説明

地磁気センサ及び加速度センサを用いて歩行者の進行方向を決定する携帯端末、プログラム及び方法

【課題】携帯端末を手持ちした歩行者であっても、加速度センサ及び地磁気センサを用いて、その進行方向をできる限り正確に決定する携帯端末等を提供する。
【解決手段】3軸の加速度センサと、3軸の地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末であって、地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定手段を有する。その進行方向決定手段は、時間経過に応じた加速度データから、腕振りによって生じた地磁気ベクトル群の分布する円錐底面の法線ベクトルを算出する法線ベクトル算出手段と、地磁気データ及び法線ベクトルから円錐底面を算出する円錐底面近似手段と、円錐における高さhを算出する円錐高さ算出手段と、高さhに基づいて、南北方向に対する方向角θを算出する方向角算出手段とを有する。方向角算出手段は、地磁気と重力方向のなす角Iを用いて、方向角θ=arcsin(h/sin I)によって算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地磁気センサ及び加速度センサを用いて歩行者の進行方向を決定する携帯端末、プログラム及び方法に関する。特に、進行方向及び現在位置をリアルタイムに導出する自律航法技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加速度センサ及び方位センサを用いて、進行方向及び現在位置をリアルタイムに導出する自律航法技術がある。自律航法技術は、GPS(Global Positioning System)技術と組み合わされて、主にカーナビゲーションシステム(Car Navigation System)に利用されている。カーナビゲーションシステムは、自動車の運転者に対して、正確な進行方向及び現在位置と、目的地への走行経路案内とを、ディスプレイに表示する。
【0003】
カーナビゲーションシステムは、GPSによって測位した現在位置情報を、車速パルス又はジャイロのような自律航法技術によって補正する。また、道路地図情報を必要に応じて読み出し、現在の走行経路が道路上と一致するように、進行方向及び現在位置を補正する(投影法によるマップマッチング技術、例えば特許文献1参照)。これにより、センサの誤差によって、現在位置が、道路上でない位置になることを防ぐことができる。
【0004】
これに対し、このようなナビゲーション技術を、歩行者の所持する携帯端末に適応したシステムもある。具体的には、検出した歩行者の「歩数」と、その歩行者の「歩幅」とを用いて、始点からの累積的な現在位置を導出する(例えば特許文献2参照)。自律航法技術を歩行者に適応した場合、水平方向の移動以外の加速度成分も検出される。従って、測定される距離は、単純に加速度センサの出力を積分するのではなく、歩数及び歩幅から導出される。
【0005】
「歩数」は、携帯端末内の加速度センサによって検出された軸毎の加速度を二乗和の平方根とし(√(x+y+z))、そのピーク−ピーク間を1歩として検出する(例えば特許文献3参照)。「歩幅」は、利用者が予め設定するか、若しくは利用者の身長から推定する。又は、他の技術によれば、歩行者に規定距離を歩行させることによって、その歩幅をキャリブレーションする技術もある(例えば非特許文献1参照)。
【0006】
「進行方向」は、「方位センサ」によって検出される。方位センサとしては、一般に地磁気センサが利用される。地磁気センサを用いて検出した端末の姿勢及び方向を、ディスプレイに3次元表示する技術もある(例えば特許文献4参照)。また、進行方向に交差点を介して複数の道路が存在する場合、その交差点を、現在位置とする技術もある(例えば特許文献5参照)。
【0007】
自律航法技術を用いた現在位置の決定について、センサデータの累積的誤差の影響を防ぐために、交差点での右折左折を検出した際に、その交差点を、現在位置の特定のための始点とする技術もある(例えば特許文献6参照)。即ち、方向転換が検出される毎に、センサデータの累積的誤差がリセットされることなり、その後の現在位置の特定に、先の累積的誤差が影響しない。
【0008】
端末の鉛直方向を決定した後に、鉛直方向加速度と進行方向加速度の関係を利用して進行方向を決定する、自律航法技術もある(例えば特許文献7参照)。
【0009】
【特許文献1】特開平5−061408号公報
【特許文献2】特開平9−089584号公報
【特許文献3】特開2005−038018号公報
【特許文献4】特開2004−046006号公報
【特許文献5】特開平3−099399号公報
【特許文献6】特開昭63−011813号公報
【特許文献7】特開2008−039619号公報
【非特許文献1】「Nike+iPodユーザーズガイド」、第27頁、「online」、[平成20年6月20日検索]、インターネット<URL:http://manuals.info.apple.com/ja/nikeipod_users_guide.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献4に記載された技術によれば、加速度センサ及び地磁気センサを用いて静止状態における方位を導出するものである。しかしながら、実際に、歩行者が手持ちにした携帯端末によって方位を導出する場合、手持ち状態のためにセンサによって検出される波形が乱れ、正しい方位を導出することはできない。特に、歩行者が手を前方と後方に振るために、センサによって検出されるデータは大きく変動する。また、歩行者が手持ちするような携帯端末については、サイズやコストの制約から、カーナビゲーションシステムに搭載されるジャイロセンサを用いることも難しい。
【0011】
特許文献7に記載された技術は、端末の姿勢を導出した後歩行者の進行方向を決定するものであるが、進行方向を決定する期間において端末の姿勢が変わらないことを前提としており、歩行者が携帯端末を手持ちにしている場合には、端末姿勢が変化することから正しい進行方向を求めることができない。
【0012】
そこで、本発明は、歩行者が、携帯端末を手持ちで歩行している場合であっても、その携帯端末に搭載された地磁気センサ及び加速度センサを用いて歩行者の進行方向をできる限り正確に決定する携帯端末、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末であって、
地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定手段を有し、
進行方向決定手段は、
時間経過に応じた加速度データから、腕振りによって生じた地磁気ベクトル群の分布する円錐底面の法線ベクトルを算出する法線ベクトル算出手段と、
地磁気データ及び法線ベクトルから円錐底面を算出する円錐底面近似手段と、
円錐における高さhを算出する円錐高さ算出手段と、
高さhに基づいて、南北方向に対する方向角θを算出する方向角算出手段と
を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、
方向角算出手段は、地磁気と重力方向のなす角Iを用いて、
方向角θ=arcsin(h/sin I)
を算出することも好ましい。
【0015】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、
法線ベクトル算出手段は、最小二乗法によって法線ベクトルを算出することも好ましい。
【0016】
本発明の携帯端末における他の実施形態によれば、
地磁気データ及び端末保持姿勢から、北向きか南向きか、及び東向きか西向きかに基づいて、北東、南東、南西又は北西のおおよその向きを導出する概略方位決定手段と、
進行方向決定手段から出力された方向角θと、概略方位決定手段から出力されたおおよその向きとを受け取り、北を0度とした時計回りの方位角(0〜360°)を、以下のように導出する方位角決定手段と
「北東」の場合、方位角=方向角θ
「南東」の場合、方位角=180−方向角θ
「南西」の場合、方位角=180+方向角θ
「北西」の場合、方位角=360−方向角θ
を更に有することも好ましい。
【0017】
本発明によれば、3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサとを有し、歩行者によって所持される携帯端末に搭載されたコンピュータを機能させる携帯端末用のプログラムであって、
地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定手段としてコンピュータを機能させ、
進行方向決定手段は、
時間経過に応じた加速度データから、腕振りによって生じた地磁気ベクトル群の分布する円錐底面の法線ベクトルを算出する法線ベクトル算出手段と、
地磁気データ及び法線ベクトルから円錐底面を算出する円錐底面近似手段と、
円錐における高さhを算出する円錐高さ算出手段と、
高さhに基づいて、南北方向に対する方向角θを算出する方向角算出手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末について、地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定方法であって、
時間経過に応じた加速度データから、腕振りによって生じた地磁気ベクトル群の分布する円錐底面の法線ベクトルを算出する第1のステップと、
地磁気データ及び法線ベクトルから円錐底面を算出する第2のステップと、
円錐における高さhを算出する第3のステップと、
高さhに基づいて、南北方向に対する方向角θを算出する第4のステップと
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の携帯端末、プログラム及び方法によれば、歩行者が、携帯端末を手持ちで歩行している場合であっても、その携帯端末に搭載された地磁気センサ及び加速度センサを用いて歩行者の進行方向をできる限り正確に決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下では、図面を用いて、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、歩行者の歩行態様と、地磁気変動方向とを表す説明図である。
【0022】
図1によれば、歩行者は、携帯端末を手持ちにし、その手を前後に振りながら歩行している。このような一般的な歩行態様を横方向から見れば、携帯端末の位置は、円弧を描きながら振り子状に前後に変動している。また、進行方向から見れば、携帯端末の位置は、上下に変動している。
【0023】
携帯端末を手持ちした腕における肩部分は、携帯端末の位置変動が描く円弧の回転軸となる。この曲線の変動は、携帯端末に搭載された加速度センサ又は地磁気センサによって検出される。即ち、その回転軸とその円弧とからなる平面(扇形)は、加速度面(加速度ベクトル群の成す面)として表される。携帯端末が手持ちで振られる限り、この加速度面は、進行方向と平行になる。
【0024】
また、加速度センサから出力された加速度データを二乗和の平方根(√(x2+y2+z2))を求めることによって、合成加速度が得られる。携帯端末には加速度センサ及び地磁気センサが搭載されている。センサは、端末に対して固定されており、端末の向きが決まれば、センサの軸の向きも決まる。
【0025】
図1によれば、歩行者に把持された携帯端末の位置として、位置A、位置B及び位置Cが表されている。位置Bは、歩行者の手が真下にある時(最下点)であり、重力方向を表すこととなる。逆に、位置A及び位置Cは、歩行者の腕振り運動の中で、最も高い位置にある時(最上点)である。
【0026】
歩行者及び携帯端末に対しては、地磁気が到来している。歩行者が、端末を一定の姿勢で保持し、一方向に真っ直ぐ進行している限り、その地磁気のセンサ座標系における到来方向は同じである。しかしながら、歩行者は、手持ちにした携帯端末を前後に振るために、その腕振りに応じて、地磁気の到来方向が、曲線を描いて変動する。この曲線の変動は、携帯端末に搭載された地磁気センサによって検出される。即ち、その軸とその曲線とからなる面は、地磁気面(地磁気ベクトル群の成す面)として表される。
【0027】
図2は、現実に発生する加速度面及び地磁気面を表す説明図である。
【0028】
図2によれば、加速度センサから得られた3軸の加速度データ(x,y,z)と、地磁気センサから得られた3軸の地磁気データ(x,y,z)とが、3次元座標系にプロットされたものである。また、図2には、携帯端末が図1に表された位置A、位置B及び位置Cにある場合の地磁気及び加速度も、表されている。位置A、位置B及び位置Cの地磁気及び加速度のプロットを結ぶことによって、地磁気面及び加速度面を検出できる。
【0029】
図2によれば、歩行者は、南から到来している地磁気に対して、方向角θの方向へ歩行している。このとき、携帯端末を手持ちした歩行者による腕振り動作に応じて、地磁気到来方向と反対側に地磁気面が検出できる。この地磁気面は、加速度面の法線ベクトルを軸として、地磁気ベクトルを母線とした、円錐の側面の一部を構成する。また、円錐の底面は、加速度面と平行になる。
【0030】
地磁気面は、加速度面の法線ベクトルを軸として、地磁気ベクトルを母線とした、円錐の一部を構成する。このとき、円錐の高さhを算出する。本発明によれば、円錐の高さhによって、方向角θを算出することができる。
【0031】
地磁気面は、腕振りに応じた曲面によって表されているが、本発明によれば、腕振りによって生じた円錐状に分布する地磁気ベクトル群を、円錐に近似する必要がある。具体的には、円錐底面を近似的に求め、原点から当該底面までの距離、即ち、円錐の高さhを算出することで、近似円錐を同定する。
【0032】
図2によれば、各種パラメータを、以下のように定義する。
h:円錐の高さ(円錐の頂点と、底面との間の距離)
l:円錐の母線の長さ(地磁気ベクトルの長さ)
I:南から到来する地磁気と、重力方向とのなす角
(携帯端末が位置する緯度によって決定される)
【0033】
地磁気ベクトルの長さをl=1に正規化した後、円錐の高さhは、以下のように算出することができる。
h=sinI・sinθ
sinθ=h/sinI
θ=arcsin(h/sinI)
【0034】
ここで、地磁気面の円錐における高さhを算出する具体例について説明する。
【0035】
表1は、加速度センサ及び地磁気センサの出力の例である。
【表1】

【0036】
表2は、表1のデータを正規化したものである。加速度データと地磁気データを大きさが1になるように正規化する。
【表2】

【0037】
円錐底面を求める方法として、例えば、最小二乗法がある。地磁気データに最小二乗法を適用することで円錐底面を求めることができる。しかしながら、地磁気センサで検出される地磁気データは、歩行者の腕振り動作に応じたものであることから、円錐底面の非常に狭い領域に偏っている。従って、誤差の影響を受けると法線ベクトルの向きが変わってしまい、正しい円錐底面を求めることが難しい。
【0038】
一方、加速度データに最小二乗法を適用することで加速度面を求めることができる。加速度面は、加速度データに加えて原点を通ることから、誤差の影響をあまり受けずに正しい加速度面を求めることができる。また、加速度面と円錐底面は平行であるから、法線ベクトルの向きは同じである。従って、加速度データから加速度面を求め、加速度面の法線ベクトルを利用することで、正しい円錐底面を求めることができる。
【0039】
最小二乗法は、残差の二乗の和が最小となるように、その現象に対し、予測関数f(x)のそれぞれの係数を決定する方法である。残差とは、i番目のデータniに対して予測された関数値f(n)と、測定されたデータmと差、即ち、m−f(n)である。一般に、原点を通る平面は、以下の式(1)によって表される。
ax+by+cz=0 式(1)
【0040】
このとき、(a,b,c)は、平面に対する法線ベクトルとなる。ここで、計算を単純化するため、式(1)を、式(2)のように変形する。
z=αx+βy 式(2)
尚、(a,b,c)は法線ベクトルであるため、c=−1として問題は無い。従って、α=a、β=bとなり、法線ベクトルは(α,β,−1)と表すことができる。n個の点群x、y、z(i=1〜n)が与えられたとき、以下の式(3)が最小となるα及びβを算出すればよい。
S=Σi=1n(z−αx−βy) 式(3)
ここで、以下のように規定したとする。
A=Σi=1n(x)
B=Σi=1n(y)
C=Σi=1n(z)
D=Σi=1n(x×y)
E=Σi=1n(x×z)
F=Σi=1n(y×z)
このとき、式(3)は、以下のような式(4)になる。
S=Aα+Bβ+C+2αβD−2αE−2βF 式(4)
式(4)をαの関数とみたとき、凹型の2次関数となり、極小値が最小となる。これは、βにおいても同様である。即ち、Sをα、βに関して偏微分し、0となる点が求める解となる。
【数1】

【0041】
式(5)及び式(6)を解くと、以下の式(7)及び式(8)のように算出できる。
α=(BE−DF)/(AB−D2) 式(7)
β=(AF−DE)/(AB−D2) 式(8)
前述したように、法線ベクトルは(α,β,−1)である。
【0042】
表2から、加速度面の法線ベクトルを求めると次のようになる。
法線ベクトル (-0.28649, 0.07518, -1)
従って、円錐底面は、以下の式(9)によって表される。
-0.28649x+0.07518y−z=d 式(9)
地磁気データが、式(9)の平面上にあることから、dを求めることができる。
地磁気データの平均を以下のように定義する。
(xa,ya,za)
このとき、dは、以下の式(10)によって求めることができる。
d=-0.28649xa+0.07518ya−za 式(10)
表2から、地磁気データの平均を求めると次のようになる。
地磁気データの平均 (-0.66809, -0.40151, 0.52149)
従って、dは以下のように算出される。
d=-0.36027
これにより、円錐底面は、以下のようになる。
-0.28649x+0.07518y−z=-0.36027
【0043】
平面ax+by+cz=dと原点との距離、即ち円錐の高さhは、以下の関係式で算出される。
【数2】

【0044】
式(11)に、数値例(a,b,c,d)=(-0.28649, 0.07518, -1, -0.36027)を代入すると、円錐の高さhは、以下のように算出される。
h=0.34544
【0045】
更に、図2によれば、到来する地磁気と重力方向のなす角Iが表されている。角度Iは、携帯端末が位置する緯度によって決定される(緯度によって固定値となる)。
【0046】
そして、本発明によれば、円錐の高さhと、地磁気と重力方向のなす角Iとを用いて、南北方向に対する方向角θ(南北方向を0°とし、東西方向を90°とした角度の大きさ)を算出する。
方向角θ=arcsin(h/sin I)
【0047】
前述した具体的な数値例を代入すると、I=41度の場合、以下のように算出される。
方向角θ=arcsin(0.34544/sin I)=31.77184度
【0048】
図3は、歩行者の進行方向が、北に対してθの角度の方向に向かっている場合のセンサ座標系における地磁気面の位置を表す説明図である。
【0049】
図3によれば、進行方向及び加速度面は、南北方向に対して角度θの位置にある。地磁気ベクトルは、重力方向に対して角度Iを保ったまま、重力方向を軸としてθだけ回転した方向から到来する。地磁気面は、腕振り運動によって、地磁気ベクトルが、加速度面の法線ベクトルを回転軸として円錐振り子状に運動することによって構成される。地磁気の円錐の底面は、進行方向及び加速度面と平行である。このとき、地磁気の円錐の高さhは、sinI・sinθによって表される。地磁気ベクトルは、その地磁気ベクトルを斜辺とした直角三角形(斜線部)の回転体である円錐の表面を通る。
【0050】
図4は、歩行者の進行方向が、西(北に対して90°の角度の方向)に向かっている場合のセンサ座標系における地磁気面の位置を表す説明図である。
【0051】
図4によれば、進行方向及び加速度面は、南北方向に対して垂直になる(θ=90°)。地磁気ベクトルは、重力方向に対して角度Iを保ったまま重力方向を軸として90°だけ回転した方向から到来する。地磁気面は、腕振り運動によって、地磁気ベクトルが、加速面の法線ベクトルを回転軸として円錐振り子状に運動することによって構成される。このとき、地磁気の円錐の高さhは、sinIによって表される。
【0052】
図5は、歩行者の進行方向が、北に向かっている場合の地磁気面のセンサ座標系における位置を表す説明図である。
【0053】
図5によれば、地磁気面は、腕振り運動によって、地磁気ベクトルが、加速度面の法線ベクトルを回転軸として振り子状に運動することによって構成される。地磁気は南北方向へ検出されるため、地磁気面は、高さh=sinI・sinθ=0(sinθ=0のため)の円錐の側面の一部、即ち扇形となり、進行方向と平行(重畳)になる(θ=0°)。
【0054】
歩行者の歩行のおおよその向き、即ち、北向きか南向きか、及び東向きか西向きかは、端末保持姿勢と地磁気データとの関係から特定することができる。例えば、端末座標系におけるx軸が進行方向と平行で且つz軸が左右方向であり、x軸の正方向を前方とし且つz軸の正方向を右方とするように端末を保持した場合、x軸の地磁気データが正であれば北向きであり、負であれば南向きである。また、z軸の地磁気データが正であれば西向きであり、負であれば東向きである。
【0055】
南北方向と東西方向とを組み合わせることで、北を0度とした時計回りの方位角(0〜360°)に対して、「北東」(0°〜90°)「南東」(90°〜180°)「南西」(180°〜270°)「北西」(270°〜360°)のように特定することができる。
【0056】
南北方向に対する方向角θとおおよその向きを組み合わせることで、北を0度とした時計回りの方位角(0〜360°)を、以下のように導出することができる。
具体的には、おおよその向きが「北東」の場合、方位角=方向角θ
おおよその向きが「南東」の場合、方位角=180−方向角θ
おおよその向きが「南西」の場合、方位角=180+方向角θ
おおよその向きが「北西」の場合、方位角=360−方向角θ
【0057】
図6は、本発明の携帯端末における機能構成図である。
【0058】
図6によれば、携帯端末1は、プロセッサ・メモリ10と、地磁気センサ11と、加速度センサ12と、GPS部13と、地図情報記憶部14と、ディスプレイ部15とを有する。
【0059】
地磁気センサ11は、3軸方向(前後方向、左右方向及び上下方向)の地磁気の方向を測定する。地磁気センサ11は、検出コイルを分離し、分離した検出コイルからそれぞれ検出された値を出力する。
【0060】
加速度センサ12は、加速度、即ち単位時間当たりの速度の変化を検出する。携帯端末の傾きを検出することができる3軸タイプの場合、3次元の加速度を検出でき、地球の重力(静的加速度)の計測にも対応できる。
【0061】
GPS部13は、基準の現在位置となる緯度経度情報を測位する。測位された現在位置を基準点として、歩行者の現在位置を、歩数、歩幅及び進行方向によって積算することができる。
【0062】
地図情報記憶部14は、例えば道路地図のような走行経路を表す地図情報を記憶する。また、ディスプレイ部15は、プロセッサ・メモリ10から出力された進行方向及び現在位置を、地図情報と共に表示する。これにより、歩行者に対してナビゲーション機能を提供する。
【0063】
プロセッサ・メモリ10は、歩行タイミング決定部101と、進行方向決定部102と、方位角決定部103と、歩幅設定部104と、移動量積算部105と、現在位置決定部106と、概略方位決定部107として機能するようなプログラムを実行する。
【0064】
歩行タイミング決定部101は、地磁気センサ11から出力された地磁気データ列を、所定時間毎、例えば歩数毎、又は歩数に基づく時間単位毎の、地磁気データに分割する。例えば、地磁気ベクトルの円錐振り子運動の周期から歩数を算出することもできる。
【0065】
進行方向決定部102は、所定時間毎に、地磁気センサ11からの地磁気データから、進行方向を決定する。本発明は、この進行方向決定部102における進行方向の特定方法に基づく。
【0066】
概略方位決定部107は、地磁気データ及び端末保持姿勢から、北向きか南向きか、及び東向きか西向きかに基づいて、北東、南東、南西又は北西のおおよその向きを導出する。例えば、x軸の正方向を前方とし、z軸の正方向を右方とするような端末保持姿勢の場合、x軸の地磁気データが正であれば北向きであり、負であれば南向きである。また、z軸の地磁気データが正であれば西向きであり、負であれば東向きである。概略方位は、南北方向と東西方向を組み合わせて、「北東」(0°〜90°)「南東」(90°〜180°)「南西」(180°〜270°)「北西」(270°〜360°)のように決定される。端末保持姿勢は、加速度データから決定することも、また、予め制約を設けることによって決定することもできる。
【0067】
方位角決定部103は、進行方向決定部102から出力された方向角θと、概略方位決定部107から出力されたおおよその向きとを受け取り、北を0度とした時計回りの方位角(0〜360°)を、以下のように導出する。
「北東」の場合、方位角=方向角θ
「南東」の場合、方位角=180−方向角θ
「南西」の場合、方位角=180+方向角θ
「北西」の場合、方位角=360−方向角θ
【0068】
また、方位角決定部103は、導出した方位角を時間経過に応じてメモリに記憶する。そして、方位角決定部103は、メモリに記憶された一定の時間範囲の進行向きについて、方向転換がなされたか否かを判定することもできる。
【0069】
歩幅設定部104は、既知の手法により、歩幅を決定する。例えば、入力された身長の値から推定することができる。決定された歩幅は、移動量積算部105へ出力される。尚、歩幅設定部104は、その歩幅の情報を方位角決定部103にも出力する。
【0070】
移動量積算部105は、方位角決定部103から進行向きの情報を受け取り、歩幅決定部104から歩幅の情報を受け取る。そして、移動量積算部105は、1歩分の進行向き及び歩幅を積算する。現在位置決定部106は、地図情報記憶部14から地図情報を取得し、積算された移動量から現在位置を特定する。現在位置決定部106は、方位角決定部103が方向転換したと判定すれば、地図情報における近傍の交差点の位置を現在位置として決定する。また、方向転換していないと判定すれば(直進したと判定すれば)、マップマッチングによって投影された位置を、現在位置として決定する。
【0071】
本発明の特徴となる進行方向決定部102は、法線ベクトル算出部1021と、円錐底面近似部1022と、円錐高さ算出部1023と、方向角算出部1024とを有する。
【0072】
法線ベクトル算出部1021は、時間経過に応じた加速度データから、腕振りによって生じた地磁気ベクトル群の分布する円錐底面の法線ベクトルを算出する。法線ベクトルの算出については、図2に基づいて前述した。尚、法線ベクトル算出部は、入力される地磁気データについて、所定時間範囲のデータをメモリし、最大値及び最小値から所定割合のデータを除去することも好ましい。即ち、突飛なデータを除去することによって、進行方向の精度を向上させることができる。
【0073】
円錐底面近似部1022は、地磁気データ及び法線ベクトルから円錐底面を算出する。例えば図2のような座標図形が生成される。このとき、地磁気データは、所定時間単位(例えば1歩分)に検出された複数のデータの組に区分する。所定時間単位は、進行方向を導出するタイミング(周期)に依存する。例えば、1歩毎又は2歩毎の地磁気データに区分する。歩行者によって手に所持された携帯端末が前方及び後方に一往復する毎に、1つの円錐状の地磁気面が導出される。
【0074】
円錐高さ算出部1023は、円錐底面近似部1022によって算出された円錐における高さhを算出する。高さhは、即ち円錐の底面と原点(円錐の頂点)の距離である。高さhは、腕振り方向、即ち歩行者の進行方向によって変化する。進行方向が南北方向である場合、高さhは0となる。一方、進行方向が東西方向である場合、高さhは最大となる。
【0075】
方向角算出部1024は、円錐高さ算出部1023によって算出された高さhに基づいて、地磁気面に対する方向角θを算出する。即ち、地磁気面に対する方向角θは、南北方向を意味する0°から、東西方向を意味する90°までの間となる。ここで、地磁気と重力方向のなす角Iを用いて、以下の式によって、方向角θを算出する。
方向角θ=arcsin(h/sin I)
【0076】
尚、方向角算出部1024から出力された方向角θについて、所定時間範囲の方向角θをメモリし、当該方向角θの前後の変化が所定角度閾値以上となっている方向角θを除去することも好ましい。また、除去されたデータについて、時間的に前後に算出された単位区間の方向角θの平均によって補完することも好ましい。更に、蓄積した複数の方向角θの変化が、平均化することも好ましい。
【0077】
方向角算出部1024について、円錐の高さhと、地磁気と重力方向のなす角Iとによって、前述した計算により数学的に求められる方向角θは、0°〜90°である。前述した概略方位決定部107は、携帯端末の姿勢と地磁気データの関係(地磁気が携帯端末の前後左右どちら向きであるか)によって歩行のおおよその向きを決定する。方向角θは、南北方向に対する進行方向の成す角である。進行方向は、無向直線であり前後の区別が無い。このとき、北を0度とした時計回りの方位角(0〜360°)を導出するために、概略方位を決定する必要がある。
【0078】
以上、詳細に説明したように、本発明の携帯端末、プログラム及び方法によれば、歩行者が、携帯端末を手持ちで歩行している場合であっても、その携帯端末に搭載された地磁気センサ及び加速度センサを用いて歩行者の進行方向をできる限り正確に決定することができる。
【0079】
前述した本発明における種々の実施形態によれば、当業者は、本発明の技術思想及び見地の範囲における種々の変更、修正及び省略を容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】歩行者の歩行態様と、地磁気変動方向とを表す説明図である。
【図2】現実に発生する加速度面及び地磁気面を表す説明図である。
【図3】歩行者の進行方向が、北に対してθの角度の方向に向かっている場合のセンサ座標系における地磁気面の位置を表す説明図である。
【図4】歩行者の進行方向が、西(北に対して90°の角度の方向)に向かっている場合のセンサ座標系における地磁気面の位置を表す説明図である。
【図5】歩行者の進行方向が、北に向かっている場合の地磁気面のセンサ座標系における位置を表す説明図である。
【図6】本発明の携帯端末における機能構成図である。
【符号の説明】
【0081】
1 携帯端末
10 プロセッサ・メモリ
102 進行方向決定部
1021 法線ベクトル算出部
1022 円錐底面近似部
1023 円錐高さ算出部
1024 方向角算出部
103 方位角決定部
104 歩幅設定部
105 移動量積算部
106 現在位置決定部
107 概略方位決定部
11 地磁気センサ
12 加速度センサ
13 GPS部
14 地図情報記憶部
15 ディスプレイ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末であって、
前記地磁気データから前記歩行者の進行方向を決定する進行方向決定手段を有し、
前記進行方向決定手段は、
時間経過に応じた前記加速度データから、腕振りによって生じた地磁気ベクトル群の分布する円錐底面の法線ベクトルを算出する法線ベクトル算出手段と、
前記地磁気データ及び前記法線ベクトルから円錐底面を算出する円錐底面近似手段と、
前記円錐における高さhを算出する円錐高さ算出手段と、
前記高さhに基づいて、南北方向に対する方向角θを算出する方向角算出手段と
を有することを特徴とする携帯端末。
【請求項2】
前記方向角算出手段は、地磁気と重力方向のなす角Iを用いて、
方向角θ=arcsin(h/sin I)
を算出することを特徴とする請求項1に記載の携帯端末。
【請求項3】
前記法線ベクトル算出手段は、最小二乗法によって前記法線ベクトルを算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の携帯端末。
【請求項4】
前記地磁気データ及び端末保持姿勢から、北向きか南向きか、及び東向きか西向きかに基づいて、北東、南東、南西又は北西のおおよその向きを導出する概略方位決定手段と、
前記進行方向決定手段から出力された前記方向角θと、前記概略方位決定手段から出力されたおおよその向きとを受け取り、北を0度とした時計回りの方位角(0〜360°)を、以下のように導出する方位角決定手段と
「北東」の場合、方位角=方向角θ
「南東」の場合、方位角=180−方向角θ
「南西」の場合、方位角=180+方向角θ
「北西」の場合、方位角=360−方向角θ
を更に有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の携帯端末。
【請求項5】
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサとを有し、歩行者によって所持される携帯端末に搭載されたコンピュータを機能させる携帯端末用のプログラムであって、
前記地磁気データから前記歩行者の進行方向を決定する進行方向決定手段としてコンピュータを機能させ、
前記進行方向決定手段は、
時間経過に応じた前記加速度データから、腕振りによって生じた地磁気ベクトル群の分布する円錐底面の法線ベクトルを算出する法線ベクトル算出手段と、
前記地磁気データ及び前記法線ベクトルから円錐底面を算出する円錐底面近似手段と、
前記円錐における高さhを算出する円錐高さ算出手段と、
前記高さhに基づいて、南北方向に対する方向角θを算出する方向角算出手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする携帯端末用のプログラム。
【請求項6】
3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサを有し、歩行者によって所持される携帯端末について、前記地磁気データから前記歩行者の進行方向を決定する進行方向決定方法であって、
時間経過に応じた前記加速度データから、腕振りによって生じた地磁気ベクトル群の分布する円錐底面の法線ベクトルを算出する第1のステップと、
前記地磁気データ及び前記法線ベクトルから円錐底面を算出する第2のステップと、
前記円錐における高さhを算出する第3のステップと、
前記高さhに基づいて、南北方向に対する方向角θを算出する第4のステップと
を有することを特徴とする携帯端末の進行方向決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−8240(P2010−8240A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168135(P2008−168135)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】