説明

土留壁と基礎スラブとを結合する結合手段が負担する曲げモーメントの評価方法

【課題】土留壁と基礎スラブとを結合する結合手段が負担する曲げモーメントが過剰に評価されることがないようにすることにより、より経済的な前記結合手段を設計できるようにすること。
【解決手段】前記結合手段が負担する曲げモーメントMwpの評価方法は、土圧及び水圧により前記基礎スラブの上面と同じ高さの位置で前記土留壁に生じる第1の曲げモーメントMWSと、前記土留壁に生じる上下方向の力による前記基礎スラブの上面と前記土留壁との交線の周りの第2の曲げモーメントMsnと、前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置で前記土留壁に生じる第3の曲げモーメントMと、前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置で前記土留壁に生じるせん断力による前記交線の周りの第4の曲げモーメントMQSとを算出すること、式Mwp=MWS+Msn−M−MQSによりMwpを算出することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留壁と基礎スラブとを結合する結合手段が負担する曲げモーメントの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物を支持する基礎スラブには、地盤の中に設けられた土留壁にその上端部と下端部との間で結合手段により結合されているものがある。前記結合手段は、前記土留壁に上下方向に間隔を置いて固定された複数のスタッドからなり、各スタッドは、前記土留壁から前記基礎スラブの内部へ水平方向に伸び、前記基礎スラブの内部において該基礎スラブに固定されている(特許文献1参照)。
【0003】
前記結合手段を設計する際に、前記結合手段が負担する曲げモーメントを評価する。前記結合手段が負担する曲げモーメントを評価する従来の評価方法は、まず、前記土留壁が地盤から受ける土圧及び水圧により前記基礎スラブの上面と同じ高さの位置において前記土留壁に生じる第1の曲げモーメントと、前記土圧及び前記水圧により前記土留壁に生じる上下方向の力による前記基礎スラブの上面と前記土留壁との交線の周りの第2の曲げモーメントとを算出する。その後、前記結合手段が負担する曲げモーメントをMwpとし、前記第1の曲げモーメントをMWSとし、前記第2の曲げモーメントをMsnとしたとき、式Mwp=MWS+MsnによりMwpを算出する。このようにして前記結合手段が負担する曲げモーメントを評価した後、該評価に基づいて前記結合手段の大きさ、すなわち各スタッドの本数、径、長さ等を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−118353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、実際には、前記第1の曲げモーメント及び前記第2の曲げモーメントは、前記結合手段のみならず、前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁によっても負担されている。しかし、従来の評価方法では、前記第1の曲げモーメントと前記第2の曲げモーメントとの和により前記結合手段が負担する曲げモーメントを算出するため、前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁が負担する曲げモーメントを考慮することなく、前記第1の曲げモーメント及び前記第2の曲げモーメントの全てを前記結合手段が負担すると仮定して前記結合手段が負担する曲げモーメントを評価する。これにより、前記結合手段が負担する曲げモーメントが過剰に評価される。このため、前記評価に基づいて決定される前記結合手段の大きさが大きくなり、すなわち前記スタッドの本数が増え、前記スタッドの径又は長さが長くなり、不経済である。
【0006】
本発明の目的は、土留壁と基礎スラブとを結合する結合手段が負担する曲げモーメントが過剰に評価されることがないようにすることにより、前記評価に基づいて決定される前記結合手段の大きさが小さくなるようにし、より経済的な前記結合手段を設計できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記第1の曲げモーメントと前記第2の曲げモーメントとの和から前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁が負担する曲げモーメントを差し引いて前記結合手段が負担する曲げモーメントを評価することにより、前記第1の曲げモーメントと前記第2の曲げモーメントとの和により前記結合手段が負担する曲げモーメントを算出する従来の場合のように前記結合手段が負担する曲げモーメントが過剰に評価されることがないようにする。これにより、前記評価に基づいて決定される前記結合手段の大きさが小さくなるようにし、より経済的な前記結合手段の設計を可能にする。
【0008】
本発明に係る、地盤の中に設けられた土留壁と、該土留壁の上端部と下端部との間の高さの位置に設けられ、建物を支持する基礎スラブとを結合する結合手段が負担する曲げモーメントを評価する方法は、前記土留壁が地盤から受ける土圧及び水圧により前記基礎スラブの上面と同じ高さの位置において前記土留壁に生じる第1の曲げモーメントと、前記土圧及び前記水圧により前記土留壁に生じる上下方向の力による前記基礎スラブの上面と前記土留壁との交線の周りの第2の曲げモーメントと、前記土圧及び前記水圧により前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁に生じる第3の曲げモーメント及び前記土圧及び前記水圧により前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁に生じるせん断力による前記交線の周りの第4の曲げモーメントの少なくとも一方とを算出すること、前記結合手段が負担する曲げモーメントをMwpとし、前記第1の曲げモーメントをMWSとし、前記第2の曲げモーメントをMsnとし、前記第3の曲げモーメントをMとし、前記第4の曲げモーメントをMQSとしたとき、式Mwp=MWS+Msn−M−MQS、式Mwp=MWS+Msn−M又は式Mwp=MWS+Msn−MQSによりMwpを算出することを含む。
【0009】
前記第1の曲げモーメントと前記第2の曲げモーメントとの和から前記第3の曲げモーメント及び前記第4の曲げモーメントの少なくとも一方を引くことにより、前記結合手段が負担する曲げモーメントを算出するため、前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁が負担する曲げモーメントを差し引いて前記結合手段が負担する曲げモーメントを評価することができ、前記第1の曲げモーメントと前記第2の曲げモーメントとの和により前記結合手段が負担する曲げモーメントを算出する従来の場合のように前記結合手段が負担する曲げモーメントが過剰に評価されることを防ぐことができる。これにより、前記評価に基づいて決定される前記結合手段の大きさが小さくなるようにすることができ、より経済的な前記結合手段を設計することができる。
【0010】
前記結合手段は、前記土留壁に上下方向に間隔を置いて固定された複数の棒状部材であってそれぞれが前記土留壁から前記基礎スラブの内部へ水平方向に伸び、前記基礎スラブの内部において該基礎スラブに固定された複数の棒状部材からなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記土圧及び前記水圧により前記基礎スラブの上面と同じ高さの位置において前記土留壁に生じる前記第1の曲げモーメントと前記土圧及び前記水圧により前記土留壁に生じる上下方向の力による前記基礎スラブの上面と前記土留壁との交線の周りの前記第2の曲げモーメントとの和から前記土圧及び前記水圧により前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁に生じる前記第3の曲げモーメント及び前記土圧及び前記水圧により前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁に生じるせん断力による前記交線の周りの前記第4の曲げモーメントの少なくとも一方を引くことにより、前記結合手段が負担する曲げモーメントを算出するため、前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁が負担する曲げモーメントを差し引いて前記結合手段が負担する曲げモーメントを評価することができ、前記第1の曲げモーメントと前記第2の曲げモーメントとの和により前記結合手段が負担する曲げモーメントを算出する従来の場合のように前記結合手段が負担する曲げモーメントが過剰に評価されることがないようにすることができる。これにより、前記評価に基づいて決定される前記結合手段の大きさが小さくなるようにすることができ、より経済的な前記結合手段を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】土留壁及びこれに結合された基礎スラブの縦断面図。
【図2】図1の線2における、土留壁と基礎スラブとを結合する結合手段の拡大図。
【図3】結合手段が負担する曲げモーメントMwpについての説明図。
【図4】結合手段が負担する曲げモーメントの評価方法のフロー図。
【図5】解析モデルを示す図。
【図6】図3の線6における土留壁の水平断面並びに第1の曲げモーメントMWS及び基礎スラブの上面と同じ高さの位置で土留壁に生じる上向き力Nの説明に関する図。
【図7】実験条件を示す図。
【図8】試験体の正面図。
【図9】図8の線9における試験体の断面図。
【図10】図8の線10における試験体の断面図。
【図11】実験に基づくMstad、Mwp1、Mwp2、Mwp3及びMwp4の算出結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1、2に示すように、地盤10の中に設けられた土留壁12と、該土留壁の上端部14と下端部16との間の高さの位置に設けられ、建物18を支持する基礎スラブ20とが結合手段22(図2)により結合されている。
【0014】
土留壁12は、ソイルセメント柱列壁であり、ソイルセメントからなる本体24と、該本体の内部に隣接して配置された複数の芯材26とを有する。各芯材26はH形鋼である。基礎スラブ20の上に鉄筋コンクリートからなる地下壁28が土留壁12に平行に設けられている。地下壁28は土留壁12と基礎スラブ20とに結合されている。地下壁28と土留壁12との結合は、土留壁12に上下方向に間隔を置いて固定された複数のスタッド30によりなされている。各スタッド30は、土留壁12から地下壁28の内部へ水平方向に伸び、地下壁28の内部において該地下壁に固定されている。土留壁12と地下壁28とは合成壁を構成する。
【0015】
基礎スラブ20は鉄筋コンクリートからなる。建物18は免震装置32を介して基礎スラブ20に支持されている。建物18は、地下壁28から間隔を置かれており、地震時に建物18に水平力が作用したとき、地下壁28に当たることなく基礎スラブ20に対して振動する。
【0016】
結合手段22は、土留壁12に上下方向に間隔を置いて固定された複数の棒状部材34からなり、各棒状部材は、土留壁12から基礎スラブ20の内部へ水平方向に伸び、基礎スラブ20の内部において該基礎スラブに固定されている。棒状部材34はスタッドである。
【0017】
図3に示すように、土留壁12が地盤10から土圧及び水圧を受けることにより、基礎スラブ20の上面36と同じ高さの位置において土留壁12に曲げモーメント(第1の曲げモーメント)MWSが生じ、基礎スラブ20の下面38と同じ高さの位置において土留壁12に曲げモーメント(第3の曲げモーメント)Mが生じる。また、土留壁12が地盤10から前記土圧及び前記水圧を受けることにより、土留壁12に上下方向の力(N−N)が生じ、基礎スラブ20の下面38と同じ高さの位置において土留壁12にせん断力Qが生じる。
【0018】
結合手段22を設計する際に、結合手段22が負担する曲げモーメントMwpを評価する。このとき、図4に示すように、まず、第1の曲げモーメントMWSと、上下方向の力(N−N)による基礎スラブ20の上面36と土留壁12との交線40の周りの第2の曲げモーメントMsnと、第3の曲げモーメントMと、せん断力Qによる交線40の周りの第4の曲げモーメントMQSとを算出する。
【0019】
このとき、図5に示す解析モデル42を用いて応力解析を行う。解析モデル42は、上下方向に伸びる第1梁要素44と、該第1梁要素から下方へ間隔を置かれ、上下方向に伸びる第2梁要素46と、第1梁要素44と第2梁要素46との間にあって第1梁要素44の下端部と第2梁要素46の上端部とに接合された剛域48と、一端部が該剛域に接合され、該剛域から水平方向に伸びる第3梁要素50とを有する。第1梁要素44は基礎スラブ20の上面36の上方における土留壁12及び地下壁28、すなわち基礎スラブ20の上面36の上方における前記合成壁を表し、第2梁要素46は基礎スラブ20の下面38の下方における土留壁12を表し、第3梁要素50は基礎スラブ20を表す。地盤10の抵抗力を考慮するために第2梁要素46及び第3梁要素50の支持条件はばね支持である。第2梁要素46の下端部は自由端であり、第3梁要素50の他端部は固定端である。第1梁要素44に前記土圧及び前記水圧による外力Pを作用させて前記応力解析を行う。
【0020】
前記応力解析により、基礎スラブ20の上面36と同じ高さの位置において土留壁12及び地下壁28、すなわち前記合成壁に生じる曲げモーメントMatmと、基礎スラブ20の下面38の下方における土留壁12が地盤10から受ける摩擦抵抗力Nと、第3の曲げモーメントMと、せん断力Qとが求まる。
【0021】
第1の曲げモーメントMWSは次式により算出する(図6)。ここで、σoutは土留壁12の芯材26の地盤側の縁部の応力であり、σinは土留壁12の芯材26の地下壁側の縁部の応力であり、Zは土留壁12の芯材26の断面係数である。
WS=(σout−σin)×Z/2
σoutは次式により算出する。ここで、 atmは前記合成壁の引張側断面係数である。
σout=Matm atm
σinは次式により算出する。ここで、Hは芯材26のせいであり、tは地下壁28の厚さであり、xは地下壁28の建物側の面から前記合成壁の中立軸までの距離である。
σin=σout×(t−x)/(H+t−x
【0022】
第2の曲げモーメントMsnは次式により算出する。ここで、Nは基礎スラブ20の上面36と同じ高さの位置において土留壁12に生じる上向き力である。
sn=(N−N)×H/2
は次式により算出する(図6)。ここで、Aは土留壁12の芯材26の断面積である。
=(σout+σin)×A/2
【0023】
第4の曲げモーメントMQSは次式により算出する。ここで、tscは基礎スラブ20の厚さである。
QS=Q×tsc
【0024】
このようにして第1の曲げモーメントMWSと第2の曲げモーメントMsnと第3の曲げモーメントMと第4の曲げモーメントMQSとを算出する。その後、結合手段22が負担する曲げモーメントMwpを次式により算出する。
wp=MWS+Msn−M−MQS
【0025】
第1の曲げモーメントMWS、第2の曲げモーメントMsn、第3の曲げモーメントM及び第4の曲げモーメントMQSの全てを算出する上記の例に代え、第1の曲げモーメントMWS、第2の曲げモーメントMsn及び第3の曲げモーメントMのみを算出してもよい。この場合、結合手段22が負担する曲げモーメントMwpを次式により算出する。
wp=MWS+Msn−M
【0026】
第1の曲げモーメントMWS、第2の曲げモーメントMsn及び第3の曲げモーメントMのみを算出する上記の例に代え、第1の曲げモーメントMWS、第2の曲げモーメントMsn及び第4の曲げモーメントMQSのみを算出してもよい。この場合、結合手段22が負担する曲げモーメントMwpを次式により算出する。
wp=MWS+Msn−MQS
【0027】
このようにして結合手段22が負担する曲げモーメントMwpを評価した後、前記評価に基づき、結合手段22がMwpを負担するのに十分な設計上の強度を備えるように結合手段22の大きさを決定する。例えば、次式が成り立つように棒状部材34の本数、径、長さ等を決定する。ここで、Mstadは結合手段22が設計上負担できる曲げモーメントであり、pは棒状部材34が設計上負担できる引張力であり、zは基礎スラブ20の上面36と棒状部材34との間の間隔であり、nは棒状部材34の本数である。
wp≦Mstad=Σ(p×z) (i=1、2、3、・・・、n)
なお、棒状部材34の本数、径、長さ等を決定する際、基礎スラブ20の上面36と下面38との間において土留壁12が地盤10から受ける土圧及び水圧により、棒状部材34に生じる引張力が低減されることを考慮に入れてもよい。
【0028】
第1の曲げモーメントMWSと第2の曲げモーメントMsnとの和から第3の曲げモーメントM及び第4の曲げモーメントMQSの少なくとも一方を引くことにより、結合手段22が負担する曲げモーメントMwpを算出するため、基礎スラブ20の下面38と同じ高さの位置において土留壁12が負担する曲げモーメントを差し引いて結合手段22が負担する曲げモーメントMwpを評価することができる。これにより、第1の曲げモーメントMWSと第2の曲げモーメントMsnとの和により結合手段22が負担する曲げモーメントMwpを算出する従来の場合のように結合手段22が負担する曲げモーメントMwpが過剰に評価されることを防ぐことができる。このため、前記評価に基づいて決定される結合手段22の大きさが小さくなるようにすることができ、より経済的な結合手段22を設計することができる、すなわち、棒状部材34の本数を減らしたり、棒状部材34の径又は長さを短くしたりすることができる。
【0029】
棒状部材34は、スタッドである図2に示した例に代え、鉄筋でもよい。芯材26は、H形鋼である図1に示した例に代え、I形鋼、溝形鋼等のような他の形鋼でもよいし、鋼管でもよい。土留壁12は、ソイルセメント柱列壁である図1に示した例に代え、鋼管矢板、鋼矢板、親杭横矢板等でもよい。建物18が地下壁28から間隔を置かれている図1に示した例に代え、建物18が地下壁28に結合されてもよい。この場合、地下壁28が建物18の一部を構成していてもよい。基礎スラブ20の上に地下壁28が設けられている図1に示した例に代え、基礎スラブ20の上に地下壁28が設けられていなくてもよい。
【0030】
図7に示すように、結合手段22が負担する曲げモーメントMwpの評価の妥当性を確認するために試験体52を用いて実験を行った。試験体52は、上下方向に伸びるH形鋼54と、一端部が該H形鋼にその上端部と下端部との間で結合され、H形鋼54から水平方向に伸びる第1の鉄筋コンクリート部材56と、該第1の鉄筋コンクリート部材の上にH形鋼54に平行に設けられ、該H形鋼と第1の鉄筋コンクリート部材56とに結合された第2の鉄筋コンクリート部材58とを有する。H形鋼54、第1の鉄筋コンクリート部材56及び第2の鉄筋コンクリート部材58はそれぞれ土留壁12の芯材26、基礎スラブ20及び地下壁28を表す。
【0031】
図8ないし10に示すように、第1の鉄筋コンクリート部材56とH形鋼54との結合は結合手段60によりなされている。結合手段60は、H形鋼54に上下方向に間隔を置いて固定された複数の第1のスタッド62からなる。各第1のスタッド62は、H形鋼54から第1の鉄筋コンクリート部材56の内部へ水平方向に伸び、第1の鉄筋コンクリート部材56の内部において該第1の鉄筋コンクリート部材に固定されている。第2の鉄筋コンクリート部材58とH形鋼54との結合は、該H形鋼に上下方向に間隔を置いて固定された複数の第2のスタッド64によりなされている。各第2のスタッド64は、H形鋼54から第2の鉄筋コンクリート部材58の内部へ水平方向に伸び、第2の鉄筋コンクリート部材58の内部において該第2の鉄筋コンクリート部材に固定されている。
【0032】
図7に示したように、H形鋼54の下端部の支持条件はピン・ローラー支持であり、第1の鉄筋コンクリート部材56の他端部の支持条件は固定である。H形鋼54の上端部に、土圧を想定した荷重P1を、H形鋼54の下端部に、水平地盤反力を想定した荷重P2をそれぞれ加える。このとき、H形鋼54の下端部の水平変位が0となるようにする。H形鋼54及び第1のスタッド62のそれぞれにひずみ計(図示せず)を取り付けておき、該ひずみ計を用いて、荷重P1及び荷重P2により第1のスタッド62に生じたひずみと、荷重P1及び荷重P2によりH形鋼54に生じたひずみとを測定する。第1のスタッド62に生じたひずみに基づき、結合手段60が実際に負担した曲げモーメントMstad=Σ(p×z) (i=1、2、3、・・・、n)を算出する。H形鋼54に生じたひずみに基づき、Mwp1=MWS+Msn−M−MQSと、Mwp2=MWS+Msn−Mと、Mwp3=MWS+Msn−MQSと、Mwp4=MWS+Msnとを算出する。
【0033】
stad、Mwp1、Mwp2、Mwp3及びMwp4の算出結果を示す図11を参照すると、第1の曲げモーメントMWSと第2の曲げモーメントMsnとの和により算出されたMwp4は、従来の評価方法により算出されたものであるが、結合手段60が実際に負担した曲げモーメントMstadよりかなり大きく、結合手段60が負担する曲げモーメントを過剰に評価している。これに対して、第1の曲げモーメントMWSと第2の曲げモーメントMsnとの和から第3の曲げモーメントMと第4の曲げモーメントMQSとを引くことにより算出されたMwp1は、結合手段60が実際に負担した曲げモーメントMstadとほぼ等しく、結合手段60が負担する曲げモーメントを精度良く評価している。第1の曲げモーメントMWSと第2の曲げモーメントMsnとの和から第3の曲げモーメントMを引くことにより算出されたMwp2及び第1の曲げモーメントMWSと第2の曲げモーメントMsnとの和から第4の曲げモーメントMQSを引くことにより算出されたMwp3は、いずれも、Mstadより少し大きいが、従来の評価方法により算出されたMwp4と比較すると、Mstadに近く、結合手段60が負担する曲げモーメントを精度良く評価している。したがって、結合手段60が負担する曲げモーメントをMwp1、Mwp2又はMwp3と評価することにより、結合手段60が負担する曲げモーメントをMwp4と評価する従来の場合と比べて、結合手段60が負担する曲げモーメントを精度良く評価できることがわかり、結合手段60が負担する曲げモーメントをMwp1、Mwp2又はMwp3と評価することは妥当であるといえる。
【符号の説明】
【0034】
10 地盤
12 土留壁
14 上端部
16 下端部
18 建物
20 基礎スラブ
22 結合手段
34 棒状部材
36 上面
38 下面
40 交線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の中に設けられた土留壁と、該土留壁の上端部と下端部との間の高さの位置に設けられ、建物を支持する基礎スラブとを結合する結合手段が負担する曲げモーメントを評価する方法であって、
前記土留壁が地盤から受ける土圧及び水圧により前記基礎スラブの上面と同じ高さの位置において前記土留壁に生じる第1の曲げモーメントと、前記土圧及び前記水圧により前記土留壁に生じる上下方向の力による前記基礎スラブの上面と前記土留壁との交線の周りの第2の曲げモーメントと、前記土圧及び前記水圧により前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁に生じる第3の曲げモーメント及び前記土圧及び前記水圧により前記基礎スラブの下面と同じ高さの位置において前記土留壁に生じるせん断力による前記交線の周りの第4の曲げモーメントの少なくとも一方とを算出すること、
前記結合手段が負担する曲げモーメントをMwpとし、前記第1の曲げモーメントをMWSとし、前記第2の曲げモーメントをMsnとし、前記第3の曲げモーメントをMとし、前記第4の曲げモーメントをMQSとしたとき、式Mwp=MWS+Msn−M−MQS、式Mwp=MWS+Msn−M又は式Mwp=MWS+Msn−MQSによりMwpを算出することを含む、結合手段が負担する曲げモーメントの評価方法。
【請求項2】
前記結合手段は、前記土留壁に上下方向に間隔を置いて固定された複数の棒状部材であってそれぞれが前記土留壁から前記基礎スラブの内部へ水平方向に伸び、前記基礎スラブの内部において該基礎スラブに固定された複数の棒状部材からなる、請求項1に記載の結合手段が負担する曲げモーメントの評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−36272(P2013−36272A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174962(P2011−174962)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(591165919)株式会社新井組 (13)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】