説明

園芸温室栽培用の水タンク及びそれを用いた植物の育成方法

【課題】本発明は、園芸温室の夜間の温度低下を大幅に低減し、温度維持に用いる石油やガスなどのエネルギーを減少させて、作物栽培に適した温度を低コスト及び省エネルギーで維持できる園芸温室で用いられる園芸温室栽培用の水タンク及びそれを用いた植物の育成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る園芸温室栽培用の水タンク100は、園芸温室1内に設置され、天面部2と、天面部の下方に連接する胴部5とを有し、内部に液状熱媒体Lが充填されて密閉された園芸温室栽培用の水タンクであって、天面部には、栽培床31を設置する栽培床設置部21が設けられ、液状熱媒体の充填容積Xは、園芸温室1の容積Yに対して、1%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、園芸植物の栽培に適用し得る園芸温室栽培用の水タンク及びそれを用いた植物の育成方法に関する。さらに詳しくは、園芸温室内の夜間の温度低下を大幅に低減し、温度維持に用いる石油、ガスなどのエネルギーを減少させて、作物栽培に適した温度を低コスト及び省エネルギーで維持できる園芸温室で用いられる園芸温室栽培用の水タンク及びそれを用いた植物の育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の成育にとって、温度は光、栄養とともに直結する要素であり、温室の温度管理は園芸生産にとって重要である。低温では植物の育成が阻害されるため、温室での園芸栽培は耕地利用の観点からも非常に有効である。例えば、イチゴは本来の生理では、露地栽培のように生育に適した春先のわずかな期間しか収穫できず、同時に気温上昇により軟弱な果実の品質低下も激しく、消費者への流通も限られたものとなっていた。しかし、温室での園芸栽培によって、みかんとともに冬季の重要な果物として大量に生産されるようになり、高いクリスマス需要を満たし、春まで供給されるようになった。
【0003】
このように温室での園芸生産は、わが国国民の食生活を豊かにしているが、一方でエネルギー消費も多い。園芸温室では野菜、果物などの植物栽培に適した温度を維持するために石油などのエネルギーを大量に投入している。特に冬季は農業に使用されるエネルギーの80%が園芸温室の暖房に使用されている。
【0004】
園芸温室栽培は、年間を通して多様な青果物の消費需要があるなかで欠かせないものである。また、農家生産者にとっても、季節変動が大きな生産現場で、園芸温室栽培は有利販売を可能にし、労働力及び出荷期間の平準化に役立っている。例えば、イチゴは生産額で1位の果実であり、園芸温室を利用して約半年間生産されるが、路地で栽培した場合には収穫期間が短く、品質保持も難しい産品となる。しかし、加温用燃料となるA重油価格の上昇は、それを多用する園芸温室栽培農家にとって深刻な問題となっている。園芸温室栽培の生産割合を見ると、いちごは全体の86%、トマトは74%、ピーマンは64%、きゅうりは62%、メロンは67%、と園芸温室栽培の割合は高い。園芸温室野菜の栽培延べ面積は、495650000m(内ハウス476350000m、ガラス室19300000m)と全体の9.7%を占める。果実ではハウスミカンが8480000mである。園芸温室栽培においては、品目によって差はあるものの、1000m当たりで年間約361千円〜839千円の光熱動力費を使っており、経営費の約19〜36%を占める。冬春ものの促成栽培においては、その大半が加温用A重油の使用に充てられている。そのため、対策としては省エネルギーが最優先され、生産コスト低減に直結する。
【0005】
温室内の温度を低エネルギーで維持管理するために各種手段が講じられている。例えば、園芸温室の暖房のほとんどが熱風による暖房又は加温であり、一部にボイラーによる放熱が用いられている。例えば、主に太陽エネルギーを利用して温室内の温度を高め、ボイラーを補助的に利用する技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、温室内からの熱損失を防ぐために、温室の屋根及び胴部となる部分を二重にして断熱による保温している温室がある(例えば、特許文献2を参照。)。さらに、温室の土台のコンクリートを蓄熱材として利用する技術(例えば、特許文献3を参照。)、キャンドモータポンプから発生する熱を熱源とする技術(例えば、特許文献4を参照。)、夜間の余剰電力である深夜電力を有効利用する技術(例えば、特許文献5を参照。)、過熱蒸気を使用した温室(例えば、特許文献6を参照。)又は高温となる昼間の熱を地中蓄熱として利用する技術(例えば、特許文献7を参照。)が開示されている。また、保温用水枕を畝上又は畝裾に敷設して、遮光性フィルム部を設けて日照時には効率的に蓄熱し、日没後には効果的に放熱する技術が開示されている(例えば、特許文献8を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−220217号公報
【特許文献2】特開昭57−105117号公報
【特許文献3】実開平6−79230号公報
【特許文献4】実開平10−170号公報
【特許文献5】特開2007−319089号公報
【特許文献6】登録実用新案第3155764号公報
【特許文献7】特開2004−222712号公報
【特許文献8】特開2000−157070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱エネルギーの観点からみると、現在の温室のエネルギー利用は合理的ではない。まず、温室内の気温をあげる熱風暖房であるが、空気は比較的、熱容量(容積比熱)が低く、1.2×10J/(m・K)であり、水の4.2×10J/(m・K)の3500分の1である。これは、空気が暖まりやすい反面、冷えやすいことを示し、そのため温室内の温度を維持するには常時加温する必要ある。また、温度管理においては栽培する土壌温度を維持する必要がある。しかし、空気の熱伝導率は0.026W/m・kと低く、水0.59W/m・kの20分の1以下である。これは、温室内の栽培土壌を暖めるためには熱伝達率を向上させること、すなわち大量の熱風が必要であることを示している。またボイラーを用いる温水暖房では高額な放熱フィンを大量に設けている。また加温はハウス全体を暖房しており、エネルギー効率が悪い。現在の温室暖房はこれらの熱工学的な問題点を抱えている。さらに温度低下に伴う結露は作物の栽培に悪影響をあたえるため、天窓を開けて湿気を熱とともに放出する。最近、地温のみを加熱する栽培方法がバラなどで効果が確認された。気温と地温とを分けた栽培方法が注目され、様々な品目で検討されている。また最小加温として栽培地のスポット加熱による省エネが期待されており、地温維持の重要性が高まっている。
【0008】
特許文献1〜8に開示された技術のように、温室内の温度を維持管理するために各種手段が講じられているが、いずれの手法も効果が少ない又は機構が複雑であるため設備費が高く、運用コスト、メンテナンスの費用がかかるという問題があり、利用されていない。また、温室全体の熱容量に対応し、とりわけ温室内の気温管理と栽培土壌の温度管理とを分離した考え方はなかった。
【0009】
本発明は、園芸温室の夜間の温度低下を低減し、温度維持に用いる石油やガスなどのエネルギーを減少させて、作物栽培に適した温度を低コスト及び省エネルギーで維持できる園芸温室で用いられる園芸温室栽培用の水タンク及びそれを用いた植物の育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、大きな熱容量をもつ液状熱媒体を大量に温室内に設置することによって温室内の熱容量を大きくすることができ、十分な温度維持性能が得られることを実験で見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクに充填した液状熱媒体を大量に温室内に設置することによって温室内の熱容量を大きくする。これによって、温室内の温度維持に用いる石油、ガスなどのエネルギーの使用量を減少させて、低コスト及び省エネルギーで温室内の温度を安定維持することができる。
【0011】
本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクは、園芸温室内に設置され、天面部と、該天面部の下方に連接する胴部とを有し、内部に液状熱媒体が充填されて密閉された園芸温室栽培用の水タンクであって、前記天面部には、栽培床を設置する栽培床設置部が設けられ、前記液状熱媒体の充填容積は、前記園芸温室の容積に対して、1%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクでは、前記胴部は、下方部が前記園芸温室内の土壌に埋め込まれた埋設部であり、上方部が前記園芸温室内の土壌から露出した露出部であることが好ましい。園芸温室の夜間の温度低下を大幅に低減することができる。また、水タンクを固定することができる。
【0013】
本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクでは、前記露出部の一部又は全部は、着色されていることが好ましい。昼間の温室内温度及び放射熱により十分な熱容量を得ることができる。
【0014】
本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクでは、前記水タンクの内部の上方に配置された上方集熱部と、前記水タンクの内部の下方に配置された下方集熱部と、前記上方集熱部及び前記下方集熱部を接続する熱伝達部と、該熱伝達部の外周を覆う断熱部と、を有する無電力対流熱ポンプを、前記水タンクの内部に更に備えることが好ましい。水タンク内には水温による比重変化によって温度勾配が発生するが、当該温度勾配を均一にすることで、蓄熱量を増加させ、保温効果をより高めることができる。
【0015】
本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクでは、さらに、攪拌装置を備えることが好ましい。水タンク内の温度勾配をより効率的に解消でき、蓄熱量を増加させ、保温効果をより高めることができる。
【0016】
本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクでは、さらに、前記液状熱媒体を加温するための補助加温装置を備えることが好ましい。特に寒冷地では、夜間に液状熱媒体の温度を維持することができる。
【0017】
本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクでは、前記栽培床設置部は、凹部が形成され、該凹部に流入した水を前記胴部の側面に排水する溝又は孔が設けられていることが好ましい。凹部に栽培床を設置することによって、栽培床の底面のみならず、側面も加温することができる。また、栽培床の落下を予防することができる。タンクの胴部に排水機構を設けることで、植物に与える水分を調整することができる。
【0018】
本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクでは、前記水タンクは、複数のユニットタンクを並列に組み合わせて形成され、前記ユニットタンクの胴部は、隣に配置されたユニットタンクの胴部と密着面を形成し、前記各ユニットタンクは、いずれも前記埋設部と前記露出部とを有することが好ましい。各ユニットタンクの容量を、比較的小さくすることができるため、取り扱いが容易になる。
【0019】
本発明に係る植物の育成方法は、本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクを使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、園芸温室の夜間の温度低下を低減し、温度維持に用いる石油やガスなどのエネルギーの使用量を減少させて、作物栽培に適した温度を低コスト及び省エネルギーで維持できる園芸温室で用いられる園芸温室栽培用の水タンク及びそれを用いた植物の育成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンクを有する温室の一例を示す概略図である。
【図2】無電力対流熱ポンプを備える園芸温室栽培用の水タンクの一例を示す断面図であり、(a)は昼間の熱の流れを説明するための図、(b)は夜間の熱の流れを説明するための図である。
【図3】凹部が形成された園芸温室栽培用の水タンクの第一例を示す概略図である。
【図4】凹部が形成された園芸温室栽培用の水タンクの第二例を示す概略図である。
【図5】凹部が形成された園芸温室栽培用の水タンクの第三例を示す概略図である。
【図6】複数のユニットタンクを組み合わせて形成した園芸温室栽培用の水タンクの一例を示す概略図であり、(a)は栽培床設置部が平面である形態、(b)は栽培床設置部が凹状である形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明について実施形態を示して詳細に説明する。次に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0023】
図1は、本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンクを有する温室の一例を示す概略図である。本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンク100は、園芸温室1内に設置され、天面部2と、天面部2の下方に連接する胴部5とを有し、内部に液状熱媒体Lが充填されて密閉された園芸温室栽培用の水タンク100であって、天面部2には、栽培床31を設置する栽培床設置部21が設けられ、液状熱媒体Lの充填容積Xは、園芸温室1の容積Yに対して、1%以上である。
【0024】
本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンク100は、園芸温室1内に設置される。園芸温室1は、本実施形態では特に限定されるものではなく、公知の園芸用温室を適用できる。例えば、ガラス製の園芸用ガラス室、農業用ポリ塩化ビニルフィルム(農ビ)、農業用ポリオレフィンフィルム(農ポリ、POフィルム)、フッ素フィルムなどの合成樹脂からなる所謂ビニールハウス又はトンネルが挙げられる。園芸温室1の表面積は、本実施形態では特に限定されず、例えば、1000〜10000mである。従来利用されてきた熱風暖房などの温室内の温度を維持管理するための各種手段では、園芸温室1の表面積が広くなり、容量Yが大きくなるほど、より多くの投入エネルギーが必要となりコストも高くなっていたのに対し、本実施形態に係る水タンクを使用した園芸温室1では、園芸温室1の容量Yが大きい場合には、液状熱媒体Lの充填容積Xを大きくすればよい。したがって、本発明は、園芸温室1が10000mを超えるような大規模温室であるほど、従来技術と比較して特に顕著な効果を得ることができるものである。また、園芸温室1の高さは、一般に2〜4mであり、園芸温室1の容積Yは、園芸温室1の表面積に高さを乗じることで求めることができる。ここで、園芸温室1の容積Yは、地上部分の容積である。
【0025】
液状熱媒体Lは、熱容量が大きく、環境に負荷が小さく、生物に害のないものであれば、特に限定されるものではないが、物質中最大の熱容量をもつ水を主成分として用いることが特に好ましい。水は、水道水、農業用水、地下水、雨水など容易に入手できるものを用いることができる。保温性、耐寒性などの付与を目的として、アルコール、グリセリン、界面活性剤など各種薬品を添加することができる。
【0026】
水タンク100の材質は、密封する液状熱媒体Lによって変質せず、容易に破損せず、形状を保持することができるものであれば、特に限定されない。また、素材は、硬質、軟質を問わない。素材は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、アクリルニトリル−スチレン、ポリテトラフルオロエチレンを例示することができる。これらは、単体若しくは複数を併用又は積層して使用することができる。水タンク100を構成する素材の厚さは、水タンクの容量、植物の種類、気候などによって適宜決められるもので、本実施形態では特に限定されないが、例えば、3〜5mmである。また、肉厚を均一としてもよいが、耐圧を考慮して、埋設部4を露出部3より厚くしてもよい。水タンク100の作製方法は、本実施形態では特に限定されず、例えば、ブロー成形、射出成形、押出成形、樹脂板を貼り合せる方法、フィルムをヒートシールなどで接着する方法を例示することができる。
【0027】
天面部2には、栽培床31を設置する栽培床設置部21が設けられている。ここで、栽培床31は、土、肥料、培地などからなり、植物を育成する場所をいう。栽培床設置部21は、栽培床31と水タンク100との接触面を有し、該接触面から水タンク100内部に充填された液状熱媒体Lの熱を栽培床31へ熱伝導させて栽培床31を暖める役割をもつ。
【0028】
本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンク100では、胴部5は、下方部が園芸温室1内の土壌に埋め込まれた埋設部4であり、上方部が園芸温室1内の土壌から露出した露出部3であることが好ましい。露出部3は、昼間の高温時の熱吸収部となる。昼間の園芸温室内の温度及び太陽光の熱エネルギーを吸収し、内部の液状熱媒体Lの温度を上昇させる。露出部3の一部又は全部は、着色されていることが好ましい。より熱吸収量が大きくなり、十分な熱容量を得ることができ、更に蓄熱性に優れる。着色は、黒色であることが、水タンク内の藻の発生抑制、熱吸収性及び蓄熱性の点で特に好ましいが、これに限定されない。着色方法は、特に限定されず、例えば、水タンク100の外壁又は内壁に黒色インキを塗布する方法、予めカーボンブラックなどの顔料で着色した樹脂を成形することによって着色する方法が挙げられる。
【0029】
地中の温度は、大気の温度の変動が大きいのに対し、変動が小さいことが知られている。よって、埋設部4は、タンクを安定して固定する役割だけでなく、液状熱媒体Lの熱を保温する役割をもつ。加えて、足元のスペースが得られる。また、胴部5には、図示しないが、水タンク100の強度を高めることを目的として、くびれ、リブ、ディンプルなどの凹凸部、金具、パイプなどの補強部品を設けてもよい。

【0030】
液状熱媒体Lの充填容積Xは、園芸温室1の容積Yに対して、1%以上である。ここで、液状熱媒体Lの充填容積Xは、園芸温室1内に複数個の水タンクを配置するときは、各水タンクに充填された液状熱媒体Lの充填容積の総和をいう。より好ましくは、2%以上、特に好ましくは3%以上である。1%未満では、園芸温室の温度を植物栽培に適した温度に維持することができない。園芸温室1内に配置される液状熱媒体Lの充填容積Xは、園芸温室1の容積Yに対して占める割合が多いほど大きな熱容量を得ることができるため、好ましい。水タンク100の容積Zに対する液状熱媒体Lの充填容積Xの上限は、100%である。水タンク100の材質によっては、液状熱媒体Lが蒸発して内容量が少なくなる又は液状熱媒体Lが熱により膨張して内容積が多く場合がある。この場合には、蓋、キャップなどの密封手段を備えた開口部を水タンク100に設けることで、液状熱媒体Lを補充又は抜き取りを行うことができる。この開口部は、液状熱媒体Lを水タンク100に充填する時の充填口と兼用することができる。また、液状熱媒体Lが高温となった時の容積変化を吸収しうる補助空間を有するリザーバータンク部を設けることができる。例えば、水タンクとリザーバータンク部とを圧力弁を介して連結させることで、液状熱媒体Lが高温となった時の容積変化を吸収することができる。
【0031】
図2は、無電力対流熱ポンプを備える園芸温室栽培用の水タンクの一例を示す断面図である。図2に示すとおり、本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンク101では、水タンク101の内部の上方に配置された上方集熱部61と、水タンク101の内部の下方に配置された下方集熱部62と、上方集熱部61及び下方集熱部62を接続する熱伝達部63と、熱伝達部63の外周を覆う断熱部64と、を有する無電力対流熱ポンプ60を、水タンク101の内部に更に備えることが好ましい。水タンク101内には水温による比重変化によって温度勾配が発生するが、当該温度勾配を均一にして、蓄熱量を増加させ、保温効果をより高めることができる。
【0032】
上方集熱部61、下方集熱部62及び熱伝達部63は、熱伝導率が高い材料からなる。熱伝導率が高い材料は、例えば、アルミニウム、銀、銅、金などの金属、窒化アルミニウム、炭化ケイ素などの高熱伝導セラミックス又はこれらの積層体である。また、表面に金属蒸着を施して、太陽光の集熱効率をより高めることができる。上方集熱部61、下方集熱部62及び熱伝達部63は、一体に加工して形成する形態又は各部材を接合して形成する形態のいずれでもよい。上方集熱部61及び下方集熱部62の形状は、特に限定されないが、例えば、平板状、半球状、波板状、折れ板状である。熱伝達部63の形状は、例えば、柱状、チューブ状である。
【0033】
断熱部64は、熱伝導率が低い材料からなる。熱伝導率が低い材料は、例えば、ウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、陶器、ほうろうである。断熱部64は、熱伝達部63の外周の全体を覆うことが好ましい。断熱部64が熱伝達部63からの放熱を抑制することで、上方集熱部61及び下方集熱部62間の熱伝達を効率的に行うことができる。
【0034】
無電力対流ポンプ60は、水タンク101の上下方向(x−x´方向)に沿って配置し、上方集熱部61の上端面から下方集熱部62の下端面までの高さh3が、水タンク101の高さHに対して、60〜100%であることが好ましい。より好ましくは、80〜90%である。60%未満では、水タンク内の温度勾配を均一にすることができない場合がある。
【0035】
図2(a)は、昼間の熱の流れを説明するための図である。太陽光及び温室内の気温の熱エネルギーを吸収して液状熱媒体Lが暖められて、上昇流71を起こすため、水タンク101の上方部は下方部と比べて液状熱媒体Lの温度が高くなる。無電力対流熱ポンプ60を配置することで、上方集熱部61が、太陽光の熱エネルギーの吸収、及び液状熱媒体Lとの熱交換によって暖められる。次いで、上方集熱部61の熱が熱伝達部63を伝達して(矢印a)、下方集熱部62が暖められる。そして、下方集熱部62が放熱して周囲の液状熱媒体Lを暖め、水タンク101内の温度勾配を均一にすることができる。また、暖められた下方集熱部62の周囲の液状熱媒体Lは上昇流72を起こし、かつ、上方集熱部61と熱交換して冷やされた液状熱媒体Lは下降流73を起こすため、自然対流が発生して、温度勾配がより均一となる。
【0036】
図2(b)は夜間の熱の流れを説明するための図である。温室内の温度が下がると、液状熱媒体Lが放熱する(矢印b)。無電力対流熱ポンプ60を配置することで、液状熱媒体Lが放熱して冷やされた後、上方集熱部61及び下方集熱部62が放熱して(矢印c)、液状熱媒体Lを暖めるため、水タンクの保温性を高めることができる。さらに、図1に示すように胴部の下方部を園芸温室内の土壌に埋め込んだ埋設部とすることで、埋設部の液状熱媒体L及び下方集熱部62が保温される。したがって、上方部の液状熱媒体Lが放熱し、更に上方集熱部61が放熱されても、下方集熱部62の熱が熱伝達部63を伝達して(矢印d)、上方集熱部61を暖めることができ、水タンク101の熱容量をより高めることができる。
【0037】
本発明に係る園芸温室栽培用の水タンクでは、さらに、攪拌装置(不図示)を備えることが好ましい。水タンク内の温度勾配をより効率的に解消でき、熱容量をより高めることができる。攪拌装置は、特に限定されないが、少ない消費電力で作動することが好ましく、例えば、軸を介して羽根をモーターで回転させて攪拌するメカニカルスターラー、磁力を利用して攪拌子を回転させて攪拌するマグネチックスターラー、電磁誘導方式で攪拌子を回転させて攪拌する電磁スターラー、ポンプでタンク内に空気を吹き込んで攪拌する散気装置である。また、動力としては、太陽電池を用いることが好ましい。
【0038】
ところで、特許文献8に記載された保温用水枕を用いる構成では、大きな熱容量を得るためには水枕の容積を大きくする必要があるが、水枕を、栽培面に設置するためにスペース及び作業性の点で熱容量を得る大きさにすることは難しい。さらに、重量で苗周辺の根を圧迫し、光を遮断し、生育を阻害するという問題がある。したがって、水枕によって得られる熱容量では、夜間の温度低下を低減させる効果及び温度維持の効果が小さいと考えられる。特に、温室の容積が大きい場合には熱容量が不足すると考えられる。また、畝上又は畝裾に敷設するため、作業時に邪魔となる場合がある。これに対し、本実施形態に係る水タンク100は、栽培床31の下に配置されているため、容積を大きくしても作業時に邪魔とならず、液状熱媒体の充填容積を数トン単位とすることができる。したがって、夜間の温度低下を低減し、温度を維持するのに十分な熱容量を得ることができる。また、下方を土壌に埋められた埋設部4とすることで、更に保温性に優れるという効果を奏する。したがって、水タンク100が有する熱容量、具体的には水タンク100に密封された液状熱媒体Lの熱容量によって、温室内の温度変化を低減させることができる。また、栽培用水タンクは水温による比重変化によって温度勾配の発生が避けられないが、図2に示した無電力対流熱ポンプ60による伝熱によって、タンク全体の蓄熱量を増加させ、保温効果をより高めることができる。また、攪拌装置によって補助的に攪拌することで、更なるタンク全体の蓄熱量を増加させ、保温効果をより高めることができる。したがって、本実施形態に係る水タンク100を用いた園芸温室1は、植物が必要とする気温と土壌温度とを低エネルギーで維持することができる。
【0039】
本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンク100は、さらに、液状熱媒体Lを加温するための補助加温装置(不図示)を備えることが好ましい。地域気候又は栽培品目によっては加温装置が不要な場合もあるが、特に寒冷地では、補助加温装置を備えることで夜間の水温をより確実に維持することができる。なお、液状熱媒体Lは昼間に太陽光によって加温されているため、栽培に適した温度を少ない投入エネルギーで維持することができる。補助加温装置は、本実施形態では特に限定されないが、例えば、ヒータを水タンク100の内部に配置して液状熱媒体Lに浸漬させて加温する方法が効率的に液状熱媒体Lを加温できる点及び装置をコンパクトにできる点で好ましい。ヒータは、電熱コイル、セラミックヒータなど公知のヒータを使用することができる。
【0040】
また、園芸温室1内の気温については、従来のように常時温室内に温風を循環させて園芸温室内全体の温度を維持するのではなく、本実施形態に係る水タンク100を用いた園芸温室1は、前述のとおり温度変化が小さいため、園芸温室1内の気温が低下した時にだけ、短時間の温風加熱を行い、温室内の冷たい空気を暖かい空気と置換することによって園芸温室1内の気温を維持することができる。したがって、石油、ガスなどのエネルギーの使用量を減少させることができる。
【0041】
図3、図4及び図5は、凹部が形成された園芸温室栽培用の水タンクの第一例、第二例及び第三例を示す概略図である。本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンク200、201、202では、栽培床設置部22は、凹部が形成され、凹部に流入した水を胴部5の側面に排水する溝41又は孔42が設けられていることが好ましい。図1では、栽培床設置部21が天面2と同一の平面である形態が示されているが、図3、図4及び図5に示すように天面2に凹部を形成し、その凹部を栽培床設置部22とすることができる。図1に示した栽培床設置部21が平面である形態では、栽培床31と水タンク100との接触面は栽培床31の底面だけであるのに対し、図3、図4及び図5に示した栽培床設置部22が凹部である形態では、栽培床31と水タンク200、201、202との接触面は底面及び側面となり、接触面積を大きくすることができる。結果として、液状熱媒体Lの熱をより効率的に栽培床31へ伝達することができる。さらに、栽培床31の落下を防止することができる。
【0042】
凹部を形成し、栽培床31を設置することで、植物に与えた水を排水しにくくなるところ、凹部と水タンク200、201、202の胴部5とを連通させる溝41又は孔42を設けることで排水することができ、植物の栽培に適した水分量を調整することができる。溝41又は孔42は、栽培床設置部22の底面付近の水まで排水可能なように底面と接していることが好ましい。また、溝41又は孔42の形状及び個数は、効率的に排水を行うことができれば、特に限定されない。
【0043】
水タンクの形状は、図1、図3及び図5に示すように、略直方体に限定されず、図4に示すように胴部5の下方部を水タンク201の内側方向に窪ませて断面形状を略T字状とすることができる。断面形状が略T字状である形態は、略直方体の場合と比較して、露出部3の容積を維持しながら、埋設部4の容積を小さくすることができるため、埋設作業時に土壌を掘り起こす範囲を小さくすることができる点で優れている。なお、水タンク100、200、201、202の形状は、図1、図3、図4及び図5の他、図示しないが、胴部5を水タンクの外側方向に膨らませた湾曲状にするなど、水タンクの材質又は容積、栽培する植物、園芸温室の形態などに応じて適宜変形した形態を包含する。また、埋没部4において、下方にいくに従い外側へ膨らませてもよい。水タンク100の液状熱媒体Lを抜いた点検時における浮き上がりを防止できる。
【0044】
図6は、複数のユニットタンクを組み合わせて形成した園芸温室栽培用の水タンクの一例を示す概略図であり、(a)は栽培床設置部が平面である形態、(b)は栽培床設置部が凹状である形態を示す。本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンク300、301は、複数のユニットタンク51、52、53、54を並列に組み合わせて形成され、ユニットタンク51、52、53、54の胴部15は、隣に配置されたユニットタンクの胴部15と密着面を形成し、各ユニットタンク51、52、53、54は、いずれも埋設部14と露出部13とを有することが好ましい。
【0045】
各ユニットタンク51、52、53、54の構成は、前述の一体型の水タンクと同様である。すなわち、図6(a)を用いて説明すると、園芸温室内(不図示)に設置され、天面部12と、天面部12の下方に連接する胴部15とを有し、内部に液状熱媒体Lが充填されて密閉されており、胴部15は、下方部が園芸温室1内の土壌に埋め込まれた埋設部14であり、上方部が園芸温室1内の土壌から露出した露出部13であり、天面部12には、栽培床31を設置する栽培床設置部21が設けられている。複数のユニットタンクを組み合わせて水タンクを形成したときは、園芸温室内に設置されている全てのユニットタンクに充填された液状熱媒体Lの充填容積の総和を園芸温室内の液状熱媒体Lの充填容積Xとする。例えば、図6(a)のように液状熱媒体Lの充填容積がx1であるユニットタンク51を3個設置したときは、園芸温室内の液状熱媒体Lの充填容積Xは、x1+x1+x1となる。図6(b)のように液状熱媒体Lの充填容積がそれぞれx2、x3、x4であるユニットタンク52、53、54を3個設置したときは、園芸温室内の液状熱媒体Lの充填容積Xは、x2+x3+x4となる。園芸温室内の液状熱媒体Lの充填容積Xは、前述の一体型の水タンクと同様に、園芸温室1の容積Yに対して、1%以上である。より好ましくは、2%以上であり、特に好ましくは、3%以上である。
【0046】
各ユニットタンク51、52、53、54は、複数個を組み合わせて水タンクを形成するのに適した形状とすることが好ましい。隣に配置されたユニットタンクの胴部15と密着面を形成して配置しやすいため、胴部15が4面である立方体又は直方体とすることがより好ましい。
【0047】
各ユニットタンク51、52、53、54は、図6(a)に示すように、同じ形状のユニットタンク51を組み合わせたり、図6(b)に示すように、異なる寸法のユニットタンク52、53、54を組み合わせたり、図示しないが、それぞれ埋設する深さを変えたり、異なる形状のユニットタンクを組み合わせたりすることができる。なお、組み合わせるユニットタンクの数は、配置する園芸温室の規模、各ユニットタンクの容積、栽培する植物などの諸条件に応じて適宜選択可能であり、本実施形態では限定されない。例えば、ユニットタンクを横に3個並列する形態、ユニットタンクを横に3個、縦に10個並列して合計30個のユニットタンクを組み合わせる形態を例示できる。また、ユニットタンク同士を固定する方法は、特に限定されず、単に接触させて埋設する方法の他、各ユニットタンクに、他のユニットタンクと連結可能な連結部(不図示)を設ける方法、バンド、パイプなど連結部品を使用する方法を例示することができる。
【0048】
複数のユニットタンク51、52、53、54を組み合わせて水タンク300、301を形成することで、各ユニットタンク51、52、53、54の容量を、比較的小さくすることができるため、タンクの製造、タンクの輸送、埋設時の作業性、埋設後のメンテナンスなど取り扱いが容易になる。
【0049】
図6(b)に示すように、露出部13の露出している高さを変えて栽培床設置部21を凹状とすることができる。図6(b)では、高さの異なるユニットタンクを使用し、埋設する深さを一定としているが、前述のとおり、各ユニットタンクの埋設する深さを変えることで、露出部13の露出している高さを変えてもよい。複数のユニットタンクを組み合わせて栽培床設置部21を凹状とした場合には、ユニットタンクとユニットタンクとの間から排水されるため、図3、図4及び図5に示すように、溝41又は孔42などの排水機構を設けなくてもよいが、各ユニットタンクのサイズが大きいときには、排水用の窪みを胴部の側面を縦断するように形成するとより確実に排水することができる。
【0050】
本実施形態に係る植物の育成方法は、本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンクを使用する。園芸温室栽培用の水タンクは、例えば、図1〜図6に示す水タンクが例示できる。前述のとおり、本実施形態に係る水タンクは、栽培床設置部から熱を伝達して栽培床を暖め、かつ、その大熱容量によって、園芸温室内の温度変化を小さくすることができるため、外気温が低い季節又は寒冷な気候の地域でも、温暖な育成条件を必要とする植物を低コスト及び省エネルギーで育成することができる。温暖な育成条件を必要とする植物は、例えば、各種植物の苗、イチゴ、メロンなどの果物、きゅうり、トマトなどの野菜、バラ、蘭などの花が挙げられる。栽培床の表面は、マルチフィルムで被覆することが好ましい。保温性をより向上させることができる。マルチフィルムによる被覆は、従来の畝を被覆する周知の方法で行うことができる。本実施形態に係る植物の育成方法は、大熱容量を省エネルギーで維持できるため、重油の消費低減及び農家所得向上が得られる。例えば、園芸施設の設定温度3℃に相当する利得対策を行い、消費エネルギーを低減することにより、年間900億円〜2000億円の加温用A重油による生産コストを低減することができる。
【実施例】
【0051】
次に、実施例を示しながら本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定して解釈されない。
【0052】
(実施例1)
床面積の縦辺Dが10m、横辺Wが3m、高さHが3mであり、パイプで骨組みを形成し、農ビ製フィルムで外壁を被覆したビニールハウスを園芸温室とした。この時、園芸温室の地上容積Yは、90mであった。水タンクとして、天面部の直径0.8m、胴部の高さが0.8mであり、容積が0.40mの円筒形で、厚さが3mmのポリプロピレンからなる容器に液状水媒体として水道水0.36mを充填して園芸温室栽培用の水タンクとした。この水タンクを6個用意した。ここで、液状熱媒体の充填容積Xは、園芸温室の地上容積Yに対して2.4%であった。
【0053】
(比較例1)
実施例1の園芸温室に水タンクを設けず、比較例1の温室とした(以降、通常温室という。)。
【0054】
実施例1の大熱容量温室及び比較例1の通常温室について、次に示す温度を測定した。なお、測定時期は、12月下旬であった。1日8回定刻に園芸温室内の気温(園芸温室の内の大気温度)及び園芸温室内の土壌の温度(深さ15cmの地中の温度)を測定した。測定結果を表1(園芸温室内の気温)及び表2(園芸温室内の土壌温度)に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1より、大熱容量温室において、園芸温室内の最低気温は2.9℃であり、最高気温は29.8℃であった。通常温室において、園芸温室内の最低気温は−0.8℃であり、最高気温は31.1℃であった。表2より、大熱容量温室において、園芸温室内の最低土壌温度は9.3℃であり、最高土壌温度は15.0℃であった。通常温室において、園芸温室内の最低土壌温度は8.1℃であり、最高土壌温度は17.2℃であった。
【0058】
(園芸温室内の最低気温の比較)
最低気温は、大熱容量温室の方が、通常温室よりも3.7℃高かったことから、水タンクを設置することで、夜間に外気温が低下しても、水タンクが昼間に蓄熱した熱エネルギーによって、園芸温室内の気温が低下しにくいことが確認できた。
【0059】
(園芸温室内の最高気温の比較)
最高気温は、大熱容量温室の方が、通常温室よりも1.3℃低かった。これは、太陽光及び温室内の気温の熱エネルギーを水タンクの液状熱媒体Lが吸収したためと考えられる。したがって、水タンクを設置することで、園芸温室内の過度な気温の上昇を抑制し、適度な温度に保つことができることが確認できた。
【0060】
(園芸温室内の気温変動幅の比較)
気温変動幅は、大熱容量温室が26.9℃であり、通常温室が31.9℃であった。気温変動幅は、大熱容量温室の方が、通常温室よりも5.0℃狭かった。したがって、水タンクを設置することによって、園芸温室内の気温変動を小さくすることができ、適度な温度に保つことができることが確認できた。
【0061】
(園芸温室内の最低土壌温度の比較)
最低土壌温度は、大熱容量温室の方が、通常温室よりも1.2℃高かったことから、水タンクを設置することで、夜間に外気温が低下しても、水タンクが昼間に蓄熱した熱エネルギーによって、園芸温室内の土壌温度が低下しにくく、保温効果が高まることが確認できた。
【0062】
(園芸温室内の最高土壌温度の比較)
最高土壌温度は、大熱容量温室の方が、通常温室よりも2.2℃低かった。これは、土壌温度、太陽光及び温室内の気温の熱エネルギーを水タンクの液状熱媒体Lが吸収したためと考えられる。したがって、水タンクを設置することで、園芸温室内の過度な土壌温度の上昇を抑制し、適度な温度に保つことができることが確認できた。
【0063】
(園芸温室内の土壌温度変動幅の比較)
土壌温度変動幅は、大熱容量温室が5.7℃であり、通常温室が9.1℃であった。気温変動幅は、大熱容量温室の方が、通常温室よりも3.4℃狭かった。したがって、水タンクを設置することによって、園芸温室内の土壌温度変動を小さくすることができ、適度な温度に保つことができることが確認できた。
【0064】
(水タンクの温度勾配の測定)
追加試験として、大熱容量温室に設置した水タンク内の液状熱媒体の温度勾配を測定した。水タンク内の液状熱媒体は、昼間に気温が上昇するとともに温度上昇し、夜間に気温が下降するとともに温度低下した。また、水タンク内の上方部と下方部との温度差は、昼間に拡大し、夜間に縮小した。すなわち、昼間における水タンク内部の上方部の温度は23.0℃であり、水タンク内部の下方部の温度は16.0℃であり、上方部と下方部との温度差は7.0℃であった。一方、夜間における水タンク内部の上方部の温度は12.5℃であり、水タンク内部の下方部の温度は11.0℃であり、上方部と下方部との温度差は1.5℃であった。なお、上方部と下方部との中間部の温度は、上方部の温度と下方部の温度との中間値であり、直線の温度勾配を示した。これは、水温によって発生した比重差によるものである。このように、特に昼間には、水タンク内は上方部と下方部とで大きな温度差が生じるため、図2に示すような無電力対流ポンプ60を設けることで温度差を小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本実施形態に係る園芸温室栽培用の水タンクは、園芸温室内に設置することで外気温が低い季節又は寒冷な気候の地域でも、温暖な育成条件を必要とする植物を低コスト及び省エネルギーで育成することができるため、各種植物の苗、イチゴ、メロンなどの果物、きゅうり、トマトなどの野菜、バラ、蘭などの花など温暖な育成条件を必要とする植物を育成する園芸温室に設置すると好適である。
【符号の説明】
【0066】
100、101、200、201、202、300、301 園芸温室栽培用の水タンク
1 園芸温室
2、12 天面部
3、13 露出部
4、14 埋設部
5、15 胴部
21、22 栽培床設置部
31 栽培床
41 溝
42 孔
51、52、53、54 ユニットタンク
60 無電力対流熱ポンプ
61 上方集熱部
62 下方集熱部
63 熱伝達部
64 断熱部
71、72 上昇流
73 下降流
L 液状熱媒体
H タンクの高さ
h1 露出部の露出する高さ
h2 埋設部の埋設される深さ
h3 上方集熱部の上端面から下方集熱部の下端面までの高さ
X 水タンクの液状熱媒体の充填容積
x1、x2、x3、x4 ユニットタンクの液状熱媒体の充填容積
Y 園芸温室の容積
Z 水タンクの容積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
園芸温室内に設置され、天面部と、該天面部の下方に連接する胴部とを有し、内部に液状熱媒体が充填されて密閉された園芸温室栽培用の水タンクであって、
前記天面部には、栽培床を設置する栽培床設置部が設けられ、
前記液状熱媒体の充填容積は、前記園芸温室の容積に対して、1%以上であることを特徴とする園芸温室栽培用の水タンク。
【請求項2】
前記胴部は、下方部が前記園芸温室内の土壌に埋め込まれた埋設部であり、上方部が前記園芸温室内の土壌から露出した露出部であることを特徴とする請求項1に記載の園芸温室栽培用の水タンク。
【請求項3】
前記露出部の一部又は全部は、着色されていることを特徴とする請求項2に記載の園芸温室栽培用の水タンク。
【請求項4】
前記水タンクの内部の上方に配置された上方集熱部と、前記水タンクの内部の下方に配置された下方集熱部と、前記上方集熱部及び前記下方集熱部を接続する熱伝達部と、該熱伝達部の外周を覆う断熱部と、を有する無電力対流熱ポンプを、前記水タンクの内部に更に備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の園芸温室栽培用の水タンク。
【請求項5】
さらに、攪拌装置を備えることを特徴とする請求項4に記載の園芸温室栽培用の水タンク。
【請求項6】
さらに、前記液状熱媒体を加温するための補助加温装置を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の園芸温室栽培用の水タンク。
【請求項7】
前記栽培床設置部は、凹部が形成され、該凹部に流入した水を前記胴部の側面に排水する溝又は孔が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の園芸温室栽培用の水タンク。
【請求項8】
前記水タンクは、複数のユニットタンクを並列に組み合わせて形成され、
前記ユニットタンクの胴部は、隣に配置されたユニットタンクの胴部と密着面を形成し、
前記各ユニットタンクは、いずれも前記埋設部と前記露出部とを有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の園芸温室栽培用の水タンク。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の園芸温室栽培用の水タンクを使用することを特徴とする植物の育成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−125211(P2012−125211A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281044(P2010−281044)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【Fターム(参考)】