説明

圧力センサ診断方法及びコモンレール式燃料噴射制御装置

【課題】安全弁の有無に関わらず、簡易な構成で、圧力センサの故障の有無を簡易に診断可能とする。
【解決手段】発電機を駆動するエンジンなどに用いられるコモンレール式燃料噴射制御装置において、燃料の高圧化前の温度Ts1と、燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度Ts2の差である実測温度差dTを求め、燃料の高圧化前の温度Ts1と燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度Ts2の差として予め定められた代表温度dtと、実測温度差dTとの差の絶対値が、所定閾値Tdthを超えた場合に圧力センサ11の故障と判定することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コモンレール式燃料噴射制御装置におけるレール圧を検出する圧力センサの診断方法、及び、それを用いたコモンレール式燃料噴射制御装置に係り、特に、低コストで簡易な構成による圧力センサの故障検出を可能としたものに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるコモンレール式燃料噴射制御装置において、圧力センサは、レール圧制御において必要とされる実レール圧の検出のため必須のものであり、その故障は、レール圧制御に大きな影響を与えるため、従来から種々の診断方法、装置などが、提案、実用化されている。
例えば、コモンレールの燃料圧が大気圧まで低下していると判断される状態において圧力センサの検出信号を得ると共に、その検出信号に対応する燃料圧力を算出し、算出された燃料圧力と大気圧との差が所定以上ある場合に圧力センサの故障と判断するいわゆるオフセットテストと称される方法などが提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
また、オフセットテストのみならず、圧力センサの傾きが正常か否かを診断するための方法や装置なども種々提案、実用化されている。
例えば、コモンレールに電磁式の安全弁を設けた構成を採るものにあっては、その電磁式安全弁の動作特性を、いわゆる学習処理によって学習するものがあるが、その学習値の範囲が所定範囲を越えた場合に、圧力センサの故障と診断する方法などが用いられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−242332号公報(第3−6頁、図1−図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、大気圧における圧力センサの出力が正常か否かの大凡の診断は可能であるが、圧力センサの出力特性の傾きが正常か否かを判断することはできないため、圧力センサの出力特性の傾き診断の要請に応えることができないという問題がある。
一方、電磁式安全弁の動作特性を、いわゆる学習処理によって学習するものがあるが、その学習値の範囲が所定範囲を越えた場合に、圧力センサの故障と診断する方法は、電磁式安全弁を備える構成が前提となるが、安全弁として必ずしも電磁式が用いられる訳ではなく、機械式安全弁が用いられる場合もあり、また、安全弁自体を備えない構成となる場合もあり、診断方法としての汎用性に欠けるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、安全弁の有無に関わらず、簡易な構成で、圧力センサの故障の有無を簡易に診断することのできる圧力センサ診断方法、及び、コモンレール式燃料噴射制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る圧力センサ診断方法は、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続されたインジェクタを介して内燃機関へ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置における圧力センサ診断方法であって、
前記燃料の高圧化前の温度と、前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である実測温度差を求め、前記燃料の高圧化前の温度と前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差として予め定められた代表温度と、前記実測温度差との差の絶対値が、所定閾値を超えた場合に前記圧力センサの故障と判定するよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る圧力センサ診断方法は、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続されたインジェクタを介して内燃機関へ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置における圧力センサ診断方法であって、
目標レール圧を変化させた際に、前記燃料の高圧化前の温度と、前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である実測温度差を求める一方、前記目標レール圧の変化により得られると推定される、前記燃料の高圧化前の温度と前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である推定温度差を、所定演算式より算出し、前記推定温度差と前記実測温度差の差の絶対値が、所定閾値を超えた場合に前記圧力センサの故障と判定するよう構成されてなるものである。
またさらに、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置は、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続されたインジェクタを介して内燃機関へ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、電子制御ユニットにより前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記燃料の高圧化前の温度と、前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である実測温度差を算出し、前記燃料の高圧化前の温度と前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差として予め定められた代表温度と、前記実測温度差との差の絶対値が、所定閾値を超えたか否かを判定し、所定閾値を超えたと判定された場合に前記圧力センサの故障と判定するよう構成されてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係るコモンレール式燃料噴射制御装置は、
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続されたインジェクタを介して内燃機関へ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、電子制御ユニットにより前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記コモンレールの目標レール圧を変化させ、その際、前記燃料の高圧化前の温度と、前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である実測温度差を算出する一方、前記目標レール圧の変化により得られると推定される、前記燃料の高圧化前の温度と前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である推定温度差を、所定演算式より算出し、前記推定温度差と前記実測温度差の差の絶対値が、所定閾値を超えたか否かを判定し、所定閾値を超えたと判定された場合に前記圧力センサの故障と判定するよう構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によればコモンレールに安全弁が設けられた構成か否かに関わらず、高圧化後にリリースされた燃料温度の検出のために安価な温度センサを1個だけ新たに設けることで、簡易な手法で圧力センサの故障の有無を診断することができるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態における圧力センサ診断方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における圧力センサ診断方法の第1の構成例における処理手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態における圧力センサ診断方法の第2の構成例における処理手順の前半部分を示すサブルーチンフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態における圧力センサ診断方法の第2の構成例における処理手順の後半部分を示すサブルーチンフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図4を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における圧力センサ診断方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
このコモンレール式燃料噴射制御装置は、高圧燃料の圧送を行う高圧ポンプ装置50と、この高圧ポンプ装置50により圧送された高圧燃料を蓄えるコモンレール1と、このコモンレール1から供給された高圧燃料をエンジン3の気筒へ噴射供給する複数の燃料噴射弁2−1〜2−nと、燃料噴射制御処理や後述する開閉成判定処理などを実行する電子制御ユニット(図1においては「ECU」と表記)4を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
かかる構成自体は、従来から良く知られているこの種の燃料噴射制御装置の基本的な構成と同一のものである。
このようなコモンレール式燃料噴射制御装置は、自動車両に搭載される他、例えば、発電設備において用いられることもある。すなわち、自動車両にあっては、エンジン3は車両用エンジンであり、発電設備においては、エンジン3は、発電機(図示せず)の駆動源として用いられる。
【0011】
高圧ポンプ装置50は、供給ポンプ5と、調量弁6と、高圧ポンプ7とを主たる構成要素として構成されてなる公知・周知の構成を有してなるものである。
かかる構成において、燃料タンク9の燃料は、供給ポンプ5により汲み上げられ、調量弁6を介して高圧ポンプ7へ供給されるようになっている。調量弁6には、電磁式比例制御弁が用いられ、その通電量が電子制御ユニット4に制御されることで、高圧ポンプ7への供給燃料の流量、換言すれば、高圧ポンプ7の吐出量が調整されるものとなっている。
なお、高圧ポンプ7の燃料流入側の適宜な部位には、燃料温度を検出する第1の温度センサ13が設けられており、その出力は電子制御ユニット4に入力されるようになっている。
【0012】
なお、供給ポンプ5の出力側と燃料タンク9との間には、戻し弁8が設けられており、供給ポンプ5の出力側の余剰燃料を燃料タンク9へ戻すことができるようになっている。
また、供給ポンプ5は、高圧ポンプ装置50の上流側に高圧ポンプ装置50と別体に設けるようにしても、また、燃料タンク9内に設けるようにしても良いものである。
燃料噴射弁2−1〜2−nは、エンジン3の気筒毎に設けられており、それぞれコモンレール1から高圧燃料の供給を受け、電子制御ユニット4による噴射制御によって燃料噴射を行うようになっている。
本発明の実施の形態においては、燃料噴射弁2−1〜2−nの余剰燃料を戻すための戻し通路15の適宜な位置に、第2の温度センサ14が設けられ、リターン燃料の温度が検出可能となっており、その出力は、電子制御ユニット4に入力されるようになっている。
【0013】
本発明の実施の形態におけるコモンレール1には、余剰燃料をタンク9へ戻すリターン通路(図示せず)に、安全弁10が設けられており、コモンレール1内のレール圧が、安全弁10において設定された所定圧を越えると、安全弁10が開弁状態となり、コモンレール1の燃料を低圧側のリターン通路(図示せず)を介してタンク9へ排出することで、レール圧の不用意な上昇が制限されるようになっている。
なお、安全弁10は、後述する圧力センサ診断方法が適用されるコモンレール式燃料噴射制御装置としては、必ずしも必要なものではなく、安全弁10を設けないコモンレール式燃料噴射制御装置の構成を採っても良い。
【0014】
電子制御ユニット4は、例えば、公知・周知の構成を有してなるマイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)を有すると共に、燃料噴射弁2−1〜2−nを駆動するための駆動回路(図示せず)や、調量弁6の通電を行うための通電回路(図示せず)を主たる構成要素として構成されたものとなっている。
【0015】
かかる電子制御ユニット4には、コモンレール1の圧力を検出する圧力センサ11の検出信号が入力される他、エンジン回転数、第1の温度センサ13の検出信号Ts1、第2の温度センサ14の検出信号Ts2などの各種の検出信号がエンジン3の動作制御や燃料噴射制御、さらには、後述する圧力センサ診断処理に供するために入力されるようになっている。
なお、上述した信号の他に入力される信号としては、コモンレール式燃料噴射制御装置が自動車両に用いられる場合には、アクセル開度や大気圧等がある。
【0016】
次に、電子制御ユニット4により実行される本発明の実施の形態における圧力センサ診断処理の手順について図2を参照しつつ説明する。
この図2に示された圧力センサ診断処理は、コモンレール式燃料噴射制御装置が、自動車両以外、例えば、発電装置などのいわゆるオフ・ハイウェイ機器に用いられる場合に適するものである。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、最初にレール圧が安定しているか否かの判定が行われる(図2のステップS102参照)。
【0017】
レール圧が安定しているか否かの判断基準としては、例えば、レール圧が、目標のレール圧を中心に所定の偏差の範囲に所定時間以上留まっているか否かを判断基準とすると好適である。この場合、所定の偏差範囲、及び、所定時間は、各装置毎の実際の諸条件を考慮して、試験やシミューレーション結果等に基づいて定められるべきものである。
また、上述の判断基準に限定される必要はなく、各装置毎の実際の諸条件を考慮してより好適な判断基準を定めても良いことは勿論である。
【0018】
しかして、ステップS102においてレール圧が安定したと判定(YESの場合)されると、高圧化手前温度Ts1の測定が実行される(図2のステップS104参照)。
ここで、高圧化手前温度とは、燃料が高圧ポンプ7によって高圧化される前の燃料温度を言い、本発明の実施の形態においては、高圧ポンプ7の燃料流入側の適宜な部位に設けられた第1の温度センサ13によって検出されるようになっている。
ステップS104においては、第1の温度センサ13の出力信号が電子制御ユニット4に読み込まれ、適宜な記憶領域に記憶されることとなる。
【0019】
次いで、高圧化後リリース温度Ts2の測定が行われる(図2のステップS106参照)。
ここで、高圧化後リリース温度とは、燃料が高圧ポンプ7によって高圧化された後に燃料タンク9へ戻される燃料温度を言い、具体的には、コモンレール1から余剰燃料として安全弁10を介して戻された燃料の温度、燃料噴射弁2−1〜2−nから余剰燃料として戻された燃料の温度である。本発明の実施の形態においては、燃料噴射弁2−1〜2−nの余剰燃料を戻すための戻し通路15の適宜な位置に設けられた第2の温度センサ14によって検出されるようになっている。
ステップS106においては、第2の温度センサ14の出力信号が電子制御ユニット4に読み込まれ、適宜な記憶領域に記憶されることとなる。
【0020】
次いで、高圧化後リリース温度Ts2と高圧化手前温度Ts1との温度差が演算算出される(図2のステップS108参照)。
すなわち、高圧化後リリース温度Ts2から高圧化手前温度Ts1を減算した温度差dT=Ts2−Ts1が求められることとなる。なお、以下の説明においては、説明の便宜上、上述の温度差dTを「実測温度差dT」と称することとする。
次いで、代表温度差dtと上述の実測温度差dTの差の絶対値が、閾値温度差Tdthを越えているか否かが判定される(図2のステップS110参照)。
【0021】
このように、代表温度差dtと実測温度差dTの差の絶対値が、閾値温度差Tdthを越えているか否かの判定を行うのは、代表温度差dtと実測温度差dTの差の絶対値と圧力センサ11の故障との関係について本願発明者が鋭意試験、研究を行った成果に基づくものである。
すなわち、上述のステップS110の処理は、本願発明者は鋭意試験、研究を行った結果、圧力センサ11が故障状態になく、レール圧制御が正常に行われている状態にあっては、代表温度差dtと実測温度差dTの差の絶対値が閾値温度差Tdthの範囲に維持されるという法則を見出すに至ったことに基づくものである。
【0022】
ここで、代表温度差dtは、試験やシミューレーション結果に基づいて予め求められた高圧化後リリース温度Ts2と高圧化手前温度Ts1との温度差の標準値である。
この図2に示された圧力センサ診断処理が実行される装置は、先に説明した発電装置のように、一定のレール圧、一定のエンジン回転数で用いられるものを前提としており、そのため、高圧化後リリース温度Ts2と高圧化手前温度Ts1との温度差は、装置の使用条件等が定まれば、大凡の値に定まるものであり、かかる値が代表温度差dtとされ、電子制御ユニット4の適宜な記憶領域に予め記憶されている。
また、閾値温度差Tdthは、装置の種類や、その具体的な構成等に応じて適宜な値が、試験やシミュレーション結果に基づいて定められるべきものである。
【0023】
しかして、ステップS110において、代表温度差dtと上述の実測温度差dTとの差の絶対値が、閾値温度差Tdthを越えていると判定された場合(YESの場合)には、圧力センサ11は故障(異常)であると判定されて(図2のステップS112参照)、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。なお、メインルーチンにおいては、圧力センサ11が故障であるとの判定結果(図2のステップS112参照)に基づいて、予め定められている故障対応の制御処理などが実行されるようになっている。
【0024】
一方、ステップS110において、代表温度差dtと上述の実測温度差dTとの差の絶対値が、閾値温度差Tdthを越えていないと判定された場合(NOの場合)には、圧力センサ11は正常であると判定されて(図2のステップS114参照)、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0025】
次に、コモンレール式燃料噴射制御装置が、いわゆるオン・ハイウェイの自動車両に用いられる場合に適する圧力センサ診断処理手順の第1の構成例について、図3を参照しつつ説明する。
まず、電子制御ユニット4による処理が開始されると、車両がオーバラン状態にあるか否かの判定が行われる(図3のステップS202参照)。
すなわち、エンジン3の動作状態が無噴射状態にあり、アクセル開度が零であるか否かが判定され、オーバーラン状態にあると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS204の処理へ進む一方、オーバーラン状態にはないと判定された場合(NOの場合)には、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0026】
次いで、ステップS206以降の圧力センサ診断処理に移行可能な条件が成立しているか否かが判定される(図3のステップS204参照)。
ここで、移行可能な条件が成立しているか否かを判定するのは、オーバーラン状態においては、この一連の圧力センサ診断処理のみならず、他の種々の処理が行われているため、それら他の処理との競合状態を回避するためである。ここで、他の処理としては、例えば、微小噴射量学習処理等がある。
【0027】
本発明の実施の形態における車両は、詳細は後述するように、オーバーラン状態において行われる種々の制御処理の一つとして微小噴射量学習処理が実行されるものであることを前提としている。
かかる微小噴射量学習処理は、燃料噴射弁2−1〜2−nの劣化や故障等に起因して、特に、パイロット噴射における燃料噴射量の本来の燃料噴射量からのずれを補正するためのものである。すなわち、概説すれば、微小噴射量学習処理は、まず、オーバーラン状態において、微小の燃料噴射を行い、その際に生ずるエンジン回転数の変動の周波数成分を基に、実際に噴射されたであろう燃料量の推定値(推定噴射量)が算出される。
【0028】
そして、推定噴射量を得るに要した通電時間ETと、基準通電時間との差ΔETが、差分通電時間学習値として取得され、通電時間学習値マップに記憶される。ここで、基準通電時間は、燃料噴射弁2−1〜2−nの使用開始の際の通電時間であり、レール圧と燃料噴射量とに対応する通電時間がマップ化されて、電子制御ユニット4に予め記憶されているものである。
このようにして差分通電時間学習値ΔETが取得された以後は、基準通電時間が差分通電時間学習値ΔETによって補正された時間が通電時間として用いられ、燃料噴射量と通電時間のずれを補正可能としたものである。
【0029】
しかして、ステップS204において、圧力センサ診断処理に移行可能な条件が成立していると判定されると(YESの場合)、目標レール圧の変更が行われ、例えば、レール圧が第1の目標レール圧Pcheck1に変更される。
ここで、この目標レール圧の変更は、この圧力センサ診断処理の中で独自に行っても良いが、例えば、先に説明した微小噴射量学習処理において行われる目標レール圧の設定を流用するようにしても好適である。すなわち、微小噴射量学習処理において、目標レール圧が変更されたと判定された際に、レール圧が安定しているか否かの判定(図3のステップS208参照)を行うようにすると好適である。微小噴射量学習処理と、この圧力センサ診断処理は、いわゆるタイムシェアリングで、それぞれ実行せしめることで、処理が競合して不都合を生ずるようなことは回避可能である。
【0030】
ステップS208におけるレール圧が安定しているか否かの判定は、具体的には、実際のレール圧が、ステップS206で設定された目標レール圧に所定の条件で安定した状態にあるか否かが判定される。
ここで、所定の条件は、装置の規模等に応じて種々設定するのが好適であるが、例えば、安定状態にあるべき時間を、所定の条件としても良い。また、他の条件としては、例えば、実際のレール圧が、目標のレール圧を中心に所定の偏差の範囲に所定時間以上留まっていることとしても好適である。この場合、所定の偏差範囲、及び、所定時間は、各装置毎の実際の諸条件を考慮して、試験やシミューレーション結果等に基づいて定められるべきものである。
また、上述の判断基準に限定される必要はなく、各装置毎の実際の諸条件を考慮してより好適な判断基準を定めても良いことは勿論である。
【0031】
そして、ステップS208において、レール圧が安定していると判定(YESの場合)されると、高圧化手前温度Ts1の測定が実行される(図3のステップS210参照)。すなわち、第1の温度センサ13の出力信号が電子制御ユニット4に読み込まれ、適宜な記憶領域に記憶されることとなる。
なお、「高圧化手前温度」については、先に図2のステップS104で説明した通りであるので、ここでの再度の詳細な説明は省略する。
【0032】
次いで、高圧化後リリース温度Ts2の測定が行われる(図3のステップS212参照)。すなわち、第2の温度センサ14の出力信号が電子制御ユニット4に読み込まれ、適宜な記憶領域に記憶されることとなる。
なお、「高圧化後リリース温度」については、先に図2のステップS106で説明した通りであるので、ここでの再度の詳細な説明は省略する。
【0033】
次いで、高圧化後リリース温度Ts2と高圧化手前温度Ts1の温度差が演算算出される(図3のステップS214参照)。
すなわち、高圧化後リリース温度Ts2から高圧化手前温度Ts1を減算した実測温度差dT=Ts2−Ts1が求められることとなる。
【0034】
次に、推定温度差dt(p1)の算定が行われる(図3のステップS216参照)。
すなわち、先に設定された目標レール圧(図3のステップS206参照)の下で、高圧化後リリース温度Ts2と高圧化手前温度Ts1との推定される温度差(推定温度差)が推定温度差演算式により算出される。ここで、推定温度差演算式は、試験やシミュレーション結果等に基づいて設定されたものである。
【0035】
次いで、推定温度差dt(p1)と実測温度差dTの差の絶対値が、閾値温度差Tdthを越えているか否かが判定される(図3のステップS218参照)。
ここで、閾値温度差Tdthは、装置の種類や、その具体的な構成等に応じて適宜な値が、試験やシミュレーション結果等に基づいて定められるべきものである。
【0036】
そして、ステップS218において、推定温度差dt(p1)と実測温度差dTの差の絶対値が、閾値温度差Tdthを越えていると判定された場合(YESの場合)には、圧力センサ11は故障(異常)であると判定されて(図3のステップS220参照)、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。なお、メインルーチンにおいては、圧力センサ11が故障であるとの判定結果(図3のステップS220参照)に基づいて、予め定められている故障対応の制御処理などが実行されるようになっている。
一方、ステップS218において、閾値温度差Tdthを越えていないと判定された場合(NOの場合)には、圧力センサ11は正常であると判定されて(図3のステップS222参照)、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0037】
上述の実施例においては、目標レール圧を1度だけ変更し、それに対応する高圧化手前温度Ts1と高圧化後リリース温度Ts1を、それぞれ測定し、その測定結果に基づいて故障診断を行うようにしたが、目標レール圧の変更は1度に限定される必要はなく、任意の複数回に設定して良く、目標レール圧の変更の度毎に、高圧化手前温度Ts1と高圧化後リリース温度Ts2を、それぞれ測定するようにしても良い。
【0038】
図4には、目標レール圧の変更を二度行う場合の処理手順が示されており、以下、同図を参照しつつ、この場合の処理手順について説明する。
なお、図3に示されたフローチャートにおける処理と同一の処理内容が実行されるステップについては、同一のステップ番号を付して、その詳細な説明を省略し、以下、異なる点を中心に説明する。
電子制御ユニット4による処理が開始されると、車両がオーバーラン状態にあるか否かの判定が行われ(図4のステップS202参照)、以後、ステップS218まで、先の図3で説明したと基本的に同一の処理が実行されることとなる。
なお、この図4に示された処理例においては、目標レール圧Pcheck1の下での高圧化手前温度をTs1−1、高圧化後リリース温度をTs2−1と表し、目標レール圧Pcheck2の下での高圧化手前温度をTs1−2、高圧化後リリース温度をTs2−2と表している。
【0039】
しかして、ステップS218において、推定温度差dt(p1)と実測温度差dTの差の絶対値が、第1閾値温度差Tdth1を越えていると判定された場合(YESの場合)には、圧力センサ11は故障(異常)であると判定されて(図4のステップS220参照)、図示されないメインルーチンへ戻ることとなる。
【0040】
一方、ステップS218において、第1閾値温度差Tdth1を越えていないと判定された場合(NOの場合)には、2度目の目標レール圧変更が行われることとなる(図4のステップS224参照)。なお、この場合の目標レール圧を便宜的にPcheck2と表すこととする。
なお、目標レール圧の変更は、先に図3のステップS206で説明したように、微小噴射量学習処理において行われる目標レール圧の設定を流用すると好適である。
【0041】
次いで、レール圧が安定しているか否かが判定される(図4のステップS226)。なお、レール圧が安定しているか否かの判断基準は、先の図3のステップ208で説明したと同様であるので、ここでの再度の詳細な説明は省略することとする。
ステップS226においてレール圧が安定していると判定(YESの場合)されると、高圧化手前温度Ts1−2の測定が実行される(図4のステップS228参照)。すなわち、第1の温度センサ13の出力信号が電子制御ユニット4に読み込まれ、適宜な記憶領域に記憶されることとなる。
【0042】
次いで、高圧化後リリース温度Ts2−2の測定が行われる(図4のステップS230参照)。すなわち、第2の温度センサ14の出力信号が電子制御ユニット4に読み込まれ、適宜な記憶領域に記憶されることとなる。
次いで、高圧化後リリース温度Ts2−2と高圧化手前温度Ts1−2の温度差である実測温度差が演算算出される(図4のステップS232参照)。
【0043】
次に、推定温度差dt(p2)の算定が行われる(図4のステップS234参照)。
すなわち、ステップS224で設定された目標レール圧Pcheck2の下で、高圧化後リリース温度Ts2−2と高圧化手前温度Ts1−2の推定される温度差(推定温度差)が推定温度差演算式により算出される。ここで、推定温度差演算式は、試験やシミュレーション結果等に基づいて設定されたものである。
【0044】
次に、推定温度差dt(p2)と実測温度差dTの差の絶対値が、第2閾値温度差Tdth2を越えているか否かが判定される(図4のステップS236参照)。
ステップS236において、推定温度差dt(p2)と実測温度差dTの差の絶対値が、第2閾値温度差Tdth2を越えていると判定された場合(YESの場合)には、先に説明したステップS220の処理へ進む一方、推定温度差dt(p2)と実測温度差dTの差の絶対値が、第2閾値温度差Tdth2を越えていないと判定された場合(NOの場合)には、圧力センサ11は正常であると判定されて(図4のステップS238参照)、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
上述の実施例においては、目標レール圧を2度変更する場合の例を示したが、勿論、目標レール圧の変更回数はこれに限定されるものではなく、任意の複数に設定しても良いものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
レール圧を検出する圧力センサのより簡易な診断が所望されるコモンレール式燃料噴射制御装置に適する。
【符号の説明】
【0046】
1…コモンレール
4…電子制御ユニット
11…圧力センサ
13…第1の温度センサ
14…第2の温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続されたインジェクタを介して内燃機関へ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置における圧力センサ診断方法であって、
前記燃料の高圧化前の温度と、前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である実測温度差を求め、前記燃料の高圧化前の温度と前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差として予め定められた代表温度と、前記実測温度差との差の絶対値が、所定閾値を超えた場合に前記圧力センサの故障と判定することを特徴とする圧力センサ診断方法。
【請求項2】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続されたインジェクタを介して内燃機関へ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置における圧力センサ診断方法であって、
目標レール圧を変化させた際に、前記燃料の高圧化前の温度と、前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である実測温度差を求める一方、前記目標レール圧の変化により得られると推定される、前記燃料の高圧化前の温度と前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である推定温度差を、所定演算式より算出し、前記推定温度差と前記実測温度差の差の絶対値が、所定閾値を超えた場合に前記圧力センサの故障と判定することを特徴とする圧力センサ診断方法。
【請求項3】
目標レール圧を複数回変化させ、目標レール圧を変化させた度毎に、それぞれ推定温度差と実測温度差の差の絶対値が、所定閾値を超えたか否かを判定し、所定閾値を超えた場合に圧力センサの故障と判定することを特徴とする請求項2記載の圧力センサ診断方法。
【請求項4】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続されたインジェクタを介して内燃機関へ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、電子制御ユニットにより前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記燃料の高圧化前の温度と、前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である実測温度差を算出し、前記燃料の高圧化前の温度と前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差として予め定められた代表温度と、前記実測温度差との差の絶対値が、所定閾値を超えたか否かを判定し、所定閾値を超えたと判定された場合に前記圧力センサの故障と判定するよう構成されてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置。
【請求項5】
燃料タンクの燃料が高圧ポンプによりコモンレールへ加圧、圧送され、当該コモンレールに接続されたインジェクタを介して内燃機関へ高圧燃料の噴射を可能としてなると共に、電子制御ユニットにより前記コモンレールの圧力が、前記コモンレールの圧力を検出する圧力センサの検出信号に基づいて制御可能に構成されてなるコモンレール式燃料噴射制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記コモンレールの目標レール圧を変化させ、その際、前記燃料の高圧化前の温度と、前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である実測温度差を算出する一方、前記目標レール圧の変化により得られると推定される、前記燃料の高圧化前の温度と前記燃料の高圧化後にリリースされた燃料の温度の差である推定温度差を、所定演算式より算出し、前記推定温度差と前記実測温度差の差の絶対値が、所定閾値を超えたか否かを判定し、所定閾値を超えたと判定された場合に前記圧力センサの故障と判定するよう構成されてなることを特徴とするコモンレール式燃料噴射制御装置。
【請求項6】
電子制御ユニットは、目標レール圧を複数回変化させ、目標レール圧を変化させた度毎に、それぞれ推定温度差と実測温度差の差の絶対値が、所定閾値を超えたか否かを判定し、所定閾値を超えたと判定された場合に圧力センサの故障と判定するよう構成されてなることを特徴とする請求項5記載のコモンレール式燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−72375(P2013−72375A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212521(P2011−212521)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】