説明

回転電機とその製造方法

【課題】本発明の目的は、従来技術で用いられていた結線板を必要としない固定子コイルおよびこれを用いた回転電機を実現することである。
【解決手段】
本発明による回転電機では固定子には分割コアを採用し、固定子コイルにおいては偶数個のコイルからなる、各分割コアに集中巻きで連続巻線した組コイルを用いている。具体的にはこの固定子コイルでは例えば、この組コイル3組をそれぞれU相、V相、W相として用い、各々の相の連続巻きしたコイル例えばU相は連続した偶数個のコイルからなり、この偶数個の前半分のコイルと後半分のコイルとは巻き方向を逆転している。このようにして連続巻きした組コイルを用いることにより、結線板を用いない固定子コイルが実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータや発電機などの回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な温室効果ガスの削減、省エネルギーの取り組みとして、自動車の電動化が急速に進んでいる。車載用のモータは搭載空間に制約があり、しかも限られたバッテリ電圧で高い出力を得なければならない。この小型高出力の要求を達成する手段の一つとして、固定子コイルに集中巻を採用したモータでは、分割コアを用いて太線を高密度で巻いて占積率を高める方法がある。
【0003】
一方、モータの低価格化の要求に対しては、従来技術では複数の固定子スロットのコイルを連続巻線して、接続点数を減らし組立て工数を低減する等の対応例が見られる。連続巻線せず、各スロットのコイルから各々引き出し線がでている場合には、引き出し線の数だけ接続を行わなければならない。またこの接続はコイルを固定子に取り付けて行われており、更に結線板を用いて行われているため、作業工数とコスト増加の原因となっている。
【0004】
コイルを連続巻線した場合、コイルの構成によっては中性点の接続を渡り線の途中で行うことになる場合がある。この場合、中性点の接続方法を工夫しないと非常に作業性の悪いものとなる。
特許文献1には異なる相のコイル(1つ置きのスロットのコイル)を連続巻線した複数のコイルを4並列のY結線とする固定子コイルが記載されている。この方法では固定子コイルを組み立てると、3箇所に3相のうち2相の中性点が重なる渡り線の部分ができるので、これら3つの部分で接続を行うとともに、これら3箇所を接続線を用いて接続し3相の中性点を構成する方法が記載されている。しかしこの方法では、固定子コイルを固定子コアに組み込んだ状態で3箇所ヒュージング接続するため、作業性が悪くまた作業工数の増加を招くものである。また4並列でY結線されたコイルの引き出し線が各相の各コイル毎に離れているので、この方法では結線板が必要となり、モータのコストを上げる要因となっている。
【0005】
特許文献2には集中巻のモータで分割コアの連続巻線が開示されている。ここでは、14極12スロット用の固定子コイルの同相コイルを4連続巻線し、2直2並列のY結線で固定子コイルを構成している。またU相、V相、W相の内1つの相のコイルで、4連続巻線の4スロット分のコイルの内2スロットを逆巻きすることにより、各相の引き出し線と各相の中性点接続場所とがそれぞれ固定子円周上の相対する片側に集まるようにしている。特許文献1のこの構造で中性点接続点数を減らすことはできるが、U相コイル、V相コイル、W相コイルの各中性点は異なる場所に配置されるため、この方法においても、3つの中性点を接続するために結線板が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−189525号公報
【特許文献2】特開2006−50690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、従来技術で用いられていた結線板を必要としない固定子コイルおよびこれを用いた回転電機を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による回転電機では固定子には分割コアを採用し、固定子コイルにおいては偶数個のコイルからなる、各分割コアに集中巻きで連続巻線した組コイルを用いている。具体的にはこの固定子コイルでは例えば、この組コイル3組をそれぞれU相、V相、W相として用い、各々の相の連続巻きしたコイル例えばU相は連続した偶数個のコイルからなり、この偶数個の前半分のコイルと後半分のコイルとは巻き方向を逆転している。このようにして連続巻きした組コイルを用いることにより、結線板を用いない固定子コイルが実現される。
【0009】
(1)請求項1の発明は2N個(Nは自然数)のコイルが略等間隔に配置された分割コアに渡り線を介して連続して巻線された組コイルであって、前半のN個(連続巻線された1個目からN個目まで)のコイルと後半のN個(連続巻線されたN+1個目から2N個目まで)のコイルの巻線が逆方向となっていることを特徴とする、回転電機の固定子に使用される組コイルである。
(2)請求項2の発明は、請求項1に記載の組コイルおいて、N個目のコイル目の巻き終わりの渡り線は、立ち上がり角度が90度以上で巻き線方向でコアに近づく側に傾いていることを特徴とする。
(3)請求項3の発明は、請求項1に記載の組コイルにおいて、N+1個目のコイルの巻き終わりの渡り線は、立ち上がり角度が90度以下で巻線方向でコアに近づく側に傾いていることを特徴とする。
(4)請求項4の発明は、請求項1に記載の組コイルにおいて、N個目のコイルの巻き終わりの渡り線は、立ち上がり角度が90度以上で巻線方向でコアに近づく側に傾いており、N+1個目の巻き終わりの渡り線は、立ち上がり角度が90度以下で巻線方向でコアに近づく側に傾いていることを特徴とする。
(5)請求項5の発明は、回転電機に使用される固定子コイルであって、請求項1から4のいずれかに記載の組コイル3組で構成され、それぞれの組コイルはU相、V相、W相の相コイルとして用いられ、これら3組の組コイルの中央部をまとめて接続端子で中性点接続して構成されていることを特徴とする。
(6)請求項6の発明は、請求項5に記載の固定子コイルを用いた4N極6Nスロット(Nは自然数)の回転電機である。
(7)請求項7の発明は、3軸直交ロボットに搭載されたフライヤを使用して複数の分割コアにコイルを巻線して請求項1から4のいずれか1項に記載した組コイルを製造する方法であって、移動可能な保持具に分割コアを保持する工程と、複数の分割コアをそれぞれ保持した保持具を並置する工程と、保持具を移動させてフライヤによる巻線軌道を確保する工程と、巻線軌道を確保した後、複数の分割コアにコイル導体を巻線する工程とを備え、巻線工程は、フライヤにより一つの分割コアにコイル導体を巻線する第1工程、1つのコイルの分割コアにおけるコイル導体の巻き終わり端に渡り線を形成する第2工程、および、渡り線をからげピンにからげる第3工程を繰り返し行い、組コイルの前半のN個のコイルと、後半のN個のコイルとは、それぞれ巻線方向が逆になるように連続巻線して1組の組コイルを製造する組コイルの製造方法である。
(8)請求項8の発明は、3相回転電機の固定子コイルを製造する方法であって、請求項7に記載の製造方法で製造された組コイルを3組準備する工程と、これら3組の組コイルをU相、V相、W相として使用するように組み合わせて環状に組み立てる工程と、これら3組の組コイルのそれぞれの中央部をまとめて接続端子で中性点接続する工程とを備えることを特徴とする3相回転電機の固定子コイルを製造する方法である。
(9)請求項9の発明は、請求項8に記載の固定子コイルを製造する際、3組の組コイルを組み合わせて環状に組み立てるための冶具において、固定子コイルの分割コアの数に等しい数の分割コア保持部を有し、これらの複数の分割コア保持部は全体として環状に変形可能に互いに結合され、各々の分割コア保持部は固定子コイルの分割コアを保持するための保持部材を備えることを特徴とする冶具である。
(10)請求項10の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組コイルに用いられる分割コア、および/または請求項5に記載の固定子コイルに用いられる分割コアであって、請求項9に記載の冶具の保持部材と係合して分割コイルを位置決めする係合部を備えることを特徴とする分割コアである。
(11)請求項11の発明は、請求項6に記載の回転電機を備えた電動ステアリングシステムを搭載した自動車である。
【発明の効果】
【0010】
本発明による、連続巻線したU相、V相、W相のコイルで各々の連続巻線コイルの前半分と後半分の巻方向を逆にしたものを用いて2直2並列のY結線で固定子コイルを構成することにより、これらのコイルの中性点を同一箇所に配置することができるので、接続用端子による中性点接続を一箇所とすることができ、結線板を用いない回転電機が実現される。結線板を用いないことにより更なるモータの低価格化および小型化が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態である12スロットの固定子コイルの結線を示す模式図。
【図2】本発明の一実施形態である12スロットの固定子コイルの中性点接続の結線図。
【図3】本発明の一実施形態である固定子コイルの1相分の4連続巻コイルの構造を示す斜視図(実施例1)。
【図4】本発明の一実施形態である固定子コイルの3相分の4連続巻コイルを重ね合わせた構造を示す斜視図(実施例1)。
【図5】本発明の一実施形態である固定子コイルの1相分の4連続巻コイルの構造を示す斜視図(実施例2)。
【図6】本発明の一実施形態である固定子コイルの3相分の4連続巻コイルを重ね合わせた構造と中性点の接続方法を示す斜視図(実施例2)。
【図7】本発明の一実施形態である固定子コイルの1相分の4連続巻コイルの構造を示す斜視図(実施例3)。
【図8】本発明の一実施形態である固定子コイルの3相分の4連続巻コイルを重ね合わせた構造と中性点の接続方法を示す斜視図(実施例3)。
【図9】本発明の一実施形態である固定子コイルの1相分の4連続巻コイルの巻線方法を説明する一斜視図。
【図10】本発明の一実施形態である固定子コイルの1相分の4連続巻コイルの巻線方法を説明する一斜視図。
【図11】本発明の一実施形態である固定子コイルの1相分の4連続巻コイルの巻線方法を説明する一斜視図。
【図12】本発明の一実施形態である固定子コイルの1相分の4連続巻コイルの巻線方法を説明する一斜視図。
【図13】本発明の一実施形態である固定子コイルの1相分の4連続巻コイルの巻線方法を説明する一斜視図。
【図14】本発明の一実施形態である固定子コイルの3相分の4連続巻コイルの組立方法を説明する斜視図。
【図15】図14に示す本発明の一実施形態である固定子コイルの3相分の4連続巻コイルの組立方法で用いられている分割コア保持具の斜視図。
【図16】本発明による固定子コイルを備えたモータを自動車の電動パワーステアリングに使用した場合の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によるモータは回転子に永久磁石を用いたモータであり、小型・高出力の用途に向いたモータである。本発明による実施形態の例として、8極12スロットのモータに適用したものを以下に図面を用いて説明する。
図1に本発明のモータの各コイルの結線を模式的に表したものを示す。モータ100は、内側に回転子20を、外側に固定子90から構成されるインナーロータ型の分割コアを用いた集中巻のモータである。本実施形態では、8極12スロットのモータを例に説明する。なお、以下で説明するモータ100の構成は一例であって、本発明の内容を変更しない範囲でモータ極数及びスロット数を適宜変更できることはもちろんである。図1に示すように固定子90は、12個のコイル10a〜10lを環状に連結して構成し、その内側に一定のギャップを設けて回転子20が配置されている。回転子20の外周にはマグネットを周方向にN極とS極を交互に配置して8極の磁極が形成されている。
【0013】
図1の各コイル10a〜10lにおいて、巻線の巻き始めは○印、巻き終わりは●印を示している。U相の4個のコイル10a、10d、10g、10jは渡り線を介して連続巻線され、コイル10a、10dの巻回方向は同一方向であり、コイル10g、10jの巻回方向は逆である。V相の4個のコイル10b、10e、10h、10kと、W相の4個のコイル10c、10f、10i、10lも連続巻線の巻回方向は上記と同じ構成である。従って、上記のようにモータ100を構成すれば、U相の4連続コイル、V相の4連続コイル、W相の4連続コイルの各々の中性点は、これら4連続コイルの中間部で、これら4連続コイルの渡り線が重なる箇所40に一箇所に配置することができる。
尚、この例ではU相、V相、W相それぞれの4個のコイルがそれぞれの相の1組の組コイルを構成し、この組コイルの前半の2個のコイルと後半の2個のコイルとでは巻線方向が逆になっている。
【0014】
図2は、本発明のモータ100の固定子90の結線図を示す。
U相のコイル10Uは、入力線15U1、コイル10a、渡り線15U2、コイル10d、渡り線15U3、コイル10g、渡り線15U4、コイル10j、入力線15U5を連結して構成する。コイル10a、10dの巻回方向は同一方向であり、コイル10g、10jの巻回方向は逆である。V相のコイル10V、W相のコイル10Wの巻回方向は上記と同じ構成である。つまり本発明のモータ100は、2直2並列のY結線で構成されている。ここでU相のコイル10U、V相のコイル10V、W相のコイル10Wの中間部はそれぞれ渡り線15U3、15V3、15W3であり、これらを接続用端子30で中性点接続することにより、各相での連続巻した4個のコイルは全て同相のコイルとすることができ、8極12スロットのモータ用の固定子20として機能することができる。
【0015】
図3を参照して、本発明の一実施形態である回転電機の1相分の4連続コイルの構造について、U相のコイル10Uaを一例に説明する。図3に示すようにU相のコイル10Uaは、4個のコイル10a、10d、10g、10jを横に並べて配置し、各コイルは渡り線15U2、15U3、15U4を介して略等間隔に連続巻線されている。ここで端末線である15U1と15U5が入力線となる。ここでU相のコイル10Uaの中間部である渡り線15U3において、2コイル目(コイル10d)の巻き終わりの渡り線15U3aは、立ち上がり角度θ1が90度以上で巻線方向でコアに近づく側に傾けている。また、3コイル目(コイル10g)の巻き終わりの渡り線15U4aは、立ち上がり角度θ2が90度以下で巻線方向でコアに近づく側に傾けている。V相のコイル10Va、W相のコイル10Waも上記と同様の構造でコイルを構成する。
ここで、この4連続巻コイルの中間部に相当する2コイル目の巻き終わりの渡り線の立ち上がり角度θ1を90度以上で巻線方向でコアに近づく側に傾け、3コイル目の巻き終わりの渡り線の立ち上がり角度θ2を90度以下で巻線方向でコアに近づく側に傾けることにより、3つの中性点に接続用端子30を装着し、電極をあてがう空間を確保することが可能となっている。
【0016】
図4に本発明の一実施形態である3相分の4連続コイルを重ね合わせた構造を示す。W相のコイル10Wa、V相のコイル10Va、U相のコイル10Uaの順に、コイルを横に並べた状態で重ね合わせる。ここで、U相のコイル10Ua、V相のコイル10Va、W相のコイル10Waの中間部には前述の巻き終わりの渡り線を傾斜させたことで中性点接続するための空間40が形成される。この中性点接続部40にクラッド材などの接続用端子30を挿入して、電極をあてがいヒュージング接続すれば、モータ100の結線が実現できる。さらにこの横に展開されたコイルを環状に組み立てることにより、固定子20を形成することができる。
【0017】
図5を参照して、本発明の一実施形態である回転電機の1相分の4連続コイルの構造について、U相のコイル10Ubを一例に説明する。図3の構造との違いは、U相のコイル10Ubの中間部である渡り線15U3において、2コイル目(コイル10d)の巻き終わりの渡り線15U3aのみ、立ち上がり角度θ1が90度以上で巻線方向でコアに近づく側に傾けている点である。この結果、図6に示すように中性点接続部41は、中性点接続部40と比べて幅は狭くなるものの、接続箇所として十分機能することが分かる。
【0018】
図7を参照して、本発明の一実施形態である回転電機の1相分の4連続コイルの構造について、U相のコイル10Ucを一例に説明する。図3の構造との違いは、3コイル目(コイル10g)の巻き終わりの渡り線15U4aのみ、立ち上がり角度θ2が90度以下で巻線方向でコアに近づく側に傾けている点である。この結果、図8に示すように中性点接続部42は、中性点接続部40と比べて幅は狭くなるものの接続箇所として、十分機能することが分かる。
【0019】
以上、図3、図5、図7に示したコイル10Ua、10Ub、10Ucの巻線方法の一例を図9から図13を参照して、U相のコイルで説明する。図9にはフライヤの一部で先端部60のみが示されている。フライヤは3軸直交ロボットの先端に搭載され、巻線だけでなく、渡り線を形成することが可能である。分割コア11は前後機構50に装着されている。前後機構50によりコアを前後させ、フライヤ60の巻線軌道を確保することができる。この前後機構50には巻き始めの渡り線を固定するための円柱状のからげピン52が配置されている。さらに前後機構50には巻き終わりの渡り線を固定するための櫛歯状の可動式のピン51が搭載されている。
尚図9には示されていないが、この分割コア11には、コイルが巻き回されない奥側中央部に、図で下側から深穴が設けられている。この深穴は固定子コイルを組立てる際に、組立用の冶具に設けられた保持部材と嵌合して分割コアの位置決めをするようになっている。
【0020】
1コイル目と2コイル目を例に巻線方法を説明する。フライヤ60による1コイル目(10a)の巻線完了後、櫛歯状の可動式のピン51を前進させて、巻き終わりのコイル導体を固定する。フライヤはその場所で待機する。次に前後機構50ごと1コイル目(10a)を後方に後退させる。次に、前後機構50で分割コア11を前進させて、3軸直交ロボットでフライヤ60を移動させて渡り線15U2を形成する。円柱状のからげピン52にコイル導体をからげて分割コア11にコイル導体を巻き落として2コイル目の巻線を開始する。以下、同様の動作を繰り返して、4連続巻線が実現できる。
【0021】
図10に4連続巻線完了後のコイルの状態を示す。図示していないが、前後機構50はすべて後退させた状態であり、端末線はフライヤ60のノズルから切断され、入力線15U5を形成している。フライヤ60は原点位置に退避した状態である。この状態で、櫛歯状の可動式のピン51をすべてコイルの後方に退避させる。
【0022】
次に図11に示すように連続した4個のコイルを上方に持ち上げて、各コイルを円柱状のからげピン52から取り外す。さらに図12に示すように渡り線15U2、15U3、15U4を上方に起こすように成形すると、図13に示すように4連続のU相のコイル10Uが完成する。
【0023】
最後に3相分の4連続コイル(組コイル)の組立方法を図14で説明する。図14に示すようにW相のコイル10Wa、V相のコイル10Va、U相のコイル10Uaの順に、コイルを横に並べた状態で重ね合わせる。すなわち、これら3つの組コイルを組み合わせて1つの固定子コイルとなるようにする。
3相分の4連続コイルを蛇腹状の分割コア保持具65(図15参照)に取り付ける。蛇腹状の分割コア保持具65は円柱状のブロック70に突き当てて環状に丸める事が可能である。ここで各コイルの渡り線は、コイルを環状に丸める際に位置を固定しないと形状が安定しないため、渡り線の内周側に渡り線の形成用ブロック80を、外周側に渡り線の形成用ブロック85を押し付けながら環状に組み立てる動作をすることにより、渡り線を所望の位置に形成することが可能である。
【0024】
ここで、渡り線形成用ブロック80をキノコの様に傘を設けた形状にしたのは、渡り線が上方に逃げながら成形することを防止するためである。これにより、渡り線高さも所望の高さに成形することが可能である。コイルを環状に組立後、接続端子30で中性点接続して固定子20を形成することができる。
【0025】
尚、この蛇腹状の分割コア保持具65、固定子コイルの分割コアの数に等しい数の分割コア保持部66が結合されたものである。隣接する分割コア保持部同士は、連結ピン68によって連結され、この連結部分を中心として互いに回転可能となっている。このように分割コア保持部66が連結されている分割コア保持具65は、上記のように3相分の組コイルをこの分割コア保持具65に取り付けた状態で、円柱状のブロック70に突き当てて環状に丸める事が可能となっている。
また、各々の分割コア保持部には分割コアを保持するための保持部材67が設けられている。これらの各々の保持部材は、各々の分割コアに設けられている深穴と嵌合するようになっている。
【0026】
図16は本発明による固定子コイルを備えたモータ100を自動車の電動パワーステアリングシステムに使用した場合の概略図である。
運転者がステアリングホイール101を転舵操作すると、ステアリングシャフト102が回転し、ステアリングシャフト102に取り付けられたトルクセンサ103が転舵操作を検出する。電子制御装置(ECU)105はトルクセンサ103による転舵操作の検出結果に基づいて、運転者の転舵操作をアシストするための回転トルクを決定し、これをモータ100から出力するために、ECU105に備えられた電流出力部からモータに3相の電流を供給する。モータ100で発生した回転トルクは減速機構104を介してラックピニオン機構106に伝達されて直線運動に変換され、連結機構107を介して転舵輪108が操舵される。
尚、位置検出器109および電流検出器110はそれぞれモータ100の回転位置検出およびモータの3相の電流の検出を行う。ECU105はこれらの検出値に基づいて回転トルクを発生するモータに供給する3相電流を調整する。直流電源111はECU105がこれらの制御を行う回路を駆動するため、およびモータ100に回転トルクを発生させる3相電流を供給するための電源である。
自動車内部では各部品の取り付けスペースが限られており、本発明により小型化されたモータはこのような電動パワーステアリングシステムでの使用に極めて適している。
【0027】
以上では本発明の固定子コイルを8極12スロットのモータに適用した場合について説明した。
本発明の固定子コイルの構造および製造方法は8極12スロットのモータ以外でも、4極6スロット、12極18スロット、16極24スロット等、Nを自然数として、極数が4Nでスロット数が6Nのモータで用いられる固定子コイルに適用することができる。この場合、U相、V相、W相の各々の相のコイルは2N個を連続巻線したものであり、各々の連続巻線の前半のN個のコイルと後半のN個のコイルの巻方向は逆方向になっている。
【符号の説明】
【0028】
10a〜101... コイル
10U、10Ua、10Ub、10Uc... U相のコイル
10V、10Va、10Vb、10Vc... V相のコイル
10W、10Wa、10Wb、10Wc... W相のコイル
11... 分割コア
15U1、15U5... 入力線
15U2、15U3、15U4... 渡り線
15V1、15V5... 入力線
15V2、15V3、15V4... 渡り線
15W1、15W5... 入力線
15W2、15W3、15W4... 渡り線
15U3a、15U4a... 巻き終わりの渡り線
20... 回転子
30... 接続端子
40、41、42... 中性点接続部
50... 前後機構
51... 櫛歯状の可動式ピン
52... 円柱状のからげピン
60... フライヤ
65... 蛇腹状の分割コア保持具
66... 分割コア保持部
67... 保持部材
70... 円柱状の押し当てブロック
80、85... 渡り線の形成用ブロック
90... 固定子
100... モータ
101... ステアリングホイール
102... ステアリングシャフト
103... トルクセンサ
104... 減速機構
105... 電子制御装置(ECU)
106... ラックピニオン機構
107... 連結機構
108... 転舵輪
109... 位置検出器
110... 電流検出器
111... 直流電源



【特許請求の範囲】
【請求項1】
2N個(Nは自然数)のコイルが略等間隔に配置された分割コアに渡り線を介して連続して巻線された組コイルであって、前半のN個(連続巻線された1個目からN個目まで)のコイルと後半のN個(連続巻線されたN+1個目から2N個目まで)のコイルの巻線が逆方向となっていることを特徴とする、回転電機の固定子に使用される組コイル。
【請求項2】
請求項1に記載の組コイルにおいて、N個目のコイル目の巻き終わりの渡り線は、立ち上がり角度が90度以上で巻線方向でコアに近づく側に傾いていることを特徴とする組コイル。
【請求項3】
請求項1に記載の組コイルにおいて、N+1個目のコイルの巻き終わりの渡り線は、立ち上がり角度が90度以下で巻線方向でコアに近づく側に傾いていることを特徴とする組コイル。
【請求項4】
請求項1に記載の組コイルにおいて、N個目のコイルの巻き終わりの渡り線は、立ち上がり角度が90度以上で巻線方向でコアに近づく側に傾いており、N+1個目の巻き終わりの渡り線は、立ち上がり角度が90度以下で巻線方向でコアに近づく側に傾いていることを特徴とする組コイル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組コイルを3組有し、それぞれの組コイルはU相、V相、W相の相コイルとして用いられ、これら3組の組コイルの中央部をまとめて接続端子で中性点接続して構成されていることを特徴とする、回転電機に使用される固定子コイル。
【請求項6】
請求項5に記載の固定子コイルを用いた4N極6Nスロット(Nは自然数)の回転電機。
【請求項7】
3軸直交ロボットに搭載されたフライヤを使用して複数の分割コアにコイルを巻線して請求項1から4のいずれか1項に記載した組コイルを製造する方法であって、
移動可能な保持具に前記分割コアを保持する工程と、
前記複数の分割コアをそれぞれ保持した保持具を並置する工程と、
前記保持具を移動させて前記フライヤによる巻線軌道を確保する工程と、
前記巻線軌道を確保した後、前記複数の分割コアにコイル導体を巻線する工程とを備え、
前記巻線工程は、
前記フライヤにより一つの分割コアにコイル導体を巻線する第1工程、前記1つのコイルの分割コアにおけるコイル導体の巻き終わり端に渡り線を形成する第2工程、および、前記渡り線をからげピンにからげる第3工程を繰り返し行い、
前記組コイルの前半のN個のコイルと、後半のN個のコイルとは、それぞれ巻線方向が逆になるように連続巻線して1組の組コイルを製造する組コイルの製造方法。
【請求項8】
3相回転電機の固定子コイルを製造する方法であって、
請求項7に記載の製造方法で製造された組コイルを3組準備する工程と、
前記3組の組コイルをU相、V相、W相として使用するように組み合わせて環状に組み立てる工程と、
前記3組の組コイルのそれぞれの中央部をまとめて接続端子で中性点接続する工程とを備えることを特徴とする3相回転電機の固定子コイルを製造する方法。
【請求項9】
請求項8に記載の固定子コイルを製造する際、前記3組の組コイルを組み合わせて環状に組み立てるための冶具において、
前記固定子コイルの分割コアの数に等しい数の分割コア保持部を有し、
前記複数の分割コア保持部は全体として環状に変形可能に互いに結合され、
各々の分割コア保持部は前記固定子コイルの分割コアを保持するための保持部材を備えることを特徴とする冶具。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の組コイルに用いられる分割コア、および/または請求項5に記載の固定子コイルに用いられる分割コアであって、
請求項9に記載の前記冶具の前記保持部材と係合して分割コイルを位置決めする係合部を備えることを特徴とする分割コア。
【請求項11】
請求項6に記載の回転電機を備えた電動ステアリングシステムを搭載した自動車。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−217478(P2011−217478A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81855(P2010−81855)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】