説明

周波数安定度測定装置

【課題】 周波数変換部や高速な位相復調部を用いることなく、簡単な構成で精度の高い測定ができるようにする。
【解決手段】 標本化部21は、第1のメモリ24と第2のメモリ26に対する基準信号Srと被測定信号Sxのサンプル値の記憶処理を、クロック信号Csの周期の複数M倍より長い所定周期でM個ずつ間欠的に行う。演算部20は、第1のメモリ24と第2のメモリ26へのM個ずつのサンプル値の記憶が完了した時点から次のM個ずつのサンプル値の記憶が開始されるまでの間に、記憶が完了した最新のM個ずつのサンプル値に基づいて、基準信号Srに対する被測定信号Sxの周波数安定度の評価演算に必要な評価サンプル値を算出し、その評価サンプル値から長期または短期の周波数安定度の評価演算を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号の周波数安定度を測定する装置において、簡単な構成で精度の高い測定を行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数標準として使用されるセシウムやルビジュウムの原子発振器、水晶発振器等から出力される信号、またはこれらの信号に基づいて生成された信号の安定度を測定する装置では、一般的に被測定信号より周波数安定度が高い信号(例えば水素メーザ発振器の出力等)を基準信号とし、この基準信号に対する被測定信号の位相変動を検出し、これを統計演算処理して、周波数安定度を算出している。なお、周波数標準の場合、5MHz、10MHz、100MHzの周波数の信号が用いられる場合が多い。
【0003】
このような比較的安定度の高い信号の周波数安定度を測定する装置として、従来では図図6に示す構成の周波数安定度測定装置10が用いられていた。
【0004】
この周波数安定度測定装置10は、例えば10MHz帯の正弦波の基準信号Srと被測定信号Sxとを周波数変換部11のミキサ11a、11bにそれぞれ入力する。ミキサ11a、11bには、ローカル発振器11cからのローカル信号Lが入力されており、一方のミキサ11aからはローカル信号Lと基準信号Srとの混合成分が出力され、その混合成分から低周波帯(例えば10kHz帯)に変換された基準信号Sr′がLPF11dにより抽出される。また、他方のミキサ11bからは、ローカル信号Lと被測定信号Sxとの混合成分が出力され、その混合成分から低周波帯(例えば10kHz帯)に変換された被測定信号Sx′がLPF11eにより抽出される。
【0005】
そして、この低周波帯に変換された基準信号Sr′と被測定信号Sx′をそれぞれ第1のA/D変換器12、第2のA/D変換器13に入力し、共通のクロック信号Csでサンプリングし、これをデジタルのサンプル値R(k)、X(k)に変換して、位相復調部15に入力する。
【0006】
位相復調部15は、サンプル値列R(k)、X(k)に基づいて、基準信号に対する被測定信号の位相変動量φ(k)を求め、評価演算部16に出力する。
【0007】
評価演算部16は、位相復調部15から出力される位相変動量φ(k)に対して、所定の統計演算、即ち、アラン標準偏差、修正アラン標準偏差、MTIE、TDEV等を求め、これを図示しない表示器等に出力する。
【0008】
このように基準信号Srと被測定信号Sxを周波数変換してからサンプリングを行う構成の周波数安定度測定装置は、例えば次の特許文献1に記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2003−163708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記のように基準信号Srと被測定信号Sxを低い周波数帯に変換してからサンプリングを行い、位相復調する構成では、入力信号の周波数帯に応じて、周波数変換部11のローカル発振器11cの出力周波数も可変できるようにしなければならず、装置が大型化し、コスト高になる。
【0011】
また、周波数変換部11を構成するミキサ11a、11bの温度特性、非線形特性、内部雑音のバラツキにより測定精度が低下する。
【0012】
これを解決するために、近年高速化されているA/D変換器を用い、周波数変換部を省略して、基準信号Srと被測定信号Sxを直接サンプリングすることが考えられる。
【0013】
ところが、このように高速なA/D変換器を用いた場合、位相復調部15としても高速動作が必要となり、位相復調部15を構成する素子としてコストの高い素子が必要となってしまう。
【0014】
また、リアルタイムに演算を行わずに、A/D変換によって得られた全てのサンプル値をメモリに記憶してから、位相復調を行うことも考えられるが、周波数安定度の測定は数10時間から数日におよぶため、膨大なメモリ容量が必要となり、非現実的である。
【0015】
一方、周波数が高い入力信号に対し、その入力信号の周期の整数倍(例えば1000倍)より僅か(例えば0.1ps)に長い周期でサンプリングを行い、その波形の情報を高い時間分解能で得る方法もある。このサンプリング方法は、アンダーサンプリング(または等価時間サンプリング)と呼ばれ、この方式のサンプリングを行うことで、入力信号の時間軸を拡大した信号(つまり低速化した信号)が得られる。
【0016】
しかし、上記のように低速化された信号の位相変動を検出する方法では、時間軸を拡大した分だけ1Hz帯域当たりの量子化雑音電力が大きくなり、測定精度が低下してしまう。
【0017】
本発明は、この問題を解決して、周波数変換部や高速な位相復調部を用いることなく、簡単な構成で精度の高い測定ができる周波数安定度測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の周波数安定度測定装置は、
周波数安定度測定の基準となる基準信号と被測定信号とを共通のクロック信号に基づいてサンプリングし、該サンプリングで得られたデジタルのサンプル値をそれぞれ第1のメモリ(24)と第2のメモリ(26)に記憶する標本化部(21)と、
前記第1のメモリと前記第2のメモリに記憶されたサンプル値に基づいて、前記基準信号に対する被測定信号の周波数安定度を評価するための演算を行う演算部(30)とを備えた周波数安定度測定装置であって、
前記標本化部は、前記第1のメモリと前記第2のメモリに対するサンプル値の記憶処理を、前記クロック信号の周期の複数M倍より長い所定周期で前記複数M個ずつ間欠的に行い、
前記演算部は、前記第1のメモリと前記第2のメモリへの前記複数M個ずつのサンプル値の記憶が完了した時点から次の前記複数M個ずつのサンプル値の記憶が開始されるまでの間に、記憶が完了した最新の複数M個ずつのサンプル値に基づいて、前記被測定信号の周波数安定度の評価演算に必要な評価サンプル値を算出することを特徴としている。
【0019】
また、本発明の請求項2の周波数安定度測定装置は、請求項1の周波数安定度測定装置において、
前記演算部は、
前記第1のメモリおよび前記第2のメモリに前記サンプル値が複数M個ずつ記憶される毎に、該複数M個ずつのサンプル値に基づいて前記基準信号に対する被測定信号の位相差を複数M個算出するとともに、該複数M個の位相差について位相不連続部がある場合には、これを修正して位相連続性を確保する位相復調部(32)と、
前記位相復調部によって算出された複数M個の位相差の平均値を算出する平均位相差算出手段(39)と、
前記平均位相差算出手段から順次出力される平均位相差について、位相不連続部がある場合には、これを修正して位相連続性を確保する位相連続化手段(40)と、
前記位相連続化手段から出力される平均位相差を前記評価サンプル値として前記被測定信号の長期の周波数安定度の評価演算を行う周波数安定度評価演算部(41)とを備えていることを特徴としている。
【0020】
また、本発明の請求項3の周波数安定度測定装置は、請求項1の周波数安定度測定装置において、
前記演算部は、
前記第1のメモリおよび前記第2のメモリに前記サンプル値が複数M個ずつ記憶される毎に、該複数M個ずつのサンプル値に基づいて前記基準信号に対する被測定信号の位相差を複数M個算出するとともに、該複数M個の位相差について位相不連続部がある場合には、これを修正して位相連続性を確保する位相復調部(32)と、
前記位相復調部によって算出された複数M個の位相差に基づいて、前記基準信号に対する被測定信号の周波数偏差を算出する周波数偏差算出手段(51)と、
前記周波数偏差算出手段から出力される周波数偏差を前記評価サンプル値として前記被測定信号の長期の周波数安定度の評価演算を行う周波数安定度評価演算部(41)とを備えていることを特徴としている。
【0021】
また、本発明の請求項4の周波数安定度測定装置は、請求項1の周波数安定度測定装置において、
前記演算部は、
前記第1のメモリおよび前記第2のメモリに前記サンプル値が複数M個ずつ記憶される毎に、該複数M個ずつのサンプル値に基づいて前記基準信号に対する被測定信号の位相差を複数M個算出するとともに、該複数M個の位相差について位相不連続部がある場合には、これを修正して位相連続性を確保する位相復調部(32)と、
前記位相復調部によって算出された連続した複数M個の位相差毎に、フーリエ変換を行って、前記基準信号に対する被測定信号の位相変調成分のスペクトラムを算出するフーリエ変換手段(52)と、
前記フーリエ変換手段によって得られたスペクトラムに基づいて、前記基準信号に対する被測定信号の位相雑音特性を求める位相雑音評価演算部(53)とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明の周波数安定度測定装置では、基準信号および被測定信号に対する複数M個ずつのサンプル値の取得を所定周期で間欠的に行い、取得した最新の複数M個ずつのサンプル値から評価演算に用いる評価サンプル値の算出処理を、次の複数M個のサンプル値の取得開始タイミングまでの期間を利用して行っている。
【0023】
このため、第1のメモリと第2のメモリの容量は、M個のサンプル値を記憶するための少ない容量で済み、また、演算部の演算処理を標本化部のサンプリング周期に対して格別高速に行う必要がない。
【0024】
したがって、周波数変換部を用いることなく、基準信号と被測定信号に対して高速なサンプリングを直接行うことができ、簡単な構成で高精度の測定が可能となる。
【0025】
また、高速なサンプリングで得られた精度の高いサンプル値から周波数安定度だけでなく、位相雑音特性も測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した周波数安定度測定装置20の構成を示している。
【0027】
図1に示す周波数安定度測定装置20は、測定の基準となる極めて安定な所定周波数(例えば10MHz)の正弦波の基準信号Srと被測定信号Sxに対するサンプリングを行うための標本化部21と、標本化部21のサンプリングによって得られたサンプル値に基づいて演算処理を行う演算部30とによって構成されている。
【0028】
標本化部21は、例えばパーソナルコンピュータに対して着脱可能な基板上に構成され、クロック信号発生器22、第1のA/D変換器23、第1のメモリ24、第2のA/D変換器25、第2のメモリ26およびコントローラ27を有し、第1のメモリ24と第2のメモリ26に対するサンプル値の記憶処理を、クロック周期Tsの複数M倍より長い所定周期τで複数M個ずつ間欠的に行っている。
【0029】
即ち、クロック信号発生器22は、周波数Fs(例えば60MHz)のクロック信号Csを、第1のA/D変換器23および第2のA/D変換器25に出力する。このクロック信号発生器22は、水晶発振器、PLL制御型信号発生器またはDDS型信号発生器のいずれでもよい。
【0030】
第1のA/D変換器23および第2のA/D変換器25は、同一構成で高い周波数のクロック信号Csに対応した動作速度を有しており、基準信号Srと、その基準信号Srの周波数Frに近い周波数Fxの正弦波の被測定信号Sxとを、共通のクロック周期(Ts=1/Fs)でサンプリングし、デジタルのサンプル値R(k)、X(k)にそれぞれ変換して、第1のメモリ24および第2のメモリ26に出力する。
【0031】
第1のメモリ24と第2のメモリ26は、コントローラ27からの書込信号とアドレス信号とを受け、第1のA/D変換器23から順次出力されるサンプル値R(k)と第2のA/D変換器25から順次出力されるサンプル値X(k)とをそれぞれ記憶する。
【0032】
コントローラ27は、例えばM進(Mは複数で例えば64)のカウンタを有し、図2の(a)に示すクロック信号Csと、図2の(b)のように、クロック周期Tsの複数M倍より長い所定周期τのトリガ信号TGとを受け、トリガ信号TGが入力される毎(例えば立ち上がる毎)に、クロック信号Csの計数を初期値から開始し、その計数値mをアドレス信号として書込信号とともに第1のメモリ24および第2のメモリ26に出力して、サンプル値R(m)、X(m)をアドレス順に記憶させ、複数M個ずつ記憶した段階で終了し、次のトリガ信号TGの入力を待つ、という動作を繰り返す(m=1,2,…,M)。なお、サンプル値R(m)、X(m)の添え字nはトリガ信号TGの入力回数を表す。
【0033】
したがって、図2の(c)に示す基準信号Srのサンプル値のうち、トリガ信号TGの立ち上がりタイミングからM個分のサンプル値R(1)〜R(M)が第1のメモリ24に記憶され、これと並行して図2の(d)に示す被測定信号Sxのサンプル値のうち、トリガ信号TGの立ち上がりタイミングからM個分のサンプル値X(1)〜X(M)が第2のメモリ26に記憶される。ここで、M個ずつ取得されたサンプル値は、第1のメモリ24および第2のメモリ26に対して毎回同じアドレス領域に上書きされるので、各メモリのアドレスはM個あれば済む。
【0034】
なお、この実施形態の標本化部21では、トリガ信号TGを演算部30から受けているが、標本化部21の内部でトリガ信号TGを発生させてもよい。また、第1のA/D変換器23および第2のA/D変換器25に対するクロック信号Csの入力を制御して、所定周期τ毎にM回のサンプリングを行ってM個のサンプル値を求めて第1のメモリ24と第2のメモリ26にそれぞれ記憶させるように構成してもよい。
【0035】
演算部30は、標本化部21の第1のメモリ24と第2のメモリ26に複数M個ずつのサンプル値が記憶されてから次の複数M個ずつのサンプル値の記憶が開始されるまでの間、即ち、図2の(b)のτ−Tmの期間(Tm=M・Ts)に、記憶された最新の複数M個ずつのサンプル値に基づいて、評価演算に必要な評価サンプル値を算出し、所定周期τ毎に得られる評価サンプル値に基づいて評価演算を行う。
【0036】
この演算部30は、例えばコンピュータ(パーソナルコンピュータを含む)によって構成されており、その機能を示すと、図1に示しているように、トリガ信号発生手段31、位相復調部32、平均位相差算出手段39、位相連続化手段40、周波数安定度評価演算部41、周波数偏差算出手段51、フーリエ変換手段52および位相雑音評価演算部53を有している。
【0037】
トリガ信号発生手段31は、前記クロック周期Tsの複数M倍と、位相復調部32が複数Mの位相差を算出するのに要する時間と、平均位相差算出手段39が位相差の平均値を算出するのに要する時間との合計時間以上の周期τを有するトリガ信号TGを出力する。前記したように、このトリガ信号発生手段31は標本化部21に設けてもよい。
【0038】
位相復調部32は、標本化部21の第1のメモリ24および第2のメモリ26にサンプル値が複数M個ずつ記憶される毎に、その複数M個ずつのサンプル値に基づいて基準信号Srに対する被測定信号Sxの位相差θ(m)を複数M算出するとともに、そのM個の位相差に位相不連続部がある場合には、これを修正して位相連続性を確保する。
【0039】
この位相復調部32は、例えば図3に示すように、第1のフィルタ33、第2のフィルタ34、直交検波手段35、位相検波手段36、Mサンプル位相連続化手段37とを有している。
【0040】
第1のフィルタ33および第2のフィルタ34は、高域通過型(HPF)または帯域通過型(BPF)のデジタルフィルタによって構成され、第1のメモリ24に記憶されたM個のサンプル値列R(m)と第2のメモリ26に記憶されたM個のサンプル値列X(m)から、第1のA/D変換器23および第2のA/D変換器25でそれぞれ重畳された直流分が除去された信号列R(m)′、X(m)′をそれぞれ出力する。
【0041】
直交検波手段35は、例えば図4に示すように、ミキサ35aに信号列R(m)′、X(m)′を入力して混合し、その混合成分からLPF35bによってベースバンド成分I(m)を抽出する。また、信号列X(m)′を移相器35cによって90度移相した信号列X(m)″と信号列R(m)′とをミキサ35dに入力して混合し、その混合成分からLPF35eによってベースバンド成分Q(m)を抽出する。なお、直交検波手段35の構成は図4のものだけでなく、イメージ除去型のものであってもよい。
【0042】
位相検波手段36は、直交検波手段35から出力されるベースバンド成分I(m)、Q(m)に対して次の演算を行い、位相差θ(m)を求める。
【0043】
θ(m)=tan−1{Q(m)/I(m)}
【0044】
上記位相検波手段36によって算出される位相差θ(m)は±πの近傍で不連続となるが、この不連続部は、Mサンプル位相連続化手段37によって補正され、位相連続性が確保される。
【0045】
例えば、基準信号Srに対する被測定信号Sxの位相φ(t)が図5の(a)に示すように、−πより小さい領域からゆるやかに変動しながら増加していく場合、位相検波手段36によって算出される位相差θ(m)は図5の(b)のように、ある時刻にπを超えて、−πの近傍に不連続に変化する。ここで、図5は、M=6(即ち、m=1〜6)の例を示したものである。
【0046】
なお、前記したように演算部30の各処理は、標本化部21で最新のサンプル値がM個ずつ得られた後から次のサンプル値の取得を開始するまでの間に行われるので、図5の(b)および後述の図5の(c)〜(e)の処理は、図5の(a)の位相変化に対して、Tm〜τ−Tmの範囲内で遅延する。
【0047】
Mサンプル位相連続化手段37は、次の演算によって上記のような位相差の不連続変化を図5の(c)のように修正した位相差φ(m)を求める。
【0048】
φ(m)=θ(m)+C(m)
ここで、
(m)=C(m−1)−2π :θ(m)−θ(m−1)>πの場合
(m)=C(m−1)+2π :θ(m)−θ(m−1)<−πの場合
(m)=C(m−1) :その他
ただし、C(0)=θ(0)=0とする。
【0049】
なお、上記の位相連続化のための演算は、時系列に隣り合う位相差の変化量が±πの範囲内にあることを前提にしており、この前提は、2つの入力信号Sr、Sxの周波数差がA/D変換のサンプリング周波数Fsの1/2より小さいことで満足される。
【0050】
このように位相連続化されたM個の位相差φ(m)は、平均位相差算出手段39に出力され、次の演算により、図5の(d)のように、Mサンプル当たりの平均位相差φa(n)が求められる(符号nはトリガ信号TGの入力回数を示す)。
【0051】
φa(n)=(1/M)Σ[h(i)・φ(i)]
ただし、記号Σはi=1〜Mまでの総和を表す。
【0052】
上記平均演算において、h(i)は任意に設定可能な重み係数であり、h(1)〜h(M)=1とすれば、最も簡単な単純加算平均となる。この単純加算平均の場合、カットオフ周波数がFs/MのLPFと等価であり、このカットオフ周波数が位相差の測定帯域の上限値Fhとなる。また、重み係数h(i)を1以外の値に設定することで、カットオフ周波数の遮断特性を変えることができる。
【0053】
上記平均位相差算出手段39によって算出される平均位相差φa(n)は、トリガ信号TGの周期τ毎に取得されるMサンプルについての値であり、Mサンプル目のデータ取得から次のトリガ信号の入力タイミングまでのサンプル値が抜けているので、図5の(d)に示しているように連続性を有していない。
【0054】
この平均位相差φa(n)の不連続部は、前記Mサンプル位相連続化手段37と全く同様の処理を行う位相連続化手段40によって図5の(e)のように修正され、位相連続性が確保される。
【0055】
即ち、位相連続化手段40は、次の演算によって連続化された平均位相差φa(n)′を求める。
【0056】
φa(n)′=φa(n)+D(n)
ここで、
D(n)=D(n−1)−2π :φa(n)−φa(n−1)>πの場合
D(n)=D(n−1)+2π :φa(n)−φ(n−1)<−πの場合
D(n)=D(n−1) :その他
ただし、D(0)=φa(0)=0とする。
【0057】
上記の位相連続化のための演算は、時系列に隣り合う平均位相差の変化量が±πの範囲内にあることを前提にしており、この前提は、2つの入力信号Sr、Sxの周波数差がトリガ信号TGの周波数(1/τ)の1/2より小さいことで満足される。
【0058】
位相連続化手段40によって位相連続化された平均位相差φa(n)′は、基準信号Srに対する被測定信号Sxの周波数安定度の評価演算に用いる評価サンプル値として周波数安定度評価演算部41に入力される。
【0059】
周波数安定度評価演算部41は、位相連続化手段40から出力された複数Nの平均位相差φa(n)′(または後述する周波数偏差信号)を用いて、被測定信号Sxの長期の周波数安定度を評価するための計算を行う。
【0060】
この周波数安定度の評価演算に用いる函数としては、ADEV(アランデビエーション)、MADEV(修正アランデビエーション)、TDEV(タイムデビエーション)、TIE(タイムインターバルエラー)、MTIE(マキシマムタイムインターバルエラー)、パワースペクトル密度等が一般的であり、これらの函数のいずれかを演算することで、基準信号Srに対する測定対象信号Sxの周波数安定度の評価が行える。
【0061】
なお、この評価演算は平均位相差φa(n)′を次のように時間差のデータx(n)に置き換えて行う。
【0062】
x(n)=φa(n)′/(2πFx) (n=1,2,…,N)
【0063】
例えば、ADEVで評価する場合、次の演算を行なう。
【0064】
ADEV(kτ)={Σ[x(i+2k)−2x(i+k)+x(i)]
/[2kτ(N−2k)]}1/2
(k=1,2,…、u)
【0065】
ここで、記号Σは、i=1からN−2kまでの総和を表し、uは(N−1)/2を超えない最大の整数を表す。
【0066】
また、MADEVで評価する場合には、次の演算を行なう。
【0067】
MADEV(kτ
={Σ{Σ[x(i+2k)−2x(i+k)+x(i)]}
/[2kτ(N−3k+1)]}1/2
(k=1,2,…、w)
【0068】
ただし、記号Σはi=jからk+j−1までの総和、記号Σはj=1からN−3k+1までの総和、記号wは、N/3を超えない最大の整数を表す。
【0069】
また、TDEVで評価を行なう場合には、次の演算を行なう。
【0070】
TDEV(kτ
={Σ{Σ[x(i+2k)−2x(i+k)+x(i)]}
/[6k(N−3k+1)]}1/2
(k=1,2,…、w)
【0071】
また、MTIEで評価を行なう場合には、次の演算を行なう。
【0072】
MTIE(kτ)=max{max x(i)−min x(i)}
(k=1,2,…、N−1)
【0073】
ただし、記号max x(i)は、x(j)〜x(j+k)の最大値、記号min x(i)は、x(j)〜x(j+k)の最小値、記号max{A}は、j=1〜N−kまでのAの最大値を表す。
【0074】
また、パワースペクトル密度で評価を行う場合には、N個の位相連続化された平均位相差φa(n)′をフーリエ変換して、位相差信号のパワースペクトル密度Sφ(f)を求める。
【0075】
このパワースペクトル密度Sφ(f)の周波数帯域の上限は1/(2τ)、下限は、1/(Nτ)であるため、サンプル数Nが大きい程低い周波数成分まで観測できる。
【0076】
また、上記各演算は、Mサンプル毎に平均化され位相連続化されたN個の平均位相差を評価サンプル値としていたが、周波数安定度を評価する別の演算として、周波数偏差を評価サンプル値とする方法もある。
【0077】
即ち、図1に示しているように、位相復調部32から出力されるMサンプルの位相差φ(m)に対して、周波数偏差算出手段51により次の演算を行い、周波数偏差y(n)を求める。
【0078】
y(n)={[φ(M)−φ(1)]/2πFx}・(Fs/M)
【0079】
そして、この周波数偏差y(n)がN個得られた時点で、周波数安定度評価演算部41において、2標本分散と呼ばれる次の演算を行う。
【0080】
σ(kτ)={Σ[y(i+k)−y(i)]}/2(N−2k)
(k=1,2,…,u)
ただし、記号Σは、i=1〜N−2kまでの総和、記号uは、(N−1)/2を超えない最大の整数を表す。
【0081】
上記の演算によって得られる2標本分散σ(kτ)の平方根から求まるσ(kτ)は、周波数偏差y(n)がサンプル数 Mに依存しており、数Mが大きい程前記したADEV(アランデビエーション)の値に近づくことが知られている。
【0082】
また、上記の各評価演算で得られた結果は、長期の周波数安定度、即ち、周波数の長期変動特性を示すものであるが、信号の短期変動特性を示す位相雑音特性を被測定信号Sxの周波数安定度を評価する情報として求めることもできる。
【0083】
被測定信号Sxの位相変調スペクトラムにおいて、周波数安定度は直流分を含む極低周波成分の特性を示すのに対し、位相雑音は数Hz〜数10MHzの広帯域にわたる成分を示し、一般的に被測定信号の全電力と側波帯電力との比で表される。
【0084】
この実施形態の周波数安定度測定装置20では、前記したように、高速なA/D変換処理を行っているので、そのサンプリング周波数Fsの1/4以下の帯域にわたる位相雑音成分を計測することができる。
【0085】
ここで、位相雑音L(f)は、位相雑音電力が1radより十分小さいとき、パワースペクトル密度Sφ(f)の1/2に近似されることが知られている。
【0086】
したがって、図1に示しているように、位相復調部32から出力されるMサンプルの位相差φ(m)をフーリエ変換手段52によってフーリエ変換することで、スペクトラム密度Sφ(f)を求め、位相雑音評価演算部53において、Mサンプル毎の位相雑音L(f)を求めることができる。
【0087】
ただし、位相差φ(m)には、基準信号Srと被測定信号Sxの周波数差Δfに比例する線形増加分が含まれており、この線形増加分を除去する必要がある。この除去は、フーリエ変換の前処理として行えばよい。また、Mサンプルの両端の不連続の影響を軽減するために、フーリエ変換の前にMサンプルに対して窓関数をかけてもよい。
【0088】
また、位相雑音評価演算部53において、N組の位相差φ(m)から求めたN組のパワースペクトラム密度Sφ(f)を周波数ポイント毎に平均化し、その平均化したパワースペクトラム密度から位相雑音L(f)を求めてもよい。
【0089】
以上説明したように、実施形態の周波数安定度測定装置20では、基準信号Srおよび被測定信号Sxに対する複数M個ずつのサンプル値の取得を所定周期τで間欠的に行い、取得した最新の複数M個ずつのサンプル値から評価演算に用いる評価サンプル値の算出処理を、次のサンプル値の取得開始タイミングまでの期間を利用して行っている。
【0090】
このため、標本化部21の第1のメモリ24と第2のメモリ26の容量は、M個のサンプル値を記憶するための少ない容量で済み、また、演算部30の演算処理を標本化部21のサンプリング周期に対して格別高速に行う必要がない。
【0091】
したがって、周波数変換部を用いることなく、基準信号Srと被測定信号Sxに対して高速なサンプリングを直接行うことができ、簡単な構成で高精度の測定を低コストに実現できる。
【0092】
また、高速なサンプリングで得られた精度の高いサンプル値から、周波数安定度だけでなく、位相雑音特性も測定できる。
【0093】
なお、上記実施形態では、位相連続化された平均位相差φa(n)′を評価サンプル値とする長期の周波数安定度の評価演算、周波数偏差y(n)を評価サンプル値とする長期の周波数安定度の評価演算およびパワースペクトル密度Sφ(f)を評価サンプル値とする位相雑音の評価演算(短期の周波数安定度の評価演算)の全てを行える構成で説明したが、これら評価演算のいずれかを単独で、あるいは任意の組合せで行う装置についても本発明を適用できる。
【0094】
また、上記実施形態では、演算部30を構成するコンピュータに対して着脱自在な基板上に標本化部21を構成していたが、これは本発明を限定するものではなく、前記した標本化部21と演算部30とが一体的に構成されていてもよく、また、2チャネルのA/D変換器とそのサンプリング結果を記憶するメモリと、メモリに記憶したサンプル値に対する演算処理が可能な各種機器(例えばデジタルストレージオシロスコープ等)において、サンプル値の取得制御と演算処理とを、上記実施形態と同様に設定することで実現可能である。
【0095】
また、前記実施形態では、標本化部21内に第1のメモリ24と第2のメモリ26を設けていたが、第1のメモリ24と第2のメモリ26を演算部30側に設けてもよく、また、第1のメモリ24と第2のメモリ26を、標本化部21と演算部30の間に独立に設けてもよい。
【0096】
また、演算部30をパーソナルコンピュータで構成した場合、標本化部21の第1のメモリ24および第2のメモリ26の記憶内容を、パーソナルコンピュータ内のメモリに転送してから、位相復調処理およびそれ以降の処理を行うようにしてもよい。この場合、標本化部21内のメモリ24、26とパーソナルコンピュータ内のメモリとで、本発明の第1のメモリと第2のメモリが構成されることになり、パーソナルコンピュータ内のメモリに対するMサンプルの書込完了時から、次のパーソナルコンピュータ内のメモリへのMサンプルの書込開始時までの間に、被測定信号の周波数安定度の評価演算に必要な評価サンプル値を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施形態の構成を示す図
【図2】実施形態の要部の動作を説明するための図
【図3】実施形態の要部の構成例を示す図
【図4】実施形態の要部の構成例を示す図
【図5】実施形態の要部の動作を説明するための図
【図6】従来装置の概略構成を示す図
【符号の説明】
【0098】
20……周波数安定度測定装置、21……標本化部、22……クロック信号発生器、23……第1のA/D変換器、24……第1のメモリ、25……第2のA/D変換器、26……第2のメモリ、27……コントローラ、30……演算部、31……トリガ信号発生手段、32……位相復調部、39……平均位相差算出手段、40……位相連続化手段、41……周波数安定度評価演算部、51……周波数偏差算出手段、52……フーリエ変換手段、53……位相雑音評価演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数安定度測定の基準となる基準信号と被測定信号とを共通のクロック信号に基づいてサンプリングし、該サンプリングで得られたデジタルのサンプル値をそれぞれ第1のメモリ(24)と第2のメモリ(26)に記憶する標本化部(21)と、
前記第1のメモリと前記第2のメモリに記憶されたサンプル値に基づいて、前記基準信号に対する被測定信号の周波数安定度を評価するための演算を行う演算部(30)とを備えた周波数安定度測定装置であって、
前記標本化部は、前記第1のメモリと前記第2のメモリに対するサンプル値の記憶処理を、前記クロック信号の周期の複数M倍より長い所定周期で前記複数M個ずつ間欠的に行い、
前記演算部は、前記第1のメモリと前記第2のメモリへの前記複数M個ずつのサンプル値の記憶が完了した時点から次の前記複数M個ずつのサンプル値の記憶が開始されるまでの間に、記憶が完了した最新の複数M個ずつのサンプル値に基づいて、前記被測定信号の周波数安定度の評価演算に必要な評価サンプル値を算出することを特徴とする周波数安定度測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、
前記第1のメモリおよび前記第2のメモリに前記サンプル値が複数M個ずつ記憶される毎に、該複数M個ずつのサンプル値に基づいて前記基準信号に対する被測定信号の位相差を複数M個算出するとともに、該複数M個の位相差について位相不連続部がある場合には、これを修正して位相連続性を確保する位相復調部(32)と、
前記位相復調部によって算出された複数M個の位相差の平均値を算出する平均位相差算出手段(39)と、
前記平均位相差算出手段から順次出力される平均位相差について、位相不連続部がある場合には、これを修正して位相連続性を確保する位相連続化手段(40)と、
前記位相連続化手段から出力される平均位相差を前記評価サンプル値として前記被測定信号の長期の周波数安定度の評価演算を行う周波数安定度評価演算部(41)とを備えていることを特徴とする請求項1記載の周波数安定度測定装置。
【請求項3】
前記演算部は、
前記第1のメモリおよび前記第2のメモリに前記サンプル値が複数M個ずつ記憶される毎に、該複数M個ずつのサンプル値に基づいて前記基準信号に対する被測定信号の位相差を複数M個算出するとともに、該複数M個の位相差について位相不連続部がある場合には、これを修正して位相連続性を確保する位相復調部(32)と、
前記位相復調部によって算出された複数M個の位相差に基づいて、前記基準信号に対する被測定信号の周波数偏差を算出する周波数偏差算出手段(51)と、
前記周波数偏差算出手段から出力される周波数偏差を前記評価サンプル値として前記被測定信号の長期の周波数安定度の評価演算を行う周波数安定度評価演算部(41)とを備えていることを特徴とする請求項1記載の周波数安定度測定装置。
【請求項4】
前記演算部は、
前記第1のメモリおよび前記第2のメモリに前記サンプル値が複数M個ずつ記憶される毎に、該複数M個ずつのサンプル値に基づいて前記基準信号に対する被測定信号の位相差を複数M個算出するとともに、該複数M個の位相差について位相不連続部がある場合には、これを修正して位相連続性を確保する位相復調部(32)と、
前記位相復調部によって算出された連続した複数M個の位相差毎に、フーリエ変換を行って、前記基準信号に対する被測定信号の位相変調成分のスペクトラムを算出するフーリエ変換手段(52)と、
前記フーリエ変換手段によって得られたスペクトラムに基づいて、前記基準信号に対する被測定信号の位相雑音特性を求める位相雑音評価演算部(53)とを備えていることを特徴とする請求項1記載の周波数安定度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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