説明

回転電機

【課題】保持リングによる分割コアの保持力を維持しつつ、保持リングからの面圧による分割コア内部の鉄損を低減し、且つ分割コアの座屈を防止する回転電機を提供すること。
【解決手段】分割コア16は、複数の第1コアプレート165、第2コアプレート166を所定順で積層することで構成され、第1コアプレート165は外周165cが第2コアプレート166の外周166cよりも半径方向外方に突出するよう形成され、第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの外周縁部にスリット165dが第1バックヨーク部165bの周方向両端部を残して貫設されている。これにより、第1コアプレート165に形成されたスリット165dが緩衝部位となってブリッジ部165eが保持リング15の円筒部151からの面圧を受けることになるので、ブリッジ部165eを除く第1バックヨーク部165bで発生する応力を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータのコアに通電することによりロータを駆動する回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
保持リングの円筒部の内周面に、夫々コイルが巻回された複数のコアが円環状に保持されて形成されたステータと、ステータと半径方向に対向するように形成されたロータとを備えた回転電機に関する従来技術が、例えば、特許文献1に開示されている。これは、主にハイブリッド車両の車輪駆動用のモータとして使用されるもので、複数のコアを円環状に並べた状態で保持リングの円筒部の内周面に固定し、その後、保持リングをモータハウジング内に取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3666727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に開示された回転電機においては、複数の分割コア6が保持リングの円筒部の内周部に圧入されて固定されている。図11において、ステータの保持リング5の円筒部51の内周面に、複数の分割コア6を円環状に並べて取り付けた場合の、各分割コア6における応力の発生状態を示す。夫々の分割コア6は図略のコイルが巻回されたティース部61と、ティース部61の半径方向外方に接続されたバックヨーク部62とを有している。互いに隣接する分割コア6は、バックヨーク部62の周方向の端部同士を突き合わせた状態で、保持リング5の円筒部51の内周部に所定の締め代(分割コア6の外径−保持リング5の円筒部51の内径)を持って圧入されている。
【0005】
図11に示すように、分割コア6の保持リング5の円筒部51への圧入により、各々のバックヨーク部62の外周面は、保持リング5の円筒部51の内周面から半径方向内方に略均等な押圧力(面圧)を受けている。また、バックヨーク部62の両端部は、隣接した分割コア6のバックヨーク部62から、周方向の押圧力を受けている。したがって、バックヨーク部62には、圧縮応力が発生しやすくなる。
【0006】
ここで、回転電機の各々の部材には寸法上のばらつきがあり、このばらつきによって上述した締め代も変動する。寸法上のばらつきを考慮して、最悪の場合でも上述した所定の締め代が維持されるように各部材の寸法を設定すると、締め代が大きくなった場合、保持リング5の円筒部51の内周面からバックヨーク部62の外周面に加えられる面圧が増大する。そして、バックヨーク部62に発生した応力が過大になった場合、バックヨーク部62内部の鉄損(応力鉄損)を増大させ、回転電機の効率を低下させる。また、各々の分割コア6は多数の薄い電磁鋼板製のコアプレートが積層されて形成されているため、バックヨーク部62の座屈、すなわちバックヨーク部62が圧縮荷重により軸方向に折れ曲がる変形が発生し、回転電機が損傷するおそれがある。
【0007】
複数の分割コア6を保持リング5の円筒部51の内周面に固定する方法として、上述した常温による圧入以外に焼き嵌めがある。これは、保持リング5を加熱して、その円筒部51の内径を拡張させた状態で円環状に並べた複数の分割コア6を嵌め込み、その後、保持リング5を冷却して、その円筒部51の内径を収縮させることにより、保持リング5の円筒部51の内周面に複数の分割コア6を固定する方法である。しかしながら、この方法によっても、分割コア6と冷却後の保持リング5の円筒部51との間の締め代が大きい場合には、バックヨーク部62に発生する過大な応力によって、バックヨーク部62内部の鉄損が増大して回転電機の効率が低下する点およびバックヨーク部62が座屈して回転電機が損傷するおそれがある点については、圧入による場合と同様であった。
【0008】
分割コア6を保持リング5の円筒部51に強固に取り付けるためには、分割コア6と保持リング5の円筒部51との間に所定以上の締め代を必要とし、該締め代が大きければ保持リング5の円筒部51の内周面からバックヨーク部62の外周面に加えられる面圧は増大し、バックヨーク部62に発生する応力も増大する。すなわち、保持リング5による分割コア6の保持力の維持と、バックヨーク部62内部の鉄損の増大による回転電機の効率の低下およびバックヨーク部62の座屈による回転電機の損傷とは相反する課題であった。
【0009】
保持リング5の円筒部51の内周面からバックヨーク部62の外周面に加えられる面圧は、保持リング5の円筒部51の厚さを薄くすることにより低減させることができる。しかしながら、保持リング5の円筒部51の厚さを薄くすると保持リング5の円筒部51の内周部に複数の分割コア6を圧入もしくは焼き嵌めしたときに保持リング5の円筒部51が破断するおそれがある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、保持リングによる分割コアの保持力を維持しつつ、保持リングからの面圧によるコア内部の鉄損を低減し、且つ分割コアの座屈を防止する回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、ハウジングに対し回転可能に取り付けられたロータと、前記ロータに対し半径方向外方に対向して設けられ、円筒部を有し前記ハウジングに取り付けられた保持リング、および電磁鋼板製のコアプレートを積層して構成され、各々コイルが巻回されるとともに前記円筒部の内周面に固定された複数の分割コアを有するステータと、を備え、各々の前記分割コアは、前記保持リングに取り付けられた状態において、半径方向に延び、コイルが巻回されたティース部と、前記ティース部の半径方向外方に接続され、周方向に延在したバックヨーク部と、を有しており、複数の前記分割コアは、隣接する前記バックヨーク部の端面が互いに当接して円環状に配置された状態で、前記保持リングの円筒部の内周に圧入又は焼き嵌めにより締め代を持って面圧を付与されて前記保持リングに嵌着されている回転電機において、各々の前記分割コアは、複数の第1コアプレートおよび複数の第2コアプレートが所定の順で積層されることにより構成され、前記第1コアプレートは、該第1コアプレートの外周が前記第2コアプレートの外周よりも半径方向外方に突出するように形成され、前記第1コアプレートの前記バックヨーク部にスリットが前記バックヨーク部の周方向両端部を残して貫設されていることである。
【0012】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記第1コアプレートは、該第1コアプレートの外周から前記第2コアプレートの外周までの距離が前記締め代以上となるように形成されていることである。
【0013】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1又は2において、複数の前記分割コアは、互いに隣接する前記分割コアを夫々構成する前記第1コアプレートの前記バックヨーク部の周方向端面同士の当接位置と前記第2コアプレートの前記バックヨーク部の周方向端面同士の接合位置とが周方向にずれるように、前記第1コアプレートおよび前記第2コアプレートが所定の順で積層されて構成され前記保持リングに嵌着されていることである。
【0014】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜3の何れか一項において、複数の前記分割コアは、互いに隣接する前記分割コアを夫々構成する前記第1コアプレートの前記バックヨーク部の周方向端面同士が当接し、前記第2コアプレートの前記バックヨーク部の周方向端面同士間に空隙が生じるように、前記第1コアプレートおよび前記第2コアプレートが所定の順で積層されて構成され前記保持リングに嵌着されていることである。
【0015】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜4の何れか一項において、前記スリットはプレス加工により前記第1コアプレートに形成され、積層された複数の前記第1コアプレートおよび複数の前記第2コアプレートはダボカシメされていることである。
【0016】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜5の何れか一項において、前記第1コアプレートの外周には、前記第2コアプレートとの積層時の位置決め用の切り欠きが、前記第2コアプレートの外周まで達するように形成されていることである。
【0017】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜6の何れか一項において、複数の前記第1コアプレートおよび複数の前記第2コアプレートが所定の順で積層された前記分割コアは、両端に前記第2コアプレートが積層されることにより構成されていることである。
【0018】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、ハウジングに対し回転可能に取り付けられたロータと、前記ロータに対し半径方向外方に対向して設けられ、円筒部を有し前記ハウジングに取り付けられた保持リング、および電磁鋼板製のコアプレートを積層して構成され、各々コイルが巻回されるとともに前記円筒部の内周面に固定された複数の分割コアを有するステータと、を備え、各々の前記分割コアは、前記保持リングに取り付けられた状態において、半径方向に延び、コイルが巻回されたティース部と、前記ティース部の半径方向外方に接続され、周方向に延在したバックヨーク部と、を有しており、複数の前記分割コアは、隣接する前記バックヨーク部の端面が互いに当接して円環状に配置された状態で、前記保持リングの円筒部の内周に圧入又は焼き嵌めにより締め代を持って面圧を付与されて前記保持リングに嵌着され、各々の前記分割コアは、複数の第1コアプレートおよび複数の第2コアプレートが所定の順で積層されることにより構成され、前記第1コアプレートは、該第1コアプレートの外周が前記第2コアプレートの外周よりも半径方向外方に突出するように形成され、少なくとも前記第1コアプレートの前記バックヨーク部の円周方向中央部分において、前記バックヨーク部には円周方向を長手方向とするスリットが形成されていることである。
【0019】
請求項9に係る発明の構成上の特徴は、請求項8において、前記スリットの円周方向における長さは、前記第1コアプレートの前記ティース部の円周方向長さ以上であることである。
【0020】
請求項10に係る発明の構成上の特徴は、請求項1〜9の何れか一項において、前記第1コアプレートの前記バックヨーク部の外周縁部に前記スリットが形成されたことである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明によれば、各々の分割コアは、複数の第1コアプレートおよび複数の第2コアプレートが所定の順で積層されることにより構成され、第1コアプレートは、該第1コアプレートの外周が第2コアプレートの外周よりも半径方向外方に突出するように形成され、第1コアプレートのバックヨーク部にスリットがバックヨーク部の周方向両端部を残して貫設されている。これにより、保持リングの円筒部からの面圧は、第2コアプレートのバックヨーク部よりも突出している第1コアプレートのバックヨーク部のみが受けることになる。したがって、第1コアプレートに形成されたスリットが緩衝部位となって該スリットと第1コアプレートのバックヨーク部の外周との間の部分(以下、ブリッジ部という)が保持リングの円筒部からの面圧を受けることになるので、ブリッジ部を除くバックヨーク部が保持リングの円筒部から受ける面圧を低減して発生する応力を低減することができる。
【0022】
さらに、面圧を受ける第1コアプレートは、面圧を受けない第2コアプレートにより挟み込まれて保持リングに固定されているので、ブリッジ部の軸方向の動きを抑えることができ、ブリッジ部同士をダボカシメや接着等により固定しなくても、ブリッジ部が座屈して軸方向に折れ曲がることを防止することができる。よって、保持リングによる分割コアの保持力の維持と、バックヨーク部内部の鉄損の低減による回転電機の効率向上およびバックヨーク部の座屈の防止による回転電機の損傷防止とを両立させることができる。
【0023】
請求項2に係る発明によれば、第1コアプレートは、該第1コアプレートの外周から第2コアプレートの外周までの距離が締め代以上となるように形成されている。これにより、保持リングの円筒部からの面圧は、常に、第2コアプレートのバックヨーク部には掛からず、第1コアプレートのバックヨーク部のみが受けることになるので、第2コアプレートのバックヨーク部で発生する応力を確実に低減し、第2コアプレートのバックヨーク部内部の鉄損を低減することができる。
【0024】
請求項3に係る発明によれば、複数の分割コアは、互いに隣接する分割コアを夫々構成する第1コアプレートのバックヨーク部の周方向端面同士の当接位置と第2コアプレートのバックヨーク部の周方向端面同士の接合位置とが周方向にずれるように、第1コアプレートおよび第2コアプレートが所定の順で積層されて構成され保持リングに嵌着されている。これにより、第1コアプレートのバックヨーク部は、隣接する第2コアプレートのバックヨーク部に挟持されることになるので、第1コアプレートのバックヨーク部の周方向端面が、隣接する第2コアプレートのバックヨーク部の周方向端面に当たって拗れることはなく、該バックヨーク部の周方向端面同士の当接を確実にすることができる。
【0025】
請求項4に係る発明によれば、複数の分割コアは、互いに隣接する分割コアを夫々構成する第1コアプレートのバックヨーク部の周方向端面同士が当接し、第2コアプレートのバックヨーク部の周方向端面同士間に空隙が生じるように、第1コアプレートおよび第2コアプレートが所定の順で積層されて構成され保持リングに嵌着されている。これにより、保持リングの円筒部からの面圧は、互いに隣接する分割コアを夫々構成する第2コアプレートのバックヨーク部間において殆ど伝播することはなく、第2コアプレートのバックヨーク部内部の鉄損の増大を防止することができる。
【0026】
請求項5に係る発明によれば、スリットはプレス加工により第1コアプレートに形成され、積層された複数の第1コアプレートおよび複数の第2コアプレートはダボカシメされている。スリットの半径方向の幅をプレス加工可能なように広くした場合、ブリッジ部が保持リングの円筒部から受ける圧縮荷重により座屈して軸方向に折れ曲がりやすくなる。しかし、面圧を受ける第1コアプレートは、面圧を受けない第2コアプレートにより挟み込まれて保持リングに固定されているので、ブリッジ部の軸方向の動きを抑えて座屈を防止することができ、この結果、スリットの半径方向の幅をプレス加工可能なように広くすることができる。よって、スリットの形成および第1コアプレートおよび第2コアプレートの表裏面におけるダボカシメ用の凹凸部の形成を一連のプレス加工のみにより対応できるため、分割コアの製造コストを低減することができる。
【0027】
請求項6に係る発明によれば、第1コアプレートの外周には、第2コアプレートとの積層時の位置決め用の切り欠きが、第2コアプレートの外周まで達するように形成されている。複数の第1コアプレートおよび複数の第2コアプレートは型内にて積層するが、第1コアプレートは該第1コアプレートの外周が第2コアプレートの外周よりも半径方向外方に突出するように形成されているので、第1コアプレートの外周のみが型の内壁に当接し、第2コアプレートの外周は型の内壁に当接しないことになる。このため、複数の第1コアプレートおよび複数の第2コアプレートは型内にて高精度に積層することが困難となる。しかし、第2コアプレートの外周まで達する位置決め用の切り欠きが第1コアプレートの外周に形成されているので、位置決め用の切り欠きに嵌まる位置決め部材を型の内壁に設けておくことにより、複数の第1コアプレートおよび複数の第2コアプレートは型内にて高精度に積層することができる。
【0028】
請求項7に係る発明によれば、積層された分割コアは、両端に第2コアプレートが積層されることにより構成されている。これにより、積層両端の第2コアプレートよりも内層側に第1コアプレートが挟み込まれるので、第1コアプレートのブリッジ部の軸方向の動きを抑えることができ、ブリッジ部が座屈して軸方向に折れ曲がることを防止することができる。
【0029】
請求項8に係る発明によれば、各々の分割コアは、複数の第1コアプレートおよび複数の第2コアプレートが所定の順で積層されることにより構成され、第1コアプレートは、該第1コアプレートの外周が第2コアプレートの外周よりも半径方向外方に突出するように形成され、少なくともバックヨーク部の円周方向中央部分において円周方向が長手方向となるスリットが形成されている。これにより、保持リングの円筒部からの面圧は、第2コアプレートのバックヨーク部よりも突出している第1コアプレートのバックヨーク部のみが受けることになる。したがって、第1コアプレートに形成されたスリットが緩衝部位となってブリッジ部が保持リングの円筒部からの面圧を受けることになるので、ブリッジ部を除くバックヨーク部が保持リングの円筒部から受ける面圧を低減して発生する応力を低減することができる。
【0030】
さらに、面圧を受ける第1コアプレートは、面圧を受けない第2コアプレートにより挟み込まれて保持リングに固定されているので、ブリッジ部の軸方向の動きを抑えることができ、ブリッジ部同士をダボカシメや接着等により固定しなくても、ブリッジ部が座屈して軸方向に折れ曲がることを防止することができる。よって、保持リングによる分割コアの保持力の維持と、バックヨーク部内部の鉄損の低減による回転電機の効率向上およびバックヨーク部の座屈の防止による回転電機の損傷防止とを両立させることができる。
【0031】
請求項9に係る発明によれば、スリットは、その円周方向における長さが、第1コアプレートのティース部の円周方向長さ以上となるように形成されている。スリットが円周方向に長いほど、ブリッジ部を除く第1コアプレートのバックヨーク部が保持リングの円筒部から受ける面圧を低減して発生する応力を低減することができる。よって、第1コアプレートのバックヨーク部内部の鉄損をさらに低減させて回転電機の効率を大幅に向上させることができ、また第1コアプレートのバックヨーク部の座屈を防止して回転電機の損傷を防止することができる。
【0032】
請求項10に係る発明によれば、スリットは、第1コアプレートのバックヨーク部の外周縁部に貫設されている。これにより、保持リングの円筒部からの面圧はバックヨーク部の外周縁部に設けられたブリッジ部のみで受けることになるので、バックヨーク部の大部分において保持リングの円筒部から受ける面圧を低減して発生する応力を低減することができる。よって、保持リングによる分割コアの保持力の維持と、バックヨーク部内部の鉄損の低減による回転電機の効率向上およびバックヨーク部の座屈の防止による回転電機の損傷防止とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態の回転電機を備えたハイブリッド車両の車輪駆動系を示す断面図である。
【図2】本実施形態の回転電機のステータの平面図である。
【図3】図2に示すステータに含まれる分割コア単体の分解斜視図である。
【図4】図3に示す分割コアを構成する第1コアプレートおよび第2コアプレートの平面図である。
【図5】図3に示す分割コアの一部を示す側面図である。
【図6】隣接する分割コアの接合部を示す図である。
【図7】隣接する分割コアの接合部の別例を示す図である。
【図8】図3に示す分割コアを形成する際の型内の様子を示す平面図である。
【図9】(A)は、本実施形態の回転電機の保持リングの円筒部と分割コアとの締め代と面圧との関係を示す図、(B)は、従来の回転電機の保持リングの円筒部と分割コアとの締め代と面圧との関係を示す図である。
【図10】(A)は、本実施形態の回転電機の分割コアが保持リングに取り付けられた場合に発生する最小主応力分布、磁束密度分布および鉄損密度分布を、有限要素法(FEM)を用いて解析した結果を示す図、(B)は、従来の回転電機の分割コアが保持リングに取り付けられた場合に発生する最小主応力分布、磁束密度分布および鉄損密度分布を、有限要素法(FEM)を用いて解析した結果を示す図である。
【図11】回転電機の分割コアに応力が発生するメカニズムを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施の形態による回転電機について図1及び図2を参照して説明する。この回転電機1は、ハイブリッド車両の車輪駆動用の同期モータである。なお、図1において、左方を回転電機1およびクラッチ装置3の前方といい、右方を後方ということがあるが、実際の車両上における方向とは無関係である。また、説明中において回転軸方向または軸方向という場合、特に断らなければ、回転電機1の回転軸Cに沿った方向、すなわち図1における左右方向を意味する。また、図2において、分割コア16に嵌合されたボビン162,163およびコイル164は省略されている。
【0035】
図1に示すように、モータハウジング11(本発明の「ハウジング」に該当する)は、回転電機1を構成するロータ13およびステータ14を内蔵した状態で、前方をモータカバー12により封止されている。モータカバー12の前方には、図示しない車両のエンジンが取り付けられ、モータハウジング11の後方には、図示しないトランスミッションが配設されている。また、ロータ13とエンジンとの間には、湿式多板クラッチであるノーマリクローズタイプのクラッチ装置3が介装されている。さらに、回転電機1は、トランスミッションを介して図示しない車両の駆動輪と接続されており、回転電機1による駆動力が駆動輪に入力される。
【0036】
回転電機1が搭載された車両は、エンジンにより走行する場合、エンジンがトランスミッションを介して駆動輪を回転させる。このとき回転電機1を作動してエンジンを補助することもできる。また、回転電機1により走行する場合、回転電機1がトランスミッションを介して駆動輪を回転させる。この時、クラッチ装置3をレリーズさせて、エンジンと回転電機1との間の接続を解除している。さらに、回転電機1は、クラッチ装置3を介してエンジンにより駆動され、発電機としても機能する。
【0037】
モータカバー12の内周端には、軸受31を介してクラッチ装置3のインプットシャフト32が、回転軸Cを中心に回転可能に取り付けられている。回転軸Cは、エンジン、回転電機1およびトランスミッションのタービンシャフト2の回転軸でもある。インプットシャフト32は、エンジンのクランクシャフトと接続されている。また、インプットシャフト32は、クラッチ装置3の係合部33を介して、クラッチアウタ34と接続されている。係合部33が係脱することにより、インプットシャフト32とクラッチアウタ34との間が断続される。クラッチアウタ34は、回転電機1のロータ13に連結されるとともに、半径方向内方へと延びて、内端においてタービンシャフト2とスプライン嵌合している。また、クラッチアウタ34とモータハウジング11の固定壁111との間には、双方の間の相対回転が可能なように、ベアリング装置35が介装されている。
【0038】
回転電機1のロータ13は、クラッチアウタ34を介して、モータハウジング11に回転可能に取り付けられている。ロータ13は、積層された複数の電磁鋼板131を一対の保持プレート132a,132bにより挟み、これに固定部材133を貫通させて端部をかしめることにより形成されている。また、ロータ13の円周上には、図示しない複数の界磁極用マグネットが設けられている。一方の保持プレート132bは、クラッチアウタ34に取り付けられ、これにより、ロータ13はクラッチアウタ34と連結されている。
【0039】
また、モータハウジング11の内周面には、ロータ13と半径方向に対向するように、回転電機1のステータ14が取り付けられている。ステータ14は、保持リング15の内周面に、回転磁界発生用の複数の分割コア16が円環状に並ぶように焼き嵌めにより締め代を持って面圧を付与されて嵌着されて形成されている(図2示)。保持リング15は、鋼板をプレス成形して形成されており、リング状の円筒部151と、円筒部151の軸方向の一側の端部に接続され、全周に亘って半径方向外方に延びる外周フランジ152とを有し、さらに、外周フランジ152の円周上の3箇所には、夫々半径方向外方にさらに延びた取付フランジ153が形成されている(図2示)。
【0040】
取付フランジ153は、ステータ14をモータハウジング11に取り付けるために形成されており、夫々1個の取付穴154、あるいは1個の取付穴154および1個の位置決め用穴155が貫通している(図2示)。保持リング15において、円筒部151と外周フランジ152および取付フランジ153とが接続された部位は、全周に亘って、所定の大きさの曲率を有する曲面に形成されている。
【0041】
一方、各々の分割コア16は、保持リング15に取り付けられた状態において半径方向に延び、コイル164が巻回されたティース部161aと、ティース部161aの半径方向外方に接続され、周方向に延在したバックヨーク部161bとを有している(図2示)。これにより各々の分割コア16は、およそT字状を呈している。保持リング15に取り付けられた複数の分割コア16は、隣接するものとの間で、バックヨーク部161bの端部同士を突き合わせることにより円環状に並び、コア列CRを形成している(図2示)。
【0042】
ティース部161aには一対のボビン162,163が装着され、ボビン162,163は、ティース部161aの外周面を囲むように互いに嵌合している。さらに、ボビン162,163の回りには、回転磁界を発生させるためのコイル164が巻回されている。ティース部161aの周囲に巻回されたコイル164は、図示しないバスリングを介して外部のインバータと接続される。上述した構成を備えた回転電機1において、コイル164に例えば三相の交流電流が供給されることによりステータ14において回転磁界が発生し、回転磁界に起因する吸引力または反発力によって、ロータ13がステータ14に対し回転される。
【0043】
図3に示すように、各々の分割コア16は、2種類の形状のケイ素鋼板製の第1コアプレート165および第2コアプレート166が所定の順、例えば1枚ずつ交互に、もしくは任意の枚数ずつ交互に複数枚積層されることにより形成されている。第1コアプレート165には、少なくとも第1バックヨーク部165bの円周方向中央部分において、円周方向を長手方向とするスリット165dが形成されている。すなわち、第1コアプレート165には、分割コア16のバックヨーク部161bを構成する部分(以下、第1バックヨーク部165bという)の外周165cから所定距離だけ半径方向内方に位置する外周縁部において、第1バックヨーク部165bの周方向両端部を残して周方向に延在し、且つ第1バックヨーク部165bを軸方向に貫通したスリット165dが形成されている。各スリット165dは、円周方向における長さが、第1コアプレート165の第1ティース部165aの円周方向長さ以上となるように形成されている。第2コアプレート166における分割コア16のバックヨーク部161bを構成する部分(以下、第2バックヨーク部166bという)には、上記スリット165dに該当するものは形成されていない。
【0044】
各スリット165dから第1バックヨーク部165bの外周165cまでの部位、すなわち各ブリッジ部165eは、各スリット165dが緩衝部位となって保持リング15の円筒部151からの面圧を受けることになる(図2示)。そこで、第1コアプレート165と第2コアプレート166が同じ枚数ずつ積層される場合、ブリッジ部165eを除く第1バックヨーク部165bで発生する応力を例えば半減するために、スリット165dから第1バックヨーク部165bの外周165cまでの距離、すなわちブリッジ部165eの半径方向の厚さdbを、保持リング15の円筒部151の内周から外周までの距離、すなわち保持リング15の円筒部151の厚さdrの2倍になるように形成されている。
【0045】
また、保持リング15の円筒部151の厚さdrに対するブリッジ部165eの半径方向の厚さdbの割合が大きくなるように各スリット165dを形成し、ブリッジ部165eの強度を向上させることにより、保持リング15の円筒部151からの面圧が大きくなっても該面圧を受けることができ、ブリッジ部165eを除く第1バックヨーク部165bで発生する応力を低減させることができる。
【0046】
また、各スリット165dは、スリット165dの端部から第1バックヨーク部165bの端部までの部位(以下、ブリッジ脚部165fという)が、回転電機1が回転したときに分割コア16に掛かる回転トルクや車両が例えば側面衝突したときに分割コア16に掛かる軸方向力により破断しないように形成されている。すなわち、ブリッジ脚部165fの周方向の長さcbは、上述の回転トルクや軸方向力から決定されている。各スリット165dは、スリット幅が、鋼板の厚さ(t)の2倍より小さい場合、例えばt=0.3mmのときスリット幅が0.6mmより狭い場合は、エッチング加工やレーザ加工が必要であるが、例えば0.6mmから0.8mmと比較的広い場合は、プレス加工により形成される。なお、第1バックヨーク部165bに形成されるスリット165dは、図3に示した形状に限定されるべきではなく、第1バックヨーク部165b上を周方向に延在していれば種々の形状が適用可能である。
【0047】
図4に示すように、分割コア16において、第1コアプレート165は、該第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの外周165cが、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bの外周166cよりも半径方向外方に突き出るように形成されている。この突出長さ、すなわち第1バックヨーク部165bの外周165cから第2バックヨーク部166bの外周166cまでの距離sbは、保持リング15の円筒部151との締め代以上となるように形成されている。
【0048】
これにより、図5に示すように、複数の分割コア16は、第1バックヨーク部165bの外周165cが、第2バックヨーク部166bの外周166cよりも締め代以上の距離sbだけ半径方向外方に突き出た状態で保持リング15の円筒部151に嵌着されるので、保持リング15の円筒部151の内周面には、第2バックヨーク部166bの外周166cは当接せず、第1バックヨーク部165bの外周165cのみが当接する。
【0049】
また、図4に示すように、分割コア16において、第1コアプレート165における分割コア16のティース部161aを構成する部分(以下、第1ティース部165aという)は、第2コアプレート166における分割コア16のティース部161aを構成する部分(以下、第2ティース部166aという)と同一の形状に形成されているが、第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bは、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bに対し、夫々の外周165c,166cの長さub1,ub2は略同一のままで、周方向に所定長vb分だけずれるように形成されている。
【0050】
これにより、図6に示すように、複数の分割コア16は、互いに隣接する分割コア16を夫々構成する第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの周方向端面同士の当接位置r1と、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bの周方向端面同士の接合位置r2とが周方向にずれた状態で、第1コアプレート165および第2コアプレート166が交互に積層されて構成され、保持リング15の円筒部151に嵌着されている。そして、隣接する第1バックヨーク部165bの周方向端面同士が当接され、第2バックヨーク部166bの周方向端面部に挟持されている。隣接する第2バックヨーク部166bの周方向端面同士は軽く接合されてもよいが、微小隙間を持って接合されていてもよい。
【0051】
また、第2コアプレート166は、該第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bの外周166cの長さub2が、第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの外周165cの長さub1よりも僅かに短くなるように形成してもよい。これにより、図7に示すように、複数の分割コア16は、互いに隣接する分割コア16を夫々構成する第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの周方向端面同士が当接し、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bの周方向端面同士間に空隙xが生じる状態で、第1コアプレート165および第2コアプレート166が交互に積層されて構成される。
【0052】
各々の分割コア16は、図8に示すように、電磁鋼板をプレス加工により打ち抜いて形成した第1コアプレート165および第2コアプレート166が、型167内にて位置決めされて順次積層されダボカシメで結合されて形成される。ここで、上述したように、ブリッジ部165eは、スリット165dが緩衝部位となって保持リング15の円筒部151からの面圧を受けることになる。しかし、各々の分割コア16において、第1コアプレート165のブリッジ部165eは第2コアプレート166に挟持されることになるので、ブリッジ部165eが圧縮荷重により軸方向に折れ曲がる座屈の発生は防止される。
【0053】
よって、分割コア16を型167内にて形成するとき、少なくとも最下層および最上層のコアプレートは、スリット165dを有していない第2コアプレート166とすることにより、座屈しやすいブリッジ部165eがスリット165dによって形成された第1コアプレート165を、座屈が生じやすい分割コア16の両端に配置しないので、ブリッジ部165eの座屈を防止することができる。上述の理由からブリッジ部165eをダボカシメして強度補強する必要はなく、分割コア16は、第1、第2コアプレート165,166が第1、第2バックヨーク部165b,166bにおけるスリット165dよりも半径方向内方の周方向の2箇所の点Qと第1、第2ティース部165a,166aの略中央の1箇所の点Rにおいてダボカシメで結合して構成されている。
【0054】
また、第1コアプレート165は、第1バックヨーク部165bの外周165cが、第2バックヨーク部166bの外周166cよりも距離sbだけ半径方向外方に突き出ているので、第1コアプレート165に対して第2コアプレート166を型167内にて位置決めすることが困難である。このため、第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの外周165cには、第2コアプレート166との積層時の位置決め用の2つ(3つとしてもよい)の切り欠き165fが、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bの外周166cまで達するように形成されている。
【0055】
そして、型167内には、切り欠き165fに入り込んで第1、第2バックヨーク部165b,166bの外周165c,166cに当接して位置決めする位置決め部材として2つ(3つ)の第1突出部167aと、第1、第2ティース部165a,166aの周方向の両側部に当接して位置決めする位置決め部材として2つの第2突出部167bとが設けられている。なお、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bの外周166cにおいても、切り欠き165fに対応する位置に微小な切り欠きを形成しておくことにより、型167内での第1コアプレート165に対する第2コアプレート166の位置決め精度をさらに向上させることができる。
【0056】
上述したように、複数の分割コア16は、円筒部151の内周面に焼き嵌めにより取り付けられる。保持リング15は所定温度に加熱されて、その内径が拡張される。加熱された円筒部151に対し、分割コア16のバックヨーク部161bを互いに当接させて、複数の分割コア16を円環状に並べた状態で挿入していく。分割コア16が円筒部151内に挿入された後、保持リング15は冷却されて収縮し、各々の分割コア16を強固に保持することができる。
【0057】
また、分割コア16を保持リング15内に取り付ける方法として、常温における圧入を適用してもよい。さらに、圧入により分割コア16を保持リング15内に保持させる場合、分割コア16と円筒部151との間に接着剤を介在させ、その保持力を増大させてもよい。分割コア16が取り付けられた保持リング15は、モータハウジング11に固定される。取付フランジ153をモータハウジング11のボス部112に当接させた後、取付ボルト17を取付穴154に挿通し、ボス部112に螺合させることにより、取付フランジ153はモータハウジング11に取り付けられる。
【0058】
図9(A)は、本実施形態の保持リング15の円筒部151と分割コア16との締め代Vと面圧Pとの関係を示す図、図9(B)は、従来の保持リング5の円筒部51と分割コア6との締め代Vと面圧Pとの関係を示す図である。図10(A)は、本実施形態の分割コア16が保持リング15に取り付けられた場合に発生する最小主応力分布を、有限要素法(FEM)を用いて解析した結果を示す図であり、左半分は第1コアプレート165の最小主応力分布を示し、右半分は第2コアプレート166の最小主応力分布を示している。図10(B)は、従来の分割コア6が保持リング5に取り付けられた場合に発生する最小主応力分布を、有限要素法(FEM)を用いて解析した結果を示す図である。
【0059】
図9(A),(B)に示す面圧P1,P1は、保持リング5,15の円筒部51,151に対し分割コア6,161を周方向および軸方向に保持可能、すなわち保持リング5,15の円筒部51,151に対し分割コア6,161が周方向に回転せず軸方向に抜けない最小の面圧を表している。また、面圧P2,P3は、保持リング5,15の円筒部51,151の引張限界、すなわち保持リング5,15の円筒部51,151が破断する最大の面圧を表している。本実施形態の場合、保持リング15の円筒部151の軸方向の断面積は、従来の保持リング5の円筒部51の軸方向の断面積の略半分にしているため、面圧P2は面圧P3に対し略半分になっている。そして、本実施形態の分割コア161においては、保持リング15の円筒部151からの面圧Pによりブリッジ部161eが撓むので、締め代Vにより本実施形態の保持リング15の円筒部151に掛かる負荷は、同一の締め代Vにより従来の保持リング5の円筒部51に掛かる負荷よりも小さくなる。
【0060】
本実施形態においては、締め代Vを大きくしても面圧Pの増加を抑えることができる。すなわち、従来は、締め代をV4にしたときに最大の面圧P31(<P3)に達していたが、本実施形態では、締め代V4より1.5倍以上大きい締め代V2にしたときに面圧P31の半分の最大の面圧P21(<P2)に達している。このように本実施形態の締め代の成立範囲V1〜V2を従来の締め代の成立範囲V3〜V4よりも拡張することができる。よって、回転電機1の各々の部材の寸法上のばらつきの許容範囲(加工公差)は従来のものよりも広がるので、保持リング15の円筒部151と分割コア16との面圧が過度に増大することを抑制することができる。
【0061】
そして、図10(A),(B)から明らかなように、従来の分割コア6のバックヨーク部62に発生した応力は過大な応力(圧縮応力)となっていたが(図10(B)示)、本実施形態の分割コア16のバックヨーク部161bに発生した応力は、第1コアプレート165のブリッジ部165e(点線の長円aで囲まれた部分)が過大な応力(圧縮応力)となり、その他の部分、特に第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの中央部(点線の楕円bで囲まれた部分)並びに第2コアプレート166の第2ティース部166aおよび第2バックヨーク部166bの応力は極めて低減された応力(圧縮応力)となる(図10(A)示)。よって、本実施形態の分割コア16のバックヨーク部161bの鉄損は、従来の分割コア6のバックヨーク部62の鉄損よりも低減される。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の回転電機1によれば、各々の分割コア16は、複数の第1コアプレート165および複数の第2コアプレート166が所定の順で積層されることにより構成され、第1コアプレート165は、該第1コアプレート165の外周165cが第2コアプレート166の外周166cよりも半径方向外方に突出するように形成され、第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bにスリット165dが第1バックヨーク部165bの周方向両端部を残して貫設されている。
【0063】
これにより、保持リング15の円筒部151からの面圧は、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bよりも突出している第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bのみが受けることになる。したがって、第1コアプレート165に形成されたスリット165dが緩衝部位となってブリッジ部165eが保持リング15の円筒部151からの面圧を受けることになるので、ブリッジ部165eを除く第1バックヨーク部165bが保持リング15の円筒部151から受ける面圧を低減して発生する応力を低減することができる。
【0064】
さらに、面圧を受ける第1コアプレート165は、面圧を受けない第2コアプレート166により挟み込まれて保持リング15に固定されているので、ブリッジ部165eの軸方向の動きを抑えることができ、ブリッジ部165e同士をダボカシメや接着等により固定しなくても、ブリッジ部165eが座屈して軸方向に折れ曲がることを防止することができる。よって、保持リング15による分割コア16の保持力の維持と、バックヨーク部161b内部の鉄損の低減による回転電機1の効率向上およびバックヨーク部161bの座屈の防止による回転電機1の損傷防止とを両立させることができる。
【0065】
また、本実施形態の回転電機1によれば、スリット165dは、ブリッジ部165eの半径方向の厚さが、保持リング15の円筒部151の半径方向の厚さの2倍になるように形成されている。ブリッジ部165eが保持リング15の円筒部151からの面圧を受けることになるが、第1コアプレート165と第2コアプレート166が同じ枚数ずつ積層される場合、ブリッジ部165eの半径方向の厚さを保持リング15の円筒部151の半径方向の厚さの2倍にすることにより、ブリッジ部165eを除く第1バックヨーク部165bで発生する応力を低減、例えば従来発生していた応力の半分にすることができる。保持リング15からの見かけ上の分割コア16の剛性は低下することになるので、保持リング15の円筒部151の半径方向の厚さを従来の円筒部51の半径方向の厚さよりも薄くすることができ、その結果、分割コア16の外径を円筒部151の半径方向の厚さを薄くした分だけ広げてその部分にブリッジ部165eを形成することができる。
【0066】
モータハウジング11の小型化が進む中、保持リング15の円筒部151の外径は一定以上に大きくすることができないが、保持リング15の円筒部151の外径は従来の円筒部51の外径のままで、保持リング15の円筒部151の半径方向の厚さを従来の円筒部51の半径方向の厚さの例えば1/2にし、分割コア16の外径を従来の円筒部51の半径方向の厚さの1/2だけ広げ、従来の円筒部51の半径方向の厚さの2倍の厚さのブリッジ部165eを形成し、保持リング15の円筒部151の剛性とブリッジ部165eの剛性とを略等しくすることができ、ブリッジ部165eで保持リング15の円筒部151からの面圧を受けることができる。ブリッジ部165eを有する第1コアプレート165はブリッジ部165eの無い第2コアプレート166に挟み込まれているので、ブリッジ部165eの厚さが従来の円筒部51の半径方向の厚さの2倍となることでブリッジ部165eの鉄損が大きくなっても全体の鉄損には影響せず特に問題はない。よって、回転電機1の大きさは従来の回転電機の大きさと同じままで、ブリッジ部165e以外の第1バックヨーク部165bの面積(体積)を従来と略同一にして磁束の流れを従来と同様に確保でき、保持リング15による分割コア16の保持力の維持と、バックヨーク部161b内部の鉄損の低減による回転電機1の効率向上およびバックヨーク部161bの座屈の防止による回転電機1の損傷防止とを両立させることができる。
【0067】
また、本実施形態の回転電機1によれば、スリット165dは、保持リング15の円筒部151からの面圧が大きくなるほど、保持リング15の円筒部151の半径方向の厚さに対するブリッジ部165eの半径方向の厚さの割合が大きくなるように形成されている。これにより、ブリッジ部165eの強度が向上するので、保持リング15の円筒部151からの面圧が大きくなっても該面圧を受けることができ、ブリッジ部165eを除く第1バックヨーク部165bで発生する応力を低減させることができる。
【0068】
また、本実施形態の回転電機1によれば、第1コアプレート165は、該第1コアプレート165の外周165cから第2コアプレート166の外周166cまでの距離sbが締め代以上となるように形成されている。これにより、保持リング15の円筒部151からの面圧は、常に、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bには掛からず、第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bのみが受けることになるので、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bで発生する応力を確実に低減し、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166b内部の鉄損を低減することができる。
【0069】
また、本実施形態の回転電機1によれば、複数の分割コア16は、互いに隣接する分割コア16を夫々構成する第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの周方向端面同士の当接位置r1と、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bの周方向端面同士の接合位置r2とが周方向にずれるように、第1コアプレート165および第2コアプレート166が所定の順で積層されて構成され保持リング15に嵌着されている。これにより、第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bは、隣接する第2コアプレート166の第1バックヨーク部166bに挟持されることになるので、第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの周方向端面が、隣接する第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bの周方向端面に当たって拗れることはなく、第2バックヨーク部166bの周方向端面同士の当接を確実にすることができる。
【0070】
また、本実施形態の回転電機1によれば、複数の分割コア16は、互いに隣接する分割コア16を夫々構成する第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの周方向端面同士が当接し、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bの周方向端面同士間に空隙が生じるように、第1コアプレート165および第2コアプレート166が所定の順で積層されて構成され保持リング15に嵌着されている。これにより、保持リング15の円筒部151からの面圧は、互いに隣接する分割コア16を夫々構成する第2コアプレート166の第2バックヨーク部166b間において殆ど伝播することはなく、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166b内部の鉄損の増大を防止することができる。
【0071】
また、本実施形態の回転電機1によれば、スリット165dはプレス加工により第1コアプレート165に形成され、積層された複数の第1コアプレート165および複数の第2コアプレート166はダボカシメされている。スリット165dの半径方向の幅をプレス加工可能なように広くした場合、ブリッジ部165eが保持リング15の円筒部151から受ける圧縮荷重により座屈して軸方向に折れ曲がりやすくなる。しかし、面圧を受ける第1コアプレート165は、面圧を受けない第2コアプレート166により挟み込まれて保持リング15に固定されているので、ブリッジ部165eの軸方向の動きを抑えて座屈を防止することができ、この結果、スリット165dの半径方向の幅をプレス加工可能なように広くすることができる。よって、スリット165dの形成および第1コアプレート165および第2コアプレート166の表裏面におけるダボカシメ用の凹凸部の形成を一連のプレス加工のみにより対応できるため、分割コア16の製造コストを低減することができる。
【0072】
また、本実施形態の回転電機1によれば、第1コアプレート165の外周165cには、第2コアプレート166との積層時の位置決め用の切り欠き165fが、第2コアプレート166の外周166cまで達するように形成されている。複数の第1コアプレート165および複数の第2コアプレート166は型167内にて積層するが、第1コアプレート165は該第1コアプレート165の外周165cが第2コアプレート166の外周166cよりも半径方向外方に突出するように形成されているので、第1コアプレート165の外周165cのみが型167の内壁に当接し、第2コアプレート166の外周166cは型167の内壁に当接しないことになる。このため、複数の第1コアプレート165および複数の第2コアプレート166は型167内にて高精度に積層することが困難となる。
【0073】
しかし、第2コアプレート166の外周166cまで達する位置決め用の切り欠き165fが第1コアプレート165の外周165cに形成されているので、位置決め用の切り欠き165fに嵌まる位置決め部材として第1突出部167aを型167の内壁に設けておくことにより、複数の第1コアプレート165および複数の第2コアプレート166は型167内にて高精度に積層することができる。
【0074】
また、本実施形態の回転電機1によれば、積層された分割コア16は、両端に第2コアプレート166が積層されることにより構成されている。これにより、積層両端の第2コアプレート166よりも内層側に第1コアプレート165が挟み込まれるので、第1コアプレート165のブリッジ部165eの軸方向の動きを抑えることができ、ブリッジ部165eが座屈して軸方向に折れ曲がることを防止することができる。
【0075】
また、本実施形態の回転電機1によれば、各々の分割コア16は、複数の第1コアプレート165および複数の第2コアプレート166が所定の順で積層されることにより構成され、第1コアプレート165は、該第1コアプレート165の外周165cが第2コアプレート166の外周166cよりも半径方向外方に突出するように形成され、少なくとも第1バックヨーク部165bの円周方向中央部分において円周方向が長手方向となるスリット165dが形成されている。これにより、保持リング15の円筒部151からの面圧は、第2コアプレート166の第2バックヨーク部166bよりも突出している第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bのみが受けることになる。したがって、第1コアプレート165に形成されたスリット165dが緩衝部位となってブリッジ部165eが保持リング15の円筒部151からの面圧を受けることになるので、ブリッジ部165eを除く第1バックヨーク部165bが保持リング15の円筒部151から受ける面圧を低減して発生する応力を低減することができる。
【0076】
さらに、面圧を受ける第1コアプレート165は、面圧を受けない第2コアプレート166により挟み込まれて保持リング15に固定されているので、ブリッジ部165eの軸方向の動きを抑えることができ、ブリッジ部165e同士をダボカシメや接着等により固定しなくても、ブリッジ部165eが座屈して軸方向に折れ曲がることを防止することができる。よって、保持リング15による分割コア16の保持力の維持と、バックヨーク部161b内部の鉄損の低減による回転電機1の効率向上およびバックヨーク部161bの座屈の防止による回転電機の損傷防止とを両立させることができる。
【0077】
また、本実施形態の回転電機1によれば、スリット165dは、その円周方向における長さが、第1コアプレート165の第1ティース部165aの円周方向長さ以上となるように形成されている。スリット165dが円周方向に長いほど、ブリッジ部165eを除く第1バックヨーク部165bが保持リング15の円筒部151から受ける面圧を低減して発生する応力を低減することができる。よって、第1バックヨーク部165b内部の鉄損をさらに低減させて回転電機1の効率を大幅に向上させることができ、また第1バックヨーク部165bの座屈を防止して回転電機1の損傷を防止することができる。
【0078】
また、本実施形態の回転電機1によれば、スリット165dは、第1コアプレート165の第1バックヨーク部165bの外周縁部に貫設されている。これにより、保持リング15の円筒部151からの面圧は第1バックヨーク部165bの外周縁部に設けられたブリッジ部165eのみで受けることになるので、第1バックヨーク部165bの大部分において保持リング15の円筒部151から受ける面圧を低減して発生する応力を低減することができる。よって、保持リング15による分割コア16の保持力の維持と、第1バックヨーク部165b内部の鉄損の低減による回転電機1の効率向上および第1バックヨーク部165bの座屈の防止による回転電機1の損傷防止とを両立させることができる。
【0079】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、回転電機1は、同期モータ、誘導モータ、直流モータ等の家庭用電器に設けられるモータあるいは一般的な産業用機械を駆動するモータに適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
1:回転電機、11:モータハウジング(ハウジング)、13:ロータ、14:ステータ、15:保持リング、16:分割コア、151:円筒部、161a:ティース部、161b:バックヨーク部、165:第1コアプレート、165a:第1ティース部、165b:第1バックヨーク部、165c:外周、165d:スリット、165e:ブリッジ部、165f:切り欠き、166:第2コアプレート、165a:第2ティース部、165b:第2バックヨーク部、166c:外周、167:型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに対し回転可能に取り付けられたロータと、
前記ロータに対し半径方向外方に対向して設けられ、円筒部を有し前記ハウジングに取り付けられた保持リング、および電磁鋼板製のコアプレートを積層して構成され、各々コイルが巻回されるとともに前記円筒部の内周面に固定された複数の分割コアを有するステータと、を備え、
各々の前記分割コアは、前記保持リングに取り付けられた状態において、半径方向に延び、コイルが巻回されたティース部と、
前記ティース部の半径方向外方に接続され、周方向に延在したバックヨーク部と、を有しており、
複数の前記分割コアは、隣接する前記バックヨーク部の端面が互いに当接して円環状に配置された状態で、前記保持リングの円筒部の内周に圧入又は焼き嵌めにより締め代を持って面圧を付与されて前記保持リングに嵌着されている回転電機において、
各々の前記分割コアは、複数の第1コアプレートおよび複数の第2コアプレートが所定の順で積層されることにより構成され、
前記第1コアプレートは、該第1コアプレートの外周が前記第2コアプレートの外周よりも半径方向外方に突出するように形成され、前記第1コアプレートの前記バックヨーク部にスリットが前記バックヨーク部の周方向両端部を残して貫設されていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1コアプレートは、該第1コアプレートの外周から前記第2コアプレートの外周までの距離が前記締め代以上となるように形成されていることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1又は2において、
複数の前記分割コアは、互いに隣接する前記分割コアを夫々構成する前記第1コアプレートの前記バックヨーク部の周方向端面同士の当接位置と前記第2コアプレートの前記バックヨーク部の周方向端面同士の接合位置とが周方向にずれるように、前記第1コアプレートおよび前記第2コアプレートが所定の順で積層されて構成され前記保持リングに嵌着されていることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
複数の前記分割コアは、互いに隣接する前記分割コアを夫々構成する前記第1コアプレートの前記バックヨーク部の周方向端面同士が当接し、前記第2コアプレートの前記バックヨーク部の周方向端面同士間に空隙が生じるように、前記第1コアプレートおよび前記第2コアプレートが所定の順で積層されて構成され前記保持リングに嵌着されていることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記スリットはプレス加工により前記第1コアプレートに形成され、積層された複数の前記第1コアプレートおよび複数の前記第2コアプレートはダボカシメされていることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、
前記第1コアプレートの外周には、前記第2コアプレートとの積層時の位置決め用の切り欠きが、前記第2コアプレートの外周まで達するように形成されていることを特徴とする回転電機。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項において、
複数の前記第1コアプレートおよび複数の前記第2コアプレートが所定の順で積層された前記分割コアは、両端に前記第2コアプレートが積層されることにより構成されていることを特徴とする回転電機。
【請求項8】
ハウジングに対し回転可能に取り付けられたロータと、
前記ロータに対し半径方向外方に対向して設けられ、円筒部を有し前記ハウジングに取り付けられた保持リング、および電磁鋼板製のコアプレートを積層して構成され、各々コイルが巻回されるとともに前記円筒部の内周面に固定された複数の分割コアを有するステータと、を備え、
各々の前記分割コアは、前記保持リングに取り付けられた状態において、半径方向に延び、コイルが巻回されたティース部と、
前記ティース部の半径方向外方に接続され、周方向に延在したバックヨーク部と、を有しており、
複数の前記分割コアは、隣接する前記バックヨーク部の端面が互いに当接して円環状に配置された状態で、前記保持リングの円筒部の内周に圧入又は焼き嵌めにより締め代を持って面圧を付与されて前記保持リングに嵌着され、
各々の前記分割コアは、複数の第1コアプレートおよび複数の第2コアプレートが所定の順で積層されることにより構成され、
前記第1コアプレートは、該第1コアプレートの外周が前記第2コアプレートの外周よりも半径方向外方に突出するように形成され、少なくとも前記第1コアプレートの前記バックヨーク部の円周方向中央部分において、前記バックヨーク部には円周方向を長手方向とするスリットが形成されていることを特徴とする回転電機。
【請求項9】
請求項8において、
前記スリットの円周方向における長さは、前記第1コアプレートの前記ティース部の円周方向長さ以上であることを特徴とする回転電機。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか一項において、
前記第1コアプレートの前記バックヨーク部の外周縁部に前記スリットが形成されたことを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−254625(P2011−254625A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126808(P2010−126808)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】