルミナ粉末を準備する。50−200μmの範囲内のアルミナ粉末に有機バインダーを混ぜて造粒し、流動性の良い造粒粉Aを作製する。粒径10μm以下のアルミナ粉末に有機バインダーを混ぜて造粒し、流動性の良い造粒粉Aを作製する。金型を用いた粉末プレス成形法により、造粒粉Aを四角枠状、造粒粉Aを四角板状の形状にそれぞれ成形する。四角枠状、四角板状の成形体をそれぞれ焼成して四角枠状、四角板状の多孔質セラミックスを作製する。ここで、四角枠状、四角板状の成形体の焼成温度は、得られる2種の多孔質セラミックスの平均気孔率が20〜60%となるように設定する。そのため、焼成温度は1300−1600℃とすることが好ましい。
【0038】
得られた四角枠状の多孔質セラミックスの外周面、四角板状の多孔質セラミックスの外周面を研磨し、図2(a),(b)に示す形状の第1、第2の部分吸液部2a,2bを作製する。第1、第2の部分吸液部2a,2bの間に次のようにして隔壁部3を形成する。
【0039】
隔壁部3が金属の場合は、金属製の枠の内側に第2の部分吸液部2bの外周側(第1の部分吸液部2a側)を圧入し、さらに金属製の枠の外側に第1の部分吸液部2aを圧入する。隔壁部3がガラスの場合は、第2の部分吸液部2bの外周側(第1の部分吸液部2a側)全面と第1の部分吸液部2aの内周側全面にガラスペーストを塗布し、第1、第2の部分吸液部2a,2bを隙間無く嵌合した後、熱処理してガラスペーストを溶融、固化させる。隔壁部3が樹脂の場合は、第2の部分吸液部2bの外周側(第1の部分吸液部2a側)全面と第1の部分吸液部2aの内周側全面に接着剤からなる樹脂を塗布し、第1、第2の部分吸液部2a,2bを隙間無く嵌合した後、樹脂を固化させ吸液芯を作製する。
【0040】
第1、第2の部分吸液部2a,2bの主成分がアルミナ以外の場合は、次のように吸液部2を作製した後、同様に隔壁部3を形成できる。例えば第1、第2の部分吸液部2a,2bが炭化珪素の場合は、平均粒径10〜200μmの粗粒の炭化珪素粉末と平均粒径20μmの微粒の炭化珪素粉末を準備し、粗粒の炭化珪素粉末を用いて四角枠状の第1の部分吸液部2a、微粒の炭化珪素粉末を用いて四角板状の第2の部分吸液部2bを作製する。焼成温度は1300〜2000℃とすることが好ましい。
【0041】
第1、第2の部分吸液部2a,2bの主成分がジルコニアの場合は、平均粒径10〜200μmの粗粒のイットリア固溶ジルコニア粉末と平均粒径20μmの微粒のイットリア固溶ジルコニア粉末を準備し、粗粒の粉末を用いて四角枠状の第1の部分吸液部2a、微粒の粉末を用いて四角板状の第2の部分吸液部2bを作製する。焼成温度は1200〜1700℃とすることが好ましい。
【0042】
第1、第2の部分吸液部2a,2bの主成分がアルミナ、炭化珪素、ジルコニア以外の場合も、同様にして、粗粒と微粒を用いて、第1、第2の部分吸液部2a,2bの気孔率を異ならせることができる。また、適宜焼結助剤を添加して多孔質セラミックスを作製しても良い。
【0043】
第1、第2の部分吸液部2a,2bの主成分は互いに異なるものであっても良い。
【0044】
第1、第2の部分吸液部2a,2bを構成する多孔質セラミックスの平均気孔率は、焼成温度を変更することで変化させることができる。
【0045】
なお本発明によれば、このような燃料電池に限らず、表面張力が異なる複数種類の液体について、吸液量をそれぞれ所定の範囲にコントロールして個別に吸液できる吸液芯に適用することが可能であり、芳香剤、殺虫剤などの薬物蒸散器などにも適用可能なものである。ここで液体とは水溶液や有機溶媒、液体燃料、電解液、液化ガスなど様々なものに応用でき、例えば2液反応性の液体同士を吸液して反応させることなども含まれる。
【実施例】
【0046】
次の吸液芯を作製した。
【0047】
(吸液芯の大きさ)
図1の吸液芯:多孔質セラミックスからなる第1の部分吸液部2a(外径20mm、内径10mm、長さ30mm)、多孔質セラミックスからなる第2の部分吸液部2b(外径10mm、長さ30mm)。
【0048】
図2の吸液芯:多孔質セラミックスからなる第1の部分吸液部2a(外辺15×15mm、内辺7×7mm、厚み2mmの四角枠状体)、多孔質セラミックスからなる第2の部分吸液部2b(外辺5×5mmの四角板状体)。
【0049】
図3の吸液芯:外辺20×20mmで、4つに区画されている多孔質体セラミックスからなる第1、第2の部分吸液部2a,2bの大きさは全て9mm×9mm×厚み5mm。
【0050】
(隔壁部)
上述したようにして吸液芯2に隔壁部3を形成させた。なお、隔壁部3が金属の場合は、材質がステンレスの金属を圧入し、多孔質セラミックス2a,2bの金属との寸法の取り合いは、それぞれH7公差(JIS B0401)とした。隔壁部3がガラスの場合は、組成が硼珪酸ガラスペーストを用い800℃で熱処理した。隔壁部3が樹脂の場合は、エポキシ樹脂を用いた。
【0051】
(第1、第2の部分吸液部2a,2b)
アルミナ、炭化珪素(SiC)、ジルコニアのいずれかを主成分とする多孔質セラミックスを上述した方法で作製した。
【0052】
多孔質セラミックスの平均気孔率、熱伝導率は上述した方法を用い、試料から多孔質セラミックスを切り出して測定した。
【0053】
側面7と金属製の円筒の内側とは耐熱性の樹脂を介して封止した。
【0054】
次に得られた吸液芯2の第2の部分吸液部2bの一方面5a(下側)にメタノール、第1の部分吸液部2aの一方面6a(下側)に純水を浸漬し、他方面5b(上側)と他方面6b(上側)側にメタノールと純水を吸液し、他方面5b,6b側が約110℃になるようにしてメタノールと水を連続的に気化させて、6時間改質する実験を行った。その際、側面7側の上部を加熱した。改質により発生したガスの成分をガスクロマトグラフィーで分析した。
【0055】
改質実験後、第2の部分吸液部2bの平均気孔率を測定した。また、第2の部分吸液部2bの炭素の残渣の量をオージェ電子分光分析装置を用いて測定した。
【0056】
また、第1、第2の部分吸液部2a,2bより吸液された水、メタノールの全量を測定し、(メタノール/水)のモル比に換算し、これを吸液モル比とした。
【0057】
その結果、本発明の試料を用いて改質したガスの成分は、大部分が水素ガスと二酸化炭素からなり、0.2〜0.3%程度の一酸化炭素を含んでいた。この結果、吸液芯2を用いて吸液、気化した後、十分に改質できることがわかった。
【0058】
その結果を表1に示す。
【表1】

【0059】
表1からわかるように、本発明の試料No.1〜15は、改質前後の平均気孔率が10%以下と小さかった。特に、部分吸液部2bが炭化珪素(SiC)を主成分とする試料No.1〜11,14,15は、改質前後での平均気孔率の変化が5%以内と小さかった。部分吸液部2bがアルミナ、ジルコニアからなる試料No.12,13は、改質前後での平均気孔率の変化がそれぞれ7%、10%以内となり、部分吸液部2bが炭化珪素からなる試料に比べて大きかった。
【0060】
本発明の試料は改質後の炭素の残渣が0.07質量%以下と少なく、これらのうち部分吸液部2bが炭化珪素を主成分とする試料No.1〜11,14,15の炭素の残渣量は0.02質量%以下と特に少なかった。吸液部2がアルミナ、ジルコニアからなる試料No.12,13は、炭素の残渣がそれぞれ0.06質量%、0.07質量%となり、部分吸液部2bが炭化珪素からなる試料に比べて多かった。
【0061】
吸液モル比は、試料No.1、3,4,7,8,10,11,14,15が1、試料No.2,9,12,13が1.1,試料No.5,6が0.9であった。吸液モル比が1.1の試料の炭素の残渣が0.02〜0.07質量%となったのは、メタノールが過剰の状態で改質されたため、残渣として残る炭素が増加したと考えられる。また、吸液モル比が0.9の試料No.5,6の炭素の残渣が0.01質量%となったのは、改質の際に水が過剰であったために、水の気化熱によって、部分吸液部2bの他方面5b側の改質温度が局部的に低下したため、しだいに水が気化し難くなり供給不足となるためと推測される。
【0062】
また、表1に示す試料No.1,14,15の吸液芯2を160℃に加熱した状態で、25℃の純水に投入し、急冷試験を行った。その結果、隔壁部3が金属からなる試料No.1は吸液部に問題となるクラックは確認されなかったが、隔壁部3がガラスからなる試料No.14、エポキシ樹脂からなる試料No.15は隔壁部3に微細なクラックが発生した。
【0063】
しかしながら、加熱の温度を160℃から110℃に変更して同様の急冷試験を行った結果、試料No.1,14,15のいずれにも問題となるクラックは確認されなかった。
【0064】
次に比較例として、本発明の範囲外の試料を、次に示す以外は実施例と同様にして作製し、実施例と同様に評価した。
【0065】
試料No.16は、試料No.1において全体を隔壁部3のないアルミナからなる多孔質セラミックスを形成させた試料である。試料No.17は、試料No.1の隔壁部3の代わりに平均気孔率20%の多孔質アルミナを用いた試料である。試料No.18は外径20mm、長さ30mmの多孔質アルミナからなる試料である。試料No.19は図5の構造の吸液芯で、多孔質セラミックスからなる吸液部2(部分吸液部12a,12bをあわせたもの)の平均気孔率を共に40%とした吸液芯11である。図5(a)は斜視図、(b)は(a)のE−E’線における断面図である。吸液部12a,12bは隔壁部13で区画されている。
【0066】
比較例の結果を表2に示す。
【表2】

【0067】
表2で内側は吸液芯の内側、外側は吸液芯の外側の吸液部を意味する。表2から明らかなようにいずれの試料も改質後に平均気孔率が大きく低下していた。また、炭素量も0.5〜1質量%と多かった。吸液モル比も1.3〜3と大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る吸液芯の一実施形態を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図をそれぞれ示すものである。
【図2】本発明に係る吸液芯の一実施形態を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図をそれぞれ示すものである。
【図3】本発明に係る吸液芯の一実施形態を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図をそれぞれ示すものである。
【図4】本発明に係る吸液芯の一実施形態を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図をそれぞれ示すものである。
【図5】(a)は比較例としての吸液芯の斜視図、(b)は(a)の断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1,11:吸液芯
2:吸液部
2a,2b,12a,12b:部分吸液部
3,13:隔壁部
5a,6a:一方面
5b、6b:他方面
7:側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方面とそれに対向する他方面とを有し、多孔質セラミックスからなる吸液部と、
該吸液部を一方面から他方面へかけて区画する緻密質材料からなる隔壁部とを有し、
該隔壁部によって区画された部分吸液部の少なくとも一つと他の部分吸液部との平均気孔率が異なる
ことを特徴とする吸液芯。
【請求項2】
前記部分吸液部の平均気孔率が20〜60%である
ことを特徴とする請求項1に記載の吸液芯。
【請求項3】
前記隔壁部の一方面または他方面に平行な断面形状が、放射状または同心円状である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吸液芯。
【請求項4】
前記吸液部の熱伝導率が3W/(m・K)以上である
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の吸液芯。
【請求項5】
前記多孔質セラミックスが炭化珪素を主成分とする
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の吸液芯。
【請求項6】
前記隔壁部が金属を主成分とする
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載の吸液芯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−239445(P2008−239445A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85656(P2007−85656)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】