説明

埋設された地中アンカの耐張力の確認方法、耐張力確認装置及び同方法を実行するプログラムを格納した記録媒体

【課題】埋設されたアンカの耐張力確認方法と耐張力確認装置を提供する。
【解決手段】耐張力確認方法は、アンカを回転する油圧モータの駆動油圧値を、アンカの地中進入の開始時点から終了時点まで一定時間毎に読み取り、読み取った駆動油圧値に基づいて油圧モータ回転油圧面積を求め積算して、その積算値から耐張力を計算し、その計算値を当該アンカに対して要求される耐張力の基準値と比較し、基準値以上である場合に所要の耐張力が確保されたと判定するようにした。耐張力確認装置は、油圧計測手段と、計時手段と、油圧計測値の上昇開始時点から進入終了時点までの、単位時間ごとに油圧計測手段から取得した油圧計測値から油圧面積を積算し、その計算値を当該アンカに対して要求される基準値と比較する演算手段と、演算結果を表示する表示手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大地に立設される電柱などの柱状物又は建造物を大地に支持する支線を地中において支持する地中アンカの埋設施工終了時における耐張力を確認する方法、同方法を使用するための装置、及び同方法を実施するためのプログラムを格納した記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
配電線や電話線などを支持する電柱、又は交通信号機を取り付けるポール等の大地に立設される柱状物を大地に支持する支線、もしくは構造物を大地に支持する支線を地中で支持するために、地中に埋設される地中アンカ(以下、単にアンカという。)が用いられている。
【0003】
そのアンカは、棒状の軸部の先端側部分に螺旋状の掘削刃を設けた形状に構成されていて、これを地中に埋設するには、そのアンカの先端側と反対側の端部を、電柱を地面に立設するときに用いる穴掘建柱車のオーガ(回転体)に接続し、そのオーガでアンカを回転することにより、アンカ自体で地盤を掘削させ、所定深さまで進入させて埋設するアンカ埋設施工方法が、近年実施されている(特許文献1−4参考)。
【特許文献1】特開2000−1850号公報
【特許文献2】特開2001−59221号公報
【特許文献3】特開2001−182058号公報
【特許文献4】特開2001−271345号公報
【0004】
アンカは、その役目を果たすには、埋設施工後に、柱状物又は構造物から支線を介して加わる引き抜き力に打ち勝つ耐張力を備える必要がある。この引き抜き力に対抗する力である耐張力は、アンカの周面の地中に対する摩擦抵抗力(周面摩擦抵抗力)に依存し、その周面摩擦抵抗力は、アンカが埋設される位置の土質硬度に大きく左右されることが知られている。
【0005】
しかし、上述した従来のアンカ埋設施工方法においては、現実の施工位置における施工後の耐張力を確認する技術が確立されていなかった。そのため、所要の耐張力を確保するために、アンカ埋設施工の前に、土質測定装置を用いて施工予定地の土質硬度を見極める作業を行っていた。すなわち、その土質測定装置は、先端に向かって細くなる棒状体からなる測定工具を穴掘建柱車のオーガに取り付け、一定の荷重を加えたままオーガでその測定工具を回転させ、測定工具が地中の所定深さまで進入するのに要した回転数から土質硬度を測定するものである。回転数が少ないときは土質硬度が小さい(柔らかい)ことを意味し、回転数が多いときは土質硬度が大きい(硬い)ことを意味する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、常にアンカ埋設施工前に測定装置を用いて土質硬度測定を行うことは煩雑であった。そのため、施工前の土質硬度測定を必要とすることなく、埋設されたアンカの耐張力を速やかに確認できることが要望されていた。
【0007】
そこで、本願の出願人らは上記要望に応えるため、次のようなアンカ耐張力推定方法を特願2004−321786号明細書において提案した。すなわち、先端側部分に螺旋状の掘削刃を有するアンカを油圧モータにより回転させて地中に進入させ埋設するアンカ埋設装置において、アンカが所定深さまで進入されたとき(進入終了時点)の油圧モータの駆動油圧を測定し、その測定結果に基づいてそのアンカの耐張力を推定するものである。
【0008】
この耐張力推定方法は、油圧モータの駆動油圧は土質が柔らかい場合は低く、土質が硬い場合は高いという特性に着眼して、穴掘建柱車の操縦者が進入終了時点における油圧メータの針を見て、油圧モータの駆動油圧を認識し、これを基に耐張力を推定するものである。
【0009】
ところで、本発明者らは、上記耐張力の推定方法に関し、さらに検討を進めた結果、アンカの埋設地点の土質は、軟質、硬質などが様々な態様で混在しており、また、耐張力はアンカの周面摩擦抵抗力と土錐体の力に依存するので、進入終了時点の駆動油圧のみに基づいて推定しても、その推定値は実耐張力との間にズレが生じることがあることを発見した。そのため、本発明者らは、進入終了時点における油圧モータの駆動油圧のみに基づく推定方法よりも一層確実に耐張力を確認する方法の確立を目指して本発明をなすに至った。
【0010】
こうして、本発明は、土質硬度測定を行うことなく、アンカの進入終了直後に実際の耐張力を正確に確認できる耐張力確認方法を提供することを第一の目的とする。
【0011】
本発明の第二の目的は、上記耐張力確認方法を容易に実現するための耐張力確認装置を提供することにある。
【0012】
本発明の第三の目的は、前記耐張力確認方法を、アンカを回転駆動する油圧モータ及びコンピュータを用いるいずれのアンカ埋設装置においても使用することができるようにするため、耐張力確認方法を実行するためのプログラムを格納した記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記第一の目的を達成するため、本発明による耐張力確認方法は、回転体により回転され地中に進入埋設されたアンカの耐張力を確認する方法であって、前記回転体を回転駆動するための油圧モータの前記アンカの地中への進入開始時点から進入終了時点までの駆動油圧値を読み取り、読み取った駆動油圧値に基づいて油圧モータ回転油圧面積の積算値を求め、その積算値に基づいて耐張力を算出し、その計算値を埋設されるアンカに対して設定された基準値と比較し、前記計算値が前記基準値以上である場合に、所要の耐張力が確保されたと判定することを特徴としている(請求項1)。
【0014】
回転体を回転駆動するための油圧モータの駆動油圧値を基に耐張力を算出するには、油圧モータの駆動油圧値をアンカの地中への進入開始時点から進入終了時点まで所定時間毎に読み取り、それぞれ読み取った駆動油圧値に所定の係数(進入時の経過時間又は進入距離)を乗算して油圧モータ回転油圧面積を求め、前記アンカの地中への進入開始時点から進入終了時点までの前記油圧モータ回転油圧面積の積算値から所定の数式により耐張力を算出することが望ましい(請求項2)。ここに所定時間とは、油圧モータの駆動油圧値を読取る時間間隔であるが、油圧値は土質により一定時間の間に種々変化するので、前記所定時間は短ければ短いほど正確な油圧モータ回転油圧面積が算出され、前記所定時間が長過ぎると算出される油圧モータ回転油圧面積の誤差が大きくなる。従って、前記所定時間は、前記油圧面積の誤差が実用上支障とならない範囲の時間が選択される。
【0015】
アンカには、軸部の先端側部分に螺旋状の掘削刃が設けられているので、その掘削刃が設けられている軸部の地盤に対する周面摩擦抵抗力は、残余の部分のそれよりも格段に大きい。そして、進入開始時点から進入終了前までの油圧面積は比較的小さくても、進入終了直前の一定時間の、アンカの軸部の先端側部分の長さに対応する距離が進入される間における油圧面積が十分に大きいか、又は進入開始時点から進入終了時点までの油圧面積の総和が所定値以上であれば、所要の耐張力が確保されることが今回の実験で確認された。これについては、後に詳述する。
従って、本発明による耐張力確認方法は、アンカの地中への進入開始時点から進入終了時点までの油圧モータ回転油圧面積の積算値が基準値以上である場合、又は、進入終了時点からアンカの螺旋状の掘削刃が設けられている部分の長さが地中を推進するのに要するものとして設定された時間前までにおける油圧モータ回転油圧面積の積算値が前記基準値以上である場合に、所要の耐張力が確保されたと判定することを特徴としている(請求項3)。
【0016】
上記第二の目的を達成するため、本発明による耐張力確認装置は、アンカを地中に進入埋設するための回転体を回転させる油圧モータの駆動油圧を計測する油圧計測手段と、その油圧計測手段の油圧計測値の上昇開始時点からの前記油圧モータの駆動時間を計測する計時手段と、施工されるアンカに要求される耐張力を指定するための入力部と、施工されるアンカに要求される耐張力の基準値を記憶している記憶部と、前記油圧計測値の上昇開始時点から前記アンカが進入されて前記油圧モータの回転が停止される時点までの、所定時間ごとに前記油圧計測手段から取得した油圧計測値に所定の係数を乗じて得られる油圧面積を積算し、その積算値に基づいて耐張力を算出し、その計算値を埋設されるアンカに対して設定された前記基準値と比較する演算手段と、演算結果を表示する表示手段と、前記計時手段、演算手段及び表示手段を制御する制御手段とを備えていることを特徴としている(請求項4)。
【0017】
記憶部は施工されるアンカに対して要求される耐張力の基準値とその基準値を複数の達成段階に分けた達成割合とを記憶し、演算手段は油圧計測値の上昇開始時点からアンカが進入されて油圧モータの回転が停止される時点までの油圧モータ回転油圧面積に基づいて算出された耐張力の計算値が前記複数の達成割合のいずれに達したかを判定し、表示手段は、前記演算手段により判定された達成割合を表示するものであることが望ましい(請求項5)。
【0018】
本発明の第三の目的を達成するための記録媒体には、油圧モータにより回転されるアンカの地中への進入開始時点から進入終了時点まで、前記油圧モータの油圧計測手段が計測した油圧計測値に基づいて油圧モータの回転油圧面積を積算し、その積算値から所定の数式を用いて耐張力を計算し、その計算値を前記アンカに対して設定された基準値と比較し、その比較結果を表示部に表示するためのプログラムが格納されている(請求項6)。
【0019】
そのプログラムにより実現される機能には、耐張力の計算値が基準値の所定の達成割合に達するたびにこれを表示部に表示する機能も含まれることが望ましい(請求項7)。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明によれば、アンカの地中への進入開始時点から進入終了時点までの油圧モータの駆動油圧値を読み取り、読み取った駆動油圧値に基づいて油圧モータ回転油圧面積の積算値を求め、その積算値に基づいて耐張力を算出し、その計算値を埋設されるアンカに対して設定された基準値と比較し、前記計算値が前記基準値以上である場合に、所要の耐張力が確保されたと判定するようにしたので、アンカの進入開始から進入終了までの間に要したエネルギーの全体が忠実に計測され、これが基準値と比較されるから、埋設されたアンカの耐張力が正確に確認される。
【0021】
請求項2の発明によれば、アンカを回転するための油圧モータの駆動油圧値を基に耐張力を算出するために、油圧モータの駆動油圧値をアンカの地中への進入開始時点から進入終了時点まで所定時間毎に読み取り、それぞれ読み取った駆動油圧値に所定の係数を乗算して油圧モータ回転油圧面積を求め、アンカの地中への進入開始時点から進入終了時点までの前記油圧モータ回転油圧面積の積算値から所定の数式により耐張力を算出するようにしたので、埋設されるアンカの耐張力を容易かつ正確に算出することができる。
【0022】
請求項3の発明によれば、進入開始時点から進入終了時点までの油圧モータの駆動油圧値とアンカの地中への進入所要時間の積算値が所要の基準値に達し、又は、進入最終段階のアンカの螺旋状掘削刃が設けられている部分の長さが進入される間の積算値(油圧面積)が基準値以上である場合に、所要の耐張力が確保されたと判定するので、アンカ埋設地点が硬軟様々な地層であっても、所定の耐張力が得られたか否かを有効確実に確認することができる。
【0023】
請求項4の発明装置によれば、上記本発明の耐張力確認方法を容易に実現することができる。
【0024】
請求項5の発明によれば、演算手段が油圧計測値の上昇開始時点からアンカが進入されて油圧モータの回転が停止される時点までの油圧モータ回転油圧面積に基づいて算出された耐張力の計算値が複数の達成割合のいずれかに達したと判定した時、表示手段は、その達成割合を表示するので、施工中にアンカの進入量に対応する耐張力獲得程度を容易に確認することができる。従って、埋設作業を続行すべきか、中止すべきか、又は終了すべきかを早期に判断することもできる。
【0025】
請求項6及び7の発明によれば、記録媒体を請求項4の発明による耐張力確認装置のコンピュータに装填することにより、請求項1又は2の耐張力確認方法を実行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るアンカの耐張力確認方法を実施するアンカ埋設装置Xの一部の構成を示す分解斜視図である。アンカ埋設装置Xには、前述した穴掘建柱車を用いることができる。
先ず、アンカAから説明する。このアンカAは鋳鉄製であり、所要長さの軸棒1の地中進入方向先端側(以下、先端側という)の部分(図1では下端側部分)に間欠的に複数個の螺旋状の掘削刃2a〜2dが設けられている。これらの掘削刃2a〜2dは、アンカAの地中進入方向と反対側(図1では上方)に行くほど大きい径を有している。また、各掘削刃2a〜2dの地中進入方向先端及び外周縁は、尖鋭に形成されている。また、軸棒1の先端には、周知のドリルと同様の切込刃を有するドリル部3が形成されている。
【0027】
軸棒1のドリル部3と反対側の上部には、軸棒1の径よりも少し大きな径を有するつば部4が設けられているとともに、そのつば部4よりも上側に角柱部5が形成されており、その角柱部5には、後述する支線棒を取付けるための、軸棒に直交する方向に貫通する穴5aが設けられている。
【0028】
図1中、6は動力伝達部材である。この動力伝達部材6は、1本の有底筒状体からなり、その一端側(図1では下端側)には、アンカAの角柱部5を着脱自在に嵌合し得る角穴6aが形成されているとともに、その他端側(図1では上端側)には、穴掘建柱車のオーガ8の下端に設けられ、下方に開口している角穴8aに挿入される角柱状の装着部6bが形成されている。そして、この動力伝達部材6の内部には、角穴6aに連通して、支線棒7を収納することができる空間6cが形成されている。上記支線棒7は、その下部に設けられているリング7aを介して、アンカAの角柱部5に設けられた穴5aに回動自在に接続されるように構成されている。
【0029】
図1中、6dは貫通孔であって、動力伝達部材6の上部側にその軸線に直交するように貫通して設けられている。したがって、動力伝達部材6内に支線棒7をリング7bもろとも挿入した状態で、ボルト6eを貫通孔6d及びリング7bに貫通し、そのボルト6eの先端にナット6gを螺合することにより、支線棒7を動力伝達部材6に連結することができる。
【0030】
アンカ埋設装置X(穴掘建柱車)には、図1に示すように、オーガ8及びこれを回転させる油圧モータMのほか、図3に示すように、油圧モータMに駆動エネルギーを供給する油圧系統が設けられている。図3は、その油圧系統を示す油圧回路図である。
図3中、Pは、油タンクT内のオイルOを吸引管P0 を介して吸引して加圧する油圧ポンプである。この油圧ポンプPは、例えば、穴掘建柱車のエンジン始動により起動される。そして、油圧ポンプPで加圧されたオイルは、供給管P1 に供給され、返送管P2 を介して油タンクTに返送されるように構成されている。供給管P1 の途中には、供給管P1 内の油圧、すなわち油圧モータMの駆動油圧を計測する油圧計Gが設けられている。
【0031】
供給管P1 と返送管P2 の間には3位置弁からなる切換え弁Vが設けてある。切換え弁Vは、操縦レバーLの操作により、図3に示されている中立位置、すなわち、供給管P1 に結合された第1ポートを返送管P2 に結合されている第4ポートに直接接続する位置、第1ポートを第2ポートに、第3ポートを第4ポートにそれぞれ接続する正転位置、そして、第1ポートを第3ポートに、第2ポートを第4ポートにそれぞれ接続する逆転位置のいずれかに移動して固定することができる。こうして、操縦レバーLが中立位置にあるときは、切換え弁Vはオイルを油圧モータMに供給しないので、油圧モータMは回転されない。また、操縦レバーLが正転位置に移動されると、切換え弁Vはオイルを第1ポート及び第2ポートを経て油圧モータMに供給し、その油圧モータから排出されるオイルを第3ポート及び第4ポートを経て返送管P2 に排出させるので、油圧モータは正転され、さらに、操縦レバーLが逆転位置に移動されると、切換え弁Vは供給管P1 のオイルを第1ポートと第3ポートを経て油圧モータMに供給し、油圧モータM内を通過したオイルを第2ポートと第4ポートを経て返送管P2 に排出させるので、油圧モータは逆転される。
【0032】
前記アンカ埋設装置Xには、図2に示すように、本発明に係る耐張力確認装置Yが設置されている。この耐張力確認装置は、油圧モータMに供給される油圧を計測する油圧計測手段11と、CPU15と、記憶部16と、入力部18と、表示部19とを有する。
【0033】
油圧計測手段11は、アナログ式の油圧計Gに周知のアナログデジタル(AD)変換回路を接続して構成してもよいし、アナログ式油圧計を用いずに、油圧値を直接デジタル計測するものを用いても良い。油圧計測手段11に数値表示回路13を接続したときは、油圧モータMのその時々の駆動油圧を数値で具体的に認識することができる利点がある。
【0034】
油圧計測手段11は、インタフェース(I/F)14を介してCPU15に接続され、そのCPU15には記憶部16が接続されているとともに、もう一つのインタフェース(I/F)17を介して入力部18及び表示部19が接続されている。
CPU15は、計時手段と、演算手段と、制御手段とを有している。計時手段は、制御手段からの制御信号に基づいて基本クロックを用いて油圧計測手段の油圧計測値の上昇開始時点からの油圧モータMの駆動時間を計測する。演算手段は、油圧計測値の上昇開始時点から地中アンカが進入されて油圧モータMの回転が停止される時点までの、所定時間ごとに油圧計測手段11が計測した油圧計測値に所定の係数を乗じて得られる油圧面積を積算し、その積算値に基づいて耐張力を算出する機能と、その耐張力を埋設される当該地中アンカに対して設定された基準値と比較する機能とを有する。制御手段は、入力部18からの入力に対応して、前記計時手段、演算手段及び表示部19などの各手段への制御を行う。
【0035】
記憶部16は、プログラムデータ、所定の係数及び数式などを格納しているROMと、ワーキングデータを格納するRAMとを有する。RAMには、施工されるアンカに対して要求される異なる耐張力の基準値データが格納される。施工中のアンカ進入量増大に伴って、算出された耐張力が基準値の所定の達成割合に達するたびに表示部19に表示させる場合は、前記所定の達成割合データ(%値)もRAMに格納される。基準値データ及び達成割合データは、RAMに格納することに代えて、外部記憶装置に記憶させておくこともできる。そして、耐張力確認装置が稼働されるときに、施工されるアンカに対して要求される耐張力の段階、例えば、耐張力の小さい方から例示すると、第1段階(I:14.7kN)、第2段階(II:41.2kN)又は第3段階(III:63.7kN)のいずれかを指定する信号が入力部18から入力されたことに基づき、その入力信号に対応する基準値データ及び達成割合データが読み出されて、CPU15に与えられるようになっている。
【0036】
ROMに格納されるプログラムには、油圧計測手段11から所定時間ごと、例えば0.05秒ごとに読み取る油圧測定値に所定の係数を乗じて単位油圧面積を算出する演算と、その単位油圧面積を油圧値上昇開始時点(アンカの進入開始時点)からアンカの進入終了時点まで積算して、合計油圧面積を得る演算とを行うプログラム、その演算結果である合計油圧面積から所定の数式により耐張力を計算するプログラム、その計算された耐張力と基準値の大小を比較するプログラム、及びその時々の計算値と基準値の比較結果を表示部19に出力するプログラムとが含まれている。
【0037】
前記所定の係数には、前記所定時間、又はその所定時間におけるアンカの進入距離のいずれかを用いることができる。前記所定の数式とは、次のとおりであるが、これについては、後に詳述する。
y=8E−0.5x2 +0.01x ……数式1
y=0.0017x2 +0.1008x ……数式2
【0038】
図4のBは、アンカ埋設装置に設けられた操作パネルである。操作パネルBには、入力部18を構成する電源ONスイッチ18aと、電源OFFスイッチ18bと、埋設されるアンカに対して要求される耐張力の段階を指定する耐張力段階指定部18cと音量調節摘み18dとが設けられている。耐張力段階指定部18cの摘み18c´を耐張力段階表示記号(I,II,III)に合致させることにより、指定された耐張力段階のデータがCPU15に入力され、CPUはそのデータに基づき、当該アンカに対する耐張力の基準値データを記憶部16から読み出すようになっている。操作パネルBには、また、表示部19を構成する第1ランプないし第5ランプ19a〜19eと、ブザー19fも併せて設けてある。各ランプ19a〜19eは、それぞれ識別可能に異色点灯するものである。そして、操作パネルBには、耐張力確認装置の状態を表示するランプ19gも設けられている。
【0039】
油圧モータMとオーガ8を用いてアンカAを地中に埋設するには、先ず、動力伝達部材6の装着部6bをオーガ8の角穴8aに挿入する。そして、脱落防止のために、オーガ8の先端に設けられている貫通孔8b及び装着部6bに設けられている貫通孔6fにボルト8cを貫通し、これにナット8dを螺合して固定する。
【0040】
次いで、動力伝達部材6内に支線棒7を挿入し、角穴6a内にアンカAの角柱部5を嵌合する。そして、動力伝達部材6に設けられている貫通孔6dにボルト6eを挿入するとともに、そのボルト6eにナット6gを螺合する。これにより、支線棒7及びアンカAと動力伝達部材6とが連結状態に保たれる。
【0041】
オーガ8に、例えばブーム及び油圧モータの重量を利用して一定の荷重を加えながら油圧モータMを正転させると、アンカAは、掘削刃2a〜2dの穿孔作用により地中に進入し始める。
【0042】
アンカAが所定深さまで進入されたとき、油圧モータMの回転が停止される。油圧モータMの停止後は、ボルト6eが抜き取られ、オーガ8が上方へ復帰される。これにより動力伝達部材6は支線棒7から分離され、アンカAから外されて、アンカA及び支線棒7の下端部は、地中に埋設された状態に保たれる。その後、支線棒7の上部に設けられたリング部7bには、図示しない支線(ワイヤ)が取付けられて電柱(不図示)が支持される。
【0043】
なお、油圧計Gから読み取った油圧計測値に基づいて算出された油圧面積の積算値が所定の値に達しないときは、埋設されたアンカAは電柱を支持するための所定の耐張力が得られないことを意味しているので、この場合は、操縦レバーLが逆転位置に移動されて、それまで正転されていた油圧モータMが逆転される。この逆転によりアンカAが徐々に地表に出されて地中から取り出される。
【0044】
続いて、上記構成による耐張力確認装置付きアンカ埋設装置の作用を主として図5及び図6に基づいて説明する。図5は主として耐張力確認作用を示すフローチャートであり、図6はその中の耐張力演算ルーチンの詳細を説明するフローチャートである。
まず、耐張力確認装置Y付きアンカ埋設装置Xは、図4に示す操作パネルBの電源ONスイッチ18aを操作して電源を投入する。続いて、入力部18の耐張力段階指定部18cの摘み18c´を操作して、埋設しようとするアンカの種類を指定すると、制御部は記憶部16からその指定された耐張力段階に対応する基準値を読み出してCPU15に設定する(ステップ1。以下、ステップをSで表す)。続いて、操縦レバーLを操作して油圧モータMの正転を開始させる(S2)と、CPUは油圧計測手段11から無負荷時のオーガを回転させる油圧(油圧モータの回転油圧)を測定し(S3)、その計測値を以後の計測の基準点として設定する(S4)。その後、図1に示すように、オーガ8の下端に動力伝達部材6を介して接続されたアンカAの下端部のドリル部3がアンカ埋設地点の地面に接触する状態に位置決めし(S5)、操縦レバー(図示省略)を操縦してオーガ8を下降させてアンカの掘削進入を開始する(S6)。
【0045】
アンカの進入開始と同時に、CPU15は油圧計測手段11が出力している油圧計測値を所定時間ごと、例えば0.05秒ごとに読み取り(S7)、これをRAMに格納する(S8)。そして、CPUの演算手段はルーチン(R)において、その読み取った油圧計測値に基づいて耐張力を計算する。
【0046】
ルーチン(R)における耐張力の演算について、図6に基づいて説明する。CPU15は、油圧計測値を読み取るたびに、これに所定の係数、例えば所定時間を乗じて油圧面積を算出し、かつ、順次算出される油圧面積を加算(積算)する(S9)。続いて、油圧モータを回転させてきた時間の最終15秒間の油圧面積と、油圧モータを回転させてきた時間の最終15秒間以前の油圧面積とをそれぞれ演算する(S10,S11)。また、その演算された最終15秒間の油圧面積から後述される所定の数式2を用いてアンカ周面摩擦抵抗力(F1)を演算する(S12)とともに、最終15秒間以前の後述される油圧面積から所定の数式1を用いて土錐体の力(F2)を演算する(S13)。そして、最後に、得られたアンカ周面摩擦抵抗力と土錐体の力を合算(F1+F2)して、アンカの耐張力を演算する(S14)。ここで、最終15秒間という時間は、進入終了時点から地中アンカの螺旋状の掘削刃が設けられている部分の長さが地中を推進するのに要するものとして設定された時間である。15秒間に設定された理由は、段落0062において詳述される。
【0047】
次に、耐張力の演算に続き、油圧計測値が無負荷時の油圧計測値にほぼ等しい値まで低下し、その状態が予め設定した一定時間以上継続したか否かにより、アンカの先端のドリル部が硬い地盤のために前進せずに空転しているかどうかを調べる(S15)。つまり、無負荷時の油圧計測値にほぼ等しい値まで低下した状態が予め設定した一定時間以上継続した場合は、アンカが空転していると判断する。
【0048】
S15において空転していないと判断された場合は、RAMから第1の達成割合データ(25%)が読み出され、耐張力の計算値が基準値の25%以上になったか否かが調べられ(S16)、否定の場合は、S7に戻って、単位時間の次のタイミングで油圧値計測手段からの計測値が読み取られ、以後、前述したのと同様に、S8,R,S15が実行される。また、S16において肯定の場合は、第1ランプ19aが例えば緑色に点灯される(S23)。これにより、操縦者はアンカの進入に伴ってどの程度の耐張力が得られたかを知り、また、埋設地点の土質を推測することができる。
【0049】
一方、S15において空転と判断した場合は、第1ランプ19aから第4ランプ19dの全てが同時に点滅される(図示せず)と同時に、第5ランプ19eが例えば赤色に点灯される(S27)。第1ランプ19aから第4ランプ19dの全ランプを点滅させずに、第5ランプのみを赤色点灯させるようにしても良い。また同時に、ブザー19fを鳴動させて警告音を発生させると、アンカの進入位置を監視している操縦者に空転事実の喚起を促す利点がある。そして、第5ランプ19eの点灯と警告音の発生に基づいて、アンカ埋設施工が中止される(S28)。図4の摘み18dはこの警告音の音量調節用である。
【0050】
第1ランプ19aが点灯されると同時に、再び、そのアンカが空転しているか否かが調べられ(S17)、空転していないと判断された場合は、RAMから第2の達成割合データ(50%)が読み出され、耐張力の計算値が基準値の50%以上になったか否かが調べられ(S18)、否定の場合は、再びS7に戻って、単位時間の次のタイミングで油圧値計測手段からの計測値が読み取られ、以後、前述したのと同様に、S8,R,S15が実行される。また、S18において肯定の場合は、第2ランプ19bが例えば薄緑色に点灯される(S24)。
【0051】
空転判断と、耐張力達成度判断と、未達成判断時のS7への移行と、達成時のランプ点灯及び各空転判断において空転と判断された場合の第5ランプの点灯及び警告音の発生は、耐張力計算値が基準値の50%、75%、及び100%に達したか否かの判断を行う場合の前又は後にも同様に行われる。そして、基準値75%以上達成の場合(S20でY)は、第3ランプ19cが例えば薄青色に点灯し、100%達成の場合(S22でY)は、第4ランプ19dが例えば青色に点灯するようになっており、S17,S19,S21のどの段階でも、空転と判断された場合は、第5ランプ19eが赤色点灯及び又は警告音発生の後(S27)、アンカ埋設施工が中止される(S28)。
【0052】
また、第4ランプ19dが点灯されて、基準値の100%が達成されたことをアンカ埋設装置の操縦者が認識したときは、操縦者は油圧モータの回転を停止させてアンカの進入を終了させ(S29)、動力伝達部材6が工事作業員により切り離され、引き続き、別の操縦レバーを操作して油圧モータとオーガ8を上昇復帰させることにより、アンカ埋設施工が終了する。
【0053】
油圧モータの回転が停止されるまでの間に、油圧面積の積算値に基づいて得られる耐張力の計算値が当該基準値の複数段階の達成割合のいずれに該当するかに応じて、それぞれ異なる色のランプを点灯させ、又は異なる音を発生させ、もしくはその双方を行えば、埋設されるアンカの耐張力獲得程度を段階的に把握することができる。その場合は、当該埋設地点の土質をランプの点灯状態又は音声発生状態から推測しながら埋設工事を行うことができ、土質が良いので最後まで完了できるか、土質が悪いので途中で止めるべきかを容易に判断することができる。
【0054】
以上に記載の実施例においては、F1+F2が基準値以上であるか否かにより必要な耐張力が確保されたか否かを判定したが、施工地盤及びアンカの所要耐張力によっては、F1単独が基準値以上であるか否かにより必要な耐張力が確保されたか否かを判定しても良い。
【0055】
本発明は、以上に説明したように、一定の荷重が加えられているアンカを回転させて地中に進入させる油圧モータの時々刻々変化する油圧計測値を、進入開始時点から進入終了時点までの間に取得し、これに係数を乗算し、積算して油圧面積に換算し、その油圧面積から所定の数式を用いて耐張力を算出し、その計算値を基準値と比較して、所定の耐張力が得られたか否かを判定するようにしたものであるが、その理論的根拠について、以下に説明する。
【0056】
(I)耐張力メカニズムと油圧面積の関係
耐張力(F)は、アンカの周面摩擦抵抗力(F1)と土錐体の力(F2)の和(F=F1+F2)であると理解されている。これを本明細書では、耐張力メカニズムと言う。アンカを地中に推進させるために使用される油圧モータの駆動油圧値を用いると、施工に要した総エネルギー量を知ることが可能である。そこで、アンカ施工時に測定した油圧モータの駆動油圧値を油圧面積として換算し、その油圧面積とその施工に要したエネルギーとの間の関係を考察すると、一定の相関関係があることを見出した。本発明は、各種実験により得られた以下に述べるような知見に基づいてなされたものである。そして、各種実験を行った結果、駆動油圧値と最大耐張力の間に相関関係があることが判った。すなわち、油圧モータの駆動油圧値の積算値とアンカの耐張力との間に相関関係があることが判った。そして、周面摩擦抵抗力(F1)は周面摩擦の油圧面積(A1)を数式2に当て嵌めることにより近似値が得られ、土錐体の力(F2)は土錐体の油圧面積(A2)を数式1に当て嵌めることにより近似値が得られることが明らかになった。そこで、周面摩擦の油圧面積(A1)と土錐体の油圧面積(A2)を求める方法を追求した結果、その回答を得ることができた。
【0057】
土丹(盛土)、土丹(切土)、礫質土(盛土)、礫質土(切土)の4種類38カ所の地盤に対して実施した試験のデータに基づいて、アンカ施工時の油圧測定値を油圧面積に換算し、かつ、その時の最大耐張力を、横軸に油圧面積を、縦軸に最大耐張力を取った座標にプロットしたところ、図7に示すように表された。このように、アンカ施工における油圧面積(合計値)と最大耐張力との間に相関関係があることが判った。これより、油圧面積による特性を分析することにより、施工品質(耐張力の大小)の管理の可能性が示唆された。
なお、最大耐張力については、試験治具により櫓(やぐら)を組み、その試験治具に取り付けられた油圧シリンダにより引張り荷重を印加し、その油圧シリンダとアンカとの間に取付けられた張力計により最大耐張力を測定した。
【0058】
油圧モータの油圧値の時系列的な変移は、図8(a)に示されるとおりであり、油圧面積の時系列的な変移は、図8(b)に示すとおりである。同図(c)は(b)の縦長長方形の枠で囲まれた部分の拡大図である。
油圧モータの駆動油圧値から油圧面積を求めるには、図8(c)に示すように、油圧計の油圧計測値を所定時間ごとに読み取り、その読み取った油圧値に係数の一例として単位時間を乗じて、単位時間当たりの油圧面積(以下、単位油圧面積という。)を算出し、そ の単位油圧面積をアンカの回転による地中への進入開始時点から進入終了時点(又は所定深さに到達する時点。以下、同じ。)まで積算することにより得られる(進入開始時点から進入終了時点までの積算値を合計油圧面積という。)。例えば、所定時間が0.05秒で、単位時間毎に読み取られた油圧値が0.18,0.29,0.54,……である場合は、単位時間毎の油圧面積は、表1に表されるとおりである。なお、表1における「横」は単位時間を、「縦」は油圧計測値をそれぞれ示す。
【表1】

【0059】
アンカの耐張力を求める場合は、その時々の油圧値にアンカの進入距離を乗じることが合理的と思われる。そこで、上記各種の地盤に関し、合計油圧面積とアンカの進入深さとの関係について調べた結果は、図9に示したとおりである。これにより、進入深さが深いほど、合計油圧面積が増加する傾向があることが判った。
この合計油圧面積を、耐張力メカニズム(耐張力は土錐体の力とアンカの周面摩擦抵抗力の和であること)に照らし合わせて分析すると、合計油圧面積には、土錐体の力に対応する領域と、アンカ周面摩擦抵抗力に対応する領域が含まれていると考えることができる。そして、進入深さが深くなると土錐体の力に対応する領域が増加することから、進入深さが深くなると合計油圧面積が増加すると理解することができる。
よって、油圧面積と耐張力の関係の分析を行うために、耐張力メカニズムの考え方に基づき、油圧面積もアンカ周面摩擦抵抗力に対応する領域と、土錐体の力に対応する領域とに分けて検討した。
【0060】
1)アンカ周面摩擦抵抗力と油圧面積との関係
アンカ周面摩擦抵抗力は、油圧モータの回転を最終的に停止し、アンカ進入終了時のアンカ本体部の定着位置において発生する力である。従って、耐張力を油圧面積に置換した場合、アンカ周面摩擦抵抗力は、「最終的に停止する間際のアンカ先端から螺旋状掘削刃の上端部(大羽根)までの長さが進入するまでの油圧面積」であると言うことができる。これは、アンカの単位時間当たりの進入距離が油圧計測値と乗算して油圧面積を求める場合の一つの係数となり得ることを示唆している。
【0061】
そこで、本発明では、アンカ周面摩擦抵抗力である「最終的に停止する間際のアンカ先端から螺旋状掘削刃の上端部までの長さが進入するまでの油圧面積」を求めるために、進入距離計測を行うことに代えて、最終的に停止する間際のアンカ先端から螺旋状掘削刃の上端部までの長さが進入するに要する時間に置換し、その時間と油圧計測値との乗算によりアンカ周面摩擦抵抗力に対応する油圧面積を得ることを考察した。換言すると、アンカ先端から螺旋状掘削刃の上端部までの長さが地盤に進入するのに要する時間(進入所要時間)に換算し、アンカの所定深さ到達により停止された時、その停止時点から前記進入所要時間前までの時間を用い、その時間と油圧面積に基づいてアンカ周面摩擦抵抗力を算出するようにした。
【0062】
2)土錐体の力と油圧面積との関係
上記アンカ周面摩擦抵抗力が停止前何秒間の油圧面積に相当するかが明らかになれば、残りの油圧面積が土錐体の力に対応する領域であるということができる。
アンカ先端から螺旋状掘削刃の上端部までの長さが一例として35cmである場合の、上記38カ所の土壌において停止前10秒間と停止前15秒間のアンカ推進量(停止前10秒間及び停止前15秒間でアンカが何cm進入したか)を、油圧波形データをもとに調査した。
【0063】
その結果、推進量が停止前10秒間では概ね10〜30cmであり、停止前15秒間では概ね20〜40cmであった。このことから、アンカ先端から螺旋状掘削刃の上端部までの長さが35cmであるアンカの場合は、停止前10秒間の油圧面積よりも停止前15秒間の油圧面積の方が掘削刃が設けられているアンカ本体全体の油圧面積を捉えていると考えられる。
従って、停止前15秒間の油圧面積の特性は、アンカ施工の最終進入時、すなわち、アンカ本体部が定着した時のアンカ周面摩擦抵抗力と関連付けられると考えられる。
さらに、停止前15秒間以前の時間における油圧面積特性は、土錐体の力と関連付けられると推測される。このように、油圧面積特性をアンカ周面摩擦抵抗力に対応する部分と、土錐体の力に対応する部分に2分割することで、耐張力メカニズムと連携した分析が可能である。
【0064】
要約すると、耐張力メカニズムと油圧面積の関係は、次のように関連付けすることができる。すなわち、アンカ周面摩擦抵抗力は停止前15秒間の油圧面積(本明細書では、これを周面摩擦の油圧面積という。)に関連し、土錐体の力は停止前15秒間以前の油圧面積(本明細書では、これを土錐体の油圧面積という。)に関連する。
上述のように、耐張力メカニズムの内容として、次の点が知られている。
耐張力(F)=アンカ周面摩擦抵抗力(F1)+土錐体の力(F2)
また土錐体の力に関して、次の関係式が成り立つことを本発明者らは明らかにした。
土錐体の力(F2)=土錐体の重量(W)+土錐体の摩擦力(μ)
W=g・We・V
V=π/4・L{D2 +2DL・tanθ+4/3(L・Tanφ1)2
φ1=√(20・N1)+15
μ =W・tanφ2
φ2=√(20・N2)+15
W :土錐体の重量(kN)
We:土の単位重量(t/m3
V :土錐体の体積(m3
L :地表からアンカ大羽根までの長さ
D :アンカ大羽根の直径
φ1:土錐体角度(大羽根付近の土の内部摩擦角)(度)
N1:大羽根付近の推定換算N値
μ :土錐体の摩擦力(kN)
φ2:土錐体中央付近の土の内部摩擦角(度)
N2:土錐体中央付近の推定換算N値
g :重力加速度 9.8(m/s)
【0065】
(II)土錐体の力と土錐体の油圧面積との関係
土錐体の力と土錐体の油圧面積との関係について、上記38カ所の土壌に対して行った調査の結果を図10に示す。土錐体の油圧面積は、アンカの施工に要した油圧値と計測時間を面積に換算し積算した値(油圧面積)の合計からアンカの地中への進入停止前15秒間の油圧面積を除いて求めた。また、土錐体の力は、最終的にアンカを施工した位置における土錐体の重量などから算出した。
これにより、土錐体の力と土錐体の油圧面積には、2次曲線的な関係、すなわち、土錐体の力をy、土錐体の油圧面積をxとすると、
y=8E−0.5x2 +0.01x ……数式1
の関係式で表される関係があることが判った。
また、土錐体の油圧面積が増加するほど、土錐体の力も増加することが判った。これは、アンカの進入深さが深いほど土錐体の力が大きくなることを示している。
以上の考察の結果より得られた上記関係式を用いることにより、切土地盤、盛土地盤を意識することなく、土錐体の油圧面積から土錐体の力を推定することができる。
【0066】
(III)アンカ周面摩擦抵抗力と周面摩擦の油圧面積との関係
アンカ本体が定着した位置でのアンカ周面摩擦抵抗力と周面摩擦の油圧面積との関係を調査した結果を図11に示す。
アンカ周面摩擦抵抗力は、最大耐張力から土錐体の力を差し引いて算出した。また、周面摩擦の油圧面積は、アンカの施工に要した停止前15秒間の油圧面積から求めた。
これにより、周面摩擦の油圧面積とアンカ周面摩擦抵抗力との間には、土錐体の力と同様に、2次曲線的な関係、すなわち、アンカ周面摩擦抵抗力をy、周面摩擦の油圧面積をxとすると、
y=0.0017x2 +0.1008x ……数式2
の関係式で表される関係があることが判った。
また、周面摩擦の油圧面積が増加するほど、アンカ周面摩擦抵抗力も増加することが判った。これは、アンカの埋設を施工した地盤が硬いほど、アンカ周面摩擦抵抗力が大きいことを示している。
以上により、周面摩擦の油圧面積と土錐体の油圧面積を用いることにより、耐張力の確認が可能であると結論することができる。
【0067】
以上のように、周面摩擦の油圧面積と土錐体の油圧面積及び二つの関係式によりアンカ周面摩擦抵抗力と土錐体の力の管理が可能であることが判った。そして、アンカ周面摩擦抵抗力と土錐体の力の和が当該アンカの基準値以上であるとき、所要の耐張力が得られると判断することができる。
しかしながら、実際の土壌条件は様々であり、周面摩擦の油圧面積と土錐体の油圧面積のそれぞれの積算値も、その和も千差万別であるため、アンカ周面摩擦抵抗力(F1)と土錐体の力(F2)の和が規格値を満足する場合と、満足しない場合があるので、満足する各条件を容易に知ることができるようにしておくことは有益である。
【0068】
そこで、本発明者らは、上記38カ所の土壌において測定した最大耐張力及びその時の油圧測定値を基に周面摩擦の油圧面積と土錐体の油圧面積に分解し解析してプロットした。その結果は図12に示すとおりである。この実験結果に基づいて同図に記入した斜線が、理論上、耐張力の規格値(63.7kN)が得られるか否かの境界値である。すなわち、周面摩擦の油圧面積と土錐体の油圧面積の関係が、境界値よりも上側の領域であれば、規格値以上の耐張力を有していることを示す。
【0069】
境界値の求め方を図13を用いて説明する。
手順1:土錐体の力を計算する。すなわち、土錐体の油圧面積(Sn)を決め、図10に示した土錐体の油圧面積と土錐体の力の関係式(数式1)から土錐体の力(An)を計算する。
手順2:停止前15秒間の油圧面積(Cn)を計算する。すなわち、手順1で求めた土錐体の力から、検討したい値(F)(今回の例の場合は63.7kN)に対する不足分(Bn)を算出(Bn=F−An)し、耐張力発生メカニズムより63.7kNに対する不足分(Bn)は、周面摩擦抵抗力と考えられるので、図11に示した周面摩擦の油圧面積とアンカ周面摩擦抵抗力の関係式(数式2)から、必要な周面摩擦の油圧面積(Cn)を逆算する。
【0070】
以上の考察の結果から、土錐体の油圧面積から推定される土錐体の力と、所定の耐張力を得るために必要なアンカ周面摩擦抵抗力の割合を導き出すことが可能である。図14に、その所定の耐張力を63.7kNとした場合の、土錐体の油圧面積を基準とした耐張力を確保するアンカ周面摩擦抵抗力と土錐体の力の割合を示す。
この図から、土錐体の油圧面積が大きい(進入深さが十分深い)場合は、アンカ周面摩擦抵抗力(周面摩擦の油圧面積)が小さくても、土錐体の力(土錐体の重量と土錐体の摩擦力)が十分あり、耐張力が得られることが理解される。逆に、アンカ周面摩擦抵抗力(周面摩擦の油圧面積)が大きい場合は、土錐体の油圧面積が小さくても(進入深さが浅くても)、耐張力が得られることが理解される。すなわち、アンカ周面摩擦抵抗力(F1)のみが基準値以上であるか否かにより必要な耐張力が確保されたか否かを判定することができる。
【0071】
埋設されるアンカに要求される耐張力は、そのアンカにより支持される柱状物の立設条件、環境条件、柱状物にかかる負荷の大小などにより異り、規格値としては、たとえば14.7kN、41.2kN、63.7kN等があり、上記基準値はその規格値に対応して設定される。
【0072】
なお、以下の場合については、アンカ施工時の油圧面積において、周面摩擦抵抗力(F1)に相当する周面摩擦の油圧面積(A1)が基準値を上回れば、所要の耐張力の確保判定が有効となる。例えば、施工場所において、非常に柔らかい土質が地表面に薄く(例えば20cmより薄く)存在し、その下に非常に硬い地盤が存在する箇所での施工を想定する。仮に、施工時間15秒間で前記油圧面積の基準値に対し施工油圧面積が得られた場合は、周面摩擦の油圧面積(A1)に対する周面摩擦抵抗力(F1)が耐張力となるので、所要の性能確保の判定に有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明に係るアンカ埋設装置の構成の一部の分解斜視図。
【図2】本発明に係る耐張力確認装置の構成を示すブロック図。
【図3】アンカ埋設装置の油圧系を例示する図。
【図4】アンカ埋設装置の操作パネルの正面図。
【図5】耐張力確認のフローチャート。
【図6】図5の耐張力演算処理の詳細を示すフローチャート。
【図7】油圧モータの合計油圧面積と最大耐張力の関係を実験計測値に基づき示す図。
【図8】駆動油圧値から油圧面積を求める方法の一例を示す図。
【図9】油圧面積とアンカの進入深さとの関係を実験計測値に基づき示す図。
【図10】土錐体の力と土錐体の油圧面積の関係を実験計測値に基づき示す図。
【図11】周面摩擦の油圧面積とアンカ周面摩擦抵抗力の関係を実験計測値に基づき示す図。
【図12】所要の耐張力が得られるための土錐体の油圧面積と周面摩擦の油圧面積の境界値を実験計測値に基づき示す図。
【図13】図12における境界値の求め方を示す説明図。
【図14】所定耐張力を確保するためのアンカ周面摩擦抵抗力と土錐体の力の割合を示す図。
【符号の説明】
【0074】
P 油圧ポンプ
M 油圧モータ
G 油圧計(計測手段)
A アンカ
2a〜2d 螺旋状の掘削刃
6 動力伝達部材
7 支線棒
8 オーガ
11 油圧計測手段
15 CPU
16 記憶部
18 入力部
19 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体により回転され地中に進入埋設された地中アンカの耐張力を確認する方法であって、前記回転体を回転駆動するための油圧モータの前記地中アンカの地中への進入開始時点から進入終了時点までの駆動油圧値を読み取り、読み取った駆動油圧値に基づいて油圧モータ回転油圧面積の積算値を求め、その積算値に基づいて耐張力を算出し、その計算値を埋設される地中アンカに対して設定された基準値と比較し、前記計算値が前記基準値以上である場合に、所要の耐張力が確保されたと判定することを特徴とする地中アンカの耐張力確認方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地中アンカの耐張力確認方法において、前記回転体を回転駆動するための油圧モータの駆動油圧値を基に耐張力を算出する方法は、前記油圧モータの駆動油圧値を地中アンカの地中への進入開始時点から進入終了時点まで所定時間毎に読み取り、それぞれ読み取った駆動油圧値に所定の係数を乗算して油圧モータ回転油圧面積を求め、前記地中アンカの地中への進入開始時点から進入終了時点までの前記油圧モータ回転油圧面積の積算値から所定の数式により耐張力を算出することを特徴とする地中アンカの耐張力確認方法。
【請求項3】
地中アンカの地中への進入開始時点から進入終了時点までの油圧モータ回転油圧面積の積算値のうち、前記進入終了時点から地中アンカの螺旋状の掘削刃が設けられている部分の長さが地中を推進するのに要するものとして設定された時間を遡った時点から前記進入終了時点までにおける油圧モータ回転油圧面積の積算値を前記地中アンカの周面摩擦の油圧面積とし、前記時間を遡った時点以前の油圧モータ回転油圧面積の積算値を土錐体の油圧面積として、前記周面摩擦の油圧面積及び前記土錐体の油圧面積からそれぞれ所定の数式により周面摩擦抵抗力F1及び土錐体の力F2を算出し、F1+F2又はF1が埋設される地中アンカに対して設定された基準値以上である場合に、所要の耐張力が確保されたと判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の地中アンカの耐張力確認方法。
【請求項4】
地中アンカを地中に進入埋設するための回転体を回転させる油圧モータの駆動油圧を計測する油圧計測手段と、前記油圧計測手段の油圧計測値の上昇開始時点からの前記油圧モータの駆動時間を計測する計時手段と、施工される地中アンカに要求される耐張力を指定するための入力部と、施工される地中アンカに要求される耐張力の基準値を記憶している記憶部と、前記油圧計測値の上昇開始時点から前記地中アンカが進入されて前記油圧モータの回転が停止される時点までの、所定時間ごとに前記油圧計測手段から取得した油圧計測値に所定の係数を乗じて得られる油圧面積を積算し、その積算値に基づいて耐張力を算出し、その計算値を埋設される地中アンカに対して設定された前記基準値と比較する演算手段と、演算結果を表示する表示手段と、前記計時手段、演算手段及び表示手段を制御する制御手段とを含むことを特徴とする耐張力確認装置。
【請求項5】
記憶部は施工される地中アンカに対して要求される耐張力の基準値とその基準値を複数の達成段階に分けた達成割合とを記憶し、演算手段は油圧計測値の上昇開始時点から地中アンカが進入されて油圧モータの回転が停止される時点までの油圧モータ回転油圧面積に基づいて算出された耐張力の計算値が前記複数の達成割合のいずれに達したかを判定し、表示手段は、前記演算手段により判定された達成割合を表示することを特徴とする請求項4に記載の耐張力確認装置。
【請求項6】
油圧モータにより回転される地中アンカの地中への進入開始時点から進入終了時点まで、前記油圧モータの油圧計測手段が計測した油圧計測値に基づいて前記油圧モータの回転油圧面積を積算し、その積算値から所定の数式を用いて耐張力を計算し、その計算値を前記地中アンカに対して設定された基準値と比較し、その比較結果を表示部に表示するためのプログラムを格納した記録媒体。
【請求項7】
請求項6に記載の記録媒体において、プログラムには、耐張力の計算値が基準値の所定の達成割合に達するたびに表示部に表示させるためのプログラムも含まれていることを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−23570(P2007−23570A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205783(P2005−205783)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000219820)株式会社トーエネック (51)
【出願人】(000116873)旭テック株式会社 (144)
【Fターム(参考)】