説明

回転切削刃の非接触式損耗検知システム、スローアウェイチップの損耗検知方法及びフライス工具

【課題】回転切削刃(フライスカッター)の被損耗部分(スローアウェイチップの切刃稜)の損耗を、非接触式で且つ高速回転時にも正確且つ簡単に検知する。
【解決手段】被損耗部分に導電センサ部23を設け、回転切削刃が取り付けられる回転体に導電コイル21を設け、導電センサ部23と導電コイル21とを導電回路20として構成する。回転切削刃が取り付けられる回転体(フライスアーバ)の回転により導電コイル21と周期的に近接する位置に、高周波発振コイル12を配設する。この高周波発振コイル12と、高周波発振源13と、並列配設されたコンデンサー11a及び抵抗11bからなるRC回路11とを直列に接続し、RC回路11の両端間の電圧値又は電流値を検出部14で検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転切削刃の非接触式損耗検知システム、スローアウェイチップの損耗検知方法及びフライス工具に関し、特に、回転切削刃の回転を停止させることなく、切削加工中(インプロセス)において、非接触式で回転切削刃の損耗を検知することができる回転切削刃の非接触式損耗検知システム、スローアウェイチップの損耗検知方法及びフライス工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スローアウェイチップ等を切削部分に取り付けた回転切削刃は種々の機械加工に用いられているが、このスローアウェイチップの損耗は加工製品の不良発生の直接的な原因となるため、早期かつ確実な検知システムが求められている。しかしながら、切削加工中のスローアウェイチップの切刃稜がどの程度摩耗したかを調べることは、容易なことではない。特に、切削加工中に、切削加工を中断することなく、切刃稜の摩耗量を検出することは作業環境上大変難しい。
【0003】
従来の切刃稜の摩耗量検知方法としては、(1)切削加工を中断し、スローアウェイチップをホルダ等から取り外し、工具顕微鏡等で切刃稜を観察するというやり方、(2)切刃稜の摩耗に付随して起こる現象、たとえば切削力の低下や振動の増加、異音の発生等を、工作機械上の加工部近傍に設置したセンサで検出し、その検出信号に基づいて切刃稜の摩耗量を推定するやり方、等があった。
【0004】
しかしながら、上記(1)のやり方は、切削加工を中断して行わなければならず、しかも切刃稜の摩耗量を定量的に検出できず、精度が良くないという課題があった。また、上記(2)のやり方は、複雑な検出装置を必要とし、しかも、摩耗量の検出感度が悪く、信頼性に欠けるという課題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、スローアウェイチップの切刃稜近傍、具体的にはスローアウェイチップの逃げ面に前記した切刃稜に沿って延びる導電性膜のセンサ部を設け、このセンサ部の両端を外部の検知回路に接続して、センサ部の電気抵抗値を測定し、切刃稜が摩耗してセンサ部が断線したとき、抵抗値の変化から当該切刃稜が損耗したことを知ることができるようにした損耗センサ付きスローアウェイチップが開示されている。(例えば、特許文献1参照)
前記特許文献1に開示のような損耗センサ付きスローアウェイチップを使用して切刃稜の損耗状態を検知するものでは、スローアウェイチップのセンサ部が外部の検知回路に接続されていることが前提となる。このため、前記損耗センサ付きスローアウェイチップは、工具自体は回転せずに被削材が回転して被削材の切削加工が行われるような工具(例えば旋盤等)に適用されている。
【0006】
しかしながら、例えば工具自体が回転するフライス工具の場合には、スローアウェイチップはフライスカッターの先端部に保持されて高速回転するため、スローアウェイチップに設けたセンサ部を外部の検知回路に電気的に接続することができない。このため、従来のフライス工具では、通常、損耗状態を検知するために切削加工を一旦中断してスローアウェイチップをフライスカッターから取り外し、工具顕微鏡等で切刃稜の摩耗程度や欠損の有無を観察する等の方法が採用されていたが、切削作業の効率が低下し、かつ煩雑であるほか、摩耗量を定量的に検出できないため精度も低いという問題があった。
【0007】
このような問題を解決する方法として、フライス工具のように工具自体が回転する場合にはスローアウェイチップの切刃稜近傍に設けたセンサ部を外部の検出回路に接続できないので、高周波発振型近接スイッチを非接触式検知手段として利用して、スローアウェイチップ等の損耗部材の損耗を非接触で検知できる非接触式損耗検知システムとしたものが知られている。(例えば、特許文献2参照)
前記特許文献2に示すものでは、スローアウェイチップ等の被損耗部分を有する可動部材に、図18に示すように、被損耗部分に設けた導電性膜からなるセンサ部200(例えばセンサライン)、同調用コンデンサー300、及び高周波コイル400から形成された共振回路100を形成している。この共振回路100の高周波コイル400を高周波発振型近接スイッチ500における発振コイル600の近接位置に配置している。この発振コイル600は発振回路700に接続され、発振回路700の出力が検出回路800で検出されるように構成されている。この構成にすることによって、センサ部200が損耗のない正常状態では共振回路100に高周波電流が流れて、発振回路700の発振が低下ないし停止する。それに対して、前記センサ部200が損耗して断線した状態では共振回路100に高周波電流が流れなくなり、発振回路700の発振が行われる。これにより、被損耗部分の損耗を非接触で検知するようになっている。
【特許文献1】特開2001−121308号公報
【特許文献2】特開2004−74393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記特許文献2のものでは、高周波発振型近接スイッチ500の発振コイル600と高周波コイル400とが対向する位置にある状態と対向しない位置にある状態とを区別して検出する検出精度が十分でないため、スローアウェイチップを取り付けた回転切削刃が高速で回転している場合には検出できない不具合を有している。実際には、回転切削刃の回転速度が500rpm程度までしか実用できず、回転切削刃が1000rpm以上で回転する場合には、発振コイル600と高周波コイル400とが対向する位置にある状態と対向しない位置にある状態とを全く区別して検出できなかった。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、回転切削刃の被損耗部分の損耗を、非接触式で且つ高速回転時にも正確且つ簡単に検知できるようにした回転切削刃の非接触式損耗検知システム、スローアウェイチップの損耗検知方法及びフライス工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明者らが鋭意実験研究を重ねた結果、例えばスローアウェイチップ等の切刃部(被損耗部分)に導電性膜からなる導電センサ部を設け、スローアウェイチップを取り付けた回転体に導電コイルを設け、該導電センサ部と導電コイルとを直列に接続して導電回路を構成し、前記導電コイルに対し、前記回転体の回転により周期的に互いに近接する位置に高周波発振コイルを非接触で配設した場合、導電コイルが高周波発振コイルに近接したときにおいて、前記導電回路が導通状態にある場合と非導通状態にある場合とで、前記高周波発振コイルの自己インダクタンスが微妙に変化することが判明し、本発明では、この点に着目して、そのような高周波発振コイルの自己インダクタンスの差異を効果的に生じさせかつ検出できるような共振回路を設けるようにした。
【0011】
具体的には、請求項1の発明は、コンデンサーと抵抗とが並列に接続されたRC回路、高周波発振コイル、及び高周波発振源が直列に接続された共振回路と、回転切削刃の被損耗部分に設けた導電性膜からなる導電センサ部と該回転切削刃が取り付けられる回転体に設けられた導電コイルとが直列に接続された導電回路とを備え、前記共振回路の高周波発振コイルと前記導電回路の導電コイルとは、前記回転体の回転により周期的に互いに近接する位置に配置されており、前記RC回路の出力を検出する検出部を更に備える構成である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1記載の回転切削刃の非接触式損耗検知システムにおいて、前記導電回路に、前記導電センサ部及び前記導電コイルと直列に接続された同調用コンデンサーが設けられている構成である。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の回転切削刃の非接触式損耗検知システムにおいて、前記検出部は、前記RC回路の電圧値又は電流値を検出するように構成されている構成である。
【0014】
請求項4の発明は、スローアウェイチップの損耗検知方法の発明であって、回転切削刃に装着されたスローアウェイチップの切刃部近傍に導電性膜からなる導電センサ部を設け、この導電センサ部を導電コイルと直列に接続して導電回路を構成し、該導電回路が前記回転切削刃を含む回転体に取り付けられてスローアウェイチップと共に回転するとともに、前記回転体の回転による前記導電コイルの回転経路近傍に、該回転体の回転により前記導電コイルと周期的に近接する高周波発振コイルを配置し、該高周波発振コイル、高周波発振源、及びコンデンサーと抵抗とが並列に接続されたRC回路を直列に接続した共振回路を配設し、前記導電回路の導通時及び非導通時の夫々において前記導電コイルが前記高周波発振コイルに近接したときの該高周波発振コイルの自己インダクタンスを検出して、前記スローアウェイチップの切刃部の損耗により前記導電センサ部が断線して前記導電回路が非導通状態になったときにおける前記高周波発振コイルの自己インダクタンスの前記導通時に対する変化量によって前記損耗を検知するものである。
【0015】
請求項5の発明は、請求項4記載のスローアウェイチップの損耗検知方法において、前記導電回路の導通時と非導通時とで、前記共振回路の高周波発振コイルの自己インダクタンスの変化によって差異が生じる前記RC回路の電圧値又は電流値を検出することで、該自己インダクタンスの変化量を検出するものである。
【0016】
請求項6の発明は、フライス工具の発明であって、切刃部近傍に導電性膜からなる導電センサ部を設けたスローアウェイチップが先端部に装着されたフライスカッターと、このフライスカッターを取り付けるためのフライスアーバと、このフライスアーバをフライス工具回転軸に対して位置決めするドライブキーとを備え、前記フライスアーバにおいて該ドライブキーと円周方向に離れた位置に導電コイルが設置され、この導電コイルと前記導電センサ部とが直列に接続されて導電回路を形成しており、前記フライスアーバの回転により前記導電コイルと周期的に近接する位置には高周波発振コイルが設けられ、前記高周波発振コイル、高周波発振源、及び抵抗とコンデンサーとを並列に接続したRC回路が直列に接続された共振回路を構成し、前記共振回路のRC回路の電圧値又は電流値を検出する検出部を備える構成である。
【0017】
請求項7の発明は、請求項6記載のフライス工具において、前記導電回路に、前記導電センサ部及び前記導電コイルと直列に接続された同調用コンデンサーが設けられている構成である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、導電コイルが高周波発振コイルに近接したときにおいて、導電回路が導通状態にある場合と被損耗部分の損耗により導電センサ部が断線して導電回路が非導通状態になった場合とで、高周波発振コイルの自己インダクタンスが変化し、これにより、RC回路の出力(電圧値や電流値)も変化し、その変化を検出部で検出することによって、回転切削刃の被損耗部分の損耗を非接触で検知することができるようになる。また、回転体が高速で回転していても、被損耗部分の損耗を確実に検知することができる。よって、回転体が高速で回転していても被損耗部分の損耗を確実且つ簡単な構成で検出することができ、その上、回転停止した場合でも、その停止直前の回転時におけるRC回路の出力を検出しておくことで、損耗を検知することができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、回転切削刃の被損耗部分に設けた導電センサ部の断線(つまり被損耗部分の損耗)を、回転体の高速回転時にも低速回転時にもより明確に且つ確実に検知することができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、検出部の構成が簡単になり、検出部の低コスト化を図ることができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、請求項1の発明と同様に、回転体が高速で回転していても、スローアウェイチップの切刃部の損耗を確実且つ簡単な構成で検知することができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、簡単な方法で高周波発振コイルの自己インダクタンスを検出することができ、導電センサ部の断線(つまり切刃部の損耗)を、明確に且つ確実に検知することができる。
【0023】
請求項6の発明によれば、請求項1の発明と同様に、フライス工具におけるスローアウェイチップの切刃部の損耗を、フライス工具回転軸の回転中に簡単な構成で検知することができる。
【0024】
請求項7の発明によれば、フライス工具におけるスローアウェイチップの切刃部の損耗をより正確に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る非接触式損耗検知システムを備えたフライス工具を示す正面図である。このフライス工具は、図3に示すような、先端部に複数のスローアウェイチップ30が周方向に所定間隔をあけた状態で装着されたフライスカッター31(回転切削刃)を、図2に示すようなフライスアーバ32に一体に取付け、このフライスアーバ32のテーパ部32aを、フライス盤本体37に対して回転するスピンドル33(フライス工具回転軸)に装着したものである。切削時には、フライスカッター31はフライスアーバ32と共にスピンドル33の軸心Aを中心にして高速回転する。このことで、フライスアーバ32は回転体を構成することとなる。
【0026】
フライスアーバ32におけるテーパ部32aの根元付近には、テーパ部32aよりも径方向に突出する円柱状部34が一体形成されている。この円柱状部34の外周部にはコイル埋設部36が設けられている。このコイル埋設部36は、導電コイル21を巻き付けたフェライト製コア21aを孔内に外側から埋め込んでフライスアーバ32に一体化したものである。円柱状部34の外周部においてフライスアーバ32の中心軸(スピンドル33の軸心A)に対してコイル埋設部36と対称な位置には、回転バランスを取るための切欠き溝38が設けられている。
【0027】
前記スピンドル33には、該スピンドル33の回転力をフライスアーバ32に伝達しかつスピンドル33に対して位置決めするための2つのドライブキー39がスピンドル33の軸心Aに対し互いに対称な位置に設けられている。そして、図2に示すように、これらドライブキー39が嵌まる凹部35が、円柱状部34の外周部においてコイル埋設部36と切欠き溝38との間の略中央位置(2箇所)にそれぞれ設けられている(図2では1つの凹部35しか見えていない)。導電コイル21、切欠き溝38及びドライブキー39(凹部35)は、円柱状部34の外周部においてフライスアーバ32の中心軸から略同じ距離に位置している。
【0028】
前記導電コイル21は、そのコア21aがフライスアーバ32の径方向に延びる(つまりコア21aの一端面がフライスアーバ32の径方向外側を向く)ように配設されていて、後述するようにスローアウェイチップ30の導電センサ部23及び同調用コンデンサー22と共に導電回路20を形成する。
【0029】
フライスアーバ32の回転による導電コイル21の回転経路近傍には、高周波発振コイル12が配設されている。この高周波発振コイル12は、そのフェライト製コア12aの一端面がフライスアーバ32の円柱状部34の外周面と対向するようにフライス盤本体37に取り付けられていて、フライスアーバ32の回転により導電コイル21と周期的に近接する位置(例えば0.5mm〜3mmの間隔があく位置)に配置されている。つまり、フライスアーバ32が1回転する毎に、導電コイル21のコア21aの外側端面と高周波発振コイル12のコア12aのフライスアーバ側の端面とが、互いに近接した状態で対向し合うことになる。
【0030】
ここで、前記スローアウェイチップ30の一例を図4に示す。スローアウェイチップ30は、台形断面を有する母材40を有する。母材40の上面はすくい面40aとなり、側面は逃げ面40bとなる。すくい面40aと逃げ面40bとの間の稜線部が、切削を行うための切刃稜41(切刃部)であり、切刃稜41ないしその近傍部分が被損耗部分に該当する。
【0031】
母材40の中央部には、上面から下面に貫通するねじ挿通孔42が形成されている。スローアウェイチップ30をホルダー等のチップポケットに装着する際には、前記ねじ挿通孔42にクランプねじを挿通させ、チップポケットに形成されたねじ孔に螺合させてスローアウェイチップ30を固定する。スローアウェイチップ30を固定した状態では、例えばコーナ部43が切削に利用される。この実施形態に示すチップ30は、クランプねじを緩めて90゜回転させることにより、別のコーナ部43を切削に利用できる。従って、90゜づつ回転させることにより、4つのコーナ部43で順次切削を行うことができる。
【0032】
前記4つのコーナ部43近傍(切刃稜41の近傍)の逃げ面40bには、それぞれ、切刃稜41に沿って延びる導電性膜からなる導電センサ部23が形成されている。すなわち、導電センサ部23は、コーナ部43を形成する相隣接する2つの逃げ面40b、40bにまたがって切刃稜41に沿って延びている。導電センサ部23は母材40に対して電気的に絶縁状態で形成される。
【0033】
図5に示すように、切刃稜41から導電センサ部23の下辺までの距離Wは、コーナ部43の寿命基準量(逃げ面40bの摩耗限界)に一致している。フライス工具等に用いられるスローアウェイチップ30におけるコーナ部43の寿命基準量は、通常、切刃稜41から0.05〜0.7mmの範囲内である。従って、導電センサ部23の幅tは、切刃稜41から導電センサ部23の下辺までの距離Wと等しいか、それよりも小さい値に設定される(すなわちt≦W)。なお、寿命基準量や摩耗限界は一定ではなく、予備切削(粗削り)、標準削り、仕上げ切削等のように切削目的に応じて変わりうる。
【0034】
好ましくは、図6に示すように、導電センサ部23′が切刃稜41を介してすくい面40aと逃げ面40bとにまたがって形成され、導電センサ部23′の上辺が切刃稜41よりもすくい面40a側に形成されているのがよい。これは、後述するように、レーザ加工等で不要な導電性膜を除去して導電センサ部23のパターンを形成する際に、切刃稜41にもレーザを照射する必要があるため、切刃稜41の部分が一旦溶融して再固溶した粗面な表面状態となってしまうのを防止するためである。
【0035】
コーナ部43で切削加工が行われると、時間の経過と共に切刃稜41ないしその近傍の逃げ面40bの摩耗が進行する。逃げ面40bの摩耗が進行して、導電センサ部23に到達し、さらに摩耗が進行すると、ついには寿命基準量に到達し、導電センサ部23は断線する。
【0036】
図4に示すように、導電センサ部23は一端が接続ライン24を介して接触領域25に接続される。また、導電センサ部23の他端は折り返し部26、折り返しライン27及び接続ライン28を介して接触領域29に接続される。前記2つの接触領域25,29は対をなして配設されており、チップ30の外部回路と電気的に接続される。前記接続ライン24,28、折り返し部26、折り返しライン27及び接触領域25,29は導電センサ部23と一体に導電性膜から形成されており、母材40に対して絶縁状態にある。また、前記接続ライン24,28、折り返し部26及び折り返しライン27は、導電センサ部23の抵抗値の変化を検出するのに影響を及ぼさないように、導電センサ部23の幅tに比べて十分に大きい幅を有している。また、2つの接触領域25,29も外部回路との接続に支障がないように十分に広い面積を有する。なお、導電センサ部23と折り返しライン27との間隔(図5に示すD)は0.05mm以上であるのが好ましい。
【0037】
スローアウェイチップ30の母材40としては、例えばアルミナ質燒結体、窒化珪素質燒結体、サーメット、超硬合金、立方晶窒化ホウ素質燒結体(cBN)、ダイヤモンド燒結体(PCD)等が使用可能である。また、導電センサ部23等の導電性膜は、Ti,Zr,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W等の周期律表4a,5a,6a族金属、Co,Ni,Fe等の鉄族金属、Al等の金属材料や、TiC,VC,NbC,TaC,Cr32,Mo2C,WC,W2C,TiN,VN,NbN,TaN,CrN,TiCN,NbCN,TaCN,CrCN等の周期律表4a,5a,6a族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、(Ti,Al)N等で形成される。このうち、特にTiNを使用するのが好ましい。
【0038】
導電センサ部23を作製するには、まずチップの逃げ面40b表面にCVD法や、イオンプレーティング、スパッタリング、蒸着等のPVD法、めっき法等にて導電性膜を形成する。ついで、レーザ加工やエッチング等によって、その導電性膜を、導電センサ部23のほか、接続ライン24,28、折り返し部26、折り返しライン27及び接触領域25,29を含む所定パターンに加工する。導電センサ部23等の導電性膜の厚みは、約0.05〜20μm、好ましくは0.1〜5μmであるのがよい。
【0039】
導電センサ部23等は、スローアウェイチップ30の母材40がアルミナ質燒結体、窒化珪素質燒結体、cBN等の絶縁物で形成されている場合は、その表面に直接形成される。また、母材がサーメット、超硬合金等の導電物で形成されている場合には、アルミナ等の絶縁物からなる中間層を介在させる。アルミナ等の絶縁物からなる中間層は、導電センサ部23を電気的に独立させる作用を有する。このような中間層はCVD法等の方法を採用することによって、母材40表面と導電センサ部23等(導電性膜)との間に形成される。中間層は厚さが1〜10μm程度であればよい。
【0040】
図7は、前記したスローアウェイチップ30をフライスカッター31に装着する様子を示す概略説明図である。フライスカッター31の下面周縁には所定の間隔で複数(通常、2〜20個)のチップ装着用のポケット51が設けられており、各ポケット51にスローアウェイチップ30が装着される。すなわち、スローアウェイチップ30に設けたねじ挿通孔42にクランプねじ44を挿通させ、ポケット51の側面に設けられたねじ孔に螺合させてスローアウェイチップ30を所定位置に固定する。なお、スローアウェイチップ30はクランプねじ44で固定する場合に限らず、例えばクランパーをねじ止めすることによって固定するようにしてもよい。
【0041】
図8に示すように、スローアウェイチップ30の着座面に設けた前記一対の接触領域25,29に対向するポケット51の一側面には、一対のプローブ52,53が突設された領域50が設けられている。プローブ52,53は、スプリング等によって弾力付勢されて先端が領域50の表面から突出している。このため、チップ30が装着されると、プローブ52,53が押し下げられて、プローブ52,53の先端が前記一対の接触領域25,29と当接し、電気的に接触状態となる。なお、図4に示すスローアウェイチップ30では、一対の接触領域25,29をすくい面40aとは反対の着座面に形成したが、これは図8に示すようにポケット51内の側面に形成されたプローブ52,53と当接させるためである。従って、プローブ52,53の設置位置に応じて、一対の接触領域25,29の少なくとも一方を他の面、例えば逃げ面40bに形成することもできる。
【0042】
プローブ52,53には、図7及び図8に示すように、2本のリード線54の一端がそれぞれ接続されている。これら2本のリード線54の他端は、前記導電コイル21及び同調用コンデンサー22にそれぞれ接続されて、後述する導電回路20を形成することになる。
【0043】
図1においては、共振回路10と導電回路20とを解かりやすく説明するために、簡略的にフライス工具の構造の中に記載した。共振回路10は、図9にも示すように、コンデンサー11aと抵抗11bとが並列に接続されたRC回路11、高周波発振コイル12及び高周波発振用の高周波発振源13(交流電源)とが直列に電気接続されたものである。この実施形態では、共振回路10は、発振と検知を同時に行うようになっている。前述の如く、フライスアーバ32の円柱状部34の外周面に近接して高周波発振コイル12が位置しており、円柱状部34の外周部に、コア21aに巻いた導電コイル21が配設されている。そして、導電コイル21、同調用コンデンサー22及び導電センサ部23が互いに直列に接続され閉回路とされて導電回路20が構成される。
【0044】
前記共振回路10内の各要素、即ち高周波発振コイル12、コンデンサー11a及び抵抗11bにかかる電圧の関係を下記(1)式及び(2)式に示す。なお、(1)式及び(2)式中、Lは高周波発振コイル12のインダクタンス(単位:H)、Cはコンデンサー11aの静電容量(単位:F)、Rは抵抗11bの抵抗値(単位:Ω)、Emは交流電源電圧の振幅、ωは交流電源電圧の角振動数(単位:rad/s)、θは回路構成要素による位相差(単位:rad)、tは時間(単位:s)である。
【0045】
高周波発振コイル12の両端間の電圧VL (単位:V)は、
【0046】
【数1】

となる。
【0047】
抵抗11bの両端間の電圧Vr(単位:V)及びコンデンサー11aの両端間の電圧Vc(単位:V)は、
【0048】
【数2】

となる。
【0049】
また、共振周波数f(単位:Hz)は、下記(3)式となる。すなわち、
【0050】
【数3】

となる。
【0051】
前記共振回路10は、LCの直列回路やLCの並列回路からなる共振回路に比べて、出力の大きさが大きいので、ノイズの多い工作機械内や複数の工作機械が設置された工場内であっても正確な検知を行なうことが出来る。特に、共振回路として共振させているので、ノイズ対策の上からも検知が容易となっている。また、後述の如く微小なインダクタンス変化を検知するためには、共振点近傍でインダクタンス変化量に対して出力電圧又は電流の変化量が大きいことが求められるが、通常インダクタンスは1Hよりも小さくてmH又はμHのオーダであることを考慮すると、微小なインダクタンス変化を捉えるためには、次数の低いLの項が含まれるものが好ましい。その点において、前記(1)式及び(2)式に示す、高周波発振コイル12の両端間の電圧VL 、抵抗11bの両端間の電圧Vr及びコンデンサー11aの両端間の電圧Vcは、高周波発振コイル12のインダクタンスLの一次関数で示されているので、微小なインダクタンス変化を捉える上で優れており、コンデンサー11aと抵抗11bとを並列に配設したRC回路11としている。
【0052】
前記共振回路10のRC回路11の両端には、該RC回路11の出力として電圧(Vr又はVc)を検出するための検出部14が接続されている。この検出部14は、例えば図10に示すような構成となっている。即ち、検出部14の電圧波形検出部15でRC回路11の両端間の電圧波形を検出し、その結果を整流部16で整流して、そのアウトプット値を比較部18に送り出す。比較部18では、閾値設定部17で設定された閾値と整流部16からのアウトプット値とを比較する。この閾値を、導電回路20の導電センサ部23が損耗により断線した場合に得られる値に設定することによって、前記アウトプット値が閾値を超えた場合には、導電回路20の導電センサ部23が損耗により断線したとして、報知部19で報知する。このような報知の形態としては、一般的に知られている、例えば、音声報知や点灯表示等がある。
【0053】
なお、本実施形態では、電圧波形検出部15でRC回路11の両端間の電圧(Vr又はVc)を検出するようにしたが、電圧値を検出するのではなくて、電圧に相当するもの、例えばRC回路11の電流値を検出するようにしても良い。
【0054】
また、検出部14の他の構成として、導電センサ部23の断線時と非断線時とのインダクタンス変化量に相当するRC回路11の電圧値又は電流値の変化量を検出して、その変化量が所定閾値よりも大きいときに、導電センサ部23が損耗により断線したとして、報知部19で報知するようにしてもよい。
【0055】
次に、図1に示すフライスカッター31の作動状態を詳細に説明する。フライスアーバ32の回転によって、高周波発振コイル12のコア12のフライスアーバ側端面には、円柱状部34の外周面におけるコイル埋設部36(導電コイル21)、切欠き溝38、ドライブキー39、及びそれ以外の部分(以下、アーバ本体という)が代わる代わる周期的に対向することになる。その対向する部分に応じて、高周波発振コイル12からの高周波発振信号に対する自己インダクタンスが異なる結果として検出される。特に、導電回路20の導電センサ部23が断線して導電回路20が非導通状態になると、高周波発振コイル12に導電コイル21が対向したとき、高周波発振コイル12には、導電コイル21のコア21aに対応した自己インダクタンスが検出される。
【0056】
このように、円柱状部34の外周面における高周波発振コイル12と対向する部分に応じて、高周波発振コイル12のインダクタンスが変化し、それぞれの場合における共振回路10の周波数特性が変化する。
【0057】
ここで、具体的に、共振回路10の発振周波数を決定するため、導電コイル21、アーバ本体(金属からなる)及びドライブキー39のそれぞれが高周波発振コイル12と対向したときにおける共振回路10のRC回路11の出力電圧の周波数特性を調べた。導電コイル21が対向したときについては、導電センサ部23が断線したとき(導電回路20の非導通時)と、断線していないとき(導電回路20の導通時)との両方を調べた。そして、RC回路11内のコンデンサー11aの静電容量及び共振回路10内の発振周波数を種々に変化させて、RC回路11内の抵抗11b(R=50kΩ)の両端間の出力電圧を測定した。
【0058】
RC回路11のコンデンサー11aの静電容量Cを440pFに設定したときの周波数特性を図11及び図12に示す。共振点近傍の周波数特性を示す図11において、導電センサ部23が断線したときにおいて導電コイル21が高周波発振コイル12と対向したときの周波数曲線をX1、導電センサ部23が断線していないときにおいて導電コイル21が高周波発振コイル12と対向したときの周波数曲線をX2、アーバ本体が高周波発振コイル12と対向したときの周波数曲線をX3、ドライブキー39が高周波発振コイル12と対向したときの周波数曲線をX4でそれぞれ示す。いずれの場合も、共振周波数は307〜317kHzの間に存在しており、高周波発振コイル12のインダクタンス変化が極めて小さいことがわかる。また、それぞれの場合のQ値を反映して曲線の尖度が変化しており、周波数領域ごとに出力電圧の大きさの順が異なっている。308〜311kHzで、導電センサ部23の断線時の出力電圧が最も大きくなっているため、この範囲に共振回路10の発振周波数を設定すれば、断線時にのみ、前記報知部19への信号出力可能なシステムが構築可能であるが、周波数幅が3kHzと小さいために、ノイズ等の影響による誤作動が懸念される。
【0059】
図12は、図11に示した周波数範囲よりも大きい340〜370kHzにおける周波数特性を示す。356kHz以上の周波数域で、導電センサ部23の断線時の出力電圧が最も小さくなっており、前記の308〜311kHzに比べ広い周波数領域で導電センサ部23の断線の識別が可能であることが判る。
【0060】
そこで、発振周波数を363kHzとし、フライスアーバ32が回転しているときのRC回路11の出力信号波形を測定した。図13に、フライスアーバ32の回転数が600rpmであるときにおける出力信号波形例を示す。この試験では、図1及び図2と同様のフライスアーバ32を使用した。但し、導電コイル21は、互いに直列に接続した2つのものを近接した状態(コイル間隔25mm)でフライスアーバ32の円柱状部34の外周部内に埋設した。円柱状部34の外周部においてフライスアーバ32の中心軸(スピンドル33の軸心A)に対し導電コイル21と対称な位置には、フライスアーバ32の動バランスをとるために周方向に長さ30mm程度の切欠き溝38が設けられている。円柱状部34の外周部において導電コイル21と切欠き溝38との略中央位置(2箇所)には、ドライブキー39用の凹部35が設けられて、その凹部35にドライブキー39が嵌められている。円柱状部34の前記各部分の影響を受け、図13に示す波形では複雑に増減しているが、導電センサ部23の断線時の出力電圧(破線参照)と断線していないときの出力電圧(実線参照)とに明確な差が生じている。例えば、出力電圧の閾値を0.43Vに設定することにより、断線時にのみ、前記報知部19へ信号を出力するようなシステムを構築することができる。
【0061】
また、前記試験に用いたフライスアーバ32の導電コイル21を1つだけにして、フライスアーバ32の回転数や発振周波数を変えて、共振回路10におけるRC回路11の抵抗11bの両端間の出力電圧を測定した。なお、ドライブキー39は、凹形状のものと凸形状のものとを同時に使用した。
【0062】
この測定結果を図14〜図17に示す。図14〜図17において、導電センサ部23が断線してないときの出力電圧波形をT(実線参照)で示し、断線しているときの出力電圧波形をD(破線参照)で示す。導電コイル21が高周波発振コイル12と対向したときの出力電圧は、導電センサ部23が断線してないときには、凹形状及び凸形状のドライブキー39ならびに切欠き溝38が高周波発振コイル12と対向したときと同じ電圧レベルであるが、断線時には、他とは際立って異なる大きな出力電圧を示す。この出力電圧の差異は、回転数が300rpm、2000rpm及び6000rpmのいずれであっても同様であり、断線時と非断線時とを明確に区別して認識でき、これを検出することができた。なお、図14〜図17で、アーバ金属部とは、アーバ本体の金属部分をいう。
【0063】
このように発振周波数を、導電コイル21が高周波発振コイル12に近接対向したときのRC回路11の出力電圧を導電センサ部23の断線時と非断線時とで明確に区別できるような所定値(前記の例では、308〜311kHz、又は356kHz以上の周波数)に設定しておいて、導電回路20の導通時(導電センサ部23の非断線時)及び非導通時(導電センサ部23の断線時)の夫々において導電コイル21が高周波発振コイル12に近接対向したときの該高周波発振コイル12の自己インダクタンス(つまりRC回路11の出力電圧)を検出するようにすれば、導電センサ部23が断線して導電回路20が非導通状態になったときにおける高周波発振コイル12の自己インダクタンスの前記導通時に対する変化量(つまりRC回路11の出力電圧の変化量)によって、スローアウェイチップ30の切刃稜41の損耗を検知することができるようになる。
【0064】
したがって、本実施形態では、共振回路10のRC回路11の出力電圧を検出することで、フライスアーバ32の回転に対して、フライスアーバ32の円柱状部34の全周囲の状態を検出でき、且つ導電センサ部23が断線しているときと断線していないときとを明確且つ正確に検出することができ、これにより、フライスアーバ32の回転中において、導電センサ部23の断線、つまりフライスカッター31におけるスローアウェイチップ30の切刃稜41の損耗を非接触で検知することができる。また、フライスアーバ32が6000rpmで高速回転していても、切刃稜41の損耗を容易に検知することができる。その上、回転停止した場合でも、その停止直前の回転時におけるRC回路11の出力を検出しておくことで、損耗を検知することができる。
【0065】
なお、前記実施形態では、導電回路20に、導電センサ部23及び導電コイル21と直列に接続された同調用コンデンサー22を設けたが、導電回路20は、同調用コンデンサー22を無くして、導電センサ部23と導電コイル21とが直列に接続されて閉回路とされたものであってもよい。このような同調用コンデンサー22が無い回路で試験を行ったところ、図14〜図17と同様に、断線時と非断線時とを明確に区別して検出することができた。
【0066】
また、前記実施形態では、フライスアーバ32の円柱状部34に導電コイル21を埋め込んだが、その代わりに、フライスアーバ32の外周にボルト等でフランジを取り付けるようにし、このフランジに導電コイルを取り付けるようにしても良い。この場合のフランジの材質は、金属又は磁性材料からなることが好ましいが、損耗の検知に悪影響を及ぼさない限り、非磁性材料を用いても良い。
【0067】
さらに、前記実施形態では、複数のスローアウェイチップ30に対して、コイル埋設部36(導電コイル21)を1つしか設けていなくて、全スローアウェイチップ30の導電センサ部32と1つの導電コイル部21とを全て直列に接続して1つの導電回路20を形成している。この場合に、いずれかのスローアウェイチップ30の導電センサ部32が断線して、その導電センサ部32が断線したスローアウェイチップ30を新品のものと交換する(或いは新規切刃稜41にする)と、他のスローアウェイチップ30の切刃稜41の損耗状態と異なる結果となる。全スローアウェイチップ30の切刃稜41の損耗状態を同じ状態にしたい場合には、全スローアウェイチップ30を新品のものに交換する(或いは新規切刃稜41に切り換える)ことが好ましい。このようにすれば、あえて、どのスローアウェイチップ30の導電センサ部32が断線したかを区別して検出する必要がないので、前記実施形態ではそのような区別をしていない。しかし、全スローアウェイチップ30を交換するにしても、どのスローアウェイチップ30の切刃稜41が損耗したかを区別して検出したい場合には、任意の1つのスローアウェイチップ30における導電センサ部23の断線を他と区別して検出できるようにすれば良い。その区別方法は簡単であり、ここでは説明を省略する。
【0068】
また、導電コイル21をフライスアーバ32の円柱状部34の外周部に、円周方向に所定間隔をあけて複数設けるようにしてもよい。例えば、簡単には、前記実施形態の切欠き溝38を新たなコイル埋設部36として、この新たなコイル埋設部36にも導電コイル21を埋設するようにしても良い。そして、各導電コイル21毎に複数のスローアウェイチップ30をグループ分けして結線すればよい。このことにより、フライスカッター31に取り付けられた複数のスローアウェイチップ30をグループ分けし、それぞれのグループで導電回路20を別々に複数構成することによって、どのグループに属するスローアウェイチップ30が損耗したかを判定するようにしても良い。
【0069】
このように導電コイル21(コイル埋設部36)の数を複数とする場合、その数は2個であってもそれ以上であっても良く、スローアウェイチップ30と同じ数であっても、上記のようにグループ化できる数であってもよい。これにより、複数のスローアウェイチップ30の損耗状態、例えば相隣接する2つのスローアウェイチップ30が損耗した等と判定することができる。
【0070】
加えて、前記実施形態では、本発明の非接触式損耗検知システムをフライス工具に適用したが、本発明の非接触式損耗検知システムはフライス工具への適用に限定されるものではなく、回転する他の工具にも同様にして適用可能であり、さらに、回転する切削刃を備えた各種装置における当該回転切削刃の被損耗部分の損耗を検知するのにも同様にして適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の非接触式損耗検知システムは、フライス工具等のように、使用により損耗する被損耗部分を有する回転切削刃を備えるものに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施形態に係る非接触式損耗検知システムを備えたフライス工具を示す正面図である。
【図2】図1に示すフライス工具の主軸に取り付けられるフライスアーバの斜視図である。
【図3】図2に示すフライスアーバに取り付けられるフライスカッターの斜視図である。
【図4】スローアウェイチップの一例を示す斜視図である。
【図5】図4に示すスローアウェイチップの導電センサ部を拡大して示す部分拡大図である。
【図6】スローアウェイチップの導電センサ部の他の構成を示す部分拡大斜視図である。
【図7】スローアウェイチップのフライスカッタ−への装着方法を示す概略説明図である。
【図8】フライスカッタ−のチップ装着用ポケットの部分拡大斜視図である。
【図9】高周波発振回路を示す回路図である。
【図10】図9の検出部の一例を示すブロック図である。
【図11】導電コイル、アーバ本体及びドライブキーのそれぞれが高周波発振コイルと対向したときにおける共振回路のRC回路出力の周波数特性図である。
【図12】図11とは異なる周波数域の周波数特性を示す図11相当図である。
【図13】導電コイルが2つである場合においてフライスアーバが回転しているときにおける共振回路のRC回路の出力信号波形を示す図である。
【図14】導電コイルが1つである場合においてフライスアーバが回転しているときにおける共振回路のRC回路の出力信号波形を示す図である。
【図15】発信周波数を変更した場合の図14相当図である。
【図16】図14に対しフライスアーバの回転数を変更した場合の図14相当図である。
【図17】図14に対しフライスアーバの回転数を更に変更した場合の図14相当図である。
【図18】従来の非接触式損耗検知システムを示す回路構成図である。
【符号の説明】
【0073】
10 共振回路
11 RC回路
11a コンデンサー
11b 抵抗
12 高周波発振コイル
13 高周波発振源
14 検出部
20 導電回路
21 導電コイル
22 同調用コンデンサー
23 導電センサ部
30 スローアウェイチップ
31 フライスカッター(回転切削刃)
32 フライスアーバ(回転体)
33 スピンドル(フライス工具回転軸)
38 切欠き
39 ドライブキー
41 切刃稜(切刃部)(被損耗部分)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサーと抵抗とが並列に接続されたRC回路、高周波発振コイル、及び高周波発振源が直列に接続された共振回路と、
回転切削刃の被損耗部分に設けた導電性膜からなる導電センサ部と該回転切削刃が取り付けられる回転体に設けられた導電コイルとが直列に接続された導電回路とを備え、
前記共振回路の高周波発振コイルと前記導電回路の導電コイルとは、前記回転体の回転により周期的に互いに近接する位置に配置されており、
前記RC回路の出力を検出する検出部を更に備えることを特徴とする回転切削刃の非接触式損耗検知システム。
【請求項2】
請求項1記載の回転切削刃の非接触式損耗検知システムにおいて、
前記導電回路に、前記導電センサ部及び前記導電コイルと直列に接続された同調用コンデンサーが設けられていることを特徴とする回転切削刃の非接触式損耗検知システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の回転切削刃の非接触式損耗検知システムにおいて、
前記検出部は、前記RC回路の電圧値又は電流値を検出するように構成されていることを特徴とする回転切削刃の非接触式損耗検知システム。
【請求項4】
回転切削刃に装着されたスローアウェイチップの切刃部近傍に導電性膜からなる導電センサ部を設け、この導電センサ部を導電コイルと直列に接続して導電回路を構成し、該導電回路が前記回転切削刃を含む回転体に取り付けられてスローアウェイチップと共に回転するとともに、
前記回転体の回転による前記導電コイルの回転経路近傍に、該回転体の回転により前記導電コイルと周期的に近接する高周波発振コイルを配置し、該高周波発振コイル、高周波発振源、及びコンデンサーと抵抗とが並列に接続されたRC回路を直列に接続した共振回路を配設し、
前記導電回路の導通時及び非導通時の夫々において前記導電コイルが前記高周波発振コイルに近接したときの該高周波発振コイルの自己インダクタンスを検出して、
前記スローアウェイチップの切刃部の損耗により前記導電センサ部が断線して前記導電回路が非導通状態になったときにおける前記高周波発振コイルの自己インダクタンスの前記導通時に対する変化量によって前記損耗を検知することを特徴とするスローアウェイチップの損耗検知方法。
【請求項5】
請求項4記載のスローアウェイチップの損耗検知方法において、
前記導電回路の導通時と非導通時とで、前記共振回路の高周波発振コイルの自己インダクタンスの変化によって差異が生じる前記RC回路の電圧値又は電流値を検出することで、該自己インダクタンスの変化量を検出することを特徴とするスローアウェイチップの損耗検知方法。
【請求項6】
切刃部近傍に導電性膜からなる導電センサ部を設けたスローアウェイチップが先端部に装着されたフライスカッターと、このフライスカッターを取り付けるためのフライスアーバと、このフライスアーバをフライス工具回転軸に対して位置決めするドライブキーとを備え、前記フライスアーバにおいて該ドライブキーと円周方向に離れた位置に導電コイルが設置され、この導電コイルと前記導電センサ部とが直列に接続されて導電回路を形成しており、前記フライスアーバの回転により前記導電コイルと周期的に近接する位置には高周波発振コイルが設けられ、前記高周波発振コイル、高周波発振源、及び抵抗とコンデンサーとを並列に接続したRC回路が直列に接続された共振回路を構成し、前記共振回路のRC回路の電圧値又は電流値を検出する検出部を備えることを特徴とするフライス工具。
【請求項7】
請求項6記載のフライス工具において、
前記導電回路に、前記導電センサ部及び前記導電コイルと直列に接続された同調用コンデンサーが設けられていることを特徴とするフライス工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2006−247814(P2006−247814A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71151(P2005−71151)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】