説明

回折性能測定装置

【課題】本発明は、回折光学素子を含む被検体の回折性能を精密に測定するのに好適な回折性能測定装置を提供する。
【解決手段】本発明の回折性能測定装置の一態様は、所定の波長帯域の光を出射する光源(1)と、前記光源が出射した光から前記波長帯域より狭い波長帯域の光を抽出する分光波長連続可変型のモノクロメータ(10)と、回折光学素子を含む被検体(27)へ前記モノクロメータが抽出した光を投光する投光部(25)と、前記投光部が投光した光に応じて前記被検体で発生した回折光の強度を検出する検出部(28)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PFレンズ(位相フレネルレンズ)を搭載したカメラレンズなど、回折光学素子を含む被検体の回折性能を測定する回折性能測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波長分散の異なる硝材を組み合わせて色収差を低減しようとする方法が広く知られている。例えば望遠鏡の分野では波長分散の小さい硝材で正レンズを作製し、波長分散の大きい硝材で負レンズを作製し、これらのレンズを組み合わせることにより色収差を低減している。
【0003】
色収差を低減する他の方法として、レンズに回折光学素子を組み合わせる方法がある。回折光学素子による色収差低減は、回折光学素子の回折面で発生する色収差がレンズの屈折面で発生する色収差とは空間的に逆であるという現象を利用している。
【0004】
通常、このような目的で使用される回折光学素子は、その搭載先である光学装置(カメラレンズなど)のフレアを低減するために、特定の次数の回折光の強度が十分に高くなり、それ以外の次数の回折光の強度が十分に低くなるように設計される。因みにフレア低減に有効な格子形状としては、ブレーズ型が既に知られている。
【0005】
但し、回折光学素子の回折効率には波長依存性があり、またカメラレンズなどの使用波長は広帯域である(例えば可視域400nm〜700nm)。このため回折光学素子を搭載したカメラレンズは、フレアを完全に除去できない可能性があった。
【0006】
そこで近年は、回折効率の波長依存性が低減された回折光学素子として、積層された複数の光学材料を有し、かつ少なくとも1つの境界面に格子形状を形成してなる複層型回折光学素子が提案された(特許文献1等を参照)。
【特許文献1】特開平9−127321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような回折光学素子は高機能であるが故にその性能を測定するのが難しい。よって、例えばカメラレンズに搭載された回折光学素子の性能は、そのカメラレンズが形成する像の良否(フレアの有無)により大まかに測定されるだけであった。
【0008】
そこで本発明は、回折光学素子を含む被検体の回折性能を精密に測定するのに好適な回折性能測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の回折性能測定装置の一態様は、所定の波長帯域の光を出射する光源と、前記光源が出射した光から前記波長帯域より狭い波長帯域の光を抽出する分光波長連続可変型のモノクロメータと、回折光学素子を含む被検体へ前記モノクロメータが抽出した光を投光する投光部と、前記投光部が投光した光に応じて前記被検体で発生した回折光の強度を検出する検出部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
なお、前記モノクロメータは、零分散型のダブルモノクロメータであってもよい。
【0011】
また、前記ダブルモノクロメータの中間スリットのスリット幅は、前記ダブルモノクロメータの入出力スリットのスリット幅とは独立に可変であってもよい。
【0012】
また、前記光源は、スーパーコンティニウム光源であってもよい。
【0013】
また、前記投光部は、前記被検体へ投光する光の偏光状態及び偏光方位の少なくとも一方を制御する偏光制御手段を備えてもよい。
【0014】
また、前記一態様は、前記投光部と前記被検体と前記検出部との少なくとも1つを移動又は姿勢変化させる駆動手段を更に備えてもよい。
【0015】
また、前記駆動手段は、前記投光部と前記被検体との間の位置関係を調節してもよい。
【0016】
また、前記駆動手段は、前記投光部と前記被検体との間の角度関係を調節してもよい。
【0017】
また、前記駆動手段は、前記投光部と前記検出部との間の位置関係を調節してもよい。
【0018】
また、前記駆動手段は、前記投光部と前記検出部との間の角度関係を調節してもよい。
【0019】
また、前記検出部は、前記被検体で発生した回折光の強度を二次元撮像素子で検出してもよい。
【0020】
また、前記駆動手段は、前記回折光のうち強度の検出対象である回折光が最も集中する位置において前記検出部が前記検出を行うように、前記投光部と前記被検体と前記検出部との少なくとも1つを移動又は姿勢変化させてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、回折光学素子を含む被検体の回折性能を精密に測定するのに好適な回折性能測定装置が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[実施形態]
先ず、回折光学素子を含む被検体の回折性能測定を精密に行う上で必要とされる各条件を説明する。
【0023】
(微弱測定について)
通常、回折光学素子は、特定の次数(多くの場合は1次)の回折光の強度が高くなり、他の次数の回折光の強度が低くなるように設計される。m次回折光の光量をA、m次以外の回折光の光量の合計をBとしたとき、m次回折効率η(%)は、η=100×A/(A+B)で定義される。近年の高機能な回折光学素子では、強度を高くすべき次数の回折効率は例えば95%以上に高められ、強度を抑えるべき次数の回折効率は例えば1%未満に抑えられる。このように高機能な回折光学素子の回折性能を詳細に調べるには、強度を高くすべき次数の回折効率だけでなく、強度を低くすべき他の次数の回折効率についてもそれぞれ測定する必要がある。そのためには、微弱な回折光の光量をも検出できるよう高パワー光源を使用する必要がある。
【0024】
(分光測定について)
一般に、回折光学素子には波長依存性がある。したがって回折光の光量検出は、回折光学素子の使用波長帯域内の各波長でそれぞれ行われる必要がある。例えば回折光学素子の使用波長が可視光域であるならば、400〜700nmの波長帯域内の各波長の測定光で検出が行われることが望ましい。また、各波長の測定光の波長幅(半値全幅:FWHM)は、1〜20nm、例えば10nm程度に狭められていることが望ましい。
【0025】
(空間分布測定について)
回折光学素子で発生する回折光は、その次数によって進行方向が異なる。よって、各次数の回折光を同じ光学系で集光したとしても、その集光位置は互いにずれる。しかも、そのずれは、光軸と垂直な面内だけでなく光軸方向にも及ぶ。したがって、各次数の回折光の光量を確実に測定するには、回折光の検出位置の自由度が高いことが望ましい。そのためには、検出部の位置関係を調節可能にする、検出部に予め多数の受光素子を配列させるなどの工夫が必要である。
【0026】
(測定光の変更について)
回折光学素子の回折性能を詳細に調べるには、測定光の径が可変であることが望ましい。例えば、径サイズの互いに異なる複数種類の円形開口絞りを用意し、それを交換しながら測定を行うことが望ましい。或いは、開口サイズが可変の矩形開口絞りを使用し、その開口サイズを変化させながら回折光の光量検出を行うことが望ましい。また、回折光学素子に対する測定光の入射角度や偏光状態についてもそれぞれ可変であることが望ましい。
【0027】
次に、回折性能測定装置を説明する。
【0028】
図1は、回折性能測定装置の構成図である。図1に示すとおり、回折性能測定装置には、スーパーコンティニウム光源1、モノクロメータ10、偏光器20、ビームエキスパンダ25、絞りステージ26S、被検体ステージ27S、カメラステージ28Sなどが備えられる。なお、外部からの光の混入を防止するため、回折性能測定装置の全体は筐体で覆われている。
【0029】
絞りステージ26Sには絞り26がセットされ、被検体ステージ27Sには被検体27がセットされ、カメラステージ28Sにはカメラ28がセットされている。ここでは被検体27を、回折光学素子を含むカメラレンズとする。被検体27は、保持部27hによって保持されており、その保持部27hの内部を光軸の周り(図1のω方向)へ回転可能である。
【0030】
モノクロメータ10には、シャッタ11、ターレット12、集光レンズ13、スリット部材15、コリメータミラー16、回折格子17、偏向ミラー14、コリメータレンズ18などが配置されている。
【0031】
スーパーコンティニウム光源1は、少なくとも400〜700nmの波長帯域(可視光域)の白色光を出射する。このスーパーコンティニウム光源1のパワーは、0.1mW/nm以上である。
【0032】
シャッタ11は、スーパーコンティニウム光源1から射出した光を測定者が所望するタイミングでオン/オフするためのシャッタである。
【0033】
スーパーコンティニウム光源1を射出し、かつシャッタ11を通過した光は、ターレット12へ入射する。
【0034】
ターレット12の個々のフィルタ部には、NDフィルタ、バンドパスフィルタ、コールドフィルタなどが重ねて装着されている。これらのフィルタは、スーパーコンティニウム光源1を射出した光のうち、後述する測定光に付与すべき波長帯域から大きく離れた波長帯域をカットする働きがある。また、ターレット12を回転させると、光路に挿入されるフィルタ部が別の特性のフィルタ部に切り替わり、それによってターレット12によるカット波長帯域が切り替わる。
【0035】
ターレット12を通過した光は、集光レンズ13へ入射し、その集光レンズ13の集光作用によりスリット部材15へ向けて集光する。なお、集光レンズ13からスリット部材15へ向かう光は、偏向ミラー14の手前又は奥側を進行するので、偏向ミラー14によって蹴られることは無い。
【0036】
スリット部材15には、図1の上部に拡大して示すとおり、透過型の入出力スリット15in/outと、反射型の中間スリット15midとが並べて設けられている。入出力スリット15in/outのスリット幅と中間スリット15midのスリット幅とは、独立に変更することが可能である。
【0037】
集光レンズ13の側からスリット部材15へ入射した光は、透過型の入出力スリット15in/outの中央に集光する。入出力スリット15in/outを通過した光束は、コリメータミラー16へ向かう。コリメータミラー16へ入射した光束は、コリメータミラー16を反射して平行光束となり、回折格子17へ向かう。回折格子17へ入射した光は、その回折格子17により波長分散が付与され、その状態でコリメータミラー16へ戻る。
【0038】
ここで回折格子17の配置角度は図1中矢印で示す方向に可変であり、その配置角度を連続的に変化させると、回折格子17からコリメータミラー16へ戻る光の中心波長が連続的にシフトする。
【0039】
コリメータミラー16へ戻った光は、コリメータミラー16を反射し、スリット部材15に向けて集光する。その光は、スリット部材15に設けられた反射型の中間スリット15midの近傍に集光する。
【0040】
中間スリット15midの近傍に集光した光のうち、中間スリット15midを反射した光は、コリメータミラー16に戻る。コリメータミラー16へ戻った光は、コリメータミラー16を反射して平行光束となり、回折格子17へ再入射する。回折格子17へ再入射した光は、回折格子17により波長分散が再付与されてからコリメータミラー16へ戻る。なお、再入射した光に対して回折格子17が付与する波長分散の方向は、最初に入射した光に対して回折格子17が付与する波長分散の方向とは逆である。
【0041】
コリメータミラー16へ戻った光は、コリメータミラー16を反射し、スリット部材15に向けて集光する。その光は、スリット部材15に設けられた透過型の入出力スリット15in/outの中央に集光する。
【0042】
入出力スリット15in/outを通過した光は、偏向ミラー14で反射した後にコリメータレンズ18で平行光束となってモノクロメータ10を射出し、偏光器20へ向かう。
【0043】
偏光器20には、第1グランレーザプリズム21と、フレネルロム22と、第2グランレーザプリズム23とが配置されている。第1グランレーザプリズム21、第2グランレーザプリズム23は、光路に対して個別に挿脱可能であり、フレネルロム22は、図1中矢印で示す方向へ回転可能である。
【0044】
このような偏光器20は、符号20A、20B、20Cで示す各状態の間で切り替えが可能である。例えば符号20Bの状態にあるときに偏光器20は入射光の偏光状態を円偏光にすることができ、符号20A又は符号20Cの状態にあるときに偏光器20は入射光の偏光状態を直線偏光にすることができる。さらに、符号20Cの状態にあるときにフレネルロム22の回転位置を変化させれば、偏光器20は直線偏光の偏光方位を変化させることもできる。
【0045】
偏光器20から射出した光は、ビームエキスパンダ25においてその径を拡大してから絞り26に入射する。絞り26を通過した光は径の細い光となり、測定光として被検体27の物体側へ投光される。
【0046】
ここで絞り26は、径のサイズが所定値に設定された円形開口絞りである。この絞り26は、径の異なる1又は複数の円形開口絞りとの間で交換可能であって、その交換により、測定光の径のサイズを、1mm〜10mmの範囲内の様々な値の間で切り替えることができる。なお、絞り26としては、1mm〜10mmの範囲内で縦横幅が可変の矩形開口絞りを使用してもよい。また、測定光の径(又は幅)の変化範囲は、必要に応じて1mm〜10mmの範囲よりも広く確保されてもよい。
【0047】
被検体27へ投光された測定光は、被検体27の結像作用及び被検体27の回折作用を受けた後に被検体27の像側から射出し、カメラ28へ入射する。
【0048】
被検体27の像側から射出する測定光は、被検体27の回折作用により各次数の回折光に分離されており、それぞれ異なる位置にスポット像S、S、…を形成する。これらのスポット像S、S、…は、カメラ28に備えられた二次元撮像素子で撮像される。二次元撮像素子によれば、同一面上に形成された2以上のスポット像を同時に捉えることができるので、測定の効率化に有利である。
【0049】
その撮像で得られた画像データは、不図示のコンピュータへ取り込まれる。コンピュータは、取り込まれた画像データに基づきスポット像S、S、…の各々の強度を計算し、それによって各次数の回折光の光量を算出する。また、コンピュータは、取り込まれた画像に基づきスポット像S、S、…の各々の形成位置を計算し、それによって各次数の回折光の回折角度を算出する。さらにコンピュータは、各次数の回折光の光量に基づき各次数の回折効率η=100×A/(A+B)を算出する(但し、mは次数、Aはm次回折光の光量、Bはm次以外の回折光の光量の合計である。)。
【0050】
次に、モノクロメータ10を詳しく説明する。
【0051】
図2は、モノクロメータ10から被検体27の像面までの結像関係を示す光路図である。なお、図2では、図1に示した集光レンズ13、コリメータレンズ18、偏光器20、ビームエキスパンダ25は省略されており、反射型の光学素子は、それと等価な屈折型の光学素子として表されている。前述したとおりモノクロメータ10は、その内部で入射光を2往復させるダブルモノクロメータである。ここでは、図2に示すモノクロメータ10のうち、中間スリット15midの前段部分を「第1モノクロメータ10−1」と称し、中間スリット15midの後段部分を「第2モノクロメータ10−2」と称す。
【0052】
先ず、第1モノクロメータ10−1の入出力スリット15in/outに着目する。この入出力スリット15in/out中央には、スーパーコンティニウム光源1の像(点光源)が形成される。その点光源のサイズは十分に小さく、また入出力スリット15in/outのスリット幅はその点光源のサイズより若干広い程度に設定されている。よって、その点光源のサイズが、スポット像S、S、…のサイズを決めることになる。
【0053】
因みに、スーパーコンティニウム光源1のパワーは十分に高いのでスポット像S、S、…の強度は十分に高くなる。また、スーパーコンティニウム光源1による点光源のサイズは十分に小さいのでスポット像S、S、…のサイズは十分に小さくなる。したがって、本実施形態の回折性能測定装置は、個々のスポット像S、S、…の強度及び位置を高精度に求めることができる。
【0054】
なお、本実施形態の回折性能測定装置では、スーパーコンティニウム光源1の代わりにそれと同等の波長帯域の光を射出可能な他の光源(キセノンランプなど)を使用してもよい。
【0055】
但し、キセノンランプなどの面光源を使用する場合には、面光源からの射出光を入出力スリット15in/outで制限することにより、入出力スリット15in/outの位置に点光源を生成する必要がある。その場合、入出力スリット15in/outのスリット幅がスポット像S、S、…のサイズを決めることになる。
【0056】
因みに、スポット像S、S、…のサイズは、互いに隣接する2つのスポット像が重ならない程度に小さいことが望ましい。例えば、モノクロメータ10と被検体27との間に配置されるコリメータレンズ(図1の符号18)の焦点距離をfとおき、被検体27の焦点距離をfとおき、被検体27の物体側におけるn次回折光と(n+1)次回折光との角度差をθとおいた場合に、n次回折光によるスポット像と(n+1)次回折光によるスポット像とが重ならないためには、入出力スリット15in/outのスリット幅Sは、以下の式を満たすよう設定されればよい。
【0057】
S・f/f<fθ
なお、スリット幅Sが仮に上式を満たせなかった場合(つまり前記2つのスポット像が重なる場合)には、次のようにすればよい。すなわち、測定者は、図1に示すカメラ28の位置を調節することにより、一方のスポット像をデフォーカス状態とし、他方のスポット像にフォーカスを合わせた状態とする。スポット像のフォーカスが合っている状態では回折光が最も集中している。その状態で撮像を行い、一方のスポット像の影響を抑えながら他方のスポット像を撮像する。この撮像で得られた画像データに基づけば、他方のスポット像の強度及び位置を一定の精度で求めることが可能である。なお、カメラ28の位置調整は、後に詳述するカメラステージ28Sによって行うことが可能である。
【0058】
次に、第1モノクロメータ10−1の回折格子17及び中間スリット15midに着目する。
【0059】
第1モノクロメータ10−1の回折格子17は、前述したとおり入射光に対して波長分散を与えるので、中間スリット15midの近傍に集光する光も波長分散している。そして、回折格子17の配置角度を連続的に変化させると、中間スリット15midに入射可能な光の中心波長が連続的にシフトし、測定光の中心波長も連続的にシフトする。
【0060】
また、中間スリット15midのスリット幅を連続的に変化させると、第2モノクロメータ10−2へ入射可能な光の波長幅が連続的に変化し、測定光の波長幅も連続的に変化する。
【0061】
なお、通常は、測定光の波長幅(半値全幅:FWHM)が1〜20nm、例えば10nm程度に狭められるように中間スリット15midのスリット幅が設定されており、必要に応じてそのスリット幅が拡縮されることが望ましい。
【0062】
また、その中間スリット15midのスリット幅は、前述した入出力スリット15in/outのスリット幅とは独立に変更可能である。よって、本実施形態の回折性能測定装置では、測定光の波長幅を、スポット像S、S、…のサイズとは独立に変更することができる。
【0063】
次に、第2モノクロメータ10−2の回折格子17及び入出力スリット15in/outに着目する。
【0064】
第2モノクロメータ10−2の回折格子17は、前述したとおり第1モノクロメータ10−1の回折格子17が入射光に与えた波長分散とは空間的に逆の波長分散を入射光に与えるので、入出力スリット15in/outの中央に集光する光は、波長分散が零となる。したがって、本実施形態の回折性能測定装置では、波長の偏りの無い良好な測定光を得ることができる。
【0065】
次に、図1に戻り、絞りステージ26S、被検体ステージ27S、カメラステージ28Sを詳しく説明する。なお、ここでは、光軸方向をY方向とし、光軸と垂直な2方向をX、Z方向として説明する。
【0066】
絞りステージ26Sは、XZステージを備えており、そのXZステージにより、ビームエキスパンダ25の光軸と垂直な2方向(Xa、Za方向)へ絞り26を移動させることができる。したがって、被検体27に対する測定光の入射位置は、調節可能である。
【0067】
被検体ステージ27Sは、θステージを備えており、そのθステージにより、絞り26の開口部近傍からZa方向に延びる中心軸の周り(θ方向)に被検体27を回動させることができる。したがって、被検体27に対する測定光の入射角度は、調節可能である。
【0068】
また、被検体ステージ27Sは、Yステージを備えており、そのYステージにより、被検体27の光軸の方向(Y方向)へ被検体27を移動させることができる。したがって、絞り26と被検体27との間隔は、調節可能である。
【0069】
また、カメラステージ28Sは、XZステージを備えており、そのXZステージにより、カメラ28の光軸と垂直な2方向(Xc、Zc方向)へカメラ28を移動させることができる。したがって、測定光のXa、Za方向への変位にカメラ28を追従させることができる。また、スポット像S、S、…のXc、Zc方向の分布が広範囲に亘る場合であっても、Xc、Zc方向へカメラ28を移動させながら撮像を行えば、個々のスポット像S、S、…を捉え損ねることは無い。
【0070】
また、カメラステージ28Sは、Yステージを備えており、そのYステージにより、カメラ28の光軸の方向(Y方向)へカメラ28を移動させることができる。したがって、被検体27とカメラ28との間隔は、調節可能である。また、スポット像S、S、…の結像面がずれていた場合であっても、その方向へカメラ28を移動させながら撮像を行えば、個々のスポット像S、S、…を各々の結像面で捉えることができる。
【0071】
また、カメラステージ28Sは、θステージを備えており、そのθステージにより、絞り26の開口部近傍からZa方向に延びる中心軸の周り(θ方向)にカメラ28を回動させることができる。したがって、被検体27のθ方向への回動にカメラ28を追従させることができる。
【0072】
次に、本実施形態の回折性能測定装置の効果を説明する。
【0073】
上述したモノクロメータ10は、回折格子17の回動により測定光の中心波長を調節する分光波長連続可変型のモノクロメータである。したがって、本実施形態の回折性能測定装置によれば、測定光の中心波長を任意に設定することが可能である。このように測定光の中心波長を任意に設定できれば、スポット像S、S、…の強度及び位置の検出を様々な波長で行うことができる。よって、各次数の回折効率を様々な波長について求めることができる。
【0074】
また、上述したモノクロメータ10は、図2に示したとおり零分散型のダブルモノクロメータである。したがって、本実施形態の回折性能測定装置によれば、空間的な波長の偏りの無い良好な測定光で測定を行うことができる。
【0075】
また、上述したモノクロメータ10は、前述したとおり中間スリット15midのスリット幅を入出力スリット15in/outのスリット幅とは独立に変更することができる。したがって、本実施形態の回折性能測定装置によれば、スポット像S、S、…のサイズとは独立に測定光の波長幅を設定することができる。
【0076】
また、本実施形態の回折性能測定装置が光源としてスーパーコンティニウム光源1を使用した場合には、スポット像S、S、…のサイズを小さくし、かつスポット像S、S、…の強度を高くすることができるので、スポット像S、S、…の強度及び位置の検出を高精度に行い、各次数の回折効率を高精度に求めることができる。
【0077】
また、本実施形態の回折性能測定装置が光源としてスーパーコンティニウム光源1を使用しなかった場合であっても、モノクロメータ10の入出力スリットのスリット幅は中間スリットのスリット幅とは独立に変更することができるので、その入出力スリット15in/outのスリット幅さえ適切に設定すれば、スポット像S、S、…のサイズを小さく設定することができる。
【0078】
また、上述した絞りステージ26Sは、測定光をXa、Za方向へ変位させることができる。したがって、本実施形態の回折性能測定装置は、測定光の入射位置の異なる様々な条件下で測定を行うことができる。
【0079】
また、上述した被検体ステージ27Sは、被検体27をθ方向へ回動させることができる。したがって、本実施形態の回折性能測定装置は、測定光の入射角度の異なる様々な条件下で測定を行うことができる。
【0080】
また、上述したカメラステージ28Sは、カメラ28をXc、Zc方向へ移動させることができる。したがって、本実施形態の回折性能測定装置は、被検体27に対する測定光の入射位置の変化にカメラ28を追従させることができる。また、複数のスポット像S、S、…の分布が広範囲に亘る場合であっても、スポット像S、S、…をカメラ28で捉え損ねることが無い。
【0081】
また、上述したカメラステージ28Sは、カメラ28をYc方向へ移動させることができる。したがって、本実施形態の回折性能測定装置は、スポット像S、S、…の結像面がずれていた場合であっても、スポット像S、S、…を各々の結像面で捉えることができる。
【0082】
また、本実施形態の回折性能測定装置において、カメラステージ28Sは、カメラ28をθc方向へ回動させることができる。したがって、本実施形態の回折性能測定装置は、被検体27に対する測定光の入射角度の変化にカメラ28を追従させることができる。
【0083】
最後に、本実施形態の回折性能測定装置の補足を説明する。
【0084】
本実施形態では、測定に関する制御が測定者によって行われるという前提で説明を行ったが、測定に関する制御の一部又は全部はコンピュータにより自動化されてもよい。例えば、コンピュータは、次のとおり制御を行ってもよい。
【0085】
すなわち、コンピュータは、カメラ28が出力する画像データに基づき互いに隣接する2つのスポット像が重なっているか否かを判別する。そして両者が重なっていた場合、コンピュータは、カメラ28が出力する画像データを参照しながら絞りステージ26S、被検体ステージ27S、カメラステージ28Sの少なくとも1つの位置又は姿勢を制御することにより、一方のスポット像がデフォーカスとなり、他方のスポット像がジャストフォーカスとなる状態を実現する。さらにコンピュータはこの状態でカメラ28が出力する画像データに基づき、他方のスポット像の強度及び位置を検出する。このような自動化によれば、回折性能の測定を効率化することができる。
【0086】
また、本実施形態の回折性能測定装置における絞り26と被検体27との間には、測定光の光量を一定の割合で抽出してモニタするモニタ用光学系が配置されてもよい。モニタ用光学系によれば、測定光の光量の時間変動や、測定光の光量の波長依存性が既知となるので、それに基づき測定結果(例えば各波長各次数の回折効率)をコンピュータに補正させれば、測定光の光量の時間変動や測定光の光量の波長依存性に左右されない高精度な測定が可能となる。なお、モニタ用光学系がモニタした光量は、光源の出力パワーをフィードバック制御する際のリファレンス光量として活用されてもよい。
【0087】
また、本実施形態の回折性能測定装置では、被検体27を回動させるステージとカメラ28を回動させるステージとが別体のステージであったが、共通のステージにしてもよい。
【0088】
また、本実施形態の回折性能測定装置の被検体は、結像機能を有していたが、結像機能を有していなくても構わない。結像機能を有しない被検体の測定に当たり、測定者は、例えば図3(A)、(B)、(C)に示すとおり、その被検体27に対し補償光学系30を組み合わせることにより結像機能を有したユニットを構成し、そのユニットごと被検体27を被検体ステージ27Sへセットしてもよい。
【0089】
因みに、図3(A)は、被検体27の前後に補償光学系30が組み合わされたユニットを示しており、図3(B)は、被検体27の後ろ側に補償光学系30が組み合わされたユニットを示しており、図3(C)は、被検体27の前側に補償光学系30が組み合わされたユニットを示している。ユニットの構成としては、図3(A)、(B)、(C)の何れをも採用することが可能である。
【0090】
また、本実施形態の回折性能測定装置の被検体は、屈折型の被検体であったが、反射型の被検体であってもよい。何れの場合もカメラ28は被検体27のうち回折光が射出する側へ向けて配置される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】回折性能測定装置の構成図である。
【図2】モノクロメータ10から被検体27の像面までの結像関係を示す光路図である。
【図3】補償光学系30と被検体27との組み合わせのバリエーションを示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1…スーパーコンティニウム光源、10…モノクロメータ、20…偏光器、25…ビームエキスパンダ、26S…絞りステージ、27S…被検体ステージ、28S…カメラステージ28S

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の波長帯域の光を出射する光源と、
前記光源が出射した光から前記波長帯域より狭い波長帯域の光を抽出する分光波長連続可変型のモノクロメータと、
回折光学素子を含む被検体へ前記モノクロメータが抽出した光を投光する投光部と、
前記投光部が投光した光に応じて前記被検体で発生した回折光の強度を検出する検出部と
を備えたことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回折性能測定装置において、
前記モノクロメータは、
零分散型のダブルモノクロメータである
ことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の回折性能測定装置において、
前記ダブルモノクロメータの中間スリットのスリット幅は、
前記ダブルモノクロメータの入出力スリットのスリット幅とは独立に可変である
ことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の回折性能測定装置において、
前記光源は、
スーパーコンティニウム光源である
ことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の回折性能測定装置において、
前記投光部は、
前記被検体へ投光する光の偏光状態及び偏光方位の少なくとも一方を制御する偏光制御手段を備えた
ことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れか一項に記載の回折性能測定装置において、
前記投光部と前記被検体と前記検出部との少なくとも1つを移動又は姿勢変化させる駆動手段を更に備えた
ことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の回折性能測定装置において、
前記駆動手段は、
前記投光部と前記被検体との間の位置関係を調節する
ことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の回折性能測定装置において、
前記駆動手段は、
前記投光部と前記被検体との間の角度関係を調節する
ことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項9】
請求項6〜請求項8の何れか一項に記載の回折性能測定装置において、
前記駆動手段は、
前記投光部と前記検出部との間の位置関係を調節する
ことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項10】
請求項6〜請求項9の何れか一項に記載の回折性能測定装置において、
前記駆動手段は、
前記投光部と前記検出部との間の角度関係を調節する
ことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項11】
請求項6〜請求項10の何れか一項に記載の回折性能測定装置において、
前記検出部は、
前記被検体で発生した回折光の強度を二次元撮像素子で検出する
ことを特徴とする回折性能測定装置。
【請求項12】
請求項6〜請求項11の何れか一項に記載の回折性能測定装置において、
前記駆動手段は、
前記回折光のうち強度の検出対象である回折光が最も集中する位置において前記検出部が前記検出を行うように、前記投光部と前記被検体と前記検出部との少なくとも1つを移動又は姿勢変化させる
ことを特徴とする回折性能測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−14538(P2010−14538A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174600(P2008−174600)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】