説明

圧縮機のピストン及びピストンへのコーティング方法

【課題】必要な部位のみのコーティングが可能であり、500〜1000mPa・sの一般的な粘度を有するコーティング材料を使用可能とすることで高品質の被覆層の形成および材料の歩留りの向上を実現したピストンへのコーティング方法および前記方法によりコーティングされたピストンを提供する。
【解決手段】フィルムコーティング手段を用いて圧縮機のピストン頭部の外周面にフッ素樹脂とバインダーを主成分とするコーティング材料を塗布し、潤滑皮膜を形成させるピストンへのコーティング方法および前記コーティングが施されたピストンを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機のピストン及びピストンへのコーティング方法であって、特にフィルムコーティング手段を用いて、圧縮機のピストン頭部の外周面にフッ素樹脂とバインダーを主成分とするコーティング材を塗布するピストンへのコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の空調システムなどに用いられるピストン式圧縮機のピストンには、ピストンリングを備えず、円筒形のピストン頭部の外周面をシリンダボアの内周面に直接接触させて摺動するタイプのものが存在する。このようなタイプの圧縮機においては、ピストンの外周面とシリンダボアとの内周面との間の摺動特性、シール性、耐磨耗性等を確保するためにピストン頭部の外周面に主としてフッ素樹脂およびバインダを主成分とするコーティング層(潤滑皮膜)が設けられている。
【0003】
そして、このようなコーティング層を形成させるために適したコーティング方法としては、スプレーコーティング法やスクリーン印刷法(特開平10−26081号公報、特開2000−161224号公報)、ロールコーティング法(特開2000−170657号公報、特開2002−48057号公報)などが知られている。
【0004】
しかしながら、スプレーコーティング法の場合はコーティングに必要でない部位までコーティングされてしまい、また、スプレーノズルからのコーティング材料の飛散によりコーティング層の厚みにムラが生じたり、ピストン以外の周辺部にコーティング材料が飛散してしまうことにより歩留りを悪化させてしまうといった問題点があった。
【0005】
また、スプレーコーティング法の場合は、スプレーノズルからコーティング材料を円滑に噴射させるためには数百mPa・sの低粘度のコーティング材料を使用する必要があり、このため、厚塗りやコーティングを施した後に材料ダレを生じて均一な厚みを有するコーティング層を形成することが困難であった。
【0006】
一方、スクリーン印刷法やロールコーティング法の場合は、スプレーコーティング法による欠点はかなり解消されるものの、この場合は、逆に使用するコーティング材料の粘度を5000〜150000mPa・s程度の高粘度に調整しなければならず、このため、薄塗りが困難であり、また、スクリーンの目詰まりや配管の詰まりなどを生じ易く、コーティング材料の切換え時の洗浄が困難であるなどコーティング工程の作業性を悪化させていた。
【特許文献1】特開平10−26081号公報
【特許文献2】特開2000−161224号公報
【特許文献3】特開2000−170657号公報
【特許文献4】特開2002−48057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、圧縮機のピストン頭部へのコーティング工程において、従来のスプレーコーティング法、スクリーン印刷法及びロールコーティング法に代わる新たなコーティング方法を開発することにより、これらのコーティング方法が有する本質的な課題を解決することを目的とする。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、コーティング材料の歩留り向上の観点からは圧縮機のピストンにおいて必要な部位にのみコーティングを施すことを可能とし、また、コーティング層の均質化、作業性の向上の観点からは、500〜1000mPa・sといった一般的な粘度を有するコーティング材料を使用することができるようにしたピストンへのコーティング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、これらの課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法及びロールコーティング法に代えて、近年、電子基板などの小物をコーティングする際に使用される極小幅カーテンコーター用小型液体吐出ノズルを用いたフィルムコーティング手段をピストンのコーティングに適用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明はピストンに対してコーティング材料を液滴にして噴射するのではなく、特殊な専用ノズルを用いて粘度500〜1000mPa・sのコーティング材料を液膜状にして吐出させ、これに被コーティング物であるピストンの頭部を所定の速度で回転させながら塗布することにより、必要でない部位へのコーティングを排除し、かつ、均一なコーティング層からなる潤滑皮膜を形成させる。
【0011】
本発明は、カーテンフローを形成するフィルムコーティング手段を利用したものであり、本発明の要旨とするところは、(1)フィルムコーティング手段を用いて、圧縮機のピストン頭部の外周面にフッ素樹脂とバインダーを主成分とするコーティング材料を塗布し、潤滑皮膜を形成させるピストンへのコーティング方法にあり、(2)塗布終了時は、前記フィルムコーティング手段へのコーティング材料の供給を瞬時にカットすることを特徴とする(1)のピストンへのコーティング方法にあり、(3)前記コーティンング材料は、その粘度が500〜1000mPa・sである(1)又は(2)のコーティング方法にあり、(4)前記ピストンは金属製である(1)ないし(3)のいずれかのコーティング方法にある。
【0012】
また、本発明の他の要旨とするところは、(5)フィルムコーティング手段を用いて、圧縮機のピストン頭部の外周面にフッ素樹脂とバインダーを主成分とするコーティング材料を塗布し、潤滑皮膜が形成されているピストンにあり、(6)前記潤滑皮膜は、研磨加工が施されている(5)のピストンにあり、(7)前記ピストンは金属製である(5)又は(6)のピストンにある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、極小幅カーテンコーター用小型液体吐出ノズルを用いたフィルムコーティング手段をピストンのコーティングに適用することで、コーティングに必要でない部位までコーティングされてしまうことを排除し、また、コーティング材料の飛散によりコーティング層の厚みにムラが生じたり、歩留りを悪化させてしまうことを防止する。
【0014】
本発明によれば、500〜1000mPa・sといった一般的な粘度を有するコーティング材料を使用することができるため、材料ダレを殆ど生じることがない均一な厚みを有する高品質なコーティング層を形成することが可能となる。また、コーティング材料供給配管などの詰まりを防止し、その洗浄性も向上することから、コーティング工程における作業性も一段と向上する。
【0015】
また、本発明によれば、フィルムコーティング手段を極めてコンパクトに設置することができ、かつノズルの配置変更などにより塗布されるピストンの形状変更に対しても迅速に対処できるようになるため、ピストンの組み立てラインの中にフィルムコーティング工程をインライン化することが可能となり、その結果、製品の歩留りを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、フィルムコーティング手段を用いて、ピストンの外周面にフッ素樹脂とバインダーを主成分とするコーティング材料を塗布し、潤滑皮膜を形成させるピストンへのコーティング方法であって、特に、一部にコーティングの必要でない部位を有する圧縮機のピストン頭部へのコーティングに適している。また、本発明は、前記フィルムコーティング手段を用いて形成された潤滑皮膜を有するピストンを提供する。
【0017】
以下に、本発明の一実施形態にかかる実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で各種の変更が可能である。
【0018】
図1には、本発明によりコーティングされた圧縮機のピストン1が示されている。ピストン1は、円柱形状の頭部10とこれと一体成形された開口部を有する胴部11より構成され、一般的には金属材料の1種であるアルミニウム合金より作られる。頭部10にはピストンリングを嵌め込むための、またはピストンリングを嵌め込まない場合には潤滑油を保持するために機能する環状の溝部12が設けられている。
【0019】
また、頭部10の外周面にはコーティング層13が形成されており、頭部10の外周面とシリンダボアとの内周面(図示せず)との間の摺動特性、シール性、耐磨耗性等を確保する働きをする。本実施例におけるコーティング層13は、フッ素系樹脂の1種であるポリテトラフルオルエチレンでコーティングされており、フッ素系樹脂の使用は、特にピストン1の頭部10の外周面とシリンダボアとの内周面との金属同士の焼き付きを防止し、かつ両者の隙間を可及的に狭くするの役立つ。なお、ピストン1の材料やコーティング層13のコーティング材料は上述のものに限られず、他の材料であってもよい。
【0020】
図2は、ピストン1を製造する際に作られる中間製品2を示し、この1個の中間製品2から2個のピストン1が製造される。このため、中間製品2は図2に示されるように、同軸上の端部にピストン1の頭部10a、10bを備え、これらと一体となった胴部11a、11bにおいて互いに逆向きになるように連結されている。また、頭部10a、10bの端面には、コーティングおよび機械加工に際して中間製品2を回転させるための突出部20a、20bが設けられている。中間製品2は、両端部の突出部20a、20bを回転装置のワークホルダ(図示せず)に固定することにより、芯出しされた状態で回転される。
【0021】
次に、前記中間製品2の頭部10a、10bの外周面にコーティング層を形成するための方法について説明する。図3、4には、中間製品2の頭部10a、10bの外周面にフッ素樹脂とバインダーを主成分とするコーティング材料を塗布し、潤滑皮膜を形成させるためのフィルムコーティング手段3が模式的に示されている。
【0022】
コーティング材料中には、例えば、ポリアミドイミド等のバインダ、PTFE、N−メチルピロリドン等の溶剤および充填剤等が含まれており、コーティング材料の粘度は500〜1000mPa・sの範囲内に調整される。この粘度は、溶剤の配合比率を調整することによって決定される。また、コーティング材料の粘度を上記のような範囲内に調整することで、フィルムコーティング手段においては材料ダレが殆ど生じないコーティングが可能となり、配管やノズルに詰まりを生じさせることもない。
【0023】
フィルムコーティング手段3は、中間製品2を回転するための回転装置(図示せず)とフィルムコーティング装置4から構成される。回転装置は、中間製品2を所定の位置において回転可能に保持するためのワークホルダと、ワークホルダをその回転軸を中心に回転させるための駆動装置を含む。
【0024】
コーティング装置4は図5に示されるように、コーティング材料を貯蔵するためのタンク40と、タンクから吸い上げたコーティング材料をノズルに供給するためのポンプ41、コーティング材料の温度を調節するためのヒーター42、コーティング材料中に混入した異物やコーティング材料の中に生じた塊を除去するためのフィルター43、コーティング材料を液膜状にしてピストンへ塗布するためのノズル44、そしてこれらの構成要素を液的に連結するための供給配管45および戻り配管46を備え、供給配管45中にはコーティング材料の供給を瞬時に停止したり再開するための開閉バルブ47が含まれる。なお、使用されるコーティング材料の性状によっては、ヒーター42、フィルター43等といった付属品、および戻り配管46などを省略することもできる。
【0025】
前記フィルムコーティング手段3を用いて中間製品2にコーティング材料を塗布するためには、まず、駆動装置により中間製品2を矢印の方向へ所定の速度で回転させる(図4参照)。次に、ポンプ41を起動させ、コーティング材料供給配管45中の開閉バルブ47を開けることにより、コーティング材料がノズル44から液膜状に広げられて中間製品2の頭部10a、10bに塗布される。この時塗布されたコーティング層の厚みは、ノズル44から供給されるコーティング材料の供給量および中間製品2の回転速度などを制御することによって調整される。
【0026】
ノズル44は、例えば、市販されている極小幅カーテンコーター用小型液体吐出ノズルを用いることができ、このようなタイプのノズルは小型であるので外観上はエアースプレー用ノズルに似ているが、一般的には、そのノズル孔は横幅数ミリメートルのスリット形状または目型形状をしているという特徴を有する。
【0027】
ノズル44は中間製品2の回転軸に対して平行になるように並べられており、片側の頭部の外周面に溝部などのコーティングが不必要な部分がある場合は、図3に示されるように複数のノズル44を片側の頭部直上に配置することにより、マスキングをすることなくコーティング部分と非コーティング部分とに正確に塗り分けることができる。
【0028】
ノズル44は、図4に示されるように中間製品2の直上にその外周面に対して略直角となるように配置されており、コーティング材料の粘性によってはコーティング材料が頭部10a、10bの外周面から回転方向とは逆方向へ液戻りしないように、ノズル44の吐出角度を中間製品2の外周面に対して回転方向へ角度を付けて配置することもできる。
【0029】
本発明によるフィルムコーティング手段3を用いたコーティング方法によれば、比較的低粘度のコーティング材料であっても20〜80μmといった薄塗りから厚塗りまで広範囲の厚みのコーティングが可能となる。
【0030】
また、ノズル44を被コーティング物の頂上に複数配置しておき、それぞれのノズル44が被コーティング物の回転軸に対して平行移動可能に、かつ被コーティング物との間の距離を調節可能に公知の手段を用いて取り付けておくと、被コーティング物のコーティング範囲が異なる場合であってもラインの切換えが迅速かつ容易に行えるようになり、特にロールコーターを用いた場合に比べて、ラインの切換え作業時間を大幅に短縮することができる。この結果、ピストンの組み立てラインの中にフィルムコーティング工程をインライン化することが可能となり、コーティングされる製品の歩留りをさらに向上させることができる。
【0031】
コーティングは、中間製品2の頭部10a、10bの外周面を1回転した時に供給配管45中に開閉バルブ47を閉じることにより終了する。もちろん、中間製品2に要求されるコーティング層の厚みによっては複数回回転した後に開閉バルブ47を閉じて終了させてもよい。開閉バルブ47を利用したノズルへのコーティング材料の供給停止は瞬時に行われるため、塗布に際して不必要なコーティング材料の使用を防止しすると共に、塗布回数(コーティング層の階層数)を全周に渡って均一化することで塗布されたコーティング層の厚みの均質化を図ることが可能となる。
【0032】
また、より厳密な厚みのコーティング層の形成を望む場合は、ノズル44によるコーティング位置の下流側にドクターナイフやエアーナイフを設けることにより、コーティング層の厚みの制御をより厳格化することもできる。
【0033】
また、ノズル44へのコーティング材料の供給停止の応答性をさらに向上させたい場合は、ノズル44と被コーティング物との間に形成された液膜を遮断するために瞬時に開閉移動することができる遮蔽板などを設けることもできる。
【0034】
コーティングが終了すると、中間製品2はワークホルダーから取り出され、乾燥工程においてコーティング材料中の溶剤が除去されると共に焼成工程において焼成され、中間製品2の頭部10a、10bの外周面には、例えば20〜80μmの厚みを有するコーティング層が形成される。
【0035】
さらに、中間製品2の頭部10a、10bの外周面に形成されたコーティング層の厚みの精度を一層向上させたい場合や厚みに僅かなムラが生じた場合などは、コーティング層の厚みを修正するために、前記焼成処理の後に研磨処理が施される。
【0036】
このように、本発明によれば極小幅カーテンコーター用小型液体吐出ノズルを用いたフィルムコーティング手段をピストンのコーティングに適用することにより、厚みが20〜80μmといった比較的広範囲の厚みを有するコーティング層の形成が可能となり、また、コーティングに必要でない部位までコーティングされてしまうことを排除し、さらに、コーティング材料の飛散によりコーティング層の厚みにムラが生じたり、歩留りを悪化させてしまうことを防止する。
【0037】
本発明によれば、500〜1000mPa・sといった一般的な粘度を有するコーティング材料を使用することができるため、材料ダレを殆ど生じることがない均一な厚みを有する高品質なコーティング層を形成することが可能となる。また、コーティング材料供給配管などの詰まりを防止し、その洗浄性も向上することから、コーティング工程における作業性も一段と向上される。
【0038】
また、本発明によれば、フィルムコーティング手段を極めてコンパクトに設置することができ、かつノズルの配置変更などにより塗布される被コーティング物の変更にも迅速に対処できるため、ピストンの組み立てラインの中にフィルムコーティング工程をインライン化することが可能となり、その結果、製品の歩留りを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明によりフィルムコーティングされた圧縮機のピストンを示す正面図である。
【図2】図1に示されるピストン2対を製造するための中間製品を示す正面図である。
【図3】本発明に使用されるフィルムコーティング手段を模式的に示す正面図である。
【図4】図3に示されるフィルムコーティング手段を示す側面図である。
【図5】フィルムコーティング装置の構成を模式的に示す概念図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムコーティング手段を用いて、圧縮機のピストン頭部の外周面にフッ素樹脂とバインダーを主成分とするコーティング材料を塗布し、潤滑皮膜を形成させるピストンへのコーティング方法。
【請求項2】
塗布終了時は、前記フィルムコーティング手段へのコーティング材料の供給を瞬時にカットすることを特徴とする請求項1に記載のピストンへのコーティング方法。
【請求項3】
前記コーティンング材料は、その粘度が500〜1000mPa・sである請求項1又は2に記載のコーティング方法。
【請求項4】
前記ピストンは金属製である請求項1ないし3のいずれかに記載のコーティング方法。
【請求項5】
フィルムコーティング手段を用いて、圧縮機のピストン頭部の外周面にフッ素樹脂とバインダーを主成分とするコーティング材料を塗布し、潤滑皮膜が形成されているピストン。
【請求項6】
前記潤滑皮膜は、研磨加工が施されている請求項5に記載のピストン。
【請求項7】
前記ピストンは金属製である請求項5又は6に記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−322411(P2006−322411A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147424(P2005−147424)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000103677)オキツモ株式会社 (15)
【Fターム(参考)】