説明

圧縮機用リニアモータ

【課題】圧縮作動および膨張作動する駆動軸の振幅中心点を膨張作動方向にずらすことができ圧縮機用リニアモータを提供する。
【解決手段】可動ヨーク42は、膨張作動用磁路を透過させる磁路断面積Seをもつ膨張作動用ヨーク部421と、圧縮作動用磁路Mcを透過させる磁路断面積Scをもつ圧縮作動用ヨーク部422とを備える。仮想面Hに対して、圧縮作動用ヨーク部422および膨張作動用ヨーク部421は非対称形状とされており、磁路断面積Seは磁路断面積Scよりも大きくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体を圧縮させる圧縮機用リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機用リニアモータは、圧縮室をもつ基体と、基体に設けられた固定子と、固定子に対して直進方向に往復移動する可動子とを有する。固定子は、交流通電に伴い可動子を圧縮作動させる圧縮作動用磁路と可動子を膨張作動させる膨張作動用磁路とを交互に発生させる励磁ソレノイドと、励磁ソレノイドに隣設され圧縮作動用磁路および膨張作動用磁路を透過させる固定ヨークとを備える。
【0003】
可動子は、基体に往復移動可能に支持されている。可動子は、一方向への移動に伴い圧縮室を圧縮させる圧縮作動を実行し且つ他方への移動に伴い圧縮室を膨張させる膨張作動を実行するピストンを有する駆動軸と、駆動軸の外周部に設けられた永久磁石と、駆動軸の外周部に設けられた可動ヨークとを備える。
【0004】
励磁ソレノイドは交流通電されると、ピストンを圧縮作動させる圧縮作動用磁路と、ピストンを膨張作動させる膨張作動用磁路とを交互に発生させる。圧縮作動用磁路が発生すると、可動子の駆動軸が圧縮作動し、可動子のピストンが圧縮室を圧縮させ、圧縮作用を果たす。膨張作動用磁路が発生すると、駆動軸が膨張作動し、ピストンが退避して圧縮室を膨張させ、膨張作用を果たす。
【0005】
ところで、可動子が圧縮作動方向に移動すると、ピストンで圧縮室の流体は加圧されて吐出通路から吐出される。可動子が膨張作動方向に移動すると、ピストンが退避して圧縮室が膨張するため、吸引通路から流体が吸引される。ここで、図7は、圧縮室の圧力変動特性を示す。図7の横軸は時間を示し、縦軸はピストン位置を示す。図7の特性線XPはピストン位置の変動を示す。ピストンの先端は、図7の特性線XPに沿って、サインカーブ状に圧縮作動方向(矢印X1方向)に前進し、膨張作動方向(矢印X2方向)に後退する。ここで可動子のピストンが圧縮作動方向へ移動するときと、ピストンが膨張作動方向に移動するときとにおいて、圧力室のガス圧力の負荷が異なる。このため図7に示すように、圧縮作動および膨張作動するピストンの振幅中心点Xoが、ピストンの静止状態(励磁ソレノイド40への非通電時)の中立点Xnから圧縮作動方向(矢印X1方向)にずれる。この場合には、駆動軸が圧縮作動してピストンが圧縮室を圧縮させるとき、ピストンが圧縮作動方向(矢印X1方向)に移動するストロークSxが減少する。このため圧縮可能な容積が減少する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-185281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、可動子のピストンが直進方向に往復運動するリニアモータでは、リニアモータのうち往復移動する可動子(駆動軸)を支持する弾性体の変形は、弾性体の破壊を防ぐため、ピストンの静止状態の中立点を中心とし、対称の長さを持った範囲に限定される。従って、可動子のピストンの移動範囲も、弾性体の変形可能範囲により制限される。可動子のピストンの振幅中心点が、ピストンの静止状態の中立点からずれてしまうと、リニアモータの可動範囲の一部しか、可動子のピストンを移動させることが出来ず、掃気容積が減少する不具合が発生する。この現象を避けるためには、可動子のピストンが圧縮作動および膨張作動する振幅の振幅中心点を、可動子のピストンの静止状態の中立点付近に移動させる必要がある。
【0008】
そこで、特許文献1に係るリニアモータでは、交流成分に直流成分を加算させたオフセット電流を励磁ソレノイドに入力させ、ピストンの振幅中心点を移動させる手段が提案されている。しかしこの場合には、弾性体を変形させるために、励磁ソレノイドに常に電流を流す必要があるため、リニアモータの効率を低下させる不具合がある。このように特許文献1では、前記したオフセット電流を励磁ソレノイドに入力させなければ、圧縮作動および膨張作動する駆動軸の振幅中心点を膨張作動方向にずらすことができなかった。
【0009】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、膨張作動させるときの推進力を、圧縮作動させる推進力よりも高めにすることにより、圧縮作動および膨張作動する駆動軸の振幅中心点を膨張作動方向にずらすことができ、従って、駆動軸が圧縮作動してピストンが圧縮室を圧縮させるとき、ピストンが圧縮作動方向に移動するストロークを増加でき、このため圧縮可能なガスなどの流体の容積を増加できる圧縮機用リニアモータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の様相1に係る圧縮機用リニアモータは、圧縮室をもつ基体と、基体に設けられた固定子と、固定子に対して直進方向に往復移動する可動子とを具備するリニアモータであって、
(i)固定子は、交流通電に伴い可動子を圧縮作動させる圧縮作動用磁路と可動子を膨張作動させる膨張作動用磁路とを交互に発生させる励磁ソレノイドと、励磁ソレノイドに隣設され圧縮作動用磁路および膨張作動用磁路を透過させる固定ヨークとを具備し、
(ii)可動子は、基体に直進方向に往復移動可能に支持され一方向への移動に伴い圧縮室を圧縮させる圧縮作動を実行し且つ他方への移動に伴い圧縮室を膨張させる膨張作動を実行するピストンを有する駆動軸と、駆動軸の半径方向において固定ヨークと駆動軸との間に配置されるように駆動軸の外周部に設けられた永久磁石と、駆動軸の半径方向において固定ヨークと駆動軸との間に位置するように駆動軸の外周部に設けられた可動ヨーク部とを具備しており、
(iii)可動ヨークは、膨張作動用磁路を透過させる磁路断面積Seをもつ膨張作動用ヨーク部と、圧縮作動用磁路を透過させる磁路断面積Scをもつ圧縮作動用ヨーク部とを備えており、励磁ソレノイドに非通電である可動子の静止位置において励磁ソレノイドの軸長の中心を含み駆動軸の軸方向に直交する仮想面に対して、圧縮作動用ヨーク部および膨張作動用ヨーク部は非対称形状とされており、磁路断面積Seは磁路断面積Scよりも大きくされている。
【0011】
本発明に係るリニアモータによれば、励磁ソレノイドは交流通電されると、圧縮作動させる圧縮作動用磁路と、膨張作動させる膨張作動用磁路とを交互に発生させる。圧縮作動用磁路が発生すると、駆動軸が圧縮作動し、ピストンが圧縮室を圧縮させる。膨張作動用磁路が発生すると、駆動軸が反対方向に膨張作動し、ピストンが退避して圧縮室を膨張させる。
【0012】
可動ヨークは、膨張作動用磁路を透過させる磁路断面積Se(e:expand)をもつ膨張作動用ヨーク部と、圧縮作動用磁路を透過させる磁路断面積Sc(c:compress)をもつ圧縮作動用ヨーク部とを備えている。励磁ソレノイドの軸長の中心を含み駆動軸の軸方向に直交する仮想面に対して、圧縮作動用ヨーク部および膨張作動用ヨーク部は非対称形状とされている。そして、膨張作動用の磁路断面積Seは、圧縮作動用の磁路断面積Scよりも大きくされている。
【0013】
このため、膨張作動方向に駆動軸を駆動させる推進力をFeとし、圧縮作動方向に駆動軸を駆動させる推進力をFcとすると、膨張作動用の推進力Feは、圧縮作動用の推進力Fcよりも大きくなる(|Fe|>|Fc|)。従って、リニアモータが駆動するときにおいて、圧縮作動および膨張作動する駆動軸の振幅中心点を、膨張作動方向にずらすことができる。従って、駆動軸が圧縮作動してピストンが圧縮室を圧縮させるとき、ピストンが圧縮作動方向に移動するストロークを増加できる。このため圧縮可能なガスなどの流体の容積を増加でき、圧縮効率を高めることができる。
【0014】
(2)本発明の様相2に係る圧縮機用リニアモータによれば、上記様相において、永久磁石は、駆動軸の中心線が延びる方向において第1永久磁石部と第2永久磁石部に分離されており、圧縮作動用ヨーク部および膨張作動用ヨーク部は、仮想面に対して非対称形状となるように、互いに分離されており、駆動軸の中心線が延びる方向において、膨張作動用ヨーク部の厚みteは圧縮作動用ヨーク部の厚みtcよりも大きく設定されている(te>tc)。
【0015】
本様相によれば、te>tcの関係であるため、膨張作動用の磁路断面積Seは圧縮作動用の磁路断面積Scよりも大きくされている。膨張作動用の推進力Feは圧縮作動用の推進力Fcよりも大きくなる。従って、圧縮作動および膨張作動する駆動軸の振幅中心点を、膨張作動方向にずらすことができる。従って、駆動軸が圧縮作動してピストンが圧縮室を圧縮させるとき、ピストンが圧縮作動方向に移動するストロークを増加できる。このため圧縮可能な容積を増加でき、圧縮効率を高め得る。
【0016】
(3)本発明の様相3に係る圧縮機用リニアモータによれば、上記様相において、圧縮作動用ヨーク部および膨張作動用ヨーク部は、仮想面に対して非対称形状となるように駆動軸の中心線が延びる方向において一体に連接されており、駆動軸の半径方向において、膨張作動用ヨーク部の厚みteは圧縮作動用ヨーク部の厚みtcよりも大きく設定されている(te>tc)。
【0017】
本様相によれば、te>tcの関係であるため、膨張作動用の磁路断面積Seは圧縮作動用の磁路断面積Scよりも大きくされている。このため、膨張作動用の推進力Feは圧縮作動用の推進力Fcよりも大きくなる。従ってリニアモータの駆動において、圧縮作動および膨張作動する駆動軸の振幅中心点を、膨張作動方向にずらすことができる。従って、駆動軸が圧縮作動してピストンが圧縮室を圧縮させるとき、ピストンが圧縮作動方向に移動するストロークを増加できる。このため圧縮可能な容積を増加でき、圧縮効率を高め得る。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明に係る圧縮機用リニアモータによれば、交流電流を励磁ソレノイドに通電すれば、膨張作動用の推進力Feは圧縮作動用の推進力Fcよりも大きくなる。従って、圧縮作動および膨張作動する駆動軸の振幅中心点を、膨張作動方向にずらすことができる。従って、駆動軸が圧縮作動してピストンが圧縮室を圧縮させるとき、ピストンが圧縮作動方向に移動するストロークを増加できる。このため圧縮可能な容積を増加でき、圧縮効率を高め得る。従って、交流成分に直流成分を加えたオフセット電流をソレノイド部に通電せずとも良い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態1に係り、駆動軸の中心線に沿って中心線を通過するように切断したリニアモータの断面図である。
【図2】実施形態1に係り、可動子を圧縮作動させる方向に移動させる圧縮作動用磁路を示すリニアモータの要部の断面図である。
【図3】実施形態1に係り、可動子を膨張作動させる方向に移動させる膨張作動用磁路を示すリニアモータの要部の断面図である。
【図4】実施形態1に係り、膨張作動用の推進力Feと圧縮作動用の推進力Fcを示すグラフである。
【図5】実施形態2に係り、可動子を圧縮作動させる方向に移動させる圧縮作動用磁路を示すリニアモータの要部の断面図である。
【図6】実施形態2に係り、可動子を膨張作動させる方向に移動させる膨張作動用磁路を示すリニアモータの要部の断面図である。
【図7】リニアモータにおいて、圧縮作動および膨張作動する駆動軸の振幅中心点Xoが、ピストンの静止状態の中立点Xnから圧縮作動方向(矢印X1方向)にずれる状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1について図1〜図3を参照して説明する。図1〜図3は、駆動軸40の中心線Pに沿って中心線Pを通過する断面を示す。請求項1に係る本実施形態の圧縮機用リニアモータ1は、基体2と固定子3と可動子4とを有する。基体2はハウジングであり、駆動室20と、駆動室20に配置されたフレクシャベアリングと呼ばれる軸受21と、圧縮室23と、吸引時に開放する吸引弁24aを有する吸引通路24と、吐出時に開放する吐出弁25aを有する吐出通路25とを備える。固定子3は中心線Pをもち、基体2の駆動室20に固定されている。固定子3は、中心線P回りに設けられたリング状をなす励磁ソレノイド30と、励磁ソレノイド30を覆い且つ中心線P回りに設けられたリング状をなす固定ヨーク32とを有する。
【0021】
可動子4は、固定子3に対して中心線Pが延設された方向に沿って往復移動可能に軸受21に支持されている。中心線Pは水平方向に沿っており、可動子4が水平方向に沿って移動する形態とされている。
【0022】
図1に示すように、可動子4は、中心線Pに沿って直進方向に往復移動可能に支持された駆動軸40と、駆動軸40の外周側に設けられ且つ中心線P回りのリング状をなす可動ヨーク42と、固定子3の固定ヨーク32の内周面32iに微小隙間を介して対面する磁極を有する永久磁石45と、駆動軸40の先端に設けられたピストン47(図1参照)とを有する。可動ヨーク42は駆動軸40の外周部に固定され、永久磁石45は可動ヨーク42の外周部に固定されている。
【0023】
固定子3の固定ヨーク32は、高い透磁率をもつ軟磁性材料で形成されており、中心線Pの回りにリング状に設けられている。固定ヨーク32は、励磁ソレノイド30の外周面を覆うリング状をなす固定ヨーク部320と、励磁ソレノイド30の各軸端30e,30fを覆う中心線P回りのリング状をなす端ヨーク部322と、励磁ソレノイド30の内周面に位置するように端ヨーク部322に連設された互いに対向する内側ヨーク部324および内側ヨーク部325とを有する。
【0024】
更に図1に示すように、励磁ソレノイド30の内周面30i側において、エアギャップで形成された磁気抵抗部328が設けられている。磁気抵抗部328はヨーク材料よりも高い磁気抵抗をもつ。図1に示すように、磁気抵抗部328は、中心線P回りのリング状をなしており、内側ヨーク部324と内側ヨーク部325との間に設けられており、内側ヨーク部324と内側ヨーク部325とを軸長方向に分離させている。
【0025】
図1に示すように、可動子4の可動ヨーク42は高い透磁率をもつ軟磁性材料で形成されており、永久磁石45の内周面45i側において設けられている。可動ヨーク42は、中心線Pの回りにリング状に形成されている。可動ヨーク42は、永久磁石45の内周面45i側を覆うリング状をなす膨張作動用ヨーク部421と圧縮作動用ヨーク部422とを有する。膨張作動用ヨーク部421と圧縮作動用ヨーク部422とは、中心線Pが延びる方向において隣接されている。膨張作動用ヨーク部421は、永久磁石45の軸端45eに対向するように,固定子3に向けて半径方向(矢印D方向)に突出する突出ヨーク部423を有する。圧縮作動用ヨーク部422は、永久磁石45の軸端45fに対向するように,固定子3に向けて径方向(矢印D方向)に突出する突出ヨーク部423を有する。なお、突出ヨーク部423は、矢印D方向において固定ヨーク32に接近しており、可動ヨーク42と固定ヨーク32との間の磁気抵抗を低下させる機能を果たす。本実施形態では、永久磁石45の外周面45p側はS極として着磁され、永久磁石45の内周面45i側はN極として着磁されている。
【0026】
なお図1に示すように、永久磁石45の軸端45e,45fと突出ヨーク部423との間には、磁気抵抗部として機能するエアギャップ5が中心線P回りのリング状に形成されており、可動ヨーク42の突出ヨーク部423に対面している。エアギャップ5は永久磁石45の軸端45e,45fに対面しており、エアギャップ5における磁束の透過を抑えている。
【0027】
さて、図2は、励磁ソレノイド30が圧縮作動用磁路Mcを発生させて可動子4を矢印X1方向に圧縮作動させる場合を示す。図2に示すように圧縮作動用磁路Mcが発生すると、駆動軸40が矢印X1方向に圧縮作動し、ピストン47が圧縮室23を圧縮させる(図1参照)。これに対して、図3は、励磁ソレノイド30が膨張作動用磁路Meを発生させる場合を示す。図3に示すように、膨張作動用磁路Meが発生すると、駆動軸40が矢印X2方向に膨張作動し、ピストン47が退避して圧縮室23を膨張させる(図1参照)。
【0028】
図2に示すように、永久磁石45の内部では、磁束はS極からN極に向けて透過する。このため永久磁石45のうち圧縮室23側の部位45cの磁束の向きは、圧縮作動用磁路Mcの磁束の向きと整合するため、部位45cは圧縮作動用磁路Mcを案内させる。このとき図2に示すように、永久磁石45のうち圧縮室23と反対側の部位45dにおける磁束の向きは、圧縮作動用磁路Mcの磁束の向きと反対であるため、圧縮作動用磁路Mcの磁束が永久磁石45の部位45dを透過することは、抑えられる。このように永久磁石45の軸長方向(中心線Pが延びる方向)における部位45c,45dは、圧縮作動用磁路Mcを圧縮作動用ヨーク部422の内部を透過させるように案内させる機能を果たすが、圧縮作動用磁路Mcを膨張作動用ヨーク部421の内部を透過させるようには案内させない。従って、圧縮作動時に励磁ソレノイド30により発生する圧縮作動用磁路Mcは、図2に示すようになる。
【0029】
また図3に示すように、前述したように永久磁石45の内部では磁束はS極からN極に向けて透過する。このため、永久磁石45のうち圧縮室23と反対側の部位45dの磁束の向きは、膨張作動用磁路Meの磁束の向きと整合するため、部位45dは膨張作動用磁路Meを案内させる。このとき、永久磁石45のうち圧縮室23側の部位45cにおける磁束の向きは、膨張作動用磁路Meの磁束の向きと反対であるため、膨張作動用磁路Meの磁束が永久磁石45の部位45cを透過することは、抑えられる。このように永久磁石45の軸長方向における部位45c,45dは、膨張作動用磁路Meを膨張作動用ヨーク部421の内部を透過させるように案内させる機能を果たすが、膨張作動用磁路Meを圧縮作動用ヨーク部422の内部を透過させるようには案内させない。従って、膨張作動時に励磁ソレノイド30により発生する膨張作動用磁路Meは、図3に示すようになる。
【0030】
図1〜図3は、駆動軸40の中心線Pに沿ってこれを通過する断面を示す。この断面において、可動ヨーク42を構成する膨張作動用ヨーク部421は、膨張作動用磁路Meを透過させる磁路断面積Seをもつ。圧縮作動用ヨーク部422は、圧縮作動用磁路Mcを透過させる磁路断面積Scをもつ。
【0031】
図2および図3において、駆動軸40の中心線Pに平行な方向において、励磁ソレノイド30の軸長の中心を含み駆動軸40の軸方向に直交する仮想面をHとして示す。仮想面Hは、駆動軸40の軸直角方向(駆動軸40の軸線がのびる方向に対して直角な方向)に沿っている。図1に示すように、仮想面Hに対して、可動ヨーク42を構成する圧縮作動用ヨーク部422および膨張作動用ヨーク部421は、非対称形状とされている。膨張作動用磁路断面積Seは圧縮作動用磁路断面積Scよりも大きくされている(Se>Sc)。故に、ピストン47の膨張作動時には、ピストン47の圧縮作動時よりも、磁束を多く透過させることができる。
【0032】
更に説明を加える。図2および図3に示すように、駆動軸40の中心線Pが延びる方向において、圧縮作動用ヨーク部422および膨張作動用ヨーク部421は、一体に連接されているものの、仮想面Hに対して非対称形状となるように形成されている。図2に示すように、駆動軸40の半径方向(矢印D方向)において、膨張作動用ヨーク部421の厚みをteとし、圧縮作動用ヨーク部の厚みをtcとすると、teはtcよりも大きく設定されている(te>tc)。従って前述したように磁路断面積では、Se>Scが成立する。
【0033】
さて、使用時には、励磁ソレノイド30に交流の励磁電流が通電される。すると、励磁ソレノイド30の一方の軸端30eおよび他方の軸端30fに、異なる磁極(N極,S極)が交互に発生する。この結果、可動子4が固定子3に対して中心線Pに沿って圧縮作動方向(矢印X1方向),膨張作動方向(矢印X2方向)に繰り返して往復移動する。このように励磁ソレノイド30が交流通電されると、励磁ソレノイド30は、圧縮作動させる圧縮作動用磁路Mcと、膨張作動させる膨張作動用磁路Meとを交互に発生させる。なお、駆動軸40は磁束を透過させにくい非磁性材料(例えば非磁性のステンレス鋼、アルミニウム合金、硬質樹脂)で形成されていることが好ましい。あるいは、駆動軸が炭素鋼系である場合には、駆動軸40の外周部と可動ヨーク42との間には、磁束を透過させにくい非磁性材料(例えば非磁性のステンレス鋼、アルミニウム合金、硬質樹脂)の被覆層が介在していることが好ましい。磁路Mcおよび磁路Meを確保するためである。
【0034】
図2および図3に示すように、可動ヨーク42は、膨張作動用磁路Meを透過させる磁路断面積Seをもつ膨張作動用ヨーク部421と、圧縮作動用磁路Mcを透過させる磁路断面積Scをもつ圧縮作動用ヨーク部422とを備えている。図2および図3に示すように、駆動軸40を軸方向に対して直交する仮想面Hに対して、圧縮作動用ヨーク部422および膨張作動用ヨーク部421は非対称形状とされている。前述したように膨張作動用ヨーク部421の厚みteは、圧縮作動用ヨーク部422の厚みtcよりも大きくされている(te>tc)。この結果、膨張作動用ヨーク部421の磁路断面積Seは、圧縮作動用ヨーク部422の磁路断面積Scよりも大きくされている(Se>Sc)。故に、膨張作動用ヨーク部421を磁束が透過するときにおける磁気抵抗をσeとし、圧縮作動用ヨーク部421を磁束が透過するときにおける磁気抵抗をσcとすると、σeはσcよりも小さくされている(σe<σc)。故に、ピストン47の膨張作動時には、ピストン47の圧縮作動時よりも、磁束を可動ヨーク42に多く透過させることができる。
【0035】
このような本実施形態によれば、膨張作動用ヨーク部421において磁束飽和する程度の励磁電流を励磁ソレノイド30に通電するとき、膨張作動方向(矢印X2方向)にピストン47および駆動軸40を駆動させる推進力(推進力最大値)をFeとする。また、圧縮作動用ヨーク部422において磁束飽和する程度の励磁電流を励磁ソレノイド30に通電するとき、圧縮作動方向(矢印X1方向)にピストン47および駆動軸40を駆動させる推進力(推進力最大値)をFcとする。ここで、図4に示すように、膨張作動用の推進力Feは、圧縮作動用の推進力Fcよりも大きくなる(|Fe|>|Fc|)。従って本実施形態によれば、圧縮作動および膨張作動する駆動軸40のピストン47の振幅中心点を、静止状態(励磁ソレノイド30に非通電)の中立点から、膨張作動方向(矢印X2方向)にずらすことができる。従って、駆動軸40が圧縮作動してピストン47が圧縮室23を圧縮させるとき、ピストン47が圧縮作動方向(矢印X1方向)に移動するストロークを増加できる。このため圧縮室23において圧縮可能なガス等の流体容積を増加でき、圧縮効率を高めることができる。このように本実施形態によれば、ピストン47の推力特性を、圧縮作動方向と膨張作動方向とにおいて異なる特性にしている。このためリニアモータの効率の低下、圧縮効率の低下を抑制させつつ、圧縮作動方向と膨張作動方向との振幅の振幅中心点を、ピストン47の静止状態(励磁ソレノイド30に非通電時の状態)の中立位置に移動させて、リニアモータの可動範囲全体を掃気容積として使用させるのに有利である。なお、本実施形態によれば、圧縮作動方向(矢印X1方向)にピストン47および駆動軸40を駆動させる推進力Fcは、膨張作動用の推進力Feよりも小さくなるが、圧縮室23のガス等の流体を充分に加圧して圧縮できる値とされている。
【0036】
(実施形態2)
図5および図6は実施形態2を示す。本実施形態は実施形態1と基本的には同様の構成、同様の作用および効果を有する。以下、相違する部分を中心として説明する。図5および図6に示すように、可動子4は、駆動軸40と、駆動軸40の外周部に設けられた永久磁石45と、駆動軸の外周部に設けられた可動ヨーク42とを有する。永久磁石45および可動ヨーク42は、駆動軸40の半径方向(矢印D方向)において、固定ヨーク32と駆動軸40との間に配置されている。可動ヨーク42は、圧縮室23に対して遠い側に配置された圧縮作動用ヨーク部422Bと、圧縮室23に対して近い側に配置された膨張作動用ヨーク部421Bと、圧縮作動用ヨーク部422Bと膨張作動用ヨーク部421Bとの間に位置する中間ヨーク部427とを有する。
【0037】
図5および図6に示すように、永久磁石45は、駆動軸40の中心線Pが延びる方向において、中間ヨーク部427を挟むように分離された第1永久磁石部451と第2永久磁石部452とを有する。第1永久磁石部451は圧縮作動用ヨーク部422Bと中間ヨーク部427とに挟まれており、圧縮作動用ヨーク部422Bに対向するN極と、中間ヨーク部427に対向するS極とをもつ。第1永久磁石部451の内部においては、磁束はS極からN極に向けて透過する。中心線Pにおいて、第1永久磁石部451および第2永久磁石部0の磁極の向きは反対とされている。なお、図5および図6に示すように、駆動軸40の中心線Pに沿って見ると、膨張作動用ヨーク部421B、第2永久磁石部452,中間ヨーク部427,第1永久磁石部451,圧縮作動用ヨーク部422Bの順に直列に配置されている。
【0038】
図5に示すように、第1永久磁石部451の内部においては磁束はS極からN極に向けて透過するため、第1永久磁石部451の内部における磁束の向きは、圧縮作動用磁路Mcの磁束の向きと整合するため、第1永久磁石部451は圧縮作動用磁路Mcを案内させる。このとき、図5に示すように、第2永久磁石部452の内部における磁束の向きは、圧縮作動用磁路Mcの磁束の向きと反対であるため、圧縮作動用磁路Mcの磁束が第2永久磁石部452を透過することは、抑えられる。このように第1永久磁石部451および第2永久磁石部452の磁極は、圧縮作動用磁路Mcを図5に示すように案内させる機能を果たす。
【0039】
第2永久磁石部452は膨張作動用ヨーク部421Bと中間ヨーク部427とに挟まれており、膨張作動用ヨーク部421Bに対向するN極と、中間ヨーク部427に対向するS極とをもつ。図6に示すように、第2永久磁石部452の内部では磁束はS極からN極に向けて透過するため、第2永久磁石部452における磁束の向きは、膨張作動用磁路Meの磁束の向きと整合するため、第2永久磁石部452は膨張作動用磁路Meを案内させる。このとき、図6から理解できるように、第1永久磁石部451の内部における磁束の向きは、膨張作動用磁路Meの向きと反対であるため、膨張作動用磁路Meの磁束が第1永久磁石部451を透過することは、抑えられる。このように第1永久磁石部451および第2永久磁石部452の磁極は、膨張作動用磁路Meを図6に示すように案内させる機能を果たす。
【0040】
本実施形態においても、図5及び図6に示すように、圧縮作動用ヨーク部422Bおよび膨張作動用ヨーク部421Bは、仮想面Hに対して非対称形状とされている。従って、駆動軸40の中心線Pが延びる方向において、膨張作動用ヨーク部421Bの厚みteは圧縮作動用ヨーク部422Bの厚みtcよりも大きく設定されている(te>tc)。この結果、膨張作動用ヨーク部421Bの磁路断面積Seは、圧縮作動用ヨーク部422Bの磁路断面積Scよりも大きくされている(Se>Sc)。膨張作動用ヨーク部421Bを磁束が透過するときにおける磁気抵抗をσeとし、圧縮作動用ヨーク部422Bを磁束が透過するときにおける磁気抵抗をσcとすると、σeはσcよりも小さくされている(σe<σc)。故に、ピストン47の膨張作動時には、ピストン47の圧縮作動時よりも、磁束を可動ヨーク42に多く透過させることができる。
【0041】
このような本実施形態によれば、膨張作動方向(矢印X2方向)に駆動軸40を駆動させる推進力をFeとし、圧縮作動方向(矢印X1方向)に駆動軸40を駆動させる推進力をFcとすると、膨張作動用の推進力Feは、圧縮作動用の推進力Fcよりも大きくなる(|Fe|>|Fc|)。従って、実施形態1の場合同様に、圧縮作動および膨張作動する駆動軸40の振幅中心点を膨張作動方向(矢印X2方向)にずらすことができる。従って、駆動軸40が圧縮作動してピストン47が圧縮室23を圧縮させるとき、ピストン47が圧縮作動方向(矢印X1方向)に移動するストロークを増加できる。このため圧縮室23において圧縮可能なガス等の流体容積を増加できる。
【0042】
(その他)
本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。磁路断面積Seは磁路断面積Scよりも大きくなるようであれば、可動ヨーク42の形状および構造は問わない。
【符号の説明】
【0043】
1はリニアモータ、2は基体、20は駆動室、21は軸受、23は圧縮室、3は固定子、30は励磁ソレノイド、32は固定ヨーク、4は可動子、40は駆動軸、42は可動ヨーク、421は膨張作動用ヨーク部、422は圧縮作動用ヨーク部、421Bは膨張作動用ヨーク部、422Bは圧縮作動用ヨーク部、427は中間ヨーク部、45は永久磁石、451は第1永久磁石部、452は第2永久磁石部、47はピストンを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮室をもつ基体と、前記基体に設けられた固定子と、前記固定子に対して直進方向に往復移動する可動子とを具備する圧縮機用リニアモータであって、
前記固定子は、
交流通電に伴い前記可動子を圧縮作動させる圧縮作動用磁路と前記可動子を膨張作動させる膨張作動用磁路とを交互に発生させる励磁ソレノイドと、前記励磁ソレノイドに隣設され前記圧縮作動用磁路および前記膨張作動用磁路を透過させる固定ヨークとを具備し、
前記可動子は、
前記基体に直進方向に往復移動可能に支持され一方向への移動に伴い前記圧縮室を圧縮させる圧縮作動を実行し且つ他方への移動に伴い圧縮室を膨張させる膨張作動を実行するピストンを有する駆動軸と、前記駆動軸の半径方向において前記固定ヨークと前記駆動軸との間に配置されるように前記駆動軸の外周部に設けられた永久磁石と、前記駆動軸の半径方向において前記固定ヨークと前記駆動軸との間に位置するように前記駆動軸の外周部に設けられた可動ヨークとを具備しており、
前記可動ヨークは、
前記膨張作動用磁路を透過させる磁路断面積Seをもつ膨張作動用ヨーク部と、前記圧縮作動用磁路を透過させる磁路断面積Scをもつ圧縮作動用ヨーク部とを備えており、
前記励磁ソレノイドに非通電状態の前記可動子の静止位置において前記励磁ソレノイドの軸長の中心を含み前記駆動軸の軸方向に直交する仮想面に対して、前記圧縮作動用ヨーク部および前記膨張作動用ヨーク部は非対称形状とされており、
磁路断面積Seは磁路断面積Scよりも大きくされている圧縮機用リニアモータ。
【請求項2】
請求項1において、前記永久磁石は、前記駆動軸の中心線が延びる方向において第1永久磁石部と第2永久磁石部に分離されており、
前記圧縮作動用ヨーク部および前記膨張作動用ヨーク部は、前記仮想面に対して非対称形状となるように互いに分離されており、前記駆動軸の中心線が延びる方向において、前記膨張作動用ヨーク部の厚みteは前記圧縮作動用ヨーク部の厚みtcよりも大きく設定されている圧縮機用リニアモータ。
【請求項3】
請求項1において、前記圧縮作動用ヨーク部および前記膨張作動用ヨーク部は、前記仮想面に対して非対称形状となるように前記駆動軸の中心線が延びる方向において一体に連接されており、前記駆動軸の半径方向において、前記膨張作動用ヨーク部の厚みteは前記圧縮作動用ヨーク部の厚みtcよりも大きく設定されている圧縮機用リニアモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−62975(P2013−62975A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200566(P2011−200566)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】